※本作品はpixivで公開した、『とある学園の【動物愛護週間】』のアナザーサイドストーリーとなります。本編をお読みいただいた事を前提にしておりますので、詳細等が省略されております。 本編を一読頂いたあと、お楽しみ頂けると幸いです。 予想以上に長くなったため、二部作にしました。 こちらは【前編】となります。 ・・・ ここは私の通う【城ケ崎学園(じょうがさきがくえん)】。 私は【堂野 瑠奈(どうの るな)】、この学園の3年の生徒である。 私は今、学園長に呼ばれ学園長室へと来ていた。 そして、私と同じように学園長に呼ばれた生徒が私以外に5名、全員女子である。 何の用事で呼ばれたか、見当が付かない。 他の5人の顔ぶれを見ても、差し当たった共通点も無さそうだ。 中には知った顔もいるが、深いつながりはない。 (な…なんで…私は呼ばれたんだろう…) そんな不安に駆られていると、学園長が言葉を切り出した。 「全員集まったようね」 この学園の学園長である【柴山 麗奈(しばやま れいな)】さんは、かなり若いのに、世間的にも認められている凄腕の女性。 しかも、容姿端麗、非の打ちどころが無い。 「早速だけど、この学園に【動物愛護週間】があるのは知っているわね?」 「はい…」 学園長の問いに、私たち5人が口々に返事をする。 【動物愛護週間】…それは、3年生の時に一度、開催される催し事。 おおよそ、期間は二週間ほどで、その間、各クラスにペットが配置され、皆でその世話をするというイベント。 昨年のイベントの際に、3年生が、ワンちゃんを散歩させているのを見ていたので、その存在を知っている。 「よろしい。その動物愛護週間の各クラスの代表として、あなた達が選ばれたのよ」 (え??だ…代表??私達が各クラスのリーダーって事??) そう思って、周りを見ると、確かにそこに集まっている女子は、皆違うクラスであった。 (ん??あれ??各クラスって言ったけど、6人しかいない…??) 私達の学年は7クラスあるが、ここに集まっているのは6人。 各クラスという割りには、一人足りない。 「動物愛護週間の代表に選ばれるというのは、とても光栄な事なのよ」 すると、皆の疑問を代表するかのように、一人の女生徒が学園長に質問をした。 「あ…あの…だ…代表というのは、ペットの飼育のリーダー的な事でしょうか??」 その質問を受けた、学園長は、にっこりと微笑んで言った。 「違うわよ」 「え!?じゃ…じゃあ…どういう…??」 確かに私も同じ想像をしていたが、学園長ははっきりと違うと言った。 それでは、代表と言うのは何なのであろうか?私全員の頭に【?】マークが浮かぶ。 「口で説明するより、見てもらった方が分かりやすいでしょ。中に入れて」 学園長がお付きの女性にそう指示をした瞬間だった。 【ガチャ】 扉が開き、そこから、別のお付きの女性と、不思議なものが入って来た。 (え!?な…な…何…あれ!?) その光景に、私達は驚きしかなかった。 そのお付きの女性にリードを引かれ、床の上を進んで来たもの…。 (え!?か…亀!?) それを言葉で表現するなら、【亀】という言葉が一番近いのかもしれない。 しかし、それは、普通に考える亀よりも遥かに大きい。 ゾウガメよりも遥かに大きいその存在。 一応、甲羅があり、そこから前足二本と後ろ足二本、そして、頭部が飛び出ているため、亀の特徴に似ているのだが、いわゆる亀とは雰囲気が違う。 しかしながら、その体全体の【質感】は、爬虫類的な質感がある。 見た目で言うなら、【亀のような未確認生物】…それが一番合うかもしれない。 その亀のような物は、お付きの女性に引っ張られながら、四本の足を使ってゆっくりとこちらへと出て来た。 「が…学園長…こ…これは…なんですか…??」 あまりの驚きに、女生徒の一人が、学園長に質問を投げかけた。 「これ??亀ですわよ」 「え!?か…亀…」 質問に対して、何かおかしな所でも?と言うような表情で、あっさりと亀と答える学園長。 しかし、そう言われたとしても、これが普通の亀ではない事は明白だ。 「ええ…亀よ。今回の動物愛護週間で、皆さんのクラスで飼ってもらう亀さんよ」 (え…これ…ちょ…ちょっと待って…え?) さらりと言う学園長の言葉がいまいち理解が出来ない。 すると、続けざまに、学園長がとんでもない言葉を発したのだった。 「見てもらって分かるように、あなた達【代表】が、この亀になってもらいます」 (え!?) その学園長の言葉…その意味が、私の理解を超えていた。 (…え!?…亀…!?私達…代表が…亀になる…!?え…な…何…!?どういう事…??) そんな私達の疑問を代弁するかのように、一人の女子生徒が学園長に質問をした。 「え!?この亀に…なるって…どういうことですか!?」 すると、学園長はその質問に対し、焦ることなく表情を変えずに言った。 「言った通りです。あなた達に分かりやすいように、先に1組の【代表者】に見本になってもらったのよ。つまり、あなた達クラスの代表者は、この1組の代表者と同じように、【亀の中身】として、動物愛護週間を過ごしてもらうという事よ」 学園長の説明を聞いても、それでも頭が追い付いていかない。 (え…!?嘘…こ…この…亀のようなものに…1組の子が入っているって…いう事…??こ…これ…人が…) そう言われて、改めてその亀のようなものを見ると、確かに、手足の長さからして、人間が入っているという事が感じられる。 つまり、そこにいる亀のようなものは、そういう生物ではなく、人間の入った【着ぐるみ】という事。 着ぐるみという観点で見れば、それは、特撮の巨大ヒーロー物に出てくる怪獣の様にも見える。 テレビで見たような怪獣の表皮とも似ており、ゴムのような素材だと思われる。 すると、すぐに一人の女子生徒が学園長に質問を投げかけた。 「ちょ…ちょっと待って下さい!学園長の話ですと…この亀みたいなものには、1組の女子が入っているって事ですよね…??」 「そうですよ」 「そ…それで…代表の私達も、これと同じ事をさせられるという事ですか??」 「その通り、理解が早くて嬉しいわ。だって…【代表】ですから」 あまりにも当たり前として話す学園長に、少し恐怖を感じる。 (ちょ…ちょっと…待って…え!?じゃあ…私達は…今からあの亀のようなものを着せられて、ペットとして扱われるって…事…!?) すると、やはり他の女子生徒から、抗議の声があがる。 「ちょっと待ってください!流石にこれは酷いのではないですか!?」 「酷い??…何を言っているのかしら??あなたたちは【代表】に選ばれた光栄な存在。今からあなたたちは、【特別】な存在になれるのですから、【酷い】とか…意味が分かりません…」 そんな学園長と女生徒の会話が続く中、私の頭の中では、情報が行き交う。 (あ…あの…亀のようなものは…1組の女の子という事…??それで私達は、彼女と同じ境遇に…なるという事??そ…それで…動物愛護週間の対象の…ペットに…私達がなる…?) 昨年の3年生の【動物愛護週間】の記憶を辿ると、そこには、可愛らしいワンちゃんしかいなかった。 そう考えると、この亀のような物に私達人間が入り、ペットとして扱われるという事に疑問しか残らない。 3年生のペットなのでそこまで意識をしていなかったが、確実に、去年のワンちゃん達は、【本物のイヌ】だったという事は間違いない。 (ど…どういう…事…) そうこうしている間に、何故だか、酷い眠気が襲って来た。 (…あれ…??…なんか…凄く…眠い…) 学園長に食いつく女子生徒の言葉が、あまりの眠さに頭に入ってこない。 「…まあ…全て………れば………かる………よ………」 (…ん…が…学園…長…な…なに…を…言って…るの……??) 急激に襲って来た眠気に、学園長の言葉が、まるで聞き取れない。 (…ぁ…ダメだ…ねむ…眠すぎる…) そうして、急激な眠気に襲われた私は、立っている事すら出来なくなり、その場にへたり込み、そのまま意識を手放すのだった。 ・・・ (…んぅ…ぁ…あれ…私…寝て…た…) 深い睡眠から覚めるような感覚があり、すっきりと目が覚めた。 (あれっ!?な…なんか…) 目を覚まし、目を開けているのに、やけに視界が狭い。 正面が見えているが、何か500円玉くらいの穴のようなものからしか、景色が見えない。 (んっ!!) どうやら仰向けに寝ていたようだが、その体を起こそうとしても、何かが阻害し、起き上がる事は出来ない。 手は動くのだが、背中に重りがある様な感覚で、背中が下に引っ張られ、体を反転する事が出来ないのだ。 (え!?何??何が…起こっているの…!?) 自らの状況が理解できず、頭の中が混乱する。 (ん!?ちょ…ちょっと待って…!?そ…そう言えば、眠る前、学園長がとんでもない事を言ってたっけ!) 眠る寸前に起きた出来事が、頭の中に甦って来た。 (変な亀のような着ぐるみがあって…それに1組の女子が入ってて…それで…!?そうだ…私達が…【代表】で…私達もあの亀のようなものにされる…って…) そうだった、俄かに信じがたいが、あの着ぐるみの中に、1組の女子が入っているという事だった。 (んっ!?えっ!?…うそ…そ…それじゃ…) 酷く限られた視界。 そして、この全身を包まれたような動きを阻害する感覚。 1組の女子が入っているという着ぐるみを見た記憶。 そして、私達も同じ状況になると言った学園長の言葉。 それらが、私の中で、一つの結論を導き出す。 (え!?も…もう…わ…私も…あの着ぐるみを…着させられている…って事…??) その事実を認識し、何かに包まれた頭部を思い切り動かして、回りの状況を見てみた。 (う…うそ…でしょ…!?) すると私の限られた視界に映り込んできたのは、眠る前に見た亀の着ぐるみが何体も仰向けに転がった状態で藻掻いているのだった。 甲羅を床側にして仰向けに藻掻いている亀の着ぐるみ。 その状態は、正に私が今、感じている動けなさと一致する。 (そ…それじゃあ…私も…あの亀と同じ…着ぐるみを…) そんな疑問を考えていると、どこからともなく声が聞こえて来た。 「全員、起きたようね。それじゃあ、順番にひっくり返していくわよ」 聞こえて来た声、それは、学園長の声に間違いない。 (きゃっ!!) そうこうしているうちに、私は何者かの手により、体をひっくり返され、先程の仰向けの状態から、うつ伏せの状態へと変えられた。 するとずっしりと背中から、重みが伝わって来る。 着ぐるみの重さだろうか、体全身が上から抑えつけられているような感覚だ。 (うぅ…お…重い…) 「さて…準備は整ったわ。あなたたちは言った通り、【代表】として、各クラスで飼育してもらう事になるわ」 (し…飼育!?) すると、その亀の着ぐるみのうちの一人が、声を発した。 「うぅぅっ!!うぅっ!!うぅっ!!」 その声は呻き声だけで、言葉にはなっていない。 (え!?) その呻き声に疑問を抱き、私も言葉を発しようとしてみる。 「…うぅ…」 (あれ!?顎が…動かない…??) 言葉を発しようとしたが、顎が何かにしっかりと固定されており、言葉らしい言葉を発する事が出来ない。 すると、その様子を見た学園長が言った。 「あぁ…あなたたちは、その着ぐるみを着る前に、ラバーの全頭マスクを被せてあるから、言葉を発する事は出来ないわ」 「うぅ…」 先程、呻き声を発した一人が、その事実を突きつけられ、弱々しく声を出した。 (ラバー…の…全頭マスク…) ネットで見た事はあるが、まさか自らがそんな物を被せられるとは思ってはいなかった。 しかし、確かに、顔全体を何かが覆っている感覚がある。 それは、見た感じの亀の着ぐるみのマスクというより、ピチッとして、頭部全体を軽く締め付けている感じだ。 つまり、私達は言われた通り、本当にラバーの全頭マスクを被せられているという事だ。 「さて…説明するわね」 その事実を突きつけられ、沈黙をした私達に学園長が説明を始めた。 「これから、あなたたちは動物愛護週間のペットとして、各々のクラスで飼育されることになるわ。あなたたちはお互いの姿が、着ぐるみとして認識出来ているけど、他の生徒達には、あなたたちは【本物の亀】として認識される」 (え!?ど…どういう事!?本物の亀として…認識される??) 「暗示のようなものね。周りの生徒は、あなた達の事を【亀】としか認識できない。着ぐるみを来た人間だとは、1ミリも思わないわ」 (そ…そんな…事が…可能なの…??) 学園長の話が、あまりにも現実離れしていて、理解が追い付かない。 「今、暗示のようなものなんて…そんなものがホントにある訳ないと思った子もいるでしょう…。それじゃあ、試しに、立ち上がろうとしてみなさい」 (え??立ち上がる??) 確かに亀の着ぐるみを着せられているが、二足歩行もしようとすればなんとかなるだろう。 私は、言われた通り、立ち上がろうとした。 (え!?あれっ!?なんで??た…立ち上がれない??っていうか…立ち上がるって…どうやってやるの…??) なんと、立ち上がろうとしたが、その【立ち上がり方】が分からないのである。 普段なら、立ち上がるなんて、ごく普通の行為だが、何故かやろうとしても、やり方が分からないのである。 「分かってくれたかしら??あなた立ちには、立ち上がれないように暗示をかけてあるの。さらに言えば、足も、ガニ股にしている状態から閉じる事が出来ないでしょ??」 (え!?そ…そういえば…) 着ぐるみを着させられ、強制的にガニ股にされていると思っていたが、よくよく考えてみると、着ぐるみの股のぶぶんの構造上、閉じる事は出来るのに、私達は皆、ガニ股に足を開いている。 つまり、暗示で足をガニ股から崩せないようにされているという事。 私達は立つ事は出来ず、ガニ股に足を開いているしかない…。 という事は、まるで車に引かれたカエルのような姿勢で、四つん這いになるしかないのだ。 (うぅ…ホントに…暗示が…掛かってる…) 「さて、これから、各クラスの飼育リーダーが迎えに来るから、自分のクラスに連れていってもらうように。後は、あなた達は、【亀】として振舞えばいいだけよ」 (そ…そんな…) 「あっ…あと、おしっこもウンチも、着ぐるみを着たまま可能だから安心して」 (え!?おしっこもウンチも、このまま…出来る??) 学園長の言葉に、大きな疑問が生まれた。 私達は今、ゴム素材で出来た怪獣のような素材の着ぐるみに身を包まれている。 という事は、おしっこをすれば、着ぐるみ内に溜まってしまう。 しかし、今、学園長は、そのまま出来ると言った。 改めてそう言われ、私は自らの陰部に意識を集中させて見た。 (え!?うそ!?そ…そんな…) そう、全身を着ぐるみに包まれていると思っていた。 しかし、陰部付近は微かながら、外気の流れを感じ取る事が出来る。 つまり、それが意味するのは…。 「股の所だけ、外に出る様な着ぐるみの造りになっているわ。あなた達の陰部と肛門は露出していて、その周りを特殊メイクで着ぐるみと貼り付けているの。しかも、あなた達の陰部も着ぐるみの素材と同じ色で着色してあるから、目立つ事も無い。安心して、排泄してくれるといいわ」 (うそ…うそ…そんな…そんなぁぁぁぁ!!!じゃあ!!アソコが曝け出されてるって事!!いやぁぁぁぁぁ!!) つまり、私達は体は分厚い亀の着ぐるみに包まれているが、陰部と肛門だけは、自らの本物の肉体を外に曝け出しているという事なのだ。 しかも、ガニ股に開いた足。 甲羅から生え出た両手は、そこに届かず、全く隠す術もない。 (いやぁぁぁぁ!!恥ずかしい!!恥ずかしすぎる!!!) すると学園長がサラッと一言放った。 「まあ、着色までしなくても、あなた達は亀としか認識されていないのだから、なんとも思われないわ。着色はこだわりね」 認識されるかどうかの問題では無い。 気が付かれないまでも、単純に、陰部を人前に曝け出しているという事実に恥ずかしさを感じるのだ。 「呻き声は出しても構わないわ。生徒たちは聞こえないように暗示をしてあるから。あっ…あと、飼育者たちの言葉は絶対だから、あなた達は、飼育者の命令には逆らえないからね」 (し…飼育者の命令は…絶対…) その言葉に、グッと恐怖感が漂って来た。 【コンコン】 そうこうしているうちに、ドアがノックされる音がした。 「入りなさい」 【ガチャ】 「失礼します。各クラスの飼育リーダーが集まりました」 「どうぞ、中へ」 すると、各クラスの飼育リーダーの生徒が中へ入って来た。 (うぅ…恥ずかしい…よぉ…) そして、入って来た飼育リーダーたちが、私達、亀の着ぐるみに身を包んだ存在に目を向けた。 【ドキドキドキ…】 学園長が言うには、亀にしか認識されないと言っていたが、実際は分からない。 こんな不思議な着ぐるみに身を包まれた女生徒たちが7人もいれば、おかしさしかないだろう。 しかし、そこに入って来た生徒たちが口にしたのは、私の不安を覆すものだった。 「あっ…学園長、今年の動物愛護週間は【亀】なんですね」 「ええ…そうよ」 「少し大きめですが、可愛らしい亀たちですね」 「可愛がってあげてね」 「はい」 (え!?ホ…ホントに亀だと…思われてる…) 学園長と会話をする生徒たちに、何かを不信に思うような気配はまるでない。 ただ本当に、亀を飼育するのだという事を話しているだけのようだ。 (じゃ…じゃあ…ホントに暗示がかかって…私達は亀に見えているって…こと…?) そこに並んでいる飼育リーダーの生徒たち。 その生徒たちの表情を見る限りでは、不信感を抱くような素振りは無い。 むしろ、私達に対して向ける目線は、愛らしい動物を見るような目である。 「それでは、各ペットにクラスの番号がふってあるので、その番号のペットをクラスまで連れて行きなさい」 「はい、分かりました」 そう言った、各クラスの飼育リーダーは私達の前へと進み出た。 (うぅ…【紗季(さき)ちゃん】…) 私の前に来たのはクラスメートの紗季ちゃんだった。 凄く仲がいいという程ではないが、仲良くしている友達。 その紗季ちゃんが私の前に立ち、私を見下ろしている。 かたや普通の女の子のままの紗季ちゃん、それに比べて、私はリアルな亀の着ぐるみに身を包まれ、非現実的な状況に置かれている。 しかし、当の紗季ちゃんは、その事実は認識していない。 私に対して向ける目線は、あくまで、ペットとしての動物に向けるものだった。 「う~ん…意外に亀って可愛いよね…」 そう言った紗季ちゃんは、私の首に巻きつけられた首輪から伸びるリードを手にした。 「よし、じゃあ教室までいくよ」 目をキラキラさせながら、紗季ちゃんはそのリードを引っ張った。 (うぐっ…) リードが引っ張られると、首が少し締まる。 しかし、飼育者である紗季ちゃんの言葉には抗えない。 紗季ちゃんに【行く】と言われれば、私は言われた通り進むしかないのだ。 紗季ちゃんに引っ張られながら、前に進もうとする。 (うぅ…この姿勢…かなりきついよぉ…。それに…この着ぐるみ…かなり重い…) 四つん這いの体勢から起き上がる事の出来ない私。 そして、背中に背負った甲羅からは、かなりの重さが伝わってくる。 甲羅に包まれた体を持ち上げるだけでも、かなりのエネルギーを消費する。 他の亀の子達も、同様に体を浮かすだけでもきついらしく、なかなか進めていない。 改めて、自らの状況を確認する。 視界は目の部分に開いた着ぐるみの頭部の目の部分の穴。 先程、別の亀に近寄った時に、その亀の目の穴から、中身の子が瞬きするのが見えた。 つまり、私の視界も同じように、その穴から確保されている。 呼吸は全頭マスクの口の部分から吸い込むと、空気が入って来るので、恐らくホースのようなもので、外と繋がっている。 それに鼻の部分に穴が空いているらしく、着ぐるみのマスク内の空気なら、鼻からも吸い込むことが出来る。 頭部は通常の人間の姿勢を取ると、真下を見る形になってしまうので、前方を見るには、かなり首を上げないと、前が見えない。 この首が結構きつい。 相変わらずガニ股の足は閉じる事が出来ず、ガニ股で四つん這いの姿勢を強いられている。 そして、体を覆う亀の着ぐるみ。 結構厚手のゴムのような素材で出来ているのか、手足を動かすのにはかなりの抵抗がある。 他の亀を見た感じ、女の子の手足の太さではないくらい太かった。 その割に、中で私達を包み込む着ぐるみは、手足に密着している。 つまり、着ぐるみ自体が結構分厚く出来ているという事だろう。 そして、重要なのは、陰部と肛門は露出しているという事。 しかし、他の亀を見る限りでは、四つん這いで下に向けているというのと、尻尾のようなものが覆いかぶさり、あからさまに露出しているという感じではないのが救いである。 こんな状況に陥っている女の子が目の前にいるというのに、飼育リーダー達は、まるで不信には思っていないようだ。 そして、私達は各々のクラスへと、ゆっくり…そうかなりゆっくりと進んでいくのだった。 かなりの時間をかけ、ようやく自分のクラスの教室へと辿り着いた。 「ふぅっ!!ふうっ!!ふうっ!!」 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!きつい!!きついよぉ!!やっと…教室…し…死んじゃう…) 普段の人間のままならば、学園長室から自らの教室など、数分で到着する距離。 しかし、今の私には、恐ろしく長い道のりに感じ、実際に何分かけたか分からないくらいの時間を要した。 そして、このガニ股四つん這いの姿勢で進む事を余儀なくされ、重い甲羅、全身を包み込む着ぐるみは、恐ろしいほどに私を苦しめた。 この姿勢で前に進むだけでも、かなりの体力を要する。 そして、ここまで進んできた時間と共に、訪れていたのは、恐ろしほどの暑さ。 この分厚い着ぐるみは、私の体温を外に逃がすことなく、内部へと閉じ込める。 更には、ここまで歩いてくるという運動により、高められた私の体温が、その暑さに拍車を掛けるのだ。 すでに体中から汗が噴き出ているのが分かる。 その汗が、四つん這いに付く、両手両足の部分へと溜まって行っている。 (はぁっ…はぁっ…はぁっ…暑い…暑いよぉ…熱が…逃げない…) かなりの熱が、着ぐるみの内部に籠っているのが感じられる。 私の体温が内部に籠り、さらにその暑さが私の体を熱する。 屋内だというのに、一体、着ぐるみの中は、何度くらいになっているのだろうか? とても耐えられる暑さではない。 【ガラガラガラ…】 そして、教室の扉が開き、 【堂野瑠奈】が在籍するクラスへと入って行った。 しかし、そこに私はいない。 堂野瑠奈という存在はなくなり、そこにいるのはペットの【亀】なのだ。 「うわぁ!それが動物愛護週間のペット??」 「今年は亀なんだ!」 「すげ~~な~~結構おおっきい亀だな~~」 私が教室に入ると、クラスメイト達が一斉に集まって来た。 すると私の顔の所に、一人の女生徒がしゃがみ込んできた。 「うわぁ~可愛い…亀って…こんなに可愛いんだ…」 そう言って私のマスクを覗き込んで来たのは、【麻耶(まや)ちゃん】だった。 麻耶ちゃんは私の親友で、一番仲のいい友達。 いつも一緒にいる存在で、私の事も知り尽くしている。 そんな麻耶ちゃんが私のマスクを覗き込んできた瞬間、麻耶ちゃんと目が合った。 【ドキッ】 全身を着ぐるみに包まれているのに、目の部分は穴になっているので、凝視すれば、私の生の目が見える。 その生の目と麻耶ちゃんの目が、しっかりと合ってしまった。 (な…なんか…は…恥ずかしい…) 別に、普段から麻耶ちゃんと目が合う事など多々あるのに、この状況で目が合うと、何故か恥ずかしさを感じてしまう。 それは、私が今、こんな格好をさせられて、人目に晒されているからか…。 向こうは、暗示がかかり、亀にしか見えていないはずだが、しっかりと目が合っている気がして恥ずかしい。 「しっかりと可愛がってあげるね」 麻耶ちゃんは私の目を見ながらそう言った。 その言葉に、妙に照れてしまい、つい視線を下に落とした。 「さて、みんな席について」 飼育リーダーの紗季ちゃんが、仕切って皆を席に戻らせた。 そして、その後、私のペットとしての名前を決め、私は、いつの間にか教室の後ろに用意されていた【亀用の囲い】に入れられた。 どうやら私の名前は、【タルナ】に決まったらしい。 【タートル】をメスらしい名前にしようとしてそうなったらしいが、どこか私の【瑠奈】という名前を連想させる。 何か少し、不安な気持ちも過っていた。 私の入れられた囲いは透明なアクリルボードのようなもので出来た箱になっていて、一部が扉になっており、そこから出入りが出来る。 そして、私がその囲いの中に入れられると、クラスメイトの皆は、何も普段とは変わらないかの如く、普通に授業を始めていくのだった。 皆が授業を受けている間、私は囲いの中で、ひたすら待っているしかない。 重い体を持ち上げるだけでも労力がいるので、ほとんど動く事はない。 ガニ股、うつ伏せの状態で、寝転がっているしかない。 やる事のない暇さが私に訪れる。 しかし、何もしていなくても、訪れるものがある。 それは暑さ…。 この着ぐるみに身を包まれている限り、何もしていなくても、私に暑さは襲い来る。 (うぅ…暑い…暑い…よぉ…汗が…やばい…ホントに…死んじゃうよぉ…) 体中を包み込む暑さ。 しかし、この着ぐるみを脱がない限り、この暑さから逃れる事は出来ない。 恐らく、今日一日が終わるまで、着ぐるみを脱がしてくれる事はないだろう。 つまり、私はこの暑さに耐え抜くしかないのだ。 それと暇が故に、いろいろと考えてしまい、改めて気が付いた事がある。 そう…クラスには、もちろんの事だが、男子がいるのだ。 隠れてはいるものの、私の陰部と肛門は、今、完全に外部へと晒した状態。 ズボンやスカートどころではなく、ショーツすらも履いていない。 何とも言えない恥ずかしさが込み上げてくる。 (うぅ…恥ずかしい…こんな…男子たちがいるのに…うぅ…) しかし、隠しようのない私には、どうする事も出来ない。 それを男子たちに悟られないように、この恥辱感に耐えるしかないのだ。 そして、授業が終わり、休み時間に入った。 「あっ!?そうだ!!マニュアルに書いてあることをやり忘れてた!」 飼育リーダーの紗季ちゃんが私の方に来て、そう言った。 「何をやり忘れてたんだ??」 近くにいた男子が質問する。 「マニュアルに、亀なので、ゲージに水を入れてくださいって書いてある」 「そっか、そりゃそうだ。亀なんだし。おっ!?確かに、ここに蛇口がついてるじゃん」 そう言って男子が、私を囲うゲージの隅に取り付けられた蛇口に手を掛けた。 (水??確かに…亀の水槽とかには水が少し…入ってるな…) 「この蛇口から入れればいいんだよな」 「そうみたい」 「はいよ」 そして、男子が蛇口を捻った。 【ジョロジョロジョロ…】 すると蛇口から水が出て来て、私のいるゲージの床が濡れ始めた。 「どれくらい入れればいいんだ??」 「うん…っと、特に書いてないけど、少しでいいんじゃないかな??」 「そっか…まっ…これだけの広さの所だと、結構時間がかかりそうだな」 「そうね。少し、このまま置いておこうか」 「おう」 そう言って、紗季ちゃんと男子は、その場から離れて行った。 確かに、私が入れられているスペースはかなり広い、あの蛇口から出る水の量では、暫く経っても、まだ床が塗れる程度だ。 (うわっ…濡れてきた…) 私が入っているゲージの床が濡れ始める。 その事に最初は、それ程疑問を持たなかった。 段々と水が入ってきて、床から1cm程度、水が溜まってきた。 すると、床に接しているお腹側の着ぐるみが多少、冷えていくのを感じる。 (あっ…これ…ちょっと気持ちがいいかも…) 完全に温まりきった着ぐるみが、少し冷やされ、体の前面が少し楽になる感じがする。 (少しだけど…だいぶ違う…よ…) 壮絶な暑さに見舞われていた私にとって、少し冷やされるだけでも、大きな違いに感じられる。 するとその水はどんどんと入れられて来て、水位を増していった。 水位が増すにつれて、着ぐるみの冷やされる部分が増えていく。 (あぁ…だいぶ楽になる…) 体が水に冷やされ、少し暑さが緩和されて、気が緩んでいる時だった。 【ズゴッ!!】 (ううっ!!) 口から吸いこんだ空気に水が混じって来たのだ。 当たり前と言えば、当たり前の事。 私は今、うつ伏せになって着ぐるみに包まれているのだから、水位が増して来れば、頭部も水に浸かる。 口から繋がるホースがどこに出ているのかは分からないが、それ程高い位置ではないはず。 その状態で、水位が上がってくれば、私の呼吸口も水没するのだ。 (やばい!!) 私は急いで、両手両足に力を入れ、少しだけ体を起こした。 そして、出来る限り首を上方に上げ、呼吸口を確保することに専念した。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!危ない!!危なかった!!) 幸い、なんとか呼吸口を水の中から出し、呼吸を確保できた。 【ジョロジョロジョロ…】 しかし、未だ蛇口から水が出っぱなしになっている。 という事は、この後も、水位はどんどんと増していくばかり。 早く止めないと、私は溺死してしまう。 (やばい!!やばい!!紗季ちゃん!!水道!!水道!!水を止めて!!) 早く水道を止めて欲しいと必死に訴える私。 しかし、私の訴えは誰にも届かない。 先ほど、この場を離れた紗季ちゃんと、男子は少し離れた所に姿が見える。 【ジョロジョロジョロ…】 (紗季ちゃん!!紗季ちゃん!!気が付いて!!水!!水を止めて!!) 段々と上がって来る水位。 慌ててパニックを起こしそうになった私は、ついていた両手を滑らせてしまった。 【ドブン!】 前足を滑らせ、頭部が水の中に浸かってしまう。 (きゃぁぁっ!!あっ!!息が!!息が!!) 呼吸用のホースから、私の口の中に水が入り込んで来る。 急いで、前足を踏ん張らせ、再び、頭部を水の中から出す。 「ぶしゅっ!!ぶしゅっ!!」 必死に息を吐き出し、ホースの中の水を外に吐き出す。 (苦しいっ!!苦しい!!はぁっ!!はぁっ!!早く!!早く!!水を止めてえぇぇ!!このままじゃ!おぼれ死んじゃうぅぅっ!!) このまま水位が上がってくれば、私は確実に溺死する。 本当に命の危機を感じ、必死に水を止めてくれることを願った。 (お願いィィィィ!!!) すると、その願いが届いたのだろうか。 先ほどの男子が、こちらに気が付いた。 「やべっ!!出しっぱなしだった!!」 そう言って男子が、こちらに戻ってきて、蛇口の水を止めてくれた。 (た…助かった…助かったよぉぉ…。ホントに溺れ死ぬところだった…) 死んでしまうと思う恐怖…そこから解放され、安堵感からか、目から涙が零れ落ちる。 しかし、その涙は誰れにも気付かれることは無い。 着ぐるみのマスクの中に密かに流れ落ちているだけなのだから。 「水はこんなもんかな??」 「そうだね、金魚やメダカじゃ無いから、これくらいあれば充分でしょ」 そうして、私の入った箱の中に水が張られた。 水位にして、たった10cmくらいの水。 この水…確かに着ぐるみを多少冷やしてくれる効果はあるものの、私に苦境を強いるものだったのだ。 (うぅ…こ…これじゃあ…お腹が…つけない…) 10cm程度の水。 しかし、私が休憩をしようと、うつ伏せに体を床に降ろそうものなら、充分に頭部の呼吸口が沈んでしまう水位だ。 つまり、私は、常に両手両足を踏ん張って、体を少し床から浮かせて置かなければならなくなったのだ。 (ぅ…これ…かなり…きつい…よぉ…) しかし、どんなにきつかろうと、油断をすれば水没する。 それは【死】を意味する事。 なんとしても、この姿勢を維持するしかないのだった。 そして、その状況のまま、教室では授業が進められていくのだった。 時々、口のホースの所から、飼育リーダーの紗季ちゃんが水分を補給してくれて、それでなんとか私の命は繋がっていた。 昼休みに入り、クラスメイト達は、当たり前のように昼食を取る。 その間も、私はただ一人、こうしてゲージの中で、着ぐるみに包まれ、暑さと戦っているのだった。 (はぁ…はぁ…暑い…暑いよぉ…出して…着ぐるみ…脱がせて…暑い…暑い…) そして、午後の授業開始の時刻となった。 すると、紗季ちゃんと私の親友の麻耶ちゃんが私の所へ近づいて来た。 「さて、タルナちゃん、お外に行こうか!!」 (え!?そ…外!?) 麻耶ちゃんは簡単にそう言うが、今の私がこの教室から外まで行こうとしたら、かなりの時間が掛かるし、何より、私の体に恐ろしい程の負担になる。 「今日の午後は、体育のみだから、グラウンドにいかないとね」 「3年生、全体でやるらしいし」 (さ…3年生全体…!?午後…全部…体育…??) 私の記憶にある限り、そんな日程の日など、今までには無かった。 動物愛護週間の特別な日課という事だろうか…。 「さあ、タルナちゃん、行きましょうね!!他のクラスも集まり始めてるし」 (うぅ…他のクラスも…。じゃ…じゃあ…私も行かなきゃ…いけない…) 他のクラスのペットも運動場に集まるという事は、私だけ行かなければ、学園長にどう見られるかも分からない。 なんとしても、行くしかないのだった。 そして、私は、紗季ちゃんと麻耶ちゃんに連れられ、グラウンドへと向かうのだった。 そう…【体育の授業】のために…。 ・・・後編へ続く・・・ ---------------------------END------------------------------------------