SamuZai
tarupo789
tarupo789

fanbox


有終の美



「第三試合、女子60kg契約。

赤コーナー、祭禮女学園三年の澤村ヒナタ選手対、


____青コーナー、同校三年、安藤ユキナ選手の試合を開始します。」



・・・

細くなったな。

久しぶりにヒナタの裸を見た。

がっちりとした肩幅からゆるやかに膨らむ、白いおっぱい。


減量明けをして少し薄くなったとはいえ・・

肩から首にかけての戦闘的なラインに惚れ惚れする。

すごい密度の筋肉。

パンチを打つことに特化した才能が、まるで結晶化して、人の姿をしたようだ。

そんなどうでもいいことを考えた。


思えば、ヒナタの試合をいつもセコンドから見上げていた。

練習仲間として。親友として。彼女の勝利を全力で応援していた。

彼女の勝利を、家族のように喜んでいた。


それが今。

目の前数十センチ先に、私の敵として立っている。


すごく怖い。


けれどなぜ。

なんでこんなに嬉しいんだろう。


ずっと手が届かないと思ってた。

憧れのまま、消えていってしまう。そう思ってた。

でも、夢じゃないんだ。


「60kg。両者前日軽量パスだ。・・・頑張ったな、二人とも。

お前たちの思いは確かに受け取った。今日は悔いなくやれよ」


コーチがしみじみとつぶやく。

二階級分の体重差を埋めるのは、お互いにとって本当に辛いことだった。

増量する私はともかく、、

ヒナタにとってこの2ヶ月の減量は本当に辛かっただろう。


「ユッキー、ごめん。」


唐突に彼女がつぶやく。

心臓がドキってする。

まさか。。そんな________


「今日、すごく調子がいいから。

多分手加減できないや。本気で行くね。」


ハッとして全身が感動で総毛立つ。

ああ。

本当に優しいな。

いつだってそうだ。


「はは・・ボクサーとして当たり前だね。

コンディション悪いなんていい出したら、、この場で殴るところだったよ」

手心なんか加えたら・・一生恨むから。」


「うん。

ユッキーなら、そう言うと思った。」


うつむきながら、ヒナタはそっと笑った。





_____

最初にヒナタと話したのは、一年生の秋の試合後。

部室裏で大粒の涙を流す彼女にばったり会ってしまったんだった。


スポーツ特待で入学してきた彼女は、その才能で先輩達から疎まれてて、

一年生からボクシングを始めた私たちとは、見えない線が引かれていたように距離があった。

もくもくと一人、部室に居残って練習する彼女。

表情の変化も少なくて、にこりと笑うのも見たことが無い。

そんな彼女が、声を上げて、こんな顔で泣くんだって、まず困惑したのをはっきり覚えている。


でもちょっと話したらすぐに分かったよ。

ちょっと不器用で、臆病で。

人に勘違いされちゃうだけの、すごく優しい心の持ち主だって。




そこからいっぱいヒナタを知った。

学校では無口だけど、家ではおしゃべりなこと。

好きな漫画。好きな男子。嫌いな食べ物。


時間はかかったけど、ちょっとずつ周りと打ち解けていく彼女が、自分のことのようにうれしかった。


パンチの打ち方も、、いっぱい教わったなぁ。

試合中、相手のどこを見てるのか。何を考えてるのか。

次の展開を考えた機能的な足の運び方に、ただただ感動した。


「・・天才やん!」


そういうと、いつも照れながら笑ってくれたね。


私がここまで強くなれたのも、ヒナタのおかげだと思う。

いつも彼女の試合を、見上げていたから。


血を流して、顔を腫らしながら死に物狂いで戦う顔も。

試合前に不安で潰されそうな顔も。

勝利して喜んでるヒナタの顔を。

いつも自分のことのように、見ていた。


はずなのに。

なぜだろう。


いつのまにか、あなたを遠くに感じている自分がいた。


その才能を発揮して、賞を重ねていくたびに、焦燥を感じる。

あなたがみんなに囲まれてる姿を見ると心がチクリと痛む。

あなたの立つリングが、その背中がすごく霞んでみえる。


私を離れて、どこかへ行ってしまうその背中に、

走っても、走っても、

全力で走っても。一生手が届かない気がして。


あなたは本当に、私のことを。

一人のボクサーとしてみてくれているのかな。


いつもそう考えてしまう。

あなたは私の心を支配してしまい、

無意識にいつもその足の運びをなぞってしまう。


こんな感情、

こんな表情、表に出さないようにしていたけれど。

どうせ気づいていたよね。

私を一番よく知る、あなたのことだから。


・・・

高校の引退試合。

雨も雪の日も、ただただボクシングに打ち込んだ青春の日々。

その最後の試合に選んだ相手は・・。


私が認めた、本物の天才。

最も憧れた、目標の人。

挫けそうな時も、一緒に寄り添ってくれた親友。

私が一番闘いたかったボクサー・・・!


そんな彼女と、

試合のリングで、試合用の硬いグローブで。

ヘッドギアなしで、本物のボクシングをするんだ。

本気で闘えるんだ・・・!


こんな機会はもう二度とないと思う。


だから。

絶対手加減しないで。

本気のあなたと闘った。

その確かな証明が欲しいの・・!


そうじゃないと・・

私は一生、この可能性を諦められないと思うから。


_____________________

_________________

______________


黙々とワセリンを塗り込む後輩の顔をぼーっと見ていた。

試合が何ラウンドになったのか、わからない。

じんとした顔の熱さだけが、それだけが確かだった。


「ユッキー先輩、もう・・」


後輩の涙声に、

強く首を横に振る。


お願い。絶対止めないで。

ずっと夢だったの。本気のひなたと打ち合うのが。

だからこのまま・・


「最後までっ・・・やらせて。」


口の中がジャリジャリする。

燃えるように熱い顔と、視界が塞がった目。


「ラウンド8!ボックス!」


コーナーから飛び出すヒナタ。

すごく真剣な顔。

汗できらきらとした額もすごく綺麗で。

ヒナタのグローブは、私の顔のワセリンと脂汗でぬらぬらと光沢を放っていた。

幾度も私の顔を叩き打ったグローブ。

ヒナタの拳。


その二つの赤いグローブに、全身の神経を集中させる。


「シっ!シッ!」


細かいジャブの一発、一発が顔を打つ。

速い。くらくらした頭じゃ反応しきれない。


重いなぁ。

今までヒナタの対戦相手はこんなパンチと闘ってたんだ。

でも、恐れちゃダメ。


一瞬のジャブの切れ目で、間合いに入る。

たった50センチ。

手を伸ばせば届く距離の、その顔。

もてる速さで、パンチを打ち込む。


フック、アッパー、ストレート!

次々と放たれるパンチをさばく、ヒナタの必死の表情。

その顔が。呼吸のリズムさえ感じられるほど近くにいる。


瞬間、瞬間で最善の手を。

ヒナタの反応速度より、もっと速く__!


タン!


「!!!」


視界外からの左フックに、吹き飛んだのは。


・・・私の顔だった。


『息の詰まるような拳の差し合い、制したのは、、再びヒナタ選手!

効果的な打撃でユキナ選手にダメージを与えました!」


くらくらと揺れる視界のまま、急いで彼女のリーチから脱け出る。

くそっ・・!

天才すぎるよ・・っ

カウンタに特化した彼女から一本。とれるはずがないっ・・!


四角い箱の中で、相手の小さな頭を的確に打ち抜き、脳を揺らす。

狙い澄ました精度の高い、ヒナタの洗練された技術。


この域に達するのは、本当に血を吐くほどの努力が必要だっただろう。

必死にトレーニングを重ねた、血と汗と涙。

・・・そんな硬さをこの拳から感じた。

感動すら覚える。


はぁ。

ヒナタの動き、いっぱい研究したのにな。

練習中はもちろん、授業中も。

朝も夜も、夢の中でさえも。

この二年間、ずっと瞼の裏のヒナタを飼って、彼女と闘っていた。


どうすればヒナタを倒せるのかな。

パンチってどれくらい痛いんだろう。

拳が届くには、なにが足りないんだろう。


本当にいつも考えていた。


「シュッ!シュッ」


実際にこうやって向き合って闘って。

ヘッドギアなしでパンチを受けて、はっきりわかる。

文字通り、痛いほど感じる。


やっぱり、何一つ、ヒナタには届かないんだって。

それほどに大きい、才能の壁。


でもね・・

そんなこと、本当はわかってたんだ。最初から。

想像の世界でも、あなたに拳が届いたことなんて、一度もなかったもん。



それでも。

万が一、億が一でも。

私の拳が届くのなら。


『すさまじい、拳のやり取りです!

 ユキナ選手、この劣勢でもあきらめずに食らいつく!

 打つ、打つ、打ちまくる!』



お願い。

最後にこの一発。

一発だけでいい。

ヒナタに。


憧れだったヒナタに。


ヒナタに届きたい・・・・っ!












ドカッ!!




遠雷。

遠くで聞こえる爆発音で、

私の意識は闇に閉ざされた。




「「ダウン!

 ワン!_____ツ_______

 __________・・・・」」



感じた。

ヒナタの全部。

ヒナタの本気。

裸で。拳で。

この全身で。

その強さと優しさを、確かに受け止めた。




「早くユッキーを、、、医務室へお願いします!」


こんな真っ暗な無音の世界で、はっきりと聞こえる。


涙混じりのヒナタの声だ。

ほんと泣き虫だなぁ。ずっと変わらない。

勝ったんだからちゃんと喜びなよ。

みっともない。


なんてね。



・・嘘だよ。

ごめんね。

優しいヒナタに辛い思いをさせてしまった。

無理やり、闘いだなんてっ・・!

私のわがままに付き合わせてしまった。


罪悪感が胸をぎゅっと締め付ける。

ごめん。ありがとう。

本当に、ありがとう。


うわごとのようにつぶやくこの言葉が。

ヒナタに届いたかなんてわからない。

でも。

届いていたらいいな、と思う。



『全身全霊のカウンターアッパー!

最終8ラウンドにして、一度もダウンを許さないユキナ選手でしたがっ・・

とうとうこの瞬間を迎えてしまった!

最後まで戦い通せなかった彼女を笑うものはいるのか??

いや、ありえない!!

この会場全員、誰一人としてその勇姿にケチをつけるものはいないでしょう!

まさしく、偉大なるボクサー。偉大なる最期を飾った!』



・・・

マットを揺るがす会場の歓声。拍手。声援。

真っ暗な世界にいる私に、背中越しに伝わってくる。


ああ。心地いい。

私の拳は届かなかったけど。

もういいよ。

もう満足だよ。

こんな終わりでいいんじゃない。



意識が、心地よい泥へ沈む。

拳闘士としての情熱の火がゆっくり消えてゆく。


何一つ聞こえない無音の世界で、

その割れるような拍手は一生消えないのでした。




















差分





いつもご支援ありがとうございます


工夫していつもと違うものを描こうと思ったんですが、結局いつもと同じの描いてるなーとおもいました


話も伏線だったり、心情だったり、一つのラインを通して回収したいなと思いつつ、

要素をたくさん盛り込みすぎて、複雑になっちゃうの課題です。

なんかカタルシス薄いんですよね、、


これももっと時間をかけて研究しないとですね





有終の美 有終の美 有終の美 有終の美 有終の美 有終の美 有終の美

Comments

Testing her chin.

masterhavik

Nice to see your approach on new angles and persepective, keep up the good work amazing work as always

natsulucy

Thank you sir!

tarupo789

The explosiveness of the punch and the way the view was presented is outstanding! Really rough fight and erotic, fantastic work!

sakata

ありがとうございます! もっと工夫していいの出せるよう、絵もストーリーも頑張りますよー

tarupo789

ありがとうございます! 構図考えるのすごく苦労しましたが、こうやってコメントいただけると時間をかけた甲斐がありました。 また色々挑戦したいですね

tarupo789

投稿お疲れ様でございます! 様々な差分や刹那の打ち合いのリアルさに加えてこの場面に至るまでの重厚なストーリー…!最高に素敵なイラストとストーリーをありがとうございます!

ジェネラルAA

この絶妙なパンチの届いた・届かなかった具合と、魚眼レンズ風の煽り構図により赤青コーナーが同時に見られて2人がリング内で戦っているのがより感じられる絵になっているのが良いですね。1枚の絵に色んな意味を込めようという意図が感じられて素晴らしいです

TOM


More Creators