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呪われメイドのフィギュア生

「わー、かわいい~」 「えーこれ高いやつじゃないのー?」 文化祭で着るメイド服が届いた。玉石混交で安っぽいペラペラのものもあれば、丁寧な作りのマジなメイド服もある。調達してきた子によると、知り合いから貰ってきたものも混じっているのだとか。 女子同士でしばしの牽制タイムが始まった。高級そうな服を誰が着ることになるか……。一番に手を出せば自分をカワイイと思ってる空気読めない子になるし、メイドにマジになってるやつみたいな印象になるのもマイナス。けど当日にペラいメイド服だと単純に「下」っぽくて嫌だという気持ちもある。皆が笑顔で腹の探り合いをしている中、私は成り行きに身を任せることにした。私は別に安っぽいやつでもいいし……。でもあの高級そうなマジのメイド服と並んじゃうと惨めそうだなあ。でもあっち着てたら逆にマジ感でて恥ずいかも……。 男子がジャンケンを提案しそれを実行した結果、ちょっと困ったことになった。一番しっかりした作りのフリル多めのメイド服が、私に当たってしまったのだ。 「マジかー……」 「うわー、とられた~」 「いいな~、藤原さ~ん」 軽~いやっかみと嘲笑混じりの賞賛を受けつつ、私は苦笑した。私は女子グループ内でそれほど地位が高い方でもない。ので空気読めてない感じが出てしまうが……仕方ない。このメイド服ほどじゃなくても高そうなメイド服あるし、運よくリーダー格の子にはそれが割り振られたのでそれほどねちっこいことにもならないだろう。 試着してみると、これがまた心地よい着心地だった。まるで肌に糊で張り付けられたような癖のある密着感。何の布地か知らないけど、肌触りが滑らかで気持ちいい。ずっと着ていたくなっちゃう。しかもこのメイド服には肘まである長い白手袋と脚を真っ白に染めるタイツもセットで入っていて、これもメイド服と同じ素材らしかった。直接肌と大面積で接するとこれがまたとてつもなく素晴らしい着心地だった。脱ぎたくない。 「藤原さんかわいい~」「似合ってる~」 「いや~、ちょっと恥ずかしいかも……」 不思議なのは、こんなにもピッチピチになるのに着る時は全く苦じゃなかったこと。余裕があってスルスル着れたのに。着たら急に私専用に縫製されたのかってくらいピッタリの密着具合。気のせいかな。伸縮性がすごいんだろうか。 脱ぐ時も苦戦はしなかった。肌と服の間に紙一枚差し込めないような感覚がしていたのに、スルスル脱げるしビヨンと伸びる。不思議な布……布かなあ? 改めて脱いだメイド服をマジマジと見つめると、ちょっと樹脂やゴムのような光沢を一瞬見たような気がした。 文化祭当日、私はいつもより早く家を出た。試着した日からずっと、私の頭の中はあのメイド服一式のことでいっぱいだった。また着たい、早く着たい、ずっと着ていたい――。まるで何かにとりつかれたように、あの滑らかな肌触りと気持ちいいフィット感が頭から離れなかった。 教室に着くなり、私はまだ時間でもないのにメイド服に着替えてしまった。タイツも手袋もバッチリ決めて、頭にプリムも乗っける。 (んーっ、やっぱり気持ちいいっ) 前に着た時と変わらぬ快感。皆には気合入りすぎだのひょっとしてコスプレ趣味? だの散々からかわれてしまったけど、どうせ今日は多くの子がメイド姿になるのだからそこまで恥ずかしくもなかった。いや恥ずかしいかな……。朝から一人だけメイド服は。 「おかえりなさいませ~」 服がいいと、自然と気合が入る。出し物決まった時はメイド接客とか絶対無理だと思ったけど、案外楽しい。文化祭だし、周りに同じことやってる仲間もいるしね。 担当の時間が終わっても、私はこのメイド服を脱ぎたくなかった。もっと着ていたい、もうちょっと……。私はメイド喫茶の宣伝もやるから、と言い訳して、メイド姿のまま他クラスや部の出し物を見て回った。丁寧な作りの厚みのあるメイド服は中々目立ち、写真も撮られるし野次も飛んだけど、特別な日って感じでそれもまた楽しめた。仮装してる人は多いし、部活のユニフォームで練り歩いている人もいる。メイド喫茶の宣伝だからという名目もあって、自分でも驚くくらい大胆に堂々とメイドのままでいられた。 (この服、もらえないかなあ) 夕方になると、そんな図々しい思いが脳裏をよぎるようになった。流石にダメだろうなあ。ペラペラの安そうなメイド服とはまるで違うし。きっと高いんだろうなあ。高い服ってみんなこんなに着心地いいのかな……。 片付けも何となくメイド服のまま行って引き延ばしたが、ようやく脱がざるを得ないというか脱いで返さないといけないタイムリミットがやってきた。 「いつまで着てんの~」「気に入りすぎ~」 「あははは、着心地すごくて」 既に制服に戻っている皆と笑い合いながら手袋を外そうとした時。私の人生を崩壊させる信じられない異変が生じていたことに、私はようやく気がついた。脱げない。手袋は私の肌に密着するどころか、いつの間にか一ミリの隙間も生まないまでにピチッと張り付いていて、全く動かせない。両脚を白く染めるタイツも、まるで元々こういう皮膚だったかと思うぐらい、尋常じゃなく肌にくっついたまま脱ぐことができない。メイド服も、果てには頭上のプリムでさえ。 (一体……どうなってるの、コレ……?) いくら引っ張っても一ミリも動かない。皮膚ごと引っ張られて痛いだけ。皮膚と服の間に隙間というものが全く生じず、指や肘を曲げてもどこにも空間が生まれないまま滑らかに皮膚にくっついたまま追従する。物理的にありえないのに、現実にそうなっている。まるで……私の皮膚と融合でもしたみたいに。 「え、え、何?」「うわ、くっついてるじゃん」「サイズきつすぎじゃん」 みんなに協力もお願いしたが、メイド服は私の身体と一体化したまま僅かにずらすことすらできなかった。本当に異常事態だと理解し困惑する子、よくわからず弄る子、反応は色々だったが、どうやらどうしても脱げないらしいということで、私は着替えず帰ることを……このメイド服を着続けることを許された。 (うぇえ!? ……そ、そんなぁ) まさかの事態に私はパニックだった。え、一体いつからだろう。いつから脱げなくなってたんだろう。ずっと着てたからわかんなかった。いやそもそも何で? 脱げない服なんてありえない……。接着剤使ったわけでもないのに。いや、これは何かのミスとか嫌がらせとかじゃない。肌と服が融合してるとしか思えないし。狭間に糊や接着剤が入るスペースすら全くないのだ。服や手袋を軽くつまんでも、必ず「皮膚」をつまんでしまう。一緒なのだ。私の肌とメイド服は……。 「うそーっ、これで帰るのおぉ!?」 制服を鞄に詰めて、玄関までいった時、私は羞恥で真っ赤になった。死ぬほどからかわれるし、事情を知らない他のクラスや学年の人たちからは注目の的になるし、最悪だった。安っぽいメイド服なら上から強引に制服を着ることも不可能じゃなかったかもしれないけど、このメイド服は違う。フリルやリボンが多い派手なデザインで上から制服は着られない。しかも、スカートはパニエもないのに常にふんわり膨らみ続けている。今まで疑問に思わなかったけど、よくよく考えてみればおかしい。この服何なの? 脱げないし形状記憶だし着心地も……よすぎたし! 高校の敷地内を出てからが本当の地獄だった。当然ながら全員が私を見てくる。驚く人、ニヤニヤする人、「非常識な……」とでも言いたげに顔を歪める人、全ての視線と表情がナイフのように私を刺し、貫く。 (み、見ないで~。見ないでください……。違うんです、私コスプレイヤーとかじゃなくって……ぬ、脱げないんです、このメイド服……何でかわかんないけど……) 心の中で必死に言い訳を並べ立てながら、私は俯き猫背になって、速足で歩いた。む、無理……。耐えらんない。ネットに動画とか上げられたらどうしよう……。もう表歩けないよ……。ていうかそれ以前に……こ、この服ちゃんと脱げるのかなぁ……? 着ている私が一番実感していた。科学的にありえないことが起こっていると。これはサイズがきつくて脱げないとか、糊か何かでくっつけられたとかそういうレベルの代物ではなく、呪いか何かとしか言いようのない、常識を超えたナニカだと……。 家に着くと両親に呆れられた後、信じてもらうまでが一苦労だった。そして本当にメイド服が皮膚と融合レベルでくっついていることがわかると、今度は両親がパニックだった。 メイド服を調達してきた子に、調達先は聞いておいたので、明日は学校を休んで訪ねることになった。訪ねる……訪ねるって、この格好で? またメイド服で外に出るの!? ワンチャン、お風呂で脱げないかとも思ったけど、やっぱり駄目だった。お湯を弾くし石鹸水でズレたりもしない。そして不思議なことに、メイド服のせいで上手く洗えてないはずなのに、何だかずっとサッパリしているのだ。嫌な臭い一つしてこない。そういえば私……今日、トイレ行ったっけ? 白タイツが脱げないので、このままだと大変なことになるはず……なのだが、待てど暮らせどその「大変な時」は訪れなかった。ひょっとして私……トイレ行かなくていい体になってる? ……いやいやまさか、そんな。たまたま今日は尿意も便意も催さなかっただけだって。……大丈夫? ううぅ……不安が次から次へと湧き出てまるで気分が落ち着かない。明日になったら脱げてないかなあ……。 翌日。お父さんに車で送ってもらい、私は問題の古着屋を訪れた。幸い、他にお客さんはいなかった。 古着屋の店主は私を見るなり吹き出した。怒りをぐっとこらえて話を聞くと、あまりにも無責任な言葉が飛んできた。 「あー、本当に呪われてたんだ、やっぱし」 彼女によると、このメイド服は曰く付きで、呪いがかかっていると言われていたらしい。……知ってたの!? こうなるかもしれないってわかってて……それを高校生に貸したの!? 文化祭で誰かが着るってわかってて!? 私たちは猛抗議したが、相手はまさか本当に呪われてるとは思わないじゃん、とニヤニヤしながら返すばかりで、暖簾に腕押しだった。しかもあろうことか恩着せがましく「あ、そのメイド服は差し上げます。お代はいいんで」などと言いだす始末。ぶっ飛ばしてやりたい……。でも、原因が「呪い」じゃ警察にも法にも訴えたって無駄だろう。相手もそれがわかっているから余裕の態度なのだ。こんな酷い話ある? 私が何をしたって言うのさ……。 その後、恥を忍んで病院にも行ったけど、ロビーで末代までの恥をかかされただけで服は脱げないし、原因もよくわからなかった。家で服を切ろうとしても、まるで刃が通らない。ハサミもカッターも針も通らず、メイド服を破壊する方法なかった。火とか酸とか試してみようという提案も出たけど、私がヤバいのでやめた。 結局、初日に私が何となく感じた通り、このメイド服はどうしても脱げないということだけが改めて浮き彫りになるだけだった。 (そんな……そんな……。私、これからずっと……ひょっとしたら一生、この派手なメイド服のまま生きていかないといけないの!? 学校も、通学も、町に行くときも、卒業しても……) 絶望だった。二度と表に出たくなかったけど、それは両親が許してくれなかった。文化祭が発端なのだから学校の皆は理解してくれるだろう、と言って。 (ううぅ……) 結局、私はまた高校に行かされることになったが、登下校がもう死ぬほど恥ずかしくって拷問のようだった。ジロジロ見てくるし、明らか馬鹿にしながら話しかけてくる人もいるし、友達にもからかわれるし……。どうして、本当にどうしてこんなことに……。理不尽過ぎる。あの日ジャンケンで勝たなければ私は……。やっぱ分不相応な可愛いメイド服なんか着るんじゃなかった。 スカートはパニエ無しでボリューミーに広がり、後ろの腰には大きな白いリボン。両脚は白いタイツでつま先からお尻まで純白に塗りつぶされて、両腕も肘まで覆いつくす手袋に封じられ、何とも隠しようのない惨めな姿だった。唯一の救いはトイレやお風呂に行かなくてもいいこと。あの日以来、トイレに行きたくなったことはない。それでいて体調も崩れない。肌を洗えていないはずなのに、全くかゆくなることも蒸れることも汗臭くなることもなく、常にサッパリした感覚だった。これも呪いの効果なんだろうか……。ワンチャン、爪が伸びて手袋を破ってくれないかと思いもしたけど、どうも爪も伸びないらしい……。助かったと言えばいいのか悪いのか……。 ともあれ人間慣れるもので、一か月もすると教室に来ただけで空気が変わるあの嫌な反応はなくなった。私がリボンとフリルをいっぱいくっつけたメイド服で登校してくることは「当たり前」の風景になってきたからだ。その格好のまま授業を受けても、体育に参加しても、あまり特別な注目は集めなくなった。……他の学年の人や授業で会わない先生はすれ違うたびにギョッとしてくるけど……。 皆に受け入れられた(?)のは私にとってかなりの救いで、相当ありがたかった。でも、流石にカラオケとか遊びに誘われても同行はできなかった。流石にキツイ。あぁ……皆は良いなあ。好きに遊びに行けてさ……。 半年が過ぎ三年生になると、私はそろそろ真剣に人生について考えてみないといけなくなった。何となく大学進学するつもりだったけど、メイド服が脱げない限りは行きたくなかった。流石に……事情を大学中に説明して回るのも無理だし……説明通ったところで見世物だろうし。想像するだけで吐きそう。 かといって、就職もこの格好じゃ……。どうしよう。結局、引きこもるしかないのかなあ……。一体いつになったら脱げるんだろう。本当に一生脱げないのかな……。まさかそんなこと……でも、半年経った今でも一ミリもずらせないし、皮膚との隙間もできないし……マジ? マジで一生……少女趣味なメイド服のまま……? 高校生だからギリ許されてる感あるのに、大人になっても中年になっても……この格好のまま……なの……? 「メイドになるしかないんじゃな~い?」 友達に進路相談すると、ケラケラ笑いながらそう告げられた。やだよお……ただでさえ意に反してメイド服着せられて困ってるのに。それじゃなんか、負けたというか屈服した感じがして嫌。それに、本当にメイドって肩書になっちゃったらこの姿が異常事態じゃなくなるのが何というか……なんか私が着たくて着てるみたいになっちゃわない? しかし、月日が進むにつれて、引きこもり以外だとそれしか選択肢がないという現実が強くのしかかってきた。そりゃそうだ……。常時メイド服で働ける職場はメイドの職場しかない。当たり前すぎる事実だった。 ただ、現代日本にマジのメイドなんてない。……そういう趣味の小金持ちを探せばあるのかもしれないけど、顔も名前も知らない人に仕えるのは抵抗がある。結局……答えは一つしかなかった。 「マジ? 藤原さんメイド喫茶いくの?」 「いいじゃん、お似合いじゃん」 「そこしかないって感じ~」 現代日本で唯一メイド服を常時着ていても許される職場。私は卒業したらメイド喫茶に住み込みで働くことになってしまったのだ。 「おかえりなさいませ、ご主人様~」 親たちと地元の有力者が厳粛な雰囲気で佇む中、メイド姿で卒業証書を受け取ってから一か月。私はメイド喫茶デビューした。してしまった。文化祭のメイド喫茶は結構ノリノリでやれたけど、こっちは……慣れるまでかなり自尊心がすり減りそう。制服のメイド服着れなくて、一人だけ「自前」だから浮いてるし。 でも、働き始めてみると思ったより恥ずかしくはなかった。メイド姿の仲間がいて、メイド服を着ていることが「おかしくない」からだろう。仕事に慣れてお客さんもついてくると、ちょっとアイドルになったみたいで楽しい。すり減った自尊心がちょびっと回復する。 一人だけやたら可愛くて高級なメイド服を着てたのとついこないだまで女子高生だったことが相まって、私は結構人気が出て常連のお客さんも増えてきた。ちょっと同僚からやっかみはあったけど、メイド服が脱げないことが徐々に知れ渡っていくと、同情で相殺されたのかあまりいびられなかった。 「メイちゃーん、チェキお願いしまーす」 「はーいっ」 思ったよりは楽しい。脱げるまではずっとここで働いてたいな。……脱げるかな。どうしたら脱げるんだろう。それとなくお客さんに呪いのメイド服を知っているか訊いたりもしたけど、有力な手掛かりは得られなかった。 そんなこんなで半年ほど働いていると、身体に新たな異変が生じた。 「メイちゃん、ゴミ出しおねがーい」 「はい」 先輩にそう言われた瞬間。身体が突然私の意志から離れた。両脚をピタリ閉じて背筋良く答える。そして……体が勝手に動き出し、独りでにゴミ出しを開始する。 (あっ……また) 最近、ちょくちょくこの奇妙な現象が起こる。誰かに何か指示を受けると、突然身体が勝手にその指示を自動で遂行し始めるのだ。こうなっちゃうともう私は自分の意志で体をコントロールできず、指示を完了するまで自動的に動く体に身を委ねるしかない。 (もうっ……一体どうなってるの? まるでロボットみたい……) 最初は働き過ぎでちょっと変になってるのかなと思ったけど、これはどう考えてもそんな類のものじゃない。うっかり、とかつい、とかじゃなく、本当に突然体が別の意志に乗っ取られ、手足が全く言うことをきかなくなるのだ。指示をこなしている間、全身の筋肉に指示を出すことができない。ただ、自分の内側から成り行きを見ていることしかできない。まるで魔法かなんか……もしかして、いやそれしかないってわかってたけど……。 (こ、これ……「呪い」? 脱げなくなるだけじゃ……なかったの?) 指示を受けた瞬間、勝手に従うようになる現象は日に日に頻度を増していき、とうとう必ず発生するようになってしまった。つまり……私は誰かに命令されるとそれに逆らえない体になってしまったのだ。 (う、うそ……そんな) こんなことありえない……でも実際に起きている。メイド服が脱げなくなることだってありえないけど現実に起きている。私は恐ろしい事実に向き合わざるを得なかった。私は文字通り、メイドに……誰の命令にも従う従順なお人形と化してしまったのだ。 (ど……どうしよう) 幸い、今のところ周囲の皆は誰も私がロボットのような存在になってしまったことに気づいていない。誰かに相談すべきだろうか。でも……内容が内容だ。誰の命令でもなんでも聞くようになっちゃったんです、などとバレれば……。一生、誰かの奴隷にされてしまうことだってありえる。お客さんにバレれば変なこともされてしまうだろう。そう思うと怖くて中々踏み切れなかった。 グズグズと決断できず、ひっそりと従順すぎるメイドとして働き続けていたある日。私の人生を決定的に破壊してしまう事件が起きた。 「メイちゃん、なんか可愛いポーズとってよ」 チェキを注文した客が私にそういった瞬間、私は自分の意志に関わらず強制的にその注文に従わされた。 「はーいっ」 笑顔で元気よく返事させられ、身体が勝手にポージングを始める。軽く体を捻りながら両頬に人差し指をあてて、笑顔で微笑む。これは決して私が自分の意志でやったことじゃない。逆らうことも、抵抗することもできないまま、人の指示にただ唯々諾々と従い続けてしまう。それでも、ここまでなら最早いつものことだったのだけど……。 「いやー、メイちゃんほんと可愛いねぇ」 「フィギュアとか出してくれないかなぁ」 「このまま飾っておきたいねえ、なんて」 「ぐふふ、もうこのままフィギュアになっちゃってよ」 「はーいっ」 (あっ) お客さんたちが冗談を言い合った結果、とんでもない注文が飛んだ。聞いた瞬間、全身がビリっと震え、私はこの注文が「受諾」されたことを悟った。 (ダメ!) 物理に反した指示が実行される。今までそんなことはなかったのに。……いや、たまたまそんな指示が飛ばなかっただけで、最初からそうだったのだろうか。しかし、いくらなんでもこれは私の想定外だった。メイド服の呪いで常に清潔にされていなければ、全身の毛が逆立ち嫌な汗が流れ出ただろう。でも、もう二度と私の身体にそんな現象は起きなくされてしまった。 お願いを聞いた瞬間、私は笑顔でポーズを決めたまま全身がピタッと動きを止めた。まるで時間を止められてしまったかのように。同時に、急速に全身の細胞がカチコチに硬化していって、あっという間に私は指一本動かせないほどにガチガチに硬直してしまった。 「あれえ?」 「メイちゃーん?」 「あらら?」 お客さんたちが訝しむ中、私はあっけなく人の生を終えた。私はメイドとして彼の命令に従い……等身大フィギュアに変えられてしまったのだ! (うそぉ!) すぐに事態を打開しようと努めたものの、全ては後の祭りだった。身体が全く動かない。指一本、表情筋の一筋たりとも動かせず、全てが完全に固定されてしまっていた。髪の毛一本、一ミリたりとも揺れることもない。手足に指示が出せない。身体が固くて動かせないのではない。動かすという概念自体が私の身体から消失してしまったのだ。今や私は哀れな樹脂か何かの塊でしかなく、その中に神経だとか筋肉だとか、そんな機構はありえないのだ。 (そんな……こ、こんな……馬鹿なことって……) 必死に助けを求めようとしたが、うめき声一つ漏らせない。声が出ない……。身体も動かない。何もできない。焦りばかりが募る中、私は笑顔で可愛く立ち尽くしていることしかできなかった。 「店長ー」 同僚の一人が助けを呼びに行った。でも……助かるだろうか。店員が等身大フィギュアに変わってしまうだなんて摩訶不思議現象にちゃんと対応できるだろうか。というか、皆の反応がちょっと落ち着き過ぎてない……? 目の前で女の子がフィギュアになっちゃったら普通もっとこう……。 「あらぁ、本当だ」 「えーでもかわいいー」 同僚やお客たちがまるで出し物でも見るかのように軽いノリで群がり、私をつついたり横に並んで写真を撮ったりした。おかしい。もっと怖がったりパニックになったり、誰か警察や救急車を呼んでもいいはずなのに……。 (だ、誰か助けて! 私……前から人の命令なんでもきく体質になっちゃってて……そ、それでフィギュアになってって冗談をきいちゃったんです!) 頭の中でいくら事情を説明しても、それが実際に発声することはない。私の顔は可愛らしい笑顔を決めたまま、ピクリとも動かない。 (誰か私に命令してください。「人間に戻れ」って) きっとそうすれば元に戻れる。でも、誰もその指示を出さなかった。発想がないのだ。私は恐ろしく後悔した。誰かに言っておけばよかった。相談しとけばよかったんだ。この呪いの事を……人の命令なんでも聞くようになっちゃってたことを……。 しばらくして品評や弄りが終わると、同僚の一人が言った。 「店長ー、ここあると邪魔なんですけど」 (……は、はぁ!?) 信じられない言葉だった。同僚がフィギュアになってしまったのに、まるでダンボール箱が通路に置いてあってウザいみたいな調子。もっと心配とか動揺とか……あるはずでしょ? 「そうだなー、じゃ奥の方に移動させるか」 メイドたちが私を持ち上げ、店の奥に移動させた。私は抗議することも助けを求めることもできず、困惑することさえ許されなかった。笑顔で可愛く人差し指をほっぺにあてたまま、全てを黙って受け入れることしかできない。 (馬鹿っ……助けてよ、元に戻してよ……私は店の飾りじゃないんだから!) しかし、樹脂の塊と化したこの体では、自力で移動することはできない。私は店の奥でこのメイド喫茶を彩る等身大メイドフィギュアとして飾られ続けるばかりだった。 閉店しても、私の身体は元に戻らない。誰も救急車を呼ばないし、何事もなかったかのように談笑し、片付けをして帰っていく。私はそれを静かに眺めているだけ。信じられなかった。 事ここに至ってようやく、私は今までの呪いも「こう」だったのかもしれないと思い出した。そもそも脱げないメイド服の時点でもっと話題になってもよかった。病院にも行ったんだし。大した騒ぎにもならず受け入れられた時点でおかしかったんだ。このメイド服の呪い……もしかしたら、「大ごとだと思われない」或いは「当たり前のことだとして受け入れられていく」みたいな効果もあったのかもしれない。 (そんな……だとしたら、私は……) 私がフィギュアになってしまうことは、こうして等身大フィギュアでいることは大したことじゃないし、すぐに日常として受け入れられていく……? ゾッとした。私はこのまま本当に等身大フィギュアになってしまうってこと? 誰も元に戻そうという発想すら……してくれないってこと? (いやっ……フィ、フィギュアになんて……なりたく、ない……) 誰もいなくなった暗い店内で、私は懸命に動き出そうともがいた。しかし運命は変わらなかった。私は身体を動かすということそのものが封じられているので、どれだけ頑張っても微動だにできなかったのだ。声も出せない。泣き叫びたいのに、それすら許してもらえない。内心で何を思おうが考えようが、私はこれからずっと笑顔で可愛くポーズしたままなのだ。 (……いやあぁー!) 脳内の叫びを聞き届けてくれるテレパスは、ついぞ現れることはなかった。 翌日から、私の第二の人生が否応なしに始まった。それは、笑顔で可愛くポージングしている等身大のメイドフィギュアとして、メイド喫茶の一角を彩ることだった。ただ、それだけだった。その場から一歩も動けず、一言も話せない。視線すら動かせない。おっきなフィギュアとしてお客さんに見られたり撮られたりするだけ。 「おお~、すごい」 初見のお客さんは精緻なクオリティを誇る等身大フィギュアに感嘆し、無遠慮にじっくり観察してくる。まさか人格が宿っているだなんて夢にも思ってないだろう。ついこないだまで生きて喋っていた人間だとも。 常連のお客さんも、 「メイちゃんフィギュアになったって? おぉ~、可愛いねえ」 などとさもイイことかのように話す。そして私の隣に立って自撮り。ペタペタ触ってきたりもする。気持悪くても笑顔のまま全てを受け入れざるを得ない。僅かに顔を歪めることさえ、今の私にはできない。意思表示することが、私がどんな感情を抱いているかを僅かにでも外に伝えることができない。何をされてもただ黙って微笑み続けるだけ。 (さ、さわんないで……ていうか、助けて……お願い) 知っている人間がフィギュアになってしまったというのに、みんな騒がない……。お気に入りのメイドが何の反応も示さない置物になってしまったというのに、誰も残念がらないのが悔しかった。両親も様子を見に来てくれたりしないし、日に日に心が荒んでいく。世界中の人間という人間から見捨てられてしまったみたい。 (くっ……んっ、んんん……!) 何度も体を動かそうと、声を出そうとはしてみた。しかし、やはり奇跡は起きてくれない。微動だにできず、カチンコチンの置物として店の様子を眺め続けるだけの時間が過ぎていく。頭がどうにかなりそうだった。苦しい。辛い。動けない。なのに顔はずっと笑顔を張り付けたまま。心と体が一致しないことがとにかく気持ち悪くて、惨めだった。もっと嫌がっているような素振りを見せたい。でも、それすらさせてはもらえない。こんな笑顔じゃ、まるで等身大フィギュアになっていることを喜んで受け入れているように見えちゃう……。それが心底悔しかった。 月日が過ぎていくと、私のファンだったお客さんたちもすっかり生きた他のメイドたちに夢中になり、私の方に寄ってくることはなくなってしまった。新規のお客さんは当然ながら単なるフィギュアだとしか思わないし……。同僚も、誰も私に話しかけてこないし、格別に関心を向けることさえない。心配どころか、もはや意識の外って感じ。 (ねえっ……み、みんな……大丈夫? 私の事、ちゃんと覚えてる? 私が人間だった、ってこと……) 同僚が私と接触するのは、頭上の埃を払う時だけ。完全に単なる置物扱いだった。そしてかつての同僚が辞めては新しい子が入ってくるたび、私は泣き叫びたい衝動にかられた。お願い、置いてかないで。私を忘れないで。人間だって、ちゃんと伝えて……。 しかしその願いは拒絶された。いちいち「あの等身大フィギュア、実は人間だったんだよ」などという怪談を引き継ぐ子などおらず、私は正真正銘、単なる飾りになり果てていった。このままだと店長以外、誰も私が人間だったことを知ってる子がいなくなっちゃう……。そんなの、嫌だ……。 「このフィギュアすごいですねー! 高いんでしょうねー!」 「だろうねー。倒しちゃダメだよー」 (ち……違う……私は人間なの……フィギュアじゃないの) とうとう、私の過去を知るメイドは一人もいなくなってしまった。これで私は本当に……ただのお店の飾りになった……の? ひ、酷いよ。どうしてこんな……。 (動いて……お願い) 無駄だと知りつつ笑顔を崩そうと試みるも、試みることさえはねられた。 これ以上の地獄はないだろうと思っていたけど、まだまだ見通しが甘かった。ある日、メイドの一人が掃除中にこう言った。 「これもう邪魔じゃないですかー? 重いしデカいし、無駄に存在感ありすぎー」 「確かに―。ここ通るとき正直邪魔だよねー」 (んなっ……ふざけないでよ! 私だって……私だって、好きでこんなところに突っ立ってるわけじゃないよ!) 「等身大とかちょっとキモイよねー」 「ねー。普通のフィギュアだったらいいのに」 「小さくなってくれない? ……なーんて」 (……あっ!? ダメ!) メイドのお願いに、私の身体が反応した。してしまった。音もなく静かに、彼女たちが、店内が、世界が急速に巨大化し始めた。 (あ、ああ……や、やめて……それだけは) 視線がドンドン下がっていく。そして目に映る物全てが拡大されていく。彼女たちのスカートの先が見えるか見えないかのところまで視点が下がったところで世界の巨大化は止まった。私は……彼女の指示をきいて、普通のフィギュアサイズにまで縮んでしまったのだ。 「あら?」「小さくなっちゃった」 巨大な手が私を掴んで、床から持ち上げる。 (ひぃっ) 私は本能的に恐怖した。数倍ある巨人に捕まる恐怖。加えて、一切の身動きが取れないこの体。フィギュアじゃなかったら泣き叫んでいただろう。だけど、私は変わらぬ笑顔のままだ。 「どうする?」「んー……。店長ー」 テーブルに置かれた後、私は巨人化した店長に見下ろされた。とてつもなく恐ろしい……。で、でも店長は知っている。私が人間であることを。この店にいる、真相をしる最後の一人……。 「えー縮んじゃったの? しょうがないなー……。カウンターにでも置いといてよ」 (……!) その声は明らかに、自分が雇っている店員に対してのものではなかった。モノに対するめんどくさそうな声。私は店長の中でも、すっかりお店の飾りになってしまっていたのだ。 カウンターに飾られた私は、今までと違う視点でお店の様子を眺めることになった。絶望だった。こうなってしまってはもう誰一人、私が人間だったなんて想像すらできないだろう。だって、もう正真正銘、普通のフィギュアになってしまったんだから……。 お店の飾りとしてさえ格下の存在となってしまった私に、もはや誰一人興味を持つ人はいなかった。カウンターに置いてあるメイドのフィギュア。本当に、ただそれだけだった。 「いってらっしゃいませー、ご主人様」 支払いの最中、お客は私を気にも留めない。ダメだ。終わった。私は……藤原芽衣は、とうとう単なるメイドのフィギュアに変わり果ててしまったのだ。物理的にも、社会的にも……。 (こんな……こんなことって) こんなに辛いのに悲しいのに、やはり私は笑顔で可愛くポーズし続ける。ここまで来たら、いっそのこと心もフィギュアになってしまいたい。それぐらいに苦しかった。 (あ、ああ……お願い。誰か……誰か、助けて……なんでも、いいから……) 巨人界のメイド喫茶の隅っこで、私は来る日も来る日も心の中で救いを求め続けた。それしかできることもやることもなかったから。 永久にただのフィギュアとして樹脂の肉体の牢獄に囚われ続けるのだと悲観していた中、予想外のことが起きた。メイド喫茶が閉店することになったのだ。 (えっ……へ、閉店? うそ……) 自分のことばかりで、店の将来のことなど頭から吹っ飛んでいた。ので、店長の話が耳に入ってきた時は青天の霹靂だった。そうだ……考えてみれば当然、私以前に店が永遠であるはずがない。ましてやメイド喫茶なんて。 (わ、私……私はどうなるの? お家に帰してもらえるの?) 自分の処遇を問いたかったけど、私は笑顔でポーズをとりながらひっそりと盗み聞きしていることしかなかった。私に質問権はない。店長も誰も、私に閉店後の扱いを説明してくれたりはしなかった。 (どうなるの……。教えて、教えてよぉ) 気が気じゃなかった。だって最悪、もしかしたら……ゴミとして捨てられてしまう可能性だってあるのだから。 (ね……ねえ、私はまだ生きてます、フィギュアじゃないです……覚えてますよね? ね?) 生きた心地がしなかった。叫びたい、逃げ出したい。でも私はカウンターの端っこで可愛く突っ立っていることしかできない。そんな死刑の執行を待つ死刑囚のような生殺しの日々が続いた。 結局私には自分の未来を知るすべがなく、来るXデーに自らの身をもって思い知る以外に選択肢は存在していなかった。 結論から言うと、最悪の事態……ゴミとして捨てられ死ぬ、という運命は回避……いや延期できたらしい。しかし、最悪の次に悪いルートだった。閉店後に備品の処分が始まる中、私は……売られることになったのだ。ネットで。 (待ってください! 私は備品じゃありません! 人間です! 覚えてないんですか!?) 写真を撮られる際、全身全霊で暴れようと努めたが、身体はあの日から指一本動かせないまま、何も変わっていなかった。私は家に帰されることも、両親が迎えに来てくれることもないまま、なすすべなくネットオークションに出品されてしまった。 (ああ……お願い、誰も買わないで) 売られたら本当にお終いだ。買い手は十中八九、いや百パー私をただのフィギュアだと思って買うはず。私の身の回りから、人間だったことを知る人間が今度こそゼロとなってしまう。そうなっては希望を持つことさえできない。私は本当に、完全に純粋なフィギュアと化してしまうのだ。 願いむなしく、買い手はついた。私は拒否の意思表示さえできぬまま、嬉しそうな笑顔で梱包を受け入れ、真っ暗闇の中送り出されてしまった。これで……これで私は、今度こそ完全に、フィギュアにされてしまった。もう……助からない。 人間だったらゲロゲロに酔っていたかもしれない激しい振動を耐え抜き、私は自分を買った相手、私の所有者のもとにたどり着いた。自分が売買されたという事実に改めてショックを受けると共に、人身売買だとさえ思われてないことに二重のショックを感じてしまう。心底惨めだった。 私を買った男は二十後半ぐらいに見える男性で、予想より酷い容姿ではなかった。ただメイドフェチであるらしく、メイド姿の美少女フィギュアが棚の中にズラリと並べられており、私もその中に加えられてしまった。 (あの……私、私人間なんです……フィギュアじゃなくって……) ガラス棚が閉められ、鍵をかけられる。取り付く島もない……いや物理的にだけど。これまではなかったモヤモヤと焦燥感が私の中に生まれた。これまでは、メイドフィギュアは私だけだった。お店の中に等身大フィギュアなんて私だけだったし、カウンターにも私しか飾られていなかった。でも……ここは、今は違う。無数のメイドフィギュアが並ぶ空間の中に、私は並んで立っている。そのお仲間として。 (あ……あぁ……) 自分が埋もれていく感覚。これは初めてだった。メイドフィギュアの中に混じってしまったことが、私をより一層メイドのフィギュアであることを強めていく。無数のメイドフィギュアの中の一体が人間だなんて、神様でさえ気づくかどうか。オンリーワンのフィギュアでさえなくなってしまった恐怖。本当に、ただの樹脂の塊に、意志を持たないフィギュアたちと同列の存在に堕ちてしまったようでこれまでにない焦りが生じた。 (出してっ、ここから出してください、私フィギュアなんかじゃありませんっ、この子たちと一緒にしないでくださいっ) しかしその声は彼に届くことなく、私はここから一歩も動き出すことはできなかった。周りのフィギュアたちが動かないように。 夜中、私は周囲の先輩フィギュアたちの無言の圧を感じ取る。お前は単なるフィギュアだと。私たちの仲間なのだと……言っているような気がした。その証拠に、自分たちと同じような見た目で、サイズで、素材で、動きも喋りもしないじゃないか……と。 (違うの……っ。それでも、私……は……) 心中の言い訳でさえ、ここでの新生活を一日一日積み重ねていくたびに弱まっていく。だって私は、客観的には完全に彼のメイドフィギュア・コレクションなのだ。周囲に同じ境遇と容姿を持った「仲間」が常にいて、私はずっとその中にいる。彼女たちが可愛いポーズで固まっているのと同じように、私も可愛く固まっている。自分は……私は一体どこがどう人間なのか、自信が持てなくなっていった。 ある日、私に後輩ができた。それはAIで自立的に動いて喋る、スーパーフィギュアと呼ばれる新商品だった。彼はメイドのスーパーフィギュアを三体買って、ペットのように可愛がり出した。私はそれをジッと棚の中から見つめていた。 「ただいま~」 「おかえりなさいマスター」「おかえりなさいませ」「私ね、今日お掃除できたよ!」 「んん~っ、ありがとうみんな。よしよし」 (わ……私も……) 三人が人間のように生きて動いている様を、私は歯ぎしりしたいぐらい悔しい思いで眺めていた。あの子たちが……フィギュアなのに動いていいなら私だって……。どうして私は動いちゃいけないの!? 「さくらは可愛いなぁ」 「えへへっ、ありがとうございますっ、マスター」 マスターに頭を撫でられる新人に、私は憤りと嫉妬を感じた。私より後から来たくせに。私の方が……絶対人間らしく受け答えできるのに……。 でも、身体は動かない。周りのフィギュアたち同様、黙って部屋を飾り立てていることしかできない。彼女たちのように動くことができない……。私は人間なのにどうして? 彼女たちはフィギュアなのに何で動いていいの? (ここから出して……そっちに加えてっ) 次第にそんな思いが頭を支配するようになった。こんなところにいるから動けないんだ。動かないフィギュアの仲間にされているから、その中に混じられているから動けないんだ。スーパーフィギュアたちの仲間に入れさせてもらえたら私だって……。 「おはよう皆ー。元気ー?」 さくらが棚に並ぶ私たちに挨拶してきた。私は返事さえできず、ただ笑顔でポージングを続けることしかできない。 「もう、さくら。その子たちはお返事できないのよ」 「かわいそー。古いフィギュアって何にもできないんだー」 「うふふ、仕方がないじゃない。その子たちはただの樹脂なんだから」 「皆とお喋りできたらきっと楽しいのになー」 (できる……よ……) さくらが興味を失い離れていった。私は三人が仲良く遊んでいる様をまたいつものように見せつけられる。 (私……人間だもん……あなたたちより……上、なんだから……本当は……) でも、私が動くことも喋ることもできないことは今日も変わらない。明日も、そして明後日も……。 (そっちに……移し、て……そしたら、私……お喋り……できる……から……) 棚の中のフィギュアが頭の中で上げる声を、聞き届けてくれる相手はいなかった。

Comments

感想ありがとうございます。完全なモノ扱いもいいですよね。とても気に入っていただけたようで嬉しいです。

opq

今までで一番好きな作品の一つ 今回のフィギュア化が面白かった 他人の命令に従う人形にはなりたくなかったので、命令に従うことすらできない本物の人形になってしまった 常識改変の原因でからふざけるシーンは減ったが、完全にモノ扱いされるのもまた趣がある 冗談の一言で着用者をフィギュアにしてしまったり。文句の一言で着用者を縮小してしまったり。十分かわいい感じですが、現実にそんな服があったら、やっぱり怖いですよね。 最後に絶望した際には、人間に戻るのではなくスーパーフィギュアの仲間に入ることを目指していたほど、かわいそうな子 口から出任せの言葉で状態変化の作品をもっと見たい

弥生萌えよう


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