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紛争学園 ~師匠への反逆~ その2


 二人きりの青年会会議所。リングの上では、一方的な殴打が繰り広げられていた……。



「ぐはははっ!! オラぁ!!」


「んぐっ、ぬふっ!!」


 ダンの大柄な肉体を潜り抜けるように接触を避け、カムラはその隙を縫うようにして拳をうずめていく。体重差の激しいダンに捕まれば一巻の終わり。だが、喧嘩で幾度となく体重差や体格差を覆してきたカムラには、簡単には捕まらない自信があった。


 逃げ回るだけではなく、反撃も怠らない。鋭い一撃がダンの突き出すように隆起した腹筋を貫通し、腹部を押しつぶしていく。



「ふふん、手ごたえありだぜ、どうだぁ? お師匠さんよぉ?」


「はぁ……はぁ……、テメェ……調子に乗んじゃねぇぞ……?」


 腹をさすりながら、ダンが苦しげに呻く。鳩尾を潰す感触に、カムラは満足そうに鼻をふかせた。


 どちらかといえば、ダメージよりも地元の先輩への不敬な態度を諌めたダンだった。が、カムラは気にした様子もなく、勝気な表情でこぶしを構えるばかりだった。


「オラ、どうしたよ? 喧嘩最強のダン様が、まさかこの程度でくたばるんじゃねぇよなぁ?」


「テメェ……っ!! 効いてねぇんだよ……! テメェみたいながりがりの拳なんざ……」


「へっ、強がってんじゃねぇよ」


「まだんな生意気な口の利き方を……!!」


 ドゴオオオオオォオオオッ!!


 ダンの言葉を遮るように、カムラは飛び跳ねながら……、次の瞬間に肉薄し、ボディを穿つ。


 カムラの身長では顔へのストレートは難しい、だが、ダンの鳩尾付近はちょうど狙いやすい位置にあった。結果、カムラの集中攻撃を許す羽目になる。自分から打撃を封じたダンは、ガードや回避に徹しつつ、ウサギのように俊敏なカムラに掴みかかる瞬間を狙うしかなかった。


「う、ぐぅっ!!」


「へっ、知ってんだぜぇ? 昔っから腹が弱ぇんだろ? この筋肉は見せかけかよ??」




 ……だが、今のカムラは、ダンがかつて可愛がっていた、ただの泣き虫の子供ではない。


 引きこもり気味だったために、自分が家から引きずり出して、連れまわし……、カムラはダンの想像していた以上に快活な人間になり、「不良」化した。義理を損なう男にだけはならなかったものの、喧嘩や男を犯す快感にに味を占めたカムラは、ついに神原学園に行ってしまった。


 格闘の才能はあったのだ、その体格や顔つきが、相手にとって罠になってしまうほどに……。


「へっ……、でけぇ奴は気合で何とかしろ、アンタから教わったことだぜ?」


 カムラはにやつきながらダンを睨みつける。腹を何度も潰されたダンは、息を乱しながらでもしっかりと立っていた。


 カムラにとっても、それは想定内の範囲だ。20代を過ぎて尚もダンの実力は本物であり、その根拠は、圧倒的な怪力と体格、無尽蔵にも思える打たれ強さにある。

 実際に神原学園では大抵の年下の生徒をねじ伏せてしまうカムラも、ダンには一度も勝ったことはない。


「こんだけぶち込まれても倒れねぇなんてなぁ……、やっぱし、でかいだけで弱ぇ後輩とはわけが違うぜ」


「ぐっ……ふふ……、ちょっとばかし、効いたぜ……、俺の元から消えた後も、鍛えてるらしいなぁ……?」


 ダンが、ふとして言う。意味の深そうな物言いに、カムラは唇を尖らせた。


「……地元の軍立に通ってたら……、俺の元で鍛えてりゃ、もっと強い漢になってただろうけどなぁ?」


「まーたその話かよ。……俺がなんで、神原からのスカウトにのったか、わかってんだろ?」


 カムラは手をひらつかせながら答えた。


 地元を取り仕切るダンに付き合ううち、カムラが喧嘩の実力をつけ始めた矢先、カムラは神原学園への進学を決めた。カムラは強くなるための足掛かりにはもってこいだと思っていたが、ダンはそれに猛反対した。

 その理由を、ダンは未だカムラにははっきりと説明しなかった。


「最強の男になれ、ガキの頃によく言われた、アンタの口癖だったよなぁ? 師匠のアンタをタイマンでぶちのせるようになるってのも、進学の理由の一つだぜ?」


 子供のころから可愛がっていたカムラが、遠い存在になってしまったことを憂いており……。何よりの問題は、神原学園に通い始めてから、カムラが自分に反逆するようになってしまったことだ。


(ぐ、ぬぬ……、クソ生意気になりやがってぇ……、昔は、俺の後をビクビク追いかけてくるのが精いっぱいだったくせに……!!)


 それが今では、自分を倒そうと、帰省の度にタイマンを挑んでくるようになってしまった。……そもそもにして2メートル越えの自分に喧嘩を売るなんて、そこいらの男ならありえない話だ。無論、昔の可愛げのあるカムラからは想像もできないこと。


(昔は子犬みたいに……、い、いや……、今も……見かけは可愛い……が……、……だめだ、今はタイマン中だろうが……っ!!)


 それがまた、カムラを遠くに行かせたくなかったもっぱらの理由であり……。ダンがじとりと睨むも、その理由が想像すらつかないカムラは気にした様子もなく、不敵に笑うばかりだった。



「ふはっ、昔の俺とは違うんだよ。アンタの分厚い腹を潰せてる当たり……、無駄じゃなかったらしいなぁ?」


「……ケッ……、うるせぇよ……、俺ぁ、まだ認めてねぇからな……」


 強くなろうと焦っていたのだろう、カムラは神原学園の入学を無理やりに決めたことでダンと壮絶な喧嘩になった。二人の間では初めての殴り合いの喧嘩……、果し合いにまで発展するほどに。


 激情に駆られたダンは、はるかに体格で劣るカムラに対しても容赦はなかった。だが、いくらダンに殴られても、失神させられても……、ダンの寂しさのあまりに抱かれ、犯されても。カムラは自分の意思を曲げず、神原学園に向かった。



(はぁ……はぁ……。カムラ……、その体格で、ここまでの威力が出せるなんてなぁ……、強くなったもんだぜ……)


 長年鍛えてきた自慢の腹筋に突き刺さった、愛弟子の拳。引き抜かれて尚も腹に残る衝撃は、ただデカいだけの男には出せない威力だ。


 そして……、神原学園に行ってしまう前の、最後の喧嘩。それが、カムラが自分に挑み続けてくる決定的な原因になっているのは、肌身で感じている。


 ……カムラは本気で、自分を超えようとしているのだ。おそらく昔から、そればかりを考えてきたのかもしれない。



(それでこそ……、俺が育てた男だぜ……、噛みつくほど凶暴にしちまったのは失敗だったかもなぁ……)


 クマとウサギのような体格差を前にして、気合を張ったまま挑める奴は少ない。大抵の奴は心が折れる。だがカムラはそれを気にもしていない。体が大きくならないと落ち込むカムラに、ダンは常日頃から立ち向かうことを口酸っぱく教えてきた。


 ……だが。カムラが、自分の元を離れてから強くなった、なんて……事実だとしても、認めるのは悔しかった。


 年を重ねたとはいえ……、こんなに体格差があり、しかも喧嘩を教えた相手に、まだまだ負ける訳にはいかないだろう。ダンは大きく息を吐き、不敵な笑みでカムラを見つめた。



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Comments

喧嘩の師弟関係みたいな、青年団みたいな関係でも創作出来たら……と思って作りました('◇')ゞ

yukibou

強くなったのは嬉しいだけど、でもその強さが一番感心な所を育つのは自分ではないから、ダンさんにとってさぞ感無量でしょう。

nensei


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