ここでお色直しということで、俺と中谷さんは退場する。 2人並んで一礼して会場を出ると司会者の声が聞こえてきた。 「ここで一旦休憩を入れます、着ぐるみを着ている方は十分に水分補給して下さい」 休憩は怪獣の着ぐるみを着て歌を歌って苦しそうにしていた彼女たちのためなのだろうとすぐにそう思った。 そんな俺と中谷さんの下へスタッフがやって来ると、お色直しの部屋へ先行して案内し始める。 それに着いて行こうとしたが、かなり歩きにくそうにしている中谷さんを見た俺は彼女をお姫様抱っこをして運ぶことにした。 突然のことで彼女は驚いているようだったが、素直にそれを受け入れ、俺の首に腕を回してきた。 俺の首に回された彼女の銀色と赤色をした腕はかなりの熱を帯びていた。 息苦しく暑い着ぐるみの中で頑張っている彼女に俺は頭の下がる思いだった。 お色直しの部屋まで中谷さんを運んで、俺は部屋を出て行こうとするとスタッフに呼び止められた。 「ここで彼女と一緒にお色直ししますので、この部屋にいて下さい」 そう言われて部屋に留まる。 すると、スタッフはウルトラウーマンとなった彼女のウエディングドレスを脱がせ始めた。 見ていいものか微妙な気持ちだが、自然と目がいってしまう。 まあ、ウエディングドレスの下が着ぐるみなので問題ないだろうと思うことにした。 スタッフはウエディングドレスを脱がせると、その下にはコルセットが巻かれていた。 着ぐるみを着ているのでより細く見せるためにコルセットを巻いているのだろうが、中谷さんは辛いだろうと思った。 そんなスタッフはコルセットに手を掛けることなく、ウルトラウーマンの背中のファスナーにも手を掛けた。 そして、何の躊躇もなくファスナーを下ろしていく。 これは流石に見てはいけないものだろうと思うのだが、目を逸らすことができなかった。 俺はウルトラウーマンの着ぐるみが脱がされるのを凝視する。 着ぐるみのファスナーの奥に見えてきたのは黒いもの。 髪の毛かと思ったが、そうではなさそうだった。 中谷さんの頭が全て着ぐるみから出されたのだが、坊主頭でテカテカしていた。 そんな中谷さんにスタッフが飲み物を渡していた。 それを受け取ると口に運ぶ中谷さん。 思わず気になって中谷さんの顔が見える位置まで移動した。 そんな俺に気づいた中谷さんがこちらを見た。 中谷さんの顔は黒光りしたほぼノッペラボウ。 僅かに開いた口元の穴からストローを咥えて水分補給しているようだった。 ビクッとしてしまう俺に中谷さんは言った。 「あっ、これインナーなんですよ、ノッペラボウに見えますけど、口と鼻から呼吸もできるし、目も見えているんですよ」 そう言う中谷さんの声の調子から、ノッペラボウの下で彼女が笑っているのが分かった。 「新郎もお色直ししますので、これに着替えて下さい」 そう言われ、俺は着ているタキシードとは別のタキシードを渡された。 更衣室へ入って着替えるのだが、中谷さんの着ぐるみから頭を出した姿が頭から離れなかった。 それを振り払うように頭を振ったあと、俺はスタッフに渡されたタキシードに着替えた。 更衣室から出ると中谷さんは黒光りするノッペラボウからウルトラウーマンに戻され、赤とシルバーのドレスを着せられている途中だった。 中谷さんは俺と目が合うと、小さく手を振って来る。 彼女の着ぐるみを着た姿以外はまるで本当の結婚式のように思えた。 中谷さんの準備を見ながら俺は彼女を待つ。 程なくお色直しというより衣装チェンジが終了すると、中谷さんが俺の目の前にやって来た。 「また、抱っこして連れて行ってもらえますか?」 俺は笑顔で頷くと立ち上がり、赤とシルバーのドレスがとても似合うウルトラウーマンをお姫様抱っこした。 俺の首に腕を回す中谷さんの体温が先ほどよりも高くなっているような気もする。 そんな中谷さんの体温を直に感じドキドキしながら披露宴会場へと戻った。 今からキャンドルサービスで各テーブルを回る。 入口で待っているスタッフが中のスタッフと連絡を取り合い、中に入るタイミングを図っている間に中谷さんに聞いてみた。 「足、痛くない?大丈夫?」 「はい、抱っこして運んでもらったお陰で痛くないです」 「それは良かった」 俺がニッコリ笑うと、ウルトラウーマンも頷いて見せた。 扉が開くとスポットライトが当てられスモークの中、音楽とともに入場すると拍手で迎えられる。 各テーブルのキャンドルに火を灯して歩く。 新郎側のテーブル席はともかくとして、新婦側のテーブル席が凄い。 ウルトラヒーローたちが服を着て着席しているのだ。 子供だったら大興奮というか、大人の俺でもテンションが上がってしまう。 そして、新婦の友人席が異様な雰囲気、怪獣や星人がドレスを着ているのだ。 それだけではない。 その怪獣から可愛い女性の声で「おめでとう」と聞こえて来るのだから、中の人が気になって仕方ない。 現にリハーサルの時も友人席を見ていたが、かなり可愛い女性たちが座っていた。 その時はなぜジャージなのだろうかと思ったくらいだった。 キャンドルサービスを済ませて高砂席に着いたのだが、中谷さんはかなり辛そうに荒い呼吸を繰り返していた。 そんな中谷さんに構うことなく、ウエディングケーキが準備されケーキ入刀が近づく。 ケーキの天辺にはタキシードを着た俺とウエディングドレスを着たウルトラウーマンの砂糖菓子が載っていた。 そして、音楽が流れスポットライトを浴びながら、手を取り合ってケーキ入刀をする。 その様子をスーツやドレスの参列者はもちろん、ウルトラマンや怪獣、星人も集まって写真を撮った。 ケーキ入刀が終わると本来なら、しばし歓談となるのだろうが、参列者の半分が着ぐるみを着て、その上からも正装しているだ。 早く式を終わらせないと体力的にキツイことは一目瞭然だった。 そのまま、両親への挨拶へ。 ケーキ入刀後から中谷さんの様子がおかしいことには気づいていた。 時折、ふらついていたから。 両親への挨拶の手紙を読み上げるウルトラウーマンの体を俺はしっかりと支える。 ドレス越しにでも伝わってくる彼女の体温はかなりのものだった。 それでも頑張ってくぐもった声で手紙を読み上げる中谷さん。 そんな中谷さんの演じるウルトラウーマンの覗き穴から涙が溢れた。 いや、着ぐるみの中が暑過ぎて、汗が目から溢れたのだろう。 俯き加減で手紙を読んでいるので、涙がどんどん出てくる。 汗で手紙が見えなくなり、途中何度も読むのを中断した中谷さん。 だが、見ている方は感極まって、泣きながら読めずにいるように見えたに違いない。 両親への挨拶が終わり、新郎の父親が挨拶をし披露宴は終宴を迎えたのだが… 。 全てを撮り終えた時、中谷さんの緊張の糸も切れてしまったのだろう。 俺は力なく倒れそうになるウルトラウーマンを間一髪のところで受け止めると異常を察知したスタッフが駆け寄って来た。 「お色直しをした部屋へ運んでもらえますか?」 そう言われた俺は頷くと、慌ててウルトラウーマンをお姫様抱っこしてスタッフの後に続いた。 部屋に入るとスタッフは冷却剤を準備しながら言った。 「ドレスとウルトラマンの着ぐるみを脱がせて下さい」 躊躇している暇はない。 俺は彼女をソファーに寝かせるとドレスを脱がせ、ウルトラウーマンの背中のファスナーを開いていく。 熱気と汗の臭いが吹き出してきた。 先にウルトラウーマンのマスクを脱がせてから、体の方も脱がせようとしたが、上手くいかない。 そこへスタッフが冷却剤を俺に渡して言った。 「彼女の頭を冷やしてあげて!」 スタッフは手際良くコルセットを外すと、ウルトラウーマンの背中のファスナーを全開にし、腕を引っ張り出し上半身だけを露出させた。 彼女の上半身もまたマスク同様に黒光りしたインナーに覆われていた。 ただ、その姿に見惚れてしまう。 体にピッタリと張り付いたインナーは、まるで彼女の皮膚のようだった。 指先や腕はもちろん、おへその窪みから腰の括れ、大きな胸の膨らみ、そして乳首の形までしっかりとトレースしていた。 そんな中谷さんの黒光りする体に見惚れていると、中谷さんが目を覚ました。 「あれっ?私?!」 「彼が運んでくれたんですよ!」 スタッフは俺の方を向いてそう言った。 「ごめんなさい私、気を失っちゃったみたいで」 そう言う中谷さんにスタッフはスポーツドリンクを手渡した。 中谷さんは体を起こして、それを受け取ると僅かに開いた穴からストローで一気に飲み干してしまった。 そして少し話してくれた。 「お手紙を読んでいる辺りから顔が凄く熱くなってきて、ウルトラウーマンの目のところ光るでしょ、アレ結構熱くて、頭がボォーッとして来ちゃって」 俺は中谷さんは頑張って手紙を読んで力尽きていたんだなぁと思った。 「どうしますか?昼からの結婚式の撮影?延期しますか?」 スタッフがそう聞くと中谷さんは答えた。 「2時間後ですよね、やりましょう!他の人のスケジュールもありますから」 その声には元気が戻っていた。 中谷さんはスタッフに大丈夫だというように立ち上がって見せた。 「でも、もう少し休ませてもらいます」 中谷さんがそう言うとスタッフが言った。 「結婚式の撮影の準備進めるように伝えてきますね、それと体を冷やせるもの取ってきます」 そう言うと部屋を出て行った。 残された俺はウルトラウーマンの着ぐるみを腰まで下ろした上半身が黒光りした妖艶な姿の中谷さんと2人きりになってしまった。 彼女の表情が見えないので、この場の雰囲気も掴めない。 中谷さんはピッタリとした上半身を晒しているので恥ずかしいだろうと思い、俺も部屋を出ることにした。 「じゃあ、また後で、ゆっくり休んでね」 そう言って部屋を出ようとした俺の手をゴムの手が掴んだ。 「待って!」 俺が振り返ると中谷さんは少し背伸びをしてキスをしてきた。 ゴムと汗の臭いを感じながら、俺は中谷さんはマスク越しにキスをした。 凄く長くキスをしていたような感じがしたが、ほんの一瞬だったんだろう。 中谷さんは俺から少し離れて言った。 「いきなりごめんなさい、ありがとうの気持ちを伝えたくて… 」 「うん、こちらこそ、元気になって良かった、撮影の続き頑張ろうね」 「うん!」 そう言うと中谷さんは嬉しそうに大きく頷いた。 その時スタッフが戻ってきたので俺は部屋を後にした。 つづく