身体の奥がまだじんじんと熱を持っている。
呼吸を整えようとしても、胸の鼓動が早すぎて追いつかない。
シーツは汗でしっとりと湿っていて、ナオの腕がその上でゆるく動く。
「……優ちゃん」
隣で、ナオが小さく笑う。
その声はまるで、夢の中で聞くみたいに甘くて遠い。
「大丈夫?すごく気持ちよさそうだったね」
「うん……ナオこそ……」
言いかけて、喉が詰まる。
胸の奥からこみあげてくるものがあって、言葉が出ない。
あんなに身体が溶けるみたいに感じたのは初めてだった。
自分が“男”だった頃の感覚なんて、もうどこにも残っていない気がする。
少し視線を横にやると、ベッドの端に座った彩音が私たちを見ていた。
その目は、どこか満足そうで恍惚な表情を浮かべている。
「ふふ……二人とも、きれいだったよ」
彩音はゆっくりと微笑む。
「ねえ、優ちゃん。スマホ、鳴ってたよ」
「……え?」
言われて手に取ると、そこには姉ちゃんからのメッセージが来ているようだ。
画面をタップし、本文を確認する。
『優斗、聞いた?あんたの身体、元に戻れるみたいだよ!良かったね!』
「……え?」
思わず声が漏れた。
ナオが顔を上げ、私の手元を覗き込む。
「元に……戻れるの?」
「みたい……」
信じられない気持ちで詳細リンクを開く。
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『性別矯正下着に関する重要なお知らせ』
ご愛用者の皆様より多数のお問い合わせを頂いておりました“男性回帰”の手続きについて、対応方法をご案内いたします。
ご希望の方には、ホルモン分泌抑制剤と男性ホルモン分泌再誘導カプセルをお送りいたします。
ただし、処女膜組織が温存されている方に限ります。
一度でも膣腔内への異物挿入または性交渉歴がある場合、ホルモンバランスが崩れるため、適応外です。
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数行のテキストを読んだ瞬間、胸の奥がすとんと落ちた。
「……そっか」
思わず、笑ってしまった。
“処女膜が残っている方に限ります”
つまり――私は、もう戻れない。
ついさっき、ナオと2人で処女膜を破ったから。
たった一行の文面が、あまりにもあっけなく、私の“男としての帰路”を閉ざしていた。
なのに、不思議と焦りも悲しみも湧いてこない。
代わりに胸の奥で、小さく温かい何かが芽生えた。
――これでいい。
この身体も、この声も、そしてこの心も。
全部、私の中にしっくりと馴染んでいる。
“男に戻る”ことの方が、もう現実味を感じられない。
「優ちゃん……」
ナオが私の頬に触れた。
「大丈夫?後悔、してないの?」
「ううん。むしろ……ちょっと安心した」
「安心?」
「だって、もう迷わなくていいでしょ?どっちの自分で生きるかなんて」
ナオは一瞬だけ目を見開き、それからゆっくり笑った。
その表情を見た瞬間、胸がじんと熱くなった。
その時――背後から、柔らかい腕が私の身体を包み込んだ。
「ふふ、二人だけで盛り上がって……ずるいよ」
振り返ると、彩音が私の肩越しに顔を寄せていた。
頬をかすめる吐息が甘く、背中がびくっと震える。
「彩音ちゃん……?」
「次は私も混ぜて。ね、優ちゃん、ナオちゃん」
囁く声が耳の奥に溶けていく。
三人の視線が絡んで、空気がゆっくりと熱を帯びる。
彩音の指が、私の顎をそっと持ち上げた。
「もう、男の子には戻れないんだもんね?」
息を呑む。
でも、否定の言葉は出てこなかった。
私は――もう、男になんて戻らなくていい。
彩音の瞳の奥に映る自分は、完全に“女”の顔をしていた。
「……うん。もう、戻らない」
そう答えた瞬間、彩音が笑った。
唇が重なり、意識が溶けていく。
さっきまで感じていた余韻が再び身体を包み込み、
ナオの指先が再び私の手を握り返す。
三人の吐息が重なり、部屋の空気がいっそう甘く濁る。
彩音の声が、耳元で囁く。
「優ちゃん、ナオちゃん、私たちこれからもずっと一緒だよ」
「……うん」
その言葉に、素直に頷く。
私はもう、男の帰り道を忘れた。
この身体で、女の子として――
女の子としての快楽を、求め続けるのだ。
窓の外では夜の闇が一層深みを増していく。
もう、何も怖くない。
だって私は、優という女の子として、生きていくのだから。
【おわり】
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