『ピンポーン!』 私は【池上】と書かれた表札のお宅のインターホンを押した。 家の中からは女性が出てきて、私の顔を見ると女性の表情は明るくなった。 「凛ちゃん、凛ちゃんだよね、久しぶり、どうしたの?入って入って!」 「お久しぶりです」 私が頭を下げると、女性はすぐに私を家に招き入れてくれた。 「大地に会いに来たんでしょ、2階にいるからどうぞ!」 「ありがとうございます、失礼します!」 池上 大地(いけがみだいち)は私の幼馴染み。 家族ぐるみの付き合いもあるので、こんな感じの対応だ。 私は階段を上ってすぐにある部屋の扉をノックした。 「なにー?」 中から大地の声が聞こえてきたので扉を開いた。 大地の部屋は昔と違い、意外と整理整頓されていた。 母親が入って来たと思っている大地は、私に背を向けたまま、パソコンに向かっている。 パソコンのモニターを食い入るように見ている大地の背後に立って私もパソコンのモニターを覗いた。 そこには今日撮影してきたばかりの【アマリンちゃん】の写真が多数並んでいた。 「へぇー、大地って着ぐるみ好きだったんだ!」 私の声にビックリして、大地が勢いよく振り返った。 中腰の姿勢になり、顔を突き出すようにしていた私も悪かった。 私は生身での大地との久しぶりの再会にいきなりキスをしてしまったのだ。 1秒、2秒…いやそれよりもずっと短ったと思う。 私は大地とキスをしている時間、時が止まったように長く感じられた。 それはきっと大地も同じだろう。 「あっ、ごめん!」 「私こそ、ごめん!」 どう対応していいか、分からずにお互い距離を取った。 「凛、久しぶりってか、人の部屋に入って勝手にパソコン覗くなよ!」 「大地が全く気づかないからじゃん!」 そう言った後、お互いどう声を掛けていいか分からずに押し黙ってしまった。 顔を真っ赤にして。 「あのさー、着ぐるみ好きじゃなくて、これは仕事なの!」 「取材と称してテントに忍び込むことも仕事?」 「それは… ってか、なんで凛が知ってるんだよ!」 「美羽に聞いたからだよ!」 「美羽って、長谷川 美羽か?」 「そうだよ!美羽は役場の仕事をしてるから聞いたんだ」 「え!長谷川って着ぐるみとも関係ある仕事してるの?」 そう聞かれて自分でもシマッタと思ったが、もう遅かった。 「なぁ凛、長谷川に着ぐるみの取材させて欲しいと頼んで貰えないか?この仕事が終わらないと俺スポーツ部門に戻してもらえないんだ、お前からも頼んでくれないか、お願い!」 必死に頼み込んでくる大地の頼みを断りきれず、私は大地のお願いを聞くことになった。 着ぐるみの話が落ち着くと、先ほどのキスを思い出して顔を赤らめて黙り込んでしまう。 私はその場の空気に耐えきれずに立ち上がると言った。 「じゃあ私、美羽にお願いしてみるね、また!」 そう言うと足早に大地の部屋を出た。 “私はいったい何をしに来たのだろう” そう思いながら階段を降りていくと、大地のお母さんとすれ違った。 「あれ凛ちゃん、もう帰っちゃうの?」 「はい、ちょっと用事を頼まれたので!」 そう言って頭を下げて大地の家を出た。 大地の事は昔から好きだった。 だから、着ぐるみ姿だったが久しぶりに大地の会えたのが嬉しくて、茶化して楽しく会話をするつもりで大地の家に行ったのにいきなりキスをしてしまった。 心の準備もしていなかったので、その場に居られなくなって逃げ帰るような形になってしまった。 「私、何してるんだろ」 そうポツリと呟いて歩く。 唇には大地とキスをした感触が鮮明に残っている。 私はまた顔を赤らめながら思った。 “大地は私とキスをして嫌じゃなかったのかなぁ” 頭の中は大地の事しか考えられない。 「あっ!」 大地に頼まれた事を思い出した。 大好きな大地の頼みなので、一度美羽に確認してみる事にした。 美羽に電話で事情を話すと、観光客の少ない平日ならとあっさりOKしてくれた。 ただし、条件付きで。 つづく