SamuZai
栞

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(仮)私だけサイズアップな件

 フォームミルクがなめらかに広がるカップが乾愛乃《いぬいまの》の前にそっと差し出される。ふわりと立ちのぼる、甘く香ばしいキャラメルの香り。

 目の前に立つメイド姿の女の子が慣れた手つきでキャラメルソースの入ったボトルを開き、流れるような線を引いていく。愛乃はテーブルの下で掌をデニムパンツに押し当てて汗を拭きとると、気づかれないようカップから彼女に視線を移した。

 飾り毛が豊かな犬耳のカチューシャ、内に巻いた栗色のショートボブ、黒と白を基調としたメイド服。さらに視線を落とすとクラシカルなメイド服本来の清楚さを打ち破る、大胆なへそだしルックが目に入った。すっと引き締まった腹部は彼女が屈んでも縦へそを保っている。

 ──あげは。愛乃と特に仲のいい、コンカフェ・パピーズのキャストの名前だ。店内でも抜群のビジュアルを誇る、包容力にあふれるおっとりした雰囲気の同年代の女の子。

 あげはがキャラメルラテの仕上げに取りかかるために目を細める。それを確認した愛乃はオーバーサイズのカットソーの上から所狭しとはみ出るお腹に左手をあてがった。

 やっぱりあげはは可愛い。顔も整ってるし何よりスタイルが鬼のように良い。どんな生活を送ればこんなスラっとした身体が作られるんだろう?このバイトは勤務中にドリンクを飲むことも多いだろうに。それに比べて今の私の体たらくは……。

 不意にあげはがこちらを見た。ラテの「おえかき」がちょうど終わったようだ。

 やばっ。おへそガン見してたのバレてないよね?

 しかしあげはは見逃してはくれなかった。お腹を両手で覆い、背中を丸めておどけた。

「確かこうすれば取られないのよね?」

「私は雷様か」

 大げさにツッコみ、しばし二人の間に笑いが生まれ静まっていく。

 ふと愛乃の胸がキュッと縮こまる。そう、今日だけは楽しく話しておわり、じゃないんだから──。

 愛乃はカップを両手でだいじそうに包み込み、そっと目を落とした。かわいくシンプルにデフォルメされた長毛種の犬、パピヨンが描かれている。あげはの手先の器用さには毎度感心させられるが、今日は崩すのがことさらにもったいなく思えた。

 じっくり眺めたのちにキャラメルラテに口をつけ、今度はすっかり見慣れた店内に目をやる。木製のシャンデリアがレンガの壁や年季の入ったテーブル、ジュークボックスを明るく照らしている。なんでも昔のイギリスをモチーフにしているのだそうだ。

 目を閉じ、代わりに耳を澄ます。向こうのテーブルからおっさん客が「田端から来てんのか!あそこのアトレはなんであんなちっさいんだ?最初コンテナかと思ったわ、がはは!」とご機嫌に笑い飛ばし、キャストが「ちっこいよねぇ」と流しているのが聞こえた。

 思わず顔をしかめる。まったく、今日に限ってとんだハズレ客。ちなみにアトレとはイオンみたいな駅チカの商業施設だ。あっちの会話は聞くに堪えないので、BGMに集中する。

 ちょうどビートルズの『ジ・エンド』に変わったところだった。まるで私とあげはの今後を予期しているかのようだ。

 ちゃんと伝えなければ。私は当分ここには来れないと。全部全部、名残惜しいけど……あ、あのおっさんは例外ね。

「……どうしたの、愛乃ちゃん」

 覚悟を決めた途端、震えた声が耳に入ってきた。いつの間にか隣に座っていたあげはが心配そうに愛乃の顔をのぞき込んできている。

「涙出てる」

「……え」

 自分でも驚くほど間抜けな声が出た。そっと目元をぬぐうと確かに指が濡れていた。

 え、ほんとに泣いてる。みるみるうちに頬に熱が集まり、愛乃は眉間にしわを作りもう一度ラテを口に含んでみせる。

「あっつぅ! これめっちゃ熱いんですけど!」

 あげははくつくつと笑った。

「いつもよりじっくり鑑賞してくれてたのに?」

 愛乃には依然探るような目が向けられている。小手先の演技であげはを欺くことはできないようだ。

 簡単に欺けないのは愛乃のきもちも同じだった。どうやら、およそ8か月間通いつめて仲を深めたあげはに唐突に「当分こない」と言うのはそう簡単なことではないらしい。愛乃の涙がそう物語っていた。

 いや、そもそもこんなこと言う必要があるのだろうか?柄にもなく愛乃は思いあぐねる。コンカフェなんて、しょせん客と店員の関係だ。そんなに言い出すのが辛いならいっそ、このままいつものように帰ってしまってもいいのでは?

 ──そうだ、それでよかったんだ。

 腹を決めるかのように残りのキャラメルラテを一気に流し込んだ。

「お会計おねがい」カップを置き、何事もなかったかのように席を立とうとしたその時だった。

「今日はいつもの服じゃないんだね?」

 あげはの言葉に動きが止まる。

「え⁉ なに、急に」予想だにしなかった言葉に口ごもってしまう。

「ほら、いつもの黒とピンクのガーリーな」

「地雷系でいいって。……別に?気分」

「ねえ」

 神妙な声色に切り替わる。

「……何?」

「やっぱり何かあった?」

 あげはのやわらかい声が響く。まるですべてお見通しだと言わんばかりに。

 結局、言い逃れはできないか。愛乃は目を閉じ、深く息を吐いてからあげはに向き直った。

「私、しばらくここには来ない」

 目を見開いて固まるあげは。気まずさに負けて視線を胸元に落とす。まずい、また涙が出てきそうだ。

「あの服なんだけどね、入るのがなくなっちゃった。ほら、ここで私けっこう甘いもの食べて帰るでしょ。それで……っていうのもあるしただお腹満たすためならこういうとこは割高じゃん。正直金欠でさ。少ない手持ちでお腹いっぱいにしようと思ったらコンビニの惣菜とかホットスナックに手を出すしかなくなるわけ。……さすがにこのままだとヤバいっしょ。だから、当分会えない」

 愛乃の瞳が涙でにじむ。ちゃんと事情は伝えた。きっとあげはも分かってくれるはず──、

「や、やだぁ……」見上げるとあげはは両目に涙をいっぱい溜めていた。「もう来ないなんて言わないで……うぅっ」包容力あふれる普段の彼女からは想像もできない、捨てられた子犬のような弱弱しい姿に愛乃はただ当惑するばかりだった。

 あ、あげはさん?なんかキャラ違いません?完全にこっちの涙引っ込んじゃったんですけど。それともあれか?今私は熱烈な営業を受けているのか?でも客に泣きつくなんてさすがに聞いたことがないし。と、とにかく場を収めないとマジの出禁になるかも……。

 ハッとあたりを見回すと、さっきのアトレのおっさんが「姉ちゃん、やっちまったな」とでも言わん限りの視線をこちらに送っている。とんでもない屈辱だ。

「ちょっ待って! 当分つったでしょ⁉ やめてよ私が泣かせたみたいになってるから!」

「うぅっ……愛乃ちゃんが来ないなんて言うから……」

「そうだけど! てか理由聞いてた⁉ 太っ…金欠なんだっての!」

「そ、それなら、」

 ど……どうくる?最後に記念の店外デートか?でもそういうの禁止されてなかったっけ?まあ、私はあげはとならやぶさかでないけど──、

「ここで働こうよぉ~~!」

「……は?」

 予想外の提案に愛乃の思考が一瞬とんだ。

 私がはたらく?コンカフェで?いや待てよ。たしかに金欠問題を解決しつつ、堂々とあげはと一緒にいられる妙案だ。でも……

 私みたいな子がはたらいていいの?

 そう口に出しかけて思いとどまる。高校時代の私服のすべてを過去にした今の愛乃ではメイド服なんて似合うはずがない。それは百も承知だ。

 でもここで「私がメイド服なんて着ていいのかな?」って言ったとたんに我に返ったあげはに「あっ……愛乃ちゃん、本当にごめん」なんて返されたら?もはや恥ずかしいとかいうレベルではない。これは人としての尊厳の問題だ。

「面接の日程、組んでもいいかな?」

 さきほどまで涙ぐんでいたあげはは、今や前のめりになって目を輝かせている。

 もう降参だ。どうにでもなれ。

「……分かったよ」

 愛乃の右手があげはの両手で包まれ、胸にぎゅっと抱き寄せられる。店内のBGMはいつのまにかビートルズの『カム・トゥギャザー』に変わっていた。


 もわっとした熱気が頬をなでる。八月に火を使うとこうも暑いのか。じっと立っているだけで汗が噴き出てくる。

 その日の夕方、愛乃は自炊するために久々にキッチンに立っていた。メイドの面接を受けるにあたっての、せめてもの抵抗である。

 でも、まさかこんなことになるなんて……。野菜スープの鍋をかき混ぜながら目を閉じてふぅとため息をつく。そして瞼の裏であげはを想った。

 彼女と出逢ったのは約八か月前。大学一年の十二月、クリスマスが本格的に意識されはじめる時期のことだ。

 愛乃は秋葉原のとある雑居ビルの廊下を力なく歩いていた。つい二週間前に高校からの彼氏に「他に好きな人ができた」とフラれ、失意のなか大学の友人に誘われた今日の合コンでもついさっき大敗を喫したばかりだったのだ。原因はずばり体重の増加だ。

 大学に入ってからというもの、愛乃は一人暮らしの自由をほしいままにしていた。朝は時間の許す限り惰眠をむさぼり、その日最初の講義の二十分前にようやくマンションを出る。徒歩三分の大学に着くと生協で適当な菓子パンとカフェラテを購入し、講義が始まるまでに急いでお腹に入れていた。家に帰り夕飯時になればストックしてある即席めんに湯を入れ、飽きがきたら近所の定食屋に足を運ぶか、それも面倒なときは贅沢にもUberEatsを利用していた。そんな生活を続けていたためにわずか八か月で高校時代から15キロもの増量である。

 今日のことはさっさと忘れよっ……。

 少しでも早く先ほどまでいた居酒屋の喧騒から離れようと、愛乃はエレベーターに駆け寄った。ちょうど閉まるというタイミングで、中の人と一瞬だけ目が合う。ちいさく会釈したのが見てとれた。エレベーターのランプが「3」から「2」に変わった。

 おい、今の会釈は「すみません」かよ。絶対詰めれば私乗れただろ。

 ムカついたが、また昇ってくるのを待つのもみじめに思えたので階段を使うことにした。慣れない運動に足首がきしむ。せり出たお腹のせいで重心がずれているのか、階段を下りるだけなのに危なっかしい。やっぱりエレベーター待っとけばよかったな。すこし後悔しつつ二階に着いた愛乃の視界に、ふとアキバ離れした雰囲気の藍色のとびらが映った。

 妙に惹かれて近くに寄ってみると、けっこう年季の入ったとびらだった。しかし埋め込みのガラスはよく磨かれており、『Café Puppies』という文字と子犬のシルエットが白く描かれていた。

 ああ、この子犬が気になったのかと愛乃は納得した。愛乃は自他ともに認める犬好きなのだ。もしかしてワンちゃんと触れ合える犬カフェ?それだったら入ってみようかな……。

 店前の黒板になにか書いてあるのでそちらにも目を向ける。

『当店では、個性ゆたかなワンちゃんたちがご主人様のあなたにご給仕します。彼女たちの振りまく無償の愛にどうぞ癒されてください。ほら、今日もあなたの帰りをしっぽを振って待っていますよ』

 最高だ。一言一句が愛乃の心に刺さっていた。犬好きの愛乃にとっても、彼氏に、合コンの男たちに、ひいてはエレベーターの赤の他人にまでそっぽを向かれた愛乃にとってもこの黒板の言葉はさながら福音だった。

 愛乃が藍色の扉を軽快に押し開けるとカランコロンと鈴が鳴り、つづいてどこか懐かしい雰囲気のロックサウンドが出迎えた。

 店内はそこまで広くなく、どことなく隠れ家を思わせる。奥に長い間取りで、L字型にカウンター席が伸びていた。左にはテーブル席が三つに、ソファが壁に沿うかたちで備え付けられている。全体的にレトロな雰囲気で、点々と置かれている調度品も年代物だろう。

 あまりに時代の隔たりを感じるし、正直愛乃の趣味からは外れていたが、そんなことはどうでもよかった。それより──、

「あ、あれ。ワンちゃんは……」

 犬カフェのはずが、どこにも犬の姿が見当たらないのだ。カウンター席にはひとりお客さんがいるし、その対面ではメイドの女の子がドリンクを作っている。でも肝心の犬がいない。そもそも犬の匂いすらしない。

 ……あれ?よく見ると女の子は頭になにか付けている。違和感が輪郭をなしていく。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 たおやかな声が響いた。気が付くと、愛乃の目の前に一人の女性が立っていた。頭には、見逃させないとでも言わんばかりに立派な犬耳のカチューシャ。

「お出迎え担当のあげはです!お嬢様のお帰りをしっぽを振ってお待ちしておりました」

 ……どういうこと?

 愛乃は数秒間かたまった。犬耳の女の子がお出迎え?しっぽを振って……?違和感が確信に変わっていく。これってもしかして──藁にもすがる思いでたずねる。

「えーっと、すみません。ワンちゃんってどこにいるんですか?」

「えっ?」

 あげはと名乗る子が瞬きをして小首をかしげる。

「いや、その、ワンちゃんと触れ合えるんですよね? 私、犬がすきで──」

「……あぁ!」

 あげはが手を打つ。

「うちは犬コスのコンセプトカフェなんですよ」

 

 結局、促されるままに席に座ってしまった。無駄な出費は避けたいし、恥をかいた現場から逃げ出したい気持ちもあった。しかし、とんちんかんな質問をしておいてそのまま退店するという醜態をさらす方が愛乃には耐えがたかったのだ。紙おしぼりをもらい、てきとうに相槌を打ちながらメニューの説明を受ける。

 幸い、いわゆる「萌え系」のコンカフェでないことに安堵した。今の心境で例の呪文に付き合わされても愛乃の心はキュンキュンというよりキュッと締め付けられるに違いない。

 店内の落ち着いた雰囲気も手伝って、犬カフェと間違えたショックがだんだんと癒えていく。せっかくならこの場を楽しもうという方向に愛乃はシフトしつつあった。ビニールを裂いて温かなおしぼりを取り出す。おすすめメニューをにこやかに紹介するあげはの顔に目を向けた。落胆……というより動揺していてすっかり気づかなかったけど、この娘、なかなか顔面レベルが高い。

 シュッとしたフェイスラインに切れ長の目。これだけだととっつきづらい印象を抱きかねないが、柔和な表情とおっとりした口調がそれを補って余りある。この子になら今日のこと話してもいいかな。いやあ……でもやっぱりワンちゃんのほうが良かったなぁ。物言わぬ動物だからこそ気兼ねなく話せることもあるってもので。

「ふふ、真剣に悩まれますね」

 とっくにメニューの説明を終えたあげはが隣でほほ笑む。そうじゃないっての。ちょっとこの子天然っぽいな。

「あーごめん、ちがくて。今から考えるね」

「あら、じゃあさっきのは……恋のお悩み、とか?」

 急に図星をついてきた。でもね、私みたいな年頃の子の悩みなんてだいたい恋愛についてなんだ。住まいが東京とバレたところで焦る人間はいない。ならば飄々と認めるのが吉だ。

「ま、そんなとこ」

「やっぱり!ねぇ、もしよければ聞かせてほしいな。相談も愚痴も、どんと来いよ」

「え~どうしよっかなぁ」

「ちなみに私の見立てではね、彼氏と別れて心機一転合コンに参加するも戦果なし……ってところかな」

「そーなの!ちょっと聞い──」

 ──あれ?今なんつった?彼氏と別れて心機一転合コンに参加するも戦果なし?さすがにドンピシャすぎない?都道府県から数段飛ばして部屋番号特定してきたぞこのエセ天然女。

「……なんで、知って、るんですか」すこし後ずさって、一昔前の人工知能のようなたどたどしい口調で聞く。

「え、え、もしかして今の当たってたんですか!?」

「だからビビってんだって……! ここのコンセプトほんとに犬⁉ ほんとはマジックかなんかでしょ⁉」

「まさか、犬です!断固!」上ずった声で否定するあげは。咳払いをひとつしてから彼女はどこか遠い目をして続けた。

「高校時代の友人のクセだったんです。おしぼりをこよりみたいにねじって、人差し指でくるくるするの」

「え……」

 ハッと机に視線を向ける。紙おしぼりが触覚ヘアのようにカールに巻かれている。

「ファミレスで彼女が恋愛の愚痴をこぼすときはいつもそうやってました。特に先輩の彼氏と上手くいかなくなって別れちゃって、合コンに行ったけど全然いい人いないよーっていってた時はそれはもうくるんくるんでした。その子とおんなじことされていたので、もしかして、と思ってたわむれに言ってみただけです。まさか図星だったなんて……怖がらせてしまってすみません」

 あげはが伏し目がちに謝る。愛乃は一方的にフラれただけだし、戦果がなかったというのも愛乃が合コンでモテなかっただけ。愛乃が一段劣るかたちでその高校時代の友人とは細かいところではいろいろと異なる点があった。こういう話題は普段なら劣等感でいっぱいになるところだが、今だけは却って愛乃を安心させた。

「……そ。別に、もう何か疑うとかしてないから。その子とは気が合いそう」

 愛乃の言葉にホッとしたのかあげはの頬が緩み、一呼吸おいてから「ねぇ、もしよければ聞かせてほしいな。愛乃ちゃんのお悩み」と取り直したようすで言った。その表情にはすっかり先ほどまでの穏やかさが戻っていた。

 これはもう……話すしかないか。

「じゃ……聞いてくれる?」

 あげはは満面の笑みでうなずいた。


「──そりゃデブはお呼びじゃないかもしんないけどさぁ! 私の前に誰が座るかで揉めんじゃないっての!」 

「ひ、ひどい……! そんなのマナー違反よ! 愛乃ちゃんが気にすることないわ──」

 初めこそまさか自分がコンカフェなんて、と思っていた。寂しい人間がいくところでしょと決めつけていた。

 でも、愛乃の愚痴を真剣に聞いたうえで肯定してくれるあげはは、愛乃にとって替えが利かない存在だということにほどなく気づかされた。周りの友人たちに愚痴をこぼしても、特にそれが体型に関するものだった場合は毎度茶化されて終わりだったのだ。

 それからというもの、愛乃はあげはの癒しを求めてはコンカフェ・パピーズに通った。

 早くも同窓会があったが今の自分ではとても出られないと不参加にしたとき、愛乃を振った元カレが細身の女の子と付き合っていると知ったとき、大きいサイズをうたったかわいいデザインの服をネットで買って着てみたら全然イメージと違ったとき──。

 しかし、そうやってコンカフェ通いを続けているうちに店内の食事と金欠からくるカロリー過多により愛乃の体重は増量のペースを速め、大学二年の今に至るまでの八か月間でさらに20キロも増えてしまっていた。入学時から数えると実にプラス35キロの激太りだ。

 しばらくコンカフェを絶とう。何度乗っても針が87を指す体重計が壊れていないかしつこく確認した後、愛乃はそう心に決めた。今日はそれをあげはに打ち明けるために来店したのだが、皮肉なことにむしろ今まで以上に足しげく通いかねない展開に発展してしまったのだった。


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