深夜のシアン邸。大きな玄関扉が開き、一人の女性が入って来た。 やってきたのは館の主、藤崎杏ことシアン=アース。 白衣交じりのその身なりは、争いのあったことが見えるよう、ところどころ泥にまみれていた。 「ふぅ。ふぅ……やっと、安全地帯まで帰れた…」 脇に真っ白な胸像と思わしきものを抱えている。それを横に置くと、少し息を整えてから門を見た。 「……ちぇ」 門の先には、暗がりに浮かぶ真っ赤な髪形。 手の平に出した赤い魔法弾を徐々に薄れさせると、それは緑の大きなリボン耳をピクピクと揺らす。 シアンはその姿に冷や汗を感じる。あと一歩。こっちの化かし合いからの撤退が遅れていれば、彼女の餌食になっていたのだろうから。 「ふぅ……今回は、ここで引かせてもらうわね」 「…残念」 そうつぶやくと、門の先の存在は軽く一跳び。無数に並ぶ家屋の屋根へ消えていった。 ゴトン、とタイル張りの渡り廊下に胸像を置く。 無数に並ぶ他の展示品に混ざりこんだようで、その姿は様になっていた。 「はぁー…やったわ。今日はカウンターを返されないですんだわね」 目の前の胸像に対して、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 それも当然。この胸像は今夜のシアンの戦利品でもあるのだから。 「………」 胸像はあっけにとられた声で、なにも動かない。 月明かりにそのたわやかな白肌を写し、ただ芸術品となった裸体を語っているのみだ。 胸像は、リンリー=ベルという妖怪だった。 シアンとの戦闘を繰り広げ、結果シアンの勝利という形で。一時的にシアン=アースの所持品と化したのだ。 「相変わらず、貴女も胸が大きい方よねぇ」 物色するように呟くと、胸像のつるやかな胸を手のひらでなでおろす。 完璧な球体だ。普段は柔らかいだろうそれは、ただその大きさを確かめるだけの固体と化しており。シアンはその手にその大きさをしっかりと感じた。 「若い体で、これだけのボディを保ってるんだから参ったものよ。 あー、私ももう少し早くに妖怪の事を知れていたらなー…」 知れていたら、なんだと言うのだろうか。 シアンは少し疑問がよぎりもしたが、どの道、自分はもう若い子とは言えない年齢だ。 それゆえに、素直に若々しい体で体を保っている、このリンリーも羨ましく感じた。 それに…。今のリンリーはただの胸像だ。 骨董品を扱う物として、この姿に封じ込めたのは更に嬉しい。 手入れのし甲斐があるというものだ。 「……ふふ。今手入れ道具持ってくるからね」 いつもの倉庫の方へと歩き出す。今日も寝るのが遅くなりそうだ。 「今日から一週間。よろしくね、リンリーちゃん」 胸像はただそこにある。
のなめ
2019-07-01 22:24:23 +0000 UTC