SamuZai
ごむらば
ごむらば

fanbox


俳優人生最後の映画 シーン1

売れない俳優である俺、高嶋 健吾(たかしまけんご)は今、撮影現場にいる。 今年、30歳になる俺はこの映画を俳優最後の仕事と決めていた。 この撮影が終われば俳優を辞めて実家へ戻って家業を継ぐ。 そんな強い思いを持って臨んだ映画の仕事だった。 出番が迫る中、グリーンバックでのVFX(ヴィジュアルエフェクト)シーンの撮影を見学していた。 映画のストーリーは宇宙から飛来した地球外生命体イミューが人々を襲うというもの。 俺の目の前にも今、その地球外生命体イミューがいる。 人のような形をしているが、全身が濃い青色をしておりヌメヌメとした皮膚に骨格である骨が浮き出ていて、頭は耳のないイヌのようになっていた。 そんな地球外生命体で分かることは2つ。 着ぐるみである事、そしてもう1つは身長から女性ではないかという事。 そんな地球外生命体イミューが狭いダクトの中へと入っていく。 着ぐるみがつっかえて入るのは難しそうだったが何とか収まって撮影がスタート。 狭いダクトの中を移動する地球外生命体イミューを前から、そして後ろからも撮影する。 ダクトから外へ出るシーンではイミューにボディハーネスが取り付けられて逆さまで壁を伝いながら降りるシーンを撮影していた。 そんな様子を見ながら思うことはスーツアクトレスも大変だという事。 イミューは逆さまに吊るされたまま、壁を伝って降りて窓ガラスのところで止まった。 そして、窓ガラスを勢いよく凶悪な長い爪の付いた手で割ると逆さまのまま部屋の中へと入っていった。 この後のシーンはすでに撮り終えているらしい。 窓ガラスを割って侵入したイミューの前にはベッドで愛し合う2人の男女がいるのだが、その2人目掛けて口から粘着物質を出して2人の体を溶かしてしまうらしい。 そんな現場に刑事役である俺が踏み込んで現場検証を行うシーンの撮影が今から行われる。 撮影を終えボディハーネスを外されたイミューがこちらへ歩いてくる。 その姿を見て分かった事は凶悪な長い爪の生えた手は先の方まで中の人の手が収まっていないという事、そして足も同様になっているようで中の人の足よりも大きいため歩きにくそうにしていた。 「あっ、お疲れ様でーす」 地球外生命体イミューからそう声を掛けられて俺はドキッとしてしまった。 予想はしていたが、その声が女性だった事はもちろん、その声はくぐもっていたが俺の知っている人の声だったから。 「お疲れ様です」 ドキドキしながらも挨拶を交わすと、地球外生命体イミューは俺の前でイヌの様な口から着ぐるみの頭をずり下ろすようにし、まるで口から吐き出すようにして自分の頭を出した。 この地球外生命体イミューの着ぐるみにはファスナーらしきものが全く見当たらなかったので、どうやって着ているのかと不思議に思っていたのだが、どうやらこのイヌのような頭の大きな口から脱着できるようだった。 イミューの口から出てきたのは、青いテカテカとしたノッペラボウだった。 俺が驚き固まっているとスタッフがやって来て、イミューの中の人の青いテカテカしたノッペラボウのマスクを外した。 「ぷはぁ、暑かった!」 そう言って出て来た顔に俺は固まったまま動けない。 「ごめんなさい、こんな酷い顔で」 そう言って少し顔を赤らめた彼女の顔を凝視し続ける俺。 髪が乱れ汗が滲む彼女、地球外生命体イミューから出てきたのはがあの優木 咲良(ゆうきさくら)だったから。 今でこそ、人気はなくなったがデビューした当時はアイドル女優としてテレビで見ない日はなかった。 俺と同じ歳である彼女に会いたいと思い、俺は俳優を目指したのだった。 そんな彼女とこんな形で会えるなんて思ってもみなかった。 そんな彼女から衝撃の事実を聞かされた。 「高嶋さん、明日の撮影で共演させて頂きます優木です、よろしくお願いします」 「あっ、はい、こちらこそよろしくお願いします」 そう返したが、俺のドキドキはさらに増し興奮へと変わっていた。 なぜなら、明日の撮影は刑事である俺が自宅で妻と愛し合っている時にイミューに襲われるシーンだから。 その後のストーリーは刑事の俺がやられた事で警察が一丸となりイミューを退治するのだが、残念ながら俺は明日のシーンが終われば撮影は終了となる。 俳優人生最後に憧れだった優木さんとの共演しかも夫婦役というのは幸せで天にも昇る思いがした。 そんな地球外生命体イミューの着ぐるみを着た優木さんの背中を見送った俺の撮影が始まる。 シーン2につづく

俳優人生最後の映画 シーン1

More Creators