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ハルカナ
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ショーダウンⅡ 『5:対面』

5:対面 『ちょっと! なんでこいつルーレットを通り過ぎてカードの方に向かっているのよっ! ルーレットでイカサマを見破るんじゃなかったの?』  牡丹に連れられてカジノのフロアを案内されている綾香は、入口付近のルーレットが置かれている場所を何事もなかったかのように素通りしたのを見て麗華に小声で慌てる様に尋ねた。 『い、いえ……ですから、彼女はルーレット以外でもイカサマ出来ると申したじゃありませんかっ! わたくしが行った時は彼女は“たまたま”ルーレットを担当されていただけで……』  麗華もルーレットでの再戦を最優先に警戒していたため、牡丹がそのコーナーを通り過ぎて奥へと進んでいくことに困惑していた。 『あんたが、ルーレット ルーレットって騒いだから私も“ルーレット用の対策”をメインで仕込んできたってのに!』 『べ、別に騒いだつもりはありません! 綾香さんだって……全部の対策をすれば良いって仰っていたじゃありませんか!』 『また同じルーレットで勝負するかもって言ったのはあんたでしょうがっ! 私はそれを聞いたからわざわざ埃っぽくて薄汚い小道具倉庫に出向いて準備してやったのよ?』 『“してきたらどうしますか?”と聞いただけですぅ! 同じ勝負するとは言ってません!』 『むぅぅ! ったく……これじゃあ仕込みの意味なかったじゃない!』  綾香はムスっとした表情を顔に浮かべるが、その視線は通り過ぎようとしていたルーレットをしっかりと見据えている。そしてそのルーレットを見た瞬間“ある違和感”に気付き眉をピクリと動かしてしまう。 『あれは……もしかして……? いや、まさか……そんな筈は……』  綾香はその違和感の正体を頭の中で咀嚼し、麗華達に聞こえないよう心の声で呟きを入れた。 「……?」  言い合っていた綾香が急に黙ってしまった為に麗華は彼女の方を向いて怪訝そうに顔を斜めに傾けるが、綾香は彼女の視線を気にも留めず難しい考え事をするかのような表情をして歩みを進めている。  その表情に疑問を持ちながらも麗華も歩みを早めると、いつの間にやらステージの区画を越えカードゲームを遊ぶためのテーブルの並んだ区画へと誘導され、その一番奥の席で待っている紅葉の所まで辿り着いてしまっていた。 「ハロ~~~♪」  っという気の抜けた挨拶がテーブル越しの女性からかけられる。  日焼けした顔に意地悪そうな吊り目……悪目立ちする黄金色の髪は青いリボンにてポニーテールに結ばれた活発そうな出で立ち。口元は白い歯を見せながら何かを企む様な笑みを浮かべ細くしなやかな手はゲームに使うカードをシャッフルしている。  袖の無いディーラー服から出ている二の腕も、ワザと見せる様に開いた胸元も短めなスカートから見える健康的に伸びた太腿も……顔と同じように日焼けサロンで焼いていると分かる焼き色がついていて……見た目にはディーラーというより夜のお店に居そうな“若いお姉さん”がそこには立っていた。 「いらっしゃ~~い♪ 麗華ちゃんとか言ったっけ? ちゃんと私の要望通り綾香ちゃんを連れてきてくれたみたいね……嬉しいわ♥」   カードをラメ入りの爪をキラキラさせながら小慣れた手つきでシャッフルする紅葉は、片方の頬に星形のラメシールを流星に見えるように貼った顔を見せながらニヤリと笑みを浮かべる。綾香は考え事をやめそのカードを切る仕草を早速観察しながらも麗華の代わりに言葉を交わした。 「あんたが紅葉とかいうディーラー? こいつ(麗華)を使って私を呼びつけて……一体なんのつもり?」  そのように尋ねると紅葉はわざとらしく驚く表情を浮かべ綾香に言葉を返す。   「あら……私の事覚えてない? そして何で呼ばれたか理解もしてない? キャハハ♥ 綾香ちゃんって意外と鈍感なのねぇ?」 「ど、鈍感!?」 「私は綾香ちゃんに恨みがある……だから呼んだの♥ そう伝えておいたはずでしょ? それを聞いてもまだ呼ばれた理由に心当たりがないのかなぁ?」 「フン! あんたがゴールドベガスに入社してすぐにカジノが潰れたって事は聞いたわ。その事で私の事を“逆恨み”してるって事でしょ?」 「アハ♥ 逆恨みぃ? 違う違う~♪ これは積もり積もった私の“恨み”よ♥」 「……積もり積もった?」  紅葉の話を聞いて綾香は、ふと彼女の喋り方をどこかで聞いた事がある様な……という既視感を覚える。  お互い初対面の筈なのに……この声と喋り方だけは何処かで聞いたような……? その様なモヤッとした記憶が頭の中で煙を焚くように思い起こされる。 「さ~て、綾香ちゃんにはこれから私の恨みを晴らす罰を余興として受けてもらうだけどぉ……牡丹さん? 彼女のことお願いしてもいいかしら?」  紅葉がそのように言うと、綾香の隣に立っていた牡丹が「はい」と無機質な返事を返し、綾香の腕をガシリと掴んで力を込めた。 「痛っ! ちょ、何すんのよ!!」  綾香がその手を振りほどこうと必死に腕を振ろうとするが、牡丹は紅葉の方をいつもの笑みを浮かべたまま見て微動だにせず綾香の抵抗を無視する。 「ところで〜? 彼女(綾香)を連れてきてくれたって事は……借金を返済する為の勝負をまた受けるという事で良いのよね? 麗華ちゃん♥」 「えぇ。手持ちで2千万用意しました……それで勝負をさせて頂きますわ!」 「へぇ~? あの短い時間で2千万も用意出来ちゃったんだぁ? それって貴女のお金じゃないわよね? だって……8千万の借金はうちが立て替えているんだから……」 「これ以上……敵に借金なんて出来ませんからね! 今日は用意したこのお金だけで借金をチャラにして見せます!」 「2千万で8千万をチャラに? 無理だと思うけどなぁ~?」 「フン! あなたのイカサマを見抜けばチャラどころかお釣りが帰ってきますわ!」 「アハハ♪ まぁ~~た、頓珍漢な事言ってるぅ。前もそんな事言ってボロ負けしてたじゃん♥」 「きょ、今日こそは……絶対に……見抜いて差し上げますわ!」 「ふぅ~~ん? ま、良いけどね? 負け額が1億になるだけだから……」  綾香は二人の会話を聞きながらも紅葉の声を記憶の底から思い起こそうとしていた。この声は絶対に何処かで聞いた事がある! その確信を頼りに、最近の記憶から古い記憶までも遡って思い起こそうとする。しかし…… 『くっ! このムカつく甘ったるい声……どこかで聞いた事があると思ったけど……思い出せない!』  思い出そうと必死に頭を捻るが綾香は思い出せない。喉に引っ掛かった棘があと少しで抜けそうなもどかしさを感じているが……そのあと少しが思い出せるキッカケに巡り合えない。 「さぁさぁ♪ 勝負をする前に“余興”の方も同時に進行しておきましょ? 牡丹さん、準備して貰ってもいいかしら?」  シャッフルしきったカードをカードシューター(混ぜたカードのデッキを保管し1枚づつ取り出しやすくしてくれる箱)に納め牡丹にその様に指示を下すと、牡丹は「承知いたしました」と言葉を零し抵抗する綾香をものともせず腕を掴んだままステージのある中央へ戻引っ張っていった。 「ちょ、無理やり引っ張らないでよっ! ちゃんとついて行ってるでしょ!」  紅葉の言葉以外はほとんど反応を返さない牡丹に文句をつける綾香だがどんなに怒鳴っても彼女からの返事は返ってこない。表情は笑顔で柔らかく見えるのに手の力は絶対に逃がさないという意志を誇示するように強く無言で綾香を引っ張っている。 「ったく、なんなのよっ! 私は別に逃げようなんて思ってないってのに!」  まるでロボットを相手に喋っているかのように言葉を発しない牡丹に不気味さを覚えつつも、綾香はカジノ中央に位置するイベントステージへと足を踏み入れる事となった。  カジノの床より1段高く作られたその半円形のステージの手前まで綾香を引っ張っていった牡丹は、相変わらず彼女に何も説明せず着物の帯に挟んでいた“リモコン”を取り出していくつかのボタンを操作し始める。ボタンを押し終えるとすぐにステージの下から機械の音がゴウンゴウンと鳴り響き、床の下で何かが行われている事をその音で示唆し始めた。 「な、何よこの音……? 下から何か……あがって来てる?」  まるでエレベーターでも上がてきているかのように音が下から迫って来る感覚を覚え、綾香は思わずそのように零してしまう。  しかし、その綾香の感覚は的外れではなかったようで、音が近づいてくるとステージ中央に入れられた3m程の円の切れ目が真ん中から扉を開く様に左右に開き大きな穴をあけて“ソレ”が到着するのを待つ様子が見られた。しばらくするとその穴の下から“何か”を乗せた稼働床が上がって来て、下から運んできた物を綾香達の前にお披露目する事となった。 「こ、これは……!」  ステージの端に登場したそれは、海外で処刑に用いられる“電気椅子”を模して作られたかのような枷やベルトが取り付けられた頑丈そうな椅子だった。  椅子とは言っても形状こそ椅子の形を成してはいるが、その見た目は普通の椅子とは到底思えない歪な改造がいくつも施されていた。  まず、この椅子には手を置いておくための“肘置き”が無い。元々あったのかもしれないが、それは取り除かれてしまっている。その代わりに椅子の背もたれの裏からは1本の太い丸い柱のような物が溶接されて付けられており、その柱の上部には手の拘束用であろう“枷の土台”が固定されている様子が伺えた。  そしてこの椅子を異様たらしめている原因となっている椅子の“脚”部分であるが……この椅子は普通の椅子と違って脚で座面を支えている訳ではない。元々は4本の脚で座面を支えていたかもしれない(今も支えているのかもしれない)が、椅子の脚には正面・左右の三面に分厚い“鉄板”が張られていて椅子の脚がそれによって隠されている状態となっている。  正面から見れば座面から下が鉄板によって支えられているように見える為、その椅子は華奢に見えずどんなに圧力をかけてもビクともしない頑丈そうな椅子に見えてしまう。  実際、鉄板は床に溶接されている為頑丈である事は確かなのだが、そもそもたかが椅子にその様な頑丈さを求める事自体に不可解さを覚える。それ故……綾香の目には一層威圧感のある拘束椅子に映っていた。 「何なのよ……あの椅子……。あんなのどうやって座れって言うの?」  椅子の形も異様さを醸し出しているが、その威圧感を増幅させているのが“椅子の高さ”にあると言える。  およそ普通に座る事を想定していないことを表わすかのように、異常に高さを持たせてある椅子の脚(鉄板)……その脚の高さによって座面は踏み台か何かを使わないと座れない程に高い位置にあって、まるで気軽にその椅子に座る事を椅子自体が拒否しているかのような大きな造りとなって威圧感を強めている。  恐らく“足を宙に浮かせた状態で拘束したい”と考えその様な設計になったと考えられるが……肝心の足を拘束する為の枷が見当たらない。  拘束具がない代わりに正面の鉄板には二つ並びの“丸い穴”が開けられており、それは綾香がその椅子に座れば丁度“膝の少し下”くらいに来るよう調整されているのが伺える。一瞬この穴は何のための穴だろうかと疑問を浮かべる綾香だったが……脚用の拘束具が無い事を考えると、その穴に足先を入れて鉄板の裏に足が来るよう仕向けるのだろうなと容易に想像が出来る。 「では綾香様……。まずはこの場で履物を脱ぎ、裸足になって頂けますか?」  椅子が準備完了となったタイミングで、今まで無言だった牡丹がようやく綾香の方を向きにこやかにその様に伺いを立てる。  椅子を見て圧倒されていた綾香は突然かけられた言葉にビクリと体を反応させ顔を引き攣らせながら牡丹の顔を見返す。 「は、裸足? ココで?」  綾香がその様に聞き返すと、牡丹は無言で頭を縦に振った。そして、強く握っていた手も放し、綾香が自分で裸足になる事を妖しい笑顔のみで促した。 「それ……もし“嫌だ”って……言ったら?」  試しに裸足になる事を拒否する言葉を発したらどうなるかと思いそのように返してみるが、牡丹は表情一つ変えず無言で綾香を見下ろし続け威圧感だけを高め続ける。背の高さも相まってその無言があまりに綾香の不安を煽った為……綾香は渋々言う通りに、履いていた赤いハイヒールを自ら脱ぐという作業を始めてしまった。 「ね、ねぇ? 裸足って……パンストも脱がなきゃ駄目なの?」  折角赤いチャイナドレスに合わせて脚をセクシーに見せる薄黒いパンストを穿いてきたのに……と思う綾香だったが、牡丹はそのパンストも脱げと言わんばかりに無言で頭を縦に振って綾香に返事を返す。綾香はその事務的な返事を見てチッと舌打ちを返し、再び仕方なしといった態度でドレスの下裾から手を突っ込んでスルスルとパンストを目の前で堂々と脱いで見せた。   「これで良いんでしょ? で、次は?」  パンストをハイヒールの上に乗せ、生足で床を踏みしめる事となった綾香は不機嫌そうな顔を浮かべたまま牡丹を睨み次の彼女の言葉を待つ。 「では、こちらに用意した踏み台を使って椅子に座って頂けますか?」  綾香は言われるままに用意されていた3段の踏み台を使って高さのある椅子の座面に尻を運び、大人しくその座面に腰を落ち着けさせてみた。分かっていた事だが椅子に座る姿勢を取るとやはり足は地面に着く事はなく宙に浮く形となり、膝下のふくらはぎの部分には例の穴が開いている感触を感じられ綾香は明らかに不快そうな表情を顔に浮かべる事となる。 「そのまま……開いた穴に足先からゆっくりと足を奥まで入れて行って下さい」  綾香はその様に促され不快を露わにした顔は崩さず、まずは右足からとその狭い穴へと足先を尖らせて入れ込んでいった。  正面の鉄板にはかなりの厚みがあるようで……見た目以上に穴は長く開けられており、斜め下に向かって進ませる足先はしばらく穴の中を進む事を余儀なくされた。 『くっ! 椅子の下に虫とか入れていたら承知しないわよ!』  長い穴を足先が抜けた事を感じると、綾香の足は足首から先を穴の先の空間に出す事となった。  綾香は椅子下の空間を素足に感じる空気感にて敏感に感じ取り、そこに懸念した虫や動く物の気配を感じない事にひとまずの安堵を零した。  続けて左の足も同様に穴の中へと入れていくと綾香の座り姿勢は“膝下から脚を斜め下に伸ばした格好”となってしまうが、正面から見た綾香の脚は分厚い鉄板のせいで足先の状況が見えず彼女がどういう状態になっているのか見ただけでは判断できない。  それは綾香自身も同様で、正面のみならず左右にも張られていた鉄板が彼女の視界を邪魔しているせいで自分の足先の状態や椅子下の状況を確認する事も出来ない。言い換えると綾香は“中の確認が出来ない箱”の中に足を突っ込んだと言っても過言ではない状態であり、見えない事による不安は足を穴に入れ込んだ後に改めて湧き上がる事となった。 「ほら、足を入れたわよ!」  綾香が次の行動を急かすように声を荒げると牡丹は無言で“椅子の後ろ”の方へと進んでいって、唯一鉄板の無い椅子の背後から姿勢を屈めて座面の下へ潜り込んでいった。  突然自分の座る椅子の下へと入っていった牡丹に“足に何かされるのではないか”と感じ綾香は背筋に嫌な寒気を覚えて顔を引き攣らせてしまう。  自分の尻のすぐ真下に牡丹の入り込んでいく音が気配となって感じ取れる。そして、その気配が手を伸ばして自分の足を触ろうとしていることに気づき、綾香は足先を緊張させてしまう。  もしやそのまま……足裏を触るつもりではないか? と警戒したが、牡丹は手を足裏ではなく足首に触れさせ綾香の足を捕まえる仕草を取った。   「ぅひゃっ!? ちょ! 冷たっ!!」  氷の様に冷たい牡丹の手先が右の足首に触れ、そのままそれを掴む感触がした。その瞬間綾香はビクンと身体を跳ねさせ素っ頓狂な悲鳴を小さく上げてしまう。 「動かないで下さい? 今から拘束しますので……」  見えない座面の下から牡丹の静かな声が鉄板に反響して聞こえる。綾香はそう言われても足先をジタバタさせて抵抗を試みるが、足首を掴まれている為大した抵抗にはならない。  牡丹は予め穴の裏に設置してあった“手錠型の枷”に、掴んだ手とは逆の手を移動させその手錠の輪をガチャリと綾香の足首に軽く噛むよう閉め、鍵をかけて固定を施した。 『くっ! 足首に何か枷が付けられたっ!?』  穴の縁に沿うように溶接されていたその手錠型の枷は足首に食い込むと穴以上に輪を狭めてしまう為、綾香は足をどんなにすぼめて穴から足を抜こうと思っても枷が邪魔をして抜く事が出来ない。  足先を色々な方向に動かしてバタつかせたりしてみてどうにか足を穴から出そうと試みるが、手錠型の枷が穴の出口に固定されていてはどんなに足先を動かしても足は穴から抜ける事はない。それが分かった綾香は、まだ枷が付けられていない反対の足だけでもどうにか穴から出しておこうと左足を動かそうとするが、牡丹は右足を拘束し終えると「逃がしませんよ」と言わんばかりにすぐに綾香の左足首を掴んでその動きを封じてしまう。  やがて、足をバタつかせて抵抗しようとする綾香の妨害を無視して牡丹は左足首にも同じ枷を取り付けてしまう。  これにより左右の足は完全に穴から出せなくなってしまい、綾香がどんなに足先を暴れさせても穴からは自力では決して抜け出せないという状況に仕立て上げられてしまった。 『ムフフ♥ 足をジタバタする様子が……私を誘うように踊って見えますね~♪ とっても官能的で……素敵です♥』  牡丹視点で綾香の足を見ると、鉄板の途中から綾香の足裏だけが生え出ていて、そこに晒されているという風に見える。その足が穴から出ようと必死に藻掻くが、足首の枷がその抵抗を殺してしまう為足は虚しく左右に振る事しか出来ずその動きが牡丹には妖艶に誘いのダンスを踊っているかのように見えている。  しばらくその足裏のダンス(無駄な抵抗)を堪能した牡丹は、思わず口端に垂れてしまっていたはしたない涎を腕で拭い……興奮していた顔に再び張り付けたような笑顔を顔に作り直して椅子の下から這い出していった。 「はい。これで足の拘束は完了です」  椅子下から出て再び正面に戻った牡丹は、どうにもならない足をどうにかしようと躍起になっている綾香にその様に言葉を送って椅子の真下に置いたままになっていた踏み台に脚をかけていく。 「次は手の拘束をさせて頂きますので、腕を万歳の格好にして待っておいて貰えますか?」  踏み台を踏みしめつつその様に言う牡丹に綾香はキッと睨む視線を向けるが、彼女はどこ吹く風の涼しい顔でその視線を無視し踏み台を登り切ってしまう。  そして、綾香が手を上げようとしない様子を見ると口から「フフ」と不敵な笑いを零して、彼女の二の腕を指先でツツ~っと撫で上げてみせる。 「ひゃっっ!? ちょ、な、何すんのよ!!」  二の腕がゾワゾワと沸き立ち思わず小さな悲鳴を上げてしまう綾香。腕には鳥肌が立ち、触られた感触が寒気となって全身を襲い綾香を困惑させる。 「う・で♥ 上げてくださいますか?」  勝手に触った事を悪びれる様子もなく牡丹はニコリとした笑みを崩さずその様に綾香に言う。それを受けて綾香は敵愾心を剥き出しにした目で牡丹を睨むが…… 「自分で上げられないのでしたら……お手伝いいたしますよ? 無理やりになってはしまいますが……」  その様に言って牡丹が再び手を綾香の腕に近づけそうになったものだから、これ以上触られたくないと強く思った綾香は慌てる様に手を少し上げ、自分で上げるという意志を牡丹に無言で告げた。 「フフフ♥ そのまま……両手を真っすぐに上げて頂きまして、頭上にあるあの枷の土台に手首を合わせて待っていてください?」  腕を上げていく延長線上には先程見た“ポールに溶接された枷の土台”が頭上より遥か上に設置されているのが見える。そこに手を運ぶとなれば肘を少しでも曲げていると届かない程に高さがギリギリである為、綾香は渋々尻を少し浮かせ限界まで腕を伸ばし切ってようやく両手をその枷に届かせる事となった。  綾香がそのように頑張って手を枷に届かせている様子を見ている牡丹は、いつの間にか用意していた“手枷用の蓋”とそれを固定する太いネジを手に持ち、綾香がしっかりと手首を枷の土台に置き終えるのを待っていた。  そして綾香がどうにかこうにかその枷の土台に手首を置いたのを見届けると、彼女も両手を伸ばして枷の土台に持っていた蓋を被せようと行動を開始する。 「そのままの姿勢をキープしてください? すぐに終わりますので……」  そう言って枷の土台に上から蓋の枷を被せた牡丹は、手際よく枷の左右と手首の間にある穴にネジを差し込み、手でそのネジをある程度回して緩く固定を行った。その後すぐにスパナのような工具を取り出して、緩めに固定されていたネジを更に締め直して綾香の手首を枷が軽く食い込む程度に締め方を調節していった。 「くっ!! ちょ、この体勢……きついんだけど!」  二繋ぎの手枷が完全に綾香の手首を拘束し終えると綾香はその枷に体重をかける事が出来るようになるが、手を伸ばす為に尻を少し浮かせた状態になったままであり座面に体重を預けることが出来ていない体勢だ。枷の裏には緩衝材として綿のような物が取り付けられていて食い込む痛みは緩和されているが、枷に体重を預けるとなるとその手に負担が乗ってしまう為中々にしんどくなる。  綾香はその事を訴えようと声を上げるが、牡丹はその訴えを無視しつつ今度は綾香の股下の位置にに用意されたベルトを手に取ってそれを巻き付ける作業を行い始めた。 「ちょっと! 今度は何? ベルト??」  脚の股の間から伸縮するベルトを引っ張り出して、そのベルトを右と左の両方の太腿に巻き付けていく牡丹。彼女はそのベルトを椅子の座面に用意された専用の穴に先端を差し込んで、最後の仕上げにとリモコンを取り出して座面の中にある機械を駆動させる。すると、ベルトは自動で長さを調節するように綾香の太腿に食い込んでいって、彼女の太腿や浮いていた尻を強制的に座面に押し付ける体勢を強い始める。 「ぐっ!? い、痛っっ!!」  尻を浮かせてまで手を伸ばし切っていた綾香にとっては、このベルト座面に押し付けるような拘束は“尻を浮かせて得ていた腕伸ばしの猶予”を完全に奪ってしまう結果となり、伸ばしていた腕が更に限界まで伸ばされ上半身の側面がピリピリと痛む感覚を彼女は味わう事となる。食い込む手首の枷は痛みを発するギリギリの所で彼女を拘束し、伸ばした腕の筋は完全に伸びきってしまう格好となった。  その様なギリギリの拘束を強いられた綾香は手や足をジタバタさせたり身体を捻ったりしてみて自身に可能な可動域を確かめてみるが、無駄に身体を動かせば思った以上に痛みを発してしまう事に気付かされ抵抗する事を諦めざるを得なくなってしまった。 「フフフ……綾香様のお美しい腋ぃ♥ 隠せなくなってしまいましたねぇ?」  イリュージョンを不自由なくこなせるようにと特別に作られた袖を大きくカットしたショー用の赤いチャイナ服……袖が無いだけでなく腋の部分をV字にカットしている為、両手を万歳の格好で腕を上げてしまうとその腕の根元である“ワキ”から“胸横”までが大きく露出する事になる。  ショーの間、誰に見せても良い様にと綺麗に手入れされた綾香の透き通るような美しい腋……。その腋は今……頭上に用意されていた枷によって腕を上げさせられ、腋のみならず胸横の膨らみさえも僅かに見えてしまう程の無防備を晒してしまっている。  こんな事ならちゃんとした長袖のドレスを着て来るべきだった……と綾香は後悔するが、その時はその時で別の衣装を用意されていた可能性もあっただろうと思い直し観念せざるをえなくなる。  足は裸足にさせられるし……腋は見られ放題の格好にさせられている……。これはまるで二年前の麗華達による仕置きの時にされた格好と大差ない……と、思い出したくもない過去を思い出しつつ綾香は苦々しい表情を浮かべて、そこはかとなく湧き上がってくる不安を悟られないよう口元を強く結ぶ。  そんな綾香の内心など気にも留めず、牡丹は何の遠慮もせず綾香の腋を匂いが香り立つ距離まで顔を近づけしげしげと見つめている。そのまま舌でも出して舐めるのではないかと思える距離感で見られているものだから……綾香は急に腋の筋がムズムズと痒くなっていく感覚を覚え、思わず身動ぎしたい衝動に駆られてしまう。  その視線が……恥ずかしくて堪らない。見られたくない箇所をじっくりと見つめられているというその感覚が、綾香の羞恥心を激しく刺激し……思わず“腕を下げたい!”と衝動的に思ってしまう。しかし腕は降ろせない……腕を降ろして隠したくても、枷が手を降ろさせてくれない……それが酷くもどかしい……。 「恥ずかしいですか? 私に……こんな風にじっくり……腋を見られて♥」  囁くように耳元に言葉を入れて来る牡丹に綾香はキッと強気な睨み目を向ける。  早く離れろ! と言わんばかりのその睨みに、牡丹はクスクスと笑いを零しながら「はいはい♥」と言って顔を離していく。 「フフフ……楽しみですね♥ 綾香様のその睨むような顔が無様に歪む姿……早く拝みたいものです……」  牡丹は綾香をその様に煽る言葉を残しながら踏み台から降りていった。  綾香は当然その言葉にも怒りを覚え睨む目を更に強くさせていくのだが、ふと……自分の正面に牡丹とは別の人の気配を感じ取り、憎しみを乗せた睨み顔のまま顔を上げその方を向き直った。  綾香の拘束された台の正面にはいつの間に移動してきたのか……紅葉と麗華が立っていた。  腕を組んでニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる紅葉と、気の毒そうに渋い顔をして見せている麗華……。  二人は綾香の拘束される様を見学する為に、カードゲームのコーナーから足を運んできたのだった。


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