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魔族の街のTS娼婦 #3

【あらすじ】平凡な男子高校生だった『夢(ユメ)』はクラスごと異世界に戦士として召喚されるという珍事に巻き込まれる。しかし無能と判断された夢はクラスメイトの鼓舞のため王国の兵士に殺害されそうになってしまう。強大な魔族との遭遇、命の危機に瀕して目覚めた恩寵によって少女の姿になり、紆余曲折を経て魔族の首都『背徳の街バベル』にて元男の娼婦、『TS娼婦』として生活することに――。


 プロレスショーの翌日、街をぶらつくユメが目指すのは元娼婦の経営する料理店。今日はのんびり街中を歩きます。


【#TSF #ロリ #ハード #ケモ #精神的BL #インモラル】

正式タイトルこんな感じで続くようです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

#3 娼婦の休日

 背徳の街バベルには四季がある。


 立地の関係か夏は暑いし、冬は寒くて雪が降る。日本に居たときと同じ感覚で過ごせるのもこの街にいつく理由かもしれない。違いといえば梅雨がないことくらいで、むしろ過ごしやすい。


「おはよう」

「おはよ~」

「おはよ!」


 春も半ばをすぎ、気候的にも自分過ごしやすくなった。あくびをしながら店の待機所に入ると、既に店に来ていた他の娼婦たちが口々に挨拶を返してくれる。


 この『プラム』は特殊娼館、店に勤める娼婦は全員がちょっと変わった体質や特徴を持っている。


 そんな中でも、元男だっていう出自なのは僕とディのふたりしかいないんだから、本当に珍しいんだろう。


「ユメちゃん見たよ、これ」

「……うわぁ、記事になるのはや」


 控室に入るなり、天使のような羽根を持つ有翼人の娼婦メレルがすすすと近づいてきて手にした紙束を見せてくる。ゴブリン族が作ってる、娼婦の動向をメインに扱う瓦版『娼婦日報』だ。


 この街において娼婦は芸能人みたいな扱いをうける傾向がある。人気のある娼婦はこんな風に動向を記事にされてしまう。


『特殊娼館プラムの人気娼婦、ブラックミストレスに敗北!?』


 という見出しからはじまるのは、プロレスショーに出ていた僕とディが乱入してきたブラックミストレスの手勢に敗北。悪徳監守によってレイプされ尽くしてしまったという記事。


 元男とは思えない見事なイキッぷり。彼女たちが女の身になれたのは魔神の思し召しなのかもしれない。


 みたいな小馬鹿にした内容が続き、頬が引き攣る。


「またチャート上がってたよ、凄いね」

「まじで」


 チャートというのは、中心区にある娼婦ギルドの玄関口にある魔導モニタに掲示されている娼婦の人気ランキング。どういう判断基準なのかはわからないけど、リアルタイムで情勢が反映されていて頻繁に更新される。娼婦同士の格付けにも使われるので、影響力は大きい。


 僕はたしか17位前後をふらふらしてたはずだけど……。


「ユメちゃん15位、ディちゃん16位」

「ひぃ、ふたつあがってる」


 確かディは24位だっけ、一気に8位も繰り上がりだ。


「ちょうど大きな探検団が帰ってきたみたいだよ、ほら」

「あー……」


 メレルが別の瓦版を渡してくる、この人こういうゴシップとか情報誌好きなんだよね。


 この街があるのは、広大なメドナ大陸の北部にある大森林のほど近く。周辺には神話時代の遺跡が大量に残っていて、魔族は能力を活かして遺跡に出向いて財宝を持ち帰る『探検家』を生業にしている人が多い。


 遺跡は……地球人にわかりやすくいえばダンジョンって言葉が一番イメージに近い。得体のしれない怪物がたくさんいて、罠もあって、古代のお宝がたくさんある。


 手に入るお宝はマジックアイテムなら超絶価値があるものばかり、他にも古い金貨やらがたくさん発掘される。


 バベルは人間の国との取引や交流もあるため金の価値も高くて、産業としては遺跡発掘が最大規模。つまり強い魔族は国の稼ぎ頭、英雄扱いの彼らは収入も派手なら金遣いもど派手。彼らに気に入ってもらえることが、娼婦として上へ行くための最低条件となっている。


 因みに僕らを召喚した国は大陸南部に強い影響力をもつ国家で、貴重な遺跡を大量に抱える魔族を敵視して戦争をふっかけているらしい。案の定ろくでもなかったわけだ。


「グリルモルダ探索団って……あの変態オークか」

「そうそう」


 英雄級の魔族は戦闘力が桁違いで、度量が大きくて鷹揚で、大概ものすごく変態だ。


 グリルモルダはオーク族の雄、2メートルを余裕で超える体躯に、身の丈ほどもある金棒をぶんまわして家みたいな大きさの象(っぽい魔物)を殴り殺す化け物。


 若い頃はオーディ・ブラックと同じ探検チームに所属していたこともある。現在は独立して自分の団を立ち上げ、バベルでも有数の探検団に育て上げた豪傑。


 そして指名してきた時に『妹になってしまった弟プレイ』を要求してきた剛の者。1週間ほど買われたんだけど、ずっとアナルを弄り回されてたなぁ……中々きつかった。


「帰還した猛将グリルモルダが宵姫と犬姫をペア指名、しかしその場に居合わせた烈日のルゴーン、金塊ダダルと指名がバッティング、殴り合いの喧嘩に……?」


 烈日のルゴーン、体中に炎を纏っているイフリートという種族の英雄。グリルモルダとかオーディと比べると一枚落ちるけど、大物探検家。


 僕が相手したことあるお客さんのひとり、気さくな兄貴って感じの魔族。


 金塊ダダルはよく知らないけど、黄金発掘を専門にしているカエルみたいな魔族だっけ。


 というか強者同士の殴り合いの喧嘩とかやばいな、その中心に僕がいるっていうのが辛い。


「それもあって注目集まって、予約殺到してるみたいだよ」

「……」


 メレルの視線を追うと、控室に設置された魔導タブレットの画面に表示された僕のリストに大量の指名が集まっているのが見えた。


「今日病欠しまーす」

「あははは」


 即座に魔導タブレットに近づいて出退勤リストに欠勤と入力する。基本的に断る権利は娼婦が有している、あまり無碍に断っていると当然指名が減っていくけど、たまの気まぐれて断るくらいは許される範囲だ。


「逃げるか勝ち、ってことは後はよろしくメレル!」

「はいはい、良いお客さんいたら貰っちゃうね」


 手を振って控室を出ると、真っ赤なマイクロビキニを身に着けた灰色のモフモフが歩いてくるのが見えた。


「あ、ユメ! 昨日はあんがとな!」

「おう! んじゃ僕病欠だから!」

「は、え!?」


 ニカッと笑いながら片手を上げたディ。すれ違いざまに手のひらにハイタッチをしながら駆け足で抜けて店を飛び出た。もともと今日は半休にするつもりではあったけど、勢いで休みにしてしまった。


 まぁ、たまにはいいよね。



 背徳の街と呼ばれているバベルだけど、別に歓楽街しかないわけじゃない。


 中層区から外周区まで続く大きな商店街もあるし、中層区にはギルドが集まっている商業地域だってある。やたらエロ文化に寛容な以外は、綺麗に整えられた栄える街だ。


 人通りのある中層区の商店街。魔族が発掘する財貨を目当てに、ここには大陸の各地からいろんな商店が集まっている。


 珍しい食べ物はもちろん、着物や宝飾品、薬や玩具、更には家具までなんでもある。表通りは高級店街、見るからに質の良い商品は眺めて歩くだけでも楽しい。


 この街で一番金を持っているのは魔族の探検家で、その次が娼婦。屈強な魔族がひしめく街なのに、並んでいるのは女性向けの商品が多い。


 コボルドが引く魔力車に乗って中層区の表通りまで繰り出して、僕は店を眺めて通りを歩く


「おっちゃん、串焼きひとつ」

「あいよ、小銅貨1枚ね」


 通貨の単位は人間国家と足並み合わせて共通規格の銅貨、銀貨、金貨にそれぞれ半分の価値の小サイズがある。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚。


 公務員である衛兵の給料が月あたり銀貨15枚らしいので、この串焼きは感覚的には200~300円くらいかな。


「あー銅貨ないや、お釣りいらない」


 ポケットを探ったけれど、勢い任せに飛び出してきたせいで銅貨がない。仕方なくいつも持ち歩いている銀貨を手渡す。


「釣りいらねぇって……お嬢ちゃん娼婦かい?」

「おうよ」


 ぎょっとした顔で銀貨を見つめるおっちゃんから串焼きを受け取り、息を吹きかけてさましてからかじりつく。油が乗っているコカトリス肉で美味しい。


 ……因みに魔族と魔物は人間と野生動物くらいには違う。間違えると本気で怒られるので注意が必要だ。


「羽振りがよくて羨ましいねぇ、まいどあり!」

「おー」


 ちょっとぎこちなく営業スマイルを浮かべたおっちゃんに手を振ってその場を離れる。


 見たこと無い屋台だったし、娼婦化処置を受けた証であるふとももの牝マークをむき出しにして歩いてるのに気づかなかったあたり、新参さんなんだろう。因みに漢字の牝に見えるから僕は勝手にそう呼んでる。


 なんだかんだ羽振りが良いバベルまで商売しにくる人間は多い。多くの人間の国で娼婦はお察しレベルの底辺職なので、知識として知っていても慣れないうちは動揺するのだ。


 ……そういえば妙に人間が多い。定期的に何らかの理由でバベルを訪れる人間の数が増えることはあるけれど。なにかあったのかな。


「よう、お嬢ちゃん、随分羽振りがいいみたいだなぁ?」


 串焼きを齧りながら通りを歩いていると、目の前から如何にもな風体のならず者が声をかけてきた。ほつれた服はところどころ砂埃がついていて、旅をしてきたばかりだというのがわかる。


 黄ばんだ歯をむき出しにして僕を見下ろしながら、腰に提げたナイフをカチカチ言わせてジリジリと距離を詰めてきた。


「俺にもちょっとわゲレベッ!?」


 そして衝突音をさせながら真横に吹っ飛んで、道の端に転がった。ぴくぴくしてるので生きてるみたいだ。


「怪我ナイカ、コワクナカッタカ?」

「うん、ありがとう」

「ソウカ」


 すぐ近くにいたミノタウロスのお兄さんが心配そうに声をかけてきた。笑顔を浮かべてお礼を言うと、ミノタウロスのお兄さんがブフゥと鼻息を出しながらノシノシと倒れた男へと近づいていく。


 それから、近づいてくる衛兵の鎧を着た狼男たちに向かってうめく男を蹴り飛ばした。それで完全に男は沈黙、ふたりいた衛兵のひとりが男の頭を掴んで引きずっていき、もうひとりが僕の方へやってくる。


「怪我ナイ? 無事?」

「はい、だいじょぶです」

「今日人間多イ、人間ノ探検家、問題起コス。ヒトリ、アブナイ」

「あー……」


 どうやら流れてきた人間の探検家が問題を起こしているみたいだ。まぁ職業的には魔族の探検家と変わりないし、荒くれ者なのも一緒なんだけどね。


「じゃ裏通りの方行きます」

「ソレガイイ」


 衛兵の狼男さんにそう告げると、衛兵さんは安心した様子で頷いて周囲の人間をひとにらみした。


 本当は表通りをぶらつきたかったけど仕方ない。ああいう手合はいくらでも湧いてくるのだ、戦闘力がない僕は危ない橋を渡っちゃいけない。


「ありがとうございましたー!」

「ウン」

「気ヲツケテ」


 手を振りながら脇道へ続く道へ入る。ゴミ箱に食べ終わった串を捨てながら、人気のない薄暗い路地を歩いていく。目的地は中層区と外周区の境目付近にある路地裏地帯。


 建物の隙間を暗がりへ向けてずっと進めば、綺麗な表通りとは全然違うサイバーパンクみたいな別世界が待っている。


「ンフー♥ ンフゥゥゥ♥」


 路地を進んでいくと、苦しそうな息遣いが聞こえてくる。少し進むと分娩台のようなものに女性が拘束されていた、全裸の上に股を開いて強調するような格好。ぽっかり開いたおまんこの入り口からは濃厚な白濁液がごぽりと漏れて、湯気を立てている。


 すぐ近くでは入れ墨を入れた如何にもといった風体のオークたちが廃材に座って酒瓶を呷っていた。


 いわゆる公衆便所、あの拘束台に繋がれた女性の穴は好きに使っていいっていうルールがある。犯罪をやらかした娼婦の懲罰に使われる事が多い。


 女性は……太ももに裁判所のスタンプが押されてるから犯罪者。罪状は他の娼婦への暴行らしい。


 ぺたぺたと歩きながらその場を通り過ぎる。オークさんたちはチラリと僕を見たけど、すぐに興味をなくしていた。


 因みに裏路地は見てのとおり危険な地域、うっかり人間の男が迷い込めば間違いなく身ぐるみを剥がれて殺される。


 だけど彼らがフリーの女の子に手を出すことはない、街の娼婦からすれば魔族しか居ないエリアは人間の荒くれ者がいる場所より安全だって認識がある。


 まったくもって皮肉もいいところだ。


 路地にはもう何回も遊びに来ているので勝手はわかっている。公衆便所を見てドン引きして震えていたのは僅かな間、よほど擦れてしまったのか何も感じない。


 すいすいと道を行き、地面に寝転がっていびきをかくゴブリンの脇を通って先へ。


 数分ほど歩くと目的地が見えてきた。路地裏にひっそり居を構える料理屋『牝豚飯店』。


「女将さーん!」

「ユメちゃんじゃないか、いらっしゃい」


 外見と違って中は掃除が行き届いている店に入って声をかけると、カウンターに居た女将さんが笑顔で迎えてくれた。


 細いながらも引き締まった腕で底の丸い中華鍋を振るう女将さんは元娼婦。バベルと敵対している南部の国で女性だけの騎士団を率いていたけど、魔族との戦いで敗北してから仲間共々戦利品として連れてこられたらしい。


 娼婦化処置のせいで老化が止まっているから見た目は20代だけど、実年齢は50半ば。こんな凄まじい技術を開発した魔王は超弩級のチート持ちで、なおかつ超弩級の変態野郎に違いない。


「何にする?」

「焼き飯とえーっと、餃子を両方ミニで」

「承った!」


 注文をすれば、女将さんは景気よく返事をして調理を始める。


 この街で流行っていた中華"っぽい"料理に出会って惚れ込み、引退したら飯屋を開きたいとずっと思っていたのだとか。


 女将さんの作る料理はどこか日本を思い出す味付けで、僕もたまに遊びにきている。魔王の正体は薄々察しているというけれど……食事とか道具とか町並みとかやたら日本の文化が流入している割には、材料の関係で微妙にズレているんだよねぇ。特に料理関係。


 パット見は日本食なのに味付けは西洋風とか、慣れるまでは残念に感じることが多い。そんな中で女将さんの店のような"アタリ"を引くと嬉しくなるのだ。


「水」

「ありがとディグさん」


 調理風景を眺めながら待っていると、体中に傷のあるオークが静かにことりとコップに入った水を出してくれた。男相手だとセルフサービスらしいので、多分女の子にだけやっているんだと思う。


 このオークはディグさん。それなりに名のしれた探検家だったけど、今は引退して女将さんと一緒にこの店をやっている。


 街ではなかなか珍しい、実質夫婦みたいなふたり。


 なんだけど……。


「ディグ、裏に食材届いてるから運んでくれるかな」

「わかった、母さん」


 ディグさん実は、女将さんの息子だったりする。


 この街で娼婦は妊娠と出産を強く推奨されている。魔族の生体を考えれば当然なんだけど、街としても支援政策には全力投球で、子供ひとり産むごとに手当がもらえ育児は専門の施設が預やってくれる。更には産めば産むほど引退後の税金免除やら年金増額やら多大な恩恵を受けられる仕様だ。


 そこまでやらないと、好んで魔族の子を産んでくれる女性がいないともいえるんだけどね。


 もちろん、望むなら自分で養育しても構わない。でも残念ながら施設に頼る人が大多数、もちろん母親として顔を出す人自体は結構な割合でいるけど、いろんな事情で距離を取る人が多いのだ。


 女将さんもそんなひとりで、産みはしたもののディグさんとは距離を置いていた。しかし女将さんの務める娼館にふらりと現れたディグさんが女将さんを買い、ベッドの中で一緒に暮らすことを熱烈にせがんだのだという。


 最初は否定していた女将さんも、次第にディグさんの熱量に絆され結果的に承諾。引退して一緒に夢だった店を開いて今は幸せに暮らしているらしい。


 僕の常識からすると結構「うわぁ」ってなっちゃう話なんだけど、実はこの街で実質的な夫婦関係を築く娼婦はこのパターンが圧倒的多数。


 良くも悪くも魔族の考え方は人間と全然違う。情がない訳じゃないんだけど、性については想像を絶するほどオープンと言うか……。


 性行為は熱烈な割に実は貞操観念や独占欲なんかは殆どと言っていいくらい無くて、娼婦を妻やパートナーに求める魔族はあまりいない。


 今朝あった記事の僕たちの予約権を取り合った喧嘩だって、「俺の女に手を出すんじゃねぇ」という話じゃなく「あの娘と先にヤるのは俺だ」という程度の話。


 荒くれ者らしい面子もあって、ちんこを突っ込む順番は凄く気にする。でも誰に突っ込まれたかはよほど仲が悪くない限り気にしない。


 お気に入りの娘ならむしろ、仲の良い友人や戦友……目をかけた部下や家族に抱かせるのが美徳とすら思っている。


 優れた探検家に気に入られると娼婦として上にいきやすいというのもそういう文化があるから。この街の魔族は娼婦をちんこ突っ込む為の肉穴くらいにしか考えてない。


 当然バベルに馴染みの無い人からすれば大分おかしくかんじる価値観だろうし、知ってる限りでも順応できてる人間は多くないし、魔族と恋愛関係を築く娼婦に至っては極少数。


 無理矢理ここに連れてこられて娼婦にされた女性や、素敵な男性に娼婦の世界から救い出して貰いたいって願望持ってる人からすると間違いなく地獄の街だと思う。


 逆に娼婦として生きることを割り切ってたり、単にセックスが好きみたいな人からすると天国のようなんだけどね。


 心はあるし対話もできる、恋愛関係は無理でも信頼関係は築ける。さっぱりしていて金払いがよくて、理不尽な暴力も滅多に無い。与えられる生活環境と収入、老後の保証は星5つ。


 娼婦化処置手術も、メリット面だけ見れば事実上の不老に永続的な美容効果。病気への耐性や妊娠の制御など凄く便利。


 それを求めて必死にお金をためてわざわざこの街まで流れてくる娼婦だっているんだから、相当なんだろう。


「はい半焼き飯と半餃子! スープはおまけだよ」

「ありがとう、いただきます!」


 暇なのでそんな事をぼんやり考えていると、出来上がった料理が目の前に並べられていく。男だった時みたいにたくさんの量を食べることは出来なくて、焼飯はちんまり可愛らしいサイズで餃子は2個だけ。


 だけど年頃男子の食事作法は忘れてない。チャーハンと餃子はがっつくに限る。


 ごま油の風味が強烈に香る、タレの染み込んだ角切りチャーシューがごろっと入ったチャーハン。変形したレンゲみたいな匙を、丸く整えられた小山に突き立てて、湯気立つそれをハフハフ言いながら口にかきこむ。パラパラの米粒にふんわりとした卵、時折交じる味の濃いチャーシューの肉感とシャキシャキのネギを堪能しながら餃子に酢をかけた。


「んぐ、はふ、ほふっ」


 口の中のチャーハンを飲み込んだら、次は餃子をばくりと噛みちぎる。パリパリの皮をやぶれば中からはジューシーな豚の肉汁が溢れてくる。少し野性味が強いけれど、それがまたいい味を出している。


 少し温めに作ってくれたあっさり目のスープをレンゲですくって口に流し込み、リセットしたらまたチャーハンに挑む。


「――はふー、満足」


 たっぷりと日本の中華料理屋感を堪能して、ぽっこりしてしまったお腹を撫でる。


 やっぱ疲れた時は美味しいものだよね。


「美味しそうに食べてくれて作りがいがあるな」

「じっさい美味しいもんね」

「うむ」


 僕が言うと、ディグさんが腕を組んで頷いていた。


 お昼にはまだちょっと早いから店の中に僕以外のお客さんはいない。少ししたらあっという間に満席になるだろう。


「ユメちゃん、お代は銅貨1枚だけどあるかい?」

「ない!」


 一食分としては良心的な値段設定を提示してくる女将さんに、元気よく応えながら銀貨を渡す。これがいまの僕の最小単位だ。


「まぁそうだよね。今までもたくさん貰ってるからおごりでいいけど」

「お金使うの楽しいから受け取って」

「そういうことなら、毎度あり」


 ある種のお決まりのやり取りを経て、銀貨は女将さんの手の中に収まった。


 600円の定食を食べた馴染みの中華屋で万札出して、釣りはいらねぇと言ってる気分。なんだかんだで結構楽しい。


「……無駄遣い」

「金貨じゃないだけしっかりしてるよ」


 しっかり自活していたディグさんに苦言を呈されたけど、女将さんはわかってくれたようだ。


 『立ちんぼ』って言われてる、歓楽街の通りで客を取ってホテルで行為をするのが娼婦としては最低ランクなんだけど。フェラ一発で銀貨1枚、本番は小金貨1枚、もちろんホテル代は別だけど、一晩がっつり付き合えば小金貨2~3枚程度にはなる。もちろんこの街においてもかなりの高収入。


 因みに一応人気娼婦であるところの僕は夕方から朝までの『一晩買い』が基本で、最低金貨"一掴み"から。


 金貨の詰まった袋に手を突っ込んで、片手で掴めるだけっていうとんでもない相場。手が小さくて4枚くらいしか掴めないんだけど、広げた手のひらの上に大体20枚くらいが追加で降ってきて持ちきれなくて床に落ちる。


 金銭感覚は当然狂うし、チャート上位の娼婦の中には金貨以外一切持ち歩かないって人も少なくない。チャート一桁台ともなると馴染みの店では値段も見ずに『娼館に(請求書)回しといて』が基本だ。


 これでも僕は配慮しているほうなのだ、普段はちゃんと銅貨も持ち歩くし。


「さて、それじゃごちそうさま」

「あぁ……最近近くの国で大きな政変があったとかでさ、行き場をなくした人が流れてきてるから気をつけるんだよ。魔族に迎合した女への偏見は根強いから」

「気をつける」


 店を出る時に珍しく警告をされた。神妙に頷きながら僕は店を後にする。


 なるほど、それで妙に人間が多かったのか。まぁ、直接的な関係があるとは思えないけどね。


 いっぱいになったお腹を抱えながら暫くぶらついてる最中、表通りに近い"とてもいかがわしい店"で非常におもしろいものを見つけた。見つけてしまった。


 映像クリスタルという、地球で言うところのアダルト動画みたいなやつはこちらでも販売されている。通称AMC(アダルトムービークリスタル)。


 名付け親はかつての魔王。アダルトムービーの意味は未だに誰もわかっていないらしくて、街では一般的にエロい映像って意味と認識されてる。


 娼婦が身近にいるこの街ではメイン商品とまではいかないけれど、実は輸出品としては結構な需要があったりする。


 早速とばかりに店主のおじさんから買いとって喜び勇んで店へ戻ることにする。因みにそこそこお値段がするし、根本的に娼婦が自分から買うようなものじゃないのでかなりぎょっとされた。


 意気揚々と歩くのは魔族の屯する路地裏。絵的には女の子のひとり歩き。通りすがるガラの悪い魔族は反応しないか片手をあげて挨拶をくれるだけ。


 あべこべながら、道のりは至って平和そのものだった。



「あぁぁぁユメ! おまえぇ! オレ大変だったんだぞ!」


 店の待機所に戻るなり、黒いスリングショット姿の灰色モフモフに唸られた。


 今日は朝から妙に扇情的な格好だなと身体をしげしげ眺めると、モフモフは灰色の毛並みに色が浮かぶほど顔を真赤にして胸元を隠す。


「う、うぅ、あんまじろじろ見んなよぉ」

「似合ってんじゃん」

「うっせぇ!」


 なんだかんだと律儀なこのワンコは適度に客をぶっちするとかサボるとかが出来ないみたいで、真面目に群がる客たちの相手をしてしまったんだろう。


 僕たちは残念ながらお子様ボディ、少し間をおいて客のボルテージを下げないと身体がもたないのに。


「あ、そういえば街歩いてる時にすごいのみつけたんだけどさ」

「……なんかいま、悪寒が」


 中々に鋭い、野生の勘か。


 気分は男友達の家にエロ本を持ち込むアレ。ポケットの中から取り出したAMCが収められたパッケージをディに見せる。


 確認した灰色モフモフの顔が一瞬で赤く染まり、すぐさま青くなった。


「な、な、な」

「ね、すごいでしょ」


 パッケージに描かれているのは、ディランを妙齢の女性に成長させたような見た目の全身モフモフ型の灰色犬獣人。豊満な胸とお尻を艶のある漆黒のビキニに包んで、腹部に淫紋を浮かびあがらせている。周囲にはちんこをいきり立たせたオークらしき下半身がずらりと並ぶ。


 タイトルと煽り文句はこうだ。


 『モフモフママの100連FUCK♥ 犬姫ディランの実母、淫乱牝犬デビュー! 息子になんて負けないワン♥』


「なにしてんの母ちゃん!?」


 キャワワンと、ディの口から悲鳴に近い甲高い声があがった。どうやら知らなかったようだ。


 実はディの母親は最後まで息子のことをかばおうとした結果、故郷で立場をなくし呪われた子を産んだ女だからと追放されてしまったらしいのだ。


 奇しくも息子と同じようにバベルに流れ着き、感動の再会を経て今はディと一緒に暮らしている。ディは再会を喜んで「これからはオレが母ちゃんを養ってやるんだ!」って孝行息子といった体で仕事に精を出していたんだよね。


 一方でママさんからは息子に頼りっぱなしもどうなのかと仕事を探してたけどうまくいかず、娼婦デビューを考えていると相談は受けていたけど……思い切ったらしい。


 因みにディの気持ちを考えて反対はした、一応。


 膝から崩れ落ちて震える手でパッケージを握るディの肩をぽんっと叩く。


「あとで一緒に見る?」

「見るかぁぁぁ!!」


 ディはいじり甲斐があっていいなぁ。僕は男だった時代を知ってるのなんてオーディだけ、しかもその頃に邂逅したのは一瞬。


 精神的には気楽なもの。ここまで開き直ってしまえば、まかり間違ってクラスメイトがこの街に流れ着きでもしない限り僕の精神的優位は揺らがない。


 あいつらは召喚された国で勇者として魔族との戦いに明け暮れているはずだからここに来ることはない。すなわち僕に敗北は訪れないのだ。


「おまえのかあちゃんえろいよなー」

「ユメおま、おまえぇっ!」


 棒読み気味に言うと、顔を真赤にしたディが牙をむき出して吠えた。しかしディが知らなかったのは予想外だった、てっきり僕にバレたくないと黙っていただけと思ってたのに。


 吠えた隙をついてパッケージを奪い取ると、控室から逃げだす。


「みんなに見せてくるー!」

「待てこらっ! 限度ってあるだろぉがぁ!」


 直線的な動きをする灰色モフモフから逃げながら店の中を走り回る。自分でもなんかテンションがおかしいのはわかるけど、楽しくて仕方ない。なぜだろう、同級生とバカやってた学生時代を思い出すからかな。


「待てやー!」

「あははは!」


 ま、店の中を走り回ったせいで、ふたりそろって店の姉さん娼婦にめちゃくちゃ怒られたのは言うまでもないんだけど。


魔族の街のTS娼婦 #3

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