その日、ムツハの夜の妖怪向け喫茶の営業を終えたところで、営業終了ぎりぎりまで店内に残っていた友人達で、帰路についていた。 「お疲れムツハ。日中は人間向けの喫茶店の従業員、夜は妖怪向けの喫茶店のマスター……その、疲れるどうこうの次に、倒れないの?」 「妖怪にそれを言うかしら? 妖力で補えば問題なしよ」 二人の会話を聞き、リンリーは息を呑んだ。 ムツハは、妖怪の中では異様なほどのハードワーカーだった。 仕事と言うならば、日中の喫茶店仕事が、本来彼女がやるべき事だ。 だが、それ以上に彼女はどうしてか人と触れ合う事が楽しくて仕方がないという性を持っている。 その為か、肉体を補う事ができれば、何時まででも趣味の仕事に熱中している。それがムツハという女性だった。 「すげぇなぁ。私はもう眠いところだが……」 「モナカは、妖力で体補わないの?」 「私の妖力は、戦いの為に残すわ。寝て満たせるなら、寝るに 限る……」 そう言いながら、モナカは周囲をきょろきょろと見回す。 「何探してるの?」「タクシー」 タクシーまで使うのか。言動はそれこそ姫騎士かのようなプライドを感じるのだが、些細なところで当に怠惰になっている気が、リンリーにはした。 「(家に帰るぐらいなら、妖力も使わないだろうに……)」 その時。モナカが辺りを探していると、突然裏路地へ続く道から一人の女の子が飛び出してきた。 「お姉さん達、タクシーを探してるの?」 「へ? ああ、ちょうど探してるが……さすがに深夜には無い みたいでな」 「もったいない。あたしちょうど空いてるタクシー見てるよ!」 少女の言葉を聞き、モナカは驚いたが、その傍らでリンリーは眉を潜めた。 「モナカ。色々怪しいよ。こんな時間にタクシーで、女の子?貴女、私達の事普通に見れる当たり、前提として、妖怪か魔女でしょ」 「うん、そうだけど?」 「私の友達に、赤髪の魔女が居るけれど……そう言う提案突然にしてきたら、もはや罠のサインなのよ。……何が目的?」 「お、おいおい。初対面でそんな失礼な事言うなよリンリー」 リンリーに対し、モナカは慌てたようになだめた。 「心外だなぁ。ちゃんとタクシーあるのに、ほら」 少女はそう言うと、懐から一つの箱を取り出した。 「ん……空の箱?」 少女が取り出したそれは、横長のただの空箱だった。 モナカは困惑してそれを見て、リンリーは眉を潜め、ムツハも少し身を固める。 しかし、それが、モナカたちにできる反応の最後だった。 「これがどういう……こ……」 「あ、れ……」 そこから先、モナカたちは無言になってしまった。 ただぼんやりと、目の前の空箱を眺め続けてしまう。 「ふふ、やだなぁお姉さん達ってば。何かを送るとしたら、箱が一番なのは当然でしょう?」 反応の無くなったモナカたちに、少女はからかうような笑いを浮かべて喋りかける。 「私が送ってあげるからさ。ほら、そんなにおっきいと中に入らないでしょう? 3人そろって、無駄にきゃぴきゃぴ良い体しちゃって」 「……あ、あぁ。送ってくれるんだ、きみ、いいこなんだね、おね、がいね」 モナカはそう言って、ふらふらと箱に近づき、そっと手で触れた。 すると、モナカは光に包まれて、あっという間に箱の中に吸い込まれてしまった。 「まいどあり。さあさあ、トナカイさんにメイドさんも、ほら」 少女は小弾みに近寄ると、リンリーとムツハにも箱を当てた。 二人とも一切の抵抗を見せる事無くただ箱をぼんやりと眺め続け、そのまま光に包まれ、箱に飲み込まれてしまった。 元の通り人の気も無くなった街路に、ただ少女だけが箱を持って佇んでいた。 「ふふ、馬鹿みたい。プライドの高い虎妖怪が、最近は丸くなったって聞いたけれど。尖ったところがなくなれば、後は人を信じすぎる単純さしか残ってないじゃない」 少女は人を弄ぶようないやらしい笑みを浮かべ、箱を見下ろした。 箱の中には、3等分のスペースで、ぎちぎちに詰まった、ムチムチな女の子の曲線を表面に残した、少女ケーキが詰まっていた。 オレンジに青、紫。見るだけで甘くて仕方がない、淫らなケーキになった3人が、デフォルメな笑顔を浮かべてそこに残っていた。 「あはは。私が、この街の出身の妖怪で良かったわね。もし私が外の組織に所属する妖怪だったら……今頃、ただのケーキとして、売りに出されてたわよ?」 この街の妖怪達は、他人を信用しすぎるわね。 少女は、ただの食べ物として箱に詰まった女の子たちを見下ろしながら、そんな事を思った。