無人のビルは、どこまで行こうと代わりの無い環境を続けている。 ふうわは歩いている廊下の所々をちらりちらりと見る。 巫女でありつつも、猫の妖怪であるゆえか。暗がりの風景は並みの妖怪よりは見える。 何処にも埃が積もっており、誰も来ていないことを表すようだった。 「…むっ」 ふと、前方から光が入ったのを見て、立ち止まった。 見て見れば、突き当りの窓が、前方にある別のビルからの光を取り込んでいる。 そして、何よりも気になるのは、その窓が開いている事だ。 窓から何かが入り込んだらしく。窓の下の埃が綺麗さっぱりない。 埃の消え方は、なめくじの這いずり後のように尾を引いている。その線は、ふうわの手前の扉に続いているようであった。 ふうわはうんと頷いた。 どうやら、シャーロゥが危惧していた『魔物』は、ここに居るらしい。 ようやくたどり着いたというところだが、思わずふうわの口からはぁとため息が出てしまった。 美倉街に妖怪監獄管理委員会、廃月商店街。それらを初めとした超常者どうしの抗争。 美倉街に現れる、付喪神に近しいが、より凶悪な怪物群。ギツクモ。 妖怪と近しい社会形態を構成し、距離感を調整しなければいけない魔女達。 そして、今回探りを入れているのが、妖怪の中でも希少な魔物種だ。 前から思っていたが、多すぎないか?毎日毎日ギツクモ狩りに外部組織対抗と、この町の人々を襲いかねない敵と戦い続けているが。敵が余りにも多すぎる。 これで内部がバラバラなのかと思えば、妖怪は妖怪である程度団結してるんだと思えば、思わず笑いが出てしまった。 妖怪が一致団結して社会を作れば、生きていける。ふうわの母に、幾人かの当時の権力者達がその理想を追って、この町は出来上がった。 だが、団結は成功したにも関わらず、それを上回る脅威が多すぎるのが現実だった。 これなら、妖怪は集まろうとなんてしないで。それぞれがか細い生活環境の中で、自分が生きれる居場所に潜んでいた方が良かったんじゃないか。巫女の身でありながら、そんな事を考えてしまった。 「……行くか」 しかし、ふうわはそう思ったことを振り切って扉に手を掛けた。 自分は、『その方が良かったんじゃないか?』なんて言葉を否定するのが仕事だ。 妖怪が集まって生きる事は、合っている。母が掲げたその言葉を、私が嘘にしないために戦うのだ。 「………………うーん……」 ケーゼは、古びたビルの一室で目の前の物体に手を触れながら物ふけった。 「気持ちは分かる。凄い分かるよ。うん」 首を横に振りつつ、ケーゼは目の前の物体を拾い上げた。 それは、水色のシリコンゴムの塊だった。目の前に飛び散るスライムの中から拾い上げたそれは、全身をどろどろとした液体で包んでいる。 愛液にまみれているのか、スライムに塗れているかも分からないぐらいとろとろになってしまったそれ。ふうわのオナホは、恍惚とした顔を浮かべていた。 「………///」 「悩む気持ちはすっごい分かるし、覚悟できるのはえらいよ。でもねぇ……その直後に、こういう目にあったりすると、後でものすごーーーく、恥ずかしいから…気楽にやろ、ね?」 気が付けば、ケーゼの口角は少し上がっており、目線を逸らした顔は真っ赤になって震えていた。 ふうわが魔物種にやられる直前を、ケーゼが記録を読み取る術式で読み解いたのであるが。ふうわの羞恥心を肩代わりするような羽目になったのだった。