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村に駐留している白熊騎士さまがしこたま酔っぱらった帰り道の話

「騎士さま、しっかり歩いて」 「うー……あるいて……ますよぉ……ヒューレくぅん……」 「もぉー!」  ふらふら、のっしのっし。  おぼつかない足取りと、僕の声がちゃんと聞こえているのかも怪しい生返事。軒先に吊るされた川魚の干物みたいに揺れる騎士さまの身体が、ふとしたはずみで横転しないよう引っ立てながら歩くのはとてつもなく気を張る仕事だった。  夕立のあとの生ぬるく蒸し暑い夜の空気も相まって、思わずもうこのまま地面にすっ転がしといていいんじゃないか、なんて悪い考えがよぎってしまう。 「ねえ騎士さま、もっと早く歩いてよ。これじゃ庵に着かないよ」 「うへへへへ」 「あーもう……これだから酔っ払いはぁ……」  暑期明けの最初の満月の日は、村を挙げての盛大なお祭りが執り行われる。その日ばかりは子供も大人も朝から晩まで飲めや歌えやの大騒ぎで、特に大人の男たちは祭りの設営の終わった昼ごろから酒浸りになってもよいという風潮のせいで、夕方を過ぎる頃には誰もかれもがすっかり出来上がってしまう。  今年の頭に村にやってきた騎士さまもそれは例外ではないようで、色んなところで誘われては杯を傾けを繰り返しているうちに、夜もまだ始まったばかりだというのにすっかり酔っぱらってしまっていた。普段の優しくて逞しい白熊獣人の姿はどこへやら、身も心も酒気に染まり切ってしまった騎士さまに、いつものような頼りがいのある面影はなくなっていて、いつもの優しげな顔立ちはにへにへといった擬音が似合うぐらいに緩み切っていて、繋いだ手の先をにぎにぎと力強く握ってくるから痛くて困るし、なんなんだもう。 「いい大人なんだから、お酒の量ぐらい自分で管理してよ」 「はぁい、してまぁす。できてますよぉ」  していない!  断じて、できてない!  へべれけになった挙句、村の広場の中央に腹出して寝っ転がった姿を晒している人が、お酒の量の管理なんてできているはずがないのだ。  あまりの醜態に思わず見かねて引っ張り上げてしまったけれど、やっぱり放っておけばよかったかなあとちょっぴり後悔する。まだ夏の熱気が濃く残っているような時季だし、騎士さまの頑丈さなら一日ぐらい野ざらしにしておいても風邪引いたりなんかしないだろうし、なんかちょっとぐらい痛い目見たほうがいいような気がしてきたし。 「ヒューレくん……」 「どうしたの、騎士さま」  妙に切なげに名前をささやかれ、くいと手を引かれる。振り返ってみれば、空いている方の手で布ズボンの上からおちんちんをぎゅっと握り締め、もじもじと太い内腿をすり合わせる騎士さまの姿が目に入る。お酒ですっかり上気しきった眼差しが、なんだか落ち着きなく泳いでいて。 「おしっこいきたい……」 「えー……」  そして繰り出される年端も行かない子どものような口ぶりに、怒りと呆れとかを通り越してちょっと引く。今日だけで片手の指では数えられないくらいに騎士さまの情けないところを目撃してしまったけれど、今のがトップタイかもしれない。 「ええもう……いつもの場所まで我慢できないの?」  騎士さまの住む庵にはトイレがないので、騎士さまは村の人たちには内緒で庵近くの笹薮の先に立ちション用のスポットを拵えていた。それが“いつもの場所”というもので、僕と騎士さまだけの秘密の一つだった。 「ん……むり、もれそです……」  きゅっと唇を結んで、ふるふると首を振り、たしたしとこれ見よがしに足踏みをしてみせる騎士さま。いい年をした成人男性がやっていいようなしぐさではないけど、騎士さまの愛嬌たっぷりの顔立ちなのでギリギリ許され……いや、ちょっとイラっとしたかも。  飲んだことがないから分からないけれど、お酒というのはとにかくおしっこを近くさせる作用があるらしい。ずっと間近で見ていた訳じゃないから本当のところは分からないけど、あの騎士さま――実は村の中でも五本の指にはいるくらいお酒が強いのだ、この人――が酔いつぶれてへろんへろんになっているくらいだから、きっと想像もつかないぐらいの量を呑んでいるに違いない。おしっこが相当溜まっているのも、さもありなんというか。 「しょうがないなあ。じゃあもう、そこの草んとこでおしっこしちゃえば?」  僕と騎士さまが今いる、村はずれの庵に続く細い一本道は、村中心部の祭りの熱気とは縁も遠く静かで、ひと気もない。道の両脇は低く刈り揃えられた雑草が植わっているくらいで、ここでおしっこをさせてしまってもそれほど人様に迷惑はかからない、はずだ。  まあ、万が一誰かが通りかかったら騎士さまがおちんちんを丸出しにしているところも、そこから放たれる放物線も丸見えになってしまう訳だけど、それで失われるのは騎士さまの評判だけなので知ったこっちゃないのだ。 「うー……」 「んもう、重っもいなあ……!」  騎士さまの大きな背中をなんとか押して、道脇の草の方へと向き直らせる。そこまですればあとは勝手にやってくれると思っていたのだけど、騎士さまは自分のズボンの結び紐を見下ろしながら、据わった目付きで首を傾げるばかり。 「ど、どうしたの」 「えーと……ひも、どうすんでした、っけ」 「嘘ぉ……」  ああ、もうだめだこの人。  脳まですっかり酒に浸ってしまったのか、酔いどれ騎士さまはとうとう自分のズボンの紐の解き方まで忘れてしまったようである。 「ヒューレくぅん……もれちゃいそう……」 「……」  捨てられた子犬のような眼差しで僕を見下ろす騎士さまの姿に、このまま見捨てて置き去りにしてしまいたい気持ちがぐんぐんとこみ上げてくる。  しかし、騎士さまにはいつも面倒を見て貰っているし、この虹色の醜態を前にしてもなおまだギリギリ尊敬もしている。そういうわけで、喉元までせり上がってきた悪い感情を懸命に飲み下して、僕は騎士さまのズボンの紐に手を添えるのだった。 「わかったよ、ほどくからじっとしてて。あとちょっとだから我慢してね」 「へへえ……ありがとぉ……ございまあ……」  なにが悲しくて、尊敬する騎士さまのおしっこの介添えをしなくてはならないのか。どれほど深く考えても答えが見つからないので、いっそ何も考えないようにしながら騎士さまのズボンの紐を解いていく。 「下ろすよ」 「はあい」  背中から手を回して、パンツごと、一気に騎士さまのズボンを足首まで下ろす。  露になる騎士さまの下半身。汗ばんで蒸れた騎士さまの真っ白な毛並みはしんなりとしていて、漂う体臭は鋭くて酸っぱくて、お世辞にもいい匂いとは言えないだろう。けれど不思議と、その鋭い体臭が鼻腔をくすぐるたびに、なんだかすっと気分が落ち着くような、それでいて胸の内がじりじりと焦げていくような、奇妙なもどかしさがある。  大きくてずんぐりとした騎士さまのお尻と、短くてまん丸の熊尻尾をまじまじと眺める。僕のような猫獣人のしなやかで細い体格とはまるで違って、熊獣人特有の岩塊でも纏ったような重量感に溢れる筋肉質な体つきは、いかにも弱きを守る騎士っぽくて、思わず飛びつきたくなるような、男らしい包容力に満ちているのだ。 「ほらもう、誰か来る前にしちゃってよ」 「うー……」  そんな包容力に満ちた騎士さまもいまやこの有様であるのだから、お酒というのは怖ろしいもののようだ。相変わらず言語の疎通ができているのか怪しい呻きをあげながら、騎士さまは両足を開いて立ちションの姿勢を取り、それからもう一度首を傾げる。 「ヒューレくん……わたしぃ……ちんちんないかも……?」 「……はぁ!?」  ――そんな訳が、そんな訳があるか!  ふつふつとこみ上げる怒りを噛みしめながら騎士さまの前面に回った僕の視線が捉えたのは――当たり前だけど――騎士さまのだらりと垂れたぶっとい大人おちんちんである。しなしなに萎えきっていても僕の腕ぐらいはあるんじゃないかってほどの太さで、皮は根元までずるりと剥け上がっている。共同浴場に向かうたびにあまねくすべての男子たちから注目と喝采と畏怖を向けられる騎士さまのごんぶとおちんちん。いつだって存在感を放ち続けるそれが、ないなんてことがあるはずない。 「いや、あるじゃん。何言ってんのさ」 「んー……?」  騎士さまは股にぶら下がるちんちんに手を伸ばし、しかし指先はなぜか空を切る。なぜ空を切るのか全くもって理解できないけれど、とにかく騎士さまの朦朧とした意識では、もう物の距離感すらつかめていないらしかった。 「ない!」 「ないわけないでしょ!」  顔面蒼白になって叫ぶ騎士さま。こうなればもうどうしようもない。兎にも角にもおしっこを済ませてもらわないと、庵に帰すにも帰せないのに。 「……わかったよ、じゃあ、探してあげるから」  本人にちんちんを支える気がないのなら、誰かが支えてやるしかない。  色々と方法を考えた結果、そんな意味不明な結論に辿り着いてしまったあたり、僕も何かに酔ってしまっているのかもしれない。とにもかくにも、僕は恐る恐る――本当は内心ドキドキもしていたけど――騎士さまのおちんちんに手を添えてやることにしたのだ。 「うヒっ」 「へ、ヘンな声出さないでよっ!」  他人の、しかも年上の大人のちんちんを支えるというのは、当たり前だけど人生で初めての経験だった。両手の指先をそっと騎士さまのちんちんの根元に添えてやると、騎士さまの大柄な体は痺れでも走ったようにぴくんと震えて、喉元から聞いたこともないような高い声が漏れる。  指先に柔らかく生暖かい感触が伝う。騎士さまのおちんちんは熱っぽくて、ぴくぴくとわずかに脈動しているふうでもあった。長い間パンツの中に押し込められていたからか、ちょっとだけじっとりと湿っていて、すえた臭いが鼻に突き刺さって噎せそうになる。  おちんちんというのは決して綺麗なものではない。他人のものならなおのこと。だというのに、妙な高揚感が僕の胸を高鳴らせていた。なんだかうまく言えないけれど、他人のおちんちんに手を添えるのは、もしかしてヤらしい行為なのではないかという疑問が芽生え始めている。  いやこれはあくまで騎士さまを助けるためであって、そういうなんかよくない感じのことではない、はず、たぶん。 「ほ、ほら、おちんちんあるでしょ? ね?」 「うー……あうます……」 「じゃあおしっこできる?」 「できあす……んっ」  ぶるり、騎士さまの巨体が震える。はあっ、と口から大きな息を吐いて、きゅっとお尻が引き締まる。それが放水の合図だったようで、不意におちんちんを握る手のひらが熱くなったかと思えば、騎士さまのおちんちんの先っぽからちょろちょろとおしっこが滴り始める。  ――じろろろろろっ……。  騎士さまのおしっこはほとんど透明で、で始めの緩い水流はすぐに勢いを増していった。叩きつけるような勢いで放たれた放物線は、背の低い草むらに突き刺さってはじゅうじゅうと弾けるような飛沫を立てる。静かな夜の村はずれに、遠慮のない大きな水音が響いていく。 「あー……」  大きく口を開けて、うっとりとした表情で空を見上げる騎士さま。緩みに緩み切った隙だらけの、いわゆる“だらしない大人”の感じが全身から漂っている。いつもの真面目で大人っぽい騎士さまなら絶対に見せようとしないだろう、ちんちん丸出しでしかもそれを一切気にしていないような無防備な姿。いつもの感じとの“ずれ”のせいか、不思議となんだかちょっと可愛らしくさえ見えてくる。 (騎士さまのおちんちん……あつい……)  僕の両手の平でも余すほどの、大きな大きなおちんちん。相当溜まっていたのだろう、出し始めて結構経つのにいまだにどぷどぷと吐き出すような放水を続けていて、その勢いといえばおちんちんの中を流れる熱い液体の感覚が手のひらに伝わってくるほどのものだ。 (なんか、変な感じ……ドキドキする……)  目の前にある騎士さまのちんちん。漂うすえた臭いと、ツンと鼻を刺すようなアンモニアの臭気。いつもなら、くさい! の一言で切り捨ててしまいそうなその二つの臭いは、なぜだか強烈な好奇心を掻き立てるものとなっていた。 「ヒューレくん……ありがとう、あとは自分で……」  騎士さまの放尿が徐々に止んでいく。体の中に溜め込んでいたあら熱を排出したことでちょっとだけ正気を取り戻したのか、騎士さまは手を伸ばし、自身のちんちんを支えている僕の手を取り払おうとする。 「だめ。ちゃんと振らないと」  しかし、僕は騎士さまのちんちんから手を放そうとはしなかった。騎士さまの意思を振りほどくように、騎士さまのおちんちんをぶらん、ぶらんと激しく振りしだく。竿のさきに滲んでいた大粒の雫が跳ねて、夜の草藪の中に消えていく。 「ん、ヒューレくん……そろそろ、手を」 「やだ」  振りしだいて刺激を与えるたびに、騎士さまのちんちんの内側に一層の熱が集っていくのを感じていた。どくどくと脈打つような血の流れを指先に感じる。しんなりと柔らかかった騎士さまのちんちんが、少しずつ、まるで鉄でできた剣のようにごつごつと固くなっていく。 「騎士あま、ちんちん硬くなってるね」 「ヒューレくん……よくないですよ、んっ……」  見上げれば、困ったような、たしなめるような表情の騎士さまと目が合った。頬を赤く火照らせて、白熊の丸耳をぱたりと畳んで、何かに耐えるように小さく震えて、口を固く結んでいる。そんな堪える様子を見ていると、僕はいっそう騎士さまを困らせたくなってしまって、撫で上げるようにして騎士さまのちんちんの上で指を躍らせてみる。 「大人って、こういうふうにちんちんをいじるんだよね」 「こら、よしなさい……ん、ダメ、ですって……っ」  だめ、と今までに聞いたことのないような、放ったさきから蕩けてしまうように弱弱しく呟きながらも、騎士さまは言葉以外の方法で僕をたしなめようとはしなかった。騎士さまの力なら、ちんちんをもみほぐす僕の手を振り払うことも出来ただろうし、もう少し乱暴な方法を取るのであれば、突き飛ばしてみることだってできたはずだ。そしてそういうふうにしたなら、僕はすぐに手を止めようと思っていた。  けど、そうはなっていないのだ。根元からおちんちんを扱き上げる度に、騎士さまは大きな体を小刻みに震わせて、固く結んだ口の端から鈴の鳴るような甘い声を漏らして、いっそうちんちんを固く大きくさせていくばかり。 「あっ……うう、こ、こんなこと……っ」  知らない顔で、知らない声を絞り出す騎士さま。騎士さまとお知り合いになって一年ぐらいが経って、村の中で誰よりも一番一緒にいるという自覚はあったけれど、まだまだ知らないことだらけだ。 「ぬるぬるしてきたね」  騎士さまのおちんちんが、次第にぬめりを帯びていく。満月の緩い光を浴びて、ごつごつとした輪郭が鈍く輝いている。ぬめりの強さに比例して、騎士さまの吐く息が少しずつ浅く、荒く小刻みになって、そんな素振りを眺めていると、もうすぐ何かが始まるような期待が僕の胸の内を満たしていくのだ。 「僕ね、知ってるよ。騎士さま、稽古が終わったあと、庵でたまにこうやってるよね」 「はッ……あっ、うう……っ」  答えのかわりにうめき声が返ってきた。膝が震え、声が揺れ、見開かれた瞳がぐらついている。ちんちんを扱くたびに、騎士さまの内側に稲妻が走り、なにかが少しずつ限界に向かっている気配があった。その先に何があって、騎士さまがどうなってしまうのか、莫大な好奇心とわずかな下心を原動力に、一心不乱に騎士さまを上下に滑らせていく。 「うッ……ふ……っ、ヒューレ、くん、これ以上は、もう……ッ!」 「もう? もう、なに?」 「ッ! あっ、ひっ、ふう゛、うっ……!」  これ以上を続けると、この先にはいったい何が起こるというのだろう。そんな疑問を――ウソ、本当はもう知っていたけれど――口ずさんだ矢先に、その答え合わせは訪れる。 「がッ、ああっ――!」  ――どぷッ!! びゅっ、びゅぐッ!! どぼッ!!  咆哮。騎士さまのおちんちんが一層膨らみ、そして間もなく爆ぜた。  先っぽから迸るのはおしっこ――ではない、白くてどろりとねばついた体液の束。添えた両手越しに、騎士さまのちんちんの内側が忙しなくうごめいているのが分かる。内側をごうごうと濁流が迸って、そして追い立てられるような絞り出されるような勢いで発射され、草むらへと撒き散らされていく。 「はっ゛……あっ、……ふゥ゛っ……!」  爆ぜて吹き出すのはほんの一瞬のことで、あとはもう尾を引くように、濁った白の残りが糸を引いて地面へと垂れていくばかりだ。岩塊が崩れるような、激しい濁りを帯びた騎士さまの呻きも、ひとつ呼吸のたびに少しずつ和らいでいく。 「はーっ、ふーっ……ヒューレくん、そろそろ、手を」 「う、うん」 「……あのですね。よくないですよ、こういうのは」 「……ごめんなさい」  まだ僅かに乱れが残っているのか、ズボンにしまい込む騎士さまの横顔は幽かに火照っている。恥じらいと戸惑いの混じった、しかしいつものように優しい眼差しで咎められ、僕は肩を竦めた。 「今のことは、もう忘れましょう。互いによくない熱気に酔っていた――いいですね?」  これが騎士さまのやさしさであることに気付かないほど鈍くはない。全ては満月の夜の熱気のせいで、それ以外の要因を見出すことはないと騎士さまは言いたいのだ。そしてそれは、貴方は悪くないのだと庇うための言い回しでもある。 「……うん」  僕は頷く。騎士さまは腕を伸ばして、いつものように僕の頭を力強く撫でまわした。 「今日はもうおうちに帰りなさい。私も、もう自分で庵に帰れますから」  おやすみなさい、と騎士さまは言った。優しく、しかし確固たる意志で僕の背中を押し返すような言葉の重さに、胸の内がじりじりと焦げるように痛むのは、どうしてだろうか。 「明日も朝稽古をしますよ。寝坊しないように、いいですね」 「うん……おやすみなさい、騎士さま」  騎士さまに見送られながら、夜の道を村の中央に向けて歩いていく。耳をすませば賑わいが次第に近づいてきていて、夜もすっかり更けてしまっているというのに、祭りの熱はまだまだ冷めやらぬようだった。 (騎士さまが、あんなふうになるなんて)  忘れなさい――そう言われたとしても、目の前で繰り広げられた白熊の乱れ、着火の瞬間、吠えたてるような騎士さまの唸りも合わせて、それは火花のように僕の記憶に焼き付いて離れない。 (帰ったら……)  好奇心は鳴りやまないまま、熱ばかりを帯びていく。おへその下の方に、一粒の熱い火がきゅっと落ちて、それが何かの芽生えのさきがけであることに、僕は薄々勘づいていた。 完


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