SamuZai
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恐怖の臭い♡ 前編

夜の公園は、しんと静まり返っていた。街の灯りが遠くに揺れ、酔いの余韻だけが体の芯にまとわりついている。 「……飲みすぎたな」 男はベンチに腰を沈め、額を押さえた。頬が熱い。頭が重い。酒は強いほうだと思っていたが、今日はいつもより回っていた。 そこへ―― 「わっ……!」 突然、柔らかいものが身体に押しつけられた。 「大丈夫ですか?」 耳元で女の声がした。甘く、近い。驚いて顔を向けると、若い女性が男の腕に抱きつくようにして立っていた。二十代後半、整った顔立ち。コートの襟元からのぞく鎖骨が妙に艶めいて見える。 (……逆ナン、か?) そんな単語が頭をよぎった。同時に、警戒心も湧きあがる。 (美人局……?いや、でも……) 女は心配そうに眉を寄せ、体を預けてくる。どう見ても危害を加えようとする態度には見えない。酒のせいで思考が鈍り、男の中で警戒と期待が交錯した。 そして――鼻先にふわりと届く匂い。 甘い。香水の香りだろうか。しかしそれだけではない。肌から立ちのぼるような、熱を含んだ生々しい香り。呼吸するたびに胸がざわつく。 (……めっちゃいい匂いだな) 理性とは別の方向で、身体が反応した。 「ごめんなさい、急に……ふらついてませんでした?」 女が男の腕を支えるように触れる。その距離が近い。女の髪が頬にかすめ、また匂いが漂う。甘さの奥に、汗の気配が混ざったような、妙にクセになる匂い。 「だ、大丈夫ですよ……少し飲みすぎただけで……」 平静を装おうとしたその瞬間―― 視界がぐらりと揺れた。 「っ……お、おわ……」 軽い立ち眩み。頭がふっと軽くなり、身体の重心が崩れる。 「大丈夫ですか?ほら、座りましょう」 女が支えてくれる。柔らかい手の感触。近い吐息。匂いがさらに濃くなる。 男はベンチに座り直し、深く息を吸った。 (……なんでこんなにいい匂いなんだ……?) 酔っているせいか、判断力が鈍っていた。胸の奥がじんわり熱くなり、体が軽い高揚感に包まれる。 「近くに私の家があるんです。よかったら、休んでいきませんか?」 優しい声。こんな深夜に、自分を気遣ってくれる存在がいるという事実に、男は一瞬胸を打たれた。 (……普通なら断るべきだよな。でも……) 警戒心の裏で、酒と匂いが彼の思考に靄をかけていた。 こんな美人が、すぐそばで、しかも腕を取るようにして誘ってくれている。 断る理由が霞んでいく。 「……じゃあ、ちょっとだけ……お邪魔します」 そう言うと、女はほっと息をつき、微笑んだ。 「よかった。じゃあ、歩けますか?」 手を差し出され、男は反射的にその手を取る。 瞬間――またあの匂いが鼻腔を撫でる。 甘く、温かく、どこか湿り気のある香り。 そして、まただ。 視界の端がふっと暗くなり、足元が少し沈んだような感覚。 (……なんだ……これ。酔いのせい……だよな?) 自分に言い聞かせながらも、胸の奥に小さな不安が生まれた。 しかし同時に、手を引く女の体温が心地よい。 女はゆっくりと歩き始めた。男もふらつく足取りでそれに続く。 歩くたび、女から漂う匂いが風に混じって流れてくる。 (……近くに来るだけで、こんな匂いがするのか……?) 深呼吸するたび、頭の芯がじんわりと熱くなる。 そして、気づいた。 家へ向かう歩道で女の横に並んだとき―― 女の目線が、さっきより近い。 ほんの数センチ。まだ自分のほうが高いはずなのに、距離が縮まったように見える。 (……いや、気のせいだ。酔ってるんだ) 理性はそう言うが、感覚が微妙に違う。 それでも女の手は温かく、離す理由が見つからない。 「もうすぐですよ」 振り返った女の髪が、ふわりと舞い、また匂いが届く。 その瞬間、男はまたふらりと揺れた。 (また……立ち眩み……) ただ、女が引くその手に従い、 男はふらつきながらも、彼女の住むマンションへと歩いていった。 やがて、街灯の光が途切れ、高層マンションの影が目の前にそびえ立った。ガラス張りのエントランスが淡い光を反射し、深夜にも関わらずどこか温かみのある雰囲気を漂わせている。 「ここなんです」 女が指さす。その仕草に合わせてふわりと髪が揺れ、またあの甘い匂いが漂った。 男は息を吸い込み――一瞬、脚がもつれた。 「う……っ」 視界が小さく波打つように揺れる。意識の底がふっと軽くなる感覚。立ち眩みが続いているのか、床が遠ざかって見える。 「大丈夫ですか?」 女が近づき、覗き込む。男は顔を上げ――その瞬間、ぞくりとした。 明らかに、さっきまでとは違った。 公園では自分の肩あたりにあったはずの女の目線が――今は、ほとんど同じ高さにある。 (……え?どういう……ことだ?) 思わず立ち止まる。女の顔が近い。その瞳が真正面からこちらを捉えている。 数十分前まで、はっきりと身長差があったはずだ。 それが、今は……。 (いやいや……酔ってるだけだ。こんなの……考えすぎ……だ) 自分で自分に言い聞かせる。酒のせいで距離感がおかしくなっているだけ。そう思い込もうとする。 女は男の不安を見透かすように優しく笑い、腕をそっと取った。 「エレベーター、こっちですよ」 男は誘われるまま足を動かす。体勢が安定しない。酔いのせいか、女の匂いを吸うたびに頭がふわつく。 エントランスの自動ドアが開いた瞬間、空調の風が女の髪を軽く持ち上げ、その下からまた甘い匂いがこぼれた。 (……やばい、これ……なんか……癖になる……) 呼吸するたび、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。マンションの中は静かで、エレベーターの低い機械音だけが響く。 女はその前に立ち、またこちらに向き直った。 「ほら、もうすぐ休めますからね」 その時、男は気づく。 反射するエレベーターの鏡。そこに映る二人。 ――自分と女の身長差が、ほとんどない。 (……おかしい。絶対……こんなじゃなかった) 鼓動が速くなる。しかし酒のせいで思考は鈍り、危機感よりも混乱が先に立つ。 (……落ち着け……酔ってる……それだけだ……) 鏡の中の彼女が微笑む。その瞳は、まるでこちらを観察しているかのように静かだった。 そして、エレベーターの扉が開く。 「どうぞ」 女に促されるまま、男は一歩踏み入れた。 わずかな違和感を抱えたまま、しかし深く考えることなく――彼は彼女のマンションの奥へと歩みを進めていった。 エレベーターを降りると、静まり返った廊下に足音が吸い込まれていくようだった。男は少しふらつきながら女の後ろを歩く。視界の端では、まだ彼女の目線が近いことへの違和感が燻っていたが、酒のせいだと必死に片付けていた。 「ここです」 女が立ち止まり、部屋の鍵を開ける。カチャリという軽い音が響き、ドアがゆっくりと開いた。 その瞬間――ふわり、と空気が溢れ出すように漂ってきた。 (……いい匂い……) 甘い、しかし人工的ではない。洗濯したての布と、女自身の体温が混ざったような柔らかい香り。そしてどこか湿り気のある、生々しい匂いがわずかに混ざっている。 男は無意識に息を吸い込んでしまった。 胸の奥がじんわり熱くなる。 頭の芯がまたふわりと揺れる。 (……まただ……立ち眩み……) だが、さっきよりも強い。まるで部屋の空気そのものが脳を直接撫でてくるような、そんな感覚。 「外は寒いけど……部屋はあったかいですね」 女が振り返りながら言う。 頬がうっすら赤く、はにかんだ笑みが浮かんでいる。 「アプリで暖房をつけておいたんですよ。帰る前に」 そう言って、スマホをちらりと見せる。 その仕草に合わせて、また匂いが揺れるように広がる。 (……この匂い……なんでこんなに……) 男はふらりと壁に手をつく。呼吸するたびに胸がざわつき、視界の高さがほんのわずかに低くなっている気がした。 「暑〜い……」 女がそう言いながらコートのボタンを外し、ゆっくりと脱ぎ始める。 上着が床に落ちる音と同時に―― 濃厚な匂いが、部屋全体にふわりと広がった。 今までの匂いとは桁が違った。 体温の近い香り。首筋の汗が少し乾ききらずに残ったような、濃い甘さ。それが空気の層になって男の鼻先を包み込む。 「っ……」 男の視界が一気に揺らいだ。 膝が笑い、思わず手すりを探すように壁に触れる。 (おかしい……これは……さっきより……) 「大丈夫ですか?」 女が心配そうに近づいてくる。 だが男には、彼女の表情よりも匂いのほうが鮮明に感じられた。 距離が近づくほどに、濃厚な甘さが押し寄せる。 肺いっぱいにそれを吸い込むと、頭がじんと痺れるような眩暈が起きる。 「とりあえず、座っててください。うち、こたつがあるんで…」 女が部屋の中央に置かれたこたつを指さす。声は柔らかく、優しい。しかし、その目元にはどこか含み笑いの気配があった。 男は言われるまま、ふらつきながらこたつへと向かう。どこか部屋が広く感じる。 (……いやいや、気のせいだ。酔ってるだけ……) そう自分に言い聞かせながら、こたつに腰を下ろす。 座った瞬間、部屋の温かさと女の匂いが混ざり合い、空気がさらに濃厚に感じられた。 「いま飲み物、持ってきますからね」 女はそう言ってキッチンのほうへ歩き出す。 背中越しに見える仕草は優しげなのに――その振り返りざまの横顔は、どこか笑っているように見えた。 男はその表情に気づくことなく。 ただ、胸の奥に広がる奇妙な熱と、ふわつく視界に気を取られていた。 こたつに腰を下ろした男は、少し深呼吸して落ち着こうとした。まだ頭の芯がふわついている。酔いのせいか、それとも部屋の空気のせいか分からない。 部屋を見渡すと、整った生活感が目に入る。 薄いクリーム色のカーテン、暖色の間接照明、壁際の観葉植物。棚には本と、小さなアロマポット。女の人らしい柔らかい香りがほのかに漂っていて――そこに、さっきから感じ続けている生々しい甘い匂いが重なっている。 (……普通の部屋だよな。きれいだし……でも、この匂いは……) 呼吸するたびに熱が胸に溜まる。まるで深酒のあとに、さらに酒を流し込まれたときのような、独特の熱気とくせになる甘さ。 ふと、廊下のほうから足音がして―― 「お待たせしました〜」 女が戻ってきた。 その姿を見た瞬間、男は息を呑んだ。 (……大きい……?) さっきよりも、圧倒的に存在感がでかい。距離が縮まっただけではない。まるで自分が一段階小さくなったかのように、彼女の肩の高さが上に感じられる。 しかし男はすぐに自分を否定した。 (座ってるからだ……うん、そうだ……座ってると誰でも大きく見える……) そう必死に片付けながら、頭を押さえる。 再び、くらりと視界が揺れた。 「大丈夫ですか?」 女がすぐ近くにしゃがみ込む。 その距離でまた、甘く濃い香りが鼻先を撫でていく。 脳の奥に直接触れられているような、不思議な感覚。 「これ……特製のお茶なんです。頭痛にも効くんですよ」 差し出されたコップからは、ほのかに湯気が立ち上っている。鼻を近づけた瞬間―― (……この匂い……独特だ……) 甘いのにすっきりしている。 飲んだことのない、不思議な香り。 男はごくりと一口飲んだ。 「……あ……」 舌に広がる味もまた未知だった。 薬草のようでもあり、果物のようでもあり、どこか深酒のあとに染み込む癒しのようでもある。 喉を通ったあと、すっと頭が軽くなる。 本当に頭痛が消えていくような錯覚すら覚える。 「これ……すごいですね。こんなお茶、初めて飲みました」 感心して顔を上げ―― その瞬間、背筋に冷たいものが走った。 女が男の顔を覗き込んでいる。 微笑んでいる。 しかし、その目だけが――笑っていない。 いや――正確には、 獲物を観察する肉食獣の目をしていた。 (……っ……) 男は思わず身体を強張らせた。胸が縮こまり、呼吸が浅くなる。 「す、少ししたら……お暇しようかな……なんて……その……」 しどろもどろに言う男を、女は静かに見つめる。 そして――コトリ、とコップを置く仕草をしながら、ゆっくりと胸元を強調するように前屈みになった。 「ええ〜……?」 甘く、拗ねたような声。 「こんな寒い夜は……誰かに優しくしてもらって……」 胸元がふわりと揺れ、そこからまた甘い熱気のような香りが漂った。 「……お話、聞いてもらいたいなぁ……」 男の喉が、ごくりと鳴った。 女の体温が近い。 匂いが濃い。 頭の奥が痺れるように熱い。 (……やばい……のに……いや、でも……) 理性と欲望がぐらぐらに混じりながら、男はただ呆然とその妖艶な笑みを見つめていた。 女はこたつの縁に手を置き、ねだるような潤んだ瞳で男を見つめた。 「……ねぇ、お願い。話だけでも聞いてくださいよ……?」 息を含ませたような甘い声。その切実さと艶っぽさが同居する響きに、男の胸がどくりと脈打った。 「……と、とりあえず……話だけなら……」 そう答えた瞬間、女の顔にぱっと明るい笑みが咲いた。 「ありがとうございます。本当に……うれしいです」 その笑顔に吸い寄せられるように見入ってしまい、男は女の妖艶な気配から目をそらすことができなかった。胸元が揺れるたびに甘い熱気が漂い、こたつの中の空気までもがじわじわと濃くなっていくように感じられた。。胸元が揺れるたびに甘い熱気が漂い、こたつの中の空気までもがじわじわと濃くなっていくように感じられた。 「……と、とりあえず……話だけなら……」 男がそう言うと、女はぱっと花が咲いたように微笑んだ。 「ありがとうございます。嬉しいです」 その声は先ほどよりも柔らかく、甘さを増していた。女はゆっくりと立ち上がり、こたつの正面へと回り込む。 そして、向かい合う位置に座った。 距離は近い。座った状態では、男の目線はさっきよりさらに低く感じる。正面の女が、ほんの少し見上げる角度で視界に入る。 (……こんなに低かったっけ……?) だが男はまだ気づかない。自分の体に起こる変化に。そして、鼻をくすぐる甘い香りが思考を奪っていく。 「実は……悩みがあるんです」 女は胸元に手を当てながら、俯くように言った。 「え……悩み?」 男が聞き返すと、女は恥ずかしそうに視線を泳がせた。わざとらしいほどに、控えめで、それでいて誘惑めいた仕草だった。 「……私、体臭が……ちょっと特殊で……コンプレックスというか……」 (体臭……?) 男はふと先ほどの匂いを思い出す。 公園で抱きつかれたときの甘い香り。 部屋に入った瞬間に広がった、生々しい温かさのある匂い。 上着を脱いだときに一気に満ちた濃厚な香り。 (いや……全然嫌じゃなかったけど……むしろ……) 「え?全然……その……いい匂いだったよ?」 素直にそう口にすると、女は目を見開き、ゆっくり微笑んだ。 「……嗅いでたんですね。やらしい……」 「ち、違っ……!いや、そういうわけじゃ……!」 しどろもどろになる男。その様子を見ながら、女は喉の奥で小さく笑う。 しかしその笑顔は、どこか含みがあった。 「でも……私、自分では……すっごく臭いと思ってて……。嫌な匂いしちゃってるんじゃないかって……」 「そんなことないって。本当に」 男が力を込めて言うと、女は一瞬、試すような目を向けた。 そして―― 「え?じゃあ……嗅いでくれます?」 男の心臓が跳ねた。 「え、その……まあ……君が嫌じゃなければ……」 言うと、女は嬉しそうに頬をほころばせた。 「ありがとうございます」 その声音は、礼の言葉というよりも――獲物が罠にかかったことを確信した捕食者の吐息に近かった。 そして、女は続けた。 「じゃあ……さっそくなんですけど――」 女は両手でこたつ布団を少し持ち上げ、柔らかく微笑んだ。 「こたつの中に入って、匂いを嗅いでもらえますか?」 「私、足とか……すごく臭くて……」 その言葉は甘く、しかし逃げ場のない命令のように響いた。 男は息を飲む。 (……まじか……こんなの……普通は……) 拒めない。 匂いに当てられて、判断力が鈍っていく。 胸が熱くなる。 「ど、どうしよう……」 そう呟きかけながらも、男の手はすでにこたつ布団へと伸びていた。 男はこたつ布団に手をかけ、深く息を吸い、覚悟を決めるように姿勢を変えた。膝を折り、四つん這いのような形で前ににじり寄る。狭いこたつの縁に手を置くと、心臓がどくどくと早鐘のように鳴った。 (……ごくり) 唾を飲み込む音が自分でも分かるほど大きく響いた。 「あ、あの……じゃあ……失礼します……」 震える声でそう告げると、男はこたつ布団をそっと持ち上げ――そのまま一気に顔を突っ込んだ。 暗いはずのこたつ内部は、小さな電熱の明かりでぼんやりと照らされている。その弱々しい赤橙色の光が、思いもよらぬ光景を浮かび上がらせた。 女の両足。 ふくらはぎからつま先へと続く白い肌。 そして、そのすぐ上にはスカートの布が揺れ、影を作っている。 (うわ……本当に……目の前に……) パンツは見えなかった。ぎりぎりで布が視界を遮っている。しかし、それでもこの位置――この距離――男はまるで覗きをしているかのような、背徳感に胸を締め付けられた。 常識ではありえない状況。 しかし女に許されているというだけで、自分の行為が正当化されてしまうような錯覚が生まれる。 (なんて……光景だ……) ぼんやりと世界が滲んだその瞬間――ふと、男は鼻で息を吸ってしまった。 そして。 「――ッッ……!!?」 暴力的な臭気が、脳天まで突き抜けた。 足の匂い。 そんな言葉では到底足りない。 こたつ内に完全密封され、温められ、濃縮されきった女の足の臭いが――一気に、爆風のように男を襲った。 むっとする蒸気のような熱気に乗って、汗の酸味と、柔らかい皮脂の匂い、そして長時間こもった布の蒸れの臭いが混ざり合い、鼻孔に焼き付く。 (く、くっ……!ぐぅっ……!!) 目の奥が痺れる。 涙がぶわっと溢れた。 喉の奥がひりつき、肺が拒絶反応を起こす。 声を上げたい。叫びたい。しかし――女がすぐ外で見ているという意識が、必死でそれを押しとどめる。 男は鼻と口を両手で押さえ、こたつ内部でのたうち回るように身体をよじった。 (やばい……これ……嗅いじゃだめなやつ……っ) しかし、その直後。 脳髄の中心を鈍器で殴られたような激しい衝撃が走り――世界がふっと揺れた。 何が起こったのか理解すら追いつかないほど突然で強烈な、意識を持っていかれる感覚。 「どうかしら?」 女の声が外から軽やかに響いた。 「私の足……強烈でしょ?」 そう言いながら、こたつ内の女の足がぱたぱたと揺れる。 瞬間、こたつ内の悪臭が再び攪拌され、熱く濃密な臭気が男の顔面に叩きつけられた。 「ぐっ……!!う、うぅっ……」 耐えきれず男の体がびくりと震える。涙は止まらず頬を濡らし、呼吸は浅く乱れた。 「だ、大丈夫です……っ……!」 必死で絞り出すように言う。 「むしろ……あの……私は……す、好きですよ……こういうの……っ」 自分でも理解できない言葉が口からこぼれ落ちる。 嗅覚を破壊され、思考が溶け、理性が剥がれ落ちたその隙間に――女の匂いが滑り込んでくる。 男はもう、正常な判断ができなかった。 その言葉を聞いた途端、こたつの外から女が弾むような声を上げた。 「……好き、なんですね?そんなふうに言ってもらえるなんて……すっごく嬉しいです」 声音は甘くとろけ、まるで男の告白を待っていたかのような幸福感が滲んでいた。 しかしその裏に、確かな期待と残酷な喜びが潜んでいることに、今の男は気づけない。 「じゃあ……」 その柔らかな一言とともに、男の目の前から女の両足がすっと消えた。 こたつ内の空間がわずかに広がり、急激な冷たさすら感じる。 (え……?) 嫌な予感が背骨を走る。 続いて、こたつ布団の向こうから――シュル、シュル……と布の擦れる音がした。 靴下を脱ぐ音。ゆっくりと、確実に、それ以外にあり得ない。 男の鼓動が速まる。嫌悪か興奮か、自分でも判別できない震えが喉を塞いだ。 「……これならどうですか?」 女の声が近づき、こたつ布団がふわりと揺れ、再び足が戻ってきた。 その瞬間――。 「――ッッ!!?」 男の肺が悲鳴を上げた。 先ほどとは比較にならない。 暴力的。圧倒的。殺意すら帯びた臭気。 靴下というフィルターを失った女の素足から放たれる臭いは、直接、剥き出しの力で男を押しつぶしにかかってくる。 熱を帯びた蒸れがこたつ内に充満し、酸味の強い汗の匂いが鼻腔に突き刺さり、皮脂が熟成したような濃密なにおいが肺の奥へと入り込む。 呼吸をするたび、喉が焼けるように痛む。 (だめだ……っ……これ……息……できない……!) だが女の声は、楽しげに、甘く響く。 「どうです?靴下なしの……本当の匂いは」 男はこたつの中で、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら必死に息を整えようとしていた。素足から放たれる暴力的な臭気は、まるで肺を掴んで振り回すように襲いかかり、頭の芯を揺らし続ける。 「こ……これは……っ、さすがに……ちょ、ちょっと……きつい、です……っ……」 声にならない声。喉が震え、鼻が詰まり、言葉が漏れるたびにさらに臭気が入り込み、また涙が溢れる。 (やばい……死ぬ……これは……無理だ……) 意識がゆっくり遠のきそうになるほどの強烈なめまいが、急激に頭を締め付けた。 こたつの外から、女が息を落とすように言った。 「……そっか。さすがに素足はきついですか……残念」 残念。 その言い方は、足を否定された残念ではなく――まるでもっと壊せると思っていたのにという残念に聞こえた。 「ありがとうございます。一度出てきてください」 その優しい口調に、男は深く安堵する。 (助かった……!もう無理だ……これ以上は嗅げない……) こたつ布団に手をかけ、ゆっくりと身体を引き抜こうとする。 しかし―― (……え……?広い……?) さっきまではぎゅうぎゅうに感じていたこたつ内部が、妙に広く感じる。 布団もやけに重い。まるで自分の力が弱くなったか、布団が何倍にも分厚くなったかのようだ。 ようやく外に這い出し、こたつの横に座り込んだその瞬間―― (……ん?) 視界に映るこたつの天板。 先ほどまではお腹の高さほどだったはずの天板が―― 今は、自分の目の高さにある。 (……え……いや……おかしい、おかしいって……) 酒では説明がつかない。どれだけ酔っていても、家具の大きさが変わるはずがない。 つまり――変わったのは、自分。 「……あ、あれ……?なんで……?なんでこたつが……でか……っ……?」 動揺し、立ち上がろうとするが、足元がふらつき、膝が笑う。 さっきまでの悪臭によるダメージと、理解を超えた事態への恐怖で、呼吸が乱れた。 そのとき。 部屋全体に響くほど明るく楽しげな声が、女の口から放たれた。 「ぷっ……あははははっ……!」 女は口元を押さえ、肩を震わせながら笑っている。 「ようやく気付いたの??本当に鈍いんだから……っ」 その声音には、優しさも同情も微塵もなかった。 最初から――この瞬間を待っていたかのような、純粋な愉悦だけがあった。 こたつの外へ這い出した男は、まだ現実を受け止めきれずに震えていた。天板が目線の高さにある。こたつ布団が重く感じる。さっきまで普通に触れていた家具が、まるで巨人が使う家具のようだ。 「な……なんで……?なんでこんな……」 混乱し、呼吸が乱れる。そんな男を見下ろしながら、女は口元をゆるく歪めた。 「しょうがないわね。混乱してるみたいだから……何が起こったのか、説明してあげる」 女が立ち上がる。 その影が部屋の照明を遮り、男の視界が一瞬だけ薄暗くなる。 ズゥン… そして、女がゆっくりと歩み寄る。 床が沈むほどの重い足音ではないのに、男には地響きのように聞こえた。 (お……おい……近い……でか……っ) 女が近づくにつれて、その大きさが現実味を帯びて迫ってくる。自分が立っているはずなのに――女の股間ほどの高さしかない。 まるで見上げるという行為を強制されるような角度。 女は男の前にしゃがみ込み、楽しげに首をかしげた。 「ん~~……今のあなた、そうねぇ……1メートルってところかしら?」 その言い方は、まるでペットの体重を測って報告するかのように軽い。 「な、なにが起こったんだ……?本当に……どうなって……」 男が必死で問い詰めると、女は唇をにやりとつり上げた。悪魔そのものの笑みだった。 「なにがおこったって?……なんとなく気づいてるんじゃない?」 その声は冷たく甘く、逃げ場を塞ぐ。 男は震えながら、先ほどまでの感覚――こたつの広さ、布団の重さ、女の巨大化――を思い返す。 「お、俺が……ち、ちいさ……小さく……なってる……?」 すると女は両手を叩いて、わざとらしく喜んだ。 「そーうせいか~~い♡よくできまちたね~~」 赤ちゃんをあやすような声。完全な侮辱。男の顔が羞恥と怒りで歪む。 「ふ、ふざけるな!なにがどうなって……いいから元に戻せよ!今すぐだ!」 怒鳴りつける男。しかしその声は、女の前ではあまりにも小さく、弱い。 女は頬に手を当て、まるで怯えたふりをして言った。 「きゃ~、こわ~い」 ふざけた調子で視線をそらした後――すぐに目だけが冷たく笑った。 「……どうやって?ですって」 その一言が鋭く突き刺さる。 「さっき説明したでしょ?体臭が……ちょっと特殊って」 「あ……あれは……体臭がキツいって意味だろ……?」 男がしどろもどろに言うと、女は心底呆れたように肩をすくめた。 「ひどいわねぇ。そんなこと言ってないでしょ?」 そして――ゆっくり、ゆっくりと男に顔を近づける。 「私はね……体臭を嗅いだ異性を小さくできるのよ」 耳元にかすれるほど近い声。 「においの種類によって効果は違うんだけど……不快なにおいのほうが、ずっと強く効くみたいなの」 そして女はにっこり笑い、男の胸元を軽く指でつついた。 「だから――私の足の臭いで、一気にちいさくなっちゃったのよ?」 その笑みは優しく見えて、まるで捕食者が獲物を舐め回すような残酷な喜びに満ちていた。 男は理解が追いつかないまま、本能だけで逃げ出した。転げるようにして部屋の奥へ走る。しかし足取りはおぼつかず、視界が歪んで見える。家具が巨大で、壁が遠い。どこへ逃げても出口にたどり着ける気がしない。 「はぁっ……はぁっ……!」 振り返れば、女がゆっくりとこちらへ歩いてくる。余裕そのものの足取り。追う必要すら感じていないような、そんな不気味な落ち着きがあった。 「もう……ほんっと男ってワンパターン♡」 ため息交じりの声。その瞬間――視界が影で覆われる。 ドン、と床が軽く揺れた。女が本気でも早歩きでもない。ただ、少し歩幅を大きくしただけ。それだけで男の背中に追いつくには十分だった。 次の瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。 「よっ、と♡」 女の両手が男の胴を簡単に掴み上げる。暴れる男など、子猫ほどの力しかない。 「は、はなせぇぇええ!やめろ!!」 必死の抵抗。だが、女の指は鉄のように硬く締まり、逃げる隙間はない。 「さて……あんまり暴れられるのも、めんどくさいからねぇ……」 女は男の体を軽く持ち替え、自分の顔の前へと運ぶ。巨大な顔が迫り、まつげ一本までが恐怖を煽るほど鮮明に見える。 「じゃあ……口で大人しくしてもらおうかな♡」 その言葉の直後――女はゆっくりと口を開いた。 「あ〜〜ん♡」 暖かく湿った空気が押し寄せ、男の顔を包み込む。桃のように甘いのに、どこか生臭い女の口臭が鼻腔を刺激する。 (く、くるな……吸うな……!吸ったら……また縮む……!) 男が必死に顔をそむけた瞬間―― 女は大きな唇で男の顔の半分を覆い、鼻の周囲を包み込むように咥え込んだ。 「ん……ちゅ……ちゅる……♡」 粘膜が触れる音。舌が這うぬめり。ねばついた唾液が男の頬からあごへ糸を引き、口内へ引き込まれそうな吸い込みの圧がかかる。 「や、やめっ……ぐっ……!く、臭っ……!」 息ができない。逃れようとした瞬間、吸い込んだ空気に強烈な甘酸っぱい刺激が走り、頭の奥がしびれた。 視界が揺れる。 足が震える。 (やばい……また……小さく……!) そのとき―― ぐぎゅるるるる……♡ 胃の奥から響く、不快で湿った音が女の身体から漏れた。 「あ、ごめんねぇ……♡」 その直後―― 「ぶ゛ぉ゛っ……ぶぼぉぇぇ゛ぇ゛ぇ゛〜〜〜っ!!♡」 女の口から、下品で湿ったゲップが炸裂した。 濃厚でねっとりと重い悪臭の塊が、暴力のように男を直撃する。 胃酸の混じった酸味、酒の残り香、唾液の匂いが混ざった生温かい風が、まともに男の顔面を叩いた。 「がっ……!!く……ぐぅ……っ……!!」 喉が勝手に閉じ、身体が痙攣する。目から涙が噴き出し、鼻が焼けるように痛む。 その匂いは臭いという次元ではない。 小さな人間を殺すために発射された毒ガスのようだった。 女はそんな男の苦しみを、ただ嬉しそうに見つめていた。 ――その瞬間だった。 自分の身体に異変が起きたのを、男ははっきりと感じた。 「……え……?な、なにこれ……っ」 胃の底から込み上げるような、ぞわりとした震え。皮膚の内側を指でなぞられるような不快感。そして―― しゅる、しゅるしゅるしゅる……っ……! 勝手に身体が縮んでいく感覚が、骨の一本一本にまで響いた。 「ま、まさかっ……げっぷで……!?う、うそだろ……っ!」 両手両足が急速に短くなる。視界がさらに高く遠くなり、女の指がまるで巨大な柱のように見える。 服がぶかぶかになり、生地がずり落ちそうになる。 しゅるっ……しゅるるる……! 身長はみるみるうちに縮小し、一瞬でさっきより明らかにひと回り小さくなった。 「ふふっ♡効果抜群ね♡」 女は楽しそうに首をかしげた。 女の指先から解放された瞬間、男の体は床へとそっと降ろされ、女を見た瞬間に男は凍りついた。 「……で……でかい……?嘘だ……」 数分前まで、女の股間のあたりに視線が合ったのに、今の自分はさらに小さく、腰どころか太ももの中程にも届かないほどまで縮んでいる。見上げれば、女の顔は天井近くにあるかのように遠く、身体のラインすべてが誇張されたように巨大で――とくに長い脚は、男にとって壁に近い存在になっていた。 そして女は、そんな彼を見下ろしながらにこりと笑った。 「でも……これじゃあまだ大きすぎて逃げちゃいそうね」 「……は……?お、おおき……すぎる……?」 理解不能。男の声は震えていた。 女は軽く肩をすくめると、ゆっくり足を持ち上げた。 影が落ちる。男の全身が暗く染まる。 女の足裏が――目前に迫っていた。 「うっ……く、くさっ……!」 先ほど鼻を押し潰した悪臭が、何倍にも強烈になって押し寄せる。鼻腔を焼くような酸味、発酵した汗の刺激、湿った皮脂の重さが混ざり合い、吸った瞬間に意識が白く飛びそうになる。 「あはは♡もう我慢しなくていいから。ぜーんぶ嗅いで?」 「ま、待っ……う、うわっ——!?」 女は一切のためらいなく、男の顔へ足裏を押しつけた。 ぐにゅっ……! 「がはっ……っ!く……ぐぅっ……!!」 押しつけられた瞬間、男は肺が潰れるような苦しみに叫び声を上げる。湿った皮膚の感触。染み込んだ汗の塩分。足裏全体から染み出す獣じみた臭気――それらが男の顔の穴という穴に流れ込み、逃げ場がない。 「ふふ……あ、また縮んでる♡」 女の楽しげな声。 男は自分の体の異常に気づいた。胸の奥で、またあのしゅるしゅるが始まっている。 (だめだ……これ以上は……!!) 必死に足から逃れようと手足をばたつかせるが、女の足裏一枚の重さは男の全体重より重い。まったく動けない。 「もー、ちょろちょろしないでよ」 ぐいっ。 足裏が押し込まれ、男の体は容易く後方へ転がされた。床を滑り、仰向けに倒れる。 見上げると――巨大な女の影。 その片足がゆっくりと持ち上げられていた。 「さて……踏み潰さないようにしないとねぇ?」 「や……やめろ……!!本当に死ぬ……っ!!」 ドンッ!!! 巨大な足が男の顔めがけて降りてきた。床が揺れ、空気が震える。 「ぐっ……ああああああああっ!!!」 重さで胸が圧迫され、肺が潰れそうになる。体全体がきしむ。 さらに―― 「はい、特別サービス♡」 女は足の角度を変えた。親指と人差し指の間、もっとも湿り、もっとも臭い谷間が、男の鼻先へとぴたりと押しつけられた。 「ほらほら♡あなた、私の足の臭い好きだったんでしょ?」 「っ……っ……!!や……やめっ……!!!」 息を吸う。吸わざるを得ない。 ――その瞬間、恐怖が決壊した。 鼻腔に直接ねじ込まれたのは、臭いとは呼べないほどの暴力だった。 生乾きの布の臭い。皮脂が酸化したような鋭い刺激。汗が蒸れて発酵した、アンモニアのような鼻を刺す臭い。そして、爪の間に溜まった垢の濃密な腐臭が混ざった、黒い霧のような悪臭。 「ぐぅぅっ……!!ああああああああっ!!!」 男は絶叫し――肺の奥まで悪臭が流れ込んだ。 その瞬間、身体の奥で何かが弾けた。 しゅる……しゅるしゅるしゅるっ……!! 皮膚の下を液体が逆流するような奇妙な感触。骨がひとつずつ縮むような、内側から押し潰されるような不快な震えが全身を駆け抜ける。 「ま……まじで……また縮んで……っ!?や、やだ……いやだぁ……っ!!」 視界が、みるみるうちに巨大化していく――いや、自分が小さくなっているのだ。 目の前の女の足が、さっきよりさらに巨大に。足裏の皺が谷のように深くなり、親指の爪だけで男の頭ほどの大きさに感じられる。 もがこうと腕に力を込める。しかし――動かない。 足裏の重さが先ほどよりもはるかに増しており、縮んだ身体では押し返すどころか身じろぎすらできない。 「ふふっ♡もう抵抗なんて無理よ?ちっちゃくなればなるほど、私の足一枚にすら勝てなくなるんだから」 女の声が、はるか頭上で響くように鳴り響いていた。 足の下で縮んでいく男の感触は、たまらなく快感だった。 しゅるしゅると小さくなるたびに、足裏に伝わる抵抗が弱くなり、まるで自分の支配が形になっていくようで胸が高鳴る。 「いいわぁ……♡このくらいのサイズで縮んでいく男を見るのが、一番興奮するのよね」 ゆっくり足をどかすと――そこには、もう自分の足に完全に隠れてしまうほどの小ささになった男がいた。 か細い息をしながら倒れており、その身長はせいぜい二十センチほど。 「ふふ……私の足より小さくなっちゃったわね」 楽しげに笑いながら見下ろす。 「だいたい二十センチくらいかしら……でもね」 唇を舐め、腰をくねらせながら、女は残酷な一言を落とした。 「まだまだ大きすぎるわ♡」 男は涙を垂らしながら首を振り、小さな声で懇願する。 「や……やだ……もうやめてくれ……たすけ……」 「やめるわけ、ないでしょ?」 女はくすりと笑い、足をまたいで男の上に立つ。巨大な影が男を覆い隠す。 「今度はね……ここを嗅いでもらおうかしら」 指先が、ゆっくりと自分の股間を示す。 「一日中働いたから……蒸れちゃってるのよね〜♡」 そう言いながら、女はゆっくり、たっぷりと時間をかけてしゃがみ込む。 上空を見上げる。 巨大な女の下半身が、空を塞ぎながら迫ってくる。 黒いパンティーが天井のように広がり、その布のわずかな皺さえ谷に見えるほど巨大だった。 「う……うわああああああああっ!」 逃げようとするが、足責めで体力を奪われ、さらに臭気でうまく動かない。四肢が痺れ、呼吸すら乱れる。 その上から――女が和式便器にしゃがむようにゆっくり腰を下ろしてくる。 視界いっぱいに黒い布。股の影。むわっとした強烈な蒸れた臭い。 完全に覆われる直前、男は絶望の叫びをあげた。 ――上空から迫る黒い布。その広がりは、もはや衣服ではなく巨大な天井として男の視界を覆った。 パンツの表面には細かな繊維の一本一本が、巨大なロープのように浮かび上がって見える。その隙間から、むわぁっ……と、生温かい蒸れた臭いが吹き降ろされてきた。 「くっ……うっ……!!くさ……っ……!!!」 男は顔を背けようとするが、臭いは逃がしてくれない。 鼻の奥を刺すような刺激。だが、それは汗と皮脂だけの臭いではなかった。 布そのものが発している、生乾きの洗濯物のようなムワッとした刺激臭。 そこに、女の体温で温められた湿気が混ざり合い――下着特有のむれた酸味が立ち上る。 さらに、クロッチ部分に染み込んだ淡い甘さと鉄のような微かな金属臭が重なり、息を吸った瞬間、鼻腔の奥にねっとりと張り付く。 それは、ただの汗ではない。 女が一日中履き続けた下着のにおいそのもの。 足の臭いより重く、より湿って、より逃げ場がない。 吸った空気の全てが、パンツに染みついた体臭の塊になって肺へとまとわりついてくる。 そして――その臭いが鼻腔に入り込んだ瞬間、再び身体が震えた。 しゅる……しゅるしゅるしゅるっ……!! さっきよりも激しい縮小の感覚。骨がひしゃげ、筋肉が縮み、体の内側から押し潰されるような圧迫が男を襲う。 「や……やだ……っ!!ち、ちいさく……なる……!!」 目の前のパンツが、みるみるうちにさらに巨大化していく。 いや、自分が縮んでいるのだ。 どんどん近づく黒い布。どんどん強くなる蒸れた臭い。 「いやだ……!うごけ……動けよ……!!」 もがく男の四肢は震え、まったく力が入らない。臭気で麻痺した体は思うように動かず、ただ本能だけで地面をかくように手を伸ばす。 ――その様子を上から見ていた女は、くすりと笑った。 「ふふ♡パンツに触りたいのかしら?」 女は軽く腰を浮かせ、体勢を変える。 「いいわ……触らせてあげる」 そう言うと、女は正座をするように姿勢を変え――パンツの股布部分を、男の身体へズシンッと押しつけた。 「ぐああああああっ……!!!」 女の体重が一気にのしかかる。小さくなった身体にはあまりに重く、肺から空気が押し出される。 「ほら♡これで好きなだけ触れるわよ。よかったわね?」 上空から降ってくる甘く濁った声。 男の視界は完全に黒い布で埋め尽くされ、顔全体がパンツに押しつけられている。鼻先では、布に染みついた湿気と女の体温が混ざり合い、呼吸をするたびに強烈な臭気が肺へと流れ込む。 「うっ……ぐっ……ぅ……!!くさ……すぎ……るっ……!!」 押し返そうと両手で布を突く。 ――ぐちょっ。 指先に触れたのは、湿った、ぬめりのある感触。汗と蒸れが染み切った布の下には、さらに濃密な体液の湿り気があった。 「な……んだ……これ……っ……!?」 だが問いは届かない。 女はただ、面白がるように微笑みながら――男が完全に自分の股間の下敷きになる感触を楽しんでいた。 「あぁ〜……最高だわ♡」 股間に押しつけている布越しに、小さく縮んでいく男の感触が伝わってくる。その震え、その弱々しいもがき――すべてが彼女の興奮を刺激していた。下腹部が熱を帯び、じんわりとパンツのクロッチが湿っていくのが自分でもわかる。 「ふふ……だいぶ濡れてきてるわね、私……。この男にとっては地獄かしら?」 湿り気が布越しにさらに伝わり、男の体を覆う圧が微妙に変わっていく。しばらく快楽に浸っていると―― 「ん?あら……?」 股間に当たる感触が急に小さくなっていくのを感じた。腰をゆっくり浮かせ、足を少し開いて下を覗き込む。 そこには―― わずか5センチほどの大きさになった男が、ぐったりと仰向けに倒れていた。 「ふふふ……小さくなったわねぇ……♡本当にかわいくなっちゃって」 返事はない。完全に気絶しているようだった。 「あらあら……目が覚めたら、びっくりするでしょうねぇ」 くすりと笑いながら、巨大な指で男の体をつまみ上げる。5センチの体は指の腹にすっぽり収まった。 「それじゃあ……ちょっと準備でもしましょうか」 女はゆっくり立ち上がり、男を持ったまま台所へ移動する。冷蔵庫の横に置いてあった透明なガラスコップを一つ取り、蛇口から水を勢いよく注いで――ごくごくと飲み干す。 「ぷはぁ……。さて」 空になった透明のコップを軽く指で弾き、そして―― 気絶したままの男をそっと、しかし落とすようにコンッと中へ入れた。 「さぁて……目が覚めたらどんな顔するかしらねぇ……♡」 女はコップを指先でくるくると回しながら、楽しそうに笑った。


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