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ムツハは石像にされてしまった!

私、ムツハはアパートに帰って来た。 妖怪の身でありながら、自分の城ともいえる家があるのは嬉しいことだと思う。 美倉街は、妖怪に対する裏口住民票も用意されている分、人間らしい生活をしようと思えば、生活できるのもよかった。 誰も居ない部屋に入り、ふーっと息をついて寝そべった。 思えば、この町を見つけるまで長かった。暗い部屋で天井を眺めつつそんなことを考えた。 自分が初めて目を覚ましたのは、ビル群の隙間に添う川の水面上だった。 仰向けに打ち上げられた自分の周りを振り向いてみれば、ついさっきまで自分もその中の一つだったことを示唆する投げ捨てられたガラクタ達。 コンクリートの壁に梯子を見つけ、川から上がってみれば、どこまでも続くのはビル群だった。 その景色を見て、凄い所の生まれになったな、なんて感動したのが最初の気持ちだったと思う。 けれど、それから周囲を見渡してみると、自分と同じような姿をしたやつは、誰も居なかったことに気が付いた。 次に思ったのは。自分は特別なのか?だった。 何も知らないのに、特別に生まれちゃったのか? そう考えると、今度は孤独感と乾いたような気持ちが自分の中にこみ上げてきた。 それからは、日本のけいざいてきせいちょうき?とか言う時期の影に隠れて、あちこちの暗がりを生きていたと思う。 まずは、その場の普通に混ざれるように耳と尻尾を隠す術を身に着けた。 次に、何度か自分に伸びる手から逃げる事を繰り返し、自分の身を守れるやり方を覚えた。 今思えば、あの時に隣に妖怪が一人でも居てくれれば、妖怪が潜むコミュニティを見つけれて入れていれば。………なにがあったんだろう? 外の街でも、それなりにその場の人間らしい生き方をしてきていた分。その先を、私は想像できなかった。 西暦が70年代を過ぎたあたりだっただろうか。 あの頃から、外の世界は生きているだけで許されない場所になった。 橋の下で段ボールを集めつつ、しばらくの寝床を作ろうとしていた。 だけど、急に何人かの人間がそこにやってきた。 顔を、陰陽玉やお札を初めとした、神具を模した模様をした仮面で隠した集団だ。 私はとっさに、いつもの悪漢をたぶらかすやり方を用いて、追い払おうとした。 けれど、失敗だった。 徒党を組み、悪を討たんとする意思のような塊が、最初の一手ではっきりと伝わった。 結果は簡単。まず隠し物が現れないようにまず作っていた家を壊され、次に殴られ、そして川に背後。橋の裏、逃げ場を術で封じられた。 やつらは狩人だった。その人たちの目には、駆除すべき怪物にしか自分が見えていないのが感じられた。 なんとか声を出して、言葉の通じる相手だって言おうとしたが、唇を咄嗟に焼かれ、声を出せなくなったのは、今でも私のトラウマだった。 そう。そんな手口をしてくるやつらが、70年代以降は急に現れたんだった。 私は、絶望と怖さ以外にも。なんでか、虚しさが心の中にあった。 生まれてから数十年。人間のように生きてたはずなのに。 生まれてから教えられず、自分なりに生き方を考えてきたはずなのに。 生まれてからずっと、助けてって言わないで、静かに生きてきたのに。 今、自分を殴りつけてるこの妖怪退治をする人々に、恨まれるような事を、したかな? よくわからなかった。 何も分からないで終わるのが、ただ虚しかった。 その最後だろう瞬間。何か叫んでいたのは覚えてる。 何を叫んでいたかは思い出せない。 次の瞬間。自分を討たんとばかりに殴りつけている仮面の人間の内の一人が、巨大な蔦のようなものにわき腹を殴りつけられ、川へと吹っ飛んでいたのが印象的だったんだ。 仮面の人間達は、一斉に手を止め、橋の外側を見た。 私も、唯一その時動かせれた腕で、体を少し持ち上げてその方を見た。 橋の外は、曇り空だった。ただ、太陽の光も強く、明るい曇り空だった。 そこに立っていたのは、緑のリボンに忘れないほど真っ赤な色をした髪をした少女が立っていた。 「おまえ、大丈夫か?」 赤髪の少女は、仮面の人間をなぎはらった蔦を戻すと、淡々とした口調でそう言っていた。 そこからは、あっという間だった。 仮面の人間達は、私を横手へ蹴とばすと、一斉に武器を取り出してそれぞれの戦い方で攻撃を仕掛ける。 だが、それぞれの攻撃の動作を始めた次の瞬間。地面から飛び出した無数の蔦が、それぞれの手足を貫いた。 そして、穴の開いた自分たちの手足に絶叫を挙げる彼らを、今度は蔦で巻きあげると、そのまま川へ大きな水柱が上がるほどに叩きつけた。 「ぇ………」 信じられない強さだった。 その少女は、川ではなく自分の使った蔦に目を見やると、チッと舌打ちをした。 そして、私の元に近寄りしゃがむと、壊れた私の家を見る。 「おまえの家。なにか残ってるか?」 何を言っているのか分からなかったが、私は、かろうじてなにもと答えた。 そうか。とだけ言うと、赤髪の少女は私を起こし、そのまま背負いだした。 「文句言うなよ」 痛っと声をあげてしまった私に、赤髪の少女はそうとだけ言うと、私をその橋の下から連れて行ったのだった。 不器用で乱暴な人だった。 けれど。初めての暖かさだった。 窓の外の暗い街並みから、時間遅れなセミの鳴き声がして、ハッと意識をとりもどした。 カフェでの仕事が終わった安堵からか、ついつい物ふけってしまったようだった。 「あー…懐かしい。 それで、この町来たんだったっけね」 ぽつりとつぶやき起き上がる。 起き上がると、顔の正面に万弁の笑みを浮かべたケーゼが立っていた。 「--っ」 「はぁい。ムツハ」 「うぁー!!!!!」 普段出さないような太い絶叫を挙げて、次の瞬間には私はケーゼを平手打ちで叩いていた。 「おふっ!!」 ケーゼは、そのまま部屋の隅の押し入れに転がっていった。 びっくりした。信じられない、ここは私の家だ。幽霊でもない人間が、いつの間にか侵入してきていた。 「ケーゼ。なにしに来た!」 「あー、いった…いやー、ねぇ? 久々に町に帰って来たからねぇ、カフェでくつろごー、って思ったのよ」 そう言いつつ、ケーゼは起き上がる。その手には、なんでか空っぽのマイティーカップが持たれていた。 「なのに、貴女の店もう閉まってるじゃない。 営業時間変えた?」 「ずっと同じだけど!?」 「あら、そうだったの」 ようやく驚いた分の息を整え終えて、改めてケーゼを見た。 「全くあなたはー」 言いかけたところで、言葉が止まってしまう。 ケーゼの顔は、外の月明かりが当たって光っている。 そして、頭には草を模した造形の施されたリボンに、なによりも特徴的な赤い髪。 あの時よりも、明るい表情をした姿が、そこにはあった。 「ーー昔と、変わらないぐらい。突然ね」 「そう? これでも色々変わった気がするけどねぇ?」 ケーゼはくすくすと笑いつつ、からかうように微笑んでくれた。 「全く…。町に帰ったのなら、真っ先にあなた自身の家に帰ればいいじゃない」 あれから少しして、ケーゼに紅茶を入れてあげた後、ふろにも入り、互いにパジャマ姿になって布団を敷いていた。 何気にケーゼもパジャマに着替えていて、布団も二組に敷いている。 「私の使い魔は、神社の方でミニっ子パジャマパーティーをするそうだからねぇー。今帰ったら一人だもん。」 「へえ?貴女も神社にそのまま泊まればよかったのに」 私がそう言うと、ケーゼは少し目を逸らした。 「いやー、それもよかったんだけどねぇ… そっちに居ると、まっさきにばれると言うかぁ…」 「?ばれる?」 妙な一言に首を傾げる。 「いつもなら、いいけど。帰ってきて一日目は、ゆっくり休みたいというか―……」 何を案じているのか分からず、自分自身の頭には?が溜まるばかりだった。 「…ケーゼ、なにをおそれて…んっ?」 その時、窓の外から、駆け足の音が聞こえた。 「ケーゼェ!!」 次の瞬間。そんな掛け声と共に窓から人間が飛び込んできた。 こっちは、緑の大人びた姿。それは、たしか同じく町で司書をしながら魔女をやっている人間、蛇楽だった。 「あ、あなたは。じゃらー」 「うわっ、今はストっーー」 ケーゼが慌てて手を振るが、蛇楽の目が満月の光よりも激しい赤い光を放った。 私は、それを直視してしまう。ケーゼは、慌ててリボンから蔦を伸ばし隠した。 「っひぇっ!!?」 素っ頓狂な声をあげるも、私はその光に飲み込まれてしまった。 ぼふんっ!と煙に包まれた童話じみた音が鳴る。 そして、煙がもくもくと込みあがり、晴れると。自分の体が全く動かなくなっていた。 「あーっ!蛇楽!!あーっ!!!」 ケーゼが、出鱈目な声をあげる。 自分は、一瞬の間に蛇楽の術に掛けられ。一衣も纏わぬ石像に変えられてしまったようだった。 「今日はお休みの日なの!なーんでムツハちゃん巻き込んじゃうかな!」 「うるさいっ!帰って来たならまず腕試ししに来い!! 休もうとか甘いこと考えやがって!」 「んー!この戦闘バカさんがっ! いいもん。あんたを負かして、ムツハちゃんへのおわびの甘いパイにしてやる!!」 そう言うと、ケーゼと蛇楽はその姿のままで窓の外へ飛び出していった。 一方私は、声もあげないただの綺麗な女体像として、月明かりを全身に帯びて、遠くから聞こえてくる戦闘音を聞いている。 「(いやー………凄い友人もっちゃったなぁ…)」 しばらく、その姿のままでそこに佇んでいる。 「(休みないけど、来て良かったかもなぁ)」 外で騒いでる変な友人たちを思いつつ、そんなことを思った。

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