小学4年生の時の話。
まだやんちゃで反抗期だった頃、家ではお姉ちゃんとよく喧嘩になることが多かった。
喧嘩とは言っても、3歳上で幼い頃から合気道を習っている中学生の姉に力で勝てる筈もなく、一方的な虐殺と言っていいレベルで毎度のように惨敗してしまっていた。
お姉ちゃんに近付いた瞬間、いつの間にか天井が見え、一瞬にして関節を極められて痛めつけられたり、脚で首を絞められながらくすぐられて泣いてギブアップするまでいじめられてしまう。
両手を万歳させられて腕の上に乗られ、顔を覗き込まれながら無防備な腋の下や首筋をねちねちと情け容赦なくこちょこちょされると、どんなにくすぐったくても苦しくても力で抵抗できずされるがままに責められ続け、顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになってプライドも何もかもズタズタになるまで徹底的にお仕置きされてしまい、恐怖を植え付けられていく。
それでも懲りずに3日に1度はお姉ちゃんに反抗して喧嘩を仕掛けるも、結果は同じだった。
そんなある日のこと。
とある作戦を思い付いて試してみようと考えていた。
それは、お姉ちゃんの前で"死んだフリ"をする作戦だ。
そうすれば、いくら悪魔のようなお姉ちゃんとはいえ優しくしてくれるのではないか。
早速その作戦を試してみようと思い、学校から帰った後リビングでおやつを食べながら待機していた。
夕方過ぎになり、玄関の方から物音がした。
急いでドタバタと移動して、人目に付きやすい玄関前の広間に移動して、バタリとうつ伏せ大の字に倒れ込んでみる。
「ただいま~……って、あんた、何してんの?」
「………………」
「おーい、無視?寝てるの…?風邪引くよ?」
お姉ちゃんは意外にも優しく心配してくれているような声だった。もう少しだけ死んだフリを続けて様子を窺おうとしていると、突然腋の下に手を入れられて「んひっ!?」と変な声を出して身体をピクピクと震わせてしまった。
そして、「はぁ……」とお姉ちゃんのため息が聞こえてきて、乱暴気味に仰向けにひっくり返されてしまう。
「いつまでそうやって寝たフリしてんの?何が目的?」
「…………」
「顔ニヤついててキモいよ?」
…今さらっと酷いことを言われたような気がして、少しだけ落ち込んでしまう。
それでも、ポーカーフェイスのように無表情を意識して、呼吸もなるべく止めて死んだフリを続けることに。
「あと5秒以内に起きないとくすぐりの刑にするから。5~4~3~…」
「……っ!?」
お姉ちゃんは早めにカウントダウンを始めてしまい、悩んでいる時間はあまりない。
このまま死んだフリを続けても意味がないと悟り、一か八かでお姉ちゃんを逆にくすぐって押し倒そうと決意した。
「2~1…」
「っうぉぉぉっ!!!」
パチッと目を開けて両腕をバタバタさせて上体を起こすも、視界にお姉ちゃんの姿はない…?
嫌な予感と同時に、背後から首筋に指先を添えられて「ひぃぃっ!?」とくすぐったい声が出てしまう。
「おはよう。何してたのかな?説明してくれる?」
「ぁっ………えっと…その…ね、寝てました…」
「嘘つき。寝て無かったくせに。じゃあ正直に白状するまで拷問ね?」
「ぁっ…や、やだっ…!は、離せっ!ばかぁぁっ!!」
背後から羽交い締めにされてあっさりと体勢を崩され、仰向けで両手を万歳させられてしまう。
太ももと膝の裏で肘を挟み込まれ、程よく体重をかけられてしまえば絶対に逃げられない人力拘束が完成。
顔も太ももで挟み込まれ、お姉ちゃんに見下ろされてゾクゾクと恐怖で震えてしまう。
「ねぇ、さっき私にバカとか言った?そんな生意気なこと言って…どうなるか分かってるよね?」
「ご、ごめんなさぃごめんなさぃ…!謝るからゆ、ゆるしてぇぇっ!」
「謝るのなんて当たり前でしょ?二度とそんな生意気なこと言えないように躾してるのに、どうして毎回同じ過ちを繰り返しちゃうのかなぁ?反省してないんでしょ?」
「は、反省してます…!二度と生意気言わないからぁ…」
真っ直ぐに眼の奥を覗き込まれると、さっきまでの威勢は消えて情けなくごめんなさいをして命乞いをしてしまう。
着実に。気付かない内にお姉ちゃんのくすぐったいお仕置きによる恐怖によって身体が蝕まれて支配されていた。
「…反省はしてるみたいだけど、じゃあ今さっきは何を企んでいたの?」
「ぁっ……えっと、その………」
「怒らないから正直に言ってみなよ?」
口調は優しいけれど、お姉ちゃんの指先はピタッと無防備に伸ばされている腋の窪みに添えられる。
"嘘をついた瞬間くすぐり殺すよ?"
…というような無言の圧力を感じ、無意識に身体がガタガタと震えてしまう。
しかし、このまま黙っていてもお姉ちゃんの機嫌を損ねてしまうだけだ…。観念したように、正直に白状しようと決めた。
「し…死んだフリ…してました…」
「…で?死んだフリして何しようと思ったの?」
「いや…あの……お姉ちゃんビックリするかな~…なんて…」
そう素直に白状すると、お姉ちゃんは呆れたようにため息をついていた。
「そんなイタズラに私が引っ掛かると本気で思ったの?…もしかして私に構って欲しかった?それならそう言ってくれたらよかったのに。」
「いや…そういうわけじゃ…」
何だか急に恥ずかしくなってきて顔が真っ赤になってしまう。照れ隠しのように、結局はいつもと同じような勝ち目の無い反抗をしてしまうのだった。
「う、うるさいっ!お姉ちゃんのばーかっ!鬼!悪魔!ていうか、さっさと退けよ!!離せよぉぉっ!!」
「ふーん。人がせっかく優しく接してあげてるのにそんな態度取るんだ?本当に素直じゃない子ね。だったらお望み通り死ぬほどくすぐったいお仕置きしてあげる。ほぉら、こちょこちょこちょこちょ~」
「っっふひぃぃっ!?っぁぁぁぁぁっ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっあはははははははははは!!!!いひゃぁぁぁっひゃめでぇぇぇぇっぁぁぁぁぁぁぁっあははははははは!!!!じぬっっっご、ごめんなざぃぃぃぃっぁぁぁぁっ!!!」
薄いシャツ越しに敏感な腋の下を情け容赦なくこちょこちょされると、一瞬にして目から涙がこぼれて大きく口を開けて情けなく笑い狂わされてしまう。
幼い頃からからお姉ちゃんはかなりのくすぐり上手だったけれど、歳を重ねるにつれて益々くすぐりの技術は進化していて恐ろしさを感じる。
どこをどのようにくすぐれば効果的なのかを完璧に把握していて、機械のような正確な指捌きで淡々とねちねちと弱いところを責め立てられるのは"拷問"だった。
いくら男とはいえ、小学4年生の非力な力ではお姉ちゃんに全く歯が立たず、されるがままに一方的に虐殺といっていいレベルのこちょこちょでお仕置きをされ、1分も経たない内に心が完全に折れてしまっていた。
「ほぉら、こちょこちょこちょこちょ~。くすぐったいね?少しは反省した?」
「ひぃぃっぁぁぁぁぁっぎゃぁぁぁっんぁぁぁぁっは、反省じましたからぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっごめんなざぃぃぃぃぃっぁぁぁも、もういひゃぁぁぁゆ、ゆるじてくださぃぃぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははは!!」
「そっか。じゃあ後10分くらいはそのまま反省しててね?」
「そんなぁぁぁぁぁぁっし、しんじゃぅぅっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっおかひくなるぅぅっぁぁぁぁぁぁぁぁっごめんなざぃぃぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁっあははははははは!!」
「死んじゃう?死んだフリしてたってことは、それが本望なんじゃないの?私に死ぬほどくすぐられてお仕置きされたいからあんなことして待ってたんだよね?」
「ちがっっちがいますぅぅっぁぁぁぁぁぁっごめんなひゃぃぃぃぃっぁぁぁぁぁっお、おねがいだからぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっこちょごちょひゃめでぇぇぇぇっぁぁぁぁぁっ!!」
笑い狂いながら必死にお姉ちゃんに「ごめんなさい」をしたり、許しを乞うものの全く止めてくれそうな気配はない。
無防備な首筋を悪魔のようなくすぐったくて器用な指先でねちねちと絡みつくようにこちょこちょと撫でられたり、腋の下から脇腹にかけて身体の側面を何度も往復するようなくすぐりをされて足や腰をバタバタとくねらせたりして必死に抵抗してしまう。
一度お姉ちゃんに押さえつけられて人力拘束されてしまえば、お姉ちゃんが満足するまで絶対に離してもらえない…。
どんなに泣いても笑い狂ってもごめんなさいしても暴れても、お姉ちゃんの指先からは逃れることができずこちょこちょとくすぐったいところを責められ続けていく。
何十分経ったか分からないけれど、段々と笑い疲れて息も絶え絶えになり、半ば白眼を剥いてピクピクと身体を震わせるようになっていた。
「っぁぁっ…ひひっ…ぁぁぁっはひっ…ひっっ…」
「今日はこの辺で勘弁してあげる。次またくだらないイタズラしたら気絶するまでこちょこちょの刑だからね?」
「ご…ごめんなひゃぃぃっ…ぅぅっ…ぐすっ……」
ようやくお姉ちゃんの指先が離れ、人力拘束からも解放されてもしばらくの間仰向けに寝転がったまま起き上がれずにいた。
喉もカラカラになり、笑い疲れて腹筋に早くも筋肉痛を感じてしまう…。
フラフラと立ち上がり、キッチンで水を飲んでから部屋に戻り、倒れ込むようにしてベッドに飛び込んだのだった。
**
次の日、学校に行って幼馴染に昨日の出来事を話していた。
「昨日死んだフリしてお姉ちゃん脅かそうとしたんだけどさ、全然引っ掛かってくれなくて気絶寸前までこちょこちょでお仕置きされたんだけど…酷くない!?やり過ぎだと思う…!」
「あははっ♪なにそれ~♪う~ん、まぁでも、お仕置きされたのは自業自得じゃない?」
「え…何でだよ…!」
「だってさ、もしかしたら香織さん、本気で心配してたのかもしれないよ?だから冗談でもふざけてそういうことしない方がいいと思うな~?」
「ぅっ……ご、ごめん……」
顔を覗き込まれながら優しく正論で諭されてしまう…。
お姉ちゃんが心配してくれてる…?
考えにくいけれど、もし本当に心配していたとしたらお姉ちゃんが怒るのも無理はないような気がしてきた。
今日家に帰ったら、死んだフリしたこと謝ってみようかな_