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大道芸の人形の着ぐるみ After Story 【サーカス編】

※本作品はpixivで公開した、【大道芸の人形の着ぐるみ】のアフターストリーとなります。本編をお読みいただいた事を前提にしておりますので、詳細等が省略されております。 本編を一読頂いたあと、お楽しみ頂けると幸いです。 ・・・ 俺の名前は【磯中 良哉(いそなか りょうや)】。 今日は、両親とサーカスを見に来ている。 年末年始にかけて、俺の住む町に、有名なサーカス団が来ているのだ。 そして、年末年始の休みの中、特にやる事の無い俺は、両親に誘われて、このサーカスを見に来た。 この歳になって、両親とサーカスを見に来るというのも、あまりしない気がするが、実際の所、生のサーカスを見た事がない俺は、興味があるのも事実だった。 「おっ!!父さん、マジで席…ここなの??」 会場に入り、両親に渡されたチケットに書かれた席番に行き、驚きを現してしまった。 「知り合いに貰ったチケットでな、協賛企業らしい。すごいだろ」 父が手に入れたチケットは、まさかの最前列の席だった。 初めてのサーカスだというのに、一番前というこの上ない場所で見られるとは。 そして、俺たちは席に座り、サーカスが始まるのを待った。 開始時刻がくる前、会場を盛り上げるために、ピエロが客席でパフォーマンスをしている。 そのパフォーマンスを見て、お客達は沸き、存分に盛り上がっている。 そんなピエロのパフォーマンスを見ながら、開始時刻を待った。 「会場にお集りの皆さま、大変長らくお待たせいたしました!サーカスの始まりです!」 会場に流れるアナウンスと共に、ステージスペースでサーカスが始まった。 丸い円形のステージを取り囲むようにお客が座っている。 そのお客達の前で、様々なパフォーマンスが繰り広げられる。 空中ブランコに、金属の輪のような物を操るパフォーマンス、バランスを取って物を持ち上げるものなど、どのパフォーマンスも、テレビで見た事はあるが、生で見るのは初めてだった。 (やっぱり、生で見ると、迫力が違うな…) こうして生で見るパフォーマンスに、俺は驚きと凄さを感じる。 テレビ越しで見るのとは、やはり、迫力もそうだが、現実感が伝わり、全く違ったものに映る。 そうして、様々なパファーマンスを客席から、ゆっくりと楽しんでいた。 その面白さに、時間を忘れてしまう程だ。 始まってから、もう既にかなりの時間が経っているはずだが、それを感じさせないくらいに魅入ってしまっている。 そして、ある演目が終わった時だった。 ステージに二人のピエロが現れたのだった。 (ん??あれっ…さっきの会場にいたピエロと違うな…) ステージに現れたピエロは、開始前に会場に現れたピエロとは違うピエロだった。 なにかこう…少し怪しさを醸し出すような雰囲気をもったピエロだ。 その二人がステージの中央まで歩み出て、二人でポーズを切った。 その瞬間、一人のピエロの視線が、俺の方を向き、一瞬、目があった気がした。 (えっ!?) その瞬間、俺の脳裏に何かが過った。 (え!?あ…あれ…あのピエロ…俺…どこかで見た事がある気がする…) 登場して、ポーズを切るまで、何も感じなかったが、目が会った瞬間、俺の中に湧き上がって来た。 (あれっ…なんだっけ…どこかで…) サーカスを見に来たのは始めてなのだから、サーカスで見たはずは無い。 しかし、俺の心のどこかで…【見た事がある】という記憶がちらつく。 (なんだ…どこかで…??いや…これ…デジャブってやつか??) 見た事があると錯覚してしまっただけかもしれない。 状況を考えると、そう考える方が素直だろう。 (き…気のせいか…) 仮に見た事があったにしても、大きな問題は無い。 俺は気のせいと納得し、ピエロのパフォーマンスに目を向けた。 二人のピエロが合図をした。 すると、前方のカーテンが開き、そこから大きな檻のような物が運び出されてきた。 その大きな檻はステージ中央まで運び出される。 そして、その檻にスポットライトが一気に当てられた。 その檻の中には、一匹のライオンが入っていたのだ。 (ラ…ライオン!?ん?いや…違うな…あれ…本物じゃない) その檻に入れられたライオン。 確かに風貌はライオンではあるが、どう見ても、体のバランスがおかしい。 動物園でしか見た事はないが、あからさまに本物のライオンではない事は分かる。 四本足で立ってはいるが、それは造り物の造形だ。 しかも、そのライオンもどきは、中で動いている。 という事は、置物やぬいぐるみではない。 つまり、着ぐるみのライオンであり、中には人が入っているという事だ。 すると、隣にいた母が衝撃の言葉を口にした。 「凄いわね。本物のライオンが、こんな近くで見られるなんて」 「え!?」 母の表情に冗談を言っている雰囲気は無い。 更に言えば、俺の母は、着ぐるみを見て、そんな冗談を言うような性格ではない。 「え…母さん…あれ…」 俺が質問をしようとすると、父が言葉を被せて来た。 「あのライオン、檻から出さないよな?出されたら、この距離だと、ちょっと怖いな」 「そ…そうね…。でも、やっぱりしっかり調教されてるでしょ」 「だよな」 (え…父さんも…) 母に続き、父もあのライオンの着ぐるみが、あたかも本物のライオンに見えているかのような発言をした。 俺は、二人の言葉を聞き、再びライオンの着ぐるみのほうに視線を戻した。 (ど…どうみても…着ぐるみ…だよな…) 四本足で立ってはいるが、前足の関節から下には人が入っていなく、両手は関節まで、そしてライオンの着ぐるみの前足の部分を持っている状態だろう。 それでも、やはり、本物のライオンと比べると、体のバランスがおかしく、いかにも着ぐるみという感が否めない。 しかも、見た感じで言うと、中身の人は、それ程大きくはなさそうな、着ぐるみの大きさだ。 ウエスト部分はかなり細く、お尻も分厚くなく、中身の人のお尻がトレースされている感じだ。 体の大きさ、そのウエストの細さや、お尻のシルエットの感じ、それらを考えると、中身の人間は、恐らく女性だと感じられる。 体の細さとは裏腹に、手足の部分は太い造形になっている。 するとピエロの一人が檻の前面を開けた。 【パチンッ!】 そして、もう一人のピエロが指を鳴らした。 ピエロが指を鳴らすと、檻の中から着ぐるみのライオンがゆっくりと前へ出て来たのだった。 「うわっ!出て来たわ…ちょっと怖いかも…」 その様子を見て、母が怖がる様子を見せる。 「大丈夫だよ、きっと、しっかり調教してあるんだろうから」 (や…やっぱり…父さんと母さんには…本物のライオンに見えている…) 仮に本物のライオンだと思うのならば、確かに、客席とステージの間には、低い柵しかないので、危険は感じるだろう。 しかし、そこにいるのは、着ぐるみに身を包んだ女性なのだ。 人間に危害を加えるはずはない。 ふと、周りのお客にも目を向けると、皆、少し緊張したような表情を見せ、周りの会話からも、それが【本物のライオンに見えている】という発言が聞こえる。 (お…俺以外…全員…本物に見えているのか…??) そう感じてしまうが、もしかしたら、自分がおかしいのかもしれない。 目の前にいるのは、本物のライオンで、俺だけが妄想で、着ぐるみに見えているのかもしれない。 しかし、今は自分の正常さを信じる。 俺の目には、はっきりとそれが、着ぐるみのライオンと見えているのだから。 すると、ピエロの二人は、見せつけるかの如く、ステージの縁、つまり客席の目の前を、ライオンの着ぐるみを連れて歩き始めた。 体を前に倒し、四本足で歩く、ライオンの着ぐるみは、やはり動きがスムーズではない。 あの体勢で、前に進むのだから、進むのだけでもきつい事は間違いない。 しかも、そういう決め事になっているのか、中身の女性は体を起こす事なく、常に四本足で立つ姿勢を崩さない。 お客の目の前を闊歩するライオンの着ぐるみ。 あの距離まで近づけば、どう考えても、着ぐるみだと分かるはず…。 しかし、最前列のお客の反応は、恐怖を表すばかりだ。 そして、ライオンの着ぐるみは、きつそうな雰囲気で手足を動かしながら、ゆっくりと進み、ついに俺の前までやって来た。 「はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」 (ど…どうみても…着ぐるみだな…。それに…ここまで近づくと、中身の人の呼吸の音が聞こえる) ライオンの着ぐるみから聞こえる呼吸音は、かなり乱れており、中の人のきつさが感じられた。 (そうだよな…この体勢で歩かされているんだから…それだけできついよな…) そんな目で、ライオンの着ぐるみを見ていると、一人のピエロがピタッと足を止めた。 (ん?) すると足を止めたピエロが、俺のほうに視線を向け、首を傾げた。 (な…なんなんだ…お…俺のこと…見てるよな…) すると、ピエロはウンウンと頷くと、また前に進んで行った。 「ふぅ…怖かった…。大丈夫だと思っていても、実際、これだけ近いと、怖いわね」 母が感じた恐怖を口にした。 確かに、周りが表わしている恐怖のリアクションとすると、俺のリアクションは他の人とは、あからさまに違う。 そのリアクションをピエロは見ていたのだろうか…そんな気がする。 そして、客の前を一周ぐるっと歩き終えたピエロと着ぐるみのライオンは、再びステージの中央へと戻った。 すると、一人のピエロが何かの合図をしたと思うと、中央のカーテンが開き、大きな丸い球が登場した。 その大きな球は、直径二メートル以上はあろうかと思う程大きい。 一人のピエロが、どこから取り出したか、ベルトを持ち出して、ライオンの着ぐるみの胸元と腰の辺りに、それを巻きつけた。 【ウィィィィン】 すると、上方よりワイヤーが降りてきた。 【カチャ】 そして、そのワイヤーが着ぐるみのライオンのベルトに接続されたのだった。 二人のピエロがライオンの着ぐるみと大きな球を挟み込むように両脇に立った。 そして、ピエロたちは観客を煽るように手拍子をし始めた。 それにつられ会場のお客たちも手拍子を始める。 そして、ピエロたちが中央に位置するライオンの着ぐるみのほうに両手を向けた。 【ウィィィィン】 すると、ワイヤーが巻き上げられ、ライオンの着ぐるみが宙に浮き始めたのだった。 (え!?吊り上げるのか!?) まさか、接続されたワイヤーが吊り上げるためだとは思わず、驚きを現してしまう。 胸部と腰部に巻かれたベルトで吊り上げられるライオンの着ぐるみ。 吊り上げられ始めると、ライオンの着ぐるみは激しく体を悶えさせ始めた。 (お…おい…着ぐるみの中の人…大丈夫なのか??あれ…痛がってるんじゃないか?) その体の悶えさせ方、まるでベルトが体に食い込み、痛さを感じているように見える。 しかし、ピエロたちはまるで雰囲気を変えずに、事を進めていく。 そして、ライオンの着ぐるみは宙に吊られたまま、大きな球の上まで移動させられた。 着ぐるみのライオンは球の上部に乗せられ、足は付いたようだ。 足がついたせいか、先ほどまでの痛がり方は見せていない。 するとピエロが合図をした。 【ドゥルルルル…】 それと同時に流れ始めるドラムロール。 【ドン!!】 【ウィィィィン】 ドラムロールの終わりと同時に、テンションを保っていたワイヤーが、一気に緩められた。 大きな球の上でテンションを保ち、着ぐるみのライオンを支えていたワイヤー。 その力がなくなり、支えるものが無くなったライオンの着ぐるみがフラフラと動き始めた。 それと同時に下の大きな球もグラグラ動く。 そうこれはライオンの玉乗りなのだ。 しかし、着ぐるみに身を包まれ、四本足で立たされた状態で、バランスを取るのはやはり相当難しいのだろう。 ライオンの着ぐるみは、すぐにバランスを崩してしまった。 その瞬間である。 ライオンの着ぐるみがバランスを崩した事で、下にある大きな球がぐらっと大きく動いた。 (あっ!?) 大きな球が動き、バランスを崩した着ぐるみのライオンが球の上から落下したのだ。 【ドサッ!!】 バランスを崩したライオンの着ぐるみは、そのまま受け身も取れずに地面に落下し、体を打ち付けた。 そして、落ちた衝撃で息が詰まったのか、寝転がったまま、激しく咳き込んでいるように見えた。 (おいおい…かなり衝撃がある感じで落ちたけど、大丈夫なのか??) すると、ピエロの二人は、【失敗しちゃった】と言わんばかりに首を傾げる。 その様子に、観客から大きな笑いが起こり始めた。 「ライオンさん、失敗しちゃったわね」 隣にいる母も笑いながら、そう言った。 (い…いろいろと…おかしい…なんで…みんな笑ってるんだ…??) よくよく考えてみれば、もし仮にあれが本物のライオンに見えているとしても、ライオンにベルトを巻きつけ、吊り上げて球の上から落下させたのだ。 最近で言えば、動物をサーカスの演目に使う事すら、動物愛護の観点からNGなところ、こんな仕打ちをしている訳だ。 客先から、笑いが起きるのはおかしい。 更に言えば、俺のように、あれが着ぐるみのライオンで、中に人が入っていると思って見ていたとすれば、今の落ち方は笑いではなく、心配の方向のはず。 しかし、今、この会場で、そういう雰囲気をしているのは俺だけだ。 皆、楽しそうに笑っている。 すると、一人のピエロが一本指を立てて、その手を上へ突き上げた。 【ウィィィィン】 その瞬間、再びワイヤーが巻き上げられ、ライオンは宙に吊り上げられていった。 吊り上げられ、悶え苦しむライオンの着ぐるみ。 そのまま、同じように球の上に配置され、再びドラムロールが鳴り響く。 【ドサッ!!】 もちろん、バランスの取れないライオンの着ぐるみは、また、球の上から落ち、激しくその体を地面に叩きつけた。 すると、やはり会場からは笑いが起き、盛りがっていく。 すると間髪を置かず、またワイヤーが巻き上げられ始めた。 その瞬間、着ぐるみのライオンは、イヤイヤというように激しく頭部を横に振り出した。 しかし、ピエロは容赦なく、進行を進め、ライオンの着ぐるみは何度も球から落ち、地面に叩きつけられたのだった。 (だ…大丈夫なのか…怪我してないか…) そして、何度か球から落下した後、ピエロが手でバツをつくり、【やっぱりだめでした~】というような素振りを見せ、球乗りは終えていった。 その後、いくつかの演目が繰り広げられていった。 その中で、空中ブランコに使う高所のスタート地点から、ライオンの着ぐるみがダイブさせられた。 その時だった…俺にははっきりと聞こえた。 高所からライオンの着ぐるみが落ちていく際、【キャアァァァァァ!!】という、女性の叫び声が、俺の耳に届いたのだった。 着ぐるみで視界も悪い中、あんな高さから落されれば、それは怖いに違いない。 中の人も、さすがに自然と叫び声が漏れてしまったのだろう。 それにより、ライオンの中身が女性だと、俺は確信した。 女性だと思うと、更に心配が増してしまう。 様々な事をさせられて、体は大丈夫なのだろうか…。 もともと、あの姿勢を強要されているのだから、ただでさえきついだろう。 更には、このピエロの演目が始まってから、それなりの時間も経っている。 その間、ずっと着ぐるみに身を包まれているのだから、暑さ的にも大丈夫だろうか。 見るからに、体を上下に大きく動かし、肩で呼吸をしているのが分かる。 きっと、かなり苦しいに違いない。 しかし、そんな中身の彼女とは裏腹に、会場お客たちは、あっけらかんと笑いに吞まれている。 【ゴクッ…】 次第に、俺はその食い違いに違和感を感じなくなり始めていた。 むしろ、その中身の彼女への心配が一番の関心事となり、他の観客がどうかというのは薄くなり始めていた。 そして、その中身の彼女への心配は、だんだんと、興味へと変わっていく。 そして、最終演目と思われる演目が始まった。 中央に大きな輪が用意された。 その輪は二メートル程はあろう大きな輪で、それが縦に立てられている。 その横に大きなスロープが設置され、スロープの一番下に立てられた輪がくるように置かれた。 そして、一人のピエロによって、そのスロープの上へとライオンの着ぐるみは連れていかれたのだった。 もう既に、足腰に力が入らなくなってきているのか、ライオンの着ぐるみは体をふらつかせている。 ずっと、四つん這いの姿勢で、更には着ぐるみに身を包まれ、暑さにも苦しめられているのだから当然だろう。 ライオンの着ぐるみがスロープの最上部に到達すると、下に残っていたピエロが合図をした。 すると、次の瞬間だった。 【ボウッ!!】 大きな輪に炎が灯されたのだった。 それと共に、スロープの両サイドにも炎が灯され、そして、ライオンの着ぐるみとピエロの一人がいるスロープの最上段を囲うように、炎が灯された。 (熱っ!!) その炎の熱気は、客席まで伝わり、それが本物の炎だと理解できる。 炎が灯された輪…いわゆる火の輪。 両脇に炎の花道を有したスロープは、スキージャンプのジャンプ台のように最後が少し上がり、その先を火の輪に向けている。 そして、そのスロープの最上部に連れていかれた、ライオンの着ぐるみ。 状況を考えれば、この後、何が行われるか想像は付く。 ライオンの着ぐるみの火の輪くぐり。 つまり、ライオンの着ぐるみは、あのスロープを滑り落ち、大きな火の輪をくぐらされるという事だ。 下にいるピエロの一人が観客を煽り始めた。 伝わる熱気のせいもあってか、会場の雰囲気もかなり盛りがっている。 スロープの上部に目を向けると、スタンバイしたライオンの着ぐるみが…。 しかし、ライオンの着ぐるみは体を震わせながら、必死に頭部を横に振っている。 (そうだろうな…怖いんだろうな…。高さも高さだけど、目の前に炎の輪があるんだから…) 恐らく、ライオンの着ぐるみは恐ろしくて、必死に嫌がっているのだろう。 すると、横にいたピエロの一人が【困ったな】という仕草をした後に、ポンと手を叩いた。 (何かあるのか?) そう思った瞬間だった。 「うわっ!!」 突然、俺の目の前に、下にいたピエロが現れたのだった。 先ほどまで、少し距離を置いた所にいたと思ったピエロが目の前に現れ、驚きを示してしまう。 すると、ピエロはスッと手を出し、俺の手を取った。 「え!?なに??なんなんだ??」 何が起こっているのか分からないまま、ピエロは俺をゆっくりと立ち上がらせた。 そして、そのまま手を引き、俺を誘導し始めたのだった。 「ちょ…ちょっと…なに?なに?」 困惑を隠しきれないまま、ピエロに手を引かれ付いて行ってしまう。 不思議と、困惑しているのにも関わらず、体は抵抗なく、自然とピエロに従ってしまう。 そして、ピエロに連れられ、俺はステージスペースへと入って行った。 「ま…まじか…」 どうやら俺は、パフォーマンスに参加させられたらしい。 そのまま、俺はライオンの着ぐるみがいる、スロープの最上部へと導かれた。 最上部に到着するや否や、俺を連れてきたピエロは下へと戻って行った。 「あれっ!?」 到着すると、俺の目の前に着ぐるみのライオンが姿を現した。 しかし、先ほど、観客席で見ていた状態と少し変わっていた。 着ぐるみのライオンは、四本の小さな足場に、前足と後ろ足でかろうじて乗っかり、体勢を維持しているのだった。 乗っかっている足場は小さく、少しバランスを崩せば、落ちてしまいそうなほどだ。 そして、そこから落ちてしまえば、そのままスロープを滑り落ちる事になるだろう。 (それにしても…ここ暑いな…) スロープの最上部は炎に囲まれているため、かなり暑くなっている。 俺の額からもかなりの汗が流れ落ち始めている。 つまり、私服の俺がこれだけ暑さを感じ、汗が流れ落ちるほどなのだから、着ぐるみに身を包まれた彼女は、もっと暑さを感じているだろう。 そんな暑さに苦しめられながら、小さな足場から落ちないように必死に耐えているのだ。 【ゴクッ】 ここにいれば、この壮絶な暑さに苦しめられる。 しかし、落ちれば、あの火の輪が待っている。 ライオンの着ぐるみの彼女には、どうあっても苦境しかない。 そんな状況であっても、必死に耐えようとしている姿に、なんともいえない興奮をおぼえてしまった。 すると、スロープの上にいたピエロがあるものを取り出した。 「え!?そ…それ…」 ピエロが取り出したもの…それは鞭だったのだ。 長い猛獣に使うような鞭ではないが、競馬の騎手が使うような片手で軽く振れる鞭だ。 「ちょ…ちょっと…まさか…」 手に持たれた鞭、そして、目の前には四つん這いでお尻をこちらに向けた状態のライオンの着ぐるみ…状況は整っている。 すると、俺の想像通りの行動をピエロがしたのだった。 【ピシィッ!!】 「あうぅぅっ!!」 ピエロの手に持たれた鞭が、ライオンの着ぐるみのお尻を打ち放った。 それと共に、ライオンの着ぐるみの中から、女性の叫び声が漏れた。 【ゴクッ…】 その光景に俺は、恐ろしい程の興奮を覚えてしまった。 叩かれたお尻の痛みを散らすように、もぞもぞとお尻を動かす、ライオンの着ぐるみ。 しかし、足場から落ちる訳には行かないので、それ程、動くことは出来ない。 どれだけお尻が痛かろうが、それから逃れる事は出来ないのだ。 これが本当の動物だったら、とんでもない事だろう。 火の輪くぐりを強要させられそうになっている上、鞭で叩いているのだ。 愛護団体から、猛抗議が来るだろう。 いや…動物でなく、着ぐるみを着た人間だからいい??…そういうものではない…。 しかし、実際、観客席で見ているお客たちは喜び、こうして、ここにいる俺は興奮している。 だとすれば、それは皆を楽しませるエンターテイメントではなかろうか。 すると、ピエロが手に持っていた鞭を、俺に手渡して来た。 「え!?鞭??」 すると、終始無言だったピエロが、俺にだけ聞こえるように喋りかけた。 「キミならデキルよ。さあ…ムチをフルって、オキャクサンをモリアゲテね…」 「お…俺が…」 俺は渡された鞭を握りしめ、グッとその鞭を見つめた。 そして、そのまま俺の視線が、ライオンの着ぐるみの方へ向かった。 (この鞭で…俺が…) そう考えながら、俺はライオンの着ぐるみのお尻を見つめていた。 すると、先ほどの鞭でお尻を叩かれた時に発せられた、着ぐるみの中身の彼女の悲鳴が、俺の頭の中を通り過ぎた。 その瞬間だった。 【ピシィッ!!】 「あうぅぅっ!!」 俺の手が、思考を飛び越し、勝手に動いたのだった。 お尻を叩かれ悶え苦しむ、ライオンの着ぐるみ。 そして、俺が鞭を振るった瞬間に、会場の観客もおおいに盛り上がる。 悶えるライオンの着ぐるみの姿に、俺の興奮は一気に最高潮に達した。 (あぁ…いい…たまらない…) 一つの留め具が外れた俺の手は、もう躊躇う事をしなかった。 【ピシィッ!!】 「あうぅぅっ!!」 【ピシィッ!!】 「んうぅぅっ!!」 【ピシィッ!!】 「あぁぁぁっ!!」 そして、何発か鞭はお尻に打ち込まれ、ライオンの着ぐるみは、下半身をガクガクとさせ始めた。 それと共に、必死に頭部を横に振り続けるライオンの着ぐるみ。 その様子から、【もうやめてぇぇぇ!!】という声が聞こえてくるようだ。 着ぐるみに身を包まれ、周りの炎により、耐えられれない程の暑さに苦しめられ、更には、落ちる事の出来ない足場で踏ん張りながら、鞭でお尻を叩かれる。 耐えられないだろう…もうやめて欲しいだろう…しかし、そんな姿が俺の興奮を掻き立てる。 もうこの光景と状況に興奮を感じ、盛り上がりきっている俺は止まる事はなかった。 【ピシィィィィィッ!!】 「あああうぅぅっ!!」 そして、俺がかなりの強さで、鞭を振るった瞬間だった。 【ガタッ!】 鞭の痛みでお尻を飛びあげさせた、ライオンの着ぐるみの後ろ脚の一つが、小さな足場からずれ落ちたのだった。 すると、片足が足場から外れた、ライオンの着ぐるみはバランスを崩し、他の全ての足場からも落ちたのだった。 【ドサッ】 そして、足場から落ちたライオンの着ぐるみは、スロープへと落ちていった。 スロープへ落ちたライオンの着ぐるみは、否応なしに、滑り落ちるしかない。 そして、着ぐるみのライオンは、勢いよく、炎の花道となったスロープを滑り落ちて行った。 そのスピードは中々のもの。 そのスピードを保ったまま、スロープの最後へとたどり着く。 そして、そのままスロープの出口で、ライオンの着ぐるみは跳ね上がるように飛び上がった。 空中を舞う、ライオンの着ぐるみ。 その向かう先には大きな火の輪がある。 そして、ライオンの着ぐるみがその火の輪を綺麗にくぐり抜ける…はずだった。 【ドガッ!!】 綺麗にくぐるかと思われたライオンの着ぐるみだったが、体の一部が、火の輪に衝突してしまったのだ。 【ドサッ!】 そして、火の輪に衝突したライオンの着ぐるみはそのまま床へと落下していった。 落ちた付近は、クッションではないものの、柔らかく出来ている場所で、落ちた衝撃は多少、緩和されているだろう。 それでも、かなりの衝撃だったらしく、ライオンの着ぐるみはそのまま床に寝転がっていた。 (ん!?あれ?ま…まじか!?) しかし、それで終わりではなかった。 なんと、火の輪に体を衝突させたライオンの着ぐるみの毛の一部に、炎が燃え移ってしまったのだ。 化学繊維で出来ている着ぐるみの毛。 瞬く間に、炎が燃え広がる。 落ちた瞬間、倒れたまま動かなかったライオンの着ぐるみが、のたうち回るように床を転がり始めた。 自分の体が燃え始めている事に気がついたのだろう。 必死に助けを求めるかのように、転がり続けるライオンの着ぐるみ。 次第に炎が大きくなり、ライオンの着ぐるみを飲みこんだ。 このままでは、本当に焼死してしまう。 そう思った瞬間だった。 下にいたピエロが、燃え盛るライオンの着ぐるみを抱きかかえ、思い切り投げ飛ばしたのだった。 何故、あれだけ燃えている着ぐるみをあのピエロは持てるのだろうか…?その疑問は残るのだが、不思議とそこに違和感を感じなかった。 【ヒュ~~~~ドボン!!】 ピエロが放り投げた先は、どうやら水槽のようで、そこにライオンの着ぐるみは一気に沈み込んだ。 すると、スロープの上にいたピエロが俺の手を取り、急いで、スロープの下まで駆け下りていった。 下まで、駆け下りると、下にいたピエロが水槽からライオンの着ぐるみを引き上げている所だった。 引き上げられるライオンの着ぐるみは必死に手足をバタつかせている。 動いているという事は、中身の女性は生きているという事。 見た目は、炎で燃えたせいで、真っ黒に焼け焦げている。 あんな状態にも関わらず、無事だという事に驚きを感じる。 「はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」 水槽から引き上げられた、ライオンの着ぐるみは、恐ろしい程の大きさで呼吸をしている。 体中が燃え、更には、着ぐるみを着たまま、水槽に沈められたのだ。 かなりの恐怖に陥っただろう。 すると、ピエロの一人が、ライオンの着ぐるみの上に一枚の布を掛けた。 布を被せられたライオン着ぐるみ…。 布の上からでも、分かるくらい、体を上下させ、必死に呼吸している。 【パチンッ!】 すると、ピエロの一人が指をならした。 【バサッ!!】 舜次に、もう一人のピエロが、ライオンの着ぐるみに被せていた布を剥ぎ取った。 (う!?嘘だろ!?) 布が剥ぎ取られて、再びそこに姿を現した着ぐるみのライオンの姿に、俺は驚愕のあまり、目を丸くした。 そこで力なくうずくまり、大きく呼吸をしている様子は変わりない。 しかし、先ほどまで、焼け焦げていた着ぐるみの様子は全くなくなり、最初に登場した時とまるで変わらない状態になっていたのだ。 (ど…どういう…事だ…!?) 先ほど、火だるまになり、焼け焦げた着ぐるみは嘘だったかのような光景。 俺は何かに騙されているかのような感覚に陥った。 すると、ピエロの二人が俺の両手を取り、上へと挙げた。 その瞬間、客席から大きな拍手が巻き起こった。 するとピエロの一人が俺に聞こえる程度の声で囁いた。 「やっぱり…キミは…コチラガワのニンゲンだよ…」 (え!?こちら側!?) そのピエロの言葉は、観客の拍手の音に飲みこまれ、消えていった。 そして、ピエロに誘導されるがまま、俺は観客席へと戻されたのだった。 これにて演目が終わり、ライオンの着ぐるみはピエロに連れられ、カーテンの向こうに戻っていたのだった。 「ライオンさん、凄かったわね」 「しっかり調教できていると、あそこまで出来るんだな」 相変わらず両親の会話は、本物のライオンだと思っている会話だ。 俺は思い切って、両親に質問してみた。 「あのさ…ライオン…燃えなかった?」 すると母は、呆れた表情を浮かべながら言った。 「何言ってるの?しっかり火の輪をくぐってたでしょ。上からじゃ見えなかったの?」 「え!?ちょ…ちょっと待って…火の輪にぶつかって…」 その言葉に父も口を挟む。 「やっぱり、しっかり見えてなかったんだろ。全くぶつからずに綺麗に通り抜けてたぞ」 「そ…そう…なの…」 俺の見ていた光景と他の人が見ていた光景が違う…。 違うものを見ていたのか…? いや…認識の違い…? はなっから、本物のライオンと着ぐるみのライオンという認識の違いがあったのだ。 火の輪をくぐった際の認識の違いがあってもおかくはない。 とにかく、何から何まで、分からない事だらけだ。 しかし、はっきりした事もある。 それは…俺があの着ぐるみのライオンに興奮していたという事実。 あの着ぐるみの中で、中身の彼女が暑さに苦しめられ、恐怖を与えられ、そして、痛みを与えられる…。 そんな様子がたまらなく俺の感情を高ぶらせていたのだ。 そして、サーカスは終わりを迎えた。 あの演目以降、あの二人のピエロも、着ぐるみのライオンも、ステージに登場することはなかった。 俺の初のサーカス鑑賞は、こうして終わったのだった。 俺の心に、ある言葉を残して…。 (こちら側の…人間…) -----------------------END--------------------------

大道芸の人形の着ぐるみ After Story 【サーカス編】

Comments

コメントありがとうございます♪ そう言って頂けると^ ^

ももぴ

面白いです、ありがとうございます。

Q uga


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