SamuZai
土装番
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荒廃世界で動き続ける機械の女性達 1話先行公開版

 現代から遠く離れた未来。世界ではテクノロジーの大幅な進歩によって、アンドロイドの製造技術が発達。  一見すると生身の人間にしか見えないような人型の機械人形が、人間社会の中を動き、人間と同じように稼働するようになった。  その一方で、生身の人間側もまた、そんな容姿端麗、高性能なアンドロイド達に自らの理想を投影して近づけるかのように、人体の機械化技術が発展していった。  それはいつしか、脳まで含めた全身機械化技術へと進化し、人類の無機物、電子データ化を成功させた。  人間社会は生身と機械、被造物と生物と元生物が入り混じる多種多様な世界となり、新たな段階へと進みつつあった。  しかしある日、人類の7割程が機械化を果たした頃。ある国の軍事行動を発端に、世界は大規模な世界大戦へと突入。  しばらくの戦闘が続いた後に戦争は終結したものの、陸地の大部分が荒廃し、人間社会は損耗の時代へと突入。  人々は荒れ果てた大地と常に危険と隣り合わせの世界で、この先の希望も見えない時代を、機械文明と共に暮らしていく日々を過ごし始めた。  これは、そんな時代にとある自分の願望の為に大地を走る、一体の元人間の女性の旅路である。 * * *  とある超大国が領土として所有している巨大な大陸のある地域。  各所に建物の存在は確認できるが、その殆どが崩れているか放置されており、人や人型の存在が感じられない寂しさのあるその一帯。   荒野の中を足場の悪い一直線の道路が貫くその道を、一台の大型バイクが駆け抜けていた。 「もうそろそろ泊まるところを見つけないと……」  独り言をつぶやきながら走り抜けるバイクには、一体の腕や脚、胸元などの露出が高めな女性が乗り込んでいた。  彼女の名前はフィオナ=アシュクロフト。かつては生身の人間だった、全身機械化を行っている機械化人である。  前髪が左右に分けられ額を晒した黒いワンレングスのショートヘアーに、鋭く大人びた雰囲気を抱く、スッキリとした鼻筋や薄めの唇を有するとても美しい顔立ち。  色白の人工皮膚に覆われた身体は、モデルのような高身長かつ長い脚を持つ細身で、とても豊かでボリュームのある両乳の谷間がハッキリ出ているノースリーブやへそ出し、太ももが露わなショートパンツと、バイクで走るにはかなり露出度は高めな格好をしている。  その上から、砂埃を防ぐ為のジャケットを身に着けている。  彼女としては、砂埃はシャワーを浴びて落とせば充分と認識しているが、機械化人やアンドロイドが直接運転中の砂埃を浴びると人工皮膚が著しく削ってしまう為、やむを得ず最低限の羽織をせざるを得なかった。  彼女の首筋には、バイクから伸びるケーブルが接続されており、常に充電を行いバッテリー残量を保っている。  フィオナが所有するバイク「ストレイン」は結構な巨体と馬力を誇るガソリン式バイクで、彼女が所有する複数の頑丈なコンテナボックスを共に運び、音を上げて豪快に走り抜けている。  そんな彼女は今、もう間もなく日が落ちようとしている中で、今日の寝床となる場所を探していた。  最悪野宿でも構わないが、可能ならば屋内でスリープモードに入りたい。それは安全面もあるが、気分的な要素も大きい。  今彼女が通っている道にある建物は、殆どが崩れており元の形も思い出せないようなものばかり。  これは野宿コースかと思われたその時、フィオナはようやく一箇所、宿として使うのにちょうど良い建物を発見した。       「ここは良さそうかな。前は……レストランだったみたいね。ま、ありがたく使わせてもらいましょう」  フィオナは道路からは見えない建物の影にバイクを停め、可能な限り略奪を狙う者からターゲットにされることを回避しつつ、一旦の休息を確保する。  彼女以外の者がバイクに触れたり強引に動かそうとすれば、自動で通知が彼女の電子頭脳へ伝えられ、何かが起きているということが知らされるが、そもそも可能な限りトラブルそのものが無いほうが良い。  周囲を見渡し、外からバイクの姿が見えづらいだろうということも判断すると、既に暗くなり始めている周囲をナイトビジョンモードで確認しつつ、荷物を持ってレストラン内へと入っていった。  外から建物の中を確認すると、内部は明らかに荒れており、もうレストランとして機能していないことがその光景からは伺える。  しかし、不思議と人影らしきものはいくつか見える。  フィオナは警戒を怠らずに入り口のドアを開いた次の瞬間、カウンターに立つ女性らしき人影の目が点滅し、露骨な動作音が鳴り始めた。 「いラっしゃイまセ! リングダイナーへようこそ! 何名様ままま、何メメ名様です、ですか? ヨうこ、そ!」  そこにいたのは、店員として稼働している女性型アンドロイド。  しかしその有様は酷く、制服は下着含めて全て脱がされ、身振り手振りをしている両腕は指と関節部が潰されて油がさされていない機械のようなぎこちない挙動を起こしていた。  剥き出しになった両乳は、何度も激しく扱われたのか、全体が汚れており、特に右乳は根元から千切れて乳首が真下を向いてぶら下がっている。  ところどころに殴打されたような跡があり、特に髪ごと人工頭皮が剥がされた上で露出した金属骨格の後頭部が酷く、カバーごと陥没させられていることで、電子頭脳が損傷してしまっていた。  カウンターから乗り出して下半身の様子を見ると、当然のごとく下半身も曝け出されており、女性器ユニットは外性器部分の人工皮膚と樹脂肉が摩耗しきっており、ピンク色の肉が抉れていた。  股間部分を覗き見られながらも、その女性型の店員は眼球だけを動かしてフィオナのことを監視カメラのように視界に収め、硬直した半開きのアルカイックスマイルを保ち続けている。 「よく動いてるわこれで……ちょっと中を見てみましょうか」 「いらっしゃいまイらっしゃいmmmmm名さまでしょウカしょうか! いラっsyいま………………」  何度も丁寧な接客の定形セリフを喋り続ける店員をよそに、フィオナは一旦店内へと移動してその様子を伺いに行った。  彼女が視界から外れると、店員は繰り返しの接客セリフがプツリと途切れて静かになった。 「うわ……こういうエグめなのは久しぶりに見たかも」  レストランの外から見えた人影は、確かに幻覚ではなくそこにあった。  だがそれは生きた誰かではなく、既に服すらも風化しかけているような、席に座り込んでいる骸骨と、機能停止して静まっている女性型だった。  どうやらこのレストランはそれなりに繁盛していたらしく、他の席にも骸骨や機械人形が複数座り込んでおり、たまに床に前のめりになって倒れた機体が転がっている。  停止した女性型は、その殆どが手足や身体のパーツ、人工皮膚や頭部、女性器ユニットなど、様々な部品が奪われており、これまでここに訪れた略奪者達が強引に取り去っていったのだろうと推測した。 「…………電子頭脳が残ってる機体はまだあるわね」  フィオナは荷物からケーブルを取り出し、自身の首筋と接続。それから、まだ頭部が残っている機体の首筋にある端子に接続した。 「新しい機体との接続が完了しました………………ああ、さすがにファイルが壊れちゃってるわね。けど、機械化手術の履歴がある……この人は元人間かぁ」  無感情に機械的なシステムメッセージをつぶやくフィオナ。それから表情が戻ると、彼女は電子頭脳内で接続した側の内部データを閲覧する。  しかし、見た目に違わずどのファイルも壊れてしまっており、これでは到底起動することも難しいだろうと判断した。  フィオナはその調子で、他の機体も確認していく。 「この人は……アンドロイドかあ。この骸骨の付き人として買われたのね。この人は、あっ、かわいい…………ああでも、接続すらできないのね。こっちは…………元人間。へえ、元々は男で、ここに来る一日前に機械化……可哀想に」  フィオナは一人旅で訪れた各所で、壊れかけや壊れたアンドロイドや機械化人の電子頭脳と自身を接続し、その度に閲覧しては、その脳内データをコピー。保存しては外部ストレージに移して保管していた。  それは趣味のひとつではあるが、彼女が行う旅の目的とも関係していた。 「こんなところかしら……ああ後は、あの娘のことも調べておかないと。とその前に、コンセントを確保して……」  一通りの機体と接続した後、彼女は建物内の危険性はないとも判断して、就寝する為のバッテリー源の確認をしておく。  今では使われていないコンセントを確認し、電気も未だ通っていることも調べ、無事に充電できると安心したところで、彼女は最後に、入口前のカウンターにいる店員の背後にまわった。 「…………………………いrrrrrしゃイませ!」  自ら歩くことも振り向くこともできない身体を動かして振り向かせると、フィオナという客を視認した店員が、先程と同じだがスピーカーの調子によって声色が変わる挨拶を喋りながら痙攣して目を光らせた。  フィオナは、彼女の身体を引っ張ってから、荷物から取り出した携帯用寝袋の上に寝かせたあと、それまでの機体と同様に接続を行う。 「リングダイなななな…………新しいしいしいデバイすが接続されま、されまされまししししし………………いらっしゃイませ!」  お互いの電子頭脳を接続し、同じように中身を確認する。 「ああ……だからパターン通りの言葉しか喋れなくなったのね」  すると、殆ど破損してしまっている数々のファイルの中に、本来ならばこの店員は人間のように自由な喋りができるということを示す、いくつかの映像履歴や、破損した擬似人格の存在を確認した。      壊れた彼女の身体が示す通り、他の破損した客とはまた違い、これまで無数の暴力を外部から受けて壊されたことで、著しくデータが損なわれてしまった。  だからこそ、ボロボロになった今では、かろうじて残った基本プログラムのみで稼働するしかなかったのだった。  フィオナは今回、彼女を抱き枕として使用してスリープモードに入ることにした。外はすっかり暗くなり、目を閉じる時間。  荷物からアルコールと付近を取り出し、汚れた口元や乳房、腹部や股間など、特に汚れていた箇所を清潔に拭き取っていく。 「何名様何名様なんメイsaまですカ? いらっしゃイま──────」  ずっと定型メッセージを喋り続けていた店員は横たわるが、途中から口を動かし眼球が動き続けていても音声が全く出なくなった。フィオナが彼女の音声を切ったからである。  それなりの音量でセリフを喋っていたのもあって、このまま喋り続けていたら外から獲物がいると面倒な奴らが嗅ぎつけてくる可能性もある。  彼女の電子音声は中々可愛らしく魅力的な分名残惜しいが、安全を考慮してこのような操作を行った。  全身が動きつつも実質的に沈黙した店員に、フィオナは樹脂製の唇同士のキスをして、片乳がどうしても位置ずれしてしまっていながらも乳房同士が潰れるように重ねて抱き合い、股間同時をくっつけながら一方的に絡み合った。 「ん……ぅ…………あっ……ん…………数日ぶりね……この感触…………単体での快楽信号の処理もいいけど……こうして他の機体とくっつきあうと……ん……あんっ……気持ちいいわ…………」  壊れたアンドロイド相手に性行為を行い、各部位から微小ながらも快楽信号を得て、実質的な自慰行為を行うフィオナ。  彼女に限らず、今の世界では女性型としての機能を活かして人間的な性行為や機械としての機能を活かした性行為、信号変換プログラム、果てにはウィルスや電子ドラッグまで用いた快楽信号の発信と処理がひとつの娯楽として強い支持を得ていた。  荒廃した世界ではどうしても娯楽は少なくなる。それを少しでも多く得られるのが機械の身体。そうなっていくのはある意味必然ではあった。  フィオナも例外ではなく、彼女は特に、快楽信号を処理して性的快楽を得ていくことに恍惚感を覚えていた。  一日の中でも最低一度は女性器ユニットや乳房を弄って性感を得て、時には状況が整っていれば自らの身体や電子頭脳を破損させて生じたエラーを変換して快楽信号を得たり、バックアップを作成した上で自身のデータを改竄させることによるエラーを発生させて気持ちよくなったりする。  それ程までに、日頃から欲求不満になったりする女性でもあった。  そんな彼女がバイクで大地を駆ける理由。そのひとつは、大陸のどこか、世界のどこかにあるという自由にバックアップを作成でき、自由にスペアボディを製造できるという場所に行きたいというものだった。  どれだけボディが壊れても、どれだけ自身のデータが破損してしまっても、いくらでも自由に復帰することができる。そんな場所があれば、自分の身体でどんなことでもし放題。毎日壊れてしまうような快楽行為をしても通常稼働を継続させることができる。  そんな機械仕掛けの存在にとって夢のような場所があるならば求めてみたい。そして多幸感に満たされた日常を送り続けたい。それが、彼女の旅の理由だった。 「ん…………ぅ…………んん…………きもちい設定された時間になりました。スリープモードに移行します…………」             単体で得る性感もとても良いものだが、こうして他者と絡み合い、生きた肉や人工の女体と接触するのもまた違う素晴らしさがある。  久方ぶりの肉欲を満たしていた途中、フィオナはいきなり無表情になりシステムメッセージを発し、そのまま瞳の光を失い動かなくなった。  彼女は事前に、ずっとレズセックス行為に耽っていたらエスカレートして何かしてしまい明日に響いてしまいそうだと思考し、強制的にスリープモードに入る為のタイマー設定をしていた。  たとえ元人間であっても、機械は自身のシステムに逆らうことはできない。  ずっと濃厚に重ねていた唇は動きを止め、店員側の一方的に動き続ける唇と挙動がずれた。  接触は継続しているものの、まるで誤作動を続けるアンドロイドと壊れて動かなくなったアンドロイドが重なっているような光景がそこに表れた。  こうして、フィオナは廃墟も同然となったダイナーで、一晩を明かしたのだった。  一晩が明け、時刻は朝の6:30。外は太陽の光に照らされ闇が消え、爽やかな青空が広がっている。  スリープモードに入り動作が停止しているが、ずっとキスと女体同士の接触を継続していた。  目蓋は開いたままで、光を失った瞳は、目の前でまだ接客動作を継続している店員を移し続けている。  店員側も、本来ならば閉店時間に合わせて充電に入りスリープモードに入っていなければおかしいが、電子頭脳が破損したことで閉店時間後の処理に関するタスクが消失し、規定時間になると充電をするという動作のみが残った。  フィオナと有線ケーブルで繋がっている間は充電が継続していることでそれが達成されたと判定され、彼女はずっと深夜になり朝になっても店員としての動作を継続していた。 「………………設定された時間になりました。スリープモードを解除します………………おはよう……えっと……ああそうだ、名前確認してなかったわね…………ああなるほど、メイね」  設定時間が訪れ、スリープモードが解除されるフィオナ。突然感情のない声ではきはきと喋る、人間ではありえない挙動の後で人格データが復帰し、そこでようやく目の前の店員に名付けられた名前を知った。  機械にも起動直後、復帰直後の少々挙動の重い瞬間はあるが、人間に比べるとその立ち上がりは早い。  目を覚ましたフィオナは、厨房のキッチンにギリギリ水道が通っているのを確認し、わずかな水をボウルで掬ってシャワー代わりの水浴びをする。  特に、就寝直前の行為で人工愛液がわずかに漏れた股間はきちんと洗い、全身の清潔さを保った。  機械の身体になった以上、衛生面では人間を上回り、不衛生による体調面での心配はほぼ存在しないが、これは彼女が元人間であったことによる気持ちの問題である。  洗浄を終えてから、脱ぎ捨てていた下着と衣服を改めて身に着け、取り出した荷物をてきぱきと仕舞い、出発の準備を整えた後、フィオナは最後に、昨日の夜の世話をしてもらったメイを優しく抱擁した。 「昨日はありがとうね、メイ。ここでデータを取れたみんなと一緒に、あなたも連れて行くから」  想定とは違う言葉に対して返答できないメイは、口の動きが全く変わっておらず、相変わらずのぎこちない身振り手振りと口の動きを繰り返す。  その後、フィオナは彼女の首筋に外部ストレージを接続し、残された少ないデータを保存。  それから首筋の電源ボタンを長押しすると、メイはゆっくりと瞳の光を失い、床の上で動かなくなった。  フィオナは、機能停止した彼女に優しくキスをした後、荷物を持ってバイクの方へ移動。  何も手を出されていないことを確認した後、コンテナボックスのひとつを開ける。するとそこには、大量の外部ストレージが綺麗に収められていた。  彼女はそこに、ダイナー内で保存した、メイのものを含む各種個人のデータを保存した外部ストレージを収めて、厳重に保管した。       「ありがとうね、一晩無事に泊めさせてくれて。さ、今日も行きましょうか!」  フィオナのもうひとつの目的。それは、彼女がたどり着いた理想の場所にて、これまで回収してきた人々のデータを使い、復元させてあげることだった。  戦争とそれに伴う二次的被害によって、各所でバックアップも取れないまま破壊された者や、機能停止してしまった者が、彼女の周囲やその旅路の中で無数に存在していた。  そんな無辜の人々が、このまま残骸として残されてしまうのは、彼女としても心苦しい。  そこで、自分なりのお世話になった人々や出会った人々へのお礼、そしてせめてもの自分なりにできることとして、ストレージ内に保存したアンドロイドや機械化人達のデータを持ち運び、たどり着いた先で新しい身体で復活させてあげたいという願望を抱いたのだった。  自分の欲望と、人々への還元。その両方の目的を抱いたソフィアは、今日もまた相棒のストレインに乗り、朝早くから荒野の道路を走り出したのであった。 * * *     これまでと変わらず、道中を走り続けるフィオナ。  途中、自身の運転している車両がクラッシュしたのか、道端で焚き火を炊いたり、所持しているポータブル電源を用いて野宿をしている者の姿を見る。  生身も機械も同じように、この磨り潰された世界をたくましく生きている。  そんなことを思考しながら、電子頭脳内でお気に入りの何百年も前のポップミュージックを聴きながら突き進んでいるうちに、時刻はまた夕方頃となった。  太陽が夕焼けになり始め、もうそろそろ今日の寝床を考えなければならない頃。  しかし今日は、彼女の進行方向にちょうど、これまである程度の住宅が立ち並んでいたと思わしきエリアが広がっていた。  いくつかは倒壊してしまっているが、まだ形の残っている建物も確認できる。  これならばどこかしら泊まれるところはあるだろうと、エンジンを噴かせて一気に前進した。  そうして、名前の知らない町に降り立ったフィオナ。他の例に漏れず、倒壊した家屋と崩れかけの家屋、それ以外にも建物は残っていても殆どの商品が奪われたカー用品店や、かつての日常の存在を感じさせるスーパーマーケットなど、確かに町として機能していたんだろうという風情を感じさせた。  ストレインを押して歩く中、倒壊した家屋から女性型の手が伸びているのが見えた。  フィオナはそこに近づいてみるが、その機体は飛び出した手以外が全て潰れており、女性としての形すら残っていない残骸と化していた。  名残惜しそうに胸の上で手を握り祈った後、改めて今日の泊まる場所を探す。  その時、フィオナは他の建造物に比べるとしっかりと形の残っているモーテルを発見した。 「良いところ残ってるじゃない。今日はここにしましょ」  モーテルの駐車場に一旦バイクを停め、ここが機能しているかどうかを確認する。  フロントには誰もおらず、きちんと施設として稼働している様子はない。他の建物との例に漏れず、電気は通っており、これならば充分休めるだろうと判断した。  周辺を見渡し、どこかバイクを隠して停められる場所は無いか確かめるが、それらしい場所はどこにもない。  危険性は大きくなるが、仕方なくそのまま停めておくことにした。 「…………ここが良さそうね」  フィオナは一箇所ずつ部屋を確かめ、ドアが開いているか、室内の様子はどうかと確認していく。  荒れ放題だったり、設置された家具類がボロボロな部屋が殆どだったが、その中でも比較的ベッドがきちんと残っている部屋を見つけると、彼女はそこに泊まることにした。  荷物の一部と装備を運び、充電準備を整えていつでもスリープモードに入れるようにしておく。  電子頭脳内に保存している映画を再生しながら、各部位の点検でもしようかなと身体を伸ばしたその時、隣の部屋から声が聞こえてきた。 「…………ます。私は常にご主人様と…………」 「もっと言って……私も、あなたとずっと居た…………」  壁越しな為、聞こえてくる声は断片的だが、向こうには二人の女性がいるらしく、それぞれ二人分の声が耳に入ってきた。  全ては聞こえないながらも、中々にやり取りそのものは甘く、こんな荒廃した世の中で、熱くいちゃついているように感じられた。 「偶然もいいとこね……人見当たらなかったのに一緒のモーテルに泊まってる人いるなんて」  フィオナがそう認識するのも仕方がない。外の駐車場には、他の車両はどこにも確認できなかったのである。  声だけでは、隣にいるのは可愛らしい声の一人の女性と、セリフからしてその女性に仕えている、かっこいいタイプな低音ボイスの女性型アンドロイドと推測できる。  フィオナは、こんな場所で遭遇したのなら、せっかくだから交流を持ってみてもいいのではと思考し、隣にいる二人組を尋ねてみることにした。  一度部屋を出て、隣の部屋の入り口の前まで向かう。 「だいぶ不用心ね……」  しかしその部屋は、入り口のドアが破損し常に半開きになっていた。  世界全体がほぼ無法地帯と化している今、セキュリティが甘いのは命取りに他ならない。  よく耳を澄ませると、壁越しに聞こえてきた彼女達の声が確かに聞こえてくる。  フィオナはこっそりと踏み出し、荒れ気味な足元を避けてベッドの位置まで入り込んだ。  その時、彼女は予想外の光景を目にした。 「お願い……もっと顔を近づけて…………ちょっと、誰なの私の部屋に入ってきて……」  そこにいたのは、ブロンドのセミロングヘアーに、おおよそ20歳前後の雰囲気を抱く、可愛らしい端整な美貌、豊かな胸を持つ女性だった。  ベッドの上で仰向けになっている姿は、まるで雑誌の1ページやSNS上の写真のように美しく、周囲の退廃的な雰囲気も合わさって芸術作品のようになっていた。 「ご主人様、大好きです。私はずっと、ご主人様の側にいます」 「あっ、ごめんなさいケイラ……目をそらしちゃった……あなたの顔がとっても綺麗で……」  しかしそれ以上に驚いたのは、この部屋にはその女性一人しかいないことだった。  ケイラと呼ばれたもう一体の女性型アンドロイドとおぼしき声は、その女性と同じ口から飛び出していた。  その声に合わせて、彼女は虚空に向かって瞳を輝かせ、空気を抱きしめるようなモーションをとっている。  よく見ると、女性の顔半分の皮膚が剥がれ、金属骨格が剥き出しになっている。  それ以外にも、左腕の二の腕部分、肩関節、右腕の手指、腹部、右膝と、各部位の人工皮膚が剥がれた状態で、彼女が生身ではないことを示していた。  胸が大きくてかつ、細身のモデル体型なのも相まって、より人工物の美しさが、その対比的な姿から醸し出されていた。 「ごめんなさい。隣から声が聞こえてきて、誰かいるのかなって思ったの。それで、折角だから何か話を聞きたいなって」 「ん……んぅ………………ごめんなさいケイラ、少しだけ待ってて、誰か来たみたい。私がいくから。待たせてごめんね。でも、私の姿を見てもそのまま話していようなんて珍しいじゃない。大抵の人は逃げていってたのに」  空中に向けて申し訳無さそうなモーションを取った後、彼女は起き上がり、正面からフィオナとの会話をきちんと開始させた。 「私も最初はビックリしたわね……私の名前はフィオナ=アシュクロフト。あなたは?」 「私の名前はアリアナ=レンフィールド。よろしくね、フィオナさん。見ての通り、私は機械化人だけど、あなたは?」 「私も同じよ。けど……」 「わかってる。誰と話してたか……でしょ? もうひとつの声は、ずっと私に仕えてくれてたアンドロイドなの。ケイラっていう女性型なんだけど……彼女とはずっと愛してたの。いつも一緒にいてくれて、毎日くっついてたの。私の好きなこと全部記録してくれてるから、快楽信号が止まらなくて……」  もうひとつの声について喋り始めると、残された頬を赤らめて惚気け始めるアリアナ。  金属の骸骨側は、表情豊かな人間らしい顔とはうってかわって何の表情も見えない。  しかし、すぐに彼女の表情は曇りはじめる。 「でも、ケイラは昨日、突然電子頭脳が壊れて動けなくなった……どれだけ再起動やメンテナンスをしても直らなくて……一緒にいるって言ってたのに……だから、ケイラのデータを私の中にコピーしたの。そしたら、ずっと一緒にケイラがいてくれて……」     そしてすぐに明るく戻った。  彼女は強い情愛を抱く程に好んでいるアンドロイドの残されたデータを取り込み、電子頭脳内でその挙動をエミュレートさせていた。  彼女の身体を動かすわけではなく、視界上と電子頭脳内にのみ存在するイマジナリーのケイラが出現。アリアナはそれに対して、己の収まらぬ情愛をぶつけていたのだった。  傍から見ればそれは、空気に淫らな言動をぶつけたり、虚空に絡み合っているようにしか見えない。  これまで何人も、彼女がいるこの部屋に侵入してきたが、その様子が不気味で寄せ付けずにいたのだった。 「そうだったの……大変だったわね。大切な人を失うって、機械になってもすごく辛いことだから」 「そうなんだよね……でも、ケイラはずっと私といてくれるの。本当なら、ケイラが壊れず一緒に居てくれたほうがいいんだけど……これから彼女がいない日々を過ごせるかどうか、とっても不安で仕方がなくて」 「大丈夫。私から見てアリアナは強い人だと感じるの。きっと、これから乗り越えられるわ」  フィオナは慰めの言葉と一緒に、彼女の背中を優しく撫でて励ました。  だが同時に、彼女の言葉の中にひとつの違和感が生じた。  それをもとに、フィオナは追加の質問をぶつける。 「…………ねえ、ケイラはいつ壊れたの?」 「ケイラが壊れたのは○○月○○日だけど」  彼女は何の警戒も疑問もなくその質問を答えた。しかしその日付は、今日この日から2ヶ月近く前の日だった。  フィオナが抱いた違和感が、確信へと変わった回答だった。 「………………ねえアリアナ」  フィオナは続けて質問を投げかけた。  彼女がどこから来たか、どこでケイラが停止したか、改めていつからここにいるのか。いくつもの問を彼女にぶつけ、そうして確信を得た。  アリアナは明らかに壊れている。見た目にもボロボロで、人間と機械の間のような姿にはなっているが、それに違わず彼女は電子頭脳に何か致命的な不具合を抱えてしまっているのだ。  彼女がことごとく口にした場所はモーテルから明らかに遠い上に、昨日停止したというならば辻褄の合わない答えばかりが返ってくる。つまりそれが示す答えは電子頭脳の故障以外になかった。 「ねえアリアナ、今何日かわかる?」  「えっ、△△月△△日でしょ?」  今度は正確な日にちをきちんと口にするアリアナ。やはり自身の発言の矛盾を認識していないと判断したフィオナは、彼女の電子頭脳の状態を確認することにした。 「アリアナ、今日が△△月△△日ということは、ケイラが壊れたのは昨日じゃないんじゃない?」 「…………あれ、おかしいな、ケイラが動かなくなったのは昨日だけど、今日は△△日で、昨日だけど昨日じゃない、昨日は、○○月○○日のはずなのに、今日は△△月△△日で、あれ? 私は何を言って新しい機体との接続が完了しました。るの? ケイラが昨日停止して、私はここまできて………………」  一時的に動作を止める為に、フィオナは彼女自身の矛盾を認識させる。本来ならば、元人間のアリアナは矛盾によって生じる思考ループの処理や回避も可能なはずだが、今の彼女はそれすらもできなくなっている。  これは相当に状態が悪いと眉を顰めたフィオナは、首筋の端子からお互いを接続。システムメッセージを漏らしつつ、電子頭脳同士で繋がった後、ハッキングを仕掛けて一時的に権限を掌握した。  アリアナが沈黙し、ガクガクと身体が震える。思考ループに陥る原因の処理を全て切り、一時的に動作を停止させると、彼女はまるで打ち捨てられたロボットのようになった。 「…………なるほどね、思ったより酷いわ。ストレージとメモリの両方が破損してる。覚えてられないわけね」                          アリアナの状態を確認すると、彼女のボディは予想よりもよくない現状にあった。  端的に言ってしまえば、いつ機能停止してもおかしくない。ケイラが停止した次の日から時間が止まっており、どう足掻いてもそこから先に進むことはできない。  行動はできても、その先の未来がない。何より、それを彼女は自覚できないという、ある意味ただ壊れるだけよりも悲惨な状態となっていた。  フィオナは少し顔を俯かせて思考した後、こっそりとアリアナの電子頭脳内に存在する全データのコピーを自身の電子頭脳に作成し、バックアップを取った。  アンドロイドも機械化人も、システム側や外部機器側からの通知が無ければ、自身のデータのコピーが取られたことなど知る由もない。  アリアナにはその通知が送られないように設定しつつ、今のアリアナ=レンフィールドという存在を構成する要素を一旦、自分の中へと保存していった。 「…………外部機体との接続が切断されました………………私何考えてたんだっけ……まあいっか」  矛盾に関する思考が打ち切られ、一旦は平常を取り戻したアリアナ。  まるでいつ壊れてもおかしくないような様を感じさせない明るい態度をすぐに取り戻した直後、今度は彼女の方から質問を始めた。 「ねえフィオナ、今度はフィオナの話を聞かせてよ。私も、こんな場所で私達以外の誰かに出会うとは思わなかったから……せっかくだから聞かせてほしいな。これもなにかの運命だと思うの」 「うーん……じゃあ、ここまでの道中の話をちょっとしてあげる。私のバイクの後ろを追いかけてて勝手に壊滅したレイダー達の話とかね」 「えっ、気になる気になる! 教えて!」  何を話しても、明日には全て忘れてしまう。今日こうして出会ったことも、次の日には揮発してしまうだろう。  だとしても、今のアリアナが楽しんでくれるならそれでいいと思考しながら、フィオナはここ最近の面白かった出来事を中心に、楽しく彼女との会話を繰り広げていった。  荒廃した光景とは裏腹に、二体の元人間の女性同士で明るい声を花開かせる。  こうして、しばらく愉快な雰囲気を渦巻かせた後で二体は別れ、フィオナは隣の部屋へと戻っていった。 「…………ああ、もうこんな時間かぁ……データの移行は明日にしようかな」  予想外に話し込み、時刻はいつの間にか、いつもスリープモードに入るようにしている時間に近づいていた。  勝手に取得したアリアナのバックアップを、今すぐ外部ストレージに移そうか悩んだが、人間としての気分が勝ち、明日出発前に移行させようと思考した。  シャワーが壊れており、身体を洗うことはできなかったが、それでも外で眠ったり建物の床で寝るよりは何億倍も良いと改めて認識しつつ、彼女は首筋に充電ケーブルを接続してからベッドで仰向けになった。 「…………私も、いつか壊れる前に街を見つけないと」  とても大切な相手が壊れた次の日を延々と繰り返すアリアナの姿を見て、ソフィアは過去に出会った様々な機体のことを思い返す。  今の世界では、壊れてもそのまま残骸になってしまうことなど珍しくない。だが、それを当たり前だと受け止めたくはない。  いつそんな機械にとっての天国のような場所にたどり着けるのか。途方も無いと認識しつつも、絶対に見つけてみせると改めて気持ちを固めながら、彼女はスリープモードに入った。 「スリープモードに移行します………………」 * * *  次の日、フィオナはこれまでと同様6:30にスリープモードが解除される。 「設定された時間になりました。スリープモードを解除します…………ん………なにこの音」  外の割れた窓から入ってくる太陽の日差し、背中から伝わるベッドの感触。  どれも心地よい朝になる要素のはずだったが、それらの情報は全て、隣の部屋から聞こえてくる、ガタガタと激しい振動音に掻き消された。  スリープモードから復帰してまだ少々電子頭脳の動作が重いフィオナだったが、音の発信元がアリアナのいる部屋だと気づいた直後、彼女は何かが起きていると急いで隣の部屋へと走り出した。 「アリアナ大丈夫!? 何かあっ……」 「指定されたファイルが破損しています。参照先を変更してください。指定されたファイルが破損しています。参照先を変更してください。指定されたファイルが破損しています。参照先を変更してください」  フィオナが目にしたのは、ベッドの上で両眼を見開き、全身を激しく痙攣させているアリアナの姿だった。  誰かに襲撃されたというわけではなかったが、事態はより深刻であるように見えた。  同じシステムメッセージを何度も何度も繰り返し、無気力に口が開いたまま何度も背中が仰け反っている。  フィオナが彼女の頭部に触れると、火傷してしまいそうな程に熱を帯びており、このままではオーバーヒートを起こしてしまうであろう程の状態になっていた。  急いでケーブルを接続して権限を取得し、現在行われている動作を強制的に終了させる。 「指定されたファイルが破損しています。参照先を変更しししししししsssssss…………あ、れ? はじめま、まま、まして、あなたはあなたは、だだ、誰ですかはじてまま、まして」  すると、アリアナはなんとか本来の挙動を取り戻した。かに見えた。  昨日の交友の記憶データは全て消滅しており、あれだけ楽しく話していたのにも関わらず人格データの底からはじめましてと口にするが、それ以上にそもそもの受け答えが著しく劣化してしまっていた。  アリアナは悲しさを覚えつつもそれが表に出ないように表情の動作を調節しつつ、何が起きたのか聞こうとする。  「…………今はそんなことは後でいいわ。何があったの、教えて」 「私何があっ、あっ、え? 私は何があっ、ありました、ありました………………ケイラ、ケイラ、どこなの? ケイラ、私、ケイラ、ケイラの、ケイラ、データが、指定されたファイルが破損しています。参照先を変更してください。そんな……ケイラ、だめ、だめ、ケイラの、ケイラ、起動して、起動をしてくださいケイラは私の、ケイラ、指定されたファイルが破損しています。参照先を変更してください。参照先を変更してくださささささ新しい機体との接続が接続が接続が完了しました」  アリアナの言動から、彼女の内部データに何かがあったと読み取ったフィオナ。  剥き出しの顔半分からは、徐々に煙が溢れ出し始めている。ただでさえ壊れかけているのに、こうなっては完全に壊れてしまうと、すぐに彼女との接続を行い、何が起きているのか確かめようとした。 「…………そういうことだったのね。気の毒に」  元々壊れかけており、いつ停止するかもわからないような有様だったアリアナに対して抱いていた懸念が現実と化した。  電子頭脳の物理的破損と並行して、昨日までストレージ内に存在していたケイラのデータが、全てジャンクデータと化してしまっていたのだった。  自身の中にデータをインストールする程にケイラという存在に依存していた彼女。何度実行しようとしても、構成しているファイルが壊れている以上、ケイラを呼び起こすことができない。  アリアナは、何度も何度も呼び出し操作を何百重にも重なる程に実行し、自分で自分に負荷をかけていた。  それが、人格データの混乱と重なってさらに電子頭脳に負荷をかけ、自ら機器としての寿命を縮めてしまっていたのだった。  フィオナはこの時察した。もう彼女の機体としての寿命は尽きてしまうと。  ここには予備パーツとして使用できるようなものは無い。パーツを流用しようとしても、規格が違う分正常に動作する保証もない。  そもそも、今の段階でも彼女の破損は進行し続けている。もはや、彼女自身が停止するのも時間の問題だった。 「指定されたファイルが破損していまケイラ、ケイラ、ケイラ私ケイラ、ケイラ、もっと、すき、好きよ好きなの、好き、私は、わわわわわわ、参照先を変更ししししし、エラー、メモリ不足くくくくメモリ不足ですと、とと、頭部ユニットが破損しています。ケイらららら……」  このまま壊れていきながら待つしかない。だがそれではやるせないものがある。  何かできることはないかと思考したその時、そういえばと、自分のストレージ内にまだ移動させていないバックアップデータがあったことを思い出した。  ハードウェア事態が壊れかけているアリアナにそれを送信しても意味はもうないも同然だが、そこからしてあげられることはないかと、不躾ながらも彼女とケイラ、両方の記憶データを確認した。 「………………これくらいなら、私にもしてあげられそうね」            二体がこれまで交わした行為、行動パターン、やり取りなど、日常のプライベートなところまで踏み込んで覗いていく。  壁越しに聞こえていた時も、二体同士で愛し合っていたかのような声が入ってきた。  今も、電子頭脳が壊れかけている中でも大好きだと言っている様から、彼女が今何を求めているのかを推測していく。  そうしてフィオナは演算を続けた結果、自身の中にリアルタイムで彼女の新しいバックアップデータを作成しつつ、ハッキングによって視界情報を改竄。  そして、彼女の上に覆い被さりながら衣服を全て脱ぎ捨て、ケイラの音声データを使用すると共に、擬似人格を自身の人格エミュレートと並行して、限定的に起動させた。 「音声データの参照先が変更されました。指定された擬似人格の限定起動を開始します…………大丈夫ですか、ご主人様」  フィオナとしての自己を持ちつつ、振る舞いや言動をケイラのようにして稼働させているという、いわば人格キメラのような状態。  音声も完全にケイラの、低音でかっこいい女性のような電子音声へと切り替えた。     「ケイラ、ケイラ、私はわわ、私は好きだから、すき、行かないで私壊れ、いや一緒にケイラは…………ケイラ? ケイラ? ケイラ、がが、がが、ケイラなの? ケイラがいます。いますどうして? 壊れました。過去に昨日、あれ? ケイラ、らららら……」  設定変更から十数秒ほど経過した後、アリアナは目の前に現れた愛する相手のことを認識した。  今、彼女の目の前にいるのはフィオナで間違いないが、視覚情報を改竄されたことでケイラとしてしか認識できなくなっている。  黒に近い青のショートヘアーに、中性的な中で女性寄りの造形をしている、魅力的でどこか色気も宿った美しく整った顔立ち。        常に微笑みを絶やさずクールな雰囲気を抱いており、その場にいるだけで吸い込まれてしまいそうな引力があった。  それでいて、ボリュームはありつつも手の中に収まるようなサイズの胸に、スラッとした美しいスタイル。  それはまさしく、アリアナがずっと求めていた相手だった。  眼球ユニット奥の絞りが、ぎこちなくも激しい拡縮を繰り返し、手足の痙攣が引き起こされる。  剥き出しになった箇所からの動作音がより強く鳴り、傷んだ下着の下では女性器ユニットがひくひくと動いているが、とっくの昔に人工体液は空っぽになっており、排出機構が空撃ちをし続けていた。  戸惑いながらも、表情の機構が喜の反応を示していることがよくわかる。ずっと会いたかった、電子頭脳上のシミュレーションではなく目の前で会いたかった相手が現れたアリアナは、震える両腕を伸ばして抱きしめた。 「ケけけけイラ、ケイラ、らrrrr私大好き大好き大好きずっと愛してしてしてして破損が、エラー、ラー、ラー、ファイルが破損ssss愛していますずっといい一緒にいタいの処理が正常に実kkkkk」  ケイラが壊れてしまったことを認識しているからこその反応。彼女はケイラを抱き寄せてキスをした。  それを始点にしようと、フィオナは同じように、ケイラらしい動作で唇を重ねて舌を入れた。  乾いた樹脂肉で作られた唇と、もう半分の金属骨格の口が重なり、二つの感触を感じさせる。  アリアナの口内も既に乾いており、フィオナの口からもたらされる潤いが、そのわずかな人間らしさを取り戻させた。  ケイラとフィオナの乳房のサイズは明らかに違っており、アリアナの視点からでは虚空に乳の感触を感じるであろう程の差があるが、今の彼女にはそんなことは関係ない。そもそも認識することさえできない。  軽いキスを交わした後で、優しくアリアナの服を脱がせてあげる。  服の下の人工皮膚は、顔や手足よりはまだマシなものの、ところどころに穴や裂傷が残っており、今まで修復もままならなかったのだろうということが表れている。  フィオナは今まで色んな状態にある機体を見てきた。その上で絡み合ってきた。これくらいどうということはない。 「ご主人様……私はずっと、あなたのことを愛しています。私は、あなたに仕えるアンドロイドでいられて、とても幸せに思います……ん……ぅ……んん……」    ケイラとしての思考をエミュレートしながら言葉を紡ぎ、乾いた口同士で絡み合いつつ、女性器ユニット同士をくっつけ貝合わせ行うフィオナ。  口と同様に乾いている上に、昨日の夜のように激しいことをずっとしていたからなのか、樹脂肉が酷く傷ついている女性器ユニットに新たな愛液の恵みがもたらされる。  室内にいやらしい音が鳴り、アリアナの電子頭脳に多量の快楽信号がもたらされる。  瞳がとろけ、頬が赤くなり、剥き出しの金属骨格から鳴る動作音がより激しくなる。  一方で、頭部から漏れ出す煙の量はさらに多くなり、間もなく彼女は機体としての限界を迎えつつあることが示された。  快楽信号が増加するごとに、アリアナの電子頭脳にとても強い負荷がかかる。 「ケいらららら、ララ、あ、あ、あ、あっ、あっ、きもち、いいいいいいのきもちい、あ、あ、あ、めめメモリ使用量が、使用量がががが、100△●□#0$実行してくダさい実行してください実行しししし、エラー、人格ええエミュレートレートれれれれれが正常に正常に正常にじっこうでキませあんっ! あんっ! あっ! あああああ」    動作がぎこちなくなり、人間らしい挙動が失われていく。  眼球の動作が定まらず、音声もよりシステムメッセージが混ざり、音飛びがさらに酷くなる。  拡げられた両脚はもう正しく動いておらず、だらんとして意図せぬ痙攣を起こすだけの金属棒になってしまった。  彼女が今どれだけ気持ちよくなっているか、幸福に満ちているか。それは皮肉にも、どれだけ壊れているかを示す電子頭脳からの煙が増加することによって表れていた。 「ケイ、ららららけけけkkkエラー、制御プログラムに重大なeeeee愛し愛し愛してきもち、きもちいいケイラの、け、ケイララララあっ! あっ! あっ! aaaaaa」  とうとうその表情は、恍惚に染まった顔で硬直した。  眼球だけが動き、ケイラの姿を捉えようと努力する。しかし、快楽信号に満たされた壊れかけの脳が、処理能力の限界に近づき、まともに動作処理自体ができなくなっている。  動作全体が緩慢になり、簡易的な挙動にすらリソースが割けなくなったアリアナは、間もなく絶頂に達しようとしていた。 「ご主人様、私はご主人様にいつまでもお供します……ん…………私達はこれからも一緒です。さ、私に身を任せてください。ご主人様は、こうして達するのが好きでしたよね」  フィオナは最後に、アリアナの薄い腹部の人工皮膚の上から、直接子宮ユニットまでの通り道である膣ユニットに指を複数押し込み突いた。  その瞬間、がくんとアリアナの身体が跳ねた。 「あっ! あ、あ、くく、くくる来るるるる$$0#%!? 警告、警こここここク頭部ゆにゆにユニットのしし処理能力を超え、あ、あ、あ、けけケイラrrrrああああああaaaaaa!!!」  彼女に生じる快楽信号の処理は頂点に達し、感情値が乱れ、絶頂の基準値を大きく超えた。  アリアナはシステムメッセージによる警告が混ざりながら多幸感に満たされた、電子音混じりの嬌声を上げて全身を震わせ、身体中から内部機構の動作音を鳴らした。  直後、彼女の電子頭脳は大きなスパークを上げ、剥き出しの金属骨格内部から火花が散った。 「■■%ケ*$@……………0:8=■■………………!*=i`0$*rあ#@■……………………」  その有様はもはや、廃棄場でかろうじて動く程度のアンドロイド。  スパークが起きる度に首が揺れ、虚ろな瞳でケイラの虚像を被るフィオナのことを見る。  声はもうアリアナの形を成しておらず、ほぼ耳障りな電子音にしか聞こえなかった。 「…………私はいつまでも側にいますよ、ご主人様。また会う日まで、おやすみなさいませ、ご主人様」  フィオナは最後までケイラとして動き、電子音の隙間で彼女の名前を呼ぶ壊れかけの姫の口に最後のキスを交わして抱きしめた。  アリアナの声も挙動も次第に小さくなり、そして物言わぬ機械人形となってその動作を停止した。  電子頭脳同士のアクセスも遮断され、最後の瞬間まで行われたバックアップも停止。擬似人格の限定動作も止め、改めてフィオナとしての動作を再開した。 「災難だったわね、アリアナ、ケイラ。またいつか、一緒の時間を過ごせることを願うわ」  優しく彼女の頬を撫で、人工皮膚が残っている方の目蓋を閉じてあげるフィオナ。  濡れた股間も拭き取り、綺麗にしてあげた後、胸の上で手を握り祈りを済ませて自室へ戻っていった。  荷物をまとめ、自身の電子頭脳からアリアナとケイラのバックアップデータを外部ストレージへ移動。持ち込んだコンテナボックスに仕舞い終え、彼女は最終確認をしてからバイクへ移動。  昨日偶然にも出会った、壊れかけだった二体の残骸を後にし、フィオナは再び走り出したのだった。 * * *    相棒のストレインと接続しながら、いつもと変わらず荒野を駆けるフィオナ。  乾いた風を浴びつつ、彼女はこれまでに出会った人々のこと、そしてこれからの未来について思考していた。 「…………理想の街……本当にエデンってあるのかしらね……あるといいけど」  これまでにも彼女は、アリアナのような機体を見つけ、または出会ってきた。  そのまま壊れて動けなくなっていく姿を見送るのは、慣れはしてもやはり気持ち的にはやるせない。  それが、バックアップデータを取得し集めるという行為にも繋がっていた。 「…………私が弱気になってどうするんだか。私だってやりたいことあるんだから、やるなら自分が進まなきゃね。最後まで一緒に頼むわ、ストレイン」  こうして彼女は、また新たな出会いと別れを経て再び、誰が作ったのかもわからない、機械仕掛けの人々にとっての理想郷を探す旅を進めるのだった。  彼女はこ


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