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烏川
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悪魔の追想20 先行配信

2013年12月6日 例の噂が立ち始めて、そろそろ一月近くが経っただろうか。 噂は一向に止む気配も無く、圭輔との仲をからかわれる毎日に智希は肉体的にも精神的にも疲弊していた。 ちょっとやそっとの冗談ならともかく、まだまだ思春期に足を突っ込んだ程度の精神年齢でしかない智希にとって今回のような特殊な色恋の絡む噂は到底受け入れがたい。 そんな智希に対して、クラスの男子達はいつも弄るネタを探すような視線をぶつけ、まるでどうつつけば智希が大きな声で鳴くかを皆で競い合っているような、そんな状況にあった。 「結婚式はいつ?」「告白したのはどっち?」なんて気の利かない冗談で済めばまだいい方で、圭輔との性的接触を想像させるような悪趣味な質問をぶつけてくる者もいれば、表面上は智希に対して同情的でありながら好奇心を抑えきれない女子達の態度にも智希は辟易した。 クラスメートとはいえ、以前からも、皆のマスコットのような扱いをされることが無いではなかった。 それを智希は智希なりに折り合いを付けて、それでもみんな自分の友達だと、そういうふうに思っていたのに、誰も彼も、まるでこの間までのみんなとは違う人になってしまったみたいだ。 揶揄われる辛さとは別に、智希は今まで感じたことのない孤独感を覚えてとても寂しく、やりきれない毎日を過ごす羽目になっていた。 そんな智希にとっても、とうとうダメ押しのような事件がその日には起こった。 この時の事は、他のクラスメイト達にとっても後々語り草になる、衝撃的な出来事であった。 6限目の体育の授業を終えて教室に戻ってきた智希は何やら人だかりのようなものと、尋常では無い騒々しい声が湧いているのを前に思わず駆け寄った。 とても嫌な予感がしていた。 人だかりの辺りには丁度自分の席があった。 予想は的中して、人の群れを掻き分けて席へ戻ってみれば、智希の机だったそれは、何者かによって見るも無残な状態にデコレーションされていた。 「トモ。いいから、トモは、見ない方がいいよ。俺らでなんとかするからさ…っ…」 早野のそんなフォローも空しく、智希の両の瞳にはその惨状がしっかりと映り込んでしまっていた。 嘔吐を催すような腐臭がしたかと思えば、智希の机の上には誰かがどこかからかき集めてきた生ごみと思われる汚物が机上の端々までぶちまけられていた。 さらにその空いた隙間を縫うように、智希の容姿の特徴を侮辱するかのような言葉や、同性愛者への罵倒の言葉がマジックで殴り書きされていて、智希に対する溢れ出すような悪意が刻み込まれているかのようだった。 冗談、で済ませるには流石に厳しい状況で、この期に及んでまだ半笑いの表情を浮かべているような男子に、女子達から強い口調の声が飛ぶ。 「ちょっとー男子達ー!いい加減にしなさいよ!!ここまできたらもう立派なイジメでしょ!?やって良い事と悪い事の区別もつかないわけ!?」 そんな言葉をぶつけられれば、当の男子生徒らも、泡を食って口を歪めた。 「はぁ!???知らねえよ、俺じゃねーーよ!!!!!」 「いやいや!!俺でもねーよ!!!つか、逆に誰だよ、こんなんした奴…」 女子の声も男子の声も、当事者の智希の耳には入っていない様子だった。そんな智希の姿に男子達も一様に声を失っていた。 誰がやったか、なんていうことは智希にはそれほど大きな問題ではなかった。 どこかの誰かが自分に対してこれほどまでに強烈な悪意をぶつけてきた、という現実が只でさえ限界の近かった智希の精神に大きなとどめを刺した。 あ。やばい。 智希自身がそう思った時にはもう既に遅く、彼の眦にはじんわりと熱い滴が滲んで、それを留めるために智希は強く強く歯を食いしばらなければいけなかった。 「う……うう…っ……う~~~~~~~………っ!!!!」 こんな事で泣きたくなんかなかった。 こんなふうにみんなの前で泣いたら、またみんなに子供だって笑われちゃう。それじゃあ、あんまり惨めだ。 俯いて、小さな拳でシャツをめいいっぱい握りしめても、溢れ出す感情は止めるには全然足りなかった。 そんな智希の切羽詰まった姿は、見る者からあらゆる言葉を奪ってしまっていた。 ─── HRを終え、廊下を歩く村上愛優美の足取りは実に軽やかだった。 今頃、あのクソ生意気なクソ原クソ希がどんなに打ちひしがれているだろうと思うと、たまらない。 その為に色々と準備や苦労をした甲斐があったというものだ。 使えない弟に相手の高そうな持ち物を盗ませたり、階段から突き飛ばさせたり、生ごみだってあんなに気持ち悪いものを何とか弟に集めさせて、今日のこの日に全てぶちまけるように命じた。 全く、なんで自分がここまでしないといけないのか。 例の噂だって、苦労して弟に流させたのだ。 姫原智希が同性愛者だ、という噂を流せばきっと周りはドン引きする。黒田君から離れろ。世論はきっとそう動く。 そう思ったのにもかかわらず、周りは圭輔の事は完全にスルー。智希の事は揶揄いはするけれど、誰も本気で智希を排斥しない。 あまりにも焦れったいものだから、とうとう強硬策に出る事にした。 ここまですれば、智希はこれほどまでに疎まれている嫌われている存在だと、皆は認識するだろう。 一連の事は、そのための起爆剤として村上によって仕組まれたものであった。 きっとこれを機に、皆は智希に対して一層つらく当たるだろう。 そう確信して、覗き込んだ智希の教室の中では、そんな村上の想像からは遥かに斜め上をいった光景が繰り広げられていた。 教室では、汚れた机の清掃と撤去作業が何人かの男子達の手で行われていて、代わりの机が多目的室から運ばれているところだった。 「だーかーらー、もー泣くなって~。トモ~~~。ほら、よしよーし。」 「泣いてない!!!!……でも、みんな……ありがと……っ…うぅ……。」 生徒達は男子も女子も、特に殺伐としているところは無く、その中央ではむしろ和やかな雰囲気で皆があの姫原智希を囲って彼とじゃれあっている姿が見られた。 状況からして、弟に指示した通り、姫原智希への生ゴミ攻撃は実行されたようだった。 けれどその後の展開は、村上の想定とは大分違う方向にシフトしているようだった。 「別にいいって。俺らも、ちょい調子乗りすぎてて、悪かったよ。」 智希の肩を抱いたり、頭を撫でたりしながら男子達は次々と智希に頭を垂れては、それに対してぷるぷると子犬のように首を振る智希。 その様はまるで、雨降って地固まる、という諺を体現しているかのようだ。 これは、一体どういう事だろう。 村上の算段では、教室の真ん中で自分への仕打ちに打ちひしがれた智希が、皆から嘲笑と冷笑の的にされていなければならなかった。 その上で、登校拒否にでもなってしまえば、それ以上は言う事は無かったのに。 すると、自分が覗いている扉とは反対側のドアからとある人物が姿を見せて、村上も小さく声を上げた。 やってきたのは村上の同じクラスで、彼女の思い人でもある黒田圭輔だった。 それは村上にとっても好都合な人物だった。 当の圭輔はいつものように放課後に智希を迎えに来ただけだったが、普段とは明らかに違う異質な状況に何事かと入ってきたらしい。 その姿に、他の生徒達は皆一様に緊張を走らせていた。 彼らを襲った緊張の意味を、当の圭輔、智希、そして村上だけが理解していなかった。 「なに、これ?」 撤去されつつある、落書きだらけの智希の机を見やると、圭輔は傍にいた適当な男子に問いかける。 そして、その視線は順々に、新しい机、智希の鞄、そして、まだ体操着を着たままで両目を赤く濡らしている智希の顔へと移っていった。 それだけの情報があれば、圭輔の頭脳がこの場の状況を把握するのに一瞬もかからなかっただろう。 問われた男子はびくっと肩を揺すると、慌てて取り繕った笑顔で言った。 「いや。なんだろーね、これ……えっと…ちょっとした、事件があってさ。でも…っ…解決したから、もう…!!」 今にも揉み手しかねない男子のその態度にはさして興味を示さず、圭輔は、その場にいる全員の事をゆっくり見渡してから一息つくと、聞いた。 誰がやったの? それは、いつもと全く変わらない静かな声音だったにも関わらず、聞く者の体感温度を1,2度は引き下げた。 その問いには誰にも答えられなかった。 圭輔に気圧されたのもあったが、実際、誰もその答えを知らなかった。 すると、唯一その答えを知る、というよりも指示者そのものの村上は気が付けばその場に躍り出ていた。 「いやあん、何これ、ひっどーい………これって、あれでしょ?例の噂のせいでしょ?」 その場の誰も、なんだこの女、と訝しむ暇すらなかった。 それだけ、今の圭輔の放つ冷たいプレッシャーは相当なものだった。 智希だけが、いきなりやってきた天敵を前に大きな目を見開いていた。 「姫原くん、かわいそー……でも、こんなふうに思われてるってことは、やっぱり黒田君と一緒にいすぎるのって良くないってことなんじゃないかなー。」 そう言って自分の事を他には分からない眼光で睨め付けてくる村上に、流石の智希も今回の件の犯人が誰であるかをなんとなく察した。だが、証拠は無い。 圭輔は無言のまま、そんな村上や智希の事を変わらず見据えていた。 「黒田くんも、あんまり姫原くんにばっかり構ってあげるのも、姫原くんの為にならないんじゃないかな?もっと他の人ともコミュニケーション取らなきゃっていうかさー。」 そう言って自分との距離を詰めてくる村上に、圭輔は静かに、それでいてはっきりとした声音で口を利いた。 「君。確か、渡辺さんだったね。」 「え………いや、私、村上………ていうか、同じクラス……。」 はっきりと尋ねてきた圭輔に村上が即答すると、教室の中をとても涼しい風が吹いた。 けれど、圭輔の鋼のメンタルは、自分で折った話の腰を、強引に矯正した。 「村上さん。俺は、友達付き合いって、他人にどう思われるかとか、そんな事を気にしてするものじゃないと思う。」 圭輔の相変わらずな正論にも、村上は笑って鼻白んだ。 「えーーー、でも、実際こうやって悪く思う人がいるっぽいし、男の子同士でそこまでして無理に仲良くしてるっていうのも………ねえ……?」 「友達は大事だよ。男とか女とか関係無い。」 圭輔はこれまでになくきっぱりとそう言うと、そして続けた。 「それを分からずにこういう低俗な事をしてくる人がいたっていう事実が俺はショックだ。噂だけならほっとけばいいと思ってたけど、俺は甘かったのかもしれない。」 いつもと変わらない落ち着いた口調ではあったが、その内容には普段の圭輔とは違う、迫真と評せるものがあった。 その事に真っ先に気付いたのはやはりいつも圭輔と一緒にいる智希だっただろう。 発言の意図が理解できずに困惑の顔を浮かべている一同に、圭輔は続けた。 「もっと、いじめの害とか、友達の大切さとかを知る授業もした方がいいのかもしれない。そういうイベントを開催するのも、悪くないんじゃないかな。」 静かな教室の中は、圭輔の低い声が良く通った。 そんな中、空気の読めない男子の一人が思わず噴き出すと、無謀にもそんな圭輔にツッコミを入れた。 「悪くないって、お前、只の生徒がそんなこと思いついたって、一体誰が乗ってくるんだよ?」 その言葉に、今度は逆に他の全員が事の次第を察した。そして一様に顔を引きつらせた。 確かに、只の一生徒が「いじめをなくそうキャンペーンを開こう!」なんて言ったところで、乗ってくる者は皆無だろう。 だが、今皆の目の前にいるのは「只の一生徒」ではない。 相手は、今や全国学力テストでトップに輝く、黒田圭輔サマなのだ。 皆のその確信に乗りかかるように、圭輔はさらにとんでもない事を口にした。 「実はさっきまで校長室に呼ばれてたんだ。何か希望があったら出来る限り対処するから、何でも言ってくれって。さっきは特に無いって断ったんだけど、良い機会だから今のを提案してこよう。本当に、丁度良かった。」 いじめをなくすために、友達の大切さを学ぶために、圭輔に出来る事はいくらでも思いついた。 いじめの体験者を呼んで体育館で講演をしてもらう。 放課後にみんなで集まって友情についてシンポジウムを催す。 いじめや友達をテーマにした作文コンテストを開く。 各クラスの心を一つにするために合唱コンクールを開催する。 そんな圭輔の提案の1つ1つに、教室の中の一同の顔色は赤くなったり青くなったりと、ある意味ではその時点で彼らの統率はしっかり取れていた。 授業が終わればすぐに塾に行って自分の為だけに勉強したい優等生達。 放課後にはおしゃれな店を回ってカフェでダベりたい女子の面々。 学校から帰ったら、一刻も早くゲームをして屁をこいて寝たい帰宅部のメンツ。 バラバラだったはずのクラスメイト達の心は、ここにきて1つに纏まっていた。 このままでは自分達の生活が出来の悪い中学生日記みたいにされてしまう。 「ま、待ってくれ!!!黒田クン!!!!」 そういうわけだから、と踵を返しかけた圭輔の背中に、一人の勇気ある男子の声が飛びかかった。 圭輔の視線の圧力にもなんとか耐えながら、その男子は唾を飛ばしながら続けた。 「友情って、そんな風にして人から無理矢理教えられるものかな!??そーゆーのって、もっと、こう、自然に身に着けるものなんじゃないかと思うんだけど!!」 必死も必死の男子の声にも圭輔は目を細めて、淡々と返した。 「逆だよ。自然に身に着けられる人ばかりじゃないから、イベントを開こうと言ってるんだ。」 「で、でもぉ…そんなことしてられる時間の無い人だって、いるんじゃない?受験で忙しい人もいるし!」 「時間なんて、作ろうと思えば作れるよ。一日たった数十分の暇も作れない人は勉強以前の問題だと思うし。」 「本人はそうでも!た、例えば、お母さんがうるさい人とかもいると思うよ!」 「それならそれで、俺がそのお母さんを説得してもいいし、そのためのプレゼンをしてもいい。」 最後の圭輔の返答に、皆は半ば絶望に近いものを感じた。 全国テストトップのクラスメイト。 親からすれば我が子の友人としてこれ以上に魅力的な人材があろうか。きっと圭輔のいいように丸め込まれるに違いない。 お母さん、に限らずあらゆる大人は圭輔に与するに決まっている。 さらに、部活や大会について言及しても、圭輔にかかれば柳に風の要領で全て華麗にいなされてしまっていた。 彼らにとって最も大義名分となりうる勉強面の不安も、最終的には圭輔による「そんなに気になるなら俺が教える」の一言で全てが纏まってしまう。 あらゆる持ち弾を無駄に使い尽くし、徒労に喘ぐ一同に対して、一人涼しい顔の圭輔は最後にこんな金言を掲げた。 「俺は、トモっていう友達と出会って、本当に色んな喜びや幸せを知った。友達といる事の楽しさも、友達の大切さも。そういう事を、他の人にももっと知ってもらいたいんだ。」 圭輔のその言葉は皆の耳に言葉通りに伝わったとは言い難かった。 彼らはむしろ圭輔の言葉から、「正しい」という概念の孕む、ある種のどうしようもなさを見出していた。 もし他の人間が圭輔と同じことを口にしたところで、おそらく誰も聞く耳を持たないだろう。 それが圭輔に限ってそうではないのは、彼の言葉が正しいからではない。 逆に、どんな眠くなるようなつまらない正しさも、黒田圭輔が口にすればそれは誰も無視できない錦の御旗に変わってしまうという危険な事実を、今のこの状況は強烈に証明していた。 なぜ、そうなってしまうのか。 成績が全国トップだから?身長が高いから?容姿がとびぬけて美しいから?低くよく通る声がとても魅力的だから? どれもこれも、正しさとは何も関係無いはずだ。 けれど、圭輔の持つそういったあらゆる要素が、彼の正しさが他人を従わせる根拠のようなものにはなっている。 もし圭輔がその気になれば、彼はいつでもこの場の全員を文字通り踊らせることが出来るのだ。 皆、この美しい独裁者の提案を、まるで自分達への罰かのように受け止めていた。 何に対する罰かといえば、圭輔の「大切な友達」である智希への、自分達の今日までの仕打ちに対してである。 『俺は、俺の大事なトモをイジメて泣かせたお前らを許さない。』 圭輔のそんな声を、彼らは聞いたような気がしていた。 しかしそんな中で、智希だけは分かっていた。 圭輔の提案は100%の善意からのものである事を。 圭輔は心から、今の自分のアイデアを皆のためだと思っている。 そんな圭輔の善意=正しさを否定する武器を、誰も持ち合わせていない。 「反対意見は、もう無いようだし、それじゃ行ってくる。」 そんな圭輔の背中に皆が世を儚んだ顔をしているところに、一人の声が投げかけられた。 「圭輔。」 その声に、真っ先に反応した圭輔が力強く振り向くと、そこでは声の主が唇を尖らせていた。 「めんどくさいよ、そんなの。」 智希のその言葉は、この場にいる全員が正に言いたかった一言であった。 「みんなに迷惑だよ。やめようよ。」 智希のその言葉に、圭輔はいつものように黒目を左右に動かしながら、何かを思案したかと思うと 「そうかなあ。」 ぽつりとそう言って戻ってきたので、教室の中はそこでほんの微かに光明が差したようなそんな空気を醸し出していた。 そうだよ、と智希が頷くと、すっかり涙も乾いた智希はまだ赤い眦を垂れたと思うとにんまりと、以前のような愛嬌に満ちた笑顔を久々に浮かべた。 「それに、そんな事しなくても、みんないい奴だよ。いざとなったら、こうしておれのこと助けてくれたし。今日の事も、きっとちょっと悪ノリしすぎただけだと思うんだよね。」 ここしばらくの辛い思いも今の智希の中ではしっかりと精算されていた。それぐらい、今日のみんなの優しさが嬉しかった。 しばらくぶりに活き活きとした智希の表情に、圭輔はまた目線を左右に揺らすと、頷いた。 「まあ。トモがそう言うなら。」 圭輔の言葉に智希が頷き、そんな2人のやり取りに他の全員が内心で汗だくの胸を撫で下ろしていた ただ一人だけ、村上愛優美の心中だけが穏やかでは無かった。 なんでよ。 なんでこんなことになっちゃうの? ここはみんなで姫原智希を排斥する流れにならないといけないのに。 「むらかみ、あい…いや、あゆみ?」 屈辱にわなわなと手を震わせている村上の背中に飛んできた声に、彼女は思わず振り返った。 すると、そこでは生ごみの片づけをしていた男子が、緑色の小さな手帳を手に自分の事を見ていたので村上は目を見開いた。 何々、と他の生徒達も寄り集まってくると、生ごみから出てきたそれがどうやら生徒手帳で、持ち主の名前が「むらかみあゆみ」であることが誰の目にも明らかになっていた。 一斉に自分に注がれる幾人かの生徒の視線に、村上は普段なら特定の人間以外に見せないはずの切羽の詰まった顔で大きく声を荒げた。 「はあ!??私じゃない!!!!ていうか、私が犯人だったら、わざわざそんなもん残すわけないでしょーが!!!」」 本当は首謀者ではある村上だが、だからこそ今のその状況に誰よりも混乱しているのは彼女だった。 だが、確かに咄嗟に出た村上の抗弁にも一理はあり、教室の中は新たな混沌が蠢き始めている。 そんな中、いつものように10分以上遅れてやってきた担任教師の姿に、一同は一旦は席に戻り、圭輔や村上といった他クラスの生徒はその場から離脱することになった。 「ん?なんか部屋の中、臭くないか?それに、なんだ、その机………。」 「なんでもないです!!!!!!!!!!!」 一人何も知らない教師に対して、クラス中から場を取り繕う声が飛んだ。 成り行きはどうあれ、今回の件で確かに智希のクラスの団結は今までになく強固なものになっていた。

Comments

まあ違う意味でドキドキするかもしれませんね、ある意味スパダリ。 智希はみんなにちやほやされがちな子なのでホントはワガママな所もあるんだろうとは思うんですが、彼なりにそういうところは反省したりしてるんだろうな、なんて思いながら描いてます^^

烏川

ドキドキしちゃう… 圭輔さんほんとパないです… そして智希くんいい子すぎて涙が出てきます😭

tohru


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