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グボォッ! ドボオオオォォォ!!
「がっ……ぁ……げはぁっ!!」
ボクサーさながらの、風を切るほどの鋭いストレートが、アラトの頬を潰す。
頬がつぶれ、あっけない呻きをこぼすアラトをあざ笑いつつも、カイチは油断のない目つきで見据えていた。細やかなステップを刻み、次はどこを射抜こうかと構えた拳を上下に揺らす。
前髪を揺らすカイチは爽やかな顔つきでありながら、因縁の相手の顔面を潰す感触に笑みを浮かべていた。
「くそっ、おらぁ……っ!」
拳の応酬において、まさかここまでの差をつけられてしまうとは。アラトは怒りで目を剥きつつも、必死に食らいついていく。
だが、アラトが必死に拳をふるっても、カイチは涼しい顔で身を翻してよけてしまった。
「はっ、……おせぇんだ、よっ!!」
ドボオオオォォォ!
「ご、はっ……」
「はっ、ボディががら空きだぜっ!!」
グボオオオォォォ!
段違いの反応速度で見切られていては反撃もほとんど敵わず、拳を振り抜きわずかな隙を見せるアラトに対し、カイチは余裕さえのぞかせながらその肉体を拳で打ち据える。
身軽な動きでキャンバスを踏み、カイチは襲い掛かる。
頬を潰され、腹を突き上げられる。その拳の威力は速度と回数に反して一発一発がすさまじく、おちょくるようなジャブの連打でさえ致命的だった。アラトは瞬く間に体力を奪われていく。
「ふはっ、だっせ。どうしたよアラト、んなもんかぁ?」
「はぁ……はぁ……、ぐ、ぁ……っ!」
下級年用の練習部屋、その奥にある簡易式のリングの上で、二人は拳を突き合わせて今に至っていた。
紛争学園の生徒同士の喧嘩では、特にルールは縛られないのが定番だ。そのうえでカイチが進んでボクシンググローブをつけたことに対抗して、アラトも同じく普段とは勝手が違うボクシンググローブを選んだ。
カイチとしては、馬鹿にされたボクサーとしての自分を認めさせる為、殴り合いで仕留めきる故の判断で、それを理解していたアラトも十分に対抗できると自負していた。
……が、それが悲劇の始まりだった。特に立っての殴り合いとなれば、その技量の差は圧倒的なまでに明白だった。
ドゴ! グボォッ! ドボオオオォォォ!!
「がぁっ! げは……がはぁっ!!」
「へっ、いい声でなくじゃねぇかよ。おらぁっ!!」
グローブの慣れ具合もさることながら。独自の距離を保ってアラトに組み付くことを許さず、半ばボクシングのような流れになった後は……まさにカイチの独壇場だった。
喧嘩慣れしているはずのアラトの反撃をほとんど許さず、アラトを相手にもてあそぶような余裕さえ見せながら拳を当てていく。
だが、遊び半分でもその動きには微塵も無駄はない。ジャブを繰り出した後は腰を捻り、ステップを刻んで相手の照準を躱す。攻撃と回避の一連の動きが体に染みついたように、単調ながら精密な動きでアラトを追い詰めていった。
日々ストイックな姿勢でボクシングに打ち込んできたカイチがこういったスタイルをとることはわかっていたとはいえ……、いつも睨みを利かせてきた相手にまんまと翻弄されている状況に、アラトは頭が煮え立つかの如く苛立っていた。
「やっぱボクシングはやめらんねぇわ。テメェみてぇなど素人でイきってるだけのヤンキーもどきをボコボコにすんのはよぉ……?」
「はぁ……はぁ……。けっ……結局はボクサーのプライドだなんだ言って、テメェも喧嘩の道具にしてんじゃねぇかよ……?」
「はっ、素人に手を出すような真似はしねぇわ。 テメェみてぇなボクシング舐め腐った奴は、初歩の初歩のテクでボコんのがちょうどいい、つってんだ、よっ!!」
グボオオオォォォ!!
「ごはぁっ!!」
……アッパーがアラトの顎を真上に突きあげた。強烈な一撃に、アラトの動きが止まる。
並みの相手なら、ここで失神していてもおかしくないだろう。だがそうでないことがわかるからこそ、カイチは拳を解かないし、まだまだ相手を甚振れる時間が続くことに高揚感を覚えていた。
アラトは肩を震わせつつも……、ロープを握り、必死に身を保たせる。
「今日からは俺と対等だなんて勘違いができねぇように、格の違いを教えてやるよ。……おらっ!!」
グボォッ!
「げはっ……」
グボオオオォォォ!!
「ごはっ!!」
ドゴ! グボォッ! ゴッ! ドボオオオォォォ!!
グボオオオォォォ!! ドガァッ!!
「がぁっ! ぐっ、げはっ……がぁぁっ!!」
キャンバスの中央。アラトが前のめりに崩れぬよう一気に間近に迫る。肩を押し付けられ、カイチから残忍なまでの勢いでラッシュを食らう。
アラトは唾液を散らしつつ、ついにがくりと膝を挫く。
……グボオオオォォォ!!
「が……ぁぁ……」
トドメとばかりに、カイチは勢いをつけたストレートでアラトの鼻先を真正面から潰す。
確かな手ごたえとともに鼻を鳴らし、一歩下がって拳を落とす。すぐにアラトはあっけない声を漏らすと、崩れるように倒れた。
「くはは、まーたダウンかぁ? 案だけ俺に大口叩いて、まるで口だけだよなぁ? つまんねぇ男だぜ」
「がっ……っぁ……はぁ……はぁ……」
が、それでもまだ気絶には至らない。グローブをキャンバスに叩きつけ、悔しそうにあがいている。
カイチはグローブの中で指を振って挑発を重ねつつ、乱れた呼吸とともに膨らむアラトの胸に足を乗せる。
嫌悪し合ってもある程度認めた実力者であるからこそ、圧倒的な差をつけて叩き伏せることにはかなりの充実感がついてきた。今まで敵意を抱きあってきた相手のプライドをへし折り、好き放題に甚振り尽くす優越感に浸る。
「ジムの中坊のガキの方がまだタフだぜ。大口叩いても、所詮は素人かよ」
「っ……! てんめぇ…………!! みくびってんじゃ、ねぇぞ……、……うらぁっ!!」
アラトはとびかかろうとしたが……見切っていたカイチは涼しい顔で飛びのいてそれを躱す。
再びキャンバスに倒れたアラトをしり目に、両グローブを叩き合わせながら見下した。
「さぁて……、テメェとは同じクラスになってから散々ムカつかされてきたからよぉ……、こんなもんで終わりだと思うなよ」
「はぁ……はぁ……っ!」
もがくアラトの首を掴み、無理矢理に顔を上げさせる。
ボクシング似た流れもあって対等な喧嘩には程遠く。ここまで一方的な展開となったことにアラトは悔しそうに顔をひきつらせている。
そんな顔を覗き込んで、カイチは嗜虐的な笑みを引く。
「サンドバックにして、どっちのほうが格上か、思い知らせてやっから覚悟しろや」
「はぁ……はぁ……、まだ……、負けて、ねぇぞ、テメェ……っ!!」
まだ、戦意は途切れていない。追いやられた獣のように目をぎらつかせているアラトに、カイチは拳を振りかぶった。
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yukibou
2019-08-04 14:22:26 +0000 UTCnensei
2019-08-04 14:07:23 +0000 UTC