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【続きのお話】雨宮雫の一年目

総理との面会が終わり、私は4月から「くすぐり執行官」の見習いという立場になることが正式に決まった。


美咲さんによると、どうやら今現在暫定的に3名の"くすぐり執行官"が総理から認められているようで、最初の1年はNo.3__上から3番目の桐山玲光(れみ)さんという人が私の教育係となるらしい。


一体どんな人なのか、美咲さんに「当日のお楽しみ」と言われて教えてもらえなかった。


ネットで調べたりしてみたものの、当然見つかる筈はない。

束の間の春休みは、自由に過ごしてもいいと言われたけれど、ただし問題行動を起こしたりすれば……


それと、美咲さんから規則正しい生活と運動をしなさいと課題を出された。体力を付けておかないと、4月から泣く羽目になるとも脅しを受けた。


その言葉にほんの少し不安と恐怖を感じたけれど、もう私は立派な「くすぐり執行官」になると決めたのだ。


少しでも体力を付けようと、春休みは毎日朝からランニングをして、できるだけ健康的な生活を心掛けていた。


そうして迎えた3月末。

明日は8:30に家まで迎えの車が来るという。


服装は普段の格好でいいと言われた。

いよいよ明日から新しい生活が始まる。


いつもより早くベッドに入ったけれど、眠りに堕ちたのは結局日付を越えた頃だった。


**

ピピピピピピ、ピピピピピ…


「う~……ん、起きなきゃ…」


セットしていた目覚まし時計のアラームで目を覚ます。

朝の7時。まだ少し眠たい目を擦りながら、顔を洗いに洗面所へと向かう。


冷たい水の感触と同時に、いよいよ今日から「くすぐり執行官」という仕事への第一歩が始まる。


朝ごはんを食べている時。

私服に着替える時。

歯磨きをしている時も、緊張でどこか上の空だった。


そうして、時刻はあっという間に8:30。


「それじゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい雫!頑張ってね」


母に玄関まで見送られて扉を開ける。

家の前に黒い車が停まっているのが見えた。


「おはようございます。雨宮雫さんですね?お迎えに上がりました、三谷(みたに)と申します。以後お見知りおきを。」


「よ、よろしくお願いします!」


スーツをキチンと着こなした女性に名刺を差し出される。

車の後部座席に乗り、聞くところによると私の送り迎えを担当してくれる"秘書"のような人…だという。


まだ本来であれば高校1年生の年齢である私が、車で通勤なんてしてもいいのだろうか…


私自身はそう思っていたが、もし万が一電車で移動して事件や事故に巻き込まれ、私の身に危険が起これば政府にとって重大な損失であると、"総理"はお考えであるようだった。


"くすぐり執行官"が勤務する場所は、今のところ霞ヶ関にある省庁の一部を間借りしているらしい。


ただ、今後3年以内には新設か、移転のどちらかを計画しているという。


車はとある建物の前へと停まる。

赤レンガの外観で、旧法務省の本館だという。


三谷さんに中へと案内されて、趣のある通路を歩いていく。

3階まで階段で上がり、中央まで歩いて扉の前で立ち止まる。


「この中にお入りください。では、私はこれで失礼いたします。」


「あっ、えっ!?」


三谷さんは私に一礼をして背を向けて去ってしまった。

ぽつん、と一人取り残された私は、ふぅ…と一度深呼吸。


よし…!と覚悟を決めて、ノックをする。


「失礼します!!」


「お~!よく来たね~新入り~!待ってたよ~♪君が雫ちゃんだよね?さぁさぁ、入って入って~♪」


「え、あ、ええっ!?」


私がドアノブに手をかけた瞬間、ずっと待っていたかのように内側から開いていきなりぎゅ~♪とハグされて中へと入れられる。


背が低い私の顔の前に、丁度おっぱいが当たって苦しい…

力ずくで引き離そうかと思っていると、後頭部に手をまわされて余計にぐっと抱き寄せられて…


「ほぉれ、こちょこちょこちょこちょ~♪」


「んんっっ!?んんぁぁぁぁっっんんっっーーー!!?」


首の後ろを軽くこしょこしょとくすぐられた瞬間、あまりのくすぐったさに衝撃を受けてしまう。


それは、相手を無力化するような、全身の力が抜けて拘束されていなくても抵抗できなくなるようなくすぐったさであり、一瞬にして技術やレベル、"格"が違うのだと身体に理解させられた。


「っぷはぁっ、はぁっ、っぁぁっ、な、なにするんですかぁ……」


「ふふ~♪可愛いな~♪"映像"越しに見るより実物の方が可愛い顔してるよ。くすぐられた時の反応も、子供っぽくて初々しい!あ~そうそう!こういう女の子がうちに欲しかったんだよね~♪あ、ごめんごめん!私は桐山玲光!帰国子女だからさ、レミって呼んでくれていいよ~♪」


軽いおっぱい窒息こちょこちょから解放されて、へなへなと床に崩れ落ちてしまった私に視線を合わせてよしよしと頭を撫でてきた。


金髪でショートカット。

白のTシャツにジーパンというラフな格好。


レミ…と聞いて、美咲さんが言っていた名前と一致することに遅れて気が付いた。


「あっ…えっ!?もしかして…くすぐり執行官の…!」


「お~そうそう!三谷か…美咲さんからちょっとは聞いてたのかな?私がくすぐり執行官のNo.3!そして、雫ちゃんの教育係…らしい!人に教えるのとかあんまり慣れてないけど、あんまり堅苦しく構えなくて大丈夫♪…私の前では、だけどね~」


あまりに予想外の対応に、さっきまでガチガチに緊張していたけれどすっかり気が抜けてしまった。


玲光さん…この人が私の教育係…

少し変わっているようなところもあるけれど、優しそうで気さくな人で良かったと安心した気持ちになっていると__


「へぇ~。最近のガキは床に座ってくつろぐのか。躾がなってないようだな。親の顔が見てみたい。…おい玲光。誰?この子は?」


背後から音もなく、いつの間にか"そこ"に誰か立っている。

とてつもない殺気と威圧感に、第六感が"逃げろ"と警告を出しているが、ガタガタと身体が震えて冷や汗が止まらない。


玲光さんは、そんな私を軽く抱きしめ、耳元で「大丈夫だから私に任せて♪」と囁いてくれた。


「いや~灯凛さんは容赦ないな~♪ほら、今日から入るっていう新人の雫ちゃんですよ!ほら~、めちゃくちゃビビって怖がっちゃったじゃないですか~♪雫ちゃん、立てる?」


「え…あ、はい…すみません…!」


玲光さんの手を借りて、恐る恐る立ち上がってゆっくりと後ろを向く。生まれたての小鹿のように脚がプルプルと震えて止まらない。


入口付近に立っていたのは、180cm近くありそうな女性だった。髪はウルフカットで、毛先や前髪の一部を赤色に染めている。パンツスーツ姿で、ただならぬ雰囲気に顔を直視することができず、私は既に半泣きだった。


「チッ。うざってーな。挨拶もロクにできない新入りなんて本当に使えるのかよ。今すぐ私が"処分"してやろうか?」


「ご、ごめんなさい…雨宮雫です…!よろしくお願いします…!」


さっきまでの楽しそうな雰囲気とは一転。

今すぐにでもここから帰りたい気分に襲われていく。


「おい、クソガキ。舐めてんのか?そもそも何だその格好は?"遊び"に来たんなら今すぐ帰れ。帰らねぇって言うんなら……私がこの手で"処刑"してやるよ」


「ひっ………!!」


あまりの恐怖とオーラにガタガタと脚の震えが止まらない。背後から玲光さんに支えられていなければ、へなへなと床に崩れ落ちていたであろう。


ゆっくりと、獲物を追い詰めるように。

指をワキワキされながら迫られる。


あっ…私の人生ここで終わりかもしれない…


そう諦めて目を閉じかけたとき__


『__灯凛。何をしている。』


入口から、またしても静かに、迫力のある声。

灯凛と呼ばれた女性も、一瞬背筋を仰け反らせて顔には焦りと恐怖の色が見えた。しかし、すぐにパッと表情が戻る。


「あ、あぁ~椿さん。いやいや、これはその…新人が来ていたので挨拶をしていただけで…」


「そうか。私には新人をいじめているようにしか見えなかったが?それに__貴様に"処刑"の許可を出した覚えもない。後で私の部屋まで来なさい。」


「ひっ……か、勘弁してくださいよ……す、すみませんでした。」


「分かればいい__さて、君が雨宮くんだね?私は一椿(にのまえつばき)。"くすぐり執行官"という組織の代表を務めさせていただいている。よろしくね。」


「よ…よろしくお願いします……!」


ほんの一瞬。一瞬だけ、"総理"と同じ気配がした気がする。

椿さんは高そうなスーツに身を纏い、綺麗な黒髪でいかにも仕事ができそうな感じがして格好いいというのが第一印象だった。それに、何だか凄く良い匂いがした。


「さて__軽く会議を始めようか。皆、席につきなさい。」


椿さんはテーブルの一番前に。

左端に灯凛さん、玲光さん、そして私が横並びに座っている。


シーンと、荘厳な静寂が一瞬の間流れる。

ピリッと気が引き締まる。


「まず最初に、本日より我々に新しい仲間が加わる。"総理"自らくすぐりの才を見初められた雨宮くんだ。立って軽く自己紹介をお願いできるかな。」


「は、はいっ!」


ガタッと慌てて立ち上がり、一斉に私の方へと視線が向けられる。


「雨宮雫と言います!今年で15歳になります!よろしくお願いします!」


ペコリと頭を下げ、そのままの勢いで席に座ってしまう。


「椿さん、いいですか。」


「灯凛__どうかした?」


灯凛さんが挙手をして椿さんに向き直る。


「本当に…こんなガキ_いや、子供が"総理"から認められて、我々くすぐり執行官の仕事ができるんですかね?」


「それは雨宮くんの成長次第だと、"総理"もお考えであるようだ。今すぐに"くすぐり執行官"となるわけではない。正確には、この3年間は見習いという位置付けで我々の下についてもらう。最初の1年は玲光。来年は灯凛が彼女の面倒を見なさい。そして、3年目は私が彼女に指導する手筈となっている。いいかな__雨宮くん。」


「は、はいっ…!!」


椿さんの視線が私に移り、ピシッと背筋が伸びる。


「"才能"に甘んじるな。精進を続けなさい。__この3年の間に、君の存在意義を示せ。もし使えないとなれば__"私"が君を処分する。…以上が"総理"から君に賜ったお言葉だ。期待しているよ、雨宮。」


「総理が…が、頑張ります!!」


総理に認められたい。

あの時、病棟で私に手を差し伸べてくれた総理に、少しでも恩返しをしたい。


改めて初心を胸に刻み込むような気持ちだった。


「__では、会議は以上だ。玲光、やり方は任せる。後は頼んだぞ。」


「はーい♪お任せください」


会議も終わると、椿さんと灯凛さんが先に部屋を後にする。


パタン、と扉が閉められた後…


「ふぁ~…疲れたぁ~!!あの2人おっかねぇ~…しずくっちもよく頑張ったぞ~えらいえらいよちよちよち♪」


「ひゃっっ!?れ、玲光さんやめてぇ~…!」


2人きりになった瞬間、玲光さんは私に抱き付いてよしよしと頭を撫でたり、ほっぺたをぷにぷに弄ばれてしまう。


緊張の糸が切れて、私もどこかほっとしたような気持ちだった。


「さてさて~、じゃあ改めて今年1年間よろしく!まぁ私が最初の教育係で良かったと思うよ、ほんと。私なんて去年…灯凛さんに死ぬほどスパルタ教育されてマジで死ぬかと思ったよ…うん…。」


「そ、そうなんですね…」


椿さんの話だと、来年私も灯凛さんの下で指導を受けることになる……そう考えると、少し不安と憂鬱な気持ちが芽生え始めてくる。


「まぁ、最初に言ったように、私に対しては別に敬語も入らないし緊張しなくていいよ!私もネトゲよくやるからプライベートでも遠慮なく遊びに誘ってくれていいし!」


……あれ…?

どうして玲光さんは私がネトゲをしていると知っているのだろうか…??


「とはいえ、上2人に対してはキチンとした態度を取って欲しい。何故ならしずくちゃん自身も、教育係である私もくすぐり殺されるかもしれないから……だから本当、マジで私もあまり気が乗らないんだけどさ__」


「えっ………!?」


ふわりと私の身体が一瞬宙を舞った。

何が起きたのか理解する前に、優しく床に仰向けに叩き付けられ、手早く着ていたパーカーとシャツを脱がされて両手万歳で腕の上に乗られてしっかりと押さえつけられる。


「あれ??ブラ付けてないの!?おっぱい小さいからってダメだよ?私みたいな先輩にいきなり襲われるかもしれないからさ♪」


「…っなっ!?し、失礼ですよ!!い、いきなり何するんですか!は、離せぇっ!!!」


「いくらでも暴れていいよ?この部屋も防音だから、好きなだけ笑い狂って構わない。いい?しずくちゃん。くすぐり執行官という組織において上下関係は"絶対"。私も正直こんなことしたくないけど、心を鬼にして最初の3ヶ月くらいは毎日徹底的にこちょこちょして教育してあげる。大丈夫大丈夫♪死なない程度には手加減してあげるから♪」


「ひっ……!?や、やめてっ…い、いやっ…!!」


玲光さんに顔を覗き込まれ、目の前で指をワキワキと見せつけられる。


まさか急にくすぐられるなんて思ってもおらず、ガタガタと身体が震えてしまう。


だけど、ほんの少しだけたかをくくっていた。

玲光さんは優しそうな人だし、私もくすぐりにはそれほど弱くはないだろう…そう自分でも思っていたのだけど…


「へぇ…私のくすぐりが"余裕"ねぇ。舐められるのは嫌いなんだよね~。取り敢えず、過呼吸なるまでくすぐりの刑いっとくか!ほら、お仕置きのこちょこちょこちょこちょ~♪」


「ち、違いまっ__っぁ゛っっぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははははは!!!!!あはっっっ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははははははは!!!!いひゃぁぁぁぁぁぁや、やめてぇぇぇっっぁぁぁぁぁっっ!!!!」


玲光さんのくすぐりを正直舐めていたのかもしれない。

実際にこちょこちょと腋の下をくすぐられた瞬間、その甘い考えは粉々に砕け散り、自分がまだ無力な子供に過ぎないことを思い知らされてしまう。


まるで大人が小さな子供を躾するように、こちょこちょでお仕置きをされて微かに残っていたかもしれないプライドまでズタズタにされていく。


「あれ?もう余裕無くなっちゃった?しずくちゃんこちょこちょよわよわだね~♪ほぉら、ごめんなさいは?」


「あはっっっ!?ぎゃぁぁっわ、わたし悪いことじてなっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっい゛っっひゃっんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁれ、玲光さんっっぁぁぁぁぁっそごだめっっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぅあはっっぁぁぁぁぁぁっや、やめてぇぇぇぇっぁぁぁぁぁっっ!!!!」


「はい、先輩に口答えしない!マジで、灯凛さんだったら本当にしずくちゃん終わってるよ?」


片手で腋の下を。もう片方の手でおっぱいの周りをこしょこしょとくすぐられたり、左右の胸をそれぞれ5本の指でねちねちと触らてゾクゾクとした快感とくすぐったさに顔を真っ赤にして笑い悶えてしまう。


胸横をいやらしくねちねちとこしょぐられ、時折乳首の先を指の腹でコリコリと責められ、思わず「ぁぁんっっぁぁっ♡」と恥ずかしい声が口から漏れてクスクス玲光さんに笑われてしまう。


足をどんなにバタつかせても、身体を捻ったりしてみても両腕をしっかりとロックされて逃げられない。


一切反撃することは許されず、心が折れて言うとおりにごめんなさいをしてしまう。


「ぁぁぁっごめんなざぃぃぃっぁぁぁぁぁっあはっっぁぁぁぁごめんなざぃぃっゆるしてぇぇぇぇっぁぁぁっあははははははははははいひゃぁぁもうやめてぇぇぇっっ!!」


「ごめんなさい~?何がごめんなさいなのかなぁ?おっぱい小さくてごめんなさい?先輩の言うこと素直に聞けなくてごめんなさい??何に対して謝ってるの?」


「ぁ゛ぁぁぁっあはっっせ、先輩の言うこと聞けなくてごめんなざぃぃぃっぁぁぁぁぁっも、もうゆるしてぇぇぇっぁぁぁぁぁぁぁぁっあははははははははは!!!」


「ん~、そんなに笑いながら謝るなんて反省してないでしょ?悪いけど、きっちり躾しておかないと来年私が灯凛さんからお仕置きされるから…もうちょっとだけこちょこちょしてあげるよ♪」


その言葉を聞いた瞬間、絶望で目の前が真っ白になってしまうような感覚だった。


あまりのくすぐったさに、今すぐにでも手を止めて欲しいのに。必死に泣いて笑い狂いながらごめんなさいをしても、玲光さんは容赦なく腋や首筋をこちょこちょしたかと思えば、脇腹のくすぐったいツボ責めをされて過呼吸になるほど強制的に笑わされてしまう。


顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになり、上半身は汗だくで本当に死ぬかと思うくらいのくすぐりを浴びせられる。


これまで人を散々くすぐってきたけれど、自分が死ぬほどこちょこちょされるのは"総理"にされた時を含めて今回で2回目だ。


「あはっ___ぁぁぁっあはっ___ぁぁっ……」


「おっと~、危ない危ない。まぁ初日だし、この辺で勘弁しといてあげるか!よく頑張ったね~しずくちゃん♪」


あとほんの少しで意識を失うといったタイミングで手を止められ、どうやらようやく"お仕置き"という名の指導が終わったことを知る。


「タオルと水持ってきてあげるから、ちょっと待ってな♪」と、玲光さんは息絶え絶えになっている私を部屋に残してどこかに去ってしまった。


「っはぁっ、はぁっ…死ぬかと思った………」


玲光さんのくすぐりでさえ耐えられないのに、もしも灯凛さんや椿さんにくすぐられたら……考えるだけでも恐ろしくなってくる。


「お待たせ~♪しずくちゃん生きてる~?立てる~?」


「…っあ、ありがとう…ございます……」


「あぁ~いいっていいって!」


玲光さんからタオルを受け取り、ぐしゃぐしゃになった顔や身体を拭いて服を着る。


冷たいペットボトルの水を貰い、ごくごくと一気に飲み干してしまった。


「よっぽど疲れたんだね~?くすぐり執行官は体力勝負みたいなところあるから、午後は私とみっちり筋トレと有酸素運動でもしようか…」


「も、もう勘弁してくださぃぃ」


「あははっ♪半分冗談だって~♪でも、これで少しは分かったでしょ?上下関係は絶対。無いと思うけど、もししずくちゃんが反抗したり組織を裏切るような素振りがあれば、さっきのよりつらくて苦しいくすぐり処刑を行う。それに…しずくちゃんは私に弱みを沢山握られているから逆らえないよ♪」


「え……??どういうことですか……」


弱みと聞いて、ゾクっと嫌な予感がする。

玲光さんはそんな私の顔を覗き込み、クスクスと笑いを堪えていた。


「しずくちゃんのパソコンあるじゃん?Dドライブに入っている隠しフォルダにエッチな動画や画像が沢山あって、特に好きそうなのは___」


「わ、わーーーーー!?!?わーーーーー!!!!!」


一瞬にして顔が真っ赤になり、わーわーと叫んで玲光さんの言葉を思わず遮ってしまう。


「な、何で!?えっ……まさか……」


「"総理"からのご命令でね~。しずくちゃんの部屋のパソコンは私がとっくの昔にハッキングしてあるし、部屋にも監視カメラを何台か仕掛けてある。"美咲"さんからメールが来て、不思議に思ったりした瞬間があった筈だよ。」


「あっ……!?」


これまでにうっすらと感じていた違和感と、誰かに見られているような感覚が全て繋がった気がする。


「そ、そんなの!!人権侵害ですよ!!玲光さんのバカ!!!意地悪!!!!」


「おいおい~、さっき躾したばっかなのにまたお仕置きされたいのかな~?それに、私だって仕事でやってるんだから許してよ~。まぁ…隅々まで調べて監視してたことはちょっと申し訳ないなと思うけどさぁ!」


思わず玲光さんにくすぐりかかろうと手を伸ばすも、手首を掴まれて背中の後ろにまわされ、呆気なく床にうつ伏せに組伏せられてしまう。


首の後ろにピタリと5本の指を添えられて、"それ以上抵抗すればいつでもくすぐれる"という脅しの意図を感じて動けなくなってしまう。


「うぅ…ぐすっ…うぇぇん……」


「あぁ~ご、ごめん…やりすぎちゃった…ほ、ほら、この後メシでも行こう、な?好きなやつ何でもご馳走するから」


私が泣き始めると、玲光さんは慌てたように手を離して解放してくれた。本当に優しい人なのだと思う。


床に座って手で涙を拭いながら、安心して子供っぽく振る舞ってみる。


「…メロンパン……」


「…ん?メロンパン…?」


「美味しいメロンパン…いっぱい買ってくれますか…?」


頬をぷくっと膨らませ、上目遣いで玲光さんを見つめると…


「ぷっ、あははっ♪可愛いやつだな~!参った参った。私の降参だ。よしよし、メロンパン食べたいの~?お姉ちゃんがいっぱい買ってあげるよ!」


玲光さんによしよしと頭を撫でられて可愛がられる。

家では一人っ子だったけれど、初めてお姉ちゃんができたような感覚だった。


"くすぐり執行官"見習いの1年目は、玲光さんに公私ともに沢山お世話になった年だった。


休日には玲光さんと出掛けたり、玲光さんの家にお邪魔してゲームをしたこともあった。


もちろん仕事中は厳しく指導されることもあったけれど、飴と鞭の使い分けが上手い玲光さんのことを私は心から信頼して、尊敬の念すら覚えていた。


月日は流れ、冬のある日のこと。

玲光さんの"本職"である、諜報活動のお手伝いをしていた時期のこと。私はこれから、どうやって自分の価値や仕事を見つけていけばいいのか玲光さんに相談をしていた。


「雫は頭良いんだから、そうだなぁ…法律関係は椿さんがやってるし、"国家資格"のペーパー試験の内容作る仕事とかやってみれば?」


玲光さんによると、政府内部では早急に"三大国家資格"の制定に力を注いでいるようだった。椿さんも灯凛さんも、玲光さんも、そして私も。言わば"総理"からの直々なスカウトによって「くすぐり執行官」となっている状態のようで、今後は厳しい国家試験をくぐり抜けた者を「くすぐり執行官」の合格者とするように__というお達しがあるようだった。


こうして、見習い2年目で灯凛さんの下に付き従い、3年目で椿さんの下で「くすぐり執行官」としての振る舞いや格を教え込まれながら、私は国家試験の作成の許可を得て寝る間を惜しんで取り組み、最終的には先輩達の協力を得て、"総理"や美咲さんへの提案会議も通り、「くすぐり執行官」の国家試験を制定するに至った。


この功績が認められ、私は"見習い"という立場から、"くすぐり執行官"と、正式に"総理"から拝命を受けたのであった。


『最年少のくすぐり執行官』

『"天才"__雨宮雫』


のちに「くすぐり執行官」のNo.5と呼ばれ、私の後輩になった美佐々木空音。彼女の"公報"活動によって、私の名前は世間に広められることになった___

【続きのお話】雨宮雫の一年目

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