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ワーフムはキノコにされてしまった!

短編小説『姉だけの私』  その日の朝、私はねえやんの自室で目を覚ました。  目を実際に開けたわけではない。意識を覚まし、柔らかくもゴムのような弾力のみになった体を、ぷるぷると揺るわせたのだ。 「おはよう、ワーフム。たぶん起きた……のよね? 待ってて、今お水あげるから」  いつもの装束じゃない、だらしないシャツ一枚を着た姉が、私の傍らに置かれた私専用の霧吹きを手に取ると、こちらにシュッと一回吹きかけた。 (ふあっ♡あふぁっ♡♡)  全身が水を吸い上げる感覚に、思わず変な嬌声をあげてしまった。  しかし、今の私に口があるわけではない。  嬌声は、ぷるぷると全身を悶えさせる形で表に出た。  そう、私ワーフムは、先日の化かし合いの結果、キノコになり果てたのだった。 「っ……お、美味しいのね。良かったわ……ああぁ、ダメダメ……こんな風に妹を室内で育てるなんて、変な感覚になりそう……」  未だにびくびくと悶えるキノコ姿の私を見て、ねえやんは顔を赤らめて目を逸らした。  先日、私とねえやんはタッグで化けキノコの妖怪マシュネスに化かし合いを挑んだのだ。  結果、私だけが元気な人狼少女から、ただの水を吸い続けるキノコにその身を落とした。  もう自分自身が人狼となり、人間だった頃を思い出せないので逆に分からないところだが。  元の姿を失い、違う物として扱われるというのは、基本的に恐怖なのだろう。  仮に人間の巫女がいるとして、今までずっとまともに巫女として地位を築いていたのに、ある日突然、妖怪からの呪いとして、野ざらしの木片に変えられて放置されたりしたら。  その恐怖は、よくわかる。  それが、人間の感じる変化への恐怖なのだろうと思った。  でも、私は。むしろそんな自分を奪われ、支配されるという恐怖を、ねえやんからいっぱい味合わされたいとどこかで思っていた。 「わっ! ご、ごめんワーフム! 見ちゃった…」  つい、高揚感に耐え切れず、胞子を吹かしてしまったしまう。ねえやんはその事で戸惑い、私に謝った。  いいんだよ、ねえやん。私は、こんな情けない姿をねえやんに見られてしまう事が、ドキドキしちゃう。  物に変えられてそれまでの全てを奪われ、誰かの所有物になるという事は、その自分を所有した誰かに、自分自身の生殺与奪を支配されてしまうという事だ。 (……ああぁ)  その感覚が、私は大好きだ。  自分がねえやんの所有物になるのも。逆にねえやんが私の所有物になるのもどちらもだ。  私がねえやんの物になれば、ねえやんはいつでも私を殺すも捨てるも自由だ。そうしないで、ねえやんが私に霧吹きで水をやったりするのは、私を受け入れられているからなんだと、どこかで感じてしまう。  こんなの失礼だ。そんなことをしなくても、いつもの私を愛してくれていると、ねえやんは言ってくれるだろう。だから、こんなことを思ってしまうのはいけないことなんだ。  でも、それでも思ってしまう。  ぬいぐるみになった私を愛おしそうに抱き続けてしまう姿。飴になってしまった私を戻そうと必死に舐めてくれる姿。下着になってしまった私を誰かに持ってかれないように履き続けてしまう姿。アレなものになってしまって、他の人に妹が使われる姿を想像するのが嫌で、自分で使ってしまう姿。  どれもが、私の中の何か、汚してはいけない筈の心を、歪に汚してしまう。抗い難い喜びだった。  逆も同じ。ねえやんが私の物になっちゃうのも。  ぬいぐるみにしてずっと抱きしめ続けるのも、石になっちゃったねえやんを磨き続けるのも、毛布になっちゃったねえやんに裸でくるまり続けるのも、ねえやんに内緒で言えない姿になっちゃったねえやんをずっと使い続けるのも。  私だけのねえやんになってしまったその瞬間を、私はいつも、耐えられない高揚と共に浸り続けた。私だけのねえやん。その響きに、私は耐えられない。 「まったく……マシュネス、姉妹でこんな恥ずかしい目に合わせて、ただじゃおかないわよ……絶対に、ワーフムが元に戻ったらお礼参りするんだから……」  羞恥に耐えられなくなったねえやんが、昨日の化かし合い相手であるマシュネスに悪態を突いた。  でも、良いんだよ、ねえやん。さっき言っていた、変な感覚になりそうっていう心地。その感覚に堕ちてしまっても。  ねえやんが私を物に変えて、その反応や自分だけのものにするという感覚にはまってしまっても、むしろ私は嬉しいよ?  ……でも、そんなことを私は、ねえやんに直接は言わない。  凄い失礼なことだから。私を救ってくれて、人狼である私そのものを愛してくれて、妹にしてくれたねえやんに失礼だから。  ただの飢えて何年もさ迷い続ける私を、理性を取り戻させ、妹として育てなおしてくれたねえやんに、今の姿を無くして物になり果てさせてくれだなんて、裏切り行為だから。  だから、これは私、ワーフムだけのねえやんに内緒の歪んだ思い。  妖怪としての凶暴性をもったまま、人間に近い暮らしをすることが許された、この美倉市だからこそ成り立つ。私の喜び。  いつか、もっともっと。ねえやんが私を物に変えて独占してくれますように。支配したいっていう願いに包まれますように。  私は、ねえやんを物にしちゃうのも、ねえやんが私を物にしちゃうのも、大歓迎だよ、ねえやん。  姉妹以上の、離れられない存在になりたいな……。  私は、キノコにされた快感以上に、自分自身の想像でさらに体を悶えさせた。  元の姿に戻ったとき、きっと私は、開口一番にねえやんに、自分をキノコに変えたマシュネスへの怒りを口にするだろう。  決してこの思いは、ねえやんには喋らない。  私は、ねえやんに嫌われたくないから…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  ワーフムの心境を綴った一人称小説を、いつものようにイラストに乗せようとしたら、思ったより長くなってしまったのでこちらに書きました。

ワーフムはキノコにされてしまった! ワーフムはキノコにされてしまった!

Comments

great..

lehu


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