おまたせしました!
皆様のご支援のおかげで裏垢男の娘・幕間小説を作ってもらいました❗❗❗❗
この話はるり君の葛藤があるので是非やりたいと思っていたので嬉しいです😭💕
重ね重ね再びこの場を借りて御礼申し上げます🙏✨
今度は文字数8000字オーバーの作品ですので楽しんでいただけたら幸いです😊✨
Novel. © 2022 夜空さくら 様
illus. © 2022 イコイコ憩
その日、起きた時の気分は最悪だった。
あまりよく寝れなかった時に感じる、頭の重さが特に酷い。
起きなきゃ、と頭ではわかっているのに、体が起きようとしてくれなかった。
僕はベッドの上でひたすら藻掻いた後、歯を食い縛るほどに気合いを入れてようやく起き上がる。
体を起こすと、ますます頭の重さが際立って、憂鬱な気分がさらに増してしまった。
頭に手をやって掻くと、髪の毛がボサボサになっているのが手で触れてもわかる。
「……シャワー、浴びなきゃ……」
そう自分に言い聞かせるように呟いて、僕は部屋を出てお風呂場に向かった。
男のくせに、と思われるかもしれないけれど、僕は朝シャワーが結構好きだ。
起き抜けの眠気を払うには一番いい方法だと思うし、ちょっとくらい憂鬱なことがあってもシャワーを浴びると気持ちが切り替えられる。
だからこの日も、シャワーを浴びれば思考がクリアになって、少しは気が張れることを願っていたのだけど。
熱いシャワーを頭から浴びても、僕の気持ちは全然晴れなかった。
むしろいつものなら心地いいはずの、水が体を伝って流れていく感触が、今日は妙に気になってしまう。
まるで周囲から視線を向けられているかのようだ。
水が絡みつく感触が、粘っこく絡みつく視線に感じられてしまう。
「……!」
我慢できなくなって、シャワーを止める。
気分が晴れないどころか、余計に気分が沈んでしまった。
風呂場の熱い空気を吸い込んで肺を膨らませ、深々と溜息を吐く。
シャワーを浴びるのを止めて、脱衣所で体を拭き始めても、誰かに見つめられているような嫌な感覚は落ち着かない。
こんな風に感じてしまっている理由はわかっている。
今日、僕はこれから――晒し者にされるからだ。
自縛プレイを男に見られた僕は、その男に脅されて様々なプレイを強制されていた。
今日もその男に呼び出されているのだ。
部屋に戻った僕は、机の上に置かれた段ボールに近づく。
これは男から送りつけられたものだ。部屋の中で異様な圧迫感を滲ませている。
(この中に……)
僕を呼び出した男は、この中にあるものを身に着けて来るようにと言っていた。
震える指先を感じながら、僕はその箱を開けてみる。
密閉されていた箱独特の淀んだ空気を溢れさせながら、その中身が姿を現す。
段ボールの中に入っていたのは、アームバインダーとアナルバイブだった。
それを見た僕は、思わずごくりと唾を飲み込んでいた。
アームバインダーは僕自身も持っている。
そんなに自由になるお金がない僕が持っているのは、形だけ忠実に再現した感じの、言ってしまえば安物だ。
それでもアームバインダーとして十分な強度はあり、雰囲気も出ていた。
いや、出ていたと感じていた。
(なに……これ……っ)
いま目の前にある、男が送り付けて来たアームバインダーは、言葉通り格が違った。
まず存在感が全然違う。見た目からしてしっかりとした作りで、重厚な革がこれでもかと使われている。
編み上げを構成する紐からして、安物のアームバインダーとは比べ物にならない。
震える手でアームバインダーを手に取ってみると、想像以上の重量感が手に伝わって来た。
これに比べれば、僕の持っているアームバインダーなんてペラペラだ。
鋏で思い切り切りつけても絶対にびくともしないだろう強度を有しているのがわかる。
こんなものを身に付けたら、例えどんな怪力で暴れたとしてもどうにもならないに違いない。
ましてや非力な僕が身に付ければ――どくん、と心臓が激しく高鳴った。
慌ててアームバインダーから手を離し、胸に手を当てて呼吸を落ち着ける。
胸に触れた指先からは、激しく鼓動を刻む心臓の震動が伝わってきた。
革独特の匂いが広がって来て、僕はさらに体の中が締め付けられたような気がした。
「……っ」
もう一度箱の中に手を入れて、同梱されていたもうひとつの道具を手に取った。
アナルバイブの方は、僕が元々持っているのとそんなに大きな違いはない。
もちろん安物とは明確に違う感じもしたけれど、それでもアームバインダーよりは随分マシだった。
ひとまず先にそれを身に付けるべく、僕はそれを手にトイレへと向かった。
こういったものを入れる時の処理は慣れたものなので、特に問題はない。
僕は手早くお尻の中を綺麗にし、改めてバイブを見つめる。
(大したことない、と思ってたけど……改めてみると、やっぱ大きいな)
そんなに並外れた大きさではないけれど、僕がこれまで入れて来た物に比べると明らかに大きい。
入るかどうか少し不安になりながらも、僕はそのアナルバイブを綺麗に洗って、まずは口で咥えてみた。
「んぅ……っ」
唾液を塗すついでなのだけど、そうやってみると大きくて太いことが明確になる。
(だ、大丈夫かな……?)
少し不安になりながらも僕は口からそのアナルバイブを離した。
どろりと唾液が表面を伝い、糸を引いて垂れそうになる。
(いつもの奴なら、唾液だけでも大丈夫だけど……)
咥えたことでその太さを改めて実感した僕は、念のためローションも塗すことにする。
バイブを手に持ったまま、もう片方の掌にローションを取り出し、それをバイブに塗していく。
掌で包み込みつつ、バイブをくるくると回し、ローションを丹念に擦り付けた。
(やっぱり……太い、よね……これが、いまから僕の中に……っ)
手で丹念にそれを弄っていたら、変な気分になって来てしまった。
自然とお尻に力が入る。
しっかりローション塗れになったアナルバイブは、怪しげな光を放っている。
(い、一応、こっちにも……)
僕はローション塗れになった手を、自分のお尻へと近づける。
さっき処理して綺麗にした時にある程度は解したし、大丈夫だとは思うけれど。
ローションを擦りつけるだけのつもりでアナルに触れた。
「っ……!」
ヌルっとした指先の感触がお尻の穴から伝わって来て、あがりそうになった声を押し殺す。
第一関節くらいまで挿し込んで、穴の状態を確かめるように、ぐるりと回した。
そうすることで、穴にローションを塗りつける。
穴の縁を指先で撫でることになって、少し変な気分になりつつも、準備は完了した。
(さあ……いくぞ……!)
心臓が激しくドキドキ高鳴っていることを感じつつ、手にしたアナルバイブをゆっくりお尻の方へと持っていった。
この行為はもう何度もしたことのはずなのに、心臓は明らかにいつもより激しく跳ねている。
「……っ、ひゃっ!」
唾液に塗れたアナルバイブがお尻に触れると、ひんやりとした感触がして、僕は思わず声を上げてしまっていた。
お尻の穴をアナルバイブが押し広げていく感触を堪えながら、押し込んでいく。
「ふ、う……っ!? ん、っ……!」
おかしい。
アナルバイブを慎重に押し込みながら、僕はそう思った。
ゆっくりとアナルが押し広げられていく感触も、お尻の中にバイブのような棒状のものが入ってくる感覚も、僕にとってはそれなりに慣れている感覚のはず。
なのに、バイブを動かしているわけでもないのに、僕はその感覚だけでイキそうになってしまっている。
明らかにおかしい。
「ふぐ……っ、んっ、んんっ……っ」
押し込んでいく指先がプルプルと震える。このまま押し込んでしまっていいのか、迷いが体の動きに出てしまった。
アナルバイブが左右に動き、僕は自分で自分の肛門を無理矢理こじ開けている気分になった。
「はっ……はぁっ……んっ、あっ……!」
それでもなんとか指先に力を込め、バイブをさらに深く押し込んだ。バイブ根元の部分が少し窪んでいて、押し込み切るとちょうどそこを括約筋で締め付けることになる。
それによって、抜け辛い状態を作り出すのだ。
実際、そこまで押し込んでしまうと、あとは勝手に括約筋がバイブを締め付けて、バイブを奥へ引き込む。
ずるっと不思議な感触がして、僕のアナルにバイブが収まった。
そのわずかではあるけれど、自分の意志がほとんど介在しないバイブの動きが、僕を突き上げる。
「ぉうっ……!」
その刺激によって軽く絶頂してしまう。
これだけのことで絶頂してしまうのは、僕にとって完全に予想外だった。
慌てて口を抑えて声をあげるのを防ぐ。もうとっくに声は零れていて、あまり意味はなかった。
「……ふーっ……ふーっ」
軽く絶頂を迎えたのを自覚しつつ、荒い呼吸を繰り返して全身から湧き上がりそうになる快感を抑え込む。
いつものオナニーであれば、別にいくら気持ちよくなったっていいんだけど、今はそういうわけにはいかない。
これから僕は、あの男の元に行かなければならないのだから。
(こんな状況なのに……なんで、僕は……)
とても興奮していられるような状況じゃないはずなのに。
自分自身の身体の反応が信じられなかった。
戸惑いを抱きながらも、僕はいつものように女装のための道具を取り出してくる。
いつもなら可愛い女の子になっていくこの瞬間は、期待と興奮だけが湧き上がっているのに、いまは憂鬱な気分がそれを邪魔してくる。
かといって興奮していないのかといえば、興奮だけはより強く感じているという、なんとも不思議な状態だった。
僕はそんな不安定な状態のまま、女装を始めた。
最初に手に取ったのは、可愛らしいショーツだ。
傍から見えないところにまでこだわる意味があるかどうかはわからない。
でも、僕は毎回きちんと身に付けることにしていた。
ショーツのデザインは吟味しただけあって、僕の好みにもあっていて、とても可愛らしい。
それを足に通し、腰に履いていく。
柔らかく心地のいい感触が僕の股間を覆った。
あそこが固くなってしまいそうになるのを、なんとか堪えつつ、お尻にショーツを被せる。
アナルプラグは大きく外に飛び出すような構造ではないので、一応、見られてもわからないはずだ。
僕は鏡にお尻を向け、ショーツが変に盛り上がっていないかを確認する。
半裸の状態で、鏡に向かってお尻を突き出し、ショーツに包まれた股間を確認している。
それを客観的に考えると、ドツボに嵌るような気がして、無理矢理思考を切り替えた。
「ふぅ……ええと、次は……と」
女装衣装の中から、ブラジャーを取り出す。もちろん僕に胸の膨らみなんてものは存在しない。
極めて胸の薄い人が身に付けるようのそれを、体に取り付けていく。
ショーツと違って、普通は男が身に付けるものではないそれを身に付ける感触は、いつも通り僕を興奮させてくれた。
片足をあげて、サイハイソックスを履く。ぴったりサイズのそれは、僕の太ももの半ばくらいまでを覆い、綺麗に覆ってくれた。僕の足は細い方だけど、どうしたって性差を感じる場所なので、こうしてサイハイソックスを履いて隠すと、女の子みたいな足に見えるようになる。
スカートを腰に履いて、冬用のセーラー服に袖を通した。
そうすればもう、鏡の中に映っているのは制服を着た女の子の姿になる。
「……ふぅ」
ドキドキと無駄に高鳴る心臓を抑えつつ、軽く化粧をする。
そんなに厚化粧にはしない。
出来る限りナチュラルメイクを意識しつつ、肌の色を整えて出来る限り可愛く見えるように施す。
培ってきた知識や技術を総動員して、僕は自分を誰がみても『女の子』になるように仕上げていく。
ふと、僕は手を止めてしまった。
(これから、あの男に会うのに……なんで僕は、こんなに頑張ってるんだろう……)
自分で望んだわけでもないのに、女の子の格好をしないといけない理不尽な状況なのだから、化粧に力を入れなくてもいいじゃないかという、当たり前の気持ちが芽生える。
頑張ったところで、あの男を喜ばせるだけじゃないか――そんなことを考えてしまい、気分が沈む。
(……うぅ……何やってるんだろう、僕は……)
自嘲しながらも、僕はきちんと化粧を施すのだった。
決してあの男のためじゃない。女装するなら、中途半端が一番恥ずかしいからで、それ以上の意味はない。
自分に言い聞かせるようにしながら、僕は最後のパーツである、ウィッグを頭に被った。
しっかり頭に固定して、いつもの髪型に整えれば、目の前の鏡の中には『女の子の僕』がいた。
とても可愛い姿だ。その眼がどこか悲し気に垂れていなければ、もっと可愛かったのかもしれない。
この姿は、あの男に見つかった時と全く同じ格好だった。
その時の記憶が蘇って来て、心臓がドクンドクンと鼓動を早く奏で始める。
「ふー……っ」
深呼吸をして、変に興奮する気持ちを静めた。
僕は最後に軽く全身のチェックをした後、次の準備に取り掛かる。
まずはコートを取り出して来て、背の高い帽子掛けの、高い位置にあるフックに、それを引っ掛ける。
両袖はタオルで厚みを作り、先端をポケットの中に突っ込んでいる形に固定してあった。
コートの前はあらかじめ閉めておき、下から頭を突っ込むだけで着られるようにしておく。
それから、洗濯ばさみでマフラーの先端を摘まむようにして、高いところから吊るしておいた。
マフラーも後で身に付けるためだ。
これで事前の準備はほぼ終了。
鏡の前でおかしなところがないか、チェックする。
鏡の中には、十分に可愛いと言っていいレベルの、制服姿の女子。
それが自分自身だという事実に、また心臓が早鐘を打ち始めた。
そしていよいよ、段ボールからアームバインダーを取り出した。
真新しい革の匂いが漂ってきて、それを嗅いだ僕の心臓はただでさえ速い鼓動をさらに速くする。
指先が震えて、アームバインダーを取り落としてしまいそうだった。
「ふぅ……ええと……まずは、と……」
アームバインダーを広げ、皴を伸ばす。
ずっしりと重いそれは、いまの僕の気持ちを具現化しているようにも感じた。
袋状のそれは、本来は手首と肘の上辺りにあるベルトを外から締めて固定するタイプだ。
だから、独りでは身に付けようと思うと、少し工夫する必要がある。
「……これくらいかな?」
僕はとりあえずそのアームバインダーを机の上に置いて、体の前で腕を入れてみて、ベルトをどの程度締め込むかを調節した。
抜けなくなったら困るけれど、抜け落ちるのはもっと具合が悪い。
両手を合わせて、ちょうど手首が通るか通らないかの太さに調整する。
「ふっ、んっ……よ、よし……」
何度か試してみて、程よくいい具合になるくらいのキツさに手首のベルトは調整できた。
体の前で、見える状態でやってるのに、結構大変だった。
これを後ろに手を回しながら身に付けなければならないというのだから、大変だ。
肘の上辺りのベルトも、程よく締め、事前の準備は完了。
僕はアームバインダーを手に持ち、背負うように背中側に回しながら、肩にかけるベルトを片方引っ掛ける。
ベルトを引っ掛けた肩に、アームバインダーの重みがずっしりとかかる。
食い込んで来るベルトの感触を実感しつつ、両腕を後ろに回して体を捩り、何とか両手をアームバインダーの中に入れることに成功する。
「くっ……んぅ……、くっ……!」
頑張って体を捩り、捻り、腕をアームバインダーに通していく。
やがて片手が先端に到達し、それ以上押し込めなくなった。
あとはもう片方の手も同じように押し込めばいいのだけど、思ったよりだいぶキツい。
さっき体の前でやった時はいい具合だと思ったのだけど、やはり後ろに手を回していて、その状況が目に見えないというのが難しい。
鏡に映せば見えなくはないけれど、余計に混乱しそうなのでやめておいた。
体の感覚を頼りに、両腕を擦り合わせるようにして押し込んでいく。
ギチッ、ギチッ、とアームバインダーが軋む音が響いた。
その音は耳によく響き、僕の興奮を否応なく高めていく。
「フーッ……フーッ……フーッ……」
不自然な体勢で悪戦苦闘していると、だんだん体が熱くなってくる。
滲んだ汗が頬を伝い、垂れて落ちる。
肩が今にも外れてしまいそうで、じわじわとした痛みが生じていた。
「ぐ、うう……っ! ゥ――あぁっ!」
その時、とうとう手首が一番狭くなっているところを抜け、手の先があるべき場所に納まった。
両手が合わさった状態で動かせなくなり、腕の先がぴったりとした感触に包まれている。
自然と両腕が真っ直ぐ伸び、背中が反って、胸を張ってしまう。
「ふ……っ……ぅぅ……っ!」
両手がしっかりと固定され、全然動かせない。
(あ、あれ……? これ、大丈夫、かな……)
片手を軽く引き抜こうとしてみたけれど、手首を締め付けるベルトがきちんと働き、全然動かせない。
囚われてしまったかのように感じ、僕の心臓の鼓動は勝手に早くなった。
(だ、大丈夫……入ったんだから……抜ける……大丈夫……っ)
自分に言い聞かせるようにして、動かせない現実から目を背けた。
とにかく、ちゃんと両手がアームバインダーに納まったこと自体はいいことだ。
体を軽く揺すってみるけれど、アームバインダーが勝手にずり下がっていく感じはしない。
その際、まだ肩にかかっていない片方の肩紐がプラプラと揺れた。
(これも、ちゃんと引っ掛けとかないと……ええと……)
揺れる肩紐をドアノブに上手く引っ掛け、肩にかける。
そうすることで、僕のアームバインダー拘束、自縛は完成した。
脱ぐときは肩紐をさっきの逆の手順で外して、アームバインダーをどこかに挟んで引っ張れば、なんとか脱げるはずだ。
改めてアームバインダー拘束を施された体で、鏡の前に立ってみる。
そこに映っていたのは、あまりにも強固に両腕の自由を奪われた、一人の無力な女の子だった。
「うっ……」
その姿に、思わず息を飲む。どくんどくんと激しく心臓が高鳴り、激しい運動をしたわけでもないのに、勝手に息が荒くなる。
鏡に映っているその姿は、どう見ても奴隷の躾姿だった。
可愛らしく無力で非力な女の子が、無慈悲なご主人様によって、無骨で厳しい拘束具を嵌められている姿。
状況的には間違ってないかもしれないところが、僕に屈辱を感じさせる。
そんな自分を否定するために身じろぎすると、そのわずかな動きでもアームバインダーが軋んで音を立ててしまう。
「はぅ……っ」
それはまるで、自分の立場を忘れさせないようにされているかのようだった。
アームバインダーが軋む音に、荒い呼吸音が重なる。
自分の息がどんどん荒くなっていることを感じつつ、僕はもうひき返せないところまで着ていることを自覚していた。
「うぅ……っ」
肩から指先まで、全然動かせなくて辛い。
自分の口から零れた呻き声は、あまりにも弱々しくて惨めなものだった。
だけど、僕は自分の置かれた状況を理解していくのに合わせて、自分の心の中で奇妙な衝動がくすぶり始めていることを感じていた。
(こんな……無理矢理させられて……楽しいわけが、ないのに……っ)
これから自分が置かれることになる絶望的な状況を、僕は心のどこかで期待していた。
どくん、どくん、と大きく高鳴る心臓の鼓動が、耳元で響いている。
それは自分の期待している感情を示しているかのようで――僕は必死に首を横に振って、頭の片隅へと追いやった。
(そんなこと……ない……! 僕は、命令されたから、してるだけ……っ)
荒れ狂う鼓動を何とか宥め、僕は帽子掛けに引っ掛けて置いたダッフルコートに近づいた。
しゃがみ込んで、コートの裾を潜るようにして、コートを身に付けていく。
向きにだけ注意しながら立ち上がると、コートをちゃんと僕の肩にかかる形で着ることが出来た。
軽く体を揺すって、完全に頭を通す。
(ふぅ……これでなんとか……)
改めて鏡の前に立つ。ちゃんとコートを着て、ポケットに手を突っ込んでいるように見えた。
そのコートの下に、まさかアームバインダーを身に付けているとは、誰も思わないに違いない。
(あ……っ)
そう思ったのだけど、ふと気づいてしまった。
ダッフルコートの裾は長いから、まっすぐ揃えて伸ばした手も隠れると思っていた。
けれど背中を向けてよくよく見てみると、アームバインダーの先端にぶら下がっている金具が、コートの裾から覗いていた。
僕はそれがアームバインダーのものだと知っているからわかるけれど、何も知らない人が見たらただの金具でしかない。
だから問題はない、と自分に言い聞かせる。
(で、でも気を付けないとな……少し裾が捲れあがったら、アームバインダーの先端が見えちゃうってことだし……)
そう改めて警戒を強めた僕は、あらかじめ吊るしておいたマフラーを首に巻いていく。
洗濯ばさみで挟んであるだけなので、ちょっと強く引けば簡単に外れた。
これでマフラーも身に付けることが出来て、出かける準備が完了した。
「……ふーっ……ふーっ……」
口元に巻き付いたマフラーに、自分の吐息が当たる。
息が籠ったせいだけではないのだけど、自分の頬が無性に熱くなっているのを感じていた。
僕は最後にもう一度鏡を見て、変に見えるところがないかどうか確認し、意を決して外へと向かう。
静まり返った家の中で、自分の心臓が奏でる鼓動だけが、異様に五月蠅かった。
両親も妹も家を空けていて、そうする意味なんてないのに、僕は自然と忍び足になっていた。
出来る限り自分の存在を知られないように、慎重に、ゆっくりと歩みを進めていく。
そんな風に踏み出した足が、床を軋ませる。
普段なら気にも留めない程度の軋みだった。そもそも鳴ったことにさえ気づかないと思う。
だけどその時は家の中が静まり返っていたこともあって、やけに大きく響いた。
床が軋んだからって、別に何があるわけでもないはずなのに、体を固くして足を止めてしまう。
(何やってんだ……僕は……っ)
自嘲しながら、玄関へと向かう僕。
あらかじめ準備しておいた女装用の靴を履いて、玄関扉の前に立つ。
後ろ手に固められた状態では、玄関扉を開けるのも一苦労した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
玄関から出ようとするだけで苦労する自分の状態を改めて実感しつつ。
縛られた僕は、外へと足を踏み出したのだった。
zeno
2022-10-31 21:49:52 +0000 UTCキョウ
2022-10-31 20:24:57 +0000 UTC