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ヒロピンクラブ Side Story 【巨大ヒロイン編】 ~ 真衣 Side ~

※本作品はFANBOXに投稿した【ヒロピンクラブ】のサイドストーリー【巨大ヒロイン編】のアクターサイドとなります。 本編の方を読んでいただいた事を前提で書いてありますので、説明が省かれている部分がありますのでご了承ください。 ・・・ 私の名前は【佐塚 真衣(さづか まい)】。 本職の仕事とは別に、スーツアクターの仕事をしている。 テレビの撮影とかではなく、週末にイベントでキャラクターショーのキャラの中身をやっているのだ。 そして、今日は、そんなイベントの仕事ではない、特別な仕事に来ていた。 そこは【ヒロピンクラブ】というお店。 私のキャラクターショーの事務所の先輩、【希枝(きえ)さん】が秘密で仕事をしているという店。 そこに、【仕事】に来ているのだ。 とあるビルの一角にある、マニアックなお店。 聞かされているのは、ヒロインがピンチになる事をお客が楽しむショーが繰り広げられているという事、そのヒロインをやるという事。 あと最後、ショーの終わりは、やられて、閉店までそこに横たわっていればいい…。 そして、その悪役には、事務所の先輩アクターである【佐々木(ささき)さん】がいるから、分からない事は聞けばいいとの事。 (ふぅ…。何も分からないけど、都に頑張らなきゃ…) 何故、ここに私が来ているのか…。 ちょっと、金銭に困った事があり、希枝さんに頼ってしまった。 そして、そのお金の返却の代わりに、一日、私が代役として、この店のステージに立つ事を提示されたのだった。 普段は希枝さんが、ここのメインアクトレスらしいのだが、どうしても、都合が合わず、今日だけは来れなかったらしい。 その代役として、私に白羽の矢が立った。 私としては、スーツアクトレスの仕事をして、希枝さんに借りたお金もチャラにしてくれるというのだから、ありがたい事限りない。 後は、この店の事は、一切、私達だけの秘密にするという条件だけ。 私にとっては、この代役を飲まない理由は無い。 「おはようございます、佐々木さん!!」 私は、いつものショーのノリで先輩の佐々木さんに挨拶をした。 「おはよ。希枝から聞いてるよ。んで…真衣が希枝の代役って事だけど、大丈夫なのか??お前??」 何やら心配そうに、私に質問してくる佐々木さん。 しかし、同じスーツアクターとして、先輩の希枝さんがやっている事を、私が出来ないなんていう事は、恥ずかしくて言えるわけもない。 「大丈夫です!希枝さんに負けないように、私も頑張りますから!!」 私は、自らを鼓舞するように、そう佐々木さんに言った。 「そ…そうか…。まぁ…真衣がそう言うなら、そうするけど…。ちなみに、いつも希枝の時は、攻撃は【直当て】だけど、大丈夫か??」 「え!?直当て!?」 その佐々木さんの発言に、一瞬戸惑ってしまう。 普段のショーの時は、攻撃が実際に体に当たる事は無いように演技している。 当てているように見せているだけで、寸止め的な攻撃が全てだ。 今までに直当てされた経験もないので、どういうものかも想像が出来ない。 とは言え、普段、希枝さんがそうしているのなら、それを受け入れるしかない。 なにせ私は、今日、希枝さんの代役として、ここ来ているのだから。 (そうか…ここはヒロインがピンチになるショー…。それをお客さんが見てるんだし…。そういうものなんだろうな…) 「分かりました!!大丈夫です!私もアクターですから、思い切り来てください!」 「おっ!?さすが希枝が押すだけの事はあるな。それじゃ、【いつも通り】の感じで大丈夫だな??」 「はいっ!!」 私は代役として、希枝さんの顔を潰すわけにはいかないと思う所と、希枝さんがやっていることを、私が出来ないとは言えないという小さなプライドもあり、そう答えた。 (まあ…聞いているのは、今日のショーはコスモマンのショーだって聞いてるし…。相手は【怪獣】だろうから、直当てって言っても、分厚い怪獣の攻撃なら大丈夫でしょ…) コスモマンのショーをした事は無いが、聞いている限りで、悪役の怪獣は、動きにくいし、手足も分厚い衣装なので、向こうの攻撃も打撃力も弱くなるし、こちらの攻撃も、さして痛くも無いと聞いていた。 それ故、私は安易にそう考えてしまった。 「じゃあ、希枝がやってる通りでいいな??」 「はいっ!!希枝さんが普段やってる通りに、やってください!!」 そして、私は普段、希枝さんがやっている通りの事を承諾してしまった。 今日のショーは巨大ヒロインのコスモマンのショー。 私の役は、コスモマンセリア。 今回のショーは、初めからコスモマンセリアがピンチの状態から始まる。 アクションの殺陣合わせも何もない。 ピンチな状態からのスタート、アドリブで敵に攻撃して、やられる時はやられればいいとの事。 これは、ある意味、スーツアクトレスとして、対応力も求められる内容だ。 (よし…希枝さんに引けをとらないように頑張ろう…) そして、打合せ(?)が終わり、私はコスモマンセリアの衣装に着替えた。 コスモマンセリアの衣装。 初めて着た衣装。 分厚いウェットスーツの衣装だと想像していたので、戦隊のタイツの衣装ほど薄いものではないと思っていたが、着てみると予想以上に体にフィットしている。 (うぅ…思ったより恥ずかしいな…これ…) 戦隊の衣装も何度も着ているが、その戦隊のタイツよりも、私の体のラインをきっちりとトレースする。 思っていたより、ゴム素材のスーツの厚さが無く、体を締め付ける感じもかなりのものだ。 その伸縮性が、私のお尻や胸をきっちりとトレースするのだ。 そしてボディーと一体型になったマスク。 背中から頭部に繋がるファスナーを閉められると、マスクが私の顔にフィットしてくる。 マスク内にはほとんど、余裕はない。 マスクの前面が、私の顔の前面にぴったりとフィットしていると感じられるくらいだ。 それ故、戦隊やアニメもののショーのマスクと違って、マスク内部に空間は無い。 (すぅぅぅ…ふぅぅぅ…) 呼吸をすると、目の部分に開けられた穴と、口元の小さなスリットから、空気が入ってくる感じがある。 戦隊やアニメもののマスクであれば、首元に隙間があるため、そこから空気が入ってくるが、コスモマンの衣装はそれが無い。 ボディーとマスクが一体化していて、ウェットスーツ素材で出来ているが故、そこから入ってくる空気ないのだ。 つまり、私が今、呼吸が出来るのは、目の穴と口のスリットのみとなる。 大きく呼吸をすれば、そこから空気は入ってくるが、そんな小さな呼吸口は、空気を中身の私まで届けるには心もとないものだ。 これまでの、アニメものや戦隊などでは経験した事のない衣装の造りではあるが、これもスーツアクトレスの経験としては、乗り越えなければならない所だ。 (すぅぅぅ…ふうぅぅぅぅぅ…でも呼吸が出来ない訳じゃないし…。普段、希枝さんがやっているなら、泣き言は言えないよね…) 「それじゃあ、着替えの仕上げに入るわね」 そう言って、着替えを手伝ってくれた女性スタッフが、私の手首、足首で何かの作業をした。 「仕上げって、何をしているんですか??」 マスクの中から、少しくぐもった声で、スタッフの女性に質問した。 「えっ…とね。ブーツとボディ、手袋とボディのつなぎ目を、接着しているのよ」 すると、スタッフの女性が作業をしながら、さらっと答えてくれた。 「接着ですか…?」 普段のキャラクターショーのドレッシングでは、あまり聞きなれない言葉だ。 「うん、そう。コスモマンの衣装は、めちゃめちゃ汗かくけど、衣装の方が汗を吸ってくれないから、つなぎ目をしっかり接着しておかないと、そこから汗が駄々洩れになっちゃうでしょ。だから、つなぎ目を無くしておかないとね」 当たり前のようにスタッフの女性が言った。 (そっか…コスモマンの衣装って、完全に汗を通さないから、そうなるんだ…) 普段着たことがない衣装なので、そう言われると、そういうものだと納得してしまう。 すると、スタッフの女性が、私の背中側に回り込んだ。 「ファスナーもやっちゃうんで、動かないようにしてね」 「は…はいっ…」 (ファスナー??そ…そっか…コスモマンの衣装って、背中のファスナーがヒレみたいなものの間にあるから、それもくっつけないと、お客に見えちゃうかもしれないんだな…) 衣装の構造が分かっているだけに、勝手にそういうものだと解釈する。 「よし、完成。じゃあ、今日のショー頑張ってね。いつも希枝ちゃんが頑張りすぎるから、代役は大変だと思うよ…」 「が…頑張ります!!希枝さんに負けないよう、全力でやりますので!!」 「おっ…なかなか度胸あるじゃない。いい感じよ」 そうして、ドレッシングが終わった私は、スタンバイのため、悪役たちと合流するため、ステージ袖へと向かった。 移動中に色々と確認する。 (よし…動きやすさは問題ないな…。思ったより、スーツが突っ張る事もないし、普段のアニメものとかに比べれば、なんの装飾もないから、動きやすいかも…。ん!?そうか…!?なんの装飾もない…って事は、私のボディラインがはっきり出てるって事じゃん!ちょ…ちょっと恥ずかしいな…。で…でも…顔は隠れてるわけだし…我慢…我慢…。) 着た時にも思った事だが、完成形になって、今一度、その事実を実感してしまう。 (視界は良いとは言えないけど…。丁度、目の位置に穴があるから、全然見えないって訳でもないし…問題なし。この目の穴と、口のスリットしか、空気の通り道がないから、激しく動いたら、苦しそ…。でも、普段、コスモマンやってる先輩たちは、これでアクションしてるんだから、私もやりきらなきゃね…。…よし…) そうして、自分の状況を確認しながら、ステージ袖に辿り着いた。 「よろしくお願いします!!」 ステージ袖に辿り着くと、そこには星人らしい人間体の悪役が3人、そして、3体の存在感のある怪獣がいた。 その悪役たちに、私はすぐに挨拶をした。 「よろしくな、真衣」 3体の星人型の悪役のうち、一人だけボスっぽい衣装のキャラから、佐々木さんの声が聞こえてきた。 (あっ…このボス星人が、佐々木さんなんだ…) 「基本、シナリオ無しのアドリブだ。コスモマンセリアは、既にダメージを受け、やられている状態からのスタート。設定はそれだけだ。あと、希枝から聞いてると思うが、ショーが終わった後、閉店までは、やられた演技のままでステージ上に残ってもらうからな」 「大丈夫です!!希枝さんから聞いてますので」 「よし、じゃあ、本番はよろしくな!」 「はいっ!!」 シナリオ無しの完全アドリブ。 私の対応力と演技力が求められる。 普段のショーの時の緊張感とは、異質の緊張感が私の中に漂う。 そして、そんな緊張に包まれながら、ショーのスタートを待った。 (ふぅ…それにしても…かなり暑いな…) ステージ袖で、ただ待っているだけ。 しかし、私の体中がかなり熱気を帯びてきているのが感じられる。 既に額からは汗が滴り落ち始めていた。 コスモマンの衣装は、やはり、普通のアニメものの衣装に比べ、熱が籠りやすいのだろうか? 着ている時間の割りの体温の上がり方と、汗の吹き出し方が凄い。 (こりゃ…ショーが終わったら汗だくだな…) そんな事を考えながら、ショーの始まりを待っていた。 すると、ついにショーが始まるアナウンスが入った。 「ご来店いただいている皆さま、お待たせいたしました。本日のヒロピンショー…始まります!!」 アナウンスが鳴り響くステージ上。 そして、そのステージ袖で、佐々木さんが言った。 「よし、それじゃあ、みんなよろしく!!」 「はいっ!!」 そして、ついに初めてのヒロピンショーが幕を開けたのだった。 開始早々から、BGMは危機感のあるアップテンポなメロディーが鳴り響く。 (よし!行こう!!) 私は、きっかけで勢いよくステージへと飛び出して行った。 【ゴロゴロゴロ!!】 ステージに飛び出し、転がりながらステージ中央へ。 そして、その私を追うように、星人の3体と怪獣1体の悪役がステージへと上がって来た。 「どうした、コスモマンの力はそんなものか?」 ボス星人、佐々木さんが私に対して、挑発する。 「うぅ…こ…これくらい…なんでもないんだから!!」 コスモマンセリアのセリフが入り、私はそのセリフに合わせてゆっくり立ち上がった。 声当てをする声優さんは、中身の私とは別に存在する。 ライブで声当てをするため、私が声優さんの声に合わせたり、声優さんが私の動きに合わせて声を当てたりするのだ。 「それでは、見せてみるがいい、本当の力というものをな…やれ!!ミラージア!!」 ボスがそう言うと、存在感のある大きな怪獣ミラージアが、私へと襲い掛かって来た。 「負けないんだから!!たぁっ!!」 セリフに合わせ、私はミラージアに向かって思い切り殴り掛かった。 【ボフッ】 (あっ…この感触…。やっぱ、中身の人には全然ダメージはないんだ…) 自らの拳が、怪獣の着ぐるみにヒットしたが、その感触は、分厚い座布団を殴ったような感触。 私の攻撃が、いかに中身まで届いていないという感じが分かった。 (じゃあ…迫真の演技をするには全力でいかないと…) 「たぁっ!!やぁっ!!はぁっ!!」 私の攻撃に合わせて、声優さんが声当てをしてくれる。 私は、殴りや蹴りを織り交ぜながら、ミラージアに対して、連続攻撃を仕掛ける。 「やぁっ!!たぁっ!!はっ!!」 私の攻撃がミラージアにヒットするが、やはり、大した衝撃は無いようだ。 これは実際のダメージであり、設定上のダメージでもある。 どれだけ、私が真剣に攻撃した所で、よほど、着ぐるみの薄い部分に当たらない限り、中身のアクターにダメージは無い。 そして、ここはヒロピンクラブ。 ヒロインの攻撃は悪役にダメージを与えられず、不利な状況に陥るのが設定なのだ。 効かない攻撃をしかけながら、相手が反撃してくるのを、距離をとってかわす。 ヒットアンドアウェイ…。 一見、私が一方的に攻撃しているかのように映る。 しかし、現実は違う。 攻撃を仕掛けているのに、どんどん消耗しているのは私の方なのだ。 ウェットスーツのような衣装に身を包まれ、小さな呼吸口しかないマスクを被り、全力で動き続けているのだ。 あっという間に、息が上がり、恐ろしい程に体温上昇が起こる。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!息が!!続かない!!) 一気に動き続けて、呼吸が乱れるも、小さな呼吸口から入ってくる空気は少ない。 普段の、アニメものや戦隊ものと同じように動いていれば、酸欠になるのは間違いない。 しかも、ゴム素材のスーツが、一瞬で私の体温を上昇させていく。 肌タイツや、戦隊のサテン地のタイツとは訳が違う。 (苦しい!!動き…すぎた…。はぁっ…はぁっ…はぁっ…きついよ…) 普段の衣装と同じ感覚で動き続けた事と、希枝さんに引けを取らないようと、気張ったのがいけなかった。 あまりの苦しさに、動きが緩慢になっていく。 「たぁっ!!」 そして、私のパンチが怪獣にめり込んだ瞬間だった。 「うぅっ!!」 めり込み、止まった腕をミラージアに掴まれたのだった。 (あっ…しまった…) 次の瞬間、掴まれた腕が思い切り引っ張られる。 そして、引っ張られ体勢が崩れたところを、押し込むように、私の体を放り投げたのだった。 「きゃぁぁぁぁ!!」 (きゃぁぁぁぁぁ!!) 声当てをする声優さんの声と同じような心の叫びをあげながら、私は飛んでいく。 【ゴロゴロゴロ】 そして、その勢いのまま、ステージ上をゴロゴロと転がっていくのだった。 ステージの端まで行き、ようやく転がった体が止まり、その場にうずくまる。 (うぅ…結構…痛い…) いきなり放り投げられ、それなりに前転し、受け身はとったものの、やはり、放り投げられれば、少しは痛みを感じる。 しかし、現状の問題としては、その痛みよりも、乱れた呼吸による苦しさだ。 (はぁっ…はぁっ…はぁっ…) すると、ボスが言った。 「全く攻撃が通じる気がしないな」 そう言い放ったボスに対し、声優さんが答える。 「く…こんな…でも…諦めないんだから…」 声優のセリフがそう入り、それに合わせるように、私はゆっくりと立ち上がった。 セリフでは諦めないと言っているが、私の呼吸状況は、負けを認めていい程、苦しい状態に陥っていた。 (く…苦しい…苦しい…よぉ…) すると、ボス星人がそんな私を見ながら言った。 「まだ諦めないと言うなら、お前に絶望を味合わせてやろう…」 「ぜ…絶望…。わ…私は…絶対に絶望なんてしない!!諦めなんて…しないんだから!!」 「フッ…それでは味わうがいい…。ミラージア!!ミラージュチェンジ!!」 「なっ!?何を!?」 (な…何!?ミラージュチェンジって!?) 声優さんの疑問と同じように、私の頭の中にも疑問が浮かぶ。 打合せの段階では、全く聞いていない単語だし、もちろん展開も聞いていない。 ミラージアが出はけ付近に位置した瞬間。 CO²が噴出され、ミラージアが水蒸気の煙に包まれた。 【プシューーーーー!!】 その煙がゆっくりと晴れていく。 そして、その煙が薄くなり、煙の中のミラージアが再び姿を現した。 (え!?) すると、そこに立っていたのは、先ほどの怪獣とは別の姿の怪獣だったのだ。 それは、ステージが始まる前、袖に待機していた別の怪獣だ。 その怪獣は、勢いよくステージへと進み出した。 その様子には、まるで疲れを感じさせない元気な動き。 それもそのはず、今の今まで、ステージ袖で待機していた訳だ。 まだ体力は有り余っているに違いない。 「さあ、ミラージア!!コスモマンセリアと遊んでやるがいい!!」 すると、入れ替わったミラージアが、私に襲い掛かってきた。 【バシッ!!バシッ!!バシッ!!】 「うっ!!あぅっ!!んあっ!!」 (あうっ!!ぐっ!!いたっ!!) 先ほどまで、攻撃の手を休めなかった私は、息が上がり、苦しさからフラフラとしている状態。 そこをかなりキレのいい攻撃で責め立てるミラージア。 怪獣の手はかなり分厚くできているため、相手の生の手が当たるよりは固くはないが、衝撃が伝わり、それなりの痛みは感じる。 また、私を包んでいるスーツは、それ程厚いものではないので、その衝撃はかなりダイレクトに伝わるのだ。 (うぅ…結構…痛いよ…。でも…頑張らなきゃ…) 直当ては初めてで、結構な痛みを感じる。 しかし、希枝さんはいつもこれでやっている訳だから、代役の私も同じようにやるしかない。 先ほどの最後の攻撃が背中に加えられ、屈みこんだ私をミラージアが引っぱりあげる。 (うぅっ!!) 【バシッ!!バシッ!!バシッ!!】 「うっ!!くっ!!あぁっ!!」 (あぅっ!!ぐっ!!んうぅっ!!) 引っぱり上げられると直ぐに、お腹に攻撃を連打される。 もちろんアクターである以上、やられの演技もしっかりリアクションを取らなければらならない。 このやられのリアクションが、見た目より体力を奪うのだ。 直当てによる痛みもさながら、このリアクションにより、私の体力も追い込まれていく。 【バシッ!ドフッ!バシーーン!!】 「うぅっ!!あぁっ!!うあぁぁぁぁぁぁ!!」 (うぅっ!!あぅっ!!痛いっ!!) 攻撃を受け、うずくまる。 しかし、すぐにミラージアに掴まれ立ち上がらされ、すぐさま攻撃が仕掛けられる。 【バシッ!!バシッ!!】 「あぅっ!!うぅっ!!」 (んうぅっ!!あぅっ!) 打撃を入れられ屈んだ瞬間、ミラージアに体を掴まれた。 すると、次の瞬間、体が宙に浮き上がった。 (え!?) 【ドスン!!】 「きゃぁぁぁぁ!!」 (ううぅぅっ!!!) 体を抱え込まれ、そのまま巻き投げされ、床に叩きつけられたのだった。 床に叩きつけられた体が、その勢いで少し弾む。 「げほっ!!げほっ!!」 あまりに思い切り打ち付けられたので、つい咳き込んでしまった。 (痛い!!痛いよぉぉぉ!!) すると、直ぐにミラージアが床に横たわる私の元へと近寄ってきた。 その次の瞬間である。 【ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!】 「うぅっ!ぐっ!!あぅっ!!」 (うぅっ!!あうぅっ!!うぐっ!!) ミラージアが私のお腹を思い切り踏みつけてきたのだ。 その痛みに、体がくの字に折れ曲がる。 (うぅっ!!ほ…ホントに…痛い…) お腹を隠すように、体を丸め込んだ。 しかし、そんな私を休ませるはずもない。 (あぅっ!!) 直ぐに引き起こされ、再び攻撃が続けられた。 【バシッ!!バシッ!!バシッ!!】 (あぅっ!!ぐふっ!!うわぁぁぁ!!) もうされるがまま、私は攻撃を受け続ける。 動き続け、やられ続け、私は本当の痛みと、酸欠に包まれる。 更には、このコスモマンセリアの衣装により、恐ろしい程の暑さに見舞われ、意識も朦朧とし始めている。 もう、フラフラと足元がおぼつか無いのは演技ではない。 実際に、立ち上がる力も入らない。 そして、目線すらも、どこを見ているのか分からないくらいに成り始めていた。 (はぁっ!!はぁっ!!息が!息がっ!!もたない!苦しい!!苦しい!) しかし、そんな私を他所に、攻撃の手は休まる事は無い。 そして、限界を迎える私とは打って変わり、ミラージアという怪獣は、チェンジをする事で、体力が万全のアクターへと変わり続けるのだった。 相手は次々と変わっていく…。 しかし、やられる私は変わらない。 一方的に嬲られ続けるのだ。 (はぁっ!!はぁっ!!ううっ!!あぅっ!!あぁぁぁぁ!!) (うぐっ!!お願いっ!!ううっ!!ちょっと…ぐっ!!休ませ…あうっ!!休ませてぇぇぇぇぇ!!) そして、代わるがわる登場する怪獣に私は嬲られ続けた。 もう動く事も無理だと感じるくらいに、私の呼吸は限界を迎え、体温も恐ろしい程に上昇している。 衣装内に溢れ出る私の汗も、どこからか漏れ出ているのではないかと思うくらいの量が噴き出ている。 本当にこんな事を、希枝さんがやっているのかと疑ってしまうくらい、私の体は限界を迎えていた。 (あぅ…もう…もう…ムリ…。きつい…きつい…もう…ムリィィ…) もう体を起こす力さえもないという程に、叩きのめされた。 暑さと酸欠から、意識が朦朧とし始めている。 それでも、どこか、希枝さんの代役として、仕事を全うしなければという責任感と、アクターとしての意地が、何とか意識を繋ぎとめていた。 「まだ…まだ…諦めない…」 セリアのセリフがそう入ったが、そのセリフに反応する気力も残っていない。 フラフラとしながらも、なんとか体を起こし、立ちあがろうとする素振りを見せるのが、やっとの状態だった。 「フン…それでも諦めないというのなら、絶望を味合わせやる!!」 ボスのそのセリフが入ったと同時にミラージアが私に掴み掛かり、そのまま私を投げ飛ばした。 「うわぁぁぁぁぁ!!」 【ゴロゴロゴロゴロ】 (きゃぁぁぁぁ!!) されるがままに投げ飛ばされた私は、力なくステージの最前面で横たわった。 (うぅ…もう…ムリ…) そう思い、仰向けに横たわりながら、ステージの上を見上げていると、私の視界に映り込んで来るものがあった。 (うそ…) 私の視界に飛び込んで来たもの…。 床に横たわる私。 その上方に、私の視界を覆う様に映り込む、ミラージアの巨体。 その巨体はみるみるうちに私の方へと落ちて来たのだった。 【ドスン!!】 「ううぅっ!!」 ミラージアが私にボディプレスを仕掛けて来たのだった。 そのボディープレスの、あまりの衝撃に、つい声が漏れてしまう。 アクターとしては、どんな状況であれ、声は出してはいけないのだが、私に襲い掛かったその衝撃には、本能的に呻き声が出てしまった。 「ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」 その衝撃で、咽てしまい咳き込んでしまう。 (うぐっ!!息がっ!!息がっ!!息がっ!!) ただでさえ、もう動く事も出来ないくらいに消耗しきった状態。 そこに加えられた、ボディープレスは、恐ろしい程に私を追い詰めた。 もう、何が何だか分からない。 苦しいやら、痛いやら、暑いやら、様々な苦境が私に降り注ぐ。 (もうっ!!もう…ムリっ!!死んじゃう!!死んじゃうよぉぉ!!こんなのぉぉぉ!!) もう動く気力もなく、床に転がり続けていると、悪役の星人たちが私の傍に近寄って来た。 (んぅっ!!何!?何!?何をするの!?) そんな無抵抗の私に星人たちは、私の体を横向きにし、両手を取ったかと思うと、背中側にその手を回し、私の両手を拘束したのだった。 恐らくベルトのようなものであると思われるが、私から見る事は出来ない。 そして、間髪を置かず、直ぐに両足も両足首に拘束具を取り付けられ、一つに纏められてしまった。 (何!?何!?動けない!!) 両手両足を拘束され、まともに動くことすら出来なくなった。 「よし、取り押さえろ…」 ボス星人がそう言うと、手下の星人の一人が、仰向けに横たわる私に跨ってきた。 (んぐっ…) 腹部に乗っかられ、圧迫するように私の動きを更に封じる。 そして、もう一人の手下の星人が、私の頭側に回り込み、頭部をしっかりと掴みこんだ。 (う…動けない…) 動かせるのは一つに纏められた足のみ。 その足を多少バタつかせるのが、私に残された動きだ。 すると、ボス星人の声が聞こえてきた。 「さて…コスモマンセリア…。貴様に絶望と恐怖を与えてやろう…」 声は聞こえるが、私の頭部はしっかりと固定されていて、見えるのは、真上だけ。 何が起きているのかが、さっぱり分からない。 しかし、セリフからするに、何か良からぬ事が起きる事は感じられる。 「さあ、コスモマンセリアよ…。この攻撃の恐ろしさ…存分に味わうがいい…」 ボスのそのセリフが聞こえた時だった。 私の視界に、ボス星人の姿が映りこんだ。 (え!?何!?) 私の真上に姿を現したボス星人。 その手に持たれているものに、理解が追いつかない。 (な…何??そ…それ…ろ…蝋燭!?) ボス星人が手にしているもの…それは、私の知識の中では、蝋燭という言葉が一番近いものだった。 しかし、私が知っている蝋燭は、もっと細く、誕生日の時のケーキなどに使用されるもの。 ボスの手に持たれているそれは、かなり太く、今までに見たことのないサイズだった。 しかし、確実にその頂点には火が灯され、蝋燭と呼ぶのがふさわしいものだ。 そして、その蝋燭が傾けられた瞬間だった。 【ポタポタポタ…】 その太い蝋燭から、私のマスク目掛けて液体が落ちてきたのだった。 (え!?何??何?何?) かなりの量の液体が、私のマスクに降りかかる。 頭をがっちりと固定された私に、その液体から逃れる事は出来ない。 その液体が私のマスクの口元に大量にかかってきた。 その液体は、マスクの中にまでは侵入してこない。 マスクの口元で止まっている。 マスクの口元で止まっている?? 蝋燭から垂れてきた液体?? そこから想像できる答え…。 (ろ…蝋…って事…だよね…) その蝋が今、私のマスクの口元に降り注がれる。 そして、蝋は直ぐに固まるもの。 つまり、口元に留まる蝋は…マスクの口のスリットを塞ぐのだ。 内部はピッタリとしていて空間のないマスク。 口元のスリットが蝋で塞がれたことが、あっという間に実感されてくる。 先程までの呼吸よりもあからさまに、マスク内の空気が籠って感じられ始めた。 (うそ…うそ…うそ…口の穴塞がれたら…息が…息がしにくくなる!!) 今、行われた行為の恐ろしさに気が付いてしまう。 (いやぁぁぁぁ!!!嘘でしょ!!そんなっ!!そんなっ!!息が出来なくなるぅぅぅぅ!!) 体は抑えつけられ、頭もがっちりと固定されている。 私は、唯一動かせる、足をバタつかせながら、必死に藻掻き始めた。 (いやぁぁぁぁ!!ムリィィィ!!苦しい!!苦しい!!) 目の穴から入ってくる空気などしれている。 マスク内の空気が籠り、苦しさが私を襲う。 必死にこの状況から逃れようとするが、拘束された私は、全く抵抗が出来ない。 ひたすら足をバタつかせ暴れるが、上半身はビクともせず、まるで状況は変わらない。 すると、再びボス星人の声が聞こえて来た。 「さあ…コスモマンセリアよ…次は…この攻撃がどこに加えられるか…?分かるかな??」 口元に垂らされ、塞がれた口のスリット。 更に与えられると宣告された、同じ責め。 次にどこに蝋を垂らされるか…? その選択肢として、考えられるのは一つ。 マスクに残された、【目の穴】。 その事実に一瞬で気が付き、ボス星人の言葉に体がビクッと反応してしまう。 (うそでしょ…そんな…目の穴…塞がれたら…ホントに息が出来なく…なっちゃう…) そう思うものの、目の前に映るボス星人は手に持った蝋燭に大量の溶けた蝋を溜め、こちらを見下ろしている。 その雰囲気には、冗談やおふざけの気配はなく、むしろ恐怖を感じさせる空気を漂わせている。 (うそ…うそ…そんな…そんな…そんな…やめて…やめて…やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!) その空気が本物だと察した私は、必死に足をバタつかせ、この場から逃げようとした。 しかし、どれだけ足をバタつかせようとも、抑えられた体はビクともしない。 (いやぁぁぁ!!そんなの!!ホントに死んじゃうぅぅぅぅ!!いやぁぁぁぁ!!) しかし、そんな必死な私を他所に、ボス星人はゆっくりと私のマスクの上に蝋燭を動かして来た。 「さようなら、コスモマンセリア…」 ボス怪人はそう言いながら、手に持っている蝋燭を傾けた。 (いやぁぁぁぁぁぁぁ!!) 【ポタポタポタ…】 ゆっくりと降り注ぐ蝋が、私の目を目掛けて降り注いで来る。 そして、マスクへと到達した蝋が、あっという間に固まり始め、私の視界を完全に奪って行った。 視界が塞がれたという事は、つまり、完全に私の呼吸口が無くなったという事を意味する。 ただでさえマスク内は空気が籠っていた。 目の穴が塞がれた事で、全く空気が出入りする事が無くなり、自らが吐き出した空気に動きが無い事が感じられる。 「んんんんぅぅぅぅぅ!!!」 あまりのパニックに、つい呻き声をあげてしまう。 アクターとして、着ぐるみを着ながら声を出す事はご法度な事だが、もう、本能的に発してしまった呻き声だ。 (いやぁぁぁぁ!!ホントにっ!!ホントにっ!!息が!!息が出来ない!!死んじゃう!!死んじゃうよぉぉぉぉぉ!!) そして、暫くすると私を抑えつけていた手下の星人と、頭を掴んでいた星人の手が外れた。 抑えつけは無くなったものの、拘束された手足は変わっていない。 目の穴と、口のスリットを塞いでいる蝋を取りたくても、拘束された手では、そこを触る事すら出来ない。 「んうぅぅぅぅぅ!!んうぅぅぅぅ!!」 (いやぁぁぁ!!苦しい!!苦しい!!息が出来ない!!出来ないよぉぉぉ!!) 私は叫び声に近い呻き声をあげながら、体をのたうち回し始める。 しかしどれだけ、暴れようと、状況は打開されない。 むしろ、激しく暴れれば暴れる程、呼吸は乱れ、苦しさが一気に増してくるのだった。 「んうううぅうっ!!うううぅぅぅっ!!うぅっ!!うぅっ!!んうぅぅぅぅ!!!」 (苦しいっ!!苦しいっ!!もうっ!!ムリィィィィ!!死んじゃう!!死んじゃうぅぅぅ!!) イモムシのようにゴロゴロと床で暴れ続ける。 しかし、マスクの中の空気は一切、変わりはしない。 次第に、マスク内の空気を吸っても苦しいとしか感じないようになり始めた。 「んううううっ!!ううううぅぅぅぅ!!うぅぅうっ!!うぅぅうっ!!」 (いやぁぁぁ!!死ぬのはいやぁぁ!!苦しい!!苦しい!!) それでも何とかしようと、マスクを床に擦り付ける。 そうすれば、蝋が取れるのではないかという、僅かな期待。 しかしどれだけ、マスクを床に擦り付けても、まるで蝋が取れる気配がない。 「んうぅぅぅぅ!!うぅぅぅぅぅうっ!!うううっ!!」 (ムリィィィィィ!!もうムリィィィ!!助けてっ!!助けてェェェェ!!) そして、私に襲い来る苦しさが、【死】という恐怖へと変わっていく。 もう、あまりの恐怖とパニックに、何かを考える事など出来なくなっていた。 「んうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 (いやぁぁぁぁぁ!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!いやぁぁぁぁ!!) もう自らの意志とは関係なく、体がビクンビクンと跳ね始めた。 そして呼吸と思考の限界が訪れた。 「んううううううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」 (いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!) 体が今までにない位、大きく仰け反り、その場で一瞬静止した。 (…ぁ…ぁ………ぁ………) その瞬間、私の意識はプツンと途切れた。 ・・・ その後、意識を取り戻した私は、閉店するまで、ステージ上で横たわり続けるのだった。 目と口のスリットは、再び開けられ、呼吸は取り戻した。 しかし、衣装は着たまま、ダウンライトに照らされ続けている。 かなり高温の店内。 ウエットスーツの衣装は、私をかなりの暑さに追い込む。 しかし、やられたヒロインは、閉店までそこに残るのがルール。 私はただひたすら、その暑さに苦しめながら、時を過ごすのだった。 かろうじて呼吸は出来るものの、恐ろしい程の暑さに意識は朦朧としていた。 先輩の希枝さんは、いつもこんな事をやっているのだろうか…。 こんなに苦しい事を…。 こんなにきつい事を…。 しかし、こうして、未だ暑さに苦しめられ続けているというのに、私は思ってしまった。 もう一度、このステージに立ってみたいと…。 ---------------------------END------------------------------------------

ヒロピンクラブ Side Story 【巨大ヒロイン編】 ~ 真衣 Side ~

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