今は月曜日の午前8時_____ ベッドに肌色のシリコンでできた要介護スーツを着せられて仰向けに横たわる。 要介護スーツを着せられた私に男性が挨拶をしてきた。 五十嵐 京介さんは、これから1週間私を介護してくれる人の名前であり、私が1週間介護した男性の名前。 そして、彼は私が介護しながら関係を深めた相手でもある。 なぜ彼が介護をした相手だと気づいたのかというと自己紹介の後、私の名前を呼んだから。 彼の挨拶に対して、要介護スーツを着せられ言葉を発せない私は首を動かして挨拶するような仕草で応えた。 「裸なので服を着せていきますね」 そう声を掛けられた後、準備されていたショーツを履かせられ、短パン、そしてTシャツを着せられる。 これはマニュアル通り。 “要介護スーツを着せられているので裸じゃないよ!” そう思っても言葉にできない。 そんなことを思いながら、彼を介護し始めた1週間前のことを思い出していた。 肌色のシリコンでできた要介護スーツ越しに私の顔や髪などが透けないか見ているのだろうか? いろいろ思いを巡らせていても、視覚も手足の自由も奪われた私は彼に介護してもらわないと何もできない。 彼に全てを任せるしかないのだ。 彼が私の介護をしないで放置されたら、私に待っているのは死だけ… 。 そんなことを考えていて分かった。 介護する側も介護される側の気持ちが分からないといけない。 だから、私も要介護スーツを着せられて1週間彼に介護してもらうのだと。 午前9時_____ 朝食を作って提供される。 冷蔵庫からマニュアル通りに食材を取り出してミキサーに掛けて流動食を作っているのだろう。 ミキサーの音が聞こえてきた。 声を掛けられ体を起こされた後、声を掛けられた。 「今から流動食を流し込みますね」 私は軽く頷いて見せた。 だが、ここでも恐怖がつきまとう。 流動食を大量に流し込まれれば窒息してしまうと。 そんな恐怖はあったが彼を信じるしかない。 きっと、彼も同じ思いだったに違いない。 流動食は少しずつ流し込まれ、途中休憩を挟みながらゆっくりと流動食を与えてもらった。 朝食が終わると、彼は私の背中を支えながらゆっくりと仰向けに寝かせてくれた。 この後はしばらく休める。 その間に、彼も朝食を摂るだろう。 あれだけ、彼との距離が縮まったのに立場が変われば対応が変わってしまったことに少しガッカリした。 午前10時30分_____ 私は車椅子に乗せられてお散歩。 体は満足に動かせないが、新鮮な空気を味わってもらうのが目的。 エレベーターで1階へ移動し、正面玄関から外へ。 車椅子でも移動しやすいように舗装された散歩道を1時間掛けて散歩する。 もし、このまま外に放置されたらと思うと怖くて仕方ない。 彼がそんなことをするはずはないと思うが、それでももしかするとと考えると怖くなってしまった。 そんな私の取り越し苦労であることはいうまでもなく、部屋へ戻って来るた車椅子からベッドへと移された。 午後0時_____ 少しするとミキサーの音が聞こえてきた。 もう昼ご飯の準備をしてるんだ。 そう思ったが、お腹はそれほど空いていない。 マニュアル通りにミキサーで流動食を作り、彼に与えていた自分のことを思い出して思った。 ただ、マニュアル通りの時間に流動食を彼に与えていたが、一言お腹が空いているかどうか尋ねれば良かったと。 お腹が空いていなかったので、昼ご飯は時間を掛けてゆっくりと摂った。 ここからはしばらく昼寝となっている。 こんなに思いも伝えられずに介護されることが大変なのだと身をもって経験できたことは貴重な体験だと思った。 相手に寄り添う気持ちを育てるための介護実習なのだと改めて思い知らされた。 すぐには眠れない。 それはそうだろう、介護する側とは違って介護される側は全くといっていいほど動いていないのだから。 そんな私のベッドに彼が入ってきた。 “そうだ、寝る時は彼と一緒だった” そう思うと急にドキドキしてきた。 “夜には彼に抱いてもらえるのかなぁ” そんなことを思っていると、彼が私を抱きしめてくれた。 私は嬉しくて短い足をパタパタさせた。 そんな私の耳元で彼が囁く。 「今夜は僕が気持ちよくさせてあげるね」 その言葉に私は嬉しくて何度も頷いて見せた。 彼は私の頭をポンポンした後、抱きしめてくれた。 彼に抱きしめられ幸せな気分で眠った。 どれくらい眠ったのか分からないが、凄くよく眠った感じがする。 彼は起きていたようでテレビのニュースが聞こえてくる。 午後5時_____ テレビのニュースを流しているということは午後5時くらいだろう。 これもマニュアル通り。 少しするとミキサーの音が聞こえてきた。 晩ご飯が終わると、そう考えて急に顔が熱くなった。 ご飯の後は排泄を補助してもらい、私の陰部を洗ってもらうのだが、恥ずかし過ぎる。 そんなことを考えたところで今の私には何もできない。 ただ、彼に身を任せるだけだ。 つづく