SamuZai
茶

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俺が神官少女で、神官少女が触手で(2)

*  剣と盾を構えたスケルトンが三体。第一層の中では手ごわい相手で、俺も迷宮に入りたての頃はなかなか勝てなかった。  でもそれは、過去の話。  ヒュッ!  鋭い呼気と共に長剣を振り下ろせば、その一太刀でスケルトンを一体粉々に砕く。  まあもはや自慢するようなことでもない。隣ではトゥクファも一撃で一体仕留めているのだし。  神官は回復呪文を中心に使うのみならず、六人パーティにおいて前衛三人のうちの誰かが倒れたら前衛も務めることになるので、彼女も見た目は華奢ながらそれなりに鍛えている。もちろん、戦士の俺に及ぶほどではない――直接的な戦闘力まで高かったら、戦うだけの俺の面目は丸潰れだ。  残る一体が俺に向かってくる。しかしかすり傷だ。反撃に振るった剣が胴体部分から背骨をへし折り、動きの止まったスケルトンも魔石になった。 「こんな遭遇戦ばかりやるつもりはないのでしょう?」  神官少女の問いに肯く。第一層を闇雲に歩いていても、この程度の雑魚にしか出会えない。 「目指すはマーティの部屋だ、当然な」  第一層のとある玄室には、冒険者の間でマーティと呼ばれる存在がいた。一見したところ人間に似た姿をしているのだが、倒せば魔石に変わり、一定期間を置くとまた出現する。だから魔物ではあるのだろうが、攻撃が貧弱で初心者でも簡単に死にはしない。そのくせ戦闘経験は第一層の中では破格に積める。タフでなかなか倒せないことを除けば、うってつけの相手だった。 「異論はありませんけど、ならなおさら一人で行くのは効率がよくなかったでしょうに。あなたくらいのレベルなら、マーティはまだけっこう当ててきますよ。一人で持ち歩ける程度のポーションの量じゃすぐに底を尽いてしまいます」 「いちいちうるさいな……」  本当にトゥクファは口うるさい。顔立ちとかスタイルとかは可愛らしいけれど、口を開けば正論ばかりで相手を言い負かしにかかる。 「ジクーブさんが楽観的過ぎるだけです」  ともあれ、俺たちは目的地を目指す。  と、迷宮全体が軽く揺らぐのを感じた。 「地震……?」  トゥクファが身を竦めながら、不安げに言った。 「みたいだな。にしても、そんなに怯えることはないだろ」  地震なんて珍しくもない。彼女の住んでた地域もそれは似たようなものだったはずだが。 「迷宮で地震なんて、すごく珍しいんですよ」 「ああ……たしかに、こっちに来てから地震が起きたのは初めてだったかもしれないな」 「迷宮は、世界各地の地盤が安定した場所に設置されています。だからそもそも地震自体が滅多に起きないわけで……」  説明しながら、いつも冷静な神官は天井を凝視している。 「うろたえるなよ。それくらいの知見ある連中が作った迷宮なら、この程度の揺れで崩れる建築にもなってないだろ」  俺が言うと、彼女は少しばかり落ち着きを取り戻したようだった。 「そ、そうですね」  コホンと咳払いして、空気を変えようとしている。 「ただ、優れた技術であっても未来永劫不滅というわけではありません。今回のように避けているはずの地震が起きることもありますし、迷宮トラップなどが動かなくなったり誤作動を起こしたりというケースもあるようで――」  そんな話をしていた瞬間。  軋む音がしたと思ったら、俺たちのいた通路の壁が崩れた。 「これは……?」 「隠し扉が、元々あったようですね」  トゥクファが崩れた壁を検分して言った。 「それが何かの原因――たぶん、昔の地震かと思われます――で作動しなくなり、今回の地震で新たな負荷がかかって、耐えきれずに崩れてしまったのではないでしょうか」 「てことはこれは、未踏領域……」  俺は思わず息を呑む。現在流通している地図には記述がない、第一層に残されていた未知の領域。 「様子、見てみようぜ」  俺は思わず崩れた壁の奥に踏み入っていた。 「ジクーブさん」  トゥクファが止めようとするが、俺は即座に反論する。 「第一層なんだ、別に特別な魔物が出るわけでもないだろ」  層によって、出現する魔物は常に共通だ。この未踏領域でも、出てくるのはコボルドやスケルトンが基本のはず。仮にマーティみたいな特殊な奴がいても、俺たちをいきなり瞬殺するほど強くはないと予想できた。  地図の未踏領域を埋めれば、冒険者たちの間で名が上がる。地図製作には冒険者間で金を出し合ってもいるし、そこからいくばくかの報酬も得られるだろう。  でも、俺たち冒険者は――少なくとも俺は――それら以上に、未知の存在に惹かれてしまうのだ。 「……しかたないですね」  彼女も俺と同じ性質なのか。そうではなくとも、それを理解できるのか。  俺とトゥクファは、二人で未踏領域に分け入った。  未踏領域は、さほど広くない。この迷宮の地図は基本的に20×20のマス――その一マスは五メルトル四方――で構成されているが、そのうちの1×3マスの長方形。  俺たちは南側の崩れた壁から、未踏領域の西端に入った。  その一マス分のエリアには、何の問題もないように見えた。  東に目を向けたトゥクファが言う。 「玄室の扉が」  二マス先の空間は、壁と扉に阻まれて見えない。玄室となっているのは間違いなかった。 「第十層への直通エレベーターでもあれば便利だろうな」 「そんなのは、五層や六層で死にかけることがなくなってから言ってください」 「将来的な話だよ。最下層まで一気に行けるのは大きいだろう」  そんな風に話しながら玄室へ近づこうとして。  俺たちは、手前に隠されていたスロープに引っかかった。 *  螺旋を描きながら驚くほど長い時間、坂を滑り落ちていき……俺たちは床に放り出される。 「陣を張ります」  トゥクファがすぐさま白墨で魔法陣を描いた。俺たち迷宮冒険者が訓練所で描き方を必ず徹底的に叩き込まれる、そしてすべての迷宮で通用する、魔物除けの魔法陣。どれほどの危険地帯にあっても、この魔法陣の中にいれば魔物に不意を突かれることはない。戦闘中に描くことはできないし、陣の中から魔物を攻撃することもできないが。  その魔法陣の中に入り、俺たちは一息つく。 「玄室自体が餌の迷宮トラップだったってことか」 「浮遊呪文でも使わないと、あの玄室には行けませんね。数百年前に失われた呪文ですが」  そこで口を噤むと、彼女は神官呪文の一つを唱えた。探査の呪文、ワジュブズだ。迷宮内での自分の座標を確認できる。 「で、ここは第何層だ? 三層か、もしかして四層か?」  スロープはけっこう長かった。二層ではないだろう。二人で帰還するには少ししんどいかもしれないが……やるしかない。 「十三層……」 「は?」  耳を疑う俺を放置し、トゥクファはもう一度ワジュブズを唱える。 「この迷宮は全十層じゃなかったのか?」 「……わたしが正気を失ったのでなければ、ここは第十三層。東西と南北の座標は第一層のあのスロープがあった地点と同一です」  俺は第六層までしか行ったことがない。しかもそこで死にかけた。 「トゥクファは何層まで行ったことがある?」 「あなたが加入する前に第八層までは行きましたが……その際にパーティが壊滅しかけました。あなたの前任者が死亡し、復活に失敗して埋葬されたんです」  状況は深刻なようだった。


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