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「アラトの壁穴地獄」 その1


 神原学園の頂点を取る、そう豪語し続けた自分らしからぬ無防備さ。そして、不自由で窮屈極まりない状況に、アラトは苦い顔で呻いた。



「ぐ、ぅぅ……くそぉ……!」


 いつものように、喧嘩に呼び出された瞬間、背後から一撃喰らってしまった。それが、今省みても致命的な油断だった。


 そして、気絶して……目が覚めたらこうなっていたのだ。アラトは己の不覚を自覚した瞬間から必死になってもがいてきたものの、ゴム質に覆われた穴と腰がぴったりとはまっており、脱出ができなかった。

 服は脱がされ、体の上と下で隔てられている。つまり、むき出しの下半身には一切目が届かない。



(……多分、神原の奴だ……! 下級年か中級年か、上級年か……、クソ、果たし状にかいてなかったし、わからねぇ……!)


 そもそもにして、校外にある廃工場に呼び出されたのは、いつものように他校との縄張り争いや、強さを競うための私的なタイマン、というわけではなかった。


 相手は同じ学び舎の年上の誰か。とはいえ、頭を狙っているといい続けているアラトを気に入らない先輩は少なくはなかった。アラトは悔しげに奥歯を噛み締める。


 そもそもここは、どこなのか……、見渡してみても、コンクリートがむき出しの壁の、家具一つない簡素な部屋、以上の情報は得られなかった。



 パチンッ!!


「っぁぁっ!!」


 全裸で穴に挟まれ、ぶら下がっている状態……、アラトが呻いていると、突如、尻を叩かれた。


 向こうに、誰かがいる!? ……すべらかな皮膚を叩く、自分でも嫌になるほどの小気味のいい音が響く。アラトは首を振り上げて唸った。


「だ、誰だ……、オラァ!!」


ベチンッ!! バチンッ!!


「なに、しやがる……っ! 叩いてんじゃ、ねぇっ!! やめろぉっ!!」



「い、ぐ……っぁ……、や、やめろ……っ!」


(ま……マジで、誰だ、クソ……!! コテツか、カイチか……!? いや、わからねぇ……! いろんな奴に喧嘩売りすぎて、わかんねぇよ……っ!)


 屈辱的な尻叩きは止まらず。アラトがいくら怒鳴って壁を叩いても、壁の向こうにいる誰かは手を止める気配はない。


 バチンッ!


「ちょ……調子に乗んなテメェ、誰だオラァ!! このアラト様になめた真似しやがってっ!」


 ベチンッ!!


「っぁ……! こ、のぉぉ……、タイマンでやりあえや、卑怯者っ!!」


 バチンッ!!


「ぶっ殺すっ!! ぶっ殺してやんぞっ!! 自由になったらテメェ命はねぇからな!!」


 バチンッ!!


「ぐ、うぅ……、なんとか、いえや……っ!! く、そぉお…………!」


 壁一枚隔てた向こう側に、むき出しの尻と性器が…………、いくらもがいても逃れられない、ままならない状況に、アラトは頬を染めた。


 やられっぱなしが性に合わないアラトは、ストレス過多に追い込まれ、それは次第に、どうにもできないまま屈辱を甘んじて受ける自分への不甲斐なさへとつながっていく。きっと、壁の向こうの誰とも知れない相手は、こんな自分の羞恥心をも嘲笑っていることだろう。



(う、うぅ……こんな屈辱……、ありえねぇよ……! 裸で、ガキみたいに尻叩かれて……! しかも、誰ともわからねぇ野郎に……!!)


 ペチン パチン


 深刻なダメージではない、だが、重ねれば重ねるほど、屈辱に打ちひしがれるような痛みだった。


 口では強がっていても、誰が相手かもしれない相手に下半身のみを晒しだしている状況は、アラトの精神を摩耗させていた。弱みを見せたくない同年代の喧嘩相手なら猶更だ。



「う、ぐぅ……覚えてろや、コラァ……! 絶対に探し出して……シめてやっからな……っ!!」


 嘲笑するような感覚で尻をはたかれ続けて。恐怖に襲われ、アラトがすっかり項垂れるまで続いた。




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