SamuZai
ごむらば
ごむらば

fanbox


人魚になりたい!

「今日は特別な人魚になれるという事でアクアマーメイドさんにお邪魔しています」 レポーターの吉澤 舞美(よしざわまみ)が元気にレポートを始めた。 「アクアマーメイドさんはエントラスを入ってすぐに大水槽があり、そこで人魚になりたいという生徒さんのレッスン風景が見れるようになっています」 「それではアクアマーメイドの代表 水神 紫乃(みずかみしの)さんにお話を聞いてみたいと思います」 舞美は人マーメイドレッスンの説明をじっくりと聞いた後、水神さんが舞美に尋ねた。 「吉澤さん、マーメイドになってみたいと思いませんか?」 舞美はすぐに答えた。 「一度やってみたかったんです!」 「では、今日は吉澤さんに特別なマーメイドになってもらいましょう」 「ヤッター!」 笑顔で喜ぶ舞美とは対照的に、水神紫乃は不敵な笑みを浮かべていた。 「では、別室に移動して準備してきますので、ついてきて下さい」 水神紫乃と女性スタッフの後を舞美とロケのスタッフがゾロゾロとついて行く。 移動した先はウエットスーツを作製する工場のような所であり、いろいろな機器が並んでいた。 「ここはマーメイド ファクトリー、つまり人魚の工場です」 「では、吉澤さんこちらへ来て女性スタッフの指示に従って準備してもらえますか?」 「はい!」 舞美は元気よく返事をして、女性スタッフの後に続いて個室へ入っていった。 「スタッフの方はこちらでお待ち下さい」 しばらくすると、舞美と女性スタッフが、個室から出てきた。 舞美はダークブルーのラバー製の競泳水着を身につけ、頭をすっぽりと覆うように同じダークブルーのラバーマスクを着けている。 見た目にはダークブルーのノッペラボウ。 ロケディレクター藤白 隆弘(ふじしろたかひろ)が舞美を心配して声をかける。 「吉澤さん、息できるんですか?大丈夫ですか?」 舞美は心配してくれる藤白ディレクターの方を向いて、大丈夫と伝えるようにサムズアップをして見せた。 「このマスクを被ると呼吸や飲み物などは摂取可能なのですが、話す事ができなくなります」 と水神紫乃が説明を加えた。 「では、吉澤さんこちらに来て下さい」 女性スタッフが呼んだ先には大型のスキャナーがあり、まずは舞美の体型をスキャンする。 次に水神紫乃が舞美を呼んだ所には人魚のような型がある。 言うなれば、たい焼きの型のようなもの。 人魚の型は舞美のスキャンデータを基に変形し準備が整っていた。 「それでは、吉澤さんここへうつ伏せで寝て頂けますか」 顔の所だけ穴があいており、そこへ顔を入れて、うつ伏せに横たわる舞美。 腕は軽く開く形で体にはくっつけない。 両足を閉じた状態の舞美の足に女性スタッフがダークブルーのラバーでできたヒレ付きの人魚の下半身を履かせていく。 「これで準備は完了です、しばらく動かないで下さいね」 水神紫乃の声に頷く舞美。 人魚の型の上から同じような人魚の型がゆっくりと降りてきて、舞美を上下でプレスした。 少し焦ったように藤白ディレクターが水神紫乃に詰め寄る。 「あんな事して、うちの吉澤、大丈夫なんですか!」 水神紫乃は藤白に言った。 「5分経てば、ダークブルーの人魚が出てきますよ」 待つこと5分。 『ピー』 という5分経過を知らせる音ともに人魚のプレス機が開いた。 そこにはダークブルーの全身がツルツルテカテカの人魚がいた。 水神紫乃が説明を始める。 「特別なマーメイドとは全身をラバーで完全に覆い尽くし、水の浸入を完全に遮断してしまう人魚です、そして当然、そう簡単には脱げません」 舞美を心配した藤白ディレクターが水神紫乃に再び食ってかかる。 「吉澤はずっとこのままなのか?」 水神紫乃は藤白ディレクターを軽くあしらう。 「まあまあ、最後まで説明を聞いて下さい、ある一定時間水に浸かっていれば脱ぐ事はできます、だから今から大水槽へ行き、マーメイドレッスンを始めます」 人魚になった舞美は話す事はできないようだが、ショックは微塵も見せず、その動きは元気そのものであった。 水神紫乃が舞美に言った。 「では早速、マーメイドレッスンを始めましょう」 女性スタッフがタイミングよく台車を持って来た。 舞美はそれに乗ると大水槽まで運ばれていった。 縦横10m、深さ8mの大水槽に連れて来られた人魚は台車からそのまま大水槽へと入水。 そのまま、深く潜ったり水中で回ったりして楽しそうに泳ぎ回る。 しかし、すぐに浮上すると女性スタッフに身振り手振りで何かを訴える。 その仕草から人魚は寒いと伝えたいようだった。 水神紫乃と女性スタッフで一旦、ダークブルーの人魚を引き揚げる。 水に濡れたダークブルーの人魚は体に光沢が加わり、女性独特のフォルムもどこか妖艶で神秘的な印象を受けた。 「ディレクターさん、一度彼女に触れてみてはどうですか?」 水神紫乃が藤白ディレクターに提案すると、少し恥ずかしそうにして断る藤白ディレクターだったが、人魚が【来て】と言うように両手を広げると、吸い込まれるように人魚と抱き合った。 抱き合った感触はいつもの舞美とは全く異なるものだった。 そう、藤白と舞美は付き合っていたのだ。 異常なほどに食って掛かっていたのは、2人が恋人同士である事に他ならなかった。 「それでは人魚が寒くないように加工を施しますので、マーメイドファクトリーに戻りましょう」 水神紫乃がそう言っている間に人魚は女性スタッフに手伝って貰い再び台車へ乗っていた。 再び、マーメイドファクトリーへと戻る一行。 マーメイドファクトリーに戻ると女性スタッフがまたあのプレス機の準備を始めている。 水神紫乃が言った。 「今から吉澤さんがプールでも寒くならないように加工していきます」 そう言っている間にも女性スタッフが舞美を人魚のプレス機にうつ伏せにセットしていた。 「ちょっと待って水神さん!」 藤白ディレクターが水神紫乃に声をかけた時にはプレス機は動き出し、舞美は再びプレスされてしまった。 今度のプレスは先ほどよりも長く10分ほど経過しただろうか。 藤白ディレクターは舞美の人魚のプレスを止められなかった事をただただ悔やんでいた。 10分が経過したのだろう。 『ピー』 という音を立てながらプレス機が開いた。 ダークブルーでツルツルテカテカだった人魚は全体的に少し厚みを増したようにも見える。 そして何より大きく変化した所は全身に鱗、手には水掻き、足は立派な尾ひれに変わっていた。 そして見たこともない奇妙な顔の生物となり、ラバーで出来た髪の毛も追加されていた。 「これで吉澤さんは水の中でも寒くないと思いますよ」 「それに全身に鱗があるので泳ぐ際、体が安定します」 「さらに手には水掻きも付いて、尾ひれもしっかりとした物になりました」 スタッフ一同、水神紫乃の話を聞いていると、人魚に近づいた舞美が三度プレスされていく。 「ちょっと、水神さんあなた、うちの吉澤に」 藤白ディレクターが声を荒げたが時すでに遅く舞美はまたプレスされてしまった。 「次はいったい何をしたんですか?」 語気を強める藤白ディレクターに水神紫乃が答える。 「仕上げです、人魚らしい着色と完全にマーメイドスーツに閉じ込めるコーティングを施しています」 藤白ディレクターは顔を真っ赤にして水神紫乃に向かっていく。 その間にADの女性が割って入った。 「皆岸どけ!俺は納得がいかん!」 ADの皆岸は下を向いて肩を震わせている。 「何がおかしい!」 怒りを露わにする藤白ディレクターの前で、ADの皆岸は帽子とメガネ、マスクを取った。 そこには吉澤舞美の姿があった。 「ドッキリ大成功!」 もう1人のADの男性 高遠 謙也(たかとうけんや)がプラカードを持ってカメラにフレームインした。 吉澤舞美とADの皆岸 伽耶(みなぎしかや)はダークブルーの水着に着替えマスクを被る際に入れ替わっていたのだった 吉澤舞美とADの皆岸 伽耶はもともと背格好も近くスタイルも遜色ない、ただ派手な舞美に比べて伽耶は大人しく地味な印象だった。 そして、このロケ班はよくフレームに乱入してくる藤白ディレクターとそれを止めるADは視聴者にも認知されていた。 視聴者からも一度藤白ディレクターにドッキリを仕掛けたら面白いのではという意見が多数寄せられていた。 こうして、プロデューサー主導の下、今回のドッキリがアクアマーメイド 水神紫乃さんの協力のもと実行されたのだった。 最後にアクアマーメイドの水神紫乃、女性スタッフ、藤白ディレクター、吉澤舞美、AD高遠が入って記念撮影をしてドッキリのロケが終了した。 藤白ディレクターは水神紫乃に謝罪とお礼をしてから撤収作業にかかった時、『ピー』という音ともにプレス機が開いた。 中からは着色され、全身をコーティングされた化け物のような人魚が現れた。 「皆岸、帰るぞ!」 藤白ディレクターが声をかけるが、話す事のできない伽耶は身振りで応えた。 「皆岸を脱がせてやって貰えませんか?」 藤白ディレクターが水神紫乃に言った。 「すみません、全身コーティングしてしまったので、すぐには脱がせられないんです」 「3日後に来てもらえればコーティングも劣化して脱がせられると思います、多分」 「分かりました、また3日後お願いします」 このやり取りは伽耶に届いていなかった。 「高遠、おまえ皆岸をおぶってやれ、帰るぞ」 そう言われて、焦ったのは高遠謙也と皆岸伽耶。 特に伽耶は着替える事なく撤収する事に違和感しかなく、あたふたしていた。 結局、話す事のできない伽耶は藤白ディレクターに反論する事もできずに謙也におんぶしてもらいロケ車に乗せられた。 ロケ車の最後尾の席に並んで座る2人。 歩く事と言葉を取れ上げられ、手も水掻きで動きが制限された伽耶の不安は計り知れないものだった。 唯一の救いは隣に座る謙也が、伽耶の手をぎゅっと握ってくれている事だけだった。 局に帰って今日は解散となったが、人魚の化け物にされた伽耶に与えられたのは車椅子だけだった。 そして、伽耶の世話は謙也が命じられた。 もちろん、これは謙也と伽耶が付き合っている事を藤白ディレクターは知っての事だった。 車椅子に乗せたところで人魚の化け物にされた伽耶は目立って仕方ない。 そこで謙也はロングスカートを履かせ、尾びれとなった伽耶の足を完全に隠した。 上半身はパーカーを着せてフードをしっかりと被せた。 少し大きめのダウンコートを着せてさらにフードも被せ、膝に置いた水掻きの付いた手を伽耶のバッグで隠した。 そして、テレビ局を人魚の化け物となった伽耶を車椅子に乗せて押していく謙也。 そんな謙也が車椅子を押して向かった先は、アクアマーメイドだった。 代表の水神紫乃が出迎えてくれる。 「あら、早かったわね」 そう言うと謙也と人魚の化け物となった伽耶をマーメイドファクトリーと通してくれた。 謙也は伽耶をプレイ機へとセットした。 「本当にいいの?あなたの彼女でしょ?」 あの水神紫乃が不安そうに謙也に聞いた。 「ええ、伽耶とも話をして2人で決めた事なので」 「このコーティングをしたら一生彼女は今よりも酷い化け物の姿で元に戻れなくなるのよ」 「ええ、分かっています、彼女も同意の上です」 「分かったわ」 水神紫乃はプレイ機を操作した。 プレイ機が閉じて不気味な音だけがマーメイドファクトリーに響くのだった。 謙也は異形の姿をしたクリーチャーのマーメイドのイラストをよく描いていた。 そんな謙也のイラストを見た伽耶が言った。 「このマーメイド凄く不気味で嫌悪を抱く姿なのに、どこか魅力的で惹きつけられるね」 「もし、こんな姿になれるんだったら私を謙也のお嫁さんにしてくれる?」 「えっ!」 謙也は伽耶のその言葉に固まった。 まさか、自分の描いた理想のマーメイドになりたいという女性が現れるなんて夢にも思っていなかったから。 「このマーメイドも素敵だし、謙也が望むなら一生この姿でもいいよ!」 伽耶の言葉は本気だった。 それから謙也と伽耶はそんなマーメイドにしてくれるところをずっと探し求めていた。 そして見つけたのがアクアマーメイドのマーメイドファクトリーだったのだ。 1時間掛けてプレスされた伽耶の姿は、ドッキリを仕掛けたあの時の人魚の化け物とは比べ物にならないほど、不気味で嫌悪を抱く姿となった。 そんなもう元に戻ることのできない自分の姿を見た伽耶の仕草は喜びに満ち溢れていた。 「これであなたの彼女 皆岸 伽耶さんは一生あの姿よ」 謙也はそう言った水神紫乃の言葉に頷いた後、お願いをした。 「アクアマーメイドの大水槽で挙式を上げさせて貰えませんか?」 突然の申し出に水神紫乃は驚いていたが、何かを感じたのか目を瞑って頷いた。 数日後、大水槽の周りには多くの報道陣が詰め掛けていた。 その中には藤白ディレクターと吉澤 舞美の姿もあった。 謙也はタキシードの柄のウエットスーツを着て潜水機材を装着、一方伽耶はさらに異形の人魚の化け物の姿だが、体の中に空気を溜めることができるので潜水機材の必要はなかった。 プールに飛び込んだ2人。 謙也の周りを楽しげに泳ぎ回る異形の人魚の化け物。 プールの底には神父に扮した水神紫乃の姿があった。 顔全面を覆う水中メガネは水槽の外の報道陣にも声が聞こえる。 それを水神紫乃と謙也は着けている。 誓いの言葉を交わすと謙也は水中メガネを外して、異形の人魚の化け物となった伽耶とプールの底でキスをした。 今でも伽耶の姿は異形の人魚の化け物なままだが、謙也のずっと変わらぬ愛情を一身に受けているという。 おしまい

人魚になりたい!

More Creators