これは私、天野 凛(あまのりん)がアーティスティックスイミングの日本代表から怪我で外れた時の事。 傷心を癒すのと原点に戻って自分を見つめ直すために地元に帰ったのですが、田舎では有名人だった私の下へ、すぐに役場の人がやって来た。 当然、怪我の事や代表復帰の事を聞かれるのかと思っていたのだが、意外にも聞かれた事は村にいつまでもいるのかという事だった。 具体的には決まっていないが、しばらくいる事を伝えると村役場の会議室に呼ばれた。 村長さんや村の偉い人が集まる中、みんなが一斉に頭を下げ、お願いをされた。 状況が分からず話を聞く事にした。 村では過疎化が進み、どんどん人が少なくなってきている現状をなんとか打破しようという事になったらしい。 そこで知恵を絞って出て来たのが、ゆるキャラ。 だったのだが、今はゆるキャラブームも去りつつあり、普通のゆるキャラではダメなことは誰もが分かっていた事だった。 そこで若い人の発想を取り入れようと意見を聞いたところ、海女漁の盛んだった村だから海女漁をする着ぐるみはどうかという意見が出たらしい。 ただ、若い人の中には海女をしている人も潜れる人もいない、かと言って高齢化の進む海女さんに着ぐるみを着せて潜れというのも酷な話で終わっていた。 なんの打開策も見出せない中で、私が村へ帰って来ているという情報を聞きつけ、ここに呼ばれたという訳だ。 「天野さん、着ぐるみに入って海女漁をして村を盛り立てもらえないだろうか?」 村長や村のお偉いさんたちに頭を下げられて私は断り切れなくなった。 私の大好きな村のため、そして私は着ぐるみにも興味があったので入ってみたいとは思っていた。 ただ、一つ気になるのはどんな着ぐるみかという事。 あまりに酷い出来の着ぐるみだったら、お断りしようと思った。 そこで聞いてみた。 「すみません、どんな着ぐるみなんですか?デザイン画とかあればみてみたいんですが… 」 私がそう言うと村長が役場の職員に合図をすると、少しして会議室のドアがノックされた。 そして、着ぐるみが入って来た。 顔は凄く可愛く、口角の上がった口が魅力的で笑顔が素敵なキャラクターだった。 水色の髪はツインテールで髪に合わせたのだろう、大きな瞳も水色だった。 手は5本指に別れているが大きく、足も大きく作られていた。 「可愛い!」 私の言葉に村長以下みんなが胸を撫で下ろすのが分かった。 私の言葉に着ぐるみが反応し、私に抱きついてきた。 「そのキャラクターの名前は【アマリンちゃん】としたのだが、気に入らなければ変えてもいいですよ」 村長はそう言ったが、アマリンが私の天野 凛と似ていて親近感が湧いたので、このままでいい事を伝えた。 ただ一つ、村の皆さんにお願いしなければと思う事があった。 それは私が【アマリンちゃん】になったとして、身バレしない事。 地元へ帰って着ぐるみの中身をしている事が広まれば、引退すると囁かれるかも知れないと思ったから。 私はもう一度なんとしても日本代表に復帰するつもりだったから。 それについては村長も約束してくれ、絶対にバレない方法を模索してくれる事となった。 私が【アマリンちゃん】になる事が決まって、まず声を上げたのが【アマリンちゃん】だった。 「ありがとう凛、やっばり凛は私のヒーローだよ!」 涙混じりのくぐもった声で私にそう語り、抱きついてくる【アマリンちゃん】に私は動揺を隠せない。 「頑張ったんだけど、私カナヅチだから」 そう言いながら抱きついてくる【アマリンちゃん】を私は少し困った顔で指差すと、村長が職員に指示を出した。 私から少し【アマリンちゃん】を離すと、口の中へ手を突っ込んだ。 そして何かすると、【アマリンちゃん】の口角の上がった口が外れた。 口の中から顔だけ露出した全身タイツ姿の女性の頭が飛び出してきた。 「凛、会いたかったよぉー!」 そう言って私に抱きついて来たのは高校の同級生 長谷川 美羽(はせがわみわ)だった。 「え!美羽だったの?」 運動音痴の美羽は当然カナヅチだったが、村のために【アマリンちゃん】を着て海女漁を頑張ったのだろう。 昔から頑張り屋の美羽を知っているから、その場面が容易に想像できた。 「もう大丈夫だよ!美羽、あとは私が引き継ぐからいろいろ教えてね」 そう言うと美羽は涙で顔をぐしゃぐしゃにして何度も頷いた。 気づけば、村長たちは立ち上がって私たちに拍手を送ってくれていた。 私はそれから役場に頻繁に通い美羽からいろいろと教えてもらう事になった。 海でのアテンドはもちろんベテラン海女さんにお願いしている事、陸上でのサポート役として美羽ともう1人高校の2年後輩の五島 美波(ごとうみなみ)ちゃんも加わる事も。 その他には力仕事のために若い男性職員2人と副村長もサポートしてくれるという事を聞かされた。 一番気になるところは、やはり着ぐるみを着て海に潜れるのかという事。 そして、なんと言っても呼吸の確保が最重要事項になってくる。 そこを尋ねると美羽は自信満々に説明を始めた。 「アマリンちゃんの口角の上がった大きな口が外れることは知ってるよね、実はあの裏側には潜る際携帯型の酸素ボンベを取り付けます、だから水の中でも呼吸は大丈夫だよ!」 「それと【アマリンちゃんの目の部分は外側から見ても分からないけどレンズになっていて内側からはよく見えます!」 私は美羽の説明を頷いて聞いた。 「あ、そうだ!凛、一度【アマリンちゃん】を着てみる?」 「うん、いいの?」 「もちろん、すぐに準備するね」 そう言うと美羽は走って出ていってしまった。 部屋には私と五島 美波ちゃんの2人が取り残された。 美波ちゃんがポツリと言った。 「天野先輩ごめんなさい、私も運動音痴で全然力になれなくて… 美羽先輩物凄く頑張ってくれたんだけど、私たちではどうしても着ぐるみを着ての海女漁は難しくて… 」 俯き加減でそう言う美波ちゃんに私は声を掛ける。 「大丈夫だよ!美羽にも言ったけど私がちゃんと引き継ぐからサポートお願いね」 そう言うと美波ちゃんは涙を浮かべながらも笑顔を見せた。 そんな会話から程なくして美羽が段ボール箱に入った【アマリンちゃん】を持って戻ってきた。 段ボール箱を見て私が言った。 「改めて見ると大きいね、可愛いのに」 「そうだね、1人で持ち運ぶのは難しいから… 段ボールに入っていたら運び易いんだよ!」 「段ボールから出すから凛も手伝って!」 そう言われて、私と美羽、それに美波ちゃんの3人で【アマリンちゃん】を引っ張り出した。 段ボール箱は大きかったが、出て来た【アマリンちゃん】は美羽よりも少し大きいくらいで、しかも軽かった。 「どうする?私のでよかったら全身タイツ使う?」 確かに美羽の入った【アマリンちゃん】に抱きついた時、かなり弾力があった。 着ぐるみは厚みがあり、中はかなり暑そうだ。 それに【アマリンちゃん】から顔出した美羽の顔からは大粒の汗が吹き出していた。 このまま着ぐるみに入ったら汗で大変な事になりそうだと思い、美羽の申し出を受ける事にした。 早速、別室で全裸になってから全然タイツを着てみた。 私よりもふくよかというより、私が日々トレーニングしているので体が締まっていて、私より少し背の高い美羽に合わせた全身タイツのため、ブカブカなのは否めなかった。 それでも汗だくで私服が汗でびしょびしょになるよりはマシだと思い、全身タイツに着替えて2人の下へと戻った。 私はもの凄く恥ずかしかったのだが、2人は私の全身タイツ姿に気を留める事はなかった。 普段から美羽の全身タイツを見てきたからだろう。 早速、着ぐるみ【アマリンちゃん】の試着が始まった。 つづく