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ムツハはぬいぐるみにされてしまった!

ムツハは荒々しく汚れている病院のスライドドアを開けた。 暗く続いていた今までの廊下とはうってかわったような、まぶしい光がその先から指し伸びた。 「うっ」 思わず腕で視線を遮る。 まぶしい光が弱まり、恐る恐るムツハは腕をどけた。 「……わお、なんだこれは」 視界に入って来た景色に感嘆の声をあげた。 そこはクッションでできた広い原っぱだった。 地面は緑と白のチェッカー模様の柔らかいクッションで出来ており、空には縫い合わされた雲のクッションがふわふわと浮かんでいる。 「あの子、こんなにファンタシーなセンスもってたっけかな…」 地面の柔らかさを確かめつつ、ムツハは首を傾げた。 意外にも、こういった空間に似通ったかわいらしい世界を作るのでは、魔女のケーゼがよくやっている。 だが、ここはワーフムの空間だった。 ワーフムの作り出す迷宮結界は、いつも大体が星空の下で、実際の新鮮な空気を感じる草原地帯が広がっている。 子供寄りな妖怪だが、今までそんな面を見せてなかっただけに、目の前の空間には驚いた。 「レア階層。ってわけでもないわよね。 体は何も変わってないし…」 きょろきょろと自分の体を見回してみるが。ムツハのメイド服から体の一部の陶器まで、特に変化している部分はないようだった。 「…?ひとまず、先に進むかしらね…」 そう言うと、スカートのすそを持ち上げる。 すると、まるで手品であるかのように、広げたスカートの幅と同じぐらいの皿が。彼女のスカートの中からゴトっと音を立てて出てきた。 「あらよっと!」 そして、そうして出てきた皿の淵をさながらスケボーを立ち上げる時のように踏み抜く。 カツんと音を立て皿は宙を舞う。 ムツハはぴょんっととびのると、本当にスケボーのようにして乗り地面に着地した。 皿は地面に落ちきる前に、ふわっと宙に浮く。 「移動秘儀、宙皿」 姿勢を低くし、ムツハはそのまま前へと進みだした。 速度はなかなかの速さ。 チェッカーが次から次に白、緑、白、緑と様変わりしていく。 「この速さだと、目に毒だねぇ…」 目がしょぼしょぼしてきて、ムツハは目をこする。 「けれども。 今日は引くわけにもいかない。 今回ばかりは、リンリーを返してもらわないとねぇ…」 ムツハがここへ来たのも、ワーフムの迷宮結界からリンリーを連れ戻すためだった。 せっかくの休日だから、デパートに一緒に服を買おうと約束してたのだ。 なのに、待ち合わせ場所に来る前にこの迷宮結界に落ちた上に、捕まったらしい。 「戦闘拒否サイン、申請しとけばよかったかな…。あーでも、あれ期間短いしなぁ…」 ぶつぶつと、つぶやいている。 すると、周囲の地面が変化したのを感じ取った。 「んっ、来るか?」 ちらりと横の景色を見る。 すると、白と黒のチェッカーの縫い目の糸がほつれていっていた。 ほつれた糸を複数で絡まり、太い糸を成す。 集まった糸たちは、ムツハの全方位からムツハにとびかかった。 「ほーれ来た!」 またスカートの両サイドの裾を持ち上げる。 通常サイズの皿が数枚滑り落ちると。ムツハの周囲を円状に回りだした。 盾だ。 糸が届く前に、皿はその表面で糸を防いだ。 それが無尽蔵に繰り返される。 進めば進むほど、地面はほつれ。糸がムツハを捕まえようと襲いかかってくる。 「ぐぅっ、きついわね…。」 糸の量は並みの攻撃の速度を越していた。 使い魔と比べると、妖力の管理が簡単なのか。数倍近くの戦力を誇っている。 盾をあらかじめ出していたとしても、押し込まれそうな状況だった。 「まずいな、これは…! 次の階層は、まだ…!?」 ムツハはキッと前を見やる。 すると、地平線に何かが見え始めたことが分かった。 「!あった…!」 それは、空間には不自然な洋風の扉だった。 しかし、ムツハがワーフムの結界を進むにあたっては、毎回見るものでもあった。 「いつもの扉だ!! 次の階層へ移れる…!!!」 ムツハは速度をさらに加速させる。 妖力の消費が激しく、すぐに摩耗するように思えるが。階層を移りさえすればある程度は整えれる。この階層最後の勝負に出た。 糸を後ろの方に追いやり、扉へと加速する。 自分の中の妖力残量が、急激に底をつきそうになる中、手を伸ばした。 「届け!まにあえっ…!!」 扉は、あと数秒の内の目の前に来た。 そこで、ふと目の前が真っ暗になった。 「えっ?」 ぎょっとする。 妖力切れが来たか?と思い、自分の精神を自己分析してみるが、まだぎりぎり妖力があるのを感じた。 じゃあ、いったいなぜ? 「…なっ!!?」 上を見上げ、驚愕した。 自分の数十倍もある、巨大な雲のクッションだ。 最初に空高くに見えていたそれは、自分目掛けて急降下してきていたのだった。 「こ、これも使い魔!?ぎゃっ!!!」 ボスゥゥン、と。にぶい音が響き渡った。 ムツハを下敷きに、チェッカー模様の空間に波紋状に波が広がった。 そこから、ムツハがはい出てて来る様子もない。 後方から、ムツハが今さっき振り切っていた糸の大群が、雲のクッション目掛けて押し寄せてきていた。 「ぬっいぐるーみー ぬーいぐるーみー。 もっふもふよこせー、もふもふどこだー」 間の抜けた歌を歌いながら、チェッカー模様の原っぱを飛び跳ねながら来る妖怪が居た。 この迷宮結界の主、ワーフムだ。 「ふぅ…。いつもは、結界を責める側だけど。 作ってみるのも楽しいや」 そういいつつ、飛び跳ねていると、地平線に何かが見える。 地面に転がる小さいなにかだ。 「んっ、めっけ!」 ぴょんぴょんっとそちらへ向かう。 「おー、この人は。喫茶店の…!」 ひょいっと、ワーフムはそれを拾った。 手で触っただけでもふっかふかのデフォルメな姿。 固い陶器も鍛えた足も、全部がシンプルにデザインされなおされ、愛らしい姿に変わり果てた代物。 ムツハのぬいぐるみだった。ワーフムはさっそく全身で覆いかぶさるように抱きしめる。 「ん~~♪ んふふ…♪ ふうわねえやんにはかなわないけど、さいこうのもっふもふぐあいだ…!」 尻尾がばさばさと揺れる。ぬいぐるみが大好きなワーフムとしては、妖力をいただくよりも良い報酬であった。 「先に、鹿の妖怪さんも来てるから、一緒におふとんでもふもふするよ~。にへへ…」 にっこにこと呟くと、ワーフムは元来た道を戻りだした。 「それにしても…。 こんな階層作ったかなぁ…」 一つ、首をかしげながら。

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