※本作品はPixivに投稿した《異世界風俗店【ファンタジア】》のサイドストーリーとなります。 本編の方を読んでいただいた事を前提で書いてありますので、説明が省かれている部分がありますのでご了承ください。 ・・・ 「ははっ!!【優芽(ゆめ)ちゃん】てば、それは優芽ちゃんが悪いって!!」 「そんなことないよ!!【莉乃(りの)】だって、絶対同じことするって!!」 「やらないよ~~私は!!」 「嘘だ!絶対するって!!」 私は、仕事の仲間である優芽ちゃんとくだらない日常会話で盛り上がっていた。 しかし、その女子二人の会話。 一見普通の何の変哲もない会話の内容だが、その会話が繰り広げられる光景は、不思議な光景だ。 私の姿は、甲冑を身にまとい、首から上がない着ぐるみ。 そして、優芽ちゃんの姿は、頭部に女性の着ぐるみマスクを被っているが、首から下は何も衣装は付けておらず、肌色の全身タイツのみ。 そんな不思議な格好の女子二人が、何の変哲もない日常会話で盛り上がっているのだ。 ここは、異世界風俗店【ファンタジア】 風俗店といっても、この店は一風変わっている。 何が違うかというと、ここで働くキャストは皆、異世界ファンタジーに登場するようなそのキャラクター、つまり普通の人間の女の子ではないのだ。 とは言っても、もちろん実際にそんなものが存在するわけでない。 キャストは、キャラクターの着ぐるみを着ているのだ。 全身をタイツで覆い、マスクを被り、中身の人間を覆い隠す。 そして、そのキャラクターを演じ、成りきる。 私たち二人のキャラクターは【デュラハン】。 伝説の化け物で、甲冑を身にまとった騎士ではあるが、首と胴体が分離しており、首の無い胴体のほうを私が演じ、首のみとなった側を優芽ちゃんが演じている。 私の着ぐるみ、実際に首が無いわけではなく、甲冑が少し肩の上に乗っかっている形で上にあがっており、私の顔の半分から下は甲冑に埋まっている。 そして、甲冑の首元から、青白い炎のような光のようなパーツが立ち上がっており、その中に私の頭の上半分が隠れているのだ。 つまり、こうやって会話をする私の声は、甲冑の胸元から発せられている。 【ピロン】 「あっ!お客さんが来たから準備しなきゃ」 「おっ!じゃあ莉乃、お手伝いよろしく!」 「うん」 準備と言っても、私の方は、既に完全に着ぐるみに包まれてしまっているため、準備をするのは、優芽ちゃんのほうだ。 「よいしょ…と…」 そう言いながら、優芽ちゃんは部屋の隅にあるテーブルのような箱の中へと入っていく。 この箱、箱の上部の前方側に、半円の穴が開いており、そこに優芽ちゃんは首をあてがう。 箱の中で優芽ちゃんは膝立ちの状態になり、箱の全面の壁に中から体をぴったりと添わせる体勢だ。 膝の下には、かなり高性能のクッションがあるらしく、そこそこの時間、膝立ちでも痛くないらしい。 「後の蓋をしめるね」 「よろしくぅ」 私が、同じく半円の穴の開いた蓋を、優芽ちゃんの後から取り付ける。 箱にある半円の穴と、この蓋の半円の穴が重なり、一つの丸い穴となって、優芽ちゃんの首を囲むのだ。 そして、この穴、上手くできており、ピッタリと優芽ちゃんお首をトレースし、そこに隙間を作らない。 【カチャン】 「よし、オッケーだよ」 「ありがと」 蓋のロックを閉じ、これで準備完了だ。 机の上に晒された、生首の完成である。 これからお客が入ってくる。 お客が入ってきたら、私たちはデュラハンの体と首を演じる事になる。 つまり、首の無い私は、一切声を出してはいけないのである。 「よし、それじゃあ、お客さん迎え入れようか」 その、優芽ちゃんの言葉に、私は体を少し前に倒し、無言で返事をした。 【ガチャ】 「また私のもとに来るとは…よほど私の事が気に入ったということですか??」 ここでのデュラハンの設定は、高貴な騎士という設定。 それに合わせた演技を優芽ちゃんが演じる。 演じると言っても、首から下の体は、台のような箱の中。 身振り手振りが出来る訳ではない。 つまり、優芽ちゃんは表情の変わらない着ぐるみのマスクで、声の演技をしているという事。 「ええ…【オリビア】さん。僕はあなたに会うのが楽しみでしょうがないですよ」 オリビアというのは、私たちが演じるデュラハンの名前。 そして、このお客は常連で、いつも私たち【オリビア】を選択してくる。 「そう言って頂けるのは光栄な事です…。では、今日はどうされますか?」 「少しお話を楽しませてもらいましょうか?」 「分かりました、それでは、そちらのベッドにお座りください」 その優芽ちゃんのセリフに合わせて、【体】である私は、お客さんをエスコートし、ベッドの上へと座らせた。 そして、お客と生首状態のオリビアとの会話が始まった。 その間、私は傍らで片膝を付きながら、床に座っているだけ。 お客と優芽ちゃんの会話を聞き続ける。 (ふぅ…さすが優芽ちゃんだな…。お客さんとの会話が、めちゃくちゃ上手い…。私には出来ないな…こんな事…) デュラハンの体のみ役の私は、お客さんと会話する事はない。 毎度の事ながら、優芽ちゃんのお客との会話スキルを聞いていると、私にはとても出来る事ではないと痛感する。 それ故、会話をすることはない【体】が、私には向いているのだと思う。 そして、暫くオリビアとの会話を楽しんだお客は、オリビアの首に向かって言った。 「ふぅ…さすがオリビアさん…。会話がとても楽しいですよ。まぁ…しかし、時間も時間ですし、そろそろお願い出来ますか?」 「分かりました」 優芽ちゃんのその回答の言葉、それが私の仕事の始まりの合図なのだ。 そして、私はゆっくりと立ち上がり、お客の前へと移動した。 「それでは、ズボンを降ろさせて頂きます」 優芽ちゃんのセリフの通りに、私はお客のズボンとパンツを降ろし、下半身を丸裸にさせた。 「それでは、奉仕させて頂きます」 私は無言のまま、両手にまとっている手甲付きの手袋を外した。 装甲付きの手袋を外すと、そこには肌タイツに包まれた私の手が露出する。 これから、手でお客の性器に奉仕をするわけだが、さすがにごつごつとした手袋でやるわけにもいかない。 なので、装甲付きの手袋を外し、肌タイツのみとしたのだ。 そして、私はお客の性器を擦り始める。 もう既にビンビンにそそり起っているお客さんの性器を優しく撫でる。 この肌タイツの感触が、かなり気持ちがいいらしい。 「んぅっ…」 お客の体にぐっと力が入る。 「いかがですか?」 「んぅ…オリビアさん…さすがです…かなり気持ちがいいです…」 性器を擦られる姿を、凝視しながら、優芽ちゃんがお客に問いかける。 性器に奉仕しているのは私。 そして、優芽ちゃんは、その間、その様子をただ凝視し、声を発するのみ。 お客の中には、こうやって、奉仕される様をデュラハンの頭に見られている事に興奮する人もいるらしい。 実際に仕事をしているのは私だけで、優芽ちゃんは何もしていない?? 否、優芽ちゃんは私には出来ない、会話術がある。 この時点では、言葉でお客を満足させる優芽ちゃんと、物理的に満足させる私という役割だ。 この時点では…だが。 「んぐぅ!!!」 暫く性器を擦り続け、手コキでお客が射精をした。 「んはぁ…はぁ…はぁ…気持ちいいですよ…オリビアさん…」 「それは何よりです。ん…どうやら直ぐに【次も】いけそうですね」 見ると、お客の性器は、一度射精したのにも関わらず、まだまだいけそうなくらい勃起している。 (あっ…これは、直ぐに【次に】行きそうだな…) そう感じた私は、お客の性器に刺激を与え続け、勢いを無くさないように努める。 「それでは、こちらを付けさせて頂きます」 そのセリフに合わせて私が用意したのは、コンドーム。 まだまだ、元気のあるお客の性器にコンドームを装着していく。 何故、コンドームを装着するのか…。 それは、このお店でのルールだからだ。 今から行われる行為をする際は、コンドームを着用するのがルール。 今から行わる行為…それは【Bコース】、口で奉仕をする行為なのだ。 そして、私はお客の性器にコンドームを装着し、その上から手で刺激をした。 「んっ…」 見る見るうちに、お客の性器が元気になっていく。 さて、この元気になった性器が、次に向かう先、それは口…フェラチオである。 ここで優芽ちゃんと私の仕事が逆転する。 私の口は、着ぐるみの甲冑の中に埋もれている。 つまり、お客の性器の挿入される口と言うのは、デュラハンの頭部である優芽ちゃんの口なのだ。 「それじゃあ、オリビアさん、使わせて頂きますよ」 「はい、ご自由にお使いください」 すると、お客は優芽ちゃんが収納された箱へと近づいて行った。 その箱、雰囲気を出すために、前面には鏡が張られており、どの角度から見ても床の絨毯が映るようになっているため、あたかも箱ではなく、テーブルに見えるようになっている。 そして、箱は数十センチ床より下にめりこんでいるため、中で膝を付く優芽ちゃんの膝は、床より低い位置にある。 そのため、デュラハンのオリビアの頭部は、お客が立っていると、ちょうどお客の性器のあたりに来るようなっているのだ。 すると、お客が自らの性器に手を触れながら、オリビアの口元へと性器を誘導していく。 そして、その性器の先が、オリビアの口元に触れた。 「行きますよ」 【ズリュ…】 お客の性器がオリビアの口の中に、ゆっくりと入り込んでいく。 ここの着ぐるみのマスクは柔らかいシリコンのような素材で出来ているため、普段は口を閉じている状態でも、そこに性器を差し込めば広がるように出来ているのだ。 そして、優芽ちゃんが被っているオリビアのマスクは、また他のキャストとは、少し違う作りになっている。 他のキャストは口からマスクまでの距離がかなり近く出来ているのだが、優芽ちゃんのオリビアは、マスクの口から、優芽ちゃん自身の口までは、少し距離が取られている。 その理由は、私たちがデュラハンである事に他ならない。 他のキャスト達は、口で奉仕する際、自らの頭部を振って、お客の性器を満足させる。 しかし、台の箱に固定された優芽ちゃんは、自らの頭部を動かすことは出来ない。 つまり、固定されて止まっている頭に、お客が腰を動かして、性器を出し入れするのだ。 自らで調整することが出来ず、つまりはお客にされるがままという事になる。 なので、あまり奥まで突っ込まれないように、マスクの口から、優芽ちゃんの口までの距離が取られているのだ。 まあ、男性側のサイズにもよるだが…一応の対策である。 「んうぅぅ!!オリビアさん!!気持ちいいですよ!!」 まだ腰をそれ程動かしてはいないが、かなりの反応を示すお客。 恐らく、優芽ちゃんの舌技のなせるものだろう。 ここからは、私はその光景をただ見ているしかない。 強いていうならば、あまりにもオリビアの頭部を乱雑に扱ったりだとか、優芽ちゃんが嗚咽を上げるようならば、止めに入る。 しかし、今の所、一度もそんな事はない。 それなりにマナーのあるお客が多いのだ。 暫くして、自らの腰を前後させ始めるお客。 「んうぅぅ!!なんて…なんて気持ちがいいんだ!!」 かなり満足げなお客。 そして、しまいには、オリビアの頭部を掴み込み、腰を振り始めた。 「んううぅぅぅ!!」 私たちデュラハンを指名してくる人の多くは、このフェラチオが目的である。 私の手コキなど、前戯でしかないのだ。 こうやって、無抵抗な頭だけのキャラクターを、自らの好きに出来るという支配欲とでも呼べるものだろうか。 そこがツボのお客が多いのだ。 「んあぁぁぁぁぁ!!!」 コンドームをしているから、口の中に出されることは無い。 お客もディープスロートはしない。 しかしながら、一方的に動けずに口を使われ続ける優芽ちゃんには頭が下がる。 首にも負担は掛かるだろう…。 箱の中で体勢を変える事も出来ず、膝立ちのまま、その場から動けない。 そんな状態で、優芽ちゃんは毎回、こうやって口を使われ続けるのだ。 そう考えると、圧倒的に私の仕事の方が楽だと感じさせられる。 そして、ひとしきり腰を振り続けたお客は、射精をし、オリビアの口から性器を抜き取った。 「あぁ…オリビアさん…とても気持ちよかったですよ…」 「はぁ…はぁ…はぁ…それは、光栄なお言葉です…はぁ…はぁ…」 ディープスロートはしないものの、向こうのペースで口を使われ、やはり、優芽ちゃんはかなり苦しいのだろう。 かなり息が上がっているのが見て取れる。 こうして、私は親友である優芽ちゃんが一方的に使われる様を、傍らで傍観するしかないのだった。 私はあくまで、デュラハンの体でしかない。 声を発する事も出来ず、自らの意思で行動は出来ない…デュラハンの意思は優芽ちゃんにあるのだから。 そして、それに満足したお客は部屋から去って行った。 「お疲れ、優芽ちゃん!直ぐに外すからね!」 「よろしくぅ…」 そして私は着ぐるみを着たまま、最優先に優芽ちゃんを箱の中から解放する事に動く。 天板となる後ろ側の蓋を外し、優芽ちゃんを箱の中から解放した。 「んあぁぁぁぁ!!疲れたぁぁぁ!!」 箱の中から解放された優芽ちゃんは、大きく伸びをした。 それはそうだろう…箱の中では膝立ちの状態で、前面の壁に張り付いた状態で動けなくなっているのだ。 解放されれば、体を動かしたくなるのは当然だろう。 「ホント…お疲れ様…。なんだか悪い気がするよ…いつも優芽ちゃんばっか大変だし…」 「そんな事ないって!!私からすると莉乃のほうが凄いと思うんだけどな…。だって私はベラベラ喋って、お客が一方的に口を使うだけじゃん??でも、莉乃は莉乃の手捌きでお客を満足させるんだから。私じゃムリだよ、莉乃の手捌き」 「そ…そんな…私…そんな上手じゃないし…。優芽ちゃんが口でご奉仕するののお膳立てみたいなものだし…」 「またぁぁ!!そんな事言って!!私と莉乃は、二人で一人、二人あっての【デュラハンのオリビア】なんだから!!」 「うぅ…優芽ちゃん…」 そして、その日のお仕事も、【二人】でこなしていくのだった。 仕事が終わり帰途に付く。 そんな帰り道、私達は歩きながら、雑談をしていた。 「そういやさ莉乃、【湊斗(みなと)】には、告白したの??」 「で!出来るわけないじゃん!!してないってば…」 「そうなの??」 湊斗くんとは、私達の共通の友人で、私が思いを寄せている相手。 優芽ちゃんは、その性格からか、湊斗くんの扱いは大雑把で、なんの気後れもしていないような感じ。 しかし、私はなかなか距離を縮められずにいるのである。 まあ、それは私の性格だからしょうがない所もある。 積極的で、自らが前に出るタイプでないからこそ、このデュラハンの体が、私に向いているのであって、それが私らしい感じなのだ。 着ぐるみに自らを隠し、声も出さずに、意思は優芽ちゃんに任せ、その言葉通りに動く。 それが私らしいのだ。 「ふ~ん…。いい加減、お互い、積極的になればいいのに」 「ゆ…優芽ちゃんは、簡単に言うけど、私にはそんな簡単に出来ないってば!!」 「そんなものなの??私だったら、好きだったら、ストレートに言っちゃうけどな…」 「だから、優芽ちゃんは優芽ちゃん、私は私なんだって…」 「ふ~~~ん…」 そして、私達はお互いの帰途に付いて行った。 そんなある日の事、優芽ちゃんが突然、変な事を口走った。 それは、ファンタジアの仕事中、本日最後のお客を迎えようとしていた時だった。 「莉乃、今日ね、最後のお客、【招待客】だから、よろしくね」 「え!?招待客!?」 未だかつて、私の招待客を呼んだ事も無ければ、優芽ちゃんも招待客を呼んだことは無い。 招待客というのは、キャスト側が【招待客】と認定し、そのボタンを押したお客は、時間内に何をしてもいいという特別な設定なのだ。 そんな招待客など、一度も経験がないので、優芽ちゃんのその言葉に、少し動揺してしまう。 「え??優芽ちゃんと、どういう関係の人なの??」 「ん…っと…知り合い…かな??」 「し…知り合い??彼氏とか、狙ってる人とか、そう言うのじゃないの??」 「あっ!そう聞かれれば、全然、私は狙ってないよ。ちょっと相談を受けちゃって、その話をするのに、この店に招待したんだ」 「な…なんか…簡単に言ってるけど、結構、ぶっ飛んだ話だよね…」 相談を受けただけで、この店に呼び寄せてしまう優芽ちゃんの感覚が大胆過ぎてついていけない。 (まあ…どっちにしても、優芽ちゃんの関係者だし…そんなとんでもない人は来ないだろうし…。私は喋るわけでもないから、それほど、気張る事もないか…) 実際に、喋るのは優芽ちゃんだし、私は流れに任せるしかないのだから、いつもと変わらない。 招待客とは言え、それ程、深く考える事もないだろうと感じてしまった。 【ガチャ】 そして、優芽ちゃんの呼んだ招待客が部屋へと入って来た。 (え!?) その入って来たお客に私は、驚きのあまり、体が硬直してしまった。 (み…湊斗くん!?) その扉から入って来たのは、私が思いを寄せている湊斗くんだったのだ。 (え!?えっ!?ゆ…優芽ちゃんが呼んだ招待客って…み…湊斗くんなの??) 湊斗くんが、そこに現れた事に、恐ろしく動揺してしまう。 彼がここにいるという事だけでも、動揺する事実だが、何より、湊斗くんには、私達二人がこういう店で働いている事すら明かしてはいない。 動揺と、変な緊張感が走り、ただでさえ声を出さない設定の私であるが、石のように固まり、静かになってしまう。 (ど…どういう事…やばい…いろんな意味でやばいよ…) すると動揺し倒している私を他所に、優芽ちゃんが口を開いた。 「いらっしゃい、湊斗」 「え!?」 その生首から発声された声の方に目を向け、驚きを示す湊斗くん。 しかも、そこにある着ぐるみの生首は、今、確実に彼の名前を口にしたのだ。 「私よ私、分かる??」 (ちょ…ちょっと待って…優芽ちゃん!!そんな事言ったら、中身がばれちゃう!!) むしろあからさまに、中身の存在をばらそうとしている優芽ちゃん。 その雰囲気に、恐ろしい程の焦りを感じる。 「ん??ちょっと…まてよ…。その声…まさか…優芽なのか??」 一発で正解に辿りついてしまう湊斗くん。 「せいか~~い!!優芽でした~~!!」 「ま…まじか…。お前に言われて、この店に来て、言われるがまま【デュラハン】を選んだんだけど…。ちょっと色々と理解が追い付かない…」 頭を掻き上げながら、湊斗くんが困惑の色を浮かべる。 「ちょっと整理させてくれ…。えっと…この店は、いわゆる風俗的な店で間違いないよな…?」 「うん、そうだよ」 「でもって、俺の目の前にいる頭は…えっと…そのいわゆる【着ぐるみ】ってやつだよな?」 「そうそう」 「で、その着ぐるみの首だけの中身が、優芽…って事??」 「そう言う事。充分理解出来てるじゃない」 「ま…まじか…」 確かに、突然訪れた状況だとすると、理解に苦しむ状況かもしれない。 指定された通りに来てみた店、そこは風俗店、そして、目の前にいる首だけの着ぐるみの中身が、自分の知り合いという訳だ。 色々と吞み込める訳が無い。 「私がこういう仕事してるって知って、湊斗は引いた??」 「いや…全然…。この店、入店の時に聞いたけど、本番は無しなんだろ??本番までっていうと、ちょっと考えるけど、まあ、別に構わないんじゃない??」 「よかった。湊斗が理解ある人間で」 「で…所でお前、首から下はどうなってんだよ??」 確かに見た目には鏡で映っている床のせいで、一見には、テーブルの上に生首がある状態に見える。 薄暗い部屋だからこそ、初見にはそのからくりは分かりにくい。 「あっ、これ、私が入ってるの箱みたいなものだから、体はちゃんとここにあるよ」 「ま…まじ…!?」 そう言いながら、湊斗くんは、デュラハンの生首の方へ近づいて行った。 そして、優芽ちゃんが収まる箱の元へ辿り着いた湊斗くんは、そのガラスのトリックを理解した。 「へぇ…凄えな…これ…。んで…優芽がここに収まっている事は分かった。首だけ出て、喋るのも理解した。って事は、そこに立ってる【体】のほうは、優芽じゃないって事だな?」 湊斗くんのその言葉に、一瞬体をビクッと反応させてしまった。 「そりゃそうでしょ、私の体はこの箱の中なんだから、その体は別の子だよ。まあ…【無口】な子だから、気にしないで」 「そ…そうなんだ…」 とりあえず、今の所、体の方の中身が私だとはバレていない。 まあ…それはそれで好都合だ。 とにかく、何故、優芽ちゃんがここに湊斗くんを呼んだのかが、全く読めない。 私は、湊斗くんの存在に心臓をバクバクさせながら、成り行きを見守る。 なにせ、私はデュラハンの【体】なので、自らで行動できる自由もないのだから。 「んで、優芽は、なんで俺をこの店に呼んだんだよ??」 「ん??湊斗が、私に相談があるっていってたじゃん。だから聞いてあげようと思ってさ」 「あっ…その事か…。わざわざこの店に来なくても良かったんじゃないの?」 「いや~~私も忙しいからさ~~~。仕事しながら、湊斗の話を聞ければな?…と思って」 「ちょいちょい、完全に優芽の都合じゃないの、それ」 「ハハッ!まあいいじゃん」 確かに今の会話を聞いている限りでは、優芽ちゃんの都合全開な話しである。 「とりあえず、【招待客】のボタンを押すね」 「しょ…招待客??」 「うん、招待客としてキャストが認定すれば、この時間、【何を】してもいいんだ、この店」 「え!?」 「ってことで、【招待客】のボタン、【招待客】のボタン!!」 この優芽ちゃんのセリフ。 優芽ちゃんは箱の中に閉じ込められている状態。 つまり、そのボタンを押せるのは、【体】である私のみ。 優芽ちゃんは、私に招待客のボタンを押せと言っているのだ。 (まあ…そうだよね…) 私は言われるがままに、招待客のボタンを押した。 「よし、これで湊斗は招待客だから、な~~にも気にしなくていいよ。好きにしてくれれば」 「好きにしていいって言われてもな…。優芽に強引に呼ばれてここに来たわけだしな…」 「まあいいじゃん。さてと…それじゃ、湊斗の相談、聞いてあげるよ」 「ん…っと…。聞いてあげるって言われてもな…」 そう言いながら、湊斗くんはデュラハンの体である、私のほうに視線を向けた。 (うっ…) その視線が私に刺さり込む。 「だから言ったじゃん、その子は無口な子だし、気にしなくていいよ」 「そ…そうなのか…??」 「信用できる子だし、ホント、気にしなくていいって。せっかく【この場】を作ったんだから、洗いざらい話しなよ」 「そ…そっか…」 すると、湊斗くんと優芽ちゃんは、私の存在を気にせずに会話を始めた。 私はすることもなく、ただその場に佇むしかない。 「それで?相談って、いつもやつ??」 「そうなんだよ…」 (いつもやつ??湊斗くん…何か優芽ちゃんに同じ話を相談してるの??) なんだかんだで、その相談というものの内容が気になる。 「どうも、距離を置かれてる気がしてさ…」 「そんなことないと思うよ。湊斗が勝手に思ってるだけだって」 「そうかな…」 「だから、いつも言ってるじゃない。思い切って自分から攻めてみたら??」 「バカバカ、あの雰囲気で俺から動いても、玉砕する感、全開だろ」 「玉砕なんてしないってば。とにかく告白してみなって」 (え!?告白!?) 自分から攻める…玉砕…告白…。 つまり、この相談というのは、湊斗くんに好きな人がいて、その相手に対しての相談という事だ。 (う…うそ…そんな…) 湊斗くんに好きな人がいるという事実に驚愕する。 それは、ある意味の私の失恋という事になるのだ。 更には、その事実を知っていながら、優芽ちゃんは、私には教えてくれなかったという事。 (そんな…そんな…) 私は着ぐるみの中、人知れず驚愕の渦に包まれていた。 「でもさ、最近、どうしても俺に対してよそよそしい感じが出てるだろ??」 「そうかな~~。私はそう思わないけど」 (うぅ…) あまりの驚愕の事実に、私の頭の中は驚きやら悲しさやらが、満ち溢れ、感情が抑えきれない。 そんな私を差し置き、二人の会話は進んでいく。 「この前も、優芽と二人でいる時に、声かけたら、さっといなくなっちゃったしさ」 「あ~~あれ?な~んだ…そういうことか…。湊斗が感じてる避けられてる感って」 「あれは、どう考えてもそうだろ」 「分かった、分かった」 (はぁぁ…やっぱり…湊斗くんには好きな子がいるんだ…。私なんかじゃ…ムリだよな…) 誰にも気が付かれないだろうが、そこに立ち尽くす、デュラハンの着ぐるみの体は、さぞ生気を失っていることだろう。 「確実に、それは湊斗の勘違いだわ」 「はぁ??なんで??」 「【避けてる】ってのと、【照れ隠し】の勘違いって事」 「えっ!?」 「だってさ、私、同じ内容の相談受けてるからね…莉乃から」 「えっ!?」 (えっ!?) 湊斗くんの驚きの声と同時に、私は心の声を上げてしまった。 「えっ!?ちょ…ちょっと待って…莉乃から…同じ相談??」 「そう」 「えっ…って事は…」 (ちょ…ちょっと待って…待って…あれっ!?湊斗くんが、優芽ちゃんに好きな子の相談をしてて…あれっ…な…なんで…今…私の名前が出てるの…??えっ?えっ??) 急な展開に頭の中が混乱する。 「莉乃からも湊斗の事の相談を受けてるの。この意味が分かる??だから言ってるでしょ、思い切って告白してみたら?莉乃に、…って」 「ま…まじか…」 (えっ…えっ…えぇぇ!!みみみ…湊斗くんが、私に告白する!?) あまりの驚きに、着ぐるみの中で、少しパニック状態に陥っていた。 湊斗くんが、私の事が好きで、優芽ちゃんに相談していた。 私は湊斗くんの事が好きで、優芽ちゃんに相談していた。 もっと積極的に行ってもいいんじゃないかと言われていたのは、そういう事だったのだ。 優芽ちゃんはお互いが好きな事を知っていて、背中を押してくれていた。 一歩、前に進めなかったのは、私たち二人の問題だったという事。 「あぁ~~もう…。今までは、陰ながら支えようと思ってたけど、あまりの進展の無さに腹が立ってきたから、もう明かしちゃったって訳」 「そ…それじゃ…俺の勘違いで…。俺が勝手に躊躇してただけ…って事か…」 「そういう事」 「後は俺が思い切って、一歩進むだけか…」 「よしよし、ようやく理解したか。んで、その一歩、ちゃんと踏み出せる??」 「おう…。ようやく決心できた。ありがとな、優芽」 「その言葉、しっかりと行動に移しなよ。…だってさ、莉乃」 (え!?) 優芽ちゃんのその言葉、首だけしか動かず、多少の方向しか向かないものの、あからさまにデュラハンの体である、私に向かって投げかけられた。 「莉乃、決心出来たらしいし、湊斗の言葉、聞いてあげなよ」 「え!?」 湊斗くんが、その優芽ちゃんの言葉を受け、私の方に視線を向けた。 「え…っと…うそ…まじか…。この体の着ぐるみ…莉乃なの??」 (うわっ!!うそうそ!バレた!!バレちゃったよぉぉぉ!!どうしよ!どうしよ!) 突然明るみに出された真実。 あまりに唐突な展開に、気が動転し、着ぐるみの中で焦りに焦りまくる。 「そう、私たち親友だからね。いつもセットなのよ」 「ま…まじか…」 湊斗くんの視線が、私の体中に刺さり込む。 しかし、ここまではっきりとバラされれば、もう隠すこともごまかすことも出来ない。 (ふぅぅぅ…もう…どうしようもない…) そう観念した私は、普段、この着ぐるみを着ている時、優芽ちゃんの前以外では封印していた【言葉】を口にした。 「ごめんね…湊斗くん。別に騙すつもりはなかったんだ…。急に湊斗くんが現れて、優芽ちゃんとの会話が始まって、黙ってるしかなかったの」 着ぐるみの中から聞こえてくる、私の声を聞いて目を丸くする湊斗くん。 「ホ…ホントに莉乃なんだ…。ちょっとだけ、びっくりした」 そして、湊斗くんは、そう言った直後にデュラハンの頭のほうに視線を向けた。 「あぁ…そういう事ね。分かった分かった。俺がここ来る事は莉乃は知らなかった…。つまり、このシチュエーションは、優芽の…」 湊斗くんがそう言った瞬間、デュラハンの首は、スッと湊斗くんから目線を逸らした。 「そっか…それじゃ、莉乃は今までの会話、聞いてたんだ」 「ご…ごめん…別に盗み聞きするつもりはなかったんだけど…」 「いや…別に聞かれてもいいんだ…。むしろ、聞かれてたから、もう後には引けないし」 「湊斗くん…」 すると湊斗くんは、きりっとした真剣な表情に変わった。 「莉乃、俺はお前が好きだ。俺と付き合ってくれ」 「…はい…もちろん…こんな私でよければ…」 「莉乃」 「湊斗くん…」 そして、湊斗くんは私に抱きついてきた。 お互いが躊躇し合っていただけ…。 こうやって一歩踏み出せば、進んでいた関係なのだ。 こうして、私は湊斗くんと分かり合えた…こんなに嬉しいことは無い。 (湊斗くん…) 「いてて…甲冑が邪魔だな…」 「そ…そうだね…」 私の頭部の下半分は甲冑の中に埋もれている。 なので、この着ぐるみの構造上、胸部の甲冑を取る事は出来ない。 「でも…お尻のほうは…甲冑ないから…」 「えっ…!?い…いいの…??」 「だって湊斗くんは【招待客】だから…。な…何を…してもいいんだよ…」 「ま…まじか…」 そして、私は付き合ったその場で、着ぐるみを着たまま、大好きな湊斗くんと交わったのだった。 「おいおい、お二人さん、誰かいるのを忘れてませんか??」 デュラハンの頭部から零れ出たその言葉は、私たち二人の耳には届かなかった。 -----------------------END--------------------------
ももぴ
2025-04-08 09:23:53 +0000 UTClittle
2025-04-07 01:22:14 +0000 UTC