小学4年生の冬のこと。
学校が休みで特に予定も無い土曜日。
くすぐり拷問師である母も珍しく休みだけれど、お姉ちゃんは幼い頃から通っている合気道の稽古へと出掛ける準備をしていた。
そして、何故だか分からないけれど自分まで合気道の"見学"に連れていかれることになり、渋々と運動できそうな学校の体操着を鞄につめて準備をしていたのだった。
__数時間前
「おはよう~♪朝ごはん作ったから顔洗ってきな!」
「はーい…ふぁぁっ……」
部屋に入ってきた上機嫌な母に起こされ、顔を洗ってダイニングに行くと、お姉ちゃんは既に席に座って待っていた。
「…お、おはよう…」
「おはよう。」
目を合わす事もなく温かいお茶を飲んでいるお姉ちゃん。
朝はほんの少しだけ、いつも機嫌が悪いように見える。
せっかくの休日の朝からお姉ちゃんにお仕置きされるのは避けたいと、よそよそしく席に座った。
「あ~ごめん!お皿運ぶの手伝って!」
「僕がやる…」「私が行く」
同時に席を立ち、お姉ちゃんの後についてキッチンへと向かう。たまの休日、母は自ら台所に立ち、こうして手料理を振る舞うのが好きだった。
今日はご飯に味噌汁、ベーコンエッグに焼き鮭。
家庭的で美味しそうな匂いにお腹が鳴った音がした。
食器を運ぶお手伝いをして、ようやく3人揃って朝ごはんを食べる。
「いただきまーす!」
「どうぞ~召し上がれ!」
ニコニコと機嫌の良さそうな母につられたのか、いつの間にかお姉ちゃんも表情が優しくなっていた。
「…美味しい♪」
「ほんと?ありがとう香織♪…あ、そう言えば今日は合気道の稽古だっけ?何時から?送っていくよ」
「10時からだけど…1人で大丈夫だよ?」
「遠慮しないでよ~♪…あ、そうだ。いい機会だからあんたも香織の合気道の稽古一緒に行く?体験とかしてみる?」
「えっ!?お姉ちゃんの稽古…?う、うーん…どうしよう…」
「何?なにか予定あるの?」
「…無いけど…」
「じゃあ決定~♪という訳で私が送っていくから」
…どうしてそうなったのか分からないけれど、お姉ちゃんの通っている合気道の道場へと見学に行くことになってしまった。
実は小学1年生ぐらいの頃、同じように母に連れられてお姉ちゃんの稽古の様子を見学したことがある。
その時、お姉ちゃんが中学生くらいの女子と組んでいて、あっさりと投げられたり組伏せられている姿を見て少しショックと、気まずいものを見てしまった記憶があった。
お姉ちゃんもそれ以来、僕が見学に来るのは反対していると思っていたのだけれど…。
「香織もそれでいいよね?時間あったら相手してあげてよ」
「…私は別にいいけど。」
お姉ちゃんにギロリと見つめられ、思わずゾクッと背筋が震えてしまう。
母には「行きたくない」等と言えずに、朝食が終わった後とぼとぼと部屋に戻って準備をしていたのだった。
**
近所にある道場までは歩いても20分くらい。
車だとあっという間にたどり着いてしまう。
「ごめんくださーい!あ、お久しぶりです~♪」
「あ~香子さん!今日はお仕事お休みですか?」
「そうなんですよ~♪あ、それでね、今日は息子も合気道の稽古を見学させて、ほんの少しだけでもいいので体験がてら面倒見て欲しいんだけど…お願いしていいかな?」
「もちろんです♪息子さんは小学4年生でしたっけ?丁度同い年でやんちゃな女の子達がいるので、こちらこそぜひ相手して欲しいところでした~♪…ふふっ♪よろしくね?」
「あっ…よろしく…お願いします…」
母が話している相手は、この道場では主に小学生達に稽古を教えている若そうな女性だった。榊原さんと言うらしい。
道場は広く畳が張られており、小学生・中学生・高校生の主に3つのグループに別れて稽古をするらしい。
男女比は1:9で女子ばかり。うちの家庭のように親が"くすぐり拷問師"をしていて娘に幼い頃から習わせていたり、将来的に娘には拷問師を目指して欲しいという家庭。
義務教育での内申点を意識して護身術を身につけさせたい家庭など目的は様々だ。
お姉ちゃんは幼い頃から筋が良いらしく、師範達や同じ道場に通っている女の子達はお姉ちゃんの姿を見ると、「香織さんおはようございます!!」と元気に挨拶をして通っていく。
「じゃあそろそろ稽古も始まりそうだから、君も着替えよっか♪道着は持ってたりするのかな?」
「体操服ならあります…」
「じゃあそれで大丈夫♪更衣室はこっちだから、案内するね♪」
榊原さんに連れられて小さな男子用の更衣室に案内される。
こうなってしまってはもう仕方ない。
無事に帰れるかと不安を抱きつつ、体操服へと着替えて更衣室を後にした。
続きのお話
