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Loser dog~深夜の負け犬ファイト~1-2


インターバル終了のゴングの音。


コーナーにもたれかかって腰を下ろしていた豪太は、先んじて立ち上がる蓮に相対するように立ち上がった。


まだ終えたのが一ラウンドのみとはいえ、その三分間はひどい有様だった。


故に、たった一分の休憩などではダメージは抜けきらない。足を震わせながらもなんとか戦う姿勢を保たせる豪太を見て、蓮はわざとらしく肩をすくめる。


「あれ、もうグロッキーっすか? まだ始まったばっかっすよ?」


「うるせぇな……、オラ、もう二ラウンド始まってんぞ……!」





豪太は息を乱しながらも、なんとか拳を持ち上げる。重い目蓋の隙間の瞳で、まっすぐに蓮を睨み付けた。


試合は、まだこれから。


消えることのない豪太の戦意を感じ取り、蓮は舌舐め吊りすると、そんな豪太に構うことなく、残酷なほど淡々と躍りかかっていった。






ドゴォッ! ゴッ! ドボォッ!


グボッ!  ドゴォッ! ドボォッ!


「がはぁ! ぐぁ……、がっ、ごはぁっ!」


満足に走り回れない豪太がキャンバス中央へと出てくるまでもなく、颯爽と接近した蓮は、同時に再び激しいラッシュを豪太に浴びせかけた。


 右に、左に。顔も腹筋にも縦横無尽に拳を当てていく。その一発が重く鋭く、豪太の肉体を宣言通りサンドバックのように甚振りつくしていく。


「どうっすか? 俺、豪太さんが教えたがってた風に出来てます?」


ドボッ! ドゴッ!


「がぁ……っ! ぐはっ……」


「ホラ、何か言ってくださいよ、直すところがあったら、さっ!!」


ドゴッ……、ドボオオオォォッ!!


「ごはああぁっ……! が、はぁ……が……」


ドゴッ! グボッ! ドゴォッ!


「はっ……、そろそろ、終わらせて……」


 拳の雨の前に、豪太はもはや揺さぶられるばかりだ。自分のパンチで、豪太の鍛えられた肉体が思うままに揺れている。蓮は確かな優越と満足感に身を震わせ、同時にとどめを食らわせるその瞬間を待ち焦がれ始める。


次のラウンドをまたぐまでもなく、勝利を確信した蓮がにやついた、その瞬間。


満身創痍の豪太は、一呼吸の隙間を見逃さず、蓮へと腕を伸ばした。


ガシッ……!


「……お?」


「はぁ……、はぁ……!」


そこで、蓮は手を止めざるを得なくなった。


所謂、クリンチだ。コーナーの前にて、蓮の肩に腕を回し、そのたくましい肩に顎を乗せ、抱き着く形で距離を詰めていく。


汗の滲んだ、存外綺麗好きな豪太のリンスの匂い。自分の肩や胸に密着する豪太の体温、そして耳元では、自分に甚振られた末の荒れ果てた息遣いを聞きながら、蓮は口笛を吹いた。





「ははっ、クリンチとか必死っすねぇ~。そこまで負けたくないんすか? でも、どうあがいたってもう無理っしょ?」


「はぁ……、はぁ……、黙れ……、テメェ……、今に……!」


 このまま殴られ続けるのを嫌って、クリンチを仕掛けるのは必然だった。蓮の態度にも、そうしてまでラウンドを凌ぐしかない自分にも苛立ちを覚えつつも、蓮の肩に組み付き、抱きつき続ける。


一方で、抱き着いてくる豪太に対しても、蓮はたいしてもがくでもなく、脇腹に拳を打ち込むこともせず、……逆に、そっとその肩に腕を回し返す。


蓮が笑みを深めると、静かに豪太の体を強く抱き締め返した。


「そんで、豪太さん。大事なこと、忘れてません?」


「……あぁ?」


二人きりの、キャンバス中央。蓮が豪太の耳元で、どこか甘い声で囁く。


「俺、ただの人間じゃないんすよ?」


息を荒らし、首をかしげる豪太だったが、そこまで言われてようやく理解した。


そして、時すでに遅く。理解の及んだ豪太が頬に冷や汗をにじませる中、そのすぐ目と鼻の先で、蓮が文字通り牙を剥く。


「テ、メェ……! ま、まさか……っ!」


「こんなに密着されて。大した据え膳っすよねぇ」


 クリンチを仕掛けたのは自分の方で、これはボクシングだ。だからこそ、そんなことまで想定していなかった。


だが、蓮ならルールを度外視してやりかねない。裸のまま、抱き合う格好になれば、蓮の目の前に必然的に首筋が露わになる。


 距離を詰めようとしたのも束の間、豪太は一転し、蓮を突き放そうと試みる。


それを見越してだろうか、逆に蓮に抱き着かれていた豪太は、その人ならざる怪力から逃れることはできなくなっていた。


「や……、やめろ……っ、よせ……っ!!」


「……んじゃ、頂きまーす♪」




……ガブッ!


「ひ、ぐっ…………、あ、がぁ……っ」


 ジュル……ジュルッ……。


 これまでも、吸血鬼である蓮に対し、何度もその餌食になってしまった。


その危機感から逃れようともがく豪太を力づくに抱きしめて、蓮は早々にその首筋に牙を突き立てる。


 鋭利な牙が皮膚を貫く、その瞬間。明滅するような刺激、そして蓮の牙の感触を鋭敏に感じ取り、豪太はグローブに覆われた指先を震わせた。


「がぁ…………、く、そ……」


「……ダメっすよ。豪太さんがクリンチしたがってたんでしょ?

お望み通り、好きなだけ俺に抱き着いてていいっすよ?」


「あ……、がぁ……、ひ、ぐぅ……!」


口を離してそれだけ言うと、蓮は再び、こじ開けた穴に再び牙を突き入れ、吸血を再開する。

リングの中央で、互いの汗だくの肉体を密着させながら、二人は獲物と捕食者の格好となった。


蓮の牙の跡、空いた二つの小さな穴からプツリとこぼれる鮮血の滴を、その皮膚に舌を這わせて舐めとり、舌と牙に滴らせるようにして吸い上げていく。


もう幾度となく味わった、ぞくりと這う蓮の舌の感触、そして体から体温が抜かれるような感覚。同時に、逃さまいと筋張った蓮の肉体が抱き寄せてきて、締め上げてくる。


試合の最中とは思えない、性行為のような状況。液体がすすられる音を立ち竦んだままで暫く聞いて、ようやく蓮の牙が己の肩から離れる。


 その感触に目を絞っていた豪太は、吸血が終わると同時に蓮を突き飛ばした。


「っと。ごちそうさまっす、豪太さんww」


「はぁ……、はぁ……、は、反則だぞ、テメェ、こんな、真似……!」


「ほんの水分補給じゃないっすか。それとも、こんなことで反則勝ちになって、豪太さんは納得できるんすかぁ?」


咬まれた後を抑える豪太に対し、満足そうにその顔をのぞき込む。


理不尽に響くその言葉だが、豪太は歯を食いしばって受け入れるほかなかった。何を言おうとも、実力で蓮をねじ伏せなければ、当初の目的を達成できないのは明白だった。



その矢先。2ラウンド終了のゴングが響いた。




そこからの展開は、自分でも目を覆いたくなるほどだった。


 吸血鬼である蓮に咬まれれば、どういうわけか、体が火照って神経が昂ってくる。だが、それを言い訳にするまでもなく、戦いは一方的な展開となった。


ドゴッ! ドボォッ! グボォッ!


 蓮のラッシュの末。幾度となくコーナー際に追い詰められ、遊び半分のアッパーで顎を突き上げられ、嗜虐的な笑みでボディをえぐられる。


熾烈な責めの前に、何度もダウンした。だが、蓮がそのたびにわざとらしい大声でカウントをとる。敗北を匂わされれば、無理を押してでも立ち上がるしかなかった。


……だが、確かに重ねていくダメージは悔しさや精神論で片付けられるものではなく。


立ち上がるたびに倍になって浴びせられる蓮の躊躇いのない拳の嵐の前に、幾度目かのキャンバスへの横転の末。


視界がぼやける中で、豪太はついに敗北を確信してしまった。





もう、ラウンドもインターバルも関係なかった。


形式だけのゴングの音が響く中で、グローブをキャンバスに立てつつ、小刻みに震える豪太を見下し、蓮は大声でカウントする。


6……、7……、8……。


「ぐ……ぅ……!」


「9……、10。かんかんかーん。はい、俺の勝ち~」


大声でカウントを数え終えた蓮は、腕を上げて自らの勝利を宣言する。

豪太は立ち上がることもままならないまま、させまいと蓮へ吠え掛かった。


「はぁ……、はぁ……。っ、ま……、待て……。俺、は……!」


「往生際悪いっすよ~、俺にボクシング教えてくれるんでしょ? そっちがルール破っていいんすかぁ?」


「っ……! …………くそっ!」


 憎たらしい物言いでも、間違った言い分ではなかった。その言葉が、豪太に返す言葉を失わせ、幾分か冷静にさせた。

蓮に向かっていた感情は途端に行き先を失い、悔し気にキャンバスを殴りつける。


 ……試合になるところから想定外。そしてまさか、ここまで惨敗するなんて。


 蓮の才能を、あまりに甘く見すぎていた結果だというのか……。これでは蓮を先輩の威厳……、上下関係を躾るどころか、ますます調子に乗らせるばかりだ。


驚愕は収まらない。まさか、蓮が始めたばかりのボクシングで、俺が負けるとは。


 恵まれた肉体とその才能は、やはり恐るべきだったか。されとて、蓮の悪ふざけは時に命すら脅かされる。


これ以上、エスカレートされれば……。



「……ま、別にもう一試合やってもいいっすけど」


 ふと、何の気なしと蓮が呟く。ロープを掴んでやっと立ち上がった豪太は、すぐにその提案に食いついた。


「……! やんぞ、蓮っ!」


 頬をくすり、ぼろ雑巾のようになりつつも、戦意だけは十二分。

 その様を見て、蓮はにやりとほくそ笑んだ。


「その代わり。脱いでくださいよ、パンツ」


「わか……、……あぁ!?」


せめて一泡吹かせるまで、このまま、大人しく負けてなどいられない。

だが聞き間違いかと思い、危うく頷きかけてしまった。


突拍子もないことを言い出す蓮に、豪太は目を見開く。


「な……、何ぬかしてんだテメェ……!? んな真似、できるか……!」


「俺たちしかいないし、別にいいっしょ? 野球拳じゃないけど。俺も、豪太さんから10カウント取られたら脱ぐんで」


そういう問題ではないだろう。つまりは次から全裸で戦えと、そういうのか。一体どんな罰ゲームだ、それは。


「ふ……ふざけんなっ! テメェ、真面目に……」


「真面目にやって俺に勝てないのが、今の豪太さんでしょ? それとも、このまま負けっぱなしでいいんすかぁ?

ま、それでもいいなら、豪太さんからボクシング教わって「あげます」けど?」


「……っ……!!」


「どうします、やります? やめときます?」


グローブを振る蓮が、挑発的に詰め寄ってくる。


頭に血が上っているのもあるが、そうでなくとも、もう諦め癖は捨てた筈だ。

……ここで負ければ。全ての計画が水の泡。こいつはますます調子づく。


何より、自分が専門だと自負していたボクシングで、はるかに経験が浅いはずの蓮に完敗を喫するなど、到底受け入れられるものではない。


わざとらしくにやけながら顔を覗きこんでくる蓮に、豪太は恥辱と怒りで震えながらも、甘んじてその選択を呑むしかなかった。


「…………あぁ、分かった……! クソ……っ!」


苦渋の決断だった。さぞ悔しそうに、最後まで躊躇いながらも、拳を震わせて己のトランクスのゴムに手をかける豪太を、蓮は満足そうに見つめていた。





 開始早々。はめられたのだと、すぐに分かった。


 もうひと試合。と蓮が秋波を送ってから間もなく、それは開始された。

自らの背負ったダメージを顧みることなく、こちらが挑発に乗ったのがそもそもの失敗だ。


広いとはいえないリングで、動き回るのがボクシング。休みなく続けて戦えば、体力が残っている方が勝つに決まってる。


 そして、コイツを相手に、全裸でリングの上に立つのは初めてではない。

とはいえ、己の性器を揺らしながら拳を身構える羞恥心も、決して耐えられるものではなく。満足にボクシングなどできなかった。



「豪太さ~ん、スタミナ切れっすかぁ? 水休憩くらいとればよかったっすね?」


「はぁ、はぁ……っはぁ、はぁ……!」


 ドゴッ! ゴッ! ドガッ!


……ドボオオオォォッ!!


「がっ……、ぐ、……っあぁ!!」


わざとらしく言いつつ、蓮が拳を繰り出す。

豪太は頬を豪快に振られながら、なんとか立ち続けるのが精一杯になっていた。


 唾液も枯れ、舌が張り付くようだった。喉が乾き、息が乱れて纏まらない。自分の体力に余裕があることを把握した上……、まんまとこちらにもボトルを握らせないまま続行させたのだ。


そして、蓮はといえば、先ほどにこちらの血液を補給している。蓮が血を吸った後に体力を幾分か取り戻すことは思い知るところであったし、ただでさえダメージの量がまるで違う。


もはや、子供と大人の差が生じていた。蓮の拳に翻弄されるばかりの豪太は、それでも拳を半分ほど持ち上げ、立ち尽くすしかなく。


(ひたすら守って、ラウンド切り抜ければ……。インターバルで、水だけでも……)


「切り抜ければ、とか思ってんすか?」


「……っ!?」


「残念だけど。豪太さん、このラウンドで終わりっすわ」


ドボオオオォォッ!!


そう告げると同時に、豪太に肉薄した蓮は、その腹筋に打ち上げ気味のボディをねじ込んだ。


「がはぁ……っ!」


 緩んだ腹筋では、その衝撃には到底太刀打ちできず、ダメージはその奥深くまでに至った。


そして、そのままコーナーまで押し込み、豪太の腹筋をすり潰す様にして圧迫していく。


ドボオオオォォッ!!


「がは……っ!」


そのまま押し込み、追いやられるばかりの豪太を、ままにコーナーに串刺しにした。

ぐり、と拳をねじ込みつつ、蓮はふと、全裸で晒されている豪太の性器に目を落とす。


「見事に勃起してるっすね。そんなによかったっすか? 俺のパンチ」


「ん……がぁ……、はぁ……、はぁ……!!」


息ができない程の圧迫感に苛まれながらも、蓮の拳を潰れた腹筋で呑みこみながら、豪太は自らの下半身に目を落とす。


蓮のいう通り、自らの性器は天を向いて勃起していた。血管が浮き上がり、その先端から透明な先走りをこぼして震えている。


「はぁ……、はぁ……、く、そぉ……!」


蓮に咬まれれば、どういうわけかいつもこうなった。体が刺激に弱くなり、ささやかな熱にさえも感じてしまう。

まさか、ボクシングの最中にもその毒牙に犯されるとは思わなかったが……。


……ギュッ!


「あ、がぁっ!!」


突如、下半身につき走った刺激に豪太が悶絶の声を漏らす。


興味の色を強めた蓮が、グローブで豪太の性器を掴んでいた。豪太の反応を面白おかしく見守りながら、掴んだ性器を、グローブの生地で刷り込む様にしてゆっくりと扱いていく。


グリュ……グチャ……!


「はぁ……、あぁ……、や、めろ……、今は、ボクシング……!」


「だって豪太さん、弱すぎてつまんないんですもん。ねぇ?」


グリュ……!


「がは……っ!!」


そして、蓮は嗜虐的に笑うと、腹に埋められた拳を、半分ほど回してより深くへと捻じり込む。


途端に豪太が胃液の混じった唾液を散らすも、それと同時に、蓮は性器を扱いていく。

苦しさと快楽の渦で豪太の顔がひどく歪んでいくのを、蓮は間近で堪能していた。


ドボオオオォォッ!!


「ごはぁっ!!」


ズリュ……、グリュ……!


「がはぁ……、んぁ……あぁああぁ……っ!!」


一度拳を引き抜き、鋭いボディを再び同じ個所に打ち込む。もう片方のグローブでは、豪太の性器を扱き続ける。


 ボディブローと性器への刺激を交互に繰り返していく。そのたびに、豪太の表情が甘く苦しく崩れていき、蓮はより嗜虐心と好奇心をくすぐられた。





「グローブ越しでも分かりますよ、ビンビンっすねぇ。

やっぱり、俺の事、大好きなんすね、豪太さん♪」


「はぁ……、はぁ……!」


自分の言葉など聞く余裕もないのは承知の上で、蓮は豪太の耳元で囁く。コーナーに押し付けつつ、豪太の腹を殴りつけてえぐりつつ、性器をこねくるように弄っていった。


「後輩にボコボコにされて、全裸でグローブで扱かれて、勃起してるんですもんね?」


「んあぁ……さわ、んなぁ……!」


痛みすらも快楽に変わるかのように、蓮の執拗な腹への責めに対しても、豪太の性器は萎えることなく、寧ろ赤く硬さを増していく。


そして、耐えなく込み上がってくる蓮のグローブに擦られる刺激に対し、必死に射精を堪えている。懸命に性器に力を込めているのが、グローブ越しにでも分かった。


 それを見越したうえで、蓮は甚振るようにその先端を揉みこむ様に刺激を追加していく。


 そして、相変わらず右拳は豪太の腹筋を潰し、ドリルのようにその奥深くまで埋めていく。呼応して豪太の性器も激しく弾け、先走りを弾き飛ばす。


グリュ……グチュ……。


「か、は……ぁ……! ん、ぐぅ……! ……あぁぁっ!!」


「抵抗しても無駄っすよ、……オラ、無様に出しちまえっ!」


ドボオォォッ!! グボオォッ!!


豪太の性器を扱く、と同時に、蓮は意地悪く微笑むと、豪太の潰れた腹筋へ、何度も拳を捻じ込んでいった。


そして、ついに絶頂の時が迫った。


次に繰り出された蓮の拳によって腹を奥深く抉られた、その瞬間、豪太の意識が真っ白に染まる。


「そろそろっすよねぇ……、オラ! 殴られながら出しちまえよ! ドM野郎っ!!」


ビュルッ……ビュルルルッ!!!


「ぁあ……、ああああぁぁぁっ!!!」


蓮のグローブに乱雑に扱かれて。ついに、豪太の膨らみ切った性器から、白濁が盛大に放出された。


噴きあがった白濁は豪太と蓮の体に垂れ流れ、蓮の黒いグローブにも派手に零れ落ちた。


あまりに強制的な射精の末、意識も朦朧として、体はひくついている。そんな豪太は、いまだに蓮の拳とコーナーに身を挟まれ、ロープに腕を絡め、逃れることはおろか、倒れることすらできなかった。


「ふははっ! 殴られながら射精してやんの! 相変わら弱……、

……っ!! うわっ……!!」


 豪太の腹筋を貫いたまま甚振り続けつつ、その痴態に喜びの声を上げる。

だが、それも束の間、今度は蓮が悲鳴を上げた。


 満足そうに笑っていた筈の蓮はその顔色を一変させると、拳を引き抜き、射精の余韻で弱々しく息を吸うばかりの豪太を放置し、どういうわけかすっかり慌ててしまっている。


 あたふたと落ち着かない蓮の目には、豪太の白濁の飛び散った、新品のグローブ。


「……っ! つーかアンタ! 何勝手に出してんだよ! うわ……、くそ、シミになるだろ……!」


「はぁ……、はぁ……、ん……っ、人の、体で……ふいてんじゃねぇ……テメェ……!」


 ……汚れるのがイヤなら、なんであんな真似しやがった、クソ……!


 新品のグローブを気にしてか、いやに焦っている蓮は、グローブに跳ねた豪太の白濁を、コーナーを背に座り込む豪太の股あたりで拭い始める。


 その様子をみて、朦朧としながらも豪太は怒気を散らすものの……、一方そんなに焦っている蓮の様子も不思議になり、強制された射精直後で余裕がないながら、小さく息を吐いた。


「なぁ……、マジで……、もういいだろうが……」


「……もう降参なんすか。相変わらずヘタレっすね~」


「ぐっ……いい加減にしろよ、お前……!」


「いい加減にすんのは、アンタだろ」


 グローブに飛び散った豪太の白濁を、何度も念入りに豪太自身の体にこすりつけるようにして拭った後、蓮はその前に立ちあがった。


「何、汚ねぇ精液で俺のグローブ汚してくれてんだよ……!」


「っ、殆ど、テメェのせいだろうが……! 八つ当たり、してんじゃねぇよ……!」


「うるせぇっ! オラッ!」


ドゴォッ!


「がぁ!」


 理不尽そのものの怒りようで、蓮は腰を落とすと、座り込んでいる豪太の腰あたりに伸し掛かり、その頬を殴りつける。


 ボクシングでは反則どころではない。だが、蓮は謎の苛立ちでもうなりふり構ってはいない様子だった。


「オラッ! 今の俺に! 口答えなんざ! いい度胸っすねぇ! あぁ? コラッ!」


ドボォォッ!! ドゴォッ!! 


ドゴォッ! グボォッ!


「ぐぇ……が、はぁ……っ!」


 馬乗りになった上で、何度も何度も、加減のない拳で豪太の顔面を左右に振りぬいていく。


「オラッ、墜ちろっ! ただの人間の、負け犬のくせに! 俺に逆らってんじゃねぇよっ!!」


ドゴォッ! グボオォッ!


このまま、気絶するまで殴る気か。締め技でもなく、そんな真似……!


抵抗する気力など残ってはおらず、ひたすら、されるがままに蓮に殴られ続ける。


豪太は確かな危機感に瀕していたが、やがてその思考も薄れていった。強烈な威力の拳に頬を左右に振られ、痛みが痺れに変わり、頭が朦朧としてくる。


 ドゴォッ! ドガッ!


ドボッ! グボォッ!


「っ……、……、ぁ……」


「はぁ……、はぁ……! うらぁっ! ……これで、終わっとけっ!!」


ドボオオオォォッ!!


「ぐ、ぶっ……」


止めとばかりに、全体重を乗せて撃ち落された拳が、もう何度目か豪太の腹筋を深々と押し潰した。


その衝撃で豪太の四肢が宙を跳ねあがり、目を剥いた後……、だらりとキャンバスに身を預ける。


蓮の激しい拳の前に、豪太がついに意識を手放した瞬間だった。


「はぁ……、はぁ……、……ま、いいや。帰って、すぐ洗えば……」


「………………」


「ははっ! にしても、たいした間抜け面っすねぇ、豪太さん? つーかもう聞こえてないか? くははっ!」


蓮は馬乗りから立ち上がると、豪太を見下し、腕を掲げて勝利の余韻に浸る。


蓮に咬まれた影響か、先に射精したはずの性器は、失われた筈の豪太の意識とは無関係に勃起し続け、白濁を小刻みに散らし続けていた。







ゴッ!


「……、……っ!」


「起きたっすかぁ? 豪太さん」


うっすら目を開けると同時に、上からのぞき込んでくる悪戯な笑み。そして、サメのように揃った白くとがった牙の並び。


立ち上がった蓮が、己の勝利を誇示するように得意げな表情で舌を出し、こちらを見下していた。


「はは、自分で挑んどいて、負かされてやんの。ダサいっすね~、豪太さん?」


「はぁ、はぁ……ぐ、そっ……! テメェ……!」


 いくら顔をしかめてみても、起きてみれば、嫌でも結果を認識する羽目となる。


自分は、負けてしまった。自身と確かな経験を重ねてきた筈のボクシングで、素人だったはずの蓮に。

……いや、反則紛いの行為も然りながら、蓮からすれば最初から遊び以外の何物でもなかったのだろうが。


だが、それを鑑みたうえでも完敗だった。蓮のふざけた行動すべてを勘定の外に置いたところで、自分の圧倒的な惨敗には違いない。


「豪太さんの事だから、ボクシングなら俺のこと倒せるって思ったんでしょ? マヌケっすね~」


「ぐっ……」


「どうっすかぁ? ベテランぶってたのが、素人の吸血鬼に負かされんのは。所詮、アンタらは俺のエサでしかねぇんだよ」


そして、蓮に肩を軽く叩かれた後、そのまま腕を回され、背後から抱き寄せられる。


試合の後で体温が上がり、汗の滲んだ蓮の凛々しい肉体に密着されれば、豪太はその鈍い痛みに苛まれた体で息苦しさに呻いた。


蓮の吐息を首筋に感じつつ、豪太は射精の余韻でとろけた横目ながらも、蓮を睨み付け続ける。


「ぐ……っ、いい気に、なんなよ、テメェ……っ!」


「はいはい。じゃ、俺の言うこと聞いてくださいね?」


「くっ……」


後ろから腕を回したまま、蓮は豪太のその堅牢な肩に頬を埋める。そして、もとより全裸であった豪太の体に、グローブ越しに手を這わせていった。


今まで自分を襲い続けていた凶悪なグローブが、汗と白濁の粒で滑らかになっている腹筋、腰、そして性器に至るまでをそっと撫でていく。


そして、背後に密着する蓮の体温とわずかな香水の匂い。それだけで、豪太はびくりと身悶えした。


「がっ……、テメェ、やっぱ、そのつもりで……!」


「何でも言うこと聞いてくれるんでしょ? それとも、負けること考えてなかったわけじゃないっすよね~?

 ……あれ、いつ、どこで、誰のセリフだったっけな~?」


「……テメェ、やっぱ最悪だな……!」


「で、結局自分で言った約束破るんすか? 俺、豪太さんのまっすぐなトコ、「後輩」として見習ってたのにな~」


「っ…………!」


頭上から迫るようにして、ロープを掴み、意地悪くにやけた顔を豪太へと近づける。


わかっていたのだ、コイツは、最初から。


いつから勘づいたのかはともかく。こちらの思惑を見据えたうえで、こちらの誘いに乗ってきた。そして、この状況に至るまで、俺はまんまと蓮の手の平で転がされたのだ。


今更気が付いて、悔し気に呻くも、もう遅い。蓮に咬みつかれた体は、もはや己の意識とは関係なしに、蓮から下されるさらなる刺激を求めて、ひくついてしまっている。


「さ、股開いて。俺によく見せてくださいよ、負け犬の豪太さん?」


「……、じ……」


「じ?」


「…………自分からは、嫌だ……」


 勃起し、白濁にまみれた己の性器を隠すこともままならないまま、豪太がぽつりとこぼす。


それが、最高峰の譲歩だった。相手が蓮とはいえ、一度交わした約束を破るなんてしたくはないが、ボクシングで負けて、後輩に犯されるだけで堪えきれない屈辱の極みだ。今に始まった音ではなくとも、慣れる日なんてきっとやってこない。


震える肩をおさえ、他所を向く豪太を目の当たりに、蓮は口を丸めた後、笑みを浮かべる。


「仕方ないなぁ、よいしょ」


「っ!」


蓮はグローブをひっかけるようにして豪太の肩を掴むと、そのままキャンバスに押し倒す。豪太を抑え込みながら、器用に自分の下を脱いでいった。


トランクスを脱ぎ捨て、グローブも外す。

そうして晒される、蓮の裸体。その性器もすっかり勃起していた。赤く火照り、肉体同様鍛えられたようにビキビキと震えている。


そして、見上げる先には、蓮の顔。やや頬を火照らせ、にやつく蓮は嫌に蠱惑的で、挑戦的で……、羞恥で顔が燃え上がりそうになった。


その空気感にやはり耐えられず、豪太はぎゅっと目を絞り、肘を振って暴れ出した。


「や、やめ……っ! やっぱ、こんな真似、俺は……!」


「いっ! ……暴れんじゃねぇよっ!」


ドゴッ!


「ごほっ……!」


 暴れもがく豪太の降った腕が頬にあたり、蓮は顔をしかめると、豪太の腹筋に素手の拳を突き落とす。


 体を貫く衝撃に豪太が呻く中、その顎を持ち上げると、目と鼻の先に引き寄せるようにして睨み付けた。


「負けたんでしょ? なら、俺の言うことなんでも聞いてくださいよ。大人しくしてれば、もう殴ったりしないからさ?」


「はぁ……、はぁ……、……く、そ……っ!」


 舌打ちする豪太を見下ろしながら、蓮は豪太の太ももを掴み、持ち上げる。


そうすれば、ライトに照らされ、ピクリと震える豪太の秘部が露わになった。その入り口を少し指でなぞると、それだけで豪太は甘く吐息をこぼす。


グリュ……ズリュ。


「ん……ぁぁ……ぁ……!」


 汗と豪太の先走りを絡めた指で、豪太の秘部の周辺を撫でまわす。

やがて、指の先をその中に突き入れれば、粘着に追われたそれは思いのほかすんなりと受け入れた。


「はぁ……、はぁ……、が、ぁ……ぅぁぁ……」


卑猥な温度に包まれる、豪太の体内。ぴくぴくと、意地悪く指先の関節を動かす度、豪太はされるがままに四肢を震わせた。


「じゃ、豪太さん、そろそろ覚悟してくださいよ?

……俺に逆らったらどうなるか、思い知らせてやっからさ?」


「はぁ……、はぁ……。こ、の…………」


蓮は己の性器の根元を掴み、豪太の秘部へとあてがうと、その先端が吸い付くように付着した。


そして、ゆっくりと腰を突き出していく。豪太の懇願など無視して、蓮は興奮で血走った瞳のまま、豪太の体内へ入り込むことへと集中した。


グリュ……ズリュリュッ!!


「が、ああ……、あぁぁぁぁっ!!!」


グリュ! グチュっ!!


「がぁ! うが、あぁぁっ!!」


下腹部から侵入してくる熱い感触に悶える豪太の喘ぎが響く中、蓮の性器が呑みこまれていく。


性器が収まれば、その時を待っていたとばかりに、蓮はまるでとり付かれた様に急激に腰を動かし始めた。





「がぁ……がああぁぁぁっ!!!」


「っ。ちょっときついっすね、力抜いてくださいよ、豪太さん!」


ズリュ! グチュ!


「あぁ! や、めっ! ごはっ! うあぁぁっ!!」


腕を振って暴れる豪太に構わず、ひたすらに腰を叩き付ける。豪太の最奥を貫き、引き抜いてはまた穿つ。大して慣らすことすらしないままで体内を凌辱され、豪太は蓮の感情的な行為の勢いに任せるまま、体を揺さぶるばかりだった。


「ふはっ、だらしねぇ面っすねぇ。後輩に得意なボクシングで負けて、好き放題犯されて。どんな気分っすか、ねぇ?」


「はぁ……、はぁ……! あぁ、うぁぁぁっ!!」


「ははっ! ボクシングなら俺に勝てるって思いました? オラ! どうなんだよ!?」


「うぁっ!」


 ふと、蓮が再び、豪太の性器を掴む。先端を揉みこみ、まみれた白濁ごと激しく扱いていく。豪太の顔が快楽と刺激の渦で歪むのを、ただひたすら堪能している様子だった。


 自分に勝てると踏んでいた豪太をボコボコにして、好き放題に犯している。蓮はことさら優越の笑みを絶やさず、その牙が口の隙間でぎらついていた。


「はっ、所詮はただの人間のくせに、俺に勝てるわけねぇんだよっ! バカな豪太さんでも分かるように、せいぜい体で理解させてやるよ!」


「うがぁ! あぁぁっ!!」


 既に何度か犯した経験のある豪太の体、その奥深くを己の性器で執拗に責め立てていく。

豪太の悲鳴に似た喘ぎが飛び、必死に歯を食いしばる豪太の体内に締め付けられながらも、蓮は無我夢中に腰を叩き付け続けた。


そして、豪太の性器を責める手も止めない。快楽に捕らわれているのか、もう射精しているのかどうかも分からなかった。ただ、止まらず扱かれる蓮の手の中で、白濁の入り混じった粘着質が先端から止めどなく吐き出されている。


 激しい行為の最中、頬をすっかり紅潮させた蓮は、胸の高ぶりのままに豪太の髪を鷲掴みにした。


 快楽にほぐれきった豪太の顔が痛みで引きつる。それを己の顔へと無理やりに寄せる。


「体のレベルが違うんだから、勝てるわけないんすよ、アンタがどんだけ頑張っても。

 ……だから、アンタはただ俺に遊ばれてりゃそれでいいんだよっ!!」


 絶えず犯しながら言い切ると、髪から手を放す。豪太の体ががキャンバスに再び投げ出された後も、蓮の無尽蔵な体力の前に、前も後ろもひたすら犯され続けた。


「オラ、オラッ! 中緩んできてますよ……、負け犬らしく、しっかり力んで勝った俺に奉仕しろよっ!」


「がぁ……、はぁ……、はぁ……!!」


秘部と性器の隙間から、白く濁った泡が零れ落ちる。互いの汗が混じり合い、豪太の体に垂れていく。


性欲の絡んだ征服感によって、蓮の興奮も極まっていた。ぼろぼろに叩きのめされた豪太が、今や自分の思い通りによがり狂っている。


自分の与える刺激や快楽に身をくねらせるばかりで、艶やかに輝く豪太の筋肉質な肉体を眼下に置けば、ますます腰の動きは加速した。


そして、豪太の体内を蹂躙していた己の性器が、いよいよ敏感に引くつくのを感じる。


「はぁ……、はぁ……! がぁ……ぁぁぁ……!」


「……ん……、そろそろ、出すっすよ……!」




「はぁ……、はぁ……、や、め……!」


「はは! 聞くわけないっしょ。もう二度と俺に逆らえないように……ちゃんと俺ので種付けしてあげますから……」


 絶頂の時が迫っている。豪太が首を逸らす程度に振るものの、今更聞く耳など持つはずもなく。


 豪太の中を荒らしまわるような凌辱を続けて、己の限界を感じた蓮は性器を伸ばしきり、豪太の肉体に腕を回す。


……ガブッ!


「がっ!」


 その鋭利な牙で首筋に咬みついてまでその動きを抑え込んで、喘ぎ暴れる豪太を力強く抱きしめた。


「……アンタは、ずっと俺のもんなんだよ……っ! 俺に逆らうなんて、許さねぇ……っ!!」


「ひ、ぐぅ……、っぁ……あぁ……!」


「ぐぅ……、……豪太さん……!」


「ふぁ……がぁ……あああぁぁぁっ!!」


ビュル……ビュルルルッ!!


 ついに、蓮は腰を引くつかせると、豪太の中に盛大に白濁を吐き出した。


 体内に流れこんでくる熱い奔流を敏感になった感覚で感じ取る。とろけるような刺激は下腹部を支配して、豪太も間もなく、白濁にまみれていたその性器の先端から、白よりも透明がかった精液を、己の顔に被るまでに噴出させた。


 豪太は一体、何度射精したのだろうか。一方的な行為に夢中で分からなかった。

粘着にまみれ切った性器と腰を震わせる豪太を見て、息を乱した蓮は、冷静さを取り戻しつつ、そっと豪太から性器を引き抜いた。


「……んぁぁ……」


「へへ、顔まで飛んだんすね、散々ボコったのに元気っすねぇ~……」


一度の射精では勃起の収まらない蓮の性器が秘部から抜け落ちると同時に、入り口から白濁がこぼれ、キャンバスへと垂れた。


同時にどこか切ない声を漏らす豪太を見下ろし、蓮はその顎を指先でくいと持ち上げると、その唇を奪った。


「っ……ん……ぁ……」


 行為の余韻で痙攣気味の豪太、汗の滲むその唇を交わし、口内を貪るように舌で犯していく。


 奥まで逃れようとした豪太の舌を器用に捕らえると、無理やりに絡ませ、体温と唾液を混じらせていく。


 蓮の圧勝に終わった、激闘を演じたリングの中央。粘着質な音が響く、呼吸すら奪うような長いキスの後、ようやく蓮は豪太の唇を解放した。


「……ぷはっ……、はぁ……、はぁ……」


「……俺の完勝っすねぇ、これで理解したっすか? ボクシングだろうとなんだろうと、俺の方が圧倒的に強いんだって」


 豪太の耳元で蓮は得意げに、低い声色で言うと、豪太の上に伸し掛かった。

精液と汗で濡れた肉体を重ね、互いの性器を触れ合わせながら押さえ込み、そのうえで勝気な笑みを見せつける。


 一方的な行為、そしてキスの後で、豪太の意識は揺蕩って、遠い目で蓮を見つめるばかりだった。


「くははっ、だらしねぇ顔。俺のキス、そんなに良かったっすか?」


「はぁ……、はぁ………………く、そっ……」


 意識せずとも、自分に覆いかぶさってくる蓮の体重、そして体温をしかと感じ取る羽目になる。力の差を思い知らせるかのような態度は、まさしく、肉食獣に捕らわれた獲物の図だ。


そして、いまだに勃起した互いの性器が、蓮が少し身じろぎするだけで触れ合い、次なる刺激をもたらした。


息を荒らした蓮のあざ笑う顔を見て、羞恥に屈した豪太は己の目元を腕で覆い隠した。


「豪太さんは満足したかもだけど……、俺、まだ一発しか出してないんで。

……せいぜい覚悟してくださいよ? 負け犬の豪太さん♪」


「……ぐ、ぅ…………」


その通りだろう、蓮はさぞ自慢げに、自分の勃起しきった性器の根元を掴み、それを揺らして見せつける。


豪太の計画は見事に頓挫し、蓮の圧勝に終わってしまった。そして、それだけにとどまらず、蓮と勝負をして敗北した代償はまだ始まったばかり。



その後も一晩をかけ、豪太の悲鳴に近いあえ声が響いたのちに……、かくして、二人のボクシングの対決は幕を閉じた……。






「…………」


数日後。同じく、廃墟にて。


蓮を、自分の思い描く理想の後輩に躾けるべく考えた自分の計画は、結果的に完全に頓挫した。蓮を躾けるどころか、調子に乗らせる要因を増やしただけに終わってしまった。


殴られ尽くした体の痛みはもちろん、無尽蔵にすら思えた蓮の体力と性欲を受け止めた腰や性器の痛みも、今だって無視できない。


それでも、あんなことがあっても、蓮の中で考えるところがあったらしく。


 どうやら、蓮は日ごろのメニューにボクシングの要素を加えることにしたようだ。今も目の前で、壊れかけのサンドバックを退屈しのぎに殴っている。


だが、格好はボクシングのスタイルだとしても、蓮がつけているグローブは自分が渡したものではない。


「……なぁ、俺のやったやつ、使ってねぇのか?」


 仕事の帰りであるため、作業着の下にタンクトップ姿で床に胡坐をかいていた豪太がなんとなく尋ねてみる。途端に蓮は拳を止めて、びくりと反応した。


結構いいものをくれてやったというのに、わざわざ自分で違うものを買ったのだろうか。気に入らなかったのなら、いつもの生意気な口で言えばいいのに……。


豪太の問いに、蓮は殴り終えて揺れるサンドバックを抑えつつ、少し肩を震わせた後……、悪戯な笑みを浮かべて振り返った。


「……使う訳ないじゃないっすか。俺に勝てない豪太さんから貰ったもんとか、縁起悪いし」


「……あぁ!?」


「つーか、豪太さんボクシングも弱っちぃっすね~、俺に先輩面できなくて残念でしたね?」


「っ!? べっ……、別に、んなこと考えてねぇよ!」


 汗だくの蓮が、得意げに笑いながらじゃれついてくる。肩に腕を回されて、豪太はすぐに目を逸らした。


 ……図星だった。やはりコイツには見抜かれていたらしい。だが、今更認めることなどできるはずもなく。豪太は他所を向いて誤魔化しておく。


「……ったく、世話のやきがいがねぇ奴だな。もうテメェには何もやらねぇよ」


「はぁ!!?」


 そもそもにして、余計な世話を焼こうとしたのが間違いだったかと、嘆息交じりに豪太が言う。

だが、どういうわけか、蓮は意外なほど大声で反応した。


 信じられない、といった風に目を見開いてこちらを見る蓮に、逆に豪太の側がしどろもどろと言葉を失ってしまう。


「……な、なんだよ!?」


「…………、べ、別に……。ありがたくなかったとか、いってねぇし……」


 少しの間の後、豪太が聞き返す。はっとした蓮はすぐに豪太から目を逸らす。


 ? ?? 煮え切らないような蓮の態度に、豪太は疑問符を浮かべるばかりだった。


蓮のよくわからない態度で、奇妙な空気が二人の間を流れる。やがて、小さな咳払いの後、蓮は再び、にやついた表情で豪太を見やった。


「……それより、またスパーリングしましょうよ、ボクシングの」


「っ!」


 正直、蓮に完敗した事実には驚愕したし、今でも悔しい思いはある。ボクシングには絶対の自信があったから。

されど、あんな目に遭ったのだ、すぐに拒否して然るべきだろうが……。


 馴れ馴れしくも、やはりどこか無意識のうちに子供っぽさのにじみ出ている、その態度。

豪太は己がほだされているのをどこか感じ取りながら、さりげなく目を逸らす。


「……俺のやったの、使わねぇんだろうが」


「別にグローブは何でもいいじゃないっすか」


「……ま。お前がやる気になったんなら、いいんだろうけどよ」


……本人にその意識はないだろう。だが、最近になって見せるようになったその無邪気な笑みで見つめてくるのに、豪太は断り切れぬままに嘆息を吐いた。


蓮と職場で出会った頃の、悪意に満ちた声や言葉とは、まるで違う。それを感じ取っていたからこそ、豪太もそれらを無視できなかった。


「万が一俺が負けたら、なんでも豪太さんの言うこと聞くっすよ?」


「……言ったな、男に二言はねぇぞ?」


 覚悟を決めれば、案外受け入れることはできた。


さっそくとばかりに急かす蓮に、この際雪辱を晴らす時だと、豪太は鼻を鳴らした。





 …………。



 自宅に到着する。誰もいない、自分しか住んでいない家。



 今日も豪太を殴り飛ばして負かし、何発も犯してきたから気分はすっきりだ。蓮はブーツを脱ぐと、いそいそと廊下を渡り、階段を早足に上る。



 戸を開けてベランダにでると。さっそくそれを回収した。


 色落ちしないよう手で入念に洗い、そして丁寧に日陰で乾かしておいた。


 豪太からの、初めてのプレゼント。


 それをとり、目立った傷などないか持ち上げて確認し、ボクシンググローブの紐を丁寧に結び直すと、そっと元の箱にしまい直す。


「…………へへ」


 雑誌などをどかして、グローブを箱ごと戸棚の真ん中に置く。


 それを暫くにんまりと見つめた後……蓮は伸びをして、部屋を後にした。


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