「我が主。今日は調律の日でございますよ」 「んー? ああ、そうね。その日だったわね」 魔女ケーゼの隠れ家の一室、元来店舗として使われていたはずのその場所は一通りの機材が撤去されて、無愛想なコンクリートをさらけ出している。 その上で簡易なマットレスを敷いて寝ている我が主を、実に体現しているかのような様子だ。 「忘れてたではすみませんよ。使い魔とは、主と定期的に魔力を交わし合わなくては、いずれ分離し、身勝手に主の元を去るものです」 「えー、別にいいけど? 貴女の居たい所に落ち着けば。この街で主従もあんま無いでしょうに」 「……料理、困るでしょう?」 「ああ、ずっと居なさい」 ……お菓子の魔女、なのかなぁ。ほんとにこの人が。 さて、未だにパジャマ姿でまぶたを擦る我が主に、魔女としての正装を用意し、朝のホットミルクをご用意する。 「ミルクがホットミルクを……自前?」 「ひっぱたくぞ」 我が主は、この通り適当。 多少の軽口ぐらいなら適当に流してくれる。 だが、主ケーゼの使い魔として、『使い魔の調律』を蔑ろにすることは許せない。 使い魔の調律とは、魔女と使い魔が、互いに主従関係であることを今一度見直す、いわば定期検査のようなものである。 魂と魂が触れ合う程に魔力を交わし合い、主従を設定し直す。 主は軽い署名ぐらいの感覚で見ているが、魔女としても使い魔としても、この儀式は失敗してはならない。 「我が主、かざす手が逆です」 「え? ああこっちね」 「……寝ぼけてます?」 「ええ。朝はどうもねぇ……」 「気を抜くと、契約の流れが逆転して、主従が逆転して刻まれますよ。その時は、料理を覚えてもらいますが」 「ええー。そうなったらそうなったで、可愛い使い魔に主として、ご飯を振る舞ってよねぇ」 「あつかましいなぁ」 小言を交わし合いながら、魔力をじっくりと流し合う。 契約完了まで、1%、2%………3%。 「…………長くない?」 「まだ早い方ですよ。手のひらより密着する方法なんて……もうあれな方法しか無いですし。余った手で、ホットミルク呑んでていいので、我慢してください」 我が主ははぁとため息をつき、のんびりとあくびをした。 このまま、ゆっくりと契約を進めていけばいいですが。 「……あ、ひらめいた」 「あ、こらっ!」 ひょいと、契約の行進率が2桁にもならない内に手を離してしまった。 私の制止も効かずに、我が主は後ろを振り返り、急に蹲り出す。 「何を思いついたか知りませんが、後回しにしてもめんどうなだけですよ、我が主。さあ、手を出して」 ──と、主の肩をぽんっと叩こうとしたのだが……。 差し出したその手を、突如として捕まれ、主は満面の笑みを浮かべながら振り返った。 「んぐっ!?」 あまりにも突然で、対応が出来なかった。 主は、残った方でを私の顔にかざし、何かの魔法を掛けた。 「なに、を──?」 ──そこから先は、思考がぼやけ、ふんわりとほぐれていく。 ねむりの、まじゅ、つ……。 ………… …… … うっすらと、意識が回復していく。 「あ、う…………はえっ!?」 ぼんやりとしていた意識が、自らに課された異様な状態で急激に引き上がった。 両手両足が、まるでのけ反ったカエルのようなポーズに開かれて、石造りの台の上に、がっしりと拘束されてた。 ──はい。 「お、おおぉ我が主!! なに、なにを? 契約の流れからなんでこんな目に、私を会わすのですか!?」 「えー? それはもう、きまってるでしょ?」 ひょいっと、私の頭上の方から我が主ケーゼが姿を見せる。 ドキッと、心臓が跳ね上がるのを感じる。ま、まさか。いくら契約がめんどくさいからって、更に密着、なんてことは……自分の使い魔を、そんな用途に使うなんてことは── 「あ、主! いや言われたら拒否できませんが、さすがに段取りというものが、それは……」 「……お腹空いたのよね」 「……へ?」 戸惑う私を他所に、ぺろりと、主は舌を出した。 そして、一本の細い棒を取り出し、それをゆっくりと舐める。 「契約を交わしている間、ホットミルクだけじゃお腹が持たないわよ。密着していればいるほど、更新が早く進むって言うのなら、ミルクを『チョコバナナにでも変えて』、私のお腹に収めちゃえば、あっという間よ」 ガンッと。 テンパって持ちあがっていた頭を、ガンッと、自分が拘束されている石台に落とし、倒れました。 ──私は、ナニヲキタイシテタノデスカネ、ハイ。 いや、言い方がおかしい。そもそも期待なんてしてません。朝から主の変な奇行で、妙な考えに落ちていたのかもしれないね。 ──で、その変な事を繰り返している我が主は。その舌なめずりしている棒を、にっこにこの笑みを浮かべながら、私の股にくちゅっと差し込みました。 「ひうっ!!?」 瞬間、ドクンと、膣内に滑り込んだ棒から、甘い味が全身に広がるように駆け巡っていく。 下から挿れられて、甘さを感じるなんて、変な心地。 そして、全身が、棒へと吸い込まれるような、吸い付くような錯覚を覚える。 あ、体が、変わる…… ──── 「んっ……んー、牛乳ってなんで温めただけで美味しいのかしら。ありがとうミルク、貴女と良く合うわ」 ホッと頬を赤らめながら白い吐息を漏らすケーゼ。 その手には、湯気を断たせるマグカップに入った牛乳と、自らの使い魔が変化した、達磨状のお人形の形をした、ミルクのチョコバナナだった。