【ssリクエスト 東○ 聖白○】乞い
Added 2021-05-30 21:23:41 +0000 UTC※色々と独自解釈がありますのでご注意下さい🙇♂️ 多種多様な妖怪達が暮らす幻想郷に、静かに佇む寺ーー命蓮寺。 人妖平等を謳う美しい僧侶 聖白蓮が住む寺である。 彼女はそこで、弟子である妖怪達と共に修行の日々を送っていた。 聖白蓮は、自由気ままに妖怪達が暮らす幻想郷では奇異な存在だった。 力を持ちながら慈悲の心で弱きに歩み寄り、自由を手にしながら不自由に徹する。 聖人と彼女を慕う妖怪も多いが、その振る舞いに疑問を持つ者もいた。 ご立派ではあるが、何かに縛られているような息苦しさも覚える。 妖怪がそう感じるのも無理はない。 彼女の脊髄となる思想は、妖怪のそれとはまるで違う。 生来から守り続けている仏道であった。 殺生や煩悩を刺激する行いを遠ざけて、禁欲的な日々を送る。然すれば、仏果を成就する事が出来る。 そんな仏道の教えを厳格に…愚直な迄に守り続けていた。 仏道の教えを体現する修行の日々は、自由な妖怪達にとって辛い生活。 勿論厳しいばかりではないが、とにかく禁欲がついて回る。 特に精進料理は、肉を好む妖怪には辛いものであった。 仏教の戒に基づき、美食を戒めて粗食をし、精神修養をする為の料理。 贅沢は言わない。しかし、それにしても…と修行を断念する妖怪も珍しくない。 そんな厳しい日々を送る聖に、仲間の妖怪の一人が恐れ多くも意見を述べる。 肩の力を抜いてはどうか、もっと娯楽を楽しんではどうか、と。 自由な…言い換えれば勝手な、妖怪的な価値観から出た言葉であり、仏道を苦に考えていない聖に対してズレた助言。 しかし、聖を思う気持ちから出た言葉だと、彼女にも伝わった。 自分の中では日常と化していた修行だが、確かに幻想郷の価値観で見れば苦行に近い。 知らないところで心配をかけていた。 寛容で穏やかな彼女は、自分を思う仲間の意見に聞く耳を持たずに思想に固執する程愚直ではない。 彼女の精神的支柱である仏道。 少し、ほんの少しだけ離れてみるのも、良いのかもしれない。 *** 「ーーとは言え、何をしましょうか」 聖は縁側に腰を下ろし、ぼうっと空を見ていた。 娯楽…娯楽…。 遊びに興じようにも、娯楽をよく知らない。 自分はつまらない人間ではないかと、少し心配になる程に。 様々な遊びを思い付く妖怪達に、感心する程に何も浮かばない。 無邪気に遊ぶ妖怪達に混ざり、自分も羽を伸ばして……そんな姿がどうも浮かばない。 こうして空を見ながら縁側でお茶を啜るのも悪くはないが、折角だし何かぱあっと……。 「……」 おっとりとした表情を崩さない聖も、眉を八の字にしてこれは困ったと考え込む。 まるで彫刻の様に美しい顔が、「うーん…。あ!……いえ、それは……」と面白い程表情を変え、遠目から見ていた彼女の仲間は少しそれを喜んだ。 仏頂面…とは言わないが、にこやかながらもどこか淡々としている聖が、あれ程表情を変えるのは珍しい。 あんな風に自然体でいてくれると、仲間達も安心するというもの。 「ー…、あ」 そんな中、聖は思い付く。 何も遊びに出かける事だけを考えなくても良いではないか。 そう思うと聖は立ち上がり、軽い足取りで歩いていった。 向かったのは、庫裡(食事を調える建物)。 様々な食材が保管されており、その中には普段はあまり口にしない物もある。 聖は棚の前で少し考え、ほんの僅かな罪悪感を覚えながら、優しい手つきで卵を手にした。 宗教上余り良しとはされない、卵やミルクを使った料理を作ってみてはどうかと思い付いたのだ。 明確に禁じられている肉類を口にするつもりはないが、これくらいなら…。 聖は仏道の教えを守って粗食をしていたが、食事が嫌いな訳ではない。 寧ろ、関心は高い方だ。 博麗神社で定期的に行われる宴会。そこで振舞われる数々の料理…。 正直なところ、口にしたいという欲求はあった。 しかし、繰り返すが仏道の教えでは殺傷をして肉類を口にする事は禁じられており、口にせずにいると博麗 霊夢に「真面目ね」と揶揄われたのを思い出す。 仏道の教えを破る訳にはいかはい。 しかし、ならば破らない程度のご馳走を作ってみてはどうだろう。 そう考えた聖は、卵、ミルク、調味料を並べて、調理器具を手にした。 料理は得意だが、普段使わない食材にやや緊張する。 一体いつ以来か。 聖には贅沢過ぎる程贅沢な食事。 調理を終えた聖は、料理を運び、並べ、腰を下ろした。 「ふふ、いけませんね。何だか気持ちが緩んでしまう」 煩悩に平常心が揺らぐようでは修行不足……いや、今は修行の事は考えないと蓋をする。 箸を手にし、上品な箸使いで、ふわりと卵焼きを掴み、口に運ぶ。 「ーー…!」 煩悩を刺激しまいとした、質素な粗食とはまるで違う。 「…美味しい」 思わず口に出た。 彼女の目がガラス玉の様にキラキラと輝く。 「…みんなにも作ってあげないと」 この幸せを共有したい。 思い付きで自分だけの食事を作ってしまったが、皆で食事をしよう。 聖は手早く料理を作り、仲間達を集める。 昼には早い時間だが、聖の言葉に笑顔で集まる仲間達。 聖の人徳が窺えた。 皆で食卓を囲み、美味しい料理を食べ、喜びを共有する。 仏道の教えは大事だが、この幸せな時間も大事にすべきではないか? 食は生活を豊かにするという言葉を聞いた事があるが、まさにこの事だと聖は思う。 この幸せを、いつしか忘れてしまっていた。 仏道の道に反した訳ではない。 良しとはされないが、今後もこれくらいは良いのではないか…そう考え、仲間達も同調する。 これくらい大した事ではない、聖は真面目過ぎると笑う者もいた。 確かにそうだ。 この幸せな時間の為なら、これくらい…。 『これくらい』 一度例外を作ってしまうと、次第に戒律を守る意思も弱くなるというもの。 それが厳しければ厳しい程、もう一度守ろうという意思が弱くなる。 甘美な味を、知ってしまった。 *** これくらい…という例外は、日に日に増えていった。 卵やミルクを存分に使い、彼女は様々な料理を作った。 今流行りの『すいーつ』なる菓子作りに挑戦し、その味に彼女は舌鼓を打つ。 刺激された欲望は、少しずつ肥大していく。 次第に、他の食材に手を伸ばし始めた。 それらは、仏道の教えからすれば良しとしない物ばかり。 明確に禁止されている肉類は避けたままだが、際(きわ)の中であらゆる料理を作り、口にする。 そんな生活を続けた結果、聖の輪郭が少しぼやけだした。 禁欲的な僧侶…と言われて少し首を傾げそうになる、官能的なまでの聖の身体。 豊満な魅力に満ち溢れている。 聖の動きに僅かに遅れ、ゆっさゆっさ、たぷんったぷんっと揺れる豊満な乳房に尻房。 細さを保ちながらも、むちむちとした肉感を服の上からも感じさせる身体つき。 その豊かな曲線は、何気ない仕草にも色気を感じさせた。 神に愛された…と言っても何ら過言ではない美しさ。 そんな美しい身体に駄肉が乗っていく。 より豊満になっていく聖。 しかし、元のスタイルが余りに良かっただけに気になるが、それでも健康的なふくよかさだった。 外の世界の数値にすると、体重は65kg程度。 味が濃い物への免疫がない身体は、短期間で多くの脂肪を取り込んだが、この程度なら大した話でもない。 寧ろ仲間達は、聖の変化を良しとして喜んだ。 聖は生真面目過ぎる。 時折息苦しさを覚える程に。 勿論、仏道を厳格に守る姿勢も聖の魅力の一つだと仲間達は分かっている。それを否定はしない。 だか、今の自然体の方がより魅力的であると、そう考えていた。 聖本人もこの変化を悪く思っていない。 時折、自分は仏道に外れた浅ましい行いをしているのではないかと疑問を持ったが、仲間達がそう言うならと、聖は呑気に過ごした。 少し服がきついのは気になるが、まぁ新調すれば良いだけの話。 ふるふると揺れる脂肪も、今では然程気にならない。 鏡に映る丸顔も、もう見慣れた。 なんて事ではない。 ぽっちゃり…という程でもなく、健康的な丸さを得た聖の表情は以前より明るい。 そんな聖は、今日は何を食べようかと考えながら、人里へ足を踏み入れて買い物をしていた。 食材を買いに来ただけだというのに、ついつい団子に目を奪われて茶屋に入る聖。 普段の聖ならしないであろう選択。 腰を下ろせば、腹の肉がうっすら段を作る。 そんな腹をひと撫でして、腹具合を伺う。 寺を出る前に饅頭を食べてから2時間は経ったか。 十分腹が空いていると、彼女は団子2本と茶を頼んだ。 それをすぐに食べ終える。 はしたないと思われないか不安だったが、団子をもう1本頼んだ。 最近の食生活により、聖の胃は大きくなっていた。 当然食べる量も増え、同時に食への関心も高まる。 「…ん?」 団子屋の近くにある焼き鳥屋。 そこから美味しそうな匂いが漂い、鼻腔をくすぐった。 団子を口にしている最中だと言うのに、腹が鳴りそうになる。 「(あぁ、良い香りですね。…ふふ)」 はっと我に帰り、首を左右に振る。 肉を食べる事は厳禁。 戒律に少し甘くなった聖も、超えてはならない線だけは常に意識していた。 「(いけませんね。それだけは…)」 団子を完食し、勘定を済ませると足早に店を…匂いから離れる聖。 肉類を口にしてはいけない。 だが、聖もその生涯で肉類を全く口にした事がない訳ではない。 その味を知っている。 あの日、卵とミルクを使って料理を作った日。 あれ程感動したのに、今では当たり前の食事になってしまった。 感動は繰り返せば新鮮味が薄れて、ただの日常となってしまう。 仲間達が大袈裟と笑った気持ちが分かった。 今では、もうあれでは少し物足りない。 人は欲望を満たすと、いつしかそれに慣れて更なる欲望を膨らませる。 不老不死という高尚な存在になろうと、元人間である彼女も例外ではなかった。 より美味しくて、よりこってりした、食べ応えのある物を食べたい。 そんな願望がチラついた聖は、「…ふふ、まだまだ未熟ですね」と独り笑い、余裕を見せる。 今はまだ耐えられる。 ……緩やかだが、確実に肥大し続ける食欲。 余裕の笑みをいつまで保てるか…。 *** 命蓮寺に客人が来る。 随分と久しぶりな事であった。 客人の名は、豊聡耳神子。 聖とは友人…という訳でもなく、寧ろ仏教観や見解の違いから仲は余り良くない。 神子は、欲望に囚われまいとする聖を「枯れたお坊さん」と、妖怪に仏道を説く姿を「おままごと」と揶揄した事もある。 聖も聖で、神子を仏教を政治利用する未熟者と吐き捨てた事もあった。 そんな二人だが、互いに認め合ってもいる彼女達は、何かあった際に相談をし合う関係でもあった。 今日は神子が相談する側として来た訳だ。 寺の表に行くと、聖の弟子が神子を客室に通し、呼んで参ります…と会釈して奥に消える。 すぐに来るだろう。 そう思ってはいたが、中々来ない。 いつもなら2分と待たないが、今日は嫌に遅い。 僅かに眉根を寄せて待っている神子。 すると、何やら鈍い足音が近づいて来た。 どすっ…どすっ…どすんっ …何を飼っているんだ? 大きな…妖怪? 鈍く、重い、その足取りから巨体を連想した。 「ん?」 その足音が、此方に向かって来ているのが分かった。 聴き慣れぬ大きな足音に、思わず身構えてしまう。 「(…50貫程か?随分とでかい)」 卓越した聴覚を持つ神子は、音でおおよその重さを把握し、足音の正体を思い描く。 神子が浮かべたのは、60寸はある熊の様な妖怪。 そして、それは襖の前で足を止めると、…ッと襖に手を掛けた。 神子はいつでも立ち上がれる心構えで、襖が開くのを見る。 現れた"それ"に、神子は目を丸くした。 「は?」 重さ、身長は殆どイメージ通りだった。 だが、それは…。 「ふぅ…お待たせしました、神子さん。はぁ…本日はどのような御用で…?」 「…?………誰…ですか…?」 一応聞いてみる。記憶にある姿とまるで違う。 「?…あぁ、分かりませんか」 確かにそうだ、と腹をポンと叩く。 たぽんっと巨大な腹を波打たせながら、知人とよく似た顔をしたそれは、恥ずかしそうに結んだ口をゆっくりと口を開いた。 「私ですよ。聖白蓮です。こんなに…その、太りましたから分からないですよね…」 「……は?」 特徴的な色合いの長い髪、柔和な瞳。記憶の聖と一致する。 脂ぎった顔。脂肪をこれでもかと溜め込み、指先までパンパンに膨らんだブヨブヨの巨体。記憶の聖と余りに違う。 枯れたお坊さん?とんでもない。 仏道はどうしたと叱咤したくなる肉の塊がそこにいた。 体重は神子の予想通り、50貫(約190kg)程ある。 相談しに来たのだが……余りの衝撃に相談内容が吹き飛ぶ。 腰を下ろし、正座をするが、なんとももまぁ不格好な正座だ。 あの巨体が脚に乗っていると思うと、足を悪くしそうで心配になる。 神子が「客の私が言う事ではありませんが、楽にして下さい…」と言うと、辛かったのか、お言葉に甘えてと膝を崩す。 以前の聖ならありえない。この事からもだらしなくなった事が伺えた。 僅かに歩いて来ただけだというのに、額にはうっすら汗を浮かべ、息を切らす。 神子の耳に「ぷふぃーっ、むふぅーっ」という僅かな吐息が聞こえ、酷く耳障りだ。 聖が「それで、どうされました?」と話を進めようとするが、「いや、貴方がどうしました?」と突っ込まざるをえなかった。 聞けば、美味しいものを覚えるにつれて歯止めが効かなくなり、食欲が止まらなくなったとか何とか。 神子の知る、愚直なまでに禁欲する聖とはまるで別人。 聖の部下が卓の真ん中に用意した、客人である神子の為の茶菓子をバクバクと口にし始めた。 「(こいつ…)」 だらしなさと、以前に増してむかつき加減が増した聖に神子を軽く睨む。 更に詳しく聞けば、肉類を口にしない…という教えだけは守っているようで、代わりに甘い菓子類を食べ続けてこうまで太ったという。 …まぁ、仏道の象徴である仏像はふくよかなものが多いし、貫禄が増して良いのではないか? 皮肉を言おうとしたが、巨体に圧倒されて出てこない。 ……しかし、太ったな。 客人の前で、本来なら遠慮をするべき聖は、神子の前で饅頭を頬張り、よく噛まずに茶で流し込み、パンパンに膨らんだ手に饅頭の粉が付着している事に気付けば、それを太い舌で舐めとった。 僧侶…いや、人としてだらしがない。 勝手気ままな妖怪すら、もう少し品があるというもの。 物言いこそ変わらないが、神子の目には酷く堕落しているように映った。 「…これでは相談もな…」 「え?」 「あぁ、何でもありません。すみませんが、急用を思い出したので失礼します」 「…?…そう…ですか。お送りします」 そう言って、机に太い手をつき、ぶるぶると肉を揺らしながら立ち上がり、神子の前を歩く聖。 「(後ろも凄いな…)」 背にもだるんっと肉の段が形成されており、柔らかさが服の上からも伝わる。 何より… ぶるんっ、ぶるるんっ 尻がとてつもない質量。 聖の僅かな動きに激しく揺れる。 まるでペンギンの様に身体を左右に振りながら歩く為、尻肉もそれに遅れながらも合わせて揺れ動く。 まるで男に媚びる女がするヒップダンスの様に、ただ歩くだけで尻が大きく揺れていた。 たぽんっ、たぷんっ 「(あの聖白蓮が…こんなみっともない姿に)」 後ろにいる事を良い事に、神子は聖の身体をまじまじと見る。 禁欲的な僧侶の、煩悩に負けた姿。 誘惑に浅ましくも敗れ、暴飲暴食を繰り返した姿。 自分を納得させる言い訳を用意し、堕落し切った姿。 そう見える。 みっともなくドスドスと足音を立てて、欲望に負けた証である贅肉をぶら下げて揺すり、僅かな動きに息を切らす脆弱な存在。 あの聖白蓮が……。 「…ッ」 聖が足を止める。 「神子さん?」 「あ」 神子の手が、聖の尻に伸びていた。 神子の手が尻肉にずぷりと沈む。 「あ、いや、…余りに巨大で…つい…」 言い訳になっていない神子の言葉。 そんな神子は聖から、仏教を政治利用する未熟者だからどうとか、無礼なとか、きつい事を言われるかと思えば… 「あの、何…え?ど、どうされました…?」 と顔を真っ赤にして声を震わす。 まるで生娘の様な表情。 ただ尻に触れただけで、あの聖が。 以前の聖なら、余裕の笑みを浮かべながら鉄拳を飛ばしてきてもおかしくないというのに、恥ずかしそうに身を縮める。 神子を意識している…というより、太った体に触れられる事が堪らなく恥ずかしいようだ。 こんなにも太ってしまい、恥ずかしい。 自信がない。 こんな体では、弟子に示しがつかない。 しかし、食べてしまう。 情け無い…情け無い…。 そんな心情が神子に伝わった。 同時に、神子に奇妙な劣情がふつふつと湧き上がる。 「聖…」 「はい?」 「今度、私の神霊廟へ来ませんか?客人として招待したい」 *** ーー数日後。 神霊廟。 仙界に佇むそこへ、聖は巨体をゆっさゆっさと揺らしながら足を踏み入れた。 神子より話を聞いていた部下の物部布都も、彼女の想像を超える変わりように硬直し、聖はそんな様子を見て恥ずかしそうに身を捩る。 隠し切れるものではないというのに、手を前にして腹を抑えようとするから滑稽だ。 神子はそんな聖を歓迎し、2人は暫く話し合っていた。 世俗的な話から、幻想郷の今後について、2人の賢者の話し合いは長時間に及んだ。 先述の通り、2人の仲はあまり良くはない。 しかし、互いを認め合う良きライバル関係である2人は、話に花を咲かせていた。 気が付けば日が暮れている。 名残惜しいですが、そろそろおいとまします…と切り出す前に、聖の腹が… ぐう… ぐぎゅるるるるる…! 空腹を訴えた。 「…!」 顔を真っ赤にする聖。 思わず腹に手を当てると、ずぷりと沈む。 日頃の不摂生の賜物である腹は、大きく膨らみ、存在を主張していた。 だらしなく、醜くも映るが、空腹を素直に訴えるそれに妙な健気さを覚える。 神子はそんな聖に、ここで夕食を食べていってはどうかと口にする。 思わぬ提案に、「いいんですか?」と口に出す聖。 しかしすぐに、「いえ、やはり…」と冷静になり帰ろうとした。 神子は「まぁ待って下さい。実はもう貴方の分も用意している」と伝えると、それと同時に何やら良い匂いが漂ってきた。 「…っ、しかし…」 ぐぎゅるるるるる…! 「あ…!」 「ふふ、随分腹を空かせていたんですね」 「あ、いや…これは…その…」 耳まで真っ赤になる聖。 鉄の女とも言われる聖白蓮が、生娘の様に可愛らしく恥じらう姿…。 揶揄いたくもなる。 神子は食卓へと聖を案内する。 聖はその後ろを「でも、悪いですし」「やはり…」と遠慮する素振りを見せながらも、素直にどすどすとついて来た。 神霊廟の食卓。 卓上に、豪勢な料理が並んでいた。 まるで宴会のそれ。 空腹の聖の目には、輝いている様に見える。 これが神霊廟の夕食。 命蓮寺とはまるで違う。 …まさか毎晩こうも豪華な料理が並ばないだろう。 「(私の為に…?)」 聖は口に手を当てて驚いていた。 僅かに垂れたよだれを隠す為でもあった。 なんて美味しそうな…。 しかし…。 聖の目に映るのは、新鮮な野菜に、柔らかそうな卵料理に、そして肉。 肉は口にしてはいけない。 それは、こうまで太った聖が守り続けていた最後の一線。 聖は「こんなにも豪勢な料理を御馳走していただけるなんて、なんだか申し訳ないくらいです。とても美味しそうな………しかし、貴方もご存知かと思いますが、仏道を説く身である私が、肉を口にする事は……」と、長々と自分が肉を喰らう事の愚を口にした。 すると、「知っていますか?釈迦も供物であれば肉を喰らう。与えられた物を享受する事も、仏道には大切な事ではないでしょうか?」と神子は口にした。 聖は「しかし…」と困った表情を浮かべる。 困った顔をしているが、ちらちらと食事に目をやっているのが分かる。 口元も緩んでいるような…。 その姿が神子には、困っているポーズ……つまり、『私はきちんと思想を守ろうとしていますよ』という"ポーズ"に見えた。 内に潜む気持ちは違うだろう。 「…仏道では、粗食に徹しなくてはいけないという教えもあるそうですね。貴方のこの身体は、私にはどうもそれを守っているようには見えないのですが?」 神子は、ゆっくりと聖の背後から手を伸ばし、柔らかな巨腹を包み込むように撫で回し始めた。 「!…な、ぁ、いや…、触らないで…下さい」 神子の細い指が、聖の肉に沈む。 ぶよぶよとスライムの様に形を変える腹肉を揉みながら、神子は続ける。 「本当は、口にしてみたいのでしょう?」 「いや…ぁ、それは…」 聖の顔は真っ赤に染まっていた。 自信がないこの身体を弄ばれる事への羞恥。 そして何より、図星だった。 食べたい。 何もかも忘れて口にしたい。 あぁ、なんて美味しそうな…。 肉など、最後に食べたのはいつだろう? ただ、その味は覚えている。 そんな事を考えてしまう自分を、食事すら我慢が出来ない、なんて浅ましい女だと聖は自分を恥じた。 正直に言えば、神子の読み通り聖が思想を守ろうとする姿はポーズでしかなく、後押しを期待した。 とんと背を押してくれる、神子の一押しを。 他人に言われて仕方なく…そんな言い訳を与えてくれる事をどこかで期待した。 正直、この数日…もう限界だった。 しかし、自分から破る訳にはいかない。 誰かの為にという言い訳を、与えてくれる機会を待っていたのかもしれない。 表面に出さずとも昂る聖。 …だが、 「……強情なまでの生真面目さ。感服します」 「え?」 「揶揄ってすみませんでした。貴方用の食事もちゃんと用意しました」 「え?…え?」 急に熱が覚めた様子の神子がそう言って刺したのは、卓上にちょこんと置いてあった質素な料理。 豪勢な料理の影に隠れていた…否、聖の目には映らない程魅力がなかったと言っていい。 それは、聖が日頃口にしていた物だった。 「貴方に敬意を払って、貴方が普段口にしているであろう食事を用意した。さ、そこへ座って。食事にしましょう」 「え?…あの…」 「ん?何を残念そうに…。まさか、こっちを食べたいのですか?」 豪勢な料理を指差す。 「……いえ…、お、お心遣い、感謝致します」 聖はぎしりと音を鳴らして腰を下ろし、神子と食卓を囲んだ。 椅子から巨尻がぶにゅりとはみ出る程巨大だが、その背中はどこか小さく見える。 「布都達は戻りが遅いようだ。先にいただくとしましょう」 「はい…有難う御座います」 「何です、残念そうに?」 「あ、いえ、そんな事は…!いただきます」 そうして、すっかり冷えた空気の中で食事をする2人。 ぱんぱんに膨らんだ手で器用に箸を使い、質素な料理を口にする聖。 味があるのかないのかも分からない料理を。 いくら咀嚼しても、食べた実感が湧かない料理…。 これを毎食口にしている。 慣れた筈だ。 しかし…。 ちらりと、手を伸ばせば届く距離にある豪華な料理に目をやる。 魚に、肉に、何と美味しそうな。 いやでも匂いが鼻をくすぐり、まるで拷問のようだ。 あっという間に自分の為に用意された食事を完食してしまった聖。 足りない…。 まるで足りない。 これが食事…? そんな気持ちを悟らせないように、無理に笑顔を作る。 「ご馳走様でした。とても美味しかったです」と感謝の意を伝えた。 神子は口に合ったのなら良かったと、食事を続けた。 聖に用意された食事量に対し、神子の食事は多い。 量も、質も、まるで違う。 そんな料理を、遠慮の欠片も無く口にする神子。 当然だ。 ここは彼女の家であり、彼女は思想に縛られてもいない。 思想に雁字搦めになり、食事も自由に出来ない聖とは違う。 ……雁字搦め? 本当にそうであろうか? なら、この姿は何だ? そう思い、視線を落とす聖。 突き出た腹、嫌に大きな胸。そして、顎を引くとより際立つ二重顎。 酷く浮腫んでいるかのように膨らんだ、芋虫の様な指。 鈍重で…愚鈍な、そんな印象を与えるデブ。 こうまで浅ましく肥えて、仏道に固執するのは滑稽か? いや、そんな事はない。 そんな事はない筈だ。 しかし、今更…いや…。 聖の思考がループする。 無言で俯く聖に、神子が「もしかして、足りませんでしたか?」と声を掛けてきた。 「!いや、そんな事は…。とても美味しかったですし、足りなかったという事は……」 すると、 ぐうううぅぅ…‼︎ 地の底から轟くような、豪快な腹の音。 聖の顔が再び真っ赤になった。 神子はにたりと笑い、「やはり足りなかったですか。いやいや、貴方ならあれくらいで足りるかと思いましたが」 神子は笑いながら続けた。 「生憎貴方用のおかわりはありませんが、ここには料理が沢山ある。私1人では食べ切れない程に。…どうだろう、手伝ってはくれませんか?」 「手伝う?」 「残してしまっては勿体無いですから」 「………しかし」 「人助けだと思って」 「……し、仕方ありませんね。手伝ってあげましょう」 やった…‼︎ そう聖は歓喜した。 渡りに船だ。 これは困っている人を助けるという事。 決して道に外れている訳では…。 良い言い訳が出来たと喜ぶ聖。 ずっと食べたかった肉に魚、酒…。 やっと味わえる。人助けという大義名分を得て…。 「待った」 「!」 「…"仕方ありませんね"?…貴方は、仕方なく私の用意した食事を口にするのですか?手伝って欲しいとは言ったが、仕方なく口にされたのでは料理が、食材にされた生き物も浮かばれない」 「!…」 「仕方なく食べられるのではあれば、私1人で食べます」 「え、あの…食べ切れないのでしょう?だから、私が…」 「仕方なく食われるのは御免だと言っています」 「……」 聖の熱が、明らかに引いていくのが分かった。 口角と眉が下がっていく。 「………」 「……」 「……あの」 聖が沈黙を破る。 「すみません…私、仕方なく…だなんて…」 「いえ、貴方に無理を強いた私も悪い。道に外れる事になるのなんでしょう?」 「…はい。……しかし」 「しかし?」 「あの……もし宜しければ…私もそれを口にしても良いですか?」 "口にしても良いですか?"まるで神子ではなく、何かに許しを請うような言い方。 「それとは?」 「貴方が今口にしている物を」 「それは?」 「…お肉や、お魚…それにお酒も…」 「…いいのですか?」 「………駄目…です」 「そうでしょう」 「しかし、あんまり美味しそうで……少しくらい…」 「…しかし…」 ねちねちと焦らしてくる神子。 聖は遂に痺れを切らした。 「あの、もし…もし宜しければ、分けて頂けませんか?凄く…その…美味しそうで…」 「あぁ、それは構いませんが、良いのですか?」 「良くはないのですが…い、いいんです…!」 「(良くはないけど良い?ふっ…)なら、どれを食べたいのですか?取り分けましょう」 「お、お肉と…あぁ、そちらのお魚も…お酒も…」 「落ち着いて。…ふむ、そうですね、これは好物だし、これもどうしようかなぁ…?うーん…」 煮え切らない様子の神子に、聖は… 「あ、お、お願いします…! 食べ物を…分けて下さい! ずっと、ずっと我慢してきましたが……もう限界なんです…! お肉も食べたいし、お酒も飲みたいんです……美味しい物を飽くまで食べて…食べて…、兎に角もう我慢出来ないんです…! 早く食べさせて下さい…‼︎」 まるで物乞い。 道に外れた聖の敗北宣言は見苦しく、稚拙で、子供のわがままのそれだった。 あの聖白蓮が。 神子は笑い、聖はその反応と自分の言葉に顔から火が出そうな程の羞恥心を覚えた。 「(私…何て事を…)」 落胆と、同時に湧き上がる高揚感。 思想どうこうではなく、自分の気持ちをそのまま言った。 肉を食べたいと。 神子から皿を渡される。 そこには、ずっと口にしたかった料理が並んでいた。 大きな皿から、溢れんばかりに。 震える手で箸を掴み、口にする。 神子にはなんて事ないが、聖には重大な事。 一線を超えてしまう。 肉の脂っこさが口に広がる。 ゆっくり、ゆっくりと咀嚼した。 女を知らぬ男が女を覚えた時のように、その味に一瞬で病みつきになった聖。 涙が出そうな程に。 頬が落ちそうな程に。 そんな美味さを言い表す言葉がチープに感じる程に、聖は肉の味に夢中になった。 一線は超えた。 もう止まらない。 バクバク、バクバクと肉や魚を次々口にし、酒もガブカブと飲み始めた。 何と浅ましい。 あの聖白蓮が。 聖の顔は、自分への落胆以上に、喜びに染まっていた。 神子はそんな聖を見て嗜虐的な笑みを浮かべる。 奈落に突き落としたような感覚。 かつていがみ合っていた聖を、奥底へ。 同時に湧き上がる罪悪感。 聖はもう敵ではない。 ライバル、友と言って良い。 そんな友を、突き落としたような…。 「大袈裟…か」 聖の生真面目さが感染ったか。 これは単に真面目過ぎる友人に遊びを教えたようなもの。 しかし、まるで豚のように肥え、貪る友人がなんと可愛らしく映る事か。 高尚な存在が、弱く成り果てた姿がこうも可愛らしいとは。 浅ましく、脆弱。 「ふふ、おかわりはまだまだありますよ」 この日より、聖は度々ここへ足を踏み入れる事となった。 日に日に重くなる足取りで、ゆっくりと。 *** あれから半年以上が経過する。 幻想郷に静かに佇む命蓮寺。 人妖平等を説く僧侶 聖白蓮が弟子達と共に暮らす寺。 そう知られていたのは、少し前の事。 今では…。 どすんっ、どすんっ 「あぁ、聖。大丈夫ですか?一人で歩き回ったら危ないですよ」 部下の声に、巨大な影は…聖は… 「ぶふぅ…はひぃ…だ、大丈夫…ぜぇ…ですから…」 と荒く息を吐きながら、汗を滝のように流しながら、苦悶に眉を寄せながら、野太い声で答えた。 少し前からかなりの巨体ではあったが、今では規格外。 とてつもない巨躯。 全身に大量に纏うは、贅沢の限りを尽くした証である贅肉の衣。 あの日から肉、魚、酒を浴びる程喰い飲み、今では3食…否、7食全て高カロリーな料理を口にしている。 加えて、一度崩れたら真面目な者ほど脆いもので、食べては寝て、食べては寝てを繰り返す怠惰極まる生活を送っていた。 今の聖は、仏道の教えから大きく外れている。 仲間の静止を聞かずに歩く聖に、 「聖、どこへ行くんですか?」 と問う。 「ふぅ…んぶぅ…人里で…何やら…祭りのようなものが行われているらしく…美味しい物を食べられる好機かと…」 頭の中にあるのは、食べ物の事ばかり。 その為であれば腰は軽い。 だが、物理的には重い。 500kgにもなるであろう大量の肉が、彼女を押し潰さんばかりにのしかかる。 「⁉︎」 「あぁ…!言わんこっちゃない‼︎」 鈍重に歩く聖は、何かの拍子にバランスを崩し、盛大に音を立てて転がった。 ぼよんっと仰向けになる形で倒れた聖は、じたばたと手足を動かすも起き上がる事は叶わず、また、仲間一人の手では起こす事は出来ない。 「んぶふぅ…ひぃ…んぎっ…!」 食欲に溺れ、地を這う肉の塊。 それが今の聖白蓮だった。 仲間4人がかりで起こして貰い、結局祭りへは仲間に行って貰い、持ち帰って来て貰ったものをバクバクと口にした。 仲間は数週間分の食事を持ち帰った気でいたが、聖にとっては1食分。 肉を貪り、酒をがぶがぶと飲み続け、堕落は止まるところを知らない。 高尚な僧侶が、どんどん底へと沈んでいく。 「ぶはぁ…すてーき…ですか、これも美味しいですね…❤︎あぁ、ちきんとやらもとても美味です❤︎はふぅ…んぐっ…んぐっ……ぶはっ、この脂っこさをお酒で流し込むのは最高ですね❤︎んふぅ…んぶっ、んっ…んぐっ……ぐえええええぇっぷ……‼︎‼」 満腹になった聖は、ごろんと寝そべり、満足そうに腹を撫でる。 「はふぅ……ぶふぅ…美味しい……幸せぇ…❤︎」 その姿は、高尚な僧侶のそれではなく、まさに畜生…豚のような…。 命蓮寺。 ぶくぶくと肥えに肥えた、大飯喰らいの贅肉の妖怪 聖白蓮が弟子達にお世話をされながら暮らす寺。 聖白蓮は、今日も仲間達に甘やかされて贅沢の限りを尽くしていた。 (了)
Comments
リクエストお答えいただきありがとうございました! どんどん太りつつも最後の一線だけは・・・とこらえる姿も、結局堕ちて堕落してとてつもない巨体になるのも素敵でした・・・!
棒の人
2021-05-31 01:25:36 +0000 UTC