※本作品はpixivで公開した、【大道芸の人形の着ぐるみ】のサイドストーリーとなります。本編をお読みいただいた事を前提にしておりますので、詳細等が省略されております。 本編を一読頂いたあと、お楽しみ頂けると幸いです。 尚、こちらは【パフォーマンス本番編】となりますので、先に【準備編】の方もお楽しみ下さい。 ・・・ (…ん…あれ…私…なに…してるんだっけ…) 意識を取り戻した私は、今、自分が置かれている状況が理解できていなかった。 目の前は真っ暗の暗闇。 そして、なんだか体中が暖房で温められているかのように熱くなっている。 (あ…暑い…な…何…この暑さ…) そして、次第に意識がはっきりとし始める。 (暑い…!?暑い…そ…そうだ…私…箱に閉じ込められて…暑さの中…息が出来なくて…死んじゃった…!?んっ…し…死んでない…私…生きてる!?) どうやら、あの暑さの中、意識が飛んでしまっただけで、窒息で死んだ訳ではなかったらしい。 (ん!?か…体が…動かない…) 意識を失う前、多少は動かせていた体だが、今は、ピクリとも動かない。 つまり、また、あのピエロの支配化に入っているという事になる。 (うぅ…一体…何が…起こっているの…) これまで起こった事が、あまりにも非日常過ぎて、理解が追い付いていかない。 すると、先程までとは違う状況に気が付いた。 (ん??そ…外が…ざわついて…る?) 意識を失うまでは、箱の外も静けさに包まれていたが、今は、外から人の騒めきが聞こえてくる。 つまり、私はもう、大道芸の会場にいるという事なのだろうか。 会場に移動しているという事は、もうすぐ、あのピエロが言っていた本番ということなのだろうか。 そんな事が想像できるが、結局の所、周囲の状況が全く見えない上、体も動かないので、このまま待つしか私に出来る事は無い。 ただ、この箱が開けられるまで、この暑さの中、ひたすら寝転がったまま、待ち続けるしかないのだ。 そのまま暫く、外のざわつきを聞きながら待ち続けた。 (あ…暑い…汗が…噴き出るよ…) あまりの暑さに体中から汗が噴き出ているのが分かる。 マスクの中、私の顔を汗が流れ落ちていく。 (うぅ…こんなに汗かいてちゃ…タイツが濡れちゃうよ…) 体から噴き出る汗…恐らく着ているタイツに染み出してしまっている事が想像できる。 しかし、私は動く事も出来ず、暑さに耐えながら、汗を噴き出し続けるしかないのだ。 そして、ついにその蓋が開かれる時がきたのだった。 【パカッ】 久しぶりに、箱の蓋が開かれ、明るい世界が戻って来た。 (うっ…ま…眩しい…) 着ぐるみのマスクに頭を包まれていて、マスク内は暗いものの、視界に光りが久しぶりに入って来て、目が慣れない。 (きゃっ!!) すると、頭部と足を掴まれ、持ち上げられる感覚が伝わって来た。 それと共に、周りを包み込んでいた籠った暑い空気がなくなる。 どうやら、私はあの箱の中から出されたようだ。 そして、私は体を真っ直ぐに伸ばしたまま、運ばれて行き、床へと降ろされた。 【パチン!】 聞きなれた、ピエロが指を鳴らす音が聞こえた。 (あ…か…体が…動く…) 暫くの間、暗闇の中で、ずっと固まった姿勢でいたので、体の動きが重い。 更には、まだ目が明るさになれていないため、周囲の状況が把握できない。 私は、ゆっくりと体を起こし、当たりを見回した。 すると、ぼんやりではあるが、私の傍には、あのピエロの二人組が立っている。 (ん…これ…本番…ってこと…だよね…) 私は足にグッと力を入れ、ゆっくりと立ち上がった。 (はぁ…はぁ…よし…なんとか…立てた…) 視界も少しずつ元に戻ってきている。 周りを見渡すと、そこには大勢のお客さんが、私とピエロを囲んでいるのが見えて来た。 その瞬間、ある事を思い出した。 (あっ…わ…私…そういえば…全身タイツ…だった。うぅぅ…は…恥ずかしいよぉ…) 全身タイツに身を包まれ、体のラインをもろに曝け出している。 そして、その姿を、これだけ多くのお客さんの視線の前に晒しているのだ。 恥ずかしさのあまり、つい、体がモジモジと身悶えしてしまう。 (うぅ…こんな格好…恥ずかしすぎるよぉ…) すると、ピエロの二人がお辞儀をする。 そして、その光景にお客たちから歓声が上がり始めた。 恐らく、演目が始まるという事だろう。 (何…何が始まるの…どうすればいいの…??) 何をすればいいのか分からないまま、ピエロの様子を伺っていると、ピエロ達は大きなゴムのような物を持ち出した。 そして、そのゴムに機械を挿し込み、それを膨らませ始めたのだった。 未だ、少し体が重い私は、その光景を凝視していた。 (こ…これ…風船…だよね…) みるみるうちに膨らんで行く風船。 そういえば、大道芸の演目に、巨大風船からパフォーマーが顔だけ出して、面白おかしく動くものがあったのを思い出す。 そして、ある程度大きくなった所で、機械を一旦止めた。 すると、ピエロの一人が無言のまま、私に向かって指をさした。 (え!?な…何??…私??) そしてピエロは、私に指した指を、続けて風船の方へと向けた。 (え??わ…私…??風船??) その行動に困惑していると、ピエロはもう一度、私を指し、その後に風船を指さした。 (え??も…もしかして…??私に…この風船に入れ…って言ってるの??) その行動を私がそう読み取った瞬間だった。 その思考を見透かしたかのように、ピエロがウンウンと無言で頷いた。 (うそ…そんな…私…こんなのやったことないし…) どうしていいのかも分からない状況で、やった事も無い事をやれと言われても、無理に決まっている。 そんな私の困惑ぶりを見たピエロが私に向かって手を差し出した。 【パチン!】 その差し出した手で指を鳴らすピエロ。 (うっ…か…体が…動かない…) 再び体の自由が奪われる。 すると、私の意志とは関係なく、私はゆっくりと頷いた。 そして、そのまま、指示された通りに、風船の中へと入って行く体。 (えっ…うそ…そんな…いや…勝手に…こんなのやった事ないし…分からないよぉ…) 困惑する思考とは裏腹に、体は勝手に風船の中へと入って行き、風船から顔だけを出した 状態となった。 そして、更に空気が追加され、丁度、私の体くらいの綺麗な球になる大きさになった。 そして、機械が外され、空気が遮断された、次の瞬間だった。 【ボヨン!ボヨン!ボヨン!】 (あぁっ!!体が勝手に!!) 風船の中でスクワットをするように体が勝手に動き始めたのである。 私の体が上下する事で、風船がボヨンボヨンと動き、コミカルな絵面を作る。 そして、その様子を見た、お客さんたちから笑いと歓声が沸き起こった。 私の行動で観客が沸くというのは、悪い事ではない。 しかし、その見た目のコミカルさとは裏腹に、中の私のスクワット状態は、かなり体にきついものがある。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!これっ!!きつい!!きついし…苦しい!!) 自らの意志とは関係なくスクワットを続ける体。 しかし、その負荷とダメージは、私に降りかかる。 激しくスクワットをしているせいで、足腰が悲鳴をあげているのと、恐ろしい程に、呼吸が乱れる。 しかし、私は着ぐるみのマスクを被せられているため、思ったような空気の取り込みが出来ない。 乱れた呼吸に対しての空気量が足らないのだ。 (はぁっ!!はぁっ!!くるっ!!苦しい!!止めて!!この動き!!とめてぇぇぇぇぇ!!) そんな私の苦しさなど、誰も気が付かず、お客さんたちは暖かな目を向け笑っている。 そんな状況が暫く続いた。 (はぁっ!!もうっ!!限界!!苦しい!!苦しい!!) もう足腰も呼吸も限界だと思ったその時だった。 ピエロの二人がポンッと手を叩いたと思うと、私の動きが止まった。 (と…止まった!!…た…助かった…) すると、ピエロが私に近づいて来て、一人のピエロが風船から飛び出た私の頭の首元に手を沿えた。 そして、次の瞬間、その首元の風船の入り口をグッと開いたのだった。 それとほぼ同時に、いきなりもう一人のピエロが私の頭をグッと風船の中に押し込んだのだった。 (え!?なに!?) 唐突な事に、一瞬何が起こったのか理解が出来ない。 しかし、今、私の視界は、完全にゴムの膜しか見えていない。 つまり、先程まで外に出ていた頭部が、完全に風船の中に入れられたという事だろう。 未だ体の自由が利かない私には何が起きているのか確認する手段も無い。 すると次の瞬間だった。 【ゴロン…ゴロン…】 (きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!) 私の体の周りにある風船が転がり始めたのだった。 風船の中で、斜めドラムの洗濯機の中に入っている洗濯物のように転げまわる体。 いったい外で、何が行われているのか分からないが、とにかく、私の体は、風船の中で転げまわるしかない。 (きゃぁぁぁぁぁ!!怖い!!怖いよぉぉ!!いやぁぁぁぁ!!) 風船の中、痛みを感じる程ではないが、全く視界の無い中で、転げ回される事に恐怖を感じる。 【ゴレン!ゴレン!ゴレン!!】 外のお客さんには見えていないだろうが、風船の中では着ぐるみを着た女の子が、転げ待っているのだ。 (やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!) 暫く、そのまま転がされ続けていたが、ようやくその動きが止まった。 風船の中、うずくまる様に体が丸まっている。 (うぅ…やっと…止まった…) そして、それが終わったと安堵していると、次の変化が訪れた。 (ん??あれ??風船…萎み始めてない??) 先程まで、そこそこ距離感のあった風船の壁が一気に私に近づいて来ているのだ。 (ちょ…ちょっと待って…やっぱり萎んでるって!!) しかし、未だ体は自由が利かないまま。 萎んでくる風船をどうこう出来る訳ではない。 すると、風船はみるみる萎み、もう丸まった私のからだに張り付くくらいの所まで来た。 (ん!?あれ?と…止まった…) そこまで来た所で、風船が萎むのが止まった。 恐らく、空気が抜け出ていた穴が再び塞がれたのだろう。 【パチン!】 すると、またピエロの指が鳴る音が聞こえた。 (か…体が自由になった…) 体の自由が戻ったというものの、地面に丸まった状態で、体の周りには風船が張り付いた状態。 どのくらい体が動かせるのか動いてみる。 (ん…これ…この風船…かなり…しっかりしてる…) 予想以上に風船が厚くしっかりしていて、体を丸めた状態から、体を起こす事はもちろん、手足を伸ばす事も出来なかった。 風船の中で、モゾモゾと蠢く程度の動きしか出来ない。 (ん…この厚さじゃ…自分で破いて脱出とかは…無理そう…) なんとかこの風船から脱出しようと藻掻いていたが、ビクともしない風船に、諦めを感じ始めていた。 すると次の瞬間だった。 【ブウウゥゥ~~~~ン!!】 風船に空気を入れる機械の音がし始めた。 (あっ…また膨らませるんだ…) 今、体の自由が利いている。 つまり、膨らめば、立ち上がる事も出来る。 そう思っていた所だったが、予想を反する事が起き始めた。 (え!?嘘!!ふ…膨らんで…ない!!) 膨らむどころが、風船の壁が一気に私の体に張り付き始めた。 そして、その風船の壁が、私の体を圧迫し始める。 (うそっ!!これっ!!空気が抜かれてる!!!) 【ピシッ!】 そう気が付いた時には、もう既に遅し。 風船内の空気はほとんど、完全に抜き取られ、体と風船の間には、寸分の隙間もない。 厚手のゴムが私の体、全身を圧迫し、ギシギシに締め付ける。 (ううっ!!体!!かなり…締め付けられる…) そして、そんな体の締め付けなど、取るに足らない問題だ。 風船の中の空気はほとんど抜き取られてしまった。 体の方には、もう一切の空気は残っていない。 残された空気は、着ぐるみのマスクと私の頭部にある隙間にある空気だけなのだ。 (うっ…そんな…く…苦しい…すぐに…息が…出来なくなる…) そこに残された空気など、ごく微量なものであり、あっという間に、苦しさを感じ始める。 (苦しい!!苦しい!!出して!!ここから出して!!) もう呼吸の限界が来て、私は助けて欲しい事を伝えるために、激しく体を動かす。 しかし、風船により完全に真空パックにされた私の体は、私が必死に動かしたところで、外から見れば、多少蠢いているくらいにしか映らないだろう。 しかし、それでも呼吸の出来ない私は、必死に助けを請うしかない。 (お願い!!苦しい!!死んじゃう!!出して!!ここから出して!!) 必死に藻掻き続けて、なんとか呼吸が出来ない事を外に伝えようとするが、一向に出してもらえる気配は無い。 あっという間に、苦しさは限界を迎え、頭の中がパニックに陥る。 (苦しいっ!!息がっ!!息がっ!!出来ないぃぃぃ!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!) 恐ろしい程の苦しさから、自分が何を考えているかも分からなくなる。 そして、体は私の意志で蠢くのではなく、反射的に暴れ始める。 (苦しいっ!!苦しいっ!!出して出して出して出して出してぇぇぇぇぇぇぇぇ!!) しかし、どれだけ苦しく、ここから解放されてたくても、私を包み込むゴムは強靭で、体をほぼ動かす事も出来ない。 その強靭なゴムに締め付けられながらも、暴れまわる私の体。 (いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!…ぁっ…ぁ…………) そして苦しさの限界を超えた瞬間、私の思考が一気に薄くなった。 先程までの恐ろしい程の苦しさから、何か、真っ白な何も考えられない世界へと誘われる。 (…ぁ……ぁ……) そして、私はそのまま意識を手放したのだった。 大きく誰かに頭を揺すられている。 (…ん…え…あれ…??…私…何…してるんだっけ…) しかし、頭がボーっとしていて思考が戻ってこない。 (…え…っと…あれ…周りが…変…。あれ??…なんだっけ…??) 暫く、今自分が置かれている状況が理解出来ないでいた。 すると、私の目から見える何かが遮っているような景色に、ピエロの姿が映り込んだ。 (あっ!?) そのピエロの姿を見て、一気に意識がはっきりとした。 (わ…私…人形の着ぐるみを着て、風船の中に閉じ込められて…息が出来なくなって…。ん??って事は…私…生きてるって事…??呼吸…出来てる…) 自らの状況が全て把握できた。 風船の中で、呼吸が止められ、意識を失った。 このまま死んでしまうのだろうと思ったが、どうやら風船から解放され、生かされているようだ。 (やばい…やばい…このピエロ…やばすぎるよ…早く逃げなきゃ…死んじゃう…) 先程のパフォーマンス、あからさまにやばかった。 一歩間違えば、私は死んでいただろう。 早く逃げようと、立ち上がろうとした。 (あっ…) しかし、先程、意識を失ったせいか、体に思う様に力が入らない。 立ち上がろうとしても、膝がガクガクとして、思う様に立ち上がれない。 そうこうしているうちにピエロの二人は、次の演目の準備を済ませていた。 そして、まだ立ち上がる力のない私を一人のピエロが強制的に引っ張り上げ、私を支える様に立ち上がらせた。 (うぅ…足に力が…) 足に力が思う様に入らない私は、そのピエロに寄り添うように体を預けるしかない。 そして、ピエロが進むのと一緒に、歩みを進めるしかないのだ。 そして、連れていかれた先には、謎の大きい中が空っぽの半球が置かれている。 (な…何…??この半球のものは…) そこに置かれた謎のものに目を奪われていると、傍に立つピエロが私の方に指を向けた。 そして、その指を移動させ、半球の方へと向けた。 (え!?…ちょっと…待って…。この中に入れ…って事!?) ピエロのやった仕草は、たったそれだけだったが、何故か私にはその意図がすんなりと理解できた。 (そ…そんなの…やだ…やだよ…。絶対…よくない事…起きるから…) 先程の風船のパフォーマンスを考えると、このパフォーマンスも、決して私にとって良いものではない事が想像できる。 私は、その指示に拒否的な態度を示した。 【パチンッ!】 すると、そんな私の態度を見た、ピエロが指を鳴らした。 (あっ!?いや…そんな…また…体が勝手に!!) すると再び体の自由が奪われ、自らの意志とは関係なく、ピエロに向かって頷いてしまう。 そして、体は勝手に、その半球へと向かって行った。 (やだ!やだ!やだ!入りたくない!!勝手に動かないで!!止まって!!止まってぇぇぇ!!) しかし、そんな叫びも虚しく、私は自らその半球の中へと入って行き、体を丸め込む。 すると、ピエロが私が入ったものと同じような半球を取り出した。 そして、その半球を私の上から被せようとしたのだった。 (うそ!!そんな!!被せないで!!いやぁぁぁぁ!!閉じ込めないでぇぇぇ!!) しかし、私は丸まった体勢のまま、逃げる事も抵抗する事も出来ない。 ただただ、上から半球を被せられるのを待っているしかできないのだ。 (いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!) 【カパッ】 そして、上から半球が被せられ、私を暗闇が覆った。 【パチン!】 外から薄っすらと、ピエロが指を鳴らした音が聞こえる。 すると、今までと同じように、体の自由が戻って来た。 (んうぅ…) 下に置かれた半球の大きさを考えると、恐らく、この出来上がった球体は、私がギリギリ入れるくらいの大きさだ。 体の自由が戻ったものの、体を丸めた状態から、ほぼ動くことは出来なかった。 (き…きついよぉ…この姿勢…) 比較的、私は体が柔らかい方だが、小さく丸まった状態から体勢が変えられないのはきつい。 すると、次の瞬間だった。 (きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!) どうやら、私の入った球体が転がされ始めたようで、暗闇の中だが、体が様々な方向に向きを変えているのが伝わって来た。 頭の方が、上になったり、下になったり、横を向いたりと、激しく動き続ける。 (いやぁぁぁぁぁ!!転がさないでぇぇぇぇ!!) 球体に閉じ込められ、身動きの取れない私は、ただされるがまま。 されるがままに転がされ続ける。 すると暫くして、その動きがピタリと止まった。 (はぁ…はぁ…はぁ…止まった…助かった…) キツキツに球体の中に閉じ込められているとはいえ、多少は隙間があるので、あれだけ転がされると、多少、中で体が暴れ、痛みも伴う。 しかし、とりあえず、その転がりが止まり、少しだけ安堵してしまった。 (な…何が…始まるの…??) ピタリと止まった動き。 私は暗闇に包まれていて、外の様子を知る術はない。 これから起こる事の予測すら立てる事が出来ないでいるのだった。 そして、暫くの間、動きが無かったが、ついに動き始めたのだ。 【グルン…グルン…グルン…】 (きゃぁぁぁぁぁぁ!!) 転がされているというより、その場で回されていると言った感じの回転が体に感じられ始めた。 そして、その回転スピードが、どんどんと早くなっていく。 (あぁぁぁぁ!!目が!!目が回る!!止めて!!回すのっ!!止めてぇぇぇぇ!!) 同じ場所でグルグルと回転させられ続け、あっという間に目が回ってしまう。 その回転に感覚がついていけず、頭の中が動いているような感じがする。 (あああぁぁぁ!!頭がっ!!変になるぅぅぅぅ!!止めてェェェェェ!!) とても球体の中に人間が入っているとは考えていないような所業。 こんな回転、とても耐えられるはずがない。 しかし、逃げる事も抵抗することも出来ない私は、ひたすら回され続けるしかない。 頭の中がグワングワンとして、もう、何か起きているのか理解できないほどになっていた。 外で何が起きているのかは分からない。 ただ私は暗闇の中、恐ろしいほどに回転させられ続けているだけ。 (んあ…ぁ…むり…ぁ…頭が…おかしく…ぁ…) 暫くの間、私はただただ回され続けた。 もう何も考えられないほどの、思考になっていた。 そして、訪れた次の変化…。 【ドスン】 (うぐっ!!) 体全体に強い衝撃が訪れたのだった。 しかし、未だ思考ははっきりとしない。 しかも、今が止まっているのか、回転しているのかが分からない程に、目が回っている。 仮に止まっていたとしても、私の感覚としては、回り続けているのと変わらない。 【カパッ】 すると、私の上に被せられていた半球が再び開けられた。 (んあ…あ…開い…た…) 暗闇の世界から解放され、再び外の景色が私に飛び込んで来たが、あまりにも目が回っていて、とても、景色が認識できない。 (あぁ…世界が…まわってる…) 景色が動き回り、全く静止してくれない。 こんな状況では、立ちあがる事はおろか、動く事すらままならない。 【ガシッ】 体をピエロの二人に掴まれる感触があった。 すると、ピエロは私を半球の中から引っ張り上げたのだった。 (うぅ…起こさないでぇ…) 無理くり引っ張り上げられ、両脇を支えられながら、立たされた。 立ったといっても、今の私に自力で姿勢を保つことは困難。 つまり、無理矢理立っている状態にさせられているだけだ。 そして、次の瞬間だった。 (え!?) 両脇を支えていたピエロの手が、私から離れたのだった。 (いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!) 目が回りすぎて、自力で姿勢を保つ事の出来ない私は、手を放されれば、立っている事さえ出来ない。 景色がグワングワンと回り続ける。 【ドスン】 (うぐっ!!) 一瞬フラっとよろめいた体が、一気に地面に倒れ込んだ。 (うぅ…痛い…痛いよぉ…) 目が回りすぎて、受け身も取れない状態。 もろに倒れ込み、体中に痛みを感じる。 倒れた痛みを感じながら、未だ回り続ける景色の中、起き上がる事も出来ずにいた。 すると、再びピエロ達が私の体を掴んだのだった。 そして、同じように体が引っ張り上げられる。 つまり、この先に起こる事は、用意に想像できる。 (いやぁぁぁぁぁ!!転んじゃう!!転んじゃう!!) そして、再びピエロの手は放された。 私は同じように、ふら付きながら、地面へと倒れ込む。 (いやぁぁぁぁ!!立てない!立てないからぁぁぁぁぁ!!) その後も何回かそれが繰り返された。 その度に会場から笑いと歓声が起こる。 私の転ぶ姿を見て、観客は無情にも、ただ盛り上がっているのだ。 私は、恐ろしい程に目を回され、地面へと倒れ込み、痛みに苦しんでいるというのに、会場のお客たちは、それを見て喜んでいる。 目が回り、なにがなんだか分からない状態だが、そのお客の歓声に、悔しさのような、悲しさのような感情が込み上げて来た。 (うぅ…なんで…) 暫く繰り返された状況も、ピタリと終わりを迎えた。 (お…終わって…くれた…) 終わったころには、肘や膝、到る所が地面に打ち付けられ、痛みが残っていた。 ピエロは私から離れていったが、未だ目が回っているのと、これまでされてきた行為に消耗しきった私は、動けずに地面に寝ころんだままだ。 すると、戻って来たピエロが私の腕と両足にベルトのようなものを巻き始めた。 (な…何を…する…の…) 何か良からぬ事をされているのだが、それに抵抗する力が出ない。 両足は足首の所で、一つに纏められ、両手は背中側で両手首を一つに纏められた。 うつ伏せにされ、地面へと寝転がされる。 背中側で何が起きているのかは分からない。 ただ、されるがままされていると、とんでもない事が起こった。 【ウィィィィィン】 何かの機械音が聞こえた。 その次の瞬間だった。 (え!?何!?何!?手と!!足が!!) 背中に纏められた両手、そして両足が、上方に引っ張り上げられ始めたのだった。 どんどんと上へと引っ張り上げられていく、両手両足。 (うそ!?何!?ちょっと待って!!) そして、両手両足が上へと引っ張りあげられ、手首と足首が近づいていく。 (いぎっ…い…い…痛い!!痛い!!) 思いっきり体を逸らした状態にさせられ始めたのだ。 比較的、体の柔らかい私だが、これだけ体を逸らされると、さすがに痛さを感じる。 しかし、それは序章でしかなかった。 それでも尚、上へと引っ張り続けられる両手両足。 そして、地面についていた私の体が、ついに地面から離れたのだった。 (痛いぃぃぃぃぃぃ!!!痛いよぉぉぉぉぉぉ!!!) 私は逆エビ状態で吊るし上げられたのだ。 体が逸らされて感じる痛み、そして、地面から体が離れたことで、両手両足の拘束された部分に、私の全体重が伸し掛かる。 (痛いぃぃぃぃ!!いやぁぁぁぁ!!降ろして!!降ろして!!!) 言葉を発する事は出来ない。 必死に無言で頭を横に振り、やめて欲しいと懇願する。 しかし、当然の事だが、私がどれだけ懇願しようが、ピエロはやめてはくれない。 それが分かっていても、今の私に出来る事は、そう訴えるだけなのだ。 (痛いぃぃぃ!!こんなの!!無理っ!!痛すぎる!!ムリィィィィィィ!!) どれだけ、訴えた所でピエロの考える演目が終わるまで、この状況は変わらない。 すると、私を挟み込むようにスタンバイするピエロの姿が目に入った。 その瞬間、激しく横に振っていた頭がピタリと止まり、ピエロの手に視線を奪われた。 その手にはクラブが持たれている。 クラブといえば、大道芸人がジャグリングに使う道具。 そして、ピエロは私を挟むように立ち、二人とも私の方に向いている。 (いぎっ…う…うそ…クラブ…って…まさか…) そして、会場を煽り始めたピエロ達。 演目が始まるという事だ。 すると、ピエロ達がクラブを持って、二人とも構えた。 (うそ…うそ…な…投げるの…) すると次の瞬間だった。 【ヒュン!!】 【ヒュン!!】 私の体のすぐ傍を通る様に、ピエロ達がクラブを投げ始めたのだった。 (きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!) 当たってはいないが、クラブが通り過ぎるたびに恐怖を感じる。 あのクラブ、木のこん棒のようなもの…当たれば、かなり痛い事が想像できる。 そのクラブが私の体の近くを通り抜けながら、二人のピエロの間を行き来し始めたのだ。 (怖いっ!!怖いっ!!当たるっ!!当たっちゃうよぉっ!!) クラブが私の体の傍を通り過ぎるたびに、それが当たるのではないかという恐怖が襲ってくる。 その恐怖から、全身に力が入り、硬直してしまう。 【ヒュン!ヒュン!ヒュン!】 体の方を通り過ぎるクラブ。 時には、顔のすぐ傍を通り過ぎる。 (当たるっ!!当たるっ!!お願いっ!!やめてぇぇぇぇぇ!!) 体には全身をエビぞりに吊られた痛みは続く。 そして、それに被せて襲い来るクラブの恐怖。 痛いやら怖いやらで、私の頭の中がグチャグチャになっていく。 (痛いぃぃぃぃ!!怖いぃぃぃぃ!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!) しかし、エビぞりに拘束され、吊るされた今の私にできる事は、そのクラブに当たらないように、体を動かさないようにするだけ。 全てはピエロの手中にあるのだ。 そして、そのまま暫く、クラブジャグリングが続いた。 すると、クラブの行き交いが終わり、ピエロがポーズを決めた。 それとともに、会場からは大歓声があがる。 結局、一度も、クラブは私の体に当たる事は無かった。 そのため、クラブによる痛みは与えられなかったものの、その恐怖だけは、しっかりと刻み込まれたのだった。 (うぅ…痛い…怖かった…よぉ…うぐっ…もう…やめて…) クラブジャグリングが終わり、一つの恐怖は取り除かれたものの、エビぞりに吊られたままの私には、その吊られる痛みは継続している。 そしてまた、この体勢から逃れられないという点も変わらない。 そうこうしているうちに、ピエロが違う道具を取り出して来た。 (え…あれ…何…か…刀!?) ピエロが手にしているもの、それはいわゆる【刀】と呼ばれるものだ。 もう一人のピエロが手に大根を持っている。 (な…何…あの大根…??) そして、一人のピエロが大根を縦に構えた。 もう一人のピエロが刀を手にして、大根に照準を合わせ構えた。 次の瞬間だった。 【スパンッ!!】 刀を手にしたピエロが大根を切り付けた。 綺麗に大根が真っ二つとなって、切られた半分がその場に落ちて行った。 その様子に会場から歓声が沸き起こる。 (うそ…あの刀…本当に切れる刀なの…??) その真っ二つに切れた大根が、その事実を物語る。 すると、ピエロ達は、一旦その刀を置き、大きな水槽のようなものを運んできた。 そして、その水槽を、何故か私の下へと設置した。 吊り下げられた私の眼下には、水が張られた水槽の水面が映り込む。 (も…もしかして…この水槽に…落とされるの…!?…うそ…うそでしょ…そんな…こんな拘束された状態で落とされたら…溺れちゃう…。そんな…そんな…いや…いや…いやぁぁぁぁぁぁ!!!) 今までされてきた、とても人間の扱いとも思えない所業の数々。 そして、わざわざ設置された、水の張られた水槽。 状況を考えるに、どう見ても、私をこの水槽に沈めようとしている事は間違いない。 私は、頭を激しく左右に振り、やめて欲しいと懇願した。 しかし、次の瞬間、私の想像を超える光景が目に飛び込んで来た。 (え!?) 私の目に映ったもの…。 それは、先程、クラブジャグリングをした位置にいるピエロの二人。 そして、その手には、先程、大根を真っ二つにした、刀が何本も持たれているのだった。 状況は先程と変わらない。 エビぞりに吊り下げられた私。 クラブジャグリングを下位置にスタンバイするピエロ二人。 しかし、その手に持たれているのは、クラブではなく刀。 (うそ…それは…ない…よね…。そんなの…危なすぎる…) すると、スタンバイしたピエロ達が、観客を煽り始めた。 それは、演目が始まる事を意味する。 信じたくはないが、どう考えても、あの刀で先程と同じジャグリングをする他、考えられない。 (そんな…そんな…そんな…いやぁぁぁぁぁぁぁ!!そんなの当たったら!!死んじゃうぅぅ!!いやぁぁぁぁぁ!!やめてぇぇぇぇぇぇ!!) あの刀が投げられる確信を得た私は、今までにないくらい必死に頭を振って、やめて欲しいと訴える。 そんな訴えが通るはずも無い事は分かっている。 しかし、これは本当に命の危機なのだ。 あんな大根を真っ二つにするような刀が体に当たれば、それこそ、一撃で死んでしまうかもしれない。 だからこそ、無理であろうと訴えるしかないのだ。 (いやぁぁぁぁぁ!!!やめてぇぇぇぇぇぇ!!そんなの無理だよぉぉ!!) 観客を煽っていたピエロがゆっくりと構えだした。 (うそうそうそうそ!!そんな!!死んじゃう!!死んじゃうって!!やめてやめてやめて!!) すると次の瞬間だった。 【ヒュン!】 私の目の前を刀が通り過ぎて行った。 その光景に体が硬直する。 【ヒュン!】 そして反対からも、刀が私の体の傍を通り抜けていった。 (ひぃっ!!!!…い…い…い…いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!) 本当に切れる刀が、私の体の周りを、先程のクラブジャグリングのように飛び交い始める。 目の前を通り過ぎる刃…その刃がキラリと光る。 その刀が少しでも私の体に触れれば、体は切れてしまう。 恐ろしい程の恐怖が私を包み込んでいく。 (いいやぁぁ!!死ぬ!!死ぬ!!死んじゃう!!死んじゃううぅ!!) 本当に殺されてしまうという恐怖が過り、パニックになり始めた。 頭の中はパニック、しかし、体は恐怖のあまり硬直し、全く動くことがかた出来ない。 仮に動けたとしても、動けば、より飛び交う刀が当たる危険性は上がる。 今の私に出来る事は、刀が当たらないように願い、じっとしているだけなのだ。 【ヒュン!ヒュン!ヒュン!】 (怖い!怖い!怖い!怖い!いあやぁぁぁぁぁ!!!) 刀が通り過ぎるたびに、背筋がゾッとするような恐怖感が、私に襲い掛かる。 刀は凄い勢いで、かつ、間髪を置かず、私の傍を通り抜けていく。 つまり、そのゾッとするような恐怖感が、絶え間なく襲い掛かっているのだ。 (いやいやいやいやぁぁぁぁぁ!!!死ぬっ!!死んじゃウゥゥゥ!!) その襲い来る恐怖は、私の頭の中を占拠する。 そして、恐怖に占拠された私の頭は、それ以外の事は何も考えられない。 【ジョロジョロジョロ…】 すると、私の意志とは関係なく、私の股蔵から、尿が漏れ始めた。 恐怖のあまり、おしっこを漏らしてしまったのだ。 しかし、おしっこが出てしまうなど、考える余裕もない。 こんな大勢の人が見ている中、おしっこを漏らしてしまっているというのに、そこに回す思考がないのだ。 (怖い!怖い!怖い!!死ぬ死ぬ死ぬ!!死んじゃウゥゥゥ!!死んじゃうってばぁぁぁぁ !!) とにかく恐怖だけが、私の頭の中を占めつくす。 逆エビに吊り上げられ、大衆の面前でおしっこを漏らしているというのに、私の中にあるものはただ一つ…。 …恐怖…。 そして、暫く続いたその恐怖の時間も終わりを迎えた。 飛び交う刀が止まり、ピエロがポーズを決めた。 それと共に、観衆からは、盛大な拍手と声が上がる。 (…ぉ…ぉ…終わっ…た…。たす…かっ…た…) その本当に切れる刀は、見事に私にかする事もなく、演目を終えたのだった。 恐ろしい程の恐怖から解放され、一気に気が緩む。 強張らせていたから力が抜けていき、力なく頭を項垂れた。 恐怖から解放されたものの、私は未だ、逆エビで吊られたまま。 そして、全身タイツの股蔵からは、漏らしたおしっこをポタポタと滴らせているのだ。 (…ぅ…ぁ…ぁ…) そうこうしていると、何やら揉み合いになっている二人のピエロ。 その二人が私の方へと近づいて来た。 そして、その二人が私の傍まで到達した時だった。 予想外の事が起きた。 【スパッ!】 (え!?) 一人のピエロが持っていた刀が、私を吊るしているロープに当たり、切断したのだ。 私を吊り上げているロープが切られた。 つまり、私を吊り上げているものは、何もなくなった。 そうなれば、私は地球の法則通り、下に落ちていくのが道理。 私の下に設置された水槽。 その水面が視界に映る。 そして、その水面は、ぐんぐんと私に近づいてくるのだ。 いや…水面が近づいて来ているのではない。 私が水面に近づいて行っているのだ。 つまり、私は落ちている…。 (いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!) スローモーションのように迫りくる水面。 それは確実に私との距離を縮めていっている。 もう既に、目の前まで、その水面は迫っていた。 【ザブンッ!!】 そして、私はエビぞりに拘束されたまま、水槽の中へと落下したのだった。 (いやぁぁぁぁぁぁ!!助けてェェェェェ!!) 必死に水面から上に這い出ようと、藻掻き始める。 それ程深くは無い水槽ではあるが、両手両足を背中側で一つに纏められた体勢の私が沈むには充分な深さ。 そして、この態勢で拘束されていては、水を掻く事も、立ち上がる事も出来ない。 あっという間に、着ぐるみのマスクの中も、水で満たされる。 (苦しい!!苦しい!!息が!!息がっ!!出来ない!!息がぁぁぁ!!!) 水槽の中で必死に藻掻き続ける。 しかし、この体勢で藻掻いた所で、まるで、水面の上へと浮上する事が出来ない。 (いやぁぁぁぁ!!苦しいぃぃ!!死んじゃうぅぅぅぅ!!) あっという間に酸素が足りなくなり、呼吸の限界を迎えてしまう。 必死に藻掻いたのが仇となり、余計に体内の酸素も欠乏して、全ての酸素を使いつくしてしまった。 しかし、ここは水の中、私に入り込んで来る空気は無い。 (苦しいっ!!苦しいっ!!いやぁぁぁぁぁ!!助けてェェェェェェェェェ!!) その心の叫びも虚しく、私が窒息しようとしているのにも関わらず、引き上げてくれる気配はまるで無かった。 (…い…いや…死ぬのは…いや…助けて…) 先程まで動かせていた体が、恐ろしく重く感じる。 そして、必死に助けて欲しいと願っていた、その思考も曖昧となり始めた。 (…お願い…助け…て…死んじゃ…う…) そして、重いと感じていた自らの体が、もう自分のものではないように感じ始めた。 頭の中が真っ白な世界に覆われ始める。 私はもう、ここで死んでしまうのか…? 変な人形の着ぐるみに身を包まれながら、拘束され、どうする事も出来ずに…。 どうしようもない…。 (…い…や……) そして、私は意識を手放してしまうのだった。 ・・・ その次の瞬間だった。 「ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」 自らの咳き込む音で意識を取り戻した。 (…ん…ぁ………) 薄っすらと取り戻した意識。 どうやら、私はあのまま溺死をしたようではなかった。 しかし、未だ意識がはっきりとしないし、全く体も動かない。 目の焦点も合わず、何が起きているのかも理解できない状況だ。 ただ本能的に咳き込んでいるようだ。 どうやらまた、ピエロ達が私の体を弄っているようだが、何をしているか分からない。 すると、再び、ピエロが指を鳴らす音が聞こえた。 【パチン!】 その瞬間、私の体の自由は奪われ、体が固まってしまった。 元より、動く力も気力も無いのだから、ただ体を固められたという感じだ。 そして、また体がピエロにより運ばれて、演目が始まる前、閉じ込められていた箱に私は再び入れられた。 すると、上部から蓋が閉められるのが見えた。 もう既に自由を奪われた体では、何もする事も出来ない。 (…ぁ…ぁ…ぁ……) 【パタン】 そして、その蓋は閉じられ、私はまた、暗闇の世界へと閉じ込められたのだった。 そのまま箱の中に閉じ込められ続ける。 その間に、失っていた呼吸もしっかり取り戻し、意識もはっきりし始めた。 ただ動く事も出来ずに箱の中で寝転がっている。 そうしているうちに、先程まで、私の身に与えられた数々の非道な行為、そして、その時に感じた恐怖が甦ってくる。 なぜ…こうなった…?? 高額バイトに食いついてしまったから…?? それだけで、こんな目に合わなければならないの…?? 私にされた事は、とても非人道的行為だ。 それを見ていた観客は何も思わないのだろうか…?? どう考えても死んでしまうような行為が行われているのに、誰一人、それを気に留めず、むしろピエロのパフォーマンスとして楽しんでいるだけだった。 何もかもが理解に苦しむ。 そして…私は…どうなるのだろう…。 未だ人形の着ぐるみに身を包まれ、箱の中に閉じ込められたまま…。 これから私はどうなってしまうのだろうか…? それだけが頭の中を渦巻いていた。 そうしてどのくらい時間が経ったのだろうか…。 突然、私を閉じ込めていた箱の蓋が開けられた。 【パカッ】 (うっ…ま…眩しい…) 暗闇に閉じ込められていたため、一瞬、外の光りが眩しく感じた。 しかし、目が慣れるのにも時間が掛からず、外の光景が私の目に飛び込んで来た。 (だ…誰!?) 二人のピエロと普通の男性が私を覗き込んでいるのだ。 その男性に見覚えは無い。 ただ、二人のピエロとは違う人間だという事だけは明らか。 すると、ピエロの一人が言った。 「ソンナニ、このニンギョウがキニナルなら、サワッテモいいよ」 「え!?」 (に…人形!?) 今、ピエロは私の事を人形と言った。 着ぐるみや、人という表現ではなく、人形と。 そして、覗き込む男性は、ピエロの言葉に少し驚いているようだ。 その反応を見るに、このピエロの関係者ではないように感じられた。 「そ…それじゃあ…失礼して…」 すると、その男性はそう言いながら、私の腕に触れた。 興味津々に私に視線を向けるその男性。 やはり、このピエロの関係者ではなさそうだ。 そう感じた瞬間だった。 私の脳裏にある言葉が過った。 …この男性なら助けてもらえるかも…。 (お願い!!誰かは分からないけど、助けて!!私をこの着ぐるみから解放して!!) 全く自由の利かない体。 声を出す事も、体をピクリと動かす事も出来ない。 この男性も、パフォーマンスを見ていたなら、私がどんなに酷い目に合わされていたか見ていたはず。 だとすれば、この私の心の叫びも、届くかもしれない…そう思って、期待の眼差しを向けた。 「テをモチアゲテみなよ」 ピエロの一人が男性に向かってそう言った。 すると、私の腕は持ち上げられ、持ち上げられた所で、ピタッと静止した。 体の自由が奪われ、今はピエロの指示通りにしか動かない。 持ち上げられた私の腕は、動かされた位置までしか動かず、さらに元に戻る事もない。 その場でピタッと止まってしまうのだ。 その様子を見た男性が驚きの表情を浮かべている。 (お願い!!助けて!!私を出して!!お願いっ!!!) すると、ピエロが言った。 「ドウシタんだい??ナニかオドロクヨウなコトでもあったかい??」 「ちょ…ちょっと待ってください…。この人形の着ぐるみ…人間が入ってるんじゃ…??」 「キグルミ??ニンゲンがハイッテる??ナニをイッテるんだい??ニンギョウはニンギョウだよ」 (え!?) 今の会話の流れ…。 ここに寝転がされているのは人形であって、人間ではないという内容だ。 (ど…どういう事!?この人、私が人間か、人形か確かめているって事!?) 全く持って理解が追いつかない。 先程のパフォーマンスを見ていれば、私が人形ではなく、人間として動いていたのは一目瞭然。 人形だと疑われる事自体が不自然だ。 しかし、この男性の困惑っぷりをみていると、そこに迷いがあるのが見て取れた。 そう言われれば、先程持ち上げられた腕も、人間にしては不自然な位置で、ピタッと静止している。 人形でなければ、そんな所で静止出来るはずもない。 しかし、それはピエロにより、体の自由を奪われているから。 (そ…そんな…) すると男性が言葉をぶつけた。 「え??でも、さっきのパフォーマンスの時、動いてましたよね??」 (そうっ!!そうだよ!!動いたよ!!私は人間なの!!だから、お願い!助けてぇぇ!!) 「オカシナコトをイウね、キミ」 すると、ピエロがそう言いながら、男性の腕を掴んだ。 そして、その掴んだその手を、私の胸元へと持っ来て、そこに押し付けた。 【ムニュ】 (えっ!?) 男性の手が、私の胸に押し付けられた。 (ちょ…ちょっと!!それ!!私の本当の胸だから!!) 見知らぬ男性の手が、私の胸に押し当てられ、そこに心の中で文句を言った。 しかし、ピエロの次の言葉がその真意を語った。 「ドウ??シンゾウのコドウ、カンジル??」 「え!?」 (えっ!?) そう言われてみれば、私は裸にタイツ一枚の状態。 こうして、手を当てて貰えば、多少なりとも心臓の鼓動が伝わるはず。 そうすれば、人形ではないという事が分かってもらえるかもしれない。 胸をに手を当てられながらも、ピエロのその言葉に、助かる期待を感じる。 (お願い…気が付いて…) 気が付いてもらえる…そんな期待を寄せながら、じっと待ち続けた。 しかし、男性の口から出た言葉は、私の予想を覆した。 「え…っと…感じません…」 「デショ、だってこれはニンギョウなんだから」 (え!?そ…そんな…だって…私の心臓…動いてる…よ…) すると、男性は私の胸から手を放し、その場にスッと立ち上がった。 そして、私を見下ろしながら、少し怪訝そうな表情を浮かべる男性。 (待って…ちょっと…待って…お願い…気が付いて…。私は人間…ここから出して…お願い…お願い…お願い…お願い…) 先程持ち上げられた手が、男性に向かって伸びており、その手は、その男性に助けを止めるような光景にも映る。 しかし、私の声は、男性には届かない。 すると、ピエロが再び箱の蓋に手を掛けた。 ゆっくりと閉められ始める蓋。 (いや…いや…いや…いや…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!助けて!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!お願い!!!ここから出してェェェェェェェ!!!) 【パタン】 私の心の叫びも虚しく、箱の蓋は閉じられ、救世主と思われたその男性の姿も、私の視界から消えていった。 そして、私は再び、人形の着ぐるみを着たまま、暗闇の世界に閉じ込められるのだった。 (いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!) 次に開けられるのはいつだろう…。 開けられた時には、また、あの地獄のパフォーマンスが始まるのだろうか…。 それすらも分からないまま、私は箱の中でじっとしているしかないのだった。 (た…たすけ…て…だれ…か…私を…ここから…だし…て…。私は…人間…人形じゃ…ない…………) -----------------------END--------------------------
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2025-05-30 02:59:34 +0000 UTCももぴ
2025-01-18 07:07:43 +0000 UTCフランキー
2025-01-17 15:50:39 +0000 UTC