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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(30)『二度目の正月と、親戚の赤ちゃん』

「あけましておめでとう!」  一年ぶりに見る『瑠璃』な光莉は、ますます美人になっていた。態度だけは、去年の正月久しぶりに再会した時の取り澄ました感じからは打って変わって、完全に光莉の素が出ている。  胸もまた大きくなっていて、俺は妹に嫉妬した。  両親が仕事に行った俺たちの家で、三人で話し合う。 「模試は順調、内申書も悪くないはず。一高でもまあ問題ないでしょ」  光莉が言うのを、俺は今もどこか信じられない気持ちで聞いた。  一高と言えば県のこの地域でダントツの進学校。元の俺はもちろん、『光莉』になって一年余分にやり直して瑠璃に教わってる今の俺でも、志望校にするのは勇気がいる高校なのに。 「うん、油断せずに合格しようね」  でも瑠璃に――今の『俺』にとっては、決して高すぎる目標ではない。それは『瑠璃』の知識と勉強習慣などの記憶を使える光莉にとっても同様で。  考えると、『俺』も『瑠璃』も瑠璃一人のおかげで合格が見込めるんだよな。特に俺の場合、今はまだ中二で、受験すらせず元に戻ったら一高生になれているわけで、かなりずるをしてる気分になる。まあ、元に戻ったら自力でがんばるので許してほしい。 「それで、一人暮らしの方も問題ないんだよね?」 「うん。料理、洗濯、掃除、一通りできるようになったよ。瑠璃ちゃんが元からその辺練習してたから、すごく楽だったけど」  瑠璃に『瑠璃』が答える。『光彦』と『瑠璃』。その姿は、入れ替わる前の一昨年の春とはだいぶ違っていて、お似合いのカップルのように見えて、俺の心を微妙にざわつかせる。  元に戻れば、俺が瑠璃とあのカップルになるんだから。自分にそう言い聞かせるけれど、それで納得するのは心の半分くらい。女の子の瑠璃が好きな、男の子の俺。  一年九ヶ月女の子として過ごしたあたしの心は、お兄ちゃんと瑠璃ちゃんがお似合いであることに対して、どうしても焼きもちを焼いてしまうのだった。  それにそもそも、カップルになるには、元に戻った後で俺が瑠璃にちゃんと告白しないといけないわけで。  この二年近く、瑠璃とはずっとうまくやれていたように思う。だから、告白しようという気持ちは入れ替わり前よりもはるかに大きい。  それでも、うまくやれていたのは、うまくやるしかないと判断した瑠璃が色々我慢して俺に合わせてくれたからなんじゃないかという疑念も消えなかった。 「光莉ちゃんは本当にすごいよね」 「どうしたの? しみじみと」  俺と同じ疑問を光莉が口にした。 「だって、お父さんやお母さんと交渉して、高校からここで一人暮らしすることを承知させて……わたし、親と違う意見を言うことなんて、考えたこともなかったから」  遠くを見るような目をして、瑠璃は話した。 「引っ越ししたくないなら、したくないって言ってよかったんだよね」 「……まあ、な」 「そう言っておけば、もやもやした気持ちを抱えてあの日神社でお参りしなかったし、お参りであんなこと願わなければこんなことにも……」  どこか、思い詰めたような顔。後悔はそんなに強かったのか。 「いや、それは言いすぎだろ」  あまりよくない方向に話が進みそうで、俺は口を挟んだ。 「こんなことになるなんて誰も事前にわかったはずがないんだし、それを言ったら『瑠璃と光莉の願いが叶いますように』って願った俺も悪い」 「あたしは二年間の東京生活、できてよかったよ」  光莉も空気を読んで俺に加勢する。 「俺も、二年間瑠璃といっしょにいられて、よかった」  強く言い切る。  ……言い切ってから、恥ずかしくなって言い足した。 「そ、その、瑠璃はいいお兄ちゃんだったし。俺も、そんなろくでもない妹じゃなかったろ?」 「へー、まるで『ろくでもない妹』に心当たりがあるみたいな言い方だね」  光莉が俺を冷たく微笑んで見下ろすと、こめかみをぐりぐりしてくる。 「おま、光莉、瑠璃の身体でそんなことすんな! それにこれは自分の身体だろ!」 「今は可愛い妹ちゃんの身体だよ? 年下は、年上から時々理不尽な目に遭わされるの。お兄ちゃんだって幼稚園の頃はあたしにこういうことたまにやってたよね?」 「そんな、昔の……!」  ぼんやり覚えはあるが、光莉にはずっと根に持たれていたようだった。  瑠璃はどうやらいつもの調子を取り戻したようで、俺たちの争いを穏やかに微笑んで見ている。 「って瑠璃、笑ってないで助けて! お兄ちゃんだろ!!」 *  今回の正月、光莉との再会はそんなところで終わるかと思っていたけれど。 「べろべろばー! ……うぅ、全然泣き止まないよ」 「ちょっといいかな、光莉ちゃん」  赤ちゃんを抱いた光莉が途方に暮れた顔をする。瑠璃が代わって赤ちゃんを抱くと、優しく揺すり始めた。  打ち合わせの翌日、瑠璃の伯母や従姉の一族が、藤浦家へ正月のあいさつに来た。この辺からそこそこ近いところに住んでいる人たちで、つまり、『瑠璃』が一人暮らしをするにあたっての一応の後見人的な存在ということらしい。まあ、『瑠璃』の場合急病にでも遭わない限り連絡する必要もないだろうと光莉は見通しを語っていて、俺たちも同感だけど。  で、この赤ん坊は、その従姉さんが半年ほど前に初めて産んだ子。大人たちがあれこれ話したり久しぶりに顔を合わせたからと飲み会になったりしている中、光莉が「しばらく面倒見ますから」と抱きかかえて俺たちの家まで来たのだった。 「瑠璃ちゃん初めてなのに上手だねえ」  瑠璃の腕の中、赤ん坊はすっかりおとなしくなっていた。 「いいお母さんになりそう。見た目はお兄ちゃんなのが違和感すごいけど」 「まあ、こういうのは男女関係ないんじゃないかな」  穏やかな口調だけど、ちょっとたしなめるように瑠璃が言う。 「それもそうだね。失言でした」  言葉を交わす二人は、去年の正月以上に似合いのカップルに見えて、話している内容よりもそのことを俺は気にしてしまう。 「あの、俺も抱っこしてみたい」  ちょっとばかり割って入るような意識で、俺は手を挙げた。 「えー、お兄ちゃんだと絶対泣かしちゃうよ」 「泣いちゃったらわたしがまた抱っこするからね」  光莉は露骨に不安がり、瑠璃は何気に俺が泣かすことを前提気味にしていたが、ともあれ赤ちゃんは俺の腕の中に。  赤ん坊を抱くなんて俺ももちろん初めてだ。瑠璃から受け取った瞬間はおっかなびっくりで、意外なまでに軽く小さいことに驚いた。  でも。 「……あれ?」 「みっくんも上手だね」 「う、うん……」  自分でも意外過ぎたけど、俺に抱っこされた赤ちゃんはくつろいだようになっている。  ほどなくして、すやすやと眠り始めてしまった。 「思わぬ才能?」  光莉が茶化してくるけど、俺はそっちに意識を向ける気になれなかった。  赤ちゃんって、可愛い。  無防備で、俺のことを信頼しきってくれている。大切に守ってあげたくなる。  さっきまで見知らぬ赤ちゃんだったのにこんなに可愛いなら、俺が自分で産んだ子ならどんなに愛おしくなるんだろう。  って、俺は赤ちゃんを産んだりしないっての。  でも、進路希望の用紙を冬休み明けに提出しないといけないけど、とりあえず保育士とか幼稚園の先生とか書いておくのはありかもしれないと思った。


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