※本作品はpixivで公開した、着ぐるみ配信サイト【知られてはいけない恋】のアフターストリーとなります。本編をお読みいただいた事を前提にしておりますので、詳細等が省略されております。 本編を一読頂いたあと、お楽しみ頂けると幸いです。 ・・・ ここは【フューチャーシティー】というテーマパーク。 その中の一つのアトラクション【スペースツアー】というアトラクションで私は働いている。 私こと【今坂 茜(いまさか あかね)】は、このアトラクション内で、【フラム】という着ぐるみキャラクターの中身を操演している。 【フラム】のマスクは普通の女の子の顔をしており、アニメのキャラクターショーで出てくるような可愛らしい顔である。 そして体は全身を覆う肌タイツに、ニーハイの白い光沢のあるストッキング、二の腕まで伸びるロング手袋、体は白いハイネックのハイレグレオタードという衣装である。 まあ…装飾物があまりなく、私のボディラインをはっきりと晒している衣装である。 このフラムというキャラクター、簡素なデザインの割りには、そこそこ人気があり、それなりに有名になった。 スペースツアーは、お客がカプセル型のライドに乗り込み、宇宙空間を小旅行するという内容のアトラクション。 私はフラムになり切り、その旅の案内役として出演している。 そして、このアトラクションを支える重要なスタッフが【大隅 翔(おおすみ しょう)】さん。 翔さんが、このアトラクションの機械オペレーターで、全部の進行を操作しているのだ。 翔さんと私は、同じアトラクションで働く仲間ではあるが、【表向き】、翔さんはフラムの中身が私だという事は、知らない事になっている。 フラムの中身については、テーマパークの一部の人間しか知らない事で、着替えも専用の部屋があり、出勤時も他の従業員とは別のルートで入る事になっている。 なので、翔さんと会うときは、私はいつも、既にフラムになった後なのだ。 フラムの中身については、パーク側も徹底して隠している。 しかし、何故、【表向き】なのか…?? それは、過去に起きた事件に遡る。 ある機械トラブルがきっかけで、私は翔さんの前で、マスクを外す事になった。 そして、その時点で、既に人間として知り合っていた私達は、お互いの気持ちを知り、付き合う事になったのだ。 しかし、プライベートでは、彼氏彼女の関係になったものの、職場でそういう訳にはいかない。 パーク側の目もあるので、パークにいる時は、翔さんは【フラムの中身は知らない】というスタンスになっているのだ。 そして、今日は機械メンテンナスのため、三日間、アトラクションがお休みになっている初日。 アトラクションはお休みなのだが、私はここに来ていた。 ここは、普段、フラムの待機する場所で、私と【秋元(あきもと)さん】、あと着替えを手伝ってくれる女性スタッフしか入れない。 秋元さんというのは、このアトラクションの責任者の女性で、男性にも引けを取らないグイグイ感のある人だ。 ちなみに着替えは、その隣にある部屋で行われる。 フラムの中身を知っている人間しか入れないエリアなのだ。 「今坂さん、ちょっと新しい演出を考えてて、今日はその為に来てもらったのよ」 そう私に話しかけるのは、このアトラクションの責任者である秋元さんだ。 「そうなんですか。それで、新しい演出というのは何ですか?」 「まあ、まだ試してみて行けるかどうか…という所なんだが」 「なんでも、協力しますので、言って下さい!!」 私は、常に秋元さんには協力的だ。 この人に良くしてもらっているから、この職場で、居やすいというのもある。 「そう言ってもらえると嬉しいわ。それじゃあ、説明するわね。まず、キャラクターを一体増やそうと思うの」 「キャラクターを増やす??」 「ええ。理由は、リスク回避のためね」 「リスク回避??」 「この前、今坂さんが高熱を出した時、フラフラになりながらもフラムを演じてくれたでしょ?」 「あ…はい…」 確かに先日、高熱を出していたが、フラムの代わりはいないので、私は意識が朧ながらも、なんとか仕事をこなしたのだった。 「そう考えると、やはり、フラムの一人体制はリスクが高いので、フラムの代わりを出来る人がいないと…と思ってね」 「た…確かに…そうですね…」 少し複雑な心境である。 フラムを演じ続けてきたのは私なので、他の人がフラムを演じるというのを考えた事も無かった。 他人がフラムになるのは、少し寂しい感じもするが、秋元さんが言うとおり、私が倒れた時、パーク側が困ってしまうというのは事実である。 「そう思って、キャラクターを二体にして、キャストが二人いれば、最悪、一人が体調不良になっても、キャラクター一体バージョンでアトラクションを動かせばいいでしょ」 「そ…そうですね…」 「という事で、もう一人、フラムの中身をお願いする人をお願いしたの。【美杉(みすぎ)さん】入って」 【ガチャ】 「おはようございます!美杉と申します!よろしくお願いします!」 扉が開き、入って来た女性。 それは、私と同じくらいの年の子で、見た目は可愛く、ものすごく活気がある感じで、好印象だ。 「今坂さん、彼女が美杉さん。知り合いのルートで、キャラクターショーの事務所に依頼して、来てもらったの」 (キャ…キャラクターショーの事務所…。って事は、着ぐるみのプロだ…) 私はここの専属なので、キャラクターショーなどはやっていないが、着ぐるみの仕事をしていると、やはり、キャラクターショーの事は気になるので、色々と知っている。 「今坂さんと、身長体重、スタイルもほぼ近しい人選でお願いした上、今坂さんのフラムの映像も、しっかりと見て研究してきてもらっている。本物のプロだから、心配しなくていいわ」 「ちょ…ちょっと…秋元さん…そんなハードル上げられると、困りますよ…」 そう言いながら、褒められた事に照れる美杉さんの仕草が、とても可愛く映る。 そして、よくよく美杉さんを見ると、確かに身長も私と同じくらい。 Tシャツから伸びる腕の細さや、大体の長さのバランスも、私と同じ雰囲気だ。 「それで、今日は、アトラクションがお休みなので、その間に色々、試してみようと思ってね。美杉さんにはフラムになってもらって、今坂さんには、新キャラ候補の衣装を試して貰おうかと」 「はいっ!!分かりました!頑張ります!」 秋元さんの言葉に、気持ちよく返事をする美杉さん。 「分かりました。私は新キャラですね。頑張ります」 「うん。二人ともよろしく。それじゃ、まず、美杉さんのフラムからドレッシングを始めようか」 「はい!」 そうして、着替えを手伝ってくれるスタッフと美杉さんは、着替え部屋の方へと入って行った。 ・・・ そして、暫くすると、着替え部屋の扉が開いた。 【ガチャ】 (あっ…) 扉の向こうから【フラム】が入って来たのである。 私はそのフラムの姿に見惚れてしまった。 何故なら、そこにいるのは紛れもなく、いつものフラムだったのだ。 自らがフラムになった姿は、着替え部屋で何度も鏡で見て来た。 そのフラムと瓜二つのフラムの姿…。 体型も自身が見分けがつかないくらい、同じ雰囲気のフォルム。 そして、自分だから余計分かるが、そこにいるフラムの仕草は、私そのものの仕草なのだ。 何とも言えない不思議な感じだ。 私はここにいるのに、目の前に私が着たフラムがいるのだ。 鏡を見ているかのような感覚だが、私はフラムに身を包まれていない。 つまり、そこにいるフラムは私ではない。 (…はっ!?…そ…そうだった…このフラムは…美杉さんなんだ…) 我に返り、事実を思い出す。 すると、フラムの横にいた秋元さんが口を開いた。 「どう??今坂さん??美杉さんのフラムは?」 「は…はい…お…驚きしかありません…。こんなに…私…そっくりなんて…」 「さすが、プロのスーツアクターってところかしら」 秋元さんがそう言った瞬間、フラムは照れる仕草をした。 その照れ方もまた、私の仕草そのもの。 「ほんとに…プロのスーツアクターさんって凄いんですね…。仕草とかも、自分で鏡を見てるみたいです…」 「本人がそう言うなら、お客には違和感はないだろうね」 「はい…恐らく」 (これは、分からないよ…。SNSに流れても気付く人いないと思う…) そう思いながら、再びフラムに視線を戻す。 改めて見ても、本当に瓜二つ。 身長はもちろん、手足の長さ、そして、肌タイツとレオタードにより強調されたボディラインも、私そのものだ。 (ホント…凄い…) 「さて、美杉さんのフラムはオッケーとして、今度は、新キャラの着替えに入ろうか、今坂さん」 「は…はい…」 美杉さんのフラムに見惚れてしまっている場合ではない。 今日は、私は新キャラの衣装を着て、色々とテストしなければならないのだ。 すると、いつもの着替えスタッフに加えて、もう一人スタッフらしい女性が現れた。 「あっ、彼女は造形のスタッフさん。初めての衣装なので、いろいろと世話をしてもらおうかと思って」 「は…はい…。よろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 挨拶をすると、造形スタッフの女性が挨拶を返してくれた。 「じゃあ、よろしく」 そして、私は二人のスタッフに連れられて着替え部屋へと入って行った。 【ガチャ】 (え!?な…何…これ!?) 着替え部屋に入ると、私の目に、見た事も無いものが飛び込んで来た。 着替え部屋の真ん中になにやら、白く長い物体が横たわっている。 棒のような長細い物体。 その真ん中部分はファスナーになっており、ぱっくりと縦に開いている。 (ファ…ファスナー…!?ん??って事は…これが…着ぐるみ!?) そこに転がっている異質なものに驚いていると、着替えスタッフが私に声を掛けて来た。 「今坂さん、これが今日、あなたに着てもらう衣装です」 (や…やっぱり…) 確かに、普段この部屋に無いものであり、今日、新しいキャラの着ぐるみを着てみるという事実を考えてみれば、ここに転がっているものが、私の着る衣装だという事は明白。 そう思って、そこに転がる衣装に近づき、しっかりと見てみた。 それは、長細く白い、トカゲと言うかサンショウウオのような生き物のようだ。 頭部をみると、昔、話題になったウーパールーパーという生き物に近い感じ。 そして、その頭部のすぐ下に小さな前足のような物が生えている。 体の側面からは、小さな後ろ足のような物も生えており、なんとも不思議な造形だ。 「このキャラ…可愛く…はないですね…」 私は思うがまま、感じた言葉を口にしてしまった。 すると造形スタッフの女性が返答をした。 「そうですね、ストレートな可愛さはないように作りました」 「あっ!?」 これを作った人がいて、ここに来ている女性が、関わっているという事を考慮しない発言をしてしまった。 「いいんですよ。そう思って貰えるのが狙いですから。秋元さんからのオーダーで、気持ち悪さから来る変な可愛さを求められましたから」 「そ…そうなんですか…」 「何か変な生き物だけど、どこか癖になる…そんなイメージですし」 「た…確かに…そんな感じします…」 すると着替えスタッフが言った。 「さて今坂さん、着替えに入ってもらいますので、まず、全身タイツに着替えてください」 「は…はい…」 そして、私は手渡された、黒い全身タイツに着替えた。 「それでは、着ぐるみを着てもらう前に、これを咥えてください」 「はい」 着替えスタッフから、何やらマウスピースのようなものを渡された。 そのマウスピースの真ん中からは長細いチューブが伸びている。 そして、言われるがまま、私はそのマウスピースのようなものを口に入れ、軽く歯で挟み込むように咥え込んだ。 (ん…咥えたけど…ほとんど咥えてる感じはしないな…) 思ったより薄く出来ているようで、顎を開き続けているようなものではないようだ。 「それは、センサーがついていて、今坂さんが歯で噛みしめると、着ぐるみの前足が動くように出来ています。軽く嚙んで見てください」 「ふぁぃ」 それを咥えているせいで、まともな返事は出来なかった。 そして、言われた通り、軽く噛んでみた。 (あっ!?) すると着ぐるみの小さな前足が、チョコチョコと動き始めたのだ。 (す…凄い!!) 「センサーは問題なさそうですね。それでは強めに噛んで見てください」 「ふぁぃ」 そして、言われた通りグッと噛みこんでみた。 (あっ!?) すると、着ぐるみの両手が小さくバンザイをするように両手を上に上げたのだった。 「うん、問題ないですね」 どうやら、このマウスピースのようなものを噛む強さで、着ぐるみの手の動きが操作できるギミックのようだ。 「それでは、操作ピースが誤って口から出ない様に、このマスクを付けます」 そう言って、着替えスタッフが取り出したのは、ラバーのような素材でできたマスクだった。 「んぎゅ」 そのマスクは私の顔の方から装着され、口元を覆い、頭の後ろで固定された。 口から頬を少し圧迫するように、そのマスクを付けられ、少し声が漏れてしまった。 (た…確かに…このマスクを付けていれば、顎もこれ以上開かないようになるから、口から物が出る事は無いな…) マウスピースが落ちないように、ずっと軽く噛んでいなくても良いという事だ。 裏を返せば、私の顎は少し噛む以外に動かす事は出来なくなったという事。 もう、言葉を喋る事は出来ず、呻き声を上げるくらいしか出来ない。 「さて、着ぐるみの着用に入ります。着ぐるみの背中に、体が一直線になる様に、うつ伏せに寝てください。あっ両腕は、体に沿わしたまま真っ直ぐに」 「うぃ…」 もう返事すら、言葉にならない。 私は言われるがまま、着ぐるみのパックリと開いた背中の部分に、体が真っ直ぐになる様に身を埋めて行った。 そして、頭が着ぐるみの頭部に入ろうとした時だった。 「ちょっと待ってください。操作ピースから延びるチューブを処理しますので」 そう言った着替えスタッフが、私の口から延びるチューブを着ぐるみの穴へと挿し込んだ。 「それじゃあ、ゆっくりと頭部を着ぐるみに入れて行って下さい」 私は言われた通り、ゆっくりと着ぐるみの頭部に頭を沈めて行った。 すると、口から伸びるチューブはそのまま着ぐるみの中に刺さり込んで行った。 それと同時に私は、着ぐるみの中に完全にうつ伏せの状態で寝転んだ。 「次は、後ろ足になりますので、手を触りますね」 (ん!?手??) 疑問に思っていると、私の手首が取られ、何かに入れ込まれていく感触があった。 それは両手に伝わって来て、両手手先が固定された。 「今坂さんの両手は、着ぐるみの両後ろ足に入っていますので、手を動かせば、キャラの後ろ足が動くようになっています」 (キャラの後ろ足に?) とは言え、先程、外から見た時のキャラの両後ろ足はかなり小さかった。 つまり、着ぐるみの両足に入っているのは、私の手首から先だけだろう。 「よし、準備は整いましたので、ファスナーを閉めます」 【ジーーーーーーー】 実質、この状態で、私の頭部は既に着ぐるみと繋がっている。 そして、両手も繋がっているので、上体を起こす事も出来ない。 着替えスタッフの進めるがまま、任せるしかない。 (ん!?この衣装…結構…締め付けが…) ファスナーを閉じられていくと、段々と着ぐるみの衣装の締め付け感が私に伝わってくる。 見た目の雰囲気とは違い、中は体全体が結構、締め付けられる感じだ。 そして、ファスナーは頭部を閉め始める。 次第に外界の明るさが無くなって行き、入ってくる光が覗きの部分だけからとなる。 (頭部も…結構…ピッタリ…してる…) 見た目の頭部はもったりとして、かなり大きい感じだったが、着ぐるみの中は想像以上にピッタリとしていて、余分な空間は無い。 ほとんど、着ぐるみの頭部の内壁が、私の頭部に張り付いている状態だった。 「これで、ファスナーは閉め終わりました。ここからは造形スタッフさんの出番です」 「分かりました。今から、ファスナーが分からないように隠してしまいますので、暫く動かないで下さい」 (ファスナーを隠す??) すると、私の背中で造形スタッフが何かの処理を始めたのだった。 とにかく言われたまま、私は動かないでいるしかない。 すると、着替えスタッフが、その説明をしてくれた。 「常に背中側を晒してしまいますので、ファスナーが目立ってしょうがないのです。そこで、ファスナーの上から、別のパーツを貼り付けて、ファスナーを隠す仕様になっています」 (そ…そういう事か…) そして、暫くして作業は完了した。 「よし、オッケーです。もう動いて貰っても大丈夫です」 どうやら処理は終わったようなので、私は言われた通り体を動かしてみた。 (ん!?…あれ…これ…ほとんど…動けない…) 体を真っ直ぐに伸ばした状態。 両手は体に沿わしたまま、真っ直ぐに伸ばし、両手首から先は、着ぐるみの後ろ足の中。 (よ…よいしょ…) 体を転がし、一旦、仰向けになる。 そして、腹筋をするように体を起こすそうとする。 (んうぅ…あっ…ムリだ!!) 思ったより、着ぐるみの素材の弾力性があるのと、体に添わした両手の影響もあり、完全に体を起こす事が出来ず、再び寝転がる。 寝転がった状態でウネウネと動く事は出来るが、逆にそれくらいしか動く事が出来ない。 (こ…これ…かなり動くの厳しいんじゃ…) そう思いながら、着替えスタッフの方へと首を向けようとすると、予想を反して、しっかりと首がその方向に向いた。 体と頭が完全につながった造形だったので、首は動かないと思ったが、何故かしっかりと動く。 (え??なんで??) するとその疑問に答えるように、造形スタッフが言った。 「首の付近だけ、特別に柔軟で伸縮性のある素材を使用しています。そして、頭部の中は頭をしっかりと固定するサイズに作られているので、中身の方が頭を動かせば、着ぐるみの頭部も追従する仕組みとなっています」 (そ…そういう事なんだ…) 「あと、後ほど、ワイヤーで吊る仕様になっていますが、この着ぐるみは、特殊な素材で出来ているのと、構造上、三点で吊り上げると、体圧が綺麗に分散し、体に負担が掛からないように出来ています。それ故、長時間吊って居られるように出来ていますのでご安心を」 (え??ワイヤーで吊られる??そ…そうなの…??) そんな状況は聞いていなかったが、フラムもワイヤーで吊られるだから、充分に考えられる状況だ。 「これで、完成ですので、待機部屋へ戻りましょう」 そして、私は台車の上に乗せられ、待機部屋と戻って行くのだった。 【ガチャ】 「おおぉっ!!」 私が待機部屋へ戻ると、秋元さんが歓声を上げた。 首を上げて上を見ると、フラムも、驚いたような仕草をしていた。 「予想以上の出来ね。うん…これは…可愛……くないな…」 (秋元さんがそう言うの!?) プロデュースした本人が、可愛くないと発言する。 私ではどうしようもない事だが、何やら、変なショックを受ける。 「しかし、これが狙いなのだから、完璧。可愛くないから来る、中毒性のある造形!それが今回の狙いなのだから!」 (ほ…ホントに…大丈夫かなぁ…) 「よし、それじゃあ、アトラクションのほうに移動して、色々テストしてみよう」 そして、私達は、アトラクションの行われるスペースへと移動していった。 自ら前に進む事の出来ない私は、台車に乗せられたまま、アトラクションの方へと入って行った。 すると、そこには翔さんの姿があった。 「おはようございます!」 秋元さんに挨拶をする翔さん、そして、その目線はそのままフラムの方に移る。 「おはよ、フラム。今日も相変わらず可愛いな」 翔さんがそうフラムに言うと、フラムは少し照れるような仕草をした。 そのやり取りに、何か複雑な心境が漂う。 もちろん、今日の新キャラのテストの件、フラムの中身と新キャラの中身の事は翔さんは知る由もない。 新キャラの中に私が入る事も、私だってさっき聞いたばかりだ。 つまり、翔さんは、美杉さんの演じるフラムの事を、私が中身だと思っているだろう。 翔さんが可愛いと言った相手は、私ではなく美杉さんなのだ。 そして、翔さんの目線が下を向き、私の方に向けられる。 「おっ!これが、新しいキャラ候補ですか…。う~ん…可愛……くはないですね…」 (うぅ…それはそうなんだけど…言葉にされると…なんか辛い…) 彼氏である翔さんに、可愛いと言われた美杉さんのフラム、そして可愛くないと言われた私のキャラ。 外見上のものだから、私にどうしようもないのだが、少しへこんでしまう。 「大隅くんもそう思うかい?それなら、とりあえずは成功だな」 「成功??なんですか??」 「そうとも。 可愛くないから来る、中毒性のある造形、それを目指したんだから」 「そ…そうですか…。そう言われれば、そんな風にも見えてきますね…。で…このキャラの中にも、人が入ってるんですよね??」 「もちろん、操演者が入っているよ」 秋元さんがそう言ったので、私は人が入っている事をアピールするように、体をウネウネと捩らせた。 「うおっ!!動いた!!ホ…ホントに人が入ってるんですね…」 (そううですよ…人が入ってますよ…あなたの彼女がね…) 確かに、台車の上に乗せられて運ばれてくるのだから、動かなければ、置物に見えるかもしれない。 秋元さんや、フラムの美杉さん、スタッフは、私が着替えた事を知っているから、人が入っているというのは当たり前の事実だが、それを知らない人が見れば、そう感じるのも否めない。 「ん…でもこの着ぐるみ…どうやって動くんですか??見た感じだと、ほとんど自力で動けなそうですが…?」 「それは、このアトラクションならではの話よ。着ぐるみの衣装を三点でワイヤーで吊り上げ、空中浮遊しているような演出にしようと思うんだ」 「そ…そういう事ですか!?それなら、確かにこの造形でも問題ないですね。って事は、基本宙吊りになるって事ですよね??それで、中身の方は大丈夫なんですか?」 翔さんにその質問をされて、自慢げに秋元さんが答え始めた。 「それは問題ないわ。この着ぐるみは特殊な素材で出来ていて、体圧を完全に分散させるように設計されている。なので、長時間吊り上げていても、中身に負担が内容になっているの。そして更には、この着ぐるみの素材は、完全に水も空気も通さない代物。中身のアクターの汗が外に染み出る事は一切ないの。首の部分はかなり伸縮性のある素材を使っているので、首と胴体が一体型の着ぐるみなのに、中身の頭の動きに追従して頭部が動かせる。つまり、頭部での演技も可能なのだよ。どう??なかなか素晴らしいでしょ??」 「な…なんか…凄いですね…。か…可愛くはないですが、衣装が凄い事は分かりました」 「その反応でよし。それじゃあ準備に入るかな…。スタッフの皆さんよろしく!」 そして、設備のスタッフやら、造形スタッフやらが私の元へと近づいて来て、なにやら準備を始めた。 何もする事は無い私は、ただただ、準備が終わるのを待つのみ。 すると、視界の先に翔さんとフラムの姿が映り込んだ。 (ちょ…ちょっと…何…いちゃついてるのよ…) 翔さんとフラムが、何やら楽しそうにコミュニケーションを取っている。 フラムは声を出さないから、恐らく翔さんが話かけ、それにフラムが仕草で返答をする。 普段は私が翔さんとしている事。 何かその光景に、少し嫉妬の心が芽生えてしまう。 翔さんは、そこにいるフラムの中身は今坂茜だと思って接しているのかもしれない。 しかし事実は違う…。 私は、台車の上に寝転がり、ほとんど身動きも取れない着ぐるみに身を包まれている。 翔さんが接しているのは、私ではなく美杉さんなのだ。 自由に動き、可愛らしいフラムとして、翔さんと接している美杉さんと、可愛くないと言われる着ぐるみに身を包み、されるがままにされている私。 何か、変な差が生まれているような気がして、少し悲しくなる。 しかし、今日はこのキャラのテストと、美杉さんのフラムのテスト。 この構図は、致し方のない事なのだ。 (ふぅぅ…) そして、ただ転がって待っているとある事に気が付く。 私の目の周りに汗が流れ落ちて来た。 (ん…この…着ぐるみ…見た目の雰囲気より…結構…暑いな…) 外から見た感じ、とても太い造形ではなく、私のヒップラインが分かってしまうくらいの細い造形だった。 つまり、それ程、分厚く出来ている訳ではない。 その割に、ここまでの時間、身を包まれていただけで、体中の熱気が上がっているのが感じられる。 その瞬間、ふと先程、秋元さんが言った事が頭を過る。 (そ…っか…さっき秋元さんが、完全に水も空気も通さない素材って言ってたっけ…。って事は、巨大ヒーローの着ぐるみみたいなゴムみたいな感じって事だよね。だから…熱も中に籠るんだ…) 薄手の割りに、体が熱くなってきているのはその素材のせいらしい。 何もせずに、ただ準備を待っているだけで、この暑さ。 長時間着ていたら、かなりの暑さになる事が予想される。 タイツにレオタードのフラムとは、正反対のような衣装である。 (ふぅ…暑いな…準備…まだ終わらないのかな…) そうして、ただただ寝転がって準備が終わるのを待った。 暫くして、スタッフの一人が言った。 「よし、準備完了です」 どうやら、ようやく準備が終わったようだ。 「それじゃあ、新キャラを浮かせてみるか」 秋元さんがそう言うと、設備のスタッフが忙しそうに動き始める。 翔さんはあくまで、実際のアトラクションの操作スタッフであり、設備の調整などは専門スタッフが行う。 「オッケーです。上昇させます」 設備スタッフがそう言った瞬間だった。 【ウイィィィィン…】 (あっ!!体が浮き始めた!!) 私に接続されたワイヤーが上方で巻き取られ、私の体が宙に浮く。 背中と腰、膝付近で三点にワイヤーが接続され、それにより吊り上げられているようだ。 (で…でも…ホントに…負荷がない…) どういう構造になっているのか分からないが、この時点では、まるで体をワイヤーで吊り上げられている感覚が伝わってこない。 フラムの時などは、飛行用アーマーで吊られると、アーマーがハーネスとなっており、そのハーネスが体を締め付けて来た。 しかし、現状、体が床から離れているのに、その締め付け感がまるでない。 (す…すごいな…この衣装の作り…) 締め付け感を無くす技術は凄いものだが、実際には、フラムを着ている時、飛行用アーマーで吊り上げられ、締め付けられて快感を感じてしまっている私には、少し物足りなくも感じてしまう。 「いい感じで浮いてるな。それじゃ、前足を動かしてみて」 (前足??そ…そうだ…マウスピースを噛むんだった…) 私はそれを思い出し、軽くギュッとマウスピースを噛みしめた。 「あっ!!か…可愛いかも…」 私には見えないが、どうやら着ぐるみの前足が動いたらしく、それを見ていたスタッフが言った。 「た…たしかに…。うん…キモ…可愛いというか…悪くないな…。そのゆっくりとした前足の動き、全体の雰囲気とミスマッチ感があっていい」 良いとも悪いとも取れるような表現をする秋元さん。 「よし、バンザイしてみて」 (バンザイ??つ…強く噛むんだっけ…えいっ!!) 私は思いっきりマウスピースを噛み込んだ。 「ふふっ。この手を上げてる感じも悪くないですね」 先程、私を見て可愛いと言ったスタッフが、興味深げな表情をしながら言った。 恐らく、先程、着ぐるみを着る前に見たように、小さくバンザイをしているのだろう。 「よし、良い感じだ。さて、とりあえずの意思疎通のために決めておこう。こちらからの質問に【イエス】の場合は、前足をゆっくり動かす。【ノー】の場合はバンザイにしよう。オッケー??」 秋元さんのその質問に、私は軽くマウスピースを噛みしめ、【イエス】を示す前足の動きをさせた。 「オッケーみたいね。それじゃ、造形の確認をするかな…」 すると、秋元さんが私の視界の下へと潜って行った。 その次の瞬間だった。 (んうぅっ!!) 突然、胸を擦られる感触があったのだ。 (な…何を!?) 「う~ん…体圧分散の仕様のせいか、胸の膨らみは分からないな…」 着ぐるみにより体圧分散されているせいで、体の前面は全体的に、潰されているような状態。 つまり、胸は潰れていて、その膨らみは分からないという事だろう。 決して…胸が小さいという事ではない…という事にしておいて欲しい。 しかし、潰された胸であっても、その上から擦られれば、その感触は伝わってくるので、やはり反応はしてしまう。 (もう…秋元さんは…何を確認しているか…) そう思っていると次は別の部分に触れられた。 (ひゃうっ!!) 秋元さんの手が、私のお尻を擦り始めたのだった。 その感触につい、体を反応させ、少しビクッと動かしてしまう。 「うん…お尻は、やはり潰されていないから、中身のシルエットが良い感じで出ているな…」 (え!?そ…そうなの…??) 全体的に細身な造りの衣装だと思っていたが、やはり、私のボディラインが出ているようだ。 (あうんっ…と…とにかく…秋元さん…触るの…やめて…) その私のお尻を優しいタッチで撫で続ける秋元さん。 「この感じ…エロさも醸し出していて、これがまた頭部とのギャップになっていいかも…」 (んぅっ…そんな…エロ…って言わないでよ…) ボディラインが晒されているのは、フラムも同じだが、こうやって言葉にされると、なんだか恥ずかしさを感じる。 しかも、そう言われ、恥ずかしさを感じたとしても、今の私には、それを隠す事すら出来ないのだ。 その秋元さんの手の感触に体が反応してしまい、グッと我慢しようとして、手先が動いた。 すると、その手先が収納された、着ぐるみの後ろ足が動く。 「あっ…後ろ足が動くのも、良い感じですね」 着ぐるみの後ろ足が動くのを見たスタッフが、また興味を示す。 (んうぅ…秋元さん…さ…触らないで…) すると、お尻を擦っていた秋元さんが、とんでもない事を言った。 「うん…確かに…良い反応だ。しかも…この手触り…癖になりそうな触り心地だな…。どうだ??大隅くんも触ってみては??」 (!?ちょっ!!ちょっと!!秋元さん!!な…何言ってるの!!) 秋元さんは私のお尻を触りながら、翔さんに、そのお尻を触って見る事を勧めたのだ。 「な!?何言ってるんですか!!秋元さん!!そ…そんな事出来る訳ないじゃないですか!!」 翔さんは、その提案にドギマギしながら答えた。 「え??なんで??とても良い感触だぞ??」 翔さんの反応に不思議そうな雰囲気を出しながらお尻を擦る秋元さん。 「そ…そんな事言っても…。このフォルムからして、中身のアクターさん、女の子ですよね??み…見ず知らずの女の子のお尻を触れる訳ないじゃないですか!!」 「そうか??」 「し…知ってれば、触っていいって言ってるんじゃないですよ!!と…とにかく、俺が触っていい訳ないじゃないですか!!」 秋元さんのペースに戸惑いながら、翔さんはそう断言した。 「残念だな…。こんなに触り心地がいいのに…」 「ダメなものは、ダメです!!」 全力で秋元さんの提案を拒否した翔さん。 (ふう…さすが…翔さん…。翔さんらしくて…そう言うとこが好きなんだよな…) 秋元さんの提案はぶっ飛んでいたが、それをきっぱりと断る翔さんにホッとしてしまう。 もし、その提案をのんで、お尻を触っていたら、翔さんは中身が誰かも分からない着ぐるみに包まれた女の子のお尻を触る事になるのだ。 実際には彼女である私なのだが、それを知らない翔さんが、触っていたら後で喧嘩ものである。 「まあいい…。とにかく、この新キャラのコンセプトは、キモくてエロ可愛いという所でいこう」 (キモくて…エロ…って…どうなの…それ…) 逃げる事も出来ず吊られて、お尻を触られながら、私は秋元さんに心の中で突っ込みを入れた。 すると、秋元さんはお尻を触る手を止めた。 「よしそれじゃ、三点のワイヤーの調整で、新キャラがどういう動きが出来るかテストしてみよう」 「了解しました」 秋元さんがそう言った次の瞬間だった。 【ウィィィィィィン…】 ワイヤー操作の機械が動き始め、私は空中を前に進み始めた。 (わぁっ…前に進み始めた…) 自らの意志で動くのではなく、機械により操作されているのだが、私の体は真っ直ぐ前に進み始めたのだ。 そして、暫くすると、今度は真っ直ぐ後退。 その次は、前に進みながら、軽く右方向にスイングされ、大きく回る様に曲がった。 (凄い…な…なんだか…飛んでるみたい…) 自らに自由は無いが、まるで、空を飛んでいるような感覚に包まれる。 これが綺麗な鳥か何かの衣装であれば、空を飛んでいるという表現もいいかもしれないが、見た目にはサンショウウオのようなややグロテスクな衣装。 中身の私の感覚とは裏腹に、外から見たら、飛んでいるというより浮遊しているという表現のほうが正しいかもしれない。 「秋元さん、流石に三本同時に動かさないといけないので、スイングだけでも、結構な調整が必要ですね」 「そうか、分かったわ」 すると次の瞬間だった。 (うわぁぁぁぁっ!!) 突然、頭の方が一気に下がり、腰の吊られている部分を支点として、足側が上に上がった。 上半身が一気に下がり、床が一気に私の頭部に近づいて来る。 (きゃあぁぁぁ!!ぶつかる!!ぶつかる!!) 目の前に床が一気に迫る。 しかし、一本の棒のように拘束され、ワイヤーに吊られた私には、自らの自由は無い。 それを避ける事や、防ぐことは一切出来ないのだ。 (きゃぁぁぁぁぁ!!) そして、床が頭部にぶつかると思った瞬間だった。 (!?) 床に向かっていた上半身がピタッと、その動きを止めた。 (ぶ…ぶつからなかった…??) 床のギリギリの所で頭部が止まり、ぶつからなかったと安堵した途端、次は足側が一気に下がり、上半身が上に上がり始めたのだった。 (きゃぁぁぁぁぁ!!) 一気に体勢は逆転し、今度は足側が床の方に垂れ下がる。 足は床にぶつかっていないが、恐らく、私の足の入っていない着ぐるみの尻尾の部分は床についているだろう。 頭部が天井に向かっているので、私の着ぐるみの視界から天井が映る。 (何!?何!?) そして、その動きに驚いていると、再び上半身が下へと下がり始めた。 再び迫りくる床。 (きゃぁぁぁぁぁ!!ぶつかるぅぅぅぅ!!!) 暫く、私はシーソーのように腰を中心に上半身を上下させられ続けた。 私の視界から見える景色は、床…そして天井とグルグルと目まぐるしく変わる。 実際、着ぐるみの視界はあまり良いとは言えないので、その限られた景色だけが動くので、何を見ているのか分からなくなるくらいだった。 そして、一旦、その動きが止まった。 (はぁっ…はぁっ…はぁっ…と…止まった…こ…怖かった…よぉ…) ただ吊られているだけだが、やはり恐怖に体が強張り、体中に力は入るものだ。 何をしている訳ではないが、呼吸が荒くなる。 「だいたい、上下の動きの感じは掴めて来ました」 設備スタッフがそう秋元さんに言った。 「オッケー。それじゃ、他の動きも確認してくれる?」 「分かりました」 すると、再び私の体が動き始め、様々な動きを見せ始めた。 (あぅぅぅぅ!!!怖い!!!怖いよぉぉ!!) (危ない!!ぶつかるぅぅ!!) そして、長時間かけて、色々な動作確認がされた。 その間、私はされるがまま、ただひたすらワイヤーにより弄ばれ続けるのだった。 ・・・【後編】に続く・・・