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恐竜のテーマパーク Side Story ~彩音Side~ 【テーマパークの仕事編】

※本作品はPixivに投稿した【恐竜のテーマパーク】のサイドストーリーとなります。 本編の方を読んでいただいた事を前提で書いてありますので、説明が省かれている部分がありますのでご了承ください。 ・・・ (さあ…今日も始まるのか…) 「閉めますよ」 「はい、お願いします」 【ジーーーーー】 背中のファスナーが閉められていく。 このファスナーが閉め切れられれば、私は【篠崎 彩音(しのざき あやね)】という存在ではなくなり、【ユニラプトル】という恐竜になる。 そして、このファスナーを閉められれば、もう自らこの着ぐるみを脱ぐことは出来ない。 次にスタッフに開けてもらうまでは、閉じ込められ続けるしかないのだ。 ここは、恐竜をテーマとしたテーマパーク【ディノティックパーク】。 私はその中のアトラクション【ディノクルーズ】のキャストなのだ。 キャストといっても、案内役などの【人間】ではない。 先程、私の体を包み込んだ、ラプトルの亜種であるユニラプトルという【恐竜】の演者。 恐竜が本当にいる訳はない…つまり、私はその着ぐるみの中身という事なのだ。 このアトラクションに登場するユニラプトルは三体。 その中身には、私と同じような女の子が入っている。 そして、顔出しのお客に紛れて演技をするキャストが一人。 この顔出しのキャストも、時期がくれば交代となり、ユニラプトルの中身となる。 つまり、この四人で、ユニラプトルの中身を回している。 この四人、皆、出身地は違うものの、アクションチームでスタント経験のある女の子ばかり。 そして、このアトラクションの中身に採用された私たちは、皆、それぞれ、お金なりなんなりの理由を持っている。 私はとにかく、お金が必要なのだ。 片親で育ち、まだ弟や妹の学費が掛かるため、まとまったお金が必要となり、この仕事に応募した。 かなり、過酷な仕事ではあるが、その理由のためなら頑張れる。 そして、その過酷な仕事が今日も始まろうとしている。 「三人とも、準備完了です。移動しましょう」 「はい、分かりました」 私以外の二人も着替えが完了し、三体のユニラプトルの準備が完了した。 特段、顎が固定されている訳でもないので、人間の言葉で返事をする事も出来る。 視界はそれ程よくは無いが、キャラクターショーの着ぐるみの中には、もっと視界の悪いものもあるので、それに比べればましなほうだろう。 呼吸に関しては、覗きのメッシュの所のみとなるので、あまりし易いとも言えない。 頭から足先まで一体型で、特殊なラバー素材で出来た全身を包み込む衣装なので、通気口はその覗きのメッシュのみなのだ。 そして何より、その一体型のまるで通気性のない衣装がもたらす暑さが、かなりのものになる。 基本的には前傾姿勢となるので、姿勢的なきつさもある。 しかし、演者としてのプライドもあるので、きちんと演じ切らなければならない。 (…うぅ…やっぱり…暑い…) 着替えの部屋を出て、アトラクションのステージとなるスペースまで辿り着いたが、もう既に着ぐるみ内の温度は、かなり上がっており、暑さを感じる。 「それでは、リハーサルの方を始めましょうか」 (よし…やるか…) 言葉を発する事は出来るので、返事は出来るのだが…しない。 そこには、着ぐるみの中身の事は知らない、キャスト、【黒川(くろかわ)さん】がいるからだ。 黒川さんは、このアトラクションの進行役であるキャストの男性。 彼は、ユニラプトルの着ぐるみの中身が私達だという事を知らない。 実際、中身の事情については、着替えを手伝ってくれるスタッフと上層部しか知らない事なのだ。 この時点で、私は完全なユニラプトルの中身、一切、表に出てはいけないのだ。 なので、ここではもう声を出す事は無い。 既に暑さを感じている着ぐるみ。 これからリハーサル、そして、本番は一日中。 今、暑さにめげていては、到底、一日を乗り切る事は出来ない。 気を引き締めて、今日一日のスタートを切る。 (今日の役回りは…車の天井と…湖落ちか…) 三体のユニラプトルの役回りは、日によって変わる。 翌日、役回りが違う日もあれば、連続で同じ日もある。 基本はランダムで振り当てられている。 前半の役回りは、特別展示室内のガラス窓にぶつかる役から車のフロントに飛び乗る役、車に乗り込もうとするお客を追い込む役、そして、車の天井に飛び乗る役の三パターン。 後半は、二段ゲートに挟まれてやられる役、お客を追いかけ、ワイヤーにスイングされ壁に打ち付けられる役、湖に落ちる役の三パターンとなる。 その中で、私の今日の役回りは、前半が車の上に飛び乗る役、後半が湖に落ちる役だ。 リハーサルは大体の流れを追いながら、要所要所だけ実際にやりながらすすむ。 ナビゲーターの黒川さんと一緒にいる、もう一人の顔出しの演者がいる。 今の顔出し演者は、【愛野 美友里(あいの みゆり)】、私は美友里と呼んでいる。 前述したように、この美友里もまた、時期が来ると交代でユニラプトルの中身となる。 そんな、美友里と黒川さんと共にリハーサルを進める。 私は初めから、車が駐車される場所の上の木に待機し、ストーリーの進行と共に、タイミングよく車の天井に飛び降りる。 そして、黒川さんの放ったライフルの音に合わせて、吹っ飛び、地面に落ちる。 後半になると、お客を先回りして、鉄柵の橋の上にある待機場所に待機し、タイミングで飛び降りる。 そして、今度もまた、黒川さんのライフルの音に合わせて、湖に落ちていく。 リハーサルでは、流れの確認だけなので、実際に飛び降りたりはしない。 そして、いつも通り、リハーサルは終え、本番を迎える事になった。 この時点で、着ぐるみ内の温度はかなりの暑さとなっている。 体中から汗が噴き出し、流れ出た汗が足の方に溜まり始めていた。 完全一体型の着ぐるみ、そして、水も空気も通さない特殊なラバーで出来ているため、流れ出た汗は全て足のほうに向かっていく。 (ふぅ…暑い…暑いよ…) 「さあ、ユニラプトルの皆さん、一旦、メンテナンスをします」 そう管理スタッフに言われ、私達三体のユニラプトルは管理室へと入って行った。 【ガチャ】 ここは、黒川さんを含めた、他の人が入る事の出来ない場所。 私達ユニラプトルの着ぐるみと管理スタッフのみ入室が許可された部屋。 「先に、水分補給をします」 「はい」 ここでは、声を出しても問題ないので、スタッフに返事をする。 すると、ユニラプトルの首元に巧妙に隠された穴があり、そこから、水分補給用のホースが挿し込まれる。 そして、そこから入って来たホースを加え、私達は水分補給をするのだ。 「ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…」 体中を暑さに包まれた私達にとって、この何でもない水分が、とても美味しく感じる。 (ぷはぁ…まだまだ…全然飲める気がする…) それだけ、体中から汗が噴き出し、水分が足りていないという事だろう。 すると管理スタッフが、足の付け根のほうで作業を始めた。 「飲んでいる間に、汗の吸引しておきます」 【ブウゥゥゥゥ…ン】 実はユニラプトルの足の指の間に、吸引機を挿し込む穴があり、そこから中に溜まった汗を吸い出せるようになっているのだ。 水分を補給している間に、足に溜まった汗が無くなって行く。 そして、管理スタッフが三体のユニラプトルに、その作業をしていくのだった。 (よし…だいぶ…喉は潤った…頑張らなきゃ…) そして、メンテナンスが終わった私たちは、本番へと向かっていくのだった。 お客が到着する前に、私は前半の役目である車の天井に飛び移れる木の待機場所に移動した。 そして、このままお客を、黒川さんと美友里が連れてくるのを待つ。 ユニラプトルの着ぐるみに身を包まれながら、じっと潜んでいる。 (ふぅ…ふぅ…暑い…暑いよぉ…まだかな…) この着ぐるみは着ているだけで、かなりの暑さとなる。 こうやって動かずにじっとしていると、他に気が散る事もないため、余計にこの暑さが感じられてしまう。 暑さで、少しボーっとしてしまうほどだが、これで参っていては、今日一日を乗り切る事は出来ない。 何があろうと、私たちは耐えるしかないのだ。 【ブウゥゥゥゥン】 (来た!) すると、ようやくお客を乗せた車がやってきて、所定の位置に止まった。 その所定の位置とは、私が待機している場所の真下、私が天井に飛び乗れる位置。 これから、その車からお客が降りてくる。 決して、私がここに待機しているのがバレてはいけない。 息を潜めて、じっと動かずに隠れている。 するとストーリー通り、お客たちは黒川さんと美友里に連れられ、特別展示室へと入って行った。 中でのストーリーが進み、再びお客が車に戻ってくるのを待つ。 (あっ…戻ってきた…) お客が、特別展示室の中で、ユニラプトルに遭遇し、急いで車に戻ってくる。 逃げるように車に戻るお客たち、そして、それを追うように、私とは違うユニラプトルがお客たちを追ってくる。 そして、逃げ遅れた演技をする美友里を追って、ギリギリに乗り込んだ所に、そのユニラプトルが突進、車に激しく衝突した。 【ガシャーン!!】 「きゃぁぁぁぁ!!」 衝突した勢いの音と共に、美友里とお客の悲鳴が上がった。 (よし!出番だ!!) この突進が私のとびかかるきっかけのタイミングだ。 ぶつかったユニラプトルにお客の目が向いている所、上から攻撃を仕掛けるのだ。 (えいっ!!) そこそこの高さがある場所から、車の天井という狭いスペースへ飛び移る。 【ガシャン!!】 鉄格子の車の天井に飛び乗った。 その鉄格子の中にはお客たちの姿が見える。 そして、私はお客たちを怖がらせるため、必死にその鉄格子を攻撃する。 【ガシャン!!ガシャン!!ガシャン!!】 なるべく激しく、なるべく大きく、出来るだけ迫力があるように攻撃をする。 それだけ真剣に大きく動けば、それだけ私の体にも負担は大きくなる。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!) 体を使い、鉄格子を叩きつけ、しがみつくように揺らす。 私がそうすればする程、お客は盛り上がるが、私の呼吸も追い込まれていく。 【ガシャン!!ガシャン!!ガシャン!!】 「くそっ!!こうなったら!!」 私が激しく攻撃をしていると、黒川さんが窓から身を乗り出し、私に向かってライフルを構えた。 (く…来る…) この瞬間は、いつもながらに緊張してしまう。 何故なら、あのライフルを発砲された瞬間に、私は車の天井から地面に落ちなければいけないのだ。 しかも、実際は空砲であっても、設定はライフルが当たったという形。 綺麗に飛び降りるのでなく、吹っ飛びながら【落ちる】演技をしなければならないのだ。 「くらえっ!!」 【バンッ!!】 そして、そのライフルは放たれた。 (よし!やる!!) 毎度の事とはいえ、痛みが訪れる事の恐怖が無くなる事は無い。 一瞬で覚悟を決め、私は吹っ飛んだ演技をしながら、車の天井から飛び降りた。 これから激しい衝撃が私に訪れるのが分かっていると、この地面までの一瞬の時間が長くも感じる。 (来る来る来る来る来る!!!!) 【ドサッ!!】 (ぐふうぅっ!!) ほとんど受け身を取れないまま、地面に叩きつけられる私の体。 着ぐるみに身を包まれているとはいえ、ユニラプトルの着ぐるみはそれ程、分厚くもない。 それ故、衝撃はほぼ、もろに中身の私に伝わってくる。 その高さから飛び降り、地面に打ち付けられた衝撃が痛くない訳はない。 地面に叩きつけられた私は、その勢いで、そのまま体を転がせた。 【ゴロゴロゴロ】 (うぅっ!!痛い!!痛い!!痛いよぉ!!) こうやって毎日のように、体を色々な場所に打ち付けているので、体中痣だらけだ。 とても、この年頃の女の子の体ではない。 しかし、私はユニラプトルのアクター、演技に手を抜く訳にはいかない。 地面に叩きつけられた衝撃で体のあちこちに痛みが走り、中々立ち上がることが出来ない。 (うぅ…痛い…痛い…けど…立ち上がらなきゃ…) まだ出番はこの後も残っている。 なんとか立ち上がって演技を続ける他ない。 私は、痛みを堪えながら、必死に立ち上がる。 (くっ…よ…よし…な…なんとか…) 足元がヨロヨロとしながら、なんとか立ち上がった。 私がヨロヨロと立ち上がっている間に、他のユニラプトルが、車のボンネットに飛び乗り、車に振り落とされる。 そして、そのユニラプトルを跳ね飛ばしながら、車は進み始めた。 (お…追わなきゃ…) ここからはお客を乗せた車を、私達三人は必死に走って追いかける。 いくら動きやすいように作られた着ぐるみとはいえ、着ぐるみ全身を包まれている以上、普通に走るより、はるかに走りにくい。 更にいえば、ユニラプトルの演技上、前屈みで走らなければならない。 進む車を必死に走って追いかける。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!きつい!!きつい!!) 着ぐるみにより制限された体、そして、制限された呼吸。 こうして走ると、一気に呼吸も乱れる。 しかし、荒れた呼吸を満足させるほど、着ぐるみの呼吸口から空気は入ってこない。 (はぁっ!!はぁっ!!苦しい!!苦しい!!) しかし、私達は、どんなに苦しくとも、どんなにきつくとも、その車を必死に走って追いかける。 それが、このアトラクションのストーリーなのだから。 足が重く感じる。 既に恐ろしい程の暑さとなっている着ぐるみ内。 その暑さが私達の体を蝕む。 そして、全力で走らされる事により、足りなくなる空気。 そのため、酸欠にも陥り、体がグッと重く感じ始める。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!息がっ!!息がっ!!) それでもなお、重い足を前に出し、必死にお客の乗った車を追いかける。 実際にはそれ程の距離はないだろう、しかし体感としては、何キロも走っているくらい長く感じる。 (も…もう…限界…) そう感じ始めた時、車がようやく目的のゲートへと辿り着いた。 【バンッ!!バンッ!!バンッ!!】 その瞬間、ライフルの発砲音が私の耳に届いた。 (!?あっ!!この音!避けなきゃ!!) その音が聞こえた私は、真っ直ぐ走っていた方向から、真横に飛んだ。 このライフル音が聞こえたら、避ける演技をする段取りなのだ。 (あっ!!) 【ゴロゴロゴロ】 まっすぐ走っていた状態から、真横に飛んだはいいが、酸欠と疲労でしっかりと力が入らない足では、踏ん張る事が出来ず、そのまま、地面に転がってしまった。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!) 地面に転がり横たわったが、あまりにも呼吸が追い付かず、とても立ち上がることが出来ない。 (息が!!息が!!空気!!空気!!空気!!) 必死に呼吸口のメッシュから、外の空気を取り入れる。 そうこうしているうちに、扉に挟まれる役のユニラプトルが閉まる扉に突っ込み、その体が挟まれていた。 これだけ走った後、そのまま、そこに挟まれる役もかなりきつい。 そのうちに私は多少でも呼吸を整え、なんとか立ち上がった。 そして、扉に挟まれてやられたユニラプトルの向こうにいる、お客たちを牽制するように、覗き込んでいた。 それも、一連の演技で、まるでお客たちを狙っているようにじっと見ているのだが、実際に中身の私はそれどころではない。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!苦しい!!苦しい!!暑い!!暑い!!) 演技は続けているものの、体ごと上下に動かし、空気を取り入れる事で精一杯なのだ。 少し近づかれれば、ユニラプトルの首元から、恐ろしい程大きな呼吸音が聞こえてしまうだろう。 それでも、その呼吸をしなければ、私達は死んでしまう。 そして、急激な運動により、体中がとんでもない熱さになっている。 酸欠に加え、体の内外から熱による浸食も起こっているのだ。 もう、立っているのがやっとというくらい。 アクターとしての意地がなければ、このまま、地面に倒れ込んでしまいたいくらいである。 そして、そんな私達、残る二体のユニラプトルを背に、お客たちは先に進んでいった。 「さあ、次のステージの準備です。いきますよ」 管理スタッフが、私の所に来て、私を誘導する。 私は、エレベーターでに乗り、お客を先回りし、次の準備に取り掛からなければならない。 スタッフに連れられて、エレベーターに乗り込む。 そのまま、建物の上層へと一気に上がっていく。 足元がおぼつかないくらいになりながらも、必死に体力回復に努める。 そして、エレベーターが建物の上へと辿り着き、私は次のスタンバイ場所へと向かった。 次のスタンバイ場所は、鉄柵の橋の上部にある木の上。 そこで、お客の目に付かないようにひっそりと身を屈めて待つ。 (はぁ…はぁ…はぁ…暑い…暑い…暑い…) こうしてじっとしていても、今までに上がった体温、そして、その体温に温められた着ぐるみ内の温度は、そう下がる事は無い。 少し朦朧とする意識を、必死に保ち、その暑さに耐え続ける。 こうして、ただ待っている時間は、色々と考えてしまう。 なんで、私がこんなに暑く、苦しい思いをしなければならないのか…? こんなに苦しいのなら、すぐに着ぐるみを脱ぎ捨てればいい…。 否…私は自分自身でこの着ぐるみを脱ぐことは出来ない…。 逃げ出してしまえばいい…。 否…私は報酬のために、この着ぐるみに身を包まれているのだ…。 その報酬は、私にとって必要なもの…。 ならば、この暑さ、この苦しさ、この痛み、この恐怖を受け止めるしかない…。 しかし、この着ぐるみに身を包まれた状況は、死んでしまいそうなほどのもの…。 でも…頑張るしかない。 そんな事を考えていると、お客たちが鉄柵の橋まで到着したようだ。 (き…来た…ようやく…) 実際には、急いでお客を先回りして、ここに来る状況だから、待っている時間はそれ程ではない。 しかし、ここまで暑さと苦しさに追い込まれた私には、その時間が、恐ろしく長く感じるのだ。 「皆さん!!早く管制室の方へ!!」 黒川さんがお客たちを誘導する。 そして、意図的にお客より少し遅れた位置で進む美友里。 その美友里が橋の中央付近を過ぎたあたり、つまり私の待機している場所の下まで辿り着いた。 (よし…今だ!!) 暑さと苦しさで弱り切った体を奮起させ、私は待機場所から、鉄柵の橋の天井へと飛び降りたのだ。 【ガシャーーン!!】 「きゃぁぁぁぁ!!」 (ぐぅぅっ!!) 鉄柵の橋に飛び降りた衝撃が、足を伝わって体に響く。 その衝撃すらも、今の私にとってはかなり応えるものである。 (暴れないと!!) 【ガシャン!!ガシャン!!】 私は鉄柵の橋の中にいる美野里を狙う様に、天井の上で暴れ回る。 もう既に、演技と言うより、やけくそで暴れている状態になっていた。 (はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!きつい!!きつい!!) こうやってお客に迫力を感じさせる様に、大きくかつ激しく動くのは、着ぐるみに身を包まれていると、かなり体力を消耗させる事。 しかし、どれだけ苦しかろうが、手を抜くことは出来ない。 私は必死に、体を動かし、鉄柵の上で暴れ、大きな音を立てる。 【ガシャン!!ガシャン!!】 そして、そうやって暴れている時だった。 【ガコン!!】 (きゃぁっ!!) 鉄柵の橋が折れ、途中でズレ落ちたのだ。 これはもちろん、シナリオ通りの事。 このタイミングで折れる事も承知済み。 しかし、頭が朦朧とする中、それ程広くないこの足場の上で暴れている最中に、足場が動けば、不安定になる。 ましてや、着ぐるみの視界なのだから、足場が突然動けば、バランスも取りにくい。 分かっていても、この瞬間は驚いてしまう。 しかし、まだストーリーは続いている。 私は必死に体勢を立て直し、落ちかけている演技をしている美友里を襲おうとする。 そして、その次の瞬間だった。 「くそっ!!くらえ!!」 【バンッ!!】 黒川さんが放つライフルの銃声がこだました。 (きたっ!!) その銃声…それは、ライフルの弾丸が私に命中し、私は吹っ飛び、下にある湖に落ちるというきっかけの音。 シナリオ通りの事ではあるが、やはり、この着ぐるみの視界の悪さで、この高さから飛び降りるのは、何度やっても慣れない恐怖感がある。 それに加えて、やられた演技をしながら湖に飛び込むのだから、綺麗な姿勢で着水は出来ない。 つまり、水面に当たった瞬間の衝撃はかなりのものとなる。 その痛みを体が覚えているからこそ、その銃声には、心のどこかで躊躇してしまう所がある。 しかし、私は…ユニラプトルのアクター…。 そこで躊躇する訳にはいかない。 銃声が聞こえてから、ほんの一瞬の間だが、その恐怖が頭を過る。 しかし、体は自然と演技を続けた。 弾丸をくらって吹っ飛ぶ演技…。 そして、私はそのまま、湖へと落下したのだ。 【ヒュ~~~~…】 (いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!) 実際には一瞬で水面に辿り着くのだが、この瞬間はゆっくりと時間が流れる。 落下する恐怖…そして、この後私に訪れる、水面での衝撃に対する恐怖。 それらが、ゆっくりと流れる時間の中で、私の心を襲う。 (いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!) 【ドボーーーーン!!】 (んはぁぁぁぁぁぁっ!!) その水面に叩きつけられた衝撃は、車の天井から落ちた時など比ではない程、大きな衝撃で、一瞬、私の呼吸を奪う。 そして、その大きな痛みは、体中を貫く様に全身に伝わる。 水面に叩きつけらた私の体は、その勢いのまま、水中へと一気に潜っていく。 更なる恐怖は、この後も続く。 勢いよく水中に沈んだ私の体。 私の唯一の外界との繋がりである、覗き窓であり呼吸口である所から、水が入り込んで来るのだ。 着ぐるみの内部は、ほぼ私の体に密着している状態なので、隙間らしい隙間は無い。 つまり、水が着ぐるみ内に入り込める量など、たかが知れている。 そしてその水が飽和した時、私は呼吸が出来なくなるのだ。 (早く!!早く!!早く水面に!!) 私は必死に藻掻きながら、水面を目指す。 どんどんと入り込んで来る水。 (早くしないとっ!!息が!!息が!!) 動きにくい着ぐるみの体。 その体を必死に藻掻かせ、水面に這い上がろうとする。 その様子は、とても無様なものだろう…。 しかし、命に係わる事なのだ、一刻の猶予も無い。 やがて、水が顎の付近まで溜まってきているのを感じた。 (やばい!!早く!!早く!!水面に!!) 着ぐるみの中で、顎を上げ、少しでも呼吸ができるような体勢を取りながら、必死に藻掻いた。 【ザバーン!】 完全に水が入り切る直前、なんとか水面に辿り着いた。 しかし、まだ中に入った水は私の呼吸を止め兼ねない状態である。 私は必死に泳ぎ、岸を目指した。 もうここはお客の目には付いていていない。 ユニラプトルとしてではなく、一人の女の子として、必死に泳ぐ。 (あ…足がついた!) そして何とか足が着くところまで泳ぎ切った私は、そのまま急いで岸へと上がる。 (…ぁ……) 【バタン!】 そして、足がふらつき、そのまま地面へと体を倒れ込ませた。 (はぁ…はぁ…はぁ…なんとか…間に合った…) 横になる事で、覗き穴から再び水が外へと流れ出していく。 なんとか、窒息せずに乗り切ったのである。 (はぁ…はぁ…はぁ…体が…重い…) 水を着ぐるみ内から排出するために横たわっているのだが、実際には、ここまでのストーリーの中で消耗しきった私の体は、立ち上がりたくない程の状況になっているのだ。 横たわりながら、じっとしていると、先程の事が頭の中に甦ってくる。 視界の悪い中、落下していく恐怖が甦る。 (うぅ…怖かったよぉ…) そして、落ちた時の衝撃で全身に走った痛みが、ここに来て余韻として現れる。 (うぅ…体…痛いよぉ…) 水中に沈み、襲い来る水、それにより窒息しかけた恐怖もまた。 (息…息が…出来なくなる…ところだった…怖かったよぉ…) そんな恐怖等を頭に抱きながら、私はユニラプトルの着ぐるみに身を包まれ、地面にただ転がっていた。 (はぁ…はぁ…はぁ…) そして暫く時間が経った頃だった。 「さて、次回の準備があるので行きましょうか」 ユニラプトルの管理スタッフが私の傍に来て、そう言った。 (つ…次…) そう…これは一回限りのものではない。 また、再び最初から繰り返される。 一日に何度も。 それが、この【アトラクション】であり、私はその【演者】なのだから。 どれだけ怖かろうが、どれだけ痛かろうが、どれだけ苦しかろうが、お客がいる限り、私はユニラプトルを演じなければならない。 「はい…」 私は力の入らない体を奮起させ、ゆっくりと立ち上がった。 そして、ユニラプトルの管理部屋へと戻っていった。 管理部屋では、始まりの時と同じように、水分補給と着ぐるみ内の汗や水を吸い出してもらう。 それが完了して、一休みすれば、またアトラクションが始まる。 もちろん、その間、私達が着ぐるみを脱ぐことはない。 朝、ユニラプトルに閉じ込められれば、終わりまで、私達はこの中にいるのだ。 そして、再び、私達を暑さや恐怖が襲い続ける。 ユニラプトルの着ぐるみに閉じ込められながら、体を酷使し、体中に痣を作り続けている。 これが、私達ユニラプトルの中身のアトラクションでの仕事である。 そして、一日が終わり、着ぐるみを脱いだ私たちは体力も精神も、満身創痍状態となる。 着ぐるみから出ても暫くは、何も出来ない。 三人とも、全身タイツの状態で、その場で暫く横たわっているだけ。 動けるくらいまで回復したら、各々着替えて帰って行く。 すると、横たわっている私の所に、管理スタッフがやって来て耳元で囁いた。 「篠崎さん…明日はナイトもありますので…」 (…明日…ナイト…) 私はその言葉を聞き、黙ったままゆっくりと頷いた。 四人のユニラプトルのキャストのうち、私だけがやっている仕事…。 そう、それは他の三人も知らない仕事…。 その仕事のお話は、また別のお話で…。 -----------------------END--------------------------

恐竜のテーマパーク Side Story ~彩音Side~ 【テーマパークの仕事編】

Comments

コメントありがとうございます♪ ご期待に添えるかどうかですが・・・次回作で^ ^

ももぴ

ナイト気になります…!

little

コメントありがとうございます♪ 長くなってしまったので、ナイトは次回作で^ ^

ももぴ

ナイト!\(^o^)/

Q uga


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