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ハルカナ
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笑う生贄少女物語 『②:生贄の少女、花の妖魔ラフラと対面する』

②  全ての壁や屋根が木の根や葉、蔦などで出来た植物純度百パーセントな屋敷状の建物。蔦が絡み合って出来た扉を開けて入るとそこには貴族の屋敷にも負けない程広い部屋が現れ、憎らしくも木の葉に人工の赤や青などの色を塗って作ったであろう絨毯や木の根で作ったテーブルや椅子……暖炉の様なものまでも再現して作られてあった。  一見すると本当に貴族の屋敷に招かれたかのような錯覚を植え付けられそうになるが、そこが花の淫魔の住処である事を示すように全てのモノが植物で形成されており、所々木の根や蔦が脈動している様子を見るに不気味な印象を与えられてしまう。  壁や屋根もそうだが床なども全て植物の蔦で出来ており、部屋に入る為にそれを踏みしめるとグチュっという湿りのある音が鳴り余計に気持ちが悪い。  明かりはちゃんと灯っていて部屋の中は明るいが、部屋のどれもかしこも気持ち悪く映って……ルフィーナは中へと入るのを躊躇しつつ不安な目で中の様子を右に左にと観察していた。  何処を見ても蔦か木の幹か葉しかない……しかもその植物は全て生きているかのように鼓動している。見れば見る程に不気味さは増しルフィーナの不安を大いに掻き立ててしまう。  そんな彼女の戸惑う様子を見てか、屋敷の何処からか女性の声が響いてルフィーナの耳に届けられる。 「ようこそ……我が“生笑(せいじょう)の屋敷”へ♥ 美しい人間の娘さん……歓迎するわ♪」  その声を聞いてビクリと身体を震わせたルフィーナは、慌てる様に声のした方へと視線を向けるが……そこには誰もおらずただ声だけが残響音のように響いて残るだけだった。 「あ、あの……私が……生贄に選ばれた……村長の孫の――」  姿は見えないがとにかく自分の素性を明かそうと言葉を紡いだルフィーナに…… 「えぇ、分かってる。ルフィーナさんよね? 村を見に行った時村長さんの隣に立ってた……」  知っていて当然の事の様に名前を読み上げ、彼女を驚愕させる。 「あ、な、何で……私の名を?」 「えぇ? 何で名前を知っているかって? そりゃあ聞いたのよ、あなたの村の巫女さんに♥」 「ッっ!? み、巫女??」 「フフフ♥ だって初めて見た時に思ったのだもの……“この子可愛い”って♥ だから、貴女が来るまでの間に聞いておいたの……代理に寄こされたあの巫女さんに♪」  ルフィーナが生贄として送り出される前、その送り出す期日を指定させて貰う代わりにその期間だけ巫女の一人を預けておくという取り決めがなされていた。  預けると言っても数日程度であり、その間は“乱暴な事は一切しない”という条件も付けていた為神主も村長も了承したが……  ルフィーナが出立する当時の夕方……送り返されてきた巫女は酷く憔悴しきった顔で今にも倒れるのではないかという様子で村へと帰ってきた。  何をされたのかと問いただしてはみたが……巫女は顔を横に振るばかりで自分に何をされたのかは結局答えなかった。  きっと何かをされたことは明白だったが……巫女が喋りたがらなかったのとそのまま寝込んでしまった為、その話はうやむやになったままルフィーナは出立する事となった。  身体を清めてくれた巫女たちも仲間の巫女が心配になってはいたが……妖魔の住処に行って何をされたかは明白である為それ以上の追及はしなかった。  それはルフィーナも悟っている。彼女が“ココ”で何をされたかなど…… 「巫女に手を出しましたね? 何もしないと約束していたのに!」 「あら? 手を出さないとは言ってなかったわよ? “乱暴な事はしない”と言っただけで……」 「くっ! どうせ淫猥な行為をして無理やり名前を聞き出したのでしょう? それを“乱暴”と言わずしてなんと呼ぶのです!」 「淫猥? あらあら……真面目そうな美少女の口からその様な言葉が飛び出すだなんて……一体、今……どんな想像を頭の中で広げているのでしょうね?」 「くっっ!! 知れた事! 淫魔の血を引く花の妖魔が淫猥な事をしない筈がありません! どうせこの私にもその様な事を施すつもりなのでしょう? 今更とぼけないで下さい!」 「ウフフ……大丈夫♥ 巫女さんには貴女が考えているような事は一切していないわ。むしろ笑って楽しんでもらったくらいですもの……彼女も嬉しかったんじゃないかしら?」 「そんなの嘘ですっ! 村に帰ってきた彼女は……そんな様子じゃなかった! 憔悴しきった顔をしてましたよ!」 「本当だってばぁ♥ エッチな事は一切してない……ココでは、ただ“笑って”過ごしてもらっただけよ?」 「……笑って過ごした? 戯言も大概になさい! このような不気味な場所に連れて来られて楽しそう過ごしただけなんてあるものですか!」 「不気味とは失礼しちゃうわね……。でも笑って過ごした……というのは誇張でもなく偽りなく本当の話よ?」 「くっ! まさか……こんな調子で神主や村長を騙したんじゃないでしょうね? 魔物から守るなんて言って……本当はそんな約束最初から反故にするつもりだったんじゃ……」 「大丈夫……ちゃんと守るわよ? って言うか、この辺一帯の魔物は私が統率しているのだから……私の命令なしには村を襲ったりなんてしないわ♥」  姿なき声はその様に告げると、コホンと咳払いを一つつき部屋の中央に置いてあったテーブルにある指示を下した。 「……っ!?」  指示が下ると、蔦で編まれたテーブルはその編み込みを自力で解いていきテーブルの元となっていたであろうただの4本の蔦へと戻っていった。  そして、伝えへと戻った4本の蔦は一瞬間を開けた後次の指示に従う様にウネウネと動きは始める。  4本それぞれが四方に分かれ、それぞれがまた勝手に編み込みを開始し4本の支柱を形成していく。その支柱がルフィーナの腰くらいの高さまで作り上げられると、今度は地面から他の蔦たちが絡み合ってその支柱を巻き込んで複雑な組み込みの壁を作っていき、部屋の中央にみるみるうちに長方形の箱のような物を形成していった。  人が入るには少し小さすぎる位の大きさのその箱は、最後に蔦で箱の中を埋めるように多数の蔦が這い回って絡み合い一つ塊となって部屋の中央に鎮座した。  蔦を編み込んで形造っていたテーブルは、ほんの数秒ほどで四角い“台”の様な形状に置き換わりルフィーナに「この部屋では蔦は命令次第で自由に操れるんだぞ」と言葉無しにも納得させる事象を見せつけた。 「言う事聞くならちゃんと村も守ってあげるけどぉ……でも、もしも貴女が私の言う事を聞かずに逃げようとしたり逆らおうとするなら“村側が約束を反故にした”と判断して、魔物に襲わせるつもりだから……それは覚悟しておいてね?」  台を作り終えた後その様に冷たい口調で話す姿なき声に、ルフィーナは喉奥に生唾を呑み込む。気圧され額に薄い汗を浮かび上がらせる彼女だが、すぐに目は覚悟を決めた鋭い目に変わり…… 「あ、貴女が……約束を守るというのであれば……私も約束は守ります!」と、部屋の奥まで響くよう決意の声を上げた。  すると、その言葉を聞いてクスクスと小声で含む笑いを零した妖魔は、早速と言わんばかりにルフィーナの足元に蔦の篭を形成し、そこに召し物を入れて裸になれと要求してきた。 「服を脱いで裸になれですって? くっ……やっぱり……」  分かっていた事だが、妖魔の要求は素直だった。妖魔がやろうとする事は衣服があっては邪魔なだけで脱がさないと始まらない。それが分かり切っているからこそルフィーナは顔に苦々しい表情を浮かべつつ着せられていた白装束を一枚ずつ脱いでいった。  帯を解いて外すと装束の全面が僅かにはだけ、重ねるようにして隠していた胸の形が半分だけ露わになる。更には胸の上の鎖骨と引き締まった腹部も隙間から見え、どこで様子を伺っているかは分からないラフラの淫情を勝手に掻き立て興奮させる。  帯を篭に落とし、次は装束を左右に開いて袖から腕を脱がせていく。そこまで脱衣が進むと……上下一体となっていた衣装は服としての遮視性を行えなくなり、ルフィーナのほぼ全ての素肌を晒す事となる。 「これで良いんでしょ? どうせこの台を使ってコレにも乗れとかいうつもりですよね?」  白装束を脱ぎ去り裸になったルフィーナは、脱衣を終えたと言わんばかりに堂々と腰に手を当てて用意された台の上に躊躇なく乗ろうと足を上げるが、そこでラフラから呼び止められ動きを止める事となる。 「あら……駄目よ? まだ履物を履いているじゃない。ちゃんと履物とかも全部脱いで“裸足”になって貰わないと困るわ」  不意にそのように言われルフィーナは一瞬ギクリと動きを止める。そして自分がまだ草履と足袋を身に着けていたことを見て確認する。 「裸足に? 何故です? 貴女がやる事に履物の有無は関係ないでしょうに……」  上げかけた足を戻しその様に言葉を返すルフィーナだが…… 「だぁ~~め♥ 貴女が裸足になる事は私にとっては大事な事なの……だから、脱ぎなさい? 今すぐ……」  ラフラは頑なに彼女に履物を脱ぐよう促して来る。その促しに何やら不審な笑い声のような物が挟まれなくもなかったが……ルフィーナは逆らう訳にはいかない為渋々履いてきた草履と白い足袋をその場で脱いで裸足になっていった。  白い肌の延長線上にある華奢な脚……その脚を地面で支えるのは肉付きの程良いルフィーナの素足。衣装も白ければ肌も柔らかい白色を纏っていたルフィーナだが、彼女も年頃の女性らしく足先だけには年相応のお洒落を施していた。  爪に塗った控えめなピンク色のペディキュア……  色自体は派手ではなく控えめではあるのだが、肌やら衣装が薄い色であったためそのペディキュアはひと際目立って見える。  足袋を脱いだ瞬間それが塗ってあると分かったラフラはクスクスと笑い、何やら嬉しそうな声でそのペディキュアを見た感想を零した。 「良いわね……それ♥ とっても可愛らしいじゃない……。私が喜ぶ事を知ってて……ワザと塗ってくれたのかしら?」  その様な言葉を投げかけられ思わず頬を赤く染めてしまったルフィーナは、手で胸と股間を隠しつつ彼女の言葉を無視するように目を閉じて用意されていた台の上に再び足を掛けて上がる。 「イイ子ね……。言われなくてもちゃんと笑贄台(しょうしだい)に上ってくれるなんて……とても素敵よ♥」 「フン! どうせ次は私の事拘束とかするつもりなんでしょ? 好きに何でもやったらいいわよ……」  反抗する事無くその様に吐き捨てると、ルフィーナは胸と股間を手で隠しながらもその蔦で出来た台の上で膝を立てたまま横になり……何処で見ているかも分からないラフラを探すように顔を横に向けたり上を見たりを繰り返した。 『うっ! 何これ!? き、気持ち悪いっ! この台……生きてるみたいに脈打ってる……』  膝を立てて寝た為、鼓動を響かせる様に脈動する蔦の感触を足裏に感じてしまいその様な感想を持ってしまうが、それは足裏のみならず寝かせてある背中にも感じることが出来、一層の嫌悪感を笑贄台と呼ばれたその台に抱く事となる。 「フフフ……ではお言葉に甘えて……拘束……させて貰おうかしら?」  何処からともなくその様な声が響くと、一部の蔦が台の構成から外れウネウネとルフィーナの右手に絡まろうとしてくる。  その蛇が這う様に見える気色悪さに、思わずそれを振り払おうと胸から手を離そうとするが、その行為が行われる前に蔦が手首へと絡まり、すぐさま胸から手を引き剥がそうと強い力で引っ張り始める。 「ほら……力を抜いてぇ? 逆らっちゃ駄目よ?」  胸から手を外させまいと抵抗するルフィーナにラフラがその様に諭して来る。  その言葉に「うぐぅ……」と諦めの声を零すしかないルフィーナは、仕方なく抵抗していた手の力を抜いて蔦の誘導に従ってその手を拘束させる事をよしとする。  胸を隠していた手がその蔦に引っ張られるように運ばれたのは、自分の頭よりも遥か上の位置だった。  頭から真っ直ぐに上へ上へと運ばれたその手は、曲がっていた腕を伸ばしルフィーナに手を万歳させた格好を強いていく。  それとタイミングを同じくして、股間を隠していた左手にも同じように別の蔦が絡むと……それも同じ様に上へ上へと運んでいき右手と隣り合わせになるよう頭上まで上げ切ってしまう。  両手がその様に並べて揃えられると、その二本の蔦はそのまま手首に何重にも絡みついて枷の様な形状となり……台に同化するように中へと潜り込んで手首をその場に固定する作業を終えた。 「くっ! ビクともしない……」  手首が台に半分埋もれた格好となったルフィーナは腕を引こうが腕を曲げようがビクともしないことを悟らされる。  彼女は……腕を万歳の格好に上げさせられ腕を降ろせない格好を強いられてしまったのだ。 「はい、次は足ね♥ コッチも抵抗しちゃ駄目よ?」  ラフラがそのように告げると、それを合図にまた別の二本の蔦がルフィーナの左右の足首に絡みつき……膝立の姿勢だった彼女の脚をゆっくりと伸ばしていく作業にかかる。  しかしながら、台の長さはそれほど広くないのは前述したとおりである為、万歳の格好をした後にそのまま足を伸ばすと足首から先は台からはみ出してしまう事となる。足を投げ出して寝る格好になる事を“はしたない”と感じてルフィーナは膝立の格好で台に寝たのだが、蔦たちは構わず彼女の左右の足を下へ下へと引っ張っていき……やがて想像通り脛より少し下から先が台からはみ出しながらも、ルフィーナの足は内太腿も膝裏もふくらはぎもピタリと台に付けてしまうよう完全に伸ばされた格好を強いられることとなる。  そうしてしっかりと足を伸ばした格好に仕立て上げた蔦たちは、そのまま掴んでいた“足首”の部分に更に何重もの巻き付きを施しそこをグルグル巻きにすると、蔦の先端は台の方へと斜めに勝手に伸びていき、台の横壁と合流するかのように取り込まれていった。   「うぅぅ……足も……動かない……」  脛下から足首、足底までかけて台から放りだした格好となったルフィーナではあるが、その足を支える蔦は恐ろしく頑丈で彼女が力を加えようともビクともしない……まるで足首より先が不思議な力で宙に固定されているかのよう感覚を受け、ルフィーナはそこはかとなく不安を掻き立てられる。 『別に……逃げようとは思っていないのに、なぜこんな過度に無防備を強要するような拘束を施すの?』  手は胸や股間を隠せないよう万歳の格好で拘束され、脚も揃えて伸ばされ動けないよう拘束されている……確かに抵抗を削ぐための拘束である事は分かるが……だったら、手を万歳になるまで上げさせる意味はない。横や後ろ手に縛っても良かった筈だ……この狭い台の大部分を使ってまで万歳をさせる意味などないのだ。  手を万歳にしたおかげで足先がはみ出てしまっている……身体をこの台の上に納めさせたいならやはり万歳の格好はスペースの無駄であり別の拘束を施すべきじゃないか? と、ルフィーナ本人はそう思っているが…… 「ウフフ♥ これで準備完了ね♪」  ラフラの側は一切そうは思っていないようで、足がはみ出たり万歳の格好をさせる事は想定の内と言った口調で言葉を紡ぐ。  そしてその言葉を言い終えると、ルフィーナを乗せた台のすぐ隣の床の蔦が突然人の高さくらいに持ち上がり、複数の蔦がそれに合流しグネグネと絡み合って……一つの形を成すのが見て取れた。  それは明らかに人の姿をした……何かで……  蔦で覆われたソレは人の如く頭、身体、脚を緩く形成し……気色悪く蠢き合っている。  その様子を引き攣る顔で見ていたルフィーナだったが、いかにその様態が気色悪いと感じても手足が動かせない為逃げる事も叶わない。それが“もどかしい”と感じながらも、蔦の集合体が最終的にどうなるかの成り行きを見続ける事を余儀なくされた。    やがてある程度人の形を形成し終えると蔦が他の蔦に溶け込むようにその厚みを徐々に薄めていき、それぞれが地面へと戻っていく様子が姿が見受けられた。しかし……その蔦が無くなっていくと今度は人の肌を模したような血が通ってそうな身体の一部が見え始め……蔦が全て捌けきる頃には完全に人の姿をした裸の魔物が1体そこに生まれ出たのだった。それを見てルフィーナが驚かないはずもなく、目を丸くしてその姿に感嘆の息を零した。  蔦の繭から生まれて来たかのようなそれは……明らかに人間の肌に酷似しており、それが女性のモノである事を裏付ける様に胸の膨らみや身体の線の丸さを形作っていた。  顔はルフィーナよりも4~5歳は年上の……美人なお姉さんの様な顔立ち。  肌は青白くいかにも不健康そうに見えるが、肌の張りや柔らかさはルフィーナと遜色なく良さそうで……ルフィーナは一瞬その女性が“魔族”である事を忘れてしまうかのような錯覚をそれに覚えてしまう。  しかし、彼女は紛れもなく魔族……  よく見るとその片鱗はいくつも確認する事が出来た。  例えば手……。彼女の手はまだ未完成なのか、蔦の緑色を残したまま形成されていて指先はそのまま蔦の形を保っている。  他にも例えば髪……。彼女の髪もまた、毛の様に細い蔦で構成されていて全ての毛先が意志を持つようにウネウネと蠢いている。植物の女性らしさを示す為か黄色い大きな花を側面に飾り立ててはいるが……その蠢く髪を見てしまうと黄色い花が可愛らしいとは思えなくなる。むしろ、その髪を操る母体である様にさえ映ってしまって気色が悪い。  そして脚……。彼女の脚は完全な人間を模している上半身と違い、こちらも木の根が絡み合って辛うじてニ本の棒を形成しているだけのものとして表現されている。手の構成といい実に雑な表現だと思わなくはないが、これが人間ではなく花の妖魔であるという証明にもなると思うと……まぁ納得せざるを得ない。気色は悪いが…… 「初めまして♥ 私がこの生笑(しょうじょう)屋敷の主であるラフラよ。今後はこの姿であなたの前に現われるつもりだから……毎度驚いたりとかしないでね?」  そう言うと清楚そうな美人顔のラフラはニコリと笑みを零しルフィーナの顔を上から覗き込む。  彼女がほんの少し移動する度に地面からはジュルジュルという蔦の蠢く音が鳴りかなりの嫌悪感を生む。その嫌悪感に気圧されまいとルフィーナはラフラに鋭い視線を向けて言葉を返す。 「しょうじょう屋敷って何です? それは何をする……屋敷なの?」  ルフィーナのその問い掛けにラフラは再びクスリと笑う。そして蔦で形成した人差し指をルフィーナの口端にチョンと当てて、その指先に力を込める。 「生む……笑い……と、書いて生笑屋敷よ。その名の通り……この屋敷は笑顔を生み出して貰うために作った特別製なの♥ 貴女の可愛い可愛い笑顔を摂取するための……ね……」  ググっと力のこもった人差し指はルフィーナの口端を無理やりに持ち上げ、彼女の顔を笑顔の形に仕立てようとする。しかしそれを嫌がる様にルフィーナは顔を横に振り指を振り払うと、ラフラの口上もろとも否定する言葉を怒鳴る様に返した。 「な、なにが笑いを生むよっ! 何が笑顔を生み出すよ! 何も知らないと思って嘘ばかりついて……私を馬鹿にしないで!!」 「あらぁ? 馬鹿になんてしていないわよ? 嘘もついていないし……」 「嘘……じゃない? い、いいえ! やっぱり馬鹿にしてるじゃありませんか!! 誰がこのような恥ずかしい格好を強いられて笑顔など浮かべると思えるのです? その様な事も分からない子供だと思って話しているのでしょう?」  グギギ……グギギ……と手足の枷の役割をしている蔦が音を上げる。あまりの激昂にルフィーナの口調と連動してが手足が抵抗しようと動いてしまう。しかし勿論少女のか弱い力では魔力を帯びたこの蔦を外す事など叶わない。 「えぇ~? “この格好”こそが貴女を“笑いたくなるようになる”原因を作っていると言うのに……貴女ってばまだそれに気づいてないのぉ?」 「こ、この……格好? 笑いたく……なる??」 「そうよ♥」 「あ、あなた……まだ本気で言ってるの? その……私がこんな状況で“笑う”という異常行動をとる……と?」 「異常行動? ううん……それは正常な行動よ? だって……可笑しかったり面白かったりすれば……笑うでしょ? 人間って……」 「そ、それは……そうだけど……」 「じゃあ、貴女もきっと笑ってくれるわ♥ 笑って笑って……力の限り私に笑いを見せてくれる筈♥」 「……っ?? 力の限り……笑う??」  不意にルフィーナの背中に寒気が走った。  ラフラの真意はまだ理解出来ていないが……彼女がしきりに言う“笑う”という言葉はどうやら本気で言っているのだと感じ取れ、そこはかとなく嫌な予感がよぎる。  別に、淫猥な行為をするという事であればこのような遠回しな表現などせずともそのまま伝えれば良いのだ。裸に剥いて拘束したのは淫猥な行為を強要する為だとハッキリ言えばいいのだから……  それをしないという事は……どうやらこのラフラという妖魔は「笑う」という行為に並々ならぬ関心を持っているようだと想像できる。それが分かったのだから……彼女自身の不気味さが更に増し寒気を覚えてしまったのだ。 「もう……。まだ理解してないって……言いたげな目ね?」  ラフラはその様に笑みを浮かべると台の端に腰掛けるように座り、右手をルフィーナの目の前に差し出して話を続ける。 「この屋敷ではエッチな事は一切しない……」  右手が人差し指だけを残し全て折れ、1を示すような形を作って彼女に見せつける。 「エッチな事はしないけど……貴女には笑って貰うわ♥ これからたっぷりと……」  その指先がくねり……宙を引っ掻くように動き始める。それを見たルフィーナは底知れない悪寒に再び身体を震え上がらせる。 「エッチな事……しない……? 代わりに笑って貰うって……なに? どういう事?」 「何って……そのままの意味よ? 貴女にはこれからこの屋敷の中で笑顔を振り撒いてもらおうって思っているの♥ 美人な貴女に相応しくない……下品で汚らしい笑いを……ね♪」 「い、い、意味が……分かりません! 笑うって……なに? 何かの隠語??」 「だから違うってばぁ♥ 隠語でも比喩でも何でもない……これから貴女は“笑う”のよ……人目をはばからず……私の前で……ゲラゲラと……」 「ッっ!? そ、そんな事……有りえません! 私が……貴女の前で……笑うなど……」 「あら、どうして? 笑うなんて簡単な事じゃない♪ こうやって……口角を上げてニィってすれば……」  再びラフラが人差し指を使ってルフィーナの口角を上げようと指を伸ばして来る。しかしルフィーナはそれを拒否するように先に顔を横に振って指を払い退けてしまう。 「あらあら……笑いたくないの? “自分から笑えば”きっと可愛らしい顔になると思うのに……」  手を払われたラフラはその様に言ってクスクスと笑みを零す。  そのわざとらしい笑みに怒りを覚えたルフィーナは…… 「貴女が言ってる事もやってる事も私には一切理解出来ません! しかし、これだけは言えます! 貴女に私が笑顔を向けるなど天地がひっくり返ってもあり得ない事だと! 何故なら、このような辱めを受けて平然と笑っていられるほど私の精神は異常をきたしてはいないのですから!!」  と、きっぱり言ってのけた。それを聞いたラフラは、一瞬表情を真顔に戻し…… 「そう? 天地がひっくり返っても……笑わない……と?」  彼女の言葉を反芻するようにポツリとその様に零した。それに対してルフィーナの方も…… 「笑いません!」  と、きっぱり断固とした言葉を吐いて、顔を横に向かせる。 「それは……自分からは笑ってあげない……って……自分の意思では絶対に笑わないって……そう言っているのよね?」 「と、当然です!」  ルフィーナの断固とした答えを見てラフラ口角をニィと上げて続きの言葉を紡ぐ。 「じゃあさ? ……例えばさ? 自分の意思とは無関係に笑わされそうになったとするじゃない? そういう場面に立ち会ってしまったとするじゃない? そうなった場合……貴女はそれでも笑わないって……断言できる? 笑う事を自分の意思で我慢出来るって……そう断言できる?」 「……はぁ? 自分の意思とは……無関係???」 「自分の意志とは無関係に笑ってしまう……そういう事って、あなたにも経験あるんじゃないかしら?」 「い、意味が分かりません! 笑うのは……私の意志で行う事ですから……それが無関係だなんて……」  そこまでルフィーナの言葉を聞くとラフラは再び真顔に戻って…… 「人は外部から送られる刺激に対して反応する事に、自分の意思を介在させる事は出来ない……」  と、ボソリと呟く。 「(ビクッ!?) えっ??」  その視線に寒気を覚えたルフィーナは体を小さく震わせ、同時に言葉も震わせた。それを見てラフラは真顔のまま話を続ける。 「例えば……口と鼻を塞がれたら息が苦しいと感じるの当たり前の事だし、それを意思だけで拒否する事は出来ない……。痛い事をされれば……貴女の意思がどうであれ脳は痛いと感じるし……痒みを与えられれば痒いと感じる。それを意思の力で感じないようにする事などは出来ない。そうよね?」 「な、なに? いきなり……何を……?」 「同様に……皮膚の弱い箇所を優しく撫でられて……“くすぐったい”と感じる事も脳は拒否出来ない。くすぐったい刺激はくすぐったいまま刺激として伝わってくる……」  ラフラは“くすぐったい”という言葉を強調するように少し声を張ってルフィーナに伝える。  ルフィーナはその言葉を聞いて更に体をビクビクっと震わせてしまう。 「は、はい?? く、くすぐ……ったい??」 「無理やりその“くすぐったい”と感じる刺激を脳に送りつけたなら……貴女はどんな反応を身体に返すかしら?」 「く、くすぐったい……刺激……?」 「ほら、改めてよく見て? 貴女の今の格好は……“裸”よね?」 「あ、うっっうぅ……」 「外からの刺激を守ってくれる衣服は一切身に着けていない……裸……。それが貴女の今の格好よね?」 「うっ……うぅぅ……」 「じゃあ、優しく触られて……“くすぐったい”と思う箇所って……何処かしら?」 「うっ!? そ、それは……」 「そう……“ワキ”とか“足の裏”とかよね?」 「うぐっ!! ちょっっ……う、嘘でしょ??」 「その……触られたら“くすぐったい”って思える箇所を……貴女は今どうされてる?」 「ど、どうって……」 「腕は万歳した格好で拘束されてるから……無防備よね? 同じく足の裏も……」 「ひっ!? な、な、なんで? 何でそんな事……ワザワザ……私に……言うの?」 「なぜって? そりゃあ……決まっているじゃない♥ これから、その無防備にした“弱点”を……コチョコチョくすぐって……貴女の事笑わそうと思っているからよ?」 「こ、こちょ……コチョ?? くすぐるっ!? 私の……身体……を??」 「貴女はさっき“笑わない”って断言してたけど……こういう状況で“くすぐられたら”どうかしら? 笑わないって……まだ断言できる?」 「や、え?? ちょ……き、聞いてない! そんな事するって……聞いて……」 「先に言ったら意地でも拒否するかもしれないじゃない? 抵抗されたら面倒臭いって思ったから、拘束した後にネタ晴らししたの♥ これならどんなに嫌でも逃げられない……でしょ?」 「うっっ!? うぅぅぅぅ……」 「さぁさぁ……笑わないって言ったルフィーナちゃんはどれだけ笑わずに耐え切れるかしらね? あの巫女ちゃんはたったの5分で大笑いしちゃったけど……貴女はそんな根性無しじゃないわよね?」 「っ!? 巫女……? 貴女まさか……私の代わりに送られた巫女にも……そんな事を……?」 「当然よぉ♥ って言っても……あんまり乱暴な事はしない約束だったから、履物だけ脱がして椅子に拘束して……足の裏を少しコチョコチョってしてあげただけなんだけどね?」 「足の裏を……?」 「そう……♥ 裸足にした足の裏をぉ……私の手でコチョコチョ~ってくすぐってあげたの♪ そしたら巫女ちゃん……私に謝りながら笑ったのよ? 生意気な事言ってごめんなさい~! くすぐりだけは許して~って♥」 「あの子……私よりも一つ年上だったはずだけど……本当にそんな懇願をしたというの? 貴女に?」 「えぇ♥ よっぽど足裏が弱かったのでしょうね? 何度も……必死に懇願して来たわ♥」 「懇願して来たけど……貴女は無視した……。無視して続けた……そういう事よね?」 「フフフ♥ 無視はしなかったわよ? 条件は出したけど……」 「条件?」 「やめて欲しかったらルフィーナちゃんの名前と、彼女の弱点を教えなさいって……」 「じゃ、弱点?」 「そっ♥ ルフィーナちゃんは何処をくすぐられるのが弱いのか……それを聞き出したかったんだけど……流石にあまり接点がなかったからなのか弱点は知らない様子だったわね♪」 「そ、そう(フゥ……)」 「でもね……彼女……知ら無いなりにも苦し紛れにこう言ったのよ?」 「っえ?」 「ルフィーナ様は……皆の前で決して素足になりたがらない……足を常に守っているようにも見えた……って♥」 「うっ……うぅ!!(ギクッ!)」 「まぁ……苦し紛れの発言だから、信用に値はしないのだけど……でも試してみる価値はありそうって思ったわ……例えその情報が嘘だったとしても……ね?」 「うぅぅぅっ!? くっ!」 「確かに……ルフィーナちゃんは服を全部脱げと言われても……履物だけは最後まで脱がなかった。促されて渋々脱いだけど……足袋を脱ぐときの貴女の顔はなんだか嫌そうだった……」 「そ、そりゃ……誰でも服を脱げと言えわれれば……嫌がるのは当然です……」 「いいえ。貴女は服を脱ぐときよりも靴を脱ぐときの方が嫌そうだった……靴を脱ぐ時よりも更に足袋を脱ぐときの方がもっと嫌そうに見えた……」 「うっっ……くっ!」 「ルフィーナちゃんは……本当に嫌なのね? 他人に……自分の足を見られるのが……♥」 「べ、別に……そんな事は……」 「何で嫌なのかなぁ? もしかして……普通の女子よりも少し……足のサイズが大きい事を気にしているのかしら?」 「……うっ!?(な、何故その事を!?)」 「ウフフ♥ その反応……図星みたいね?」 「う、うるさい! そんなの……どうでも良い事でしょう?」 「あらあら……顔が真っ赤よ? 私に指摘されて……少し……恥ずかしかったかしら?」 「は、恥ずかしくなんか……ない!」 「私からすれば……立派で素敵な足だと思っているのだけど……」 「あ、貴女に褒められても……嬉しくなんて……」 「そうよね……足が大きいなんて、年頃の娘さんには恥ずかしいと思う事だものね……分かるわぁ♥」 「さっきから……こんな無駄な話を延々としてっ! 一体何がしたいのです!」 「あら……今度は怒っちゃうの? 恥ずかしいから怒って胡麻化しちゃうんだ? 可愛い♥」 「くっっ……こ、このっ!!」 「そうね、この“意識させる焦らし”も……十分に効果を得てきた事だし……そろそろ終わってあげましょうか?」 「意識……させる……焦らし?」 「私と会話して嫌という程分かったでしょ? これから……自分に……どんな事がされるのか……」 「うっっ!? ぐっ!」 「私が足の話をしてる時……貴女は何を思ってた?」 「……!?」 「これからくすぐられるって分かってて……足の話をされたのよ? そりゃあ……意識したわよね?」 「うっ……!? うぅぅ……うぅ……」 「もしかしたら……私……これから……足の裏を……くすぐられるんじゃないかしら? って♥」 「うぅぅっっ!?」 「意識したら……どう? 無性に……足の裏がムズムズしてきちゃったんじゃない?」 「……はぅ!?」 「これから触られるって想像したら……ムズムズ……ゾワゾワ……してきちゃったんじゃない?」 「ちょっっ! や、やめて!! 余計に想像が……」 「不思議なものでね……こうやって……想像を掻き立てられると……くすぐりが効きやすくなるの♥ 想像した時と実際に触られた時のギャップがくすぐったさに直結しちゃうらしいわ♥」 「くっっうぅぅぅ……」 「だから……焦らしたのよ♥ 余計な話をして……貴女の意識を足の裏に向けさせたの♥」 「くぅぅ!! うっ……うぅ……」 「これから……私が貴女の足の裏を……コチョ……コチョ……する……予定だ・か・ら♥」


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