時間は遡り───
ハロウィン1週間前の出来事。
ナツキがシティーソルバーとして守っている街、蒼栄市はハロウィンの準備で街に賑やかさが出てきていた。
元々、ハロウィンとは──
古代ケルトの人々が夏の終わりと冬の始まりを告げる祭りとして火を焚き、死者の霊や悪しきものを追い払ったことに始まる。
この夜は「この世とあの世の境界が最も薄くなる」と考えられ、死者の霊が家族を訪れると信じられてきたそうだ。
やがてキリスト教の諸聖人の日と結びつき、今では子どもたちが「トリック・オア・トリート」と家々を回り、街全体が仮装と灯火で彩られる──。
不気味さと楽しさが交差する、一夜限りの祝祭になった。
と、ナツキに話をしたところで 「へー、そうなんだ!相棒って物知りだよね!」 と1行の感想で終わってしまった。
彼女のお目当ては子供たちと同じくハロウィン限定のスイーツで、カボチャ味か栗味で頭を悩ませている。
「どっちがいいかなー……むむ、どっちも食べたいんだよな…」
こんな調子では、今日は高級アイスの季節限定バージョンをどちらにするかで悩んでいた。
「どちらも選んでは?」
パトロール任務で同行していたコトハがナツキに尋ねる。
ナツキ、コトハと彼女たちの信頼を得た俺は、あれ以来【異胎機関撲滅班】の隊長として彼女たちを束ねる命を受けていた。
隊長と言っても、なにも役職が上がったわけではない。単に“面倒事”が増えただけである。
ただ、交流するうちに彼女たちのことが気にかかるようになったのは事実だったので、仕事として対応できるのはありがたいことでもあった。
「でも、それだとせっかくの楽しみがなくなっちゃうじゃん。もっと長く楽しみたいんだよね、あたしは!」
わかるような、そうでもないような理屈を述べる。
「悩めるうちに悩めばいい、1週間もすればまた忙しくなる」
「また、ハロウィンに機関は動いてくると」
「大方そう見てる」
アイスの看板の前で悩むナツキをよそに、俺とコトハは真剣な会話を口にする。
「人が大勢集まる時には、大抵裏で何かがある。特に今回はハロウィンだ、仮装にかこつけて機関がなにか仕掛けてきたら面倒なことになる」
「対策が必要ですね」
「あぁ」
「対策もなにも──」
ナツキがこちらを向く。
「やるだけでしょ、あたしたちは。街を守るシティーソルバー(解決人)なんだから」
ナツキの顔は、すっかり街を守るヒーローの顔つきになっていた。