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チョコレートはあたしだけ

「カナ、あのさ、今年もお願いして良い?」 「またぁ?まあ、いいけどさ」 寒い冬の帰り道、ようやく着慣れてきた中学の制服で身を縮こませる私に、ユウがそう言った。 手には大きめのトートバッグを下げてる。中にいっぱい入ってるのが見える。 「いい加減、甘いのダメって言えばいいのに」 「いやだって、貰えるのは嬉しいじゃん。タイガとか、ジンとかに自慢できるし」 「はぁー……男子ってアホ……」 今日は2月14日。学校にお菓子を持って行っても許される日。ユウが大量にチョコを貰う日。渡す相手のいない私にとっては、そんな認識だ。 「ユウもイケメンに生まれちゃったばっかりにねー」 「良いじゃん。得だよ?」 「それを処理するあたしの身にもなれって話。着替えたらすぐ行くから」 「お願いしまーす」 同じマンションの、お隣さん。生まれた時から知ってる(らしい)。少なくともあたしの一番古い記憶には既にユウがいた。 小学校は6年間同じクラスだった。中学はクラスが別れちゃったけど、時間が合えば一緒に帰るのは変わってない。 「……まあ、あいつモテるんだよねー」 顔はまあいい。かなり。おじさんが巨人みたいに大きいから、遺伝なのか背も高い。運動神経もいい。勉強は……まあ、まあ。あたしが教えてあげればテストで上位に入れるくらい。 そりゃモテるよなーって感じ。小学校の時は「かっこいい~」って感じでチョコめっちゃ貰ってたけど、今年は多分本命もあるんだろうなー。 ……本命渡す前にユウが甘いのダメだってリサーチしない時点で無理だけど。 甘いの苦手って言うと損だからって、ユウはそれを隠してる。知ってるのはおじさんと、おばさんと、あたしのパパとママと、あたしくらい。 「しょうがないなー」 制服をハンガーにかけて、適当にトレーナーとスカートに着替えてユウの家に行く。家って言っても、徒歩数秒だ。 「来たよー」 インターホンを押しながらそう言うと、制服から着替えたユウが出てきた。最近また背が伸びて、服が新しいのになってる。どこまでデカくなる気だ。 勝手知ったる他人の家って感じでユウの部屋に入る。ベッドもサッカーボールも漫画しか入ってない本棚も見慣れてる。青いカーペットの上に直に座る。一応脚は揃えて。……まあ、見られてもユウなら気にしないけど。 「で、今年は何個?」 「わかんない。いっぱい」 「うわー……」 トートバッグから出したのだろう。チョコの山がテーブルの上に出来てた。箱に入ってるちゃんとしたのから、ビニールに入った手作りっぽいの、市販のまで色々。 20……30個くらいありそう。そっか、小学校より全然人数多いからその分多いんだ。 「一口くらい食べてあげなよ?」 「……頑張る」 「はぁ。あと、メッセージとかあったらそれはちゃんと取っといて返事すること。いい?」「はーい」 弟がいたらこんな感じかなーって思いながらそう言い含めて、一番上のチョコを手に取る。市販品だけど、コンビニで売ってるやつじゃなくてちょっといいヤツ。 「これ誰の?」 「えーっと……多分、三上。同じクラスの」 「あー、あの」 派手な子だ。なんか親が金持ちとか噂されてたけど、本当かも。 「……ユウ、付き合ったりしないの?」 「え、なんで?しないけど」 「……ふーん。いただきまーす」 箱を開けて、なんか白い粉がかかってるチョコをつまむ。中からソースみたいなのが溢れてめちゃめちゃ美味しい。100円の板チョコとは全然違う。 「美味し。……やっぱユウ甘いの嫌いって隠しててよ、こういうの食べられるならあたしも得だから」 「うわー、さっきと言ってること全然違うじゃん」 「いいの。前言撤回」 「すぐそう言うムズい言葉使うし」 「はいはい、いいからなんか飲み物もって来てくれない?流石にこの量飲み物無しは無理だから」 「余ったら持って帰ってな」 「ん、分かってるって」 去年も一昨年もそうしたんだし。 ユウが立ちあがってリビングの方に行く。あたしは二個目を口に運ぶ。……味が違う、すご、ホントに高いチョコって違うんだなー。 「ねー、うち今コーラしかないけどー」 「……じゃあそれでいいやー」 甘いのを甘いの飲みながらってどうなの?って感じだけど、無いものは仕方がない。 高いチョコとは言え流石に何個も食べるのは飽きるから、別のを開ける。チョコ味のカップケーキっぽいやつ。手作りかな。…………ってこれミハルのじゃん。あいつ、ユウに興味ないとか言ってたのに。 「残念でしたー」 あたしに素直に聞いてきたら教えてあげたかも知んないのに。 んー、ちょっとボソッとしてるけど、まあまあ美味しい。ミハルお菓子作れたんだ。 「はい、コーラ」 「ん。……ユウもほら、一口」 「うえー……あむ。……うえ、やっぱ甘ったるい……」 「あはは、我慢して食べて偉い偉い。ていうかコーラは良いの、変なの」 「コーラはコーラ味じゃん」 「いや、わかんないけど……」 あたしも一口コーラを飲む。……こっちのが十分甘ったるい気がするけど。 あ、しかもユウのやつ自分だけ煎餅持って来てるし。 「あ」 「ん?」 「あー……いいや、んむ。……ん、悪くない」 ユウが齧ったとこにそのまま口を付ける。……まあ、間接キスなんて今更だし。 「味の感想聞かれたら、ちゃんと美味しかったって言うんだよ?」 「へーい。あ、アレの新刊出たけど読む?」 「ホント?読む読む」 手をウエットティッシュで拭いてユウから漫画を受け取る。ユウはゲームの電源を入れてた。 別に特に会話がなくても気になんない。あたしは漫画読んで、ユウはゲームして、たまに対戦とかしたりして。 それで十分。 「んー……」 体重計に乗る。46kg。まあ、普通。 問題は、ここ二ヶ月で5kgも増えた事。結局ユウはあの後も追加でチョコを貰い、最終的に42個のチョコを食べる羽目になった。最後の一個を昨日食べ終えて、今。 あたしは背も高くない方だから、ちょっと重いかも。運動部じゃないから運動もそんなにしない。なのにあれだけチョコを食べればこうなるのはまあ、納得だった。 「ま、でも、年一だし」 あたしはこの時、特に気にしても無かった。 「調理実習か~~……」 二年生になったあたし達は、中学では初めての調理実習があった。ユウとは今年も別のクラスだから、時期は少しずれたけど。 最初の調理実習は、クッキーを焼くっていう簡単なやつ。アレンジ可、実質ただのお料理界みたいな。 「だからさ、お願い」 「……仕方ないなあ」 最近ただでさえちょっと体重が気になるのに、とは思う。女子はそういう時期があるって聞くけど、とはいえ良いもんじゃない。 「サンキュー、じゃ、後で家で」 「はいはい」 昼休み、ユウに呼ばれて何かと思えば、今日の調理実習で貰うクッキーを処理してくれって話。そんな事わざわざ言いに来ないでも。 「あ、ユウ今日サッカー部は?」 「休みー!」 「はーい」 ……じゃあ、今日は美術部休むか。 あたしが美術部を選んだのは一番楽そうだったから。ユウはサッカーしたかったからサッカー部。今年から先輩に混じってレギュラーらしい。幼馴染じゃなかったら、あたしも渡す側だったかもな。 「……ま、そうはならなかったんだけど」 とりあえず、給食を少し減らそうと思った。 放課後、着替えてユウの部屋に行くと、同じようなクッキーの入った袋がいっぱいあった。 「……あんたこれクラス全員からもらってんの?」 「いやいや、女子だけ。あとC組とE組も今日調理実習だったし」 「あー…………」 他クラスからわざわざ渡しに来るのか……。これは今度のバレンタインは覚悟しないとな。 「オレンジジュースでいい?」 「ありがと。……コーラだけじゃないんだ」 「だってカナ、コーラ苦手じゃん」 「……知ってたの?」 「分かるって、なんとなく」 そう言ってさっさとリビングに行くユウ。背が更に伸びて、体つきも男子って感じで、なんかちょっとカッコよかったのが悔しい。 さて、覚悟して食べるか。一回体重の事は考えないようにしよう。 後で考える、そうしよう。 「うわー…………」 「……お願いします」 トートバッグが二つに増えたバレンタイン。去年は同学年からだけだったけど、今年は後輩と先輩からも貰ったらしい。 誤算はそれだけじゃない。……ユウが、むしろ甘い物が好きだと思われてるのもある。 外面がいいから、貰う度に嬉しそうな顔をしているし、味の感想も(私が言わせてるから)ちゃんと返してくれるって言うのが広まったみたい。 結果として、バレンタインだけじゃなくても、誕生日とか、試合で勝ったからとか、そんな理由を付けてユウにお菓子を渡す女子が増えた事。 そのほとんど全部をあたしが食べてるんだから、あたしの体重は更に増えた。 ユウがモテる程あたしの体重が増えるシステムなのかもしれない。許せない。 「……ユウさ、あたしが太ったの分かるでしょ?」 「まあ、そりゃ……」 「……何か言う事は?」 「えっと……胸大きくなったな?」 どすっ! ユウのお腹を殴った。割と本気で。腹筋固いなコイツ。 「いった!ごめんごめん!冗談!殴んなって!」 「言って良い冗談と悪い冗談があるでしょ……?」 「えー……じゃあ、カナが太っても俺は気にしないよ?」 「……まあ、及第点」 「ちなみに正解は?」 「『俺もダイエット手伝うよ』でしょ」 「えー……良いじゃん別に。カナ運動部でもないんだし」 「そこは女子として気にすんの!」 「なんでだよー、別に変わんないって」 こいつは本気でそう思ってるのでタチが悪い。 「だいたいなんで女子って皆すぐ「痩せたい~」とか言うのさ。細いのに」 「そういう生き物なの。ユウも責任感じてよね?あたしに彼氏が出来なくなったら~とか」 「え、カナ彼氏欲しいの?」 「……いや、今は別に」 「じゃあ良いじゃん。ってわけで、カナ様!今年もお願いします!」 「……はぁ、まあ、美味しいからいいけど」 チョコの山に手を伸ばす。ゆったりしたトレーナーとウエストがゴムのスカートで、青いカーペットに座って。お腹が少しぽっこりと出ちゃう。……やっぱ太ったなぁ……。 「……そんなに嫌なら、やっぱ俺甘い物ダメって言った方が良い?」 「……んー、いいよ。あたしも美味しい物食べれるし。許したげる」 「はー、よかった」 ホっと安心したような顔をするユウ。こいつ、他人の事を処理係とでも思ってるな? 「そうだよねー、処理係が居なくなったらユウ困るもんねー」 「いや、別にそう言うんじゃないけど。カナに嫌われるのヤじゃん」 「っ……そう?別にユウの事好きな子とかいっぱい居るし、あたしじゃなくてもいいんじゃない?」 「は?なんで?カナはカナしか居ないじゃん。変なの」 「…………」 ……なんか、こいつがモテるのが少しわかってしまった。 「……ユウはさ、チョコくれた子の中に居なかったの、付き合ってもいい子。告白とかされたでしょ?」 「まあ、されたけど……でも居ないなー。知らない子も多いし、クラスの女子とかもなんか違うなーって」 「……ふーん」 されたけど、断ったんだ。そっか、そっか。ふふっ。 「なんだよその『ふーん』って。カナこそ渡す人いないの?」 「居たらこんなとこでチョコの山崩してないってのー」 「はは、それはそうかも。……なあ、一番甘くなさそうなのどれ?」 「えー、知らないよ。……これとか?」 「じゃ、コレだけ食べるわ。カナのダイエットで」 「焼け石に水じゃん。…………あ、ユウの好きな煎餅持ってきたけど食べる?」 「マジ?……んー、じゃ、貰う」 「じゃあ、そっちのチョコちょうだい。それ高いやつだし」 「良いの?」 「良いよ、一個くらい変わんないし」 「ふーん」 何となく、ユウがチョコを食べるのが嫌で、一応持ってきた煎餅を渡す。……まあ、バレンタインだし、チョコじゃなくて煎餅だけど、渡すくらいしておいていいでしょ。 「んむ。美味し」 「いやー…………まあ、知ってたけど」 体重は減らない。当たり前だ。ユウの貰ったチョコは結局ほとんどあたしが食べた。ほぼ3ヶ月、毎日チョコを食べてれば自然と太る。しかも、今年は受験だからって、受験勉強してたら甘い物が欲しくなって、余計に。 ユウは「サッカー部のキャプテンは10番で、甘い物が好きなイケメン」という評価がすっかり定着してしまい、最近ではほとんど毎日ユウ経由で私にお菓子が回ってくる。 3年になって受けた健康診断じゃ、体重が73kgまで増えてた。身長は150cmにギリギリ届かないのに。 保健室の先生から「少し痩せないとね?」って言われた。制服のサイズも変ったし、服のサイズも変ったし、周りの目もちょっと気になる。 半分は体型のせい、もう半分はユウのせい。 「カナー、帰ろうぜー」 「ん、待って今準備する」 中学三年にして、初めてユウと同じクラスになった。部活がない日とか、試験休みとかは、こうやって普通に誘ってくる。……それが、目立つんだよねー。 「今日はお菓子無いんだ」 「ああ、珍しく。……欲しい?買おうか?」 「いや、別に良いけど」 帰り道そんな話をする。なんだかねだってるみたいだけど、ちょっと残念なのは事実だ。 「……ユウ、背伸びたよね。何センチ?」 「172、カナは?」 「聞かないでよ……」 「はは、別に気にしなくて良いじゃん。ちなみに体重は64kgな」 「聞いてないし!」 ていうか私の方が重いの……?それは流石にショックかも……。 「ユウはさ、あたしと歩くのやじゃないの?」 「なんで?全然」 「……そ、じゃあ良いけど」 「なんか言われたの?」 「別にー、ちょっと思っただけー」 「……やっぱ俺、甘いもの苦手って言うわ」 「ダメ、あたしの楽しみ取んないでよ。それに今までの子たち悲しむでしょ」 「……へーい」 まあ、ユウが気にしないから良いかなって、最近はちょっと思ってしまっている。 ……いや、ダメなんだけどさ。痩せなきゃなーって思うんだけどさ、なんかこう、ユウの事みんなが知るのもヤだし。 だからまあ、仕方ない。そのうち痩せるって事で。 三年にもなると、そうは言っても落ち着いて、体重の伸びも緩やかに……なんてことは全然ない。 何故なら、ユウのやつが学校初のサッカーの県大会進出を決めてしまったせいで、更に人気になったからだ。小さくだけど、新聞にまで乗ってしまった。キャプテンだし。 流石にここまで来ると告白も多いし、そこまで行かなくてもちょっとでも近付きたいとお菓子を貢ぐ(アレはもう貢ぎ物だよ)子も多い。 県大会は3回戦で負けちゃったけど、そのおかげで高校は推薦で行けそうだし、気楽なものだ。 「うーん……」 締まんなくなったスカートのホックを諦めて、体重計に乗り直す。 やっぱり、85kgの表示は変わんない。 3年の夏休みは、ユウの応援と、受験勉強でだいぶ消えた。残ったのは脂肪と贅肉。 「痩せなきゃなー」 冷凍庫からアイスを出して食べながらそう言う。……いや、ダメなんだけど暑いし。 ピンポーン、インターホンが鳴る。 「あ、来たな」 ユウだ。別に推薦でいけるのに、一応勉強もするなんて真面目な奴。 「はいはーい」 「おーっす。はいこれ」 「あぁ、今日部活行ってたんだ。引退したのに」 「だって後輩いんだし、シゴかなきゃじゃん」 「うわー、暑い中大変だね……。まあ上がってよ」 あたしの家で勉強会も、珍しくない。 そして、ユウが学校に行くと、だいたいお菓子を持って戻ってくる。他の部活の子かな。サッカー部のある日に合わせてるのかも。 「……てか、カナさ、なんか着たら?」 「えー、別に良いじゃん家なんだし」 薄いキャミソールと、ゆったりしたハーフパンツ。家だからコレで十分。今更ユウに見られてもまあ……。 「はい、宿題だしてー」 「へーい……」 ユウが持って(貰って?)来たクッキーをつまみながら、あたしは受験勉強、ユウは宿題を終わらせている。 冷房の効いたあたしの部屋で机に向かい合わせで。 「……ユウ、焼けたよね」 「ん、まあ。……そっちは全然焼けないな」 「だってあんま外出てないし。ユウの応援くらい」 「……ありがとな、応援。負けちゃったけど」 「ん、まあ、幼馴染だしね」 茶色くて細いのに筋肉質なユウの腕と、白くてぶよぶよのあたしの腕を比べながらそんな風に話す。あたしの腕はユウより太くて、動かすと脂肪がぶるって震える。 「……カナさ、高校、俺と一緒のとこ受けるんだろ?」 「……ん、まあ。偏差値とか距離とか考えると一番良いし」 別に、ユウと同じ学校にしたかったわけじゃない……事もない。 「受験、頑張れよ」 「ん。……ユウこそ、変な事して推薦受けられませんでしたーってなんないようにね」 「分かってるよ。…………あ、そうだ。俺んちアイスあるんだ。ちょっと取ってくるわ、カナも食べるだろ?」 「え、ああ、じゃあ貰うけど」 「じゃ、ちょっと行ってくる!」 「…………変なの」 夏に入ってからこっち、ちょっとだけ変な気もするユウ。だけどまあ、サッカーもひと段落して、燃え尽きてるのかもな。 さて、勉強勉強。……このクッキー美味しいな、名前も知らないどこかの誰か、ありがとうございます。 流石に受験勉強で張り詰めていたからか、体重の伸びが落ち着いた。まだギリギリ100kgはない。セーフ。……いや十分アウトなんだけど。 ぶよんって前にせり出したお腹がテーブルにくっつく。ちょっと勉強しづらい。腕の肉がシャーペンを動かす度に揺れる。胸も大きくなって、テーブルの上に乗っちゃう。 まあ、仕方ない。今は勉強が大事。……ユウはもう推薦で合格したから、あとは私が受かるだけ。だから、今はちょっとだけ、気にしない事にする。 「…………今年はまた、派手に貰ったね……」 「…………まあ、断るのもさ、アレじゃん」 もうすぐ卒業してしまう憧れの先輩に、最後だからとチョコレートを渡す気持ちは分かる。 だからと言って、一年生から三年生まで幅広く渡されるユウの身にもなって欲しい。……ついでにそれを食べるあたしの身にも。 「今日、休み時間の度にいなくなってたしね」 「だって、呼び出されたら行かなきゃだろ?」 「そうだけどさー……。でも、ちゃんと受け取ったのは偉いよ」 「なんだよそれ。…………食うの?」 「食べるけど、ユウ食べらんないし。なんで?」 「いや、その……ほら、ダイエットがどうとか言ってたじゃん」 「あー…………まあ、今更だしね。美味しいチョコは食べたいし、一旦忘れる」 久しぶりに入った気がするユウの部屋で、テーブルに手をついて、ゆっくりとカーペットに腰を下ろす。どすっと音がして、立ち上がるのが面倒になる。 ブラウスのボタンがパツパツだ。動いたら弾けそう。……着替えるのが面倒で、制服のまま来たのは失敗だったかもしれない。 座ると、ユウと目線があんまり変わんない。それだけ、尻に肉がついて座高が高くなっちゃったのか……。お腹がスカートを張り詰めさせて、前にでんって出てる。 脂肪がスカートを飲み込むみたいに食い込んで、ちょっと苦しい。 「じゃ、とりあえず一番高そうなのから……」 「……あのさ、カナからは無いの」 「ん、チョコ?」 「そう。チョコ、幼馴染なんだし、くれたって良いじゃん」 「んー、……無い事も無いけどさ」 「……マジで?」 「……ほい、カカオ100%のにっがいやつ。これならユウも食べられるんじゃない?」 カバンに入れてた板チョコを渡す。去年の煎餅よりは、多少マシだと思う。 「……サンキュ。これは、俺が食うわ」 「そりゃ、催促しといて食えません~は許さないからね。……じゃ、あたしもいただきまーす」 1個チョコを取る。……こいつ、チョコの催促するって事がどういう意味か、理解してるのかな。 味なんか、よく分かんない。 ただ、ユウが食べないチョコを食べる。あたし以外のは食べさせないって主張するみたいに。 「ん……これなら、ギリ食える」 「無理して食べなくても良いですけど~?」 「はは、食うよ。カナがこれ以上太んないようになー」 「はぁ~?誰のせいだと思ってんのー?」 ユウがからかうようにそう言うと、真っ黒なチョコを齧る。あたしは、きっと誰かの思いの籠もったチョコを一口で頬張る。甘くておいしい。 「合格発表、明日だっけ」 「ん。良いよねーユウは、もう決まってて」 「カナなら大丈夫でしょ」 「……まあね。んむ、あ、これ美味しい」 前は1個づつ味わってたチョコレートを両手に摘まんで食べる。1個1個は小さいけど、だんだんお腹に溜まってくる。口中が甘ったるくて、自分の吐く息も甘い。 「んちゅ……あ、指。ユウー、ティッシュ取って」 「へいへーい。ほれ」 「ん、ありがと。んむ……んちゅ」 段々、山を崩すのも面倒になって、ちょっとはしたないけどスカートから出た太い足の上に箱を置き始める。 ユウがなんか言いたそうにこっち見てるけど……まあ、うん。だらしないって言いたいのは分かるから今日だけ、ね。 「はい、メッセージカード。ちゃんと取っときなよ」 きっと色んなメッセージが籠ってるんだろうから。 「……いいよ、返事決まってるし」 「……それでも、ちゃんと受け取んないと可哀想でしょ。チョコ食べてもらえないんだしその分ね」 「……わかったよ」 メッセージカードを受け取って、中身を読むユウ。あたしは、その間にもチョコを食べる。ケーキとか、マフィンっぽくなってるやつは殊更お腹に溜まる。こっそり、スカートのホックを緩めた。 「ふぅ」 「カナ」 「んふっ、な、なに?」 急に呼ばれてちょっと驚く。メッセージカードを丁寧に折りたたんだユウが、真剣な顔をする。 「俺、今日告られたよ。沢山」 「でしょうねー」 「でもさ、全部断ったんだ」 「ん、知ってる。噂も聞いた。……好きな人いるんでしょ」 「……なんだ、知ってんの」 知らなかったっての。 「……じゃあ、俺の好きな人、分かった?」 「……………………」 正直、何となく、予想はつく。そりゃ、生まれた時から15年一緒だから、最近のユウが変なのも、今日のユウが落ち着かないのも、何となくわかる。 でも、有り得ないでしょってどっかで思ってる。 「………………あたし……とか?」 「…………なんだよ、分かってんじゃん」 「いや、そりゃ…………わかるよ、流石に」 「流石にって……俺は、夏くらいからずっと……いや、言ってはなかったけどさ」 「だってそりゃ、なんであたし……?とは、思ってるし。違ったら……嫌じゃん」 「そうかもだけど…………なんだよ、分かってたのかよ…………はぁー」 「…………いや、やっぱ分かんないから、ユウの口から聞きたい」 「ええっ、いや、だってカナさっき分かってるって……!」 「さっきのなし!前言撤回!」 なんか自分から告白したみたいでめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた。顔が熱い。 「ずるっ、カナすぐそういう事言うよな!」 「いいからー!ほらほら、誰が好きなの?」 「…………やっぱ言わねー。好きな人とかいないし!あーあ!やっぱ告られたとき受け溶きゃよかった!」 ユウが耳まで赤くしてそっぽ向く。 「は~!?こんだけあたしにチョコ押し付けといてそれはなくない?」 「チョコはカナが食いたいって言っただろ~!?つーかチョコ食いすぎ!そんな太ったら一生彼氏できないからな!」 「…………ユウ、言ったな~?」 「あ、……いや、まあ、その、そのうちデブ専が掴まえてくれるって!な!?」 「さっきのチョコ返して!」 「嫌だよ、絶対返さねえ!他にチョコあんだからいいだろ!」 「それはそれ、これはこれなの!」 「わっかんねえよ!」 ぎゃあぎゃあと騒ぎながらユウのチョコを奪おうとするけど、座ったままほとんど動けないあたしと、サッカー部の元エースじゃ反射神経が違う。 全然取れないまま息が切れて、熱くなってきた。ブレザーを脱いで、ついでに胸元のボタンを開ける。 「はぁ……ふぅ…ひぃ……絶対痩せて、後悔させてやる……」 「うわっ、おま、前止めろよ!胸見えてんじゃん!」 「ふぅ……別に気にしないし、はぁ、んふ…こんなデブのおっぱいとか…見たけりゃ見たら?」 「俺が気にすんの!!」 ユウの弱点を1個見つけたので、しばらくはこれを切り札にしようと思いながら、息を整えてチョコを頬張る。 ……ま、告白はそのうち、しかる形でちゃんと聞いてあげよう。……あんまり遅いと、私から言う羽目になりそうだけど。 翌日、無事、合格通知を受けた。来年も、ユウと一緒だ。 一番大きいサイズの制服が少し窮屈に感じる。体操着とかも全部一番大きいやつだった。入学前の身体測定で、あたしの体重は100kgどころか110kgを越えてた。 今年入学した生徒の中で一番デブだったと思うけど、まあ良いかなって思えてしまうのが良くない。全部ユウが悪い。 ユウとはクラスが離れた。あたしは特進だし、あいつは推薦組だし。 ただ別に家が遠くなったわけじゃないし、いつでも会える。 「ユウさ、んむ、高校でも甘いもの苦手なの隠すの?」 「ん、一応な。チョコ貰うの嬉しいし」 「それを彼女に言うかな……」 「カナも美味いチョコ食えた方が良いじゃん。高校生だからバイトとかして高いの買うんじゃね?」 「……まあ、悪くないかも。あむ…サッカー部どう?」 「練習きついけど、楽しいよ。レギュラーは無理でも、1年からベンチ入れそうだし」 「すご、ユウってホントにサッカー上手かったんだね」 「まあな。……でさ、カナ、さっきから何食ってんの?」 「製菓部で作ったお菓子。……ほら、今度のバレンタインは、手作りするから。甘くないの」 「……じゃ、あんま期待しないで待ってるわ」 「そこは期待しててよ」 ユウの部屋で、ベッドに寄りかかるあたしと、ベッドで漫画を読んでるユウ。中学の時とあんまり変わってない。ユウの練習が休みの日は、こうやって二人でいる事も多い。 「あ、ユウ。あんまこっちの教室来ないでよ、目立つんだから」 「カナ、十分目立ってんじゃん。先輩言ってたよ、1年に凄いデブが入学したって」 「うわー……ホント?先輩にまで知れ渡ってんの……?」 「ドンマイ。ま、『俺の彼女です』っつったらめっちゃ驚いてたけど」 「っ、っていうかユウ、彼女いるって公言しててチョコ貰えるの?」 「……ま、貰えるんじゃない?」 「どっからくるのその自信。1個だけしかもらえなくても泣かないでね」 「俺は1個貰えればいいし、チョコ貰えなくて凹むのカナだろ」 「それはまあ、一理あるけど。……いや、ダイエットに丁度いいし!」 「製菓部入った時点で痩せる気ねーじゃん。休み中も結局全然痩せなかったし。聞いたぞ?身体測定で体重計壊しかけたって」 「壊しかけてない!」 ちょっと嫌な音がして、先生が苦笑しただけだ。 「じゃあダイエットするカナはコレ要らないかな~?」 ユウがベッドの上から降りると、カバンの中か市販品のクッキーを取り出す。 「う……なんでそんなの」 「女マネに貰った。なんか中学の俺の事知ってたみたいで『甘い物好きなんでしょ!』って。カナが要らないんなら俺が食べるしかないか~」 「……うー、食べる、食べます~!」 ユウがあたしの作るお菓子以外を食べるのはやっぱり気に入らない。 座ったまま手を伸ばすと、ユウがあたしの手にクッキーを握らせる。部屋に入ってから一歩も動いてないかもしれない。 袋を少し雑に開けて、一気に2枚口に入れる。 「コーラでいいよな、飲めるようになったんだし」 「んっむ……んー」 ユウが部屋から出てく。あたしは、またクッキーを口に頬張る。ほんのり甘くて口の中で段々ほぐれてく。 あー、また太る。下手したら、中学の二の舞だ。でも、ユウが他の子のお菓子食べるくらいなら、いくらでも太っていいや。 「はい、コーラ」 「ん、ありがと。んぐ……っふぅ……なに?」 さっきまではベッドに居たユウが、あたしの横に座る。お尻がくっつくし、固くて逞しいユウの身体が密着する。ユウのがっしりした腕と、あたしの太くて丸くて白い腕。筋肉質な脚とぶよぶよの丸太みたいな脚が並ぶ。 「や、なんか、食ってるとこいいなって」 「っ……ふーん……んむ、ぁむっ……」 クッキーをあっという間に食べきって、袋を丸める。 「ま、安心しろよ。あんまり太り過ぎたら俺が責任取るから」 「……え、それって……」 「サッカー部仕込みの超ハードなダイエットメニュー組んでやるよ」 「……うわー、ないわー」 「なんだよ、ダイエット付き合ってくれるのが一番って言ったのカナだろ」 「いや、まあ、そうだけど、ないわー……。そこはさ、『太ってもカナは可愛いよ』とか言えないわけ?」 「いや、そりゃ、まあ……付き合ってんだからそらそうじゃん……」 「……ま、及第点かなー」 さて、ユウがそう言えるようになるのが先か、ハードなダイエットメニューが組まれるのが先か、あたしが痩せるのが先か。……何となく、最後のは無い気がするけど。 「……ま、良いんじゃねえの。俺は気にしないし」 「…………及第点かな~♪」 とりあえず、バレンタインがどうなるのか、ちょっと楽しみだ。 「バレンタインどうする?」 「あの人!サッカー部の1年のすっごいイケメンの人!あの人甘い物好きなんだって、渡しちゃおうかな~」 「あー、あの人彼女いるよ」 「えー嘘!?誰が言ってたの!?」 「マネージャーの子。……ほら、特進の1年にさ、すっごいデブの女子いるじゃん?」 「あー、うん、いる。見た事ある、凄いよね、100kgくらいあるのかな?」 「140kgあるんだって」 「え、ヤバっ!?……てか、その人が?」 「……らしいよー」 「……デブ専なのかなー。でも、遊びかも知んないし、渡すだけ渡しちゃお!」 「はぁ、頑張ってねー」 「えー一緒に渡そうよー」 「はいはい、仕方ないなあ」

チョコレートはあたしだけ

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