※ファンタジー世界の砂漠風の街で用心棒兼娼夫をして生計を立てているイルクくんとお客のお兄さんのお話。
マルクスさんは上客だ。
すらりと伸びた背、長い手足に逞しい体。この街を訪れる粗野な兵士や冒険者達の中にあってその丁寧な物腰は異質ですらあった。
マルクスさんが上客だと言われる理由は毎回違う娼婦を指名すること、金払いがいいこと、それから無茶な要求をして来ないこと。
そんなマルクスさんだが、ある時娼館のマスターであるドノヴァンが俺にこう言ったのだ。
「今度から、マルクスさんの相手はお前がしろ。これからずっとだ、いいな」
それで、ああ、と得心がいった。
少なくともマスターには多少なりとも信頼されている自負がある。
相手をした娼婦が口をそろえて上客だというマルクスさんにわざわざ俺をあてがう理由などそれぐらいしかない。
◆◆◆
成程、確かにマルクスさんは上客であった。穏やかな物腰と整った顔立ち。大きな体はまるでこちらを丸ごと包み込むかのようで、恐怖心よりも何か懐かしさを感じさせる。
(……200人ぐらい殺してそうだな)
冒険者というには整い過ぎた全身の筋肉。大剣でも、弓でも、斧でも、銃でもない。
冒険者の客は大体が体を鍛えていて、筋肉を褒めると喜ぶ。寝床の話題の中で自分の得意な武器などを教えてくれるのが常だ。
筋肉の肥大している部分も偏っている様子はない。話題を振ってみてもマルクスさんは何も言わず、困ったように微笑むだけだ。
大剣も、弓も、斧も違う。強いて言うならその全て。
(軍属だ)
触れた腕の手首や手足の筋肉は常に鍛えられていることが分かった。が。
話はそう難しくはなかった。
マルクスさんが俺を指名すると彼はすぐに寝床に横になる。
湯を浴びる気配も、俺を抱く気配もない。
最初こそいくつかの世間話や会話があったが、それもすぐになくなった。
寝床に横になった彼は目を閉じる、けれど眠ってはいない。
隣や向かいの部屋から客が娼婦を抱く声が聞こえる。俺はその隣に添い寝をして夜を過ごすばかりだ。互いに察するやり取り。
(……軍の情報将校、なんだろうな)
だからといってこちらが何をするわけでもない。店側は何も関わらない。
娼婦を買う相手の誰がどんな情報を漏らし、誰がその情報を探っていようと感知しない。マルクスさんのことも、彼が探っている客のことも関知しない。選択肢はそれ以外ないのだから、俺も何も言わない。
彼は夕方から深夜までいることもあれば、翌朝までいることもある。
男相手はきっと好みではないんだな。でもこっちも仕事だ。
一度マッサージなどしてみるも、「眠くなるから」と断られてしまった。
訳ありではあるが、確かに俺にとっても上客だ。下手な事を口走ったりトラブルを産まないようにドノヴァンは俺をあてがったんだ。
男好きかどうかすら問題じゃない。
まあ俺もこんな仕事をしているわけだから、欲求の一つや二つある。
こんないい男に一晩買われておきながら何もない、とは娼夫のプライドが許さない。そんなところではある。
成程、他の皆が口をそろえて『上客』というわけだ。
◆◆◆
「やあ、イルクくん。今日も頼むよ」
そういったきり、彼はベッドに横になる。
俺も慣れたもので、休憩時間と割り切って彼の隣にお邪魔させてもらう。
世間話はしない。彼の任務の邪魔になるだろうから。
嬌声と荒々しい吐息の絡み合う娼館の深夜、この部屋だけが静けさを保とうとしている。寄り添った大きな体からは大きな鼓動が聞こえる。マルクスさんの体からは麦の匂いがしていた。
「……麦の匂い……畑の匂いがするね、マルクスさんは」
「本当かい?」
丁度その時はきっと対象が来る前だったのだろう。ぽつりと漏らした問いかけに返事があったことに驚いたぐらいだ。
「懐かしいな。今の時分は故郷の畑が金色に輝いて……子供の頃は刈り取った穂の上に寝転がってよく叱られたものさ」
「そんな風景がまだ残っていればいいんだが」
この砂漠の街では麦は育たない。もっと北の大地から来たのだろう。
そんな小さな会話から、なんとなくこの人は悪い人ではないな、と感じたのだった。
何人殺したとか、どこで戦ってきたとか、そういう事とは別に。
きっとこの人はそういった思い出を大事にできる人なのだ、と。
◆◆◆
ある日のことだった。
「今日は湯を使わせてもらおうかな」
「あー……はい」
暗殺業務で返り血でも浴びたんだろうか、などと思って待っている。戻って来たマルクスさんの体は奉仕するまでもなく水気を丁寧に拭き取られた状態だった。
彼は腰にタオルを巻いたままの格好で、服を着る様子もなくベッドに腰かける。
「ここに来るのは一昨日で最後になるはずだったんだが」
「今晩は個人的に君を床に指名したんだ。……迷惑かい?」
「……いえ、そんな」
務めて冷静に答えるが、心の中は荒れていた。
こちらも商売だ。けれども半ば日々のルーティーンと化していた彼との同衾が突然別の物に変わるとは。
「ドノヴァンに怒られてね。『ウチは娼館だ、一度も娼婦を抱かずに帰るつもりか』と言われてしまったよ。考えてみれば、任務とはいえ今まで君に随分と失礼な行動をとって来た、とね」
「はあ、成程」
「気にしなくても大丈夫だよ、マルクスさん。こっちも商売だ」
「うん」
柔らかな表情でマルクスさんは俺を見下ろす。
「それで、いいかい」
「もちろん」
「では、失礼して」
伸びてくる掌に感動するほどだ。今まで無造作に寝床に寝転んで、肩を抱くことさえなかったその手が俺の体に触れる。筋肉が多いせいかその掌は物凄く熱い。
腕に生えた体毛が肌をくすぐっていく。
優しく抱き寄せられた肌が触れあい、腕は俺の体を抱えて引寄せていく。
(……抱かれる方だな)
上から覗き込んできた深い黒の瞳、その奥に移り込んだランプの炎に魅せられている間に優しい口づけが、それから少し深い口づけが。三度目の許可を求めるようにその行為が止まる。
いいですよ、とは言わずにそのままこちらから唇を交わし、唇を開いてそれが入って来るのを待ち構える。
「……ん、ッ」
「ふ、むう……」
するりと入り込んできた舌が撫ぜ回し、絡ませ、こちらもそれに応える。
「……流石、上手いな」
褒められている。これは意図的なモノだろう。
「そっちこそ」
というと彼は苦笑いする。
「何、こういう仕事をしていると色々覚えるものでね。この話し方も仕事の中で身に着けたものだ。大した育ちの人間ではないよ」
こちらが察している前提の情報が飛び出す。危うげではあるが、怖くはない。
「君のキスは上手だな」
「そっちこそ」
そう言って、一つ思案する。
「……」
「……本当はなんて言うんですか」
静かに顔が離れる。少し驚いた表情が数秒、けれどもすぐに穏やかな表情に戻った。
柔らかいキスを一度、それから。
「……『カシウス』」
俺の耳に一度だけ、囁いた。
ベッドの上に向き合うとカシウスさんはその覆いを取り払う。
「さて、イルクくん。お手並み拝見と行きたいところだが――」
「大丈夫そうかな」
うわ、とは言わない。こちらも商売だ。大きい客への対応も慣れている。
「はは、大丈夫」
「これより大きいお客さんの相手をしたこともあるからさ」
手を伸ばしてそれに触れる、握り込んで確かめる。
大きいとは言ってもここまで太さと長さがあるのは初めてかもしれない。
太さはマスター……ドノヴァンさんと同じぐらいか。挿れるだけなら問題なさそうだ。
(全部入るか……これは、臍の上の方まで行くやつだ)
日々の鍛錬で使っている張方の8号よりも大きい。天然物でこのサイズを相手にすることになるなんて。
触っているうちにどんどん大きくなっていくカシウスさんのそれは当初の想定よりも膨れ上がってきているようだ。
「男相手は慣れてるのかい、カシウスさん」
「はは、恥ずかしながら初めてだよ。こんなナリだ。上官のオモチャにされたり、しゃぶらせて欲しいと頼まれたことはあるんだが」
「奥の奥まで、となると流石に……なので少しワクワクしてしまっている。君がはじめてだ」
「それは聞きたくなかったなァ」
「そうかい、ならやめようか?」
「こんなに膨らませておいてかい、流石にそんな非道な真似はしないって」
「ちょっとばかし丁寧に準備させて貰えれば、大丈夫だっ……っ、んッ!!」
広げて解そうとしたその部分にするり、とカシウスさんの指が沿った。
「うわ、結構大胆」
「何、体の大事な部分をこれから使わせて貰おうというんだから」
「無論、丁寧に手伝わせて貰うとも」
真正面から見つめてくる瞳が熱を持つ。今まで過ごしてきた数十日の夜の中で一度たりとも、こんな目で見つめられたことはなかったな、と。
「さ、力を抜いてくれ。入れていくぞ」
「ん……ッ! あ、あ」
言葉とは裏腹に躊躇のない入れ方だ。こちらとしても慣れている、指二本ぐらいどうってことないのだが。
「ふ、とッ……」
「ああ、すまない」
カシウスさんの太い指、指先の皮膚も固く節くれだっている。指の節に豆だかタコだかがあるのは武器の扱いのせいなのか。変わった玩具をねじ込まれた時の感覚に似ているな。
「ゆっ、くり」
「ああ、わかったよ」
熱い吐息がかかる。興奮して貰えているとわかるとこちらも張り切りがいがあるというもの。少しずつ吐息に甘さを織り交ぜていき。
「……抱けそう? カシウスさん」
「抱けそうも何もイルクくん、君は前からとても可愛らしいよ。これでも結構我慢していたんだ」
微笑みながらキスを交わす。湿ったキスを交わす顔の下で体の内側もねっとりと解れ滴り落ちた香油の香りが立ち上って来た。
「……そろそろ」
「いいよ、カシウスさん。頑張ってみようか」
「はは、分かったよ。ゆっくり、しっかりと務めさせてもらおうかな」
「固いなあ、もっと雰囲気作ってもいいのに」
「……」
「……雰囲気、か。やってみよう」
「……イルクくん。……好きだよ」
「ええ、俺も。好きですよ、カシウスさん」
ふふッ、と互いに微笑んだ後、体がぐッ、と引き寄せられる。
「あっ……っ、流石に、これは、大きいな」
「ゆっくり、だね。イルク君」
「うん、ゆっくり。カシウスさん」
近づいた体の間の狭い谷にその肉棒が押し下げられ、めり込んでいく。
「お……」
「う、あっ……!」
流石に余裕が無くなってきて、体を預けその部分に注力する。
余分な力を抜いて、その部分を拡げ少しずつ、受け入れていく。
いきんだその部分にカシウスさんが少しずつ力を込めるのが伝わってくる。
「ッ……ん、ッ、うあ、あッ」
「大丈夫かい」
「う、うん。大丈夫……平気」
肌が触れ、逞しい体が俺の周りを包み込み、埋め込んでいく。
大きな体が大切そうに俺の肩や腕を抱え、その行為は何か大切なものを抱くように。
何も知らない、何もわからないこの人の優しさに包まれるような。
「お。……なんとかいけそうだ。イルクくん」
膨れ上がったその先端がぐぶり、と呑み込まれる。
「うぐッ……! あ、あああぐッ!!!」
呑み込んだ勢いでぐぷり、とそのまま幾分か奥に入り込む。
その衝撃に思わず腕を振り切り背中からベッドに倒れ込んだ。
「大丈夫かい」
「あ、ぐうッ…は、あ……!」
手を伸ばして確かめると香油まみれの結合部の様子が指先に伝わる。
これ以上ない程広がった自分のその部分に雄大に突き刺さるその男性器。
根本まではまだ半分以上ありそうだ。
「あ、ああッ!で、お、おっぎい……!」
「ああ、でももう半分入ったようだ。いつも寸前で待ったがかかるんだが……すごいな。それに、君の中はとても……熱くて、気持ちいい」
「ふ、ぐッ、うううッ」
口を押えて呻きを止める。
「大丈夫、随分愛らしい叫び声だ。我慢しなくて構わない」
「こういう声なら、いくらでも聞いていたいものだ」
「あ、あああああッ!う……ああああああッ!」
「ん……っ」
カシウスさんの両腕がベッドに着けられ、体を支える。
そのまま体重がかけられ、俺は拒むこともできずその塊が少しずつ進んでくるのを受け入れる。限界まで広げられた内側がその進みと、確かな熱をやけにはっきりと伝えてくる。
「さ……マル、クス、さーー」
「大丈夫。ちゃんと本当の名前で構わないさ」
「カシウスさんっ!!」
「ああ」
「全部入った」
「ありがとう、イルクくん」
きっともう、二度と会う事はないんだろうな。と。
その男の熱と、質量を感じながら考える。
脚を開き、その体に絡ませる。
涙に滲んだ瞳を開き、腕を伸ばしてキスをせがむ。
せめて思い出に残る夜にしてやろう、なんだったら傷の一つもつけてやろう。
ランプに照らされたその男の顔を見ながら、そう思ったのを覚えている。
それが俺、娼夫イルクと元・ホルムワルド情報将校 カシウス=ソルランドの始まりの出来事だと。
……その夜は、まだ思いもよらなかったのである。
サダ
2024-08-22 04:46:54 +0000 UTCサダ
2024-08-22 04:45:57 +0000 UTCユノー
2024-08-21 17:08:49 +0000 UTCアポロン
2024-08-21 16:45:39 +0000 UTC