スーツアクターの仕事をしている私、小池 由香(こいけゆか)は最近では女の子向けのキャラクターの仕事ばかりを選んでいた。 シフト制で仕事を選り好みしていたので収入が減ってしまい、予定がなくスケジュールが空いていたので思わずシフトを入れたのが不味かった。 その日はウルトラマンのショーしかなく、割り当てられたのは怪獣だった。 見た目は重そうに見える怪獣だが、女性の私でも操演はできる。 怖そうな見た目とは違い、怪獣の内部は歴戦の勇者の汗によるカビ臭、そして耐え切れなく嘔吐物によるこの世のものとは思えない異臭の中に入って操演しなければならない。 シフトを入れた事を何度も何度も悔やみながら、怪獣の中へ入ると私の体では埋まり切れないスペースに怪獣の中と同じ異臭のするウレタンが大量に詰め込まれる。 もうこの時点で暑さ、そして軽い吐き気に襲われていると、背中のファスナーが一気に閉められた。 こうして、私は怪獣レッドキングとなった。 ショーが始まると、すぐ私の出番。 舞台に登場すると子供たちの悲鳴や歓声が聞こえる。 会場には多くの親子連れがショーを見にやって来ていた。 私と身長の変わらない司会のお姉さんに襲い掛かると、ウルトラマン3人が登場して1対3の戦いが繰り広げられる。 ここまでは若干のストーリーの違いはあれど大体どのショーでも同じ流れ。 効果音は音響さんが動きに合わせて付けてくれる。 実際には寸止めだったり、攻撃する、されるフリなのだが着ぐるみを着ていて視界が悪いため距離を誤って直に攻撃を喰らうこともある。 男性同士や女性同士ならまだしも、女性が男性の攻撃を喰らうとかなりのダメージを受ける。 そして、今日も不運の一発が私の体に入った。 着ぐるみとウレタンに守られているはずだが、体に衝撃が走り本気の痛みでその場に蹲ると子供たちから歓声が上がった。 こんなにも暑く、臭い怪獣の中で頑張っている女の子への声援はなく、ウルトラマンだけに声援が送られるのは不公平過ぎる。 しかも、男性3人に女性1人がボコボコにされているのだから。 先ほどの一撃で動けなくなった私はうつ伏せで苦しむ演技をしながらも痛みからの回復を待つ。 ところがそんな私の足を掴んで仰向けにするウルトラマン。 仰向けになるとすぐにもう1人のウルトラマンに片足を掴まれた。 舞台中央で股裂状態にされる。 “いやっ、ちょっと待って!そんな恥ずかしいポーズにしないで!見ないで!” 私は必死に腕を伸ばしてウルトラマンの腕を払い除けようとするが、レッドキングの短い腕に加え、メタボのようなお腹が邪魔をしてウルトラマンの腕には届かない。 2人のウルトラマンに股裂にされ、もう1人のウルトラマンが私のお股に蹴りを入れて攻撃を加える。 もちろん、当たらないのだが、今度は踏みつけてグリグリしてくる。 これはフリでなく実際にグリグリされる。 “ちょっと、やめて!変な気分になっちゃうよぉー!” そう思って耐えていると、よりグリグリしやすいように2人のウルトラマンがさらに力を込めて股裂をした時だった… 。 『ピシャー!』 私の下半身辺りで聞いたこともない音がしたかと思うと、急に涼しくなった。 同時に私はさらに股裂をされ、外気に晒される感覚がした。 すぐにはどうなったのか分からなかったが、股裂をしていたウルトラマンが私の左右でひっくり返る音ともに、私はウレタンからの圧迫も怪獣の着ぐるみの暑さからも解放されたのだが会場は大騒ぎ。 ウルトラマン2人による力任せの股裂攻撃に経年劣化したレッドキングの着ぐるみは耐えられなかったのだろう。 レッドキングは真っ二つになり、詰め込まれたウレタンが溢れて、私はキャミソールにレンギンス姿をショーを見に来たお客さんの前で晒してしまった。 当然、汗だくで顔は真っ赤。 私は慌てて舞台横のテントへと走り込んだのだが、その途中目に入った光景が忘れられない。 怪獣から女の子が出てきて何が起こったのか分からず口を開ける子供たち、全く想定もしていなかった光景に付き添いのお父さん方が食いついていた。 私はきっと着ぐるみの中で操演していた時よりも赤い顔をしてテントの中へ走り込んだ。 私の後からは真っ二つになったレッドキングを抱えたウルトラマン。 そして、大量のウレタンをビニール袋に詰めたスタッフが次々にテントへ飛び込んできた。 結局、午前のショーは中止となり急遽ウルトラマンの握手会が実施される事となった。 私もウルトラマンの1人となり握手会に参加することに。 その握手会はいつもより多く、ウルトラマンをジロジロと見るお父さん方が多かったのは私の気のせいではないだろう。 おしまい