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クロキは強い、自分よりも。
ただ「先輩」であるだけでは尊敬には値しない。それはほぼすべての下級年の考えであり、強さを示せない先輩は後輩によって狙われ、喰われる。それは、弱肉強食を根底に置く紛争学園の条理でもある。
上下関係に厳しい環境下においても、時として先輩に牙を剥くアラトだからこそ、……クロキの強さは痛烈なまでに理解していた。
言い逃れも、実際に逃れることもできないアラトが、己のプライドを守るには……先輩相手に噛みつくしかなく。
だが、それはかなりのリスクを伴う抵抗となった……。
「おらぁぁぁぁっ!!」
ギシッ、ミシッ!
「がああああああぁっ!!」
クロキにタックルを食らい、そのまま組み敷かれたアラトは、クロキとそのまま肉体を重ねてキャンバスに転がった。
喧嘩の経験、そこからもたらされる実力差は二人の明暗をはっきりと隔てていた。素早く首を取り、締め上げる。手早いスリーパーホールドにてアラトの動きを封じていく。
「ふ、ぐぅ……はぁ……はぁ……!!」
「おい、「RAD」……アラトよぉ……? 俺に勝った時、気分良かったか? 年上相手に勝ち誇ってたクソガキだったもんなぁ?」
ギリッ……ミシッ……
「RAD」、自分がかつて「わんぱくプロレス」で名乗っていたリングネーム。だが、今ここにいるのは、子供の頃に二度も勝ち越した「BLACK」に対して、畏怖するばかりで何もできない自分のみ。
そもそも……、今思えば、「BLACK」にそこまで憎まれているとは思わなかった。アラトにしても、子供のいたずらの範疇だと思っていたし、リングの上では死闘を演じても、そのほかでは親友同然に気が合っていたのだ。
……いや、自分が同じ立場でも、リベンジは決め込むか。
「ん、ぁぁぁ……んが、ぁぁぁ……っ!」
「くくく、いー声で鳴きやがるぜ……、オラ、もっと鳴けよ!!」
苦しみもがくアラトの声、表情に笑みを深め、さらに締め上げを強くしていく。足を絡ませ、体を突き出させる。
クロキは喧嘩においても、その体格を活かして好んで締め技を活用した。イキがっていた相手が、自分の腕の中で弱っていく。ヤンキー同士の抗争の中でも優劣は存在し、それを喧嘩においてはっきりと自覚できる。
そして……、その嗜虐性の今の獲物は、クロキの過去にまばゆいほどの笑顔で影を落とした、「RAD」だった。
「おいおい、まだ始まったばっかだぜ。昔は俺よりも強かっただろ?」
「はぁ……はぁ……!
る、せぇ……俺よりも、弱かったくせに……! 強くなった、から……復讐するなんざ……汚ぇ、ぞ……っ!」
「はっ……、言ってろ。お前は将来何されてもおかしくねぇ、調子に乗ったクソガキだったろうが」
アラトが吐き捨てた挑発に、クロキは鼻を鳴らす。その腕に筋が浮かび、筋肉がより際立つ。
アラトがバタバタと暴れる中、クロキは自分の肉体の上でアラトの体を押しとどめ、ニヤと笑みを浮かべる。
「まさか……あの憎たらしい「RAD」と、またこうしてプロレスごっこができるなんてなぁ? ……今夜はたっぷり楽しもうぜ?」
「はぁ……はぁ……!!」
未だ、クロキの内心は推し量れない。昔のことを話すチャンスさえも与えられなかった。
ただわかっているのは……このままでは潰されかねないという危機に瀕しているということ。
……プロレスごっこ。
そんな児戯のような響きとは裏腹に……、まさか、あの「BLACK」がここまでの男に成長するなんてと後悔が頭をよぎる。アラトははっきりと生命の危機を感じてならなかった。
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yukibou
2020-10-15 11:02:14 +0000 UTC具志川葛巳Kuzumin
2020-10-15 10:37:29 +0000 UTC