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魔法学院の生徒会長4――決着編(後)5

 開いていた念話のチャンネルをここで使った。 『一昨年の夏とは反対になりましたね』 『あの時の僕は、意図的にやったわけじゃなかったけれど』  言葉としては落ち着いているが、キヨヒコの念には押し隠した憤りのようなものがにじみ出ていた。 『動揺を誘ったつもり? あいにく僕は、生まれついてのエリートだった君とは違うから、このタブーも気にしない。君ほど怒りっぽいわけでもないから、怒りに我を忘れてミスを犯すこともない』  単なるわたしの挑発と思ってくれた。わざわざ念話で話しかけた甲斐があった。まあ、今になっていきなり警戒してももう間に合わないはずではあるけれど、心の準備ができてないところに入れる一撃の方が精神的なダメージは大きいはず。 『君はただ負ける。僕は魔力制御も魔力密度向上もこれから伸ばしていくから、今後の君は今以上に差を詰めることは決してできなくなる。この先の二年数ヶ月はかなり肩身の狭い思いをすることになると思うけど、まあひどすぎることにはならないようにするから、そこは安心して』  わたしに心で呼びかけながら、『フタバ』の魔力塊が大きく広がる。  そして魔法が展開して発動する寸前――  シャボン玉のように、弾けて消えた。 「……え?」  そのいささか間の抜けた『フタバ』のリアクションを、咎められる者などどこにもいないだろう。  発動直前の魔法が消失するなんて、基本的には起こらない。使用者がやめようと思わない限り、魔法は発動するのが当たり前なのだ。  何かの間違いと思ったのか、もう一度同じ魔法の発動を試みる『フタバ』。わたしはもう一度それを無効化する。  さらにもう一度。こちらもさらにもう一度キャンセル。 『魔力塊の中心にある核。卵の中に存在する胚のように、魔法はその核を起点に生まれ、周辺の魔力を養分のようにして瞬時に成長し発動する。だから核を破壊すれば、魔法は胚を取り除いた卵と同じ。誕生することはありません』  わたしは相手に念話で語りかけた。 『でも、そんなこと、できるわけが……』 『できるわけがない。たいていの人はそう思って疑わなかった。よほど魔力に差があれば魔力塊そのものを叩き潰すようにして無効化できるけど、そんなことするくらいなら好きに撃たせて防げばいいんだし』 『そ、そうだよ、核の周辺は魔力量に比例して強固な鎖が形成されていて、殻のように取り巻いて……』 『その隙間を通せばいい。わたしの――あなたが開発してわたしが磨き上げた――魔力制御技術は、それにはうってつけだったから』 『…………』  わたしの回答に、相手は黙り込んだ。 『昔のあなたが好きだった童話。今のわたしにとっても他人事とは思えなかった童話。『指さされた魔法使い』。一般人に魔法を使おうとして失敗し返り討ちに遭う、優秀なはずの魔法使いたち。あの類話が昔から世界各地に存在することに、やがてわたしは疑問を覚えるようになりました。魔法使いにどうしても勝てなかった一般人たちの願望? それとも逆に、魔法使いたち自身による戒め? むしろ、実際にあのような出来事が各地で起こったからこそ、物語として伝えられていったのではないかとわたしはいつ頃からか考え始めていたんです』  念話は、時に口で話すよりもはるかに速い。わたしの思考は前々から考えていたことを高速で展開していて、この対話はたぶん現実世界ではずっと短い時間でなされているはずだ。 『ならばその物語における主人公の特徴は? いずれも一般人。それどころかその中でも特殊なほど魔力が低い場合が多い。小さな火どころか火花しか出せない。むしろそこにこそ意味があるのではないか。彼らの微量な、一般人よりもさらに小さすぎる魔力だからこそ、幸運にも核周辺の防御を潜り抜けて到達し、核を破損して魔法を雲散霧消させたのではないか』 『…………』 『仮説を立てたら後は実践です。魔力制御技術を研ぎ澄まし、ワカバに付き合ってもらって練習しました。ごくごく単純な、攻撃魔法。そんな細い針のような一突きが、核を破壊できると確認しました。ワカバに通じてもあなたに通じるかは未確定でしたが……実際にうまくいって、わたしとしては何よりです』  言うだけ言って、さらに畳みかける。 『あなたなら、すぐに防御策を思いつくかもしれない。早々に実現させて、二度とわたしにこのやり方で勝てる機会を与えなくなるかもしれない。でも、それは決して今じゃない。今、この場では、あなたはわたしに勝てません』  どこまでやれば、心をへし折れるだろう? わたしはさらに言い募る。 『今のあなたは、一昨年の夏のわたしと同じ。高い高い雲の上から、地上へ叩き落される。でも、地表から天上へ一度至った後でまた地べたへ戻るのって――』  一縷の望みをかけてか、飽和攻撃の再開をしようとし始めた。でも、もうそれに付き合う理由もない。  この魔法攻撃は大量の魔法弾を一つ一つ撃ち出すわけではない。だから、起点となる大量攻撃の発動さえこの一突きで無効化すれば……この通り。 『――却って、つらいんじゃありません?』 『そんな、こんなの、僕に勝ち目なんてあるわけないじゃないか!!』  気の毒なキヨヒコが念話で叫んだ。  心を折ったことに罪悪感を覚えつつも、安堵する。これで屈しないようだったら、わたしに打つ手はなかった。  キヨヒコがその場でへたり込むと同時に、『フタバ』の胸元から魔具が離れ、宙に浮く。  そしてわたしの額に触れると、脳内に語りかけてきた。  ――今のフタバはお前に怯えた。そんな臆病者は一族当主にふさわしくない。  ――お前ならば今のフタバよりも『フタバ』にふさわしい。  ――『フタバ』の魔力溢れる肉体と立場を譲り渡す。  ――そうすればお前は『フタバ』に戻れる。  ――承諾せよ。  ――承諾せよ。  ――承諾せよ。  脳内で繰り返される魔具の誘いに、声を出さず応じた。 『では、お願いします』

Comments

コメントありがとうございます! 評価していただけて幸いです。 なるほど、元キヨヒコに見せ場をと考えたらそういう展開になったかもしれませんね。 まあ、ここまでの随所で元フタバには何度か見得を切らせましたし、本人が活躍する流れといたしました。 リクエストが完成したらFANBOXに改めて取り組みますので、もうしばしお待ちください。

最後の決着編楽しみです

hiji

個人的な予想では、【負ける】+【元に戻る】で外れてしまいましたが、いい戦闘と展開です。感謝!

hiji

本当の切り札があったとは・・・

hiji


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