前回の続きです。
※外伝は正史として捉えても良いですし、ifとして読んでいただいても構いません。
↓↓大丈夫な方のみ読み進めてください。↓↓
[11年前 12月]
研究員・禍津國人を依代とし、ズ=チェ=クォンの招来を実行。
安全性確保の為、招来には全員目隠しをして臨んだ。
しかし我々が恐れていたような事態は起こらず、招来の成功を確認。
自死・暴走もなく、直ぐに元・恋人を気に掛ける素振りを見せた。
やはり、この実験において依代との関係性は最重要事項と考えて間違いないだろう。
「神にも愛は有効である」…この仮定も証明されたと言って問題ない。
今まで数々の研究に参加し、最期は身をもって仮定を証明してみせた彼には感謝せねばなるまい。その遺志は恋人が引き継ぐだろう。
また今回、他の症例と違ったのは肉体の変化だ。
瞳の色が金に変化した以外、外見的な変化は見られなかったのだ。
半神化と巨大化は必ずしもイコールではないのか。
追記.
ズ=チェ=クォンは名を聞かれた際、少し考える素振りを見せると「では、この者の名は?」と自分の身体を示した。禍津國人の名前を伝えると、彼は自身の名を「禍津」と名乗った。なんでも、「馴染みのある名前が良いだろう」と。これも神官に気を遣った結果か。
[10年前 1月]
これまでの実験を経て、我々は更なるステージについて会議した。
神をコントロールするのに必要な要素が「愛」であるならば、その「愛」を司る神をシビュラでコントロールすることが出来れば、計画はより円滑に進むのではないだろうか、という点だ。
もしこれが可能ならば、そもそもシビュラの必要性すらなくなるかもしれない。
しかし神を神でコントロールするのだから、今顕現している神格よりも更に上位の存在を選定することになるだろうが…。
[10年前 1月]
禍津は一日の大半を暗所での瞑想に費やしている。恐らくはこれがズ=チェ=クォンへの信仰体系なのだろう。信者達の日課に加えるよう伝達。
また、双子神と同じくあれには食事・睡眠も必須ではないようだ。
味覚はある様なので酒を振舞ってみたところ、あまり好みではなかったようだ。
そういう部分も依代と似ている。肉体の記憶というものだろうか。
[10年前 1月]
基本周囲には平等に接する彼ではあるが、やはり神官の存在は特に気になるらしい。
話し掛けに行っては業務的な神官の対応に不思議な顔をしている姿をよく見かける。
あれだけ態度には出すなと言ったはずだが…。神に不信感を持たれては困る。
神官らしく接するよう今一度注意しておく。
追記.
禍津國人の戸籍、及び全ての痕跡の抹消完了。
[10年前 2月]
禍津から「禍津國人について教えて欲しい」との要望があった。遺留品等は処分済みだった為、全て口頭での説明となったが性格や外見などについて説明。
すると彼は依代を模倣するように瞳の色を変化させてみせたのだ。
今まで依代の人間に興味を持った神は居なかった為、何故そのような事をするのか尋ねてみたが、有用な回答は貰えず。しかしこれ以降、禍津の瞳は黒いままだ。
[10年前 6月]
今度は何を思ったのか「一般的な洋服に興味がある」との要望を頂いた。
用意するのは簡単だった為、その日のうちに手配し着替えさせてみた。
これは動きやすい、と最初は比較的好評に見えたのだが、神官の顔を確認すると何故かすぐに元の装束に戻してしまった。
[10年前 10月]
他の神たちと比較してみると、この神は少し異質だ。
外見や話し方、雰囲気までもが段々と人間味を帯びていく。
敢えて寄せている、と言った方が正しいのか。
神格にも関わらず、周囲の人間を観察しそれを模倣しているのだ。
何故そのような行動を取るのか。この神は何かになりたいのだろうか?
[10年前 12月]
「愛の神」招来実験が失敗したとの事。
成功すればシビュラが不要になるかとも期待したが、我々はまだ次のステージには到達できなかったようだ。しかし、神官との死別や依代の耐久性について等、未だ検証出来ていない懸念点が多くある中でこの失敗は少々痛い。
早急に次なる手を考える必要があるだろう。
[7年前 4月]
禍津は神官の言う事であればほぼ全ての要求を呑むことが分かってきた。
あの噂の双子神とは大違いだ。それならば、と今回我々はある検証を行うことにした。神とシビュラを一定期間引き離す実験だ。
帰省などの理由を付けて一度神から神官を遠ざけ、その様子を観察する。
暴走などの危険もあるが、その兆候があればすぐに実験を中止する。
[7年前 5月]
例の検証を開始。思った通り、禍津は神官の帰省を制止する事なく承諾した。
この日はそのまま瞑想し一日を終える。
[7年前 5月]
1週間が経過。禍津の行動に変化なし。
[7年前 6月]
3週間が経過。「神官からの連絡はあるのか」と一言だけ聞かれたが、特にない事を伝えると再び普段通り過ごしていた。
[7年前 7月]
1ヶ月が経過。段々と瞑想の時間が長くなっているように思う。また、会話も極端に少ない。
[7年前 8月]
2ヶ月が経過。禍津は瞑想に入ったまま完全に沈黙。話し掛けても反応は無し。
[7年前 9月]
3ヶ月半が経過。未だ禍津は沈黙し続けており、動く気配はなし。流石にこれ以上は危険か。
[7年前 10月]
4ヶ月と9日目、異常が発生。周囲が急激に暗転し、強い目の痛みを訴える者が続出。
異常範囲は禍津を中心に半径約60m。
我々はこれを暴走と判断し、直ちに神官を招集。神官を呼び戻す間、別の信者が説得にあたるが、禍津はただ一言「喧しい」と一蹴した。
惨事となる前に神官が到着し事なきを得たが、極めて危険な状態であったと言える。
やはりシビュラの存在は、彼らの滞在に必要不可欠な要素なのだ。
これ以降、禍津を使った検証は暫く控える事とする。
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[2週間前 本部会議室]
“――… なに…え… なにゆえ… 私は…まれず、…―
だとすれば何故… 私は此処に 呼ばれて 、
…彼の様に ……否 私は ――…じゃない…私が 人間を 羨むなど …“
「これが、7年前の禍津暴走の直前、ボイスレコーダーに録音されていた音声だ。…邪念になりそうだから神官には聞かせていないんだけどね」
「何が言いたいかというと、恐らくあの事件から禍津は教団に不信感を抱いている」
「神官を裏切ることは無いと思うけど、我々を裏切ることはあるかもしれないよ?」
「…今更信じられないという反応だね。ま、いいけどさ」
「兎も角だ。僕は作戦中、本部を空けるからその間はよろしくね」
「それじゃ、作戦の成功を祈っているよ!」
シビュラ外伝「症例4・経過報告書 ズ=チェ=クォン編」 完
外伝、一旦区切りますがまだ続く。
【2024.3.1追記】
外伝5~7の公開は終了致しました。ご了承ください。