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魔法学院の生徒会長4――決着編(後)2

 わたしと戦う十人は、ご丁寧に魔力順に並べられていた。  一人目の相手は同じ特別入学者で、彼を倒しても会場は落ち着いたものだった。  けれど二人目も三人目も、そこから先もわたしが倒していくと、次第に空気が変わっていった。 「……強いね。思っていたよりも、はるかに」  九人目に倒したのは、三年の男子。魔力はおよそ98000でわたしの十倍以上。  彼は負けを認めると、音声遮断の魔法を使ってわたしに話しかけてきた。 「トシアキがやることが悪趣味に見えてね。あまり悲惨なことにならないよう、枠を一つ潰すつもりで参加したけど、君を侮っていた。申し訳ない」  白々しい釈明かもと思ったが、現時点でわざわざトシアキの意図に反することをこっそり言って、わたしに媚びる意味なんてまだないと思い直す。どうも今の立場になってから、言動の裏を勘繰る癖がついてしまった気がする。 「気を遣ってくれてありがとうございます」  なのでわたしも、穏当に返すことにした。 「まだ本気、出してないよね?」 「厄介な相手が控えてますので。全力で行かなかったことを不快に思うのでしたら謝ります」 「いや、それも戦略だろうから構わないけど、厄介な相手ねえ……」  そこまで話すと、彼は微笑んだ。 「どこまでやる気か知らないけれど、思う存分やればいいよ。閉塞していたものを変えるのは、上からじゃなくて下からかもしれない」  退場していく彼の背中を見ながら思う。  わたしは下だけど元は上で。キヨヒコは上だけど元は下で。  この入れ替わりがなければ、ここまで魔法を巡る状況が揺らぐことはなかったのかもしれない。  でも、これが単なる揺らぎで終わったら、わたしは元に戻れないだろう。  揺らぎを何らかの崩壊にまで持っていく。  そして現れる十人目のトシアキ。  会場の雰囲気は、当初からは様変わりしていた。  十人相手に連続で負け続けての公開処刑は達成されず、逆に格上に勝ち続けていく三桁の凡人。野球で例えるなら、オールスター初出場の新人が相手リーグの重量級打線から連続三振を取っていくような、物珍しさと判官びいきとが入り混じったような気持ちが醸成されているのではないか。  そしてトシアキには、その気分を引っくり返せるほどの魅力はない。こいつにも負けてもらって三桁による十連続勝ち抜きなんていう稀有な瞬間を見てみたい……そんな観客の思いはかなり感じられた。  もちろん、三桁の一般人がこれ以上魔法使いの領域を攪乱するなんて、魔力という厳然たる力関係を破壊するなんて、我慢ならないというタイプもいる。  トシアキ自身もそのタイプだった。 「お前の目つきが気に食わない」  向かい合うといきなり言われた。 「チンピラみたいな因縁のつけ方だね」 「お前がフタバ様を見る時の、慇懃でいて敬意は感じられない、標的を密かに狙っているような目つきが気に食わない。そしてフタバ様がお前を見る、どこか優しい目つきにも苛々させられる」  ……わたしについては意外とよく見ているなと思ったが、『フタバ』に関しては目が曇っているとしか思えない。結局こいつは『フタバ』崇拝のあまり嫉妬やら何やらで誰彼構わず噛みついているのだろう。あいにくわたしは聞いたことがないが、他にも被害者はいそうだ。 「まあ、口喧嘩はいいから始めようか」  こちらから挑発するように言うと、相手は唇を歪めた。  どちらからともなく距離を開けると、トシアキは呪文を唱えた。  その全身が、黄金に輝く鎧と兜に包まれる。魔力による防護だ。魔法の撃ち合いが基本になる以上、それ自体はおかしくないのだが。 「あの防護魔法、魔力15万くらいは使ってない?」 「守ってるだけじゃ勝てねえぞ?」  観衆からは驚きの声。無理もない。トシアキの魔力は18万なのだから。 「魔力抑制技術ってのは便利なものだよな」  魔法でわざわざ拡声して聞こえよがしに語るトシアキの言葉に、会場が静まり返る。 「お前が入学のために披露した技術は、魔法の発動に必要な魔力を三十分の一にする。まだそこまではいかないが、俺ももう十分の一までは抑えられる。こんな大きな魔法を使ってもスタミナ切れなんてことにはならない」 「嫌いな僕の技術は使うんだ?」 「技術自体に問題はねえだろ。俺は単に、お前が気に食わないだけだ」 「へえ」  少し認識を改めるべきか。いや、キヨヒコの技術を憎む者も多い敵視派の頭目に収まっていたわけだし、深く考えていないバカという辺りで間違いはないだろう。 「算数はできるか? 俺とお前の魔力量の差はざっと二百倍。魔力抑制で多少は差を縮めたと思っていたんだろうが、あいにく技術ってものは発明者のお前だけが使えるわけじゃない」  言いながら、手に大剣を出現させる。トシアキの攻撃の軸となる、炎の剣。  そして相手が話す間に、わたしも準備は整えた。肘・膝・両手両足など要所だけを覆う白金の装甲。そして同じ色の、脇差ほどの長さの刀。取り回しやすさから、この長さに落ち着いた。 「学者や技術者は奥に引っ込んでろ。実際に戦って勝つのは、俺たち魔力に優れた魔法使い、だ!」  叫び振るった大剣。トシアキ当人と重なるように魔力の塊が光を放ち、それが炎の波に変じて、剣の軌道をなぞるようにわたしへ迫り来る。 「これはまだ発表していないんだけど」  わたしが脇差を振るうと、炎の波が消失した。  トシアキが驚愕の表情。それはそうだろう。つまりは防御魔法だが、消費魔力に比して効果が高すぎるとは一目でわかったはず。 「僕の開発している技術は、魔力抑制だけじゃない。魔力自体の密度を高めてもいる。まだ一般化はできていないから公表はしていないだけでね」  あの入れ替わり直後、飛行魔法を使えなかったことについて、その後しばらく気にかけていた。コツみたいなものとあの時は思っていたけれど、それだけではない。  あの時点での魔力抑制技術は二十分の一。『キヨヒコ』の魔力は900にも満たない。22000必要な飛行魔法には足りてなかった。  それを埋めていたのが、キヨヒコ自身も理屈としては掴んでいなかった魔力密度の強化だ。  あの頃、キヨヒコは無意識に魔力密度を一・五倍まで高めていた。  それに遅ればせながら気づいたわたしは、その後、二つの技術を伸ばし続けた。 「どれだけ体格が良くても歩くのもままならない肥満体よりは、飢えて痩せこけて小さくても鍛え抜いた者の方が強い。そう考えればわかりやすいだろう?」  今現在、魔力抑制技術は二百分の一、魔力密度は百倍まで高めている。計算上は、わたしの方がトシアキの十倍となっている。 「技術だからいずれは追いつかれる。そうなればまた素質が物を言う。でもそれは今じゃない。その時が来るまでは、僕も君たちに伍して戦っていられる」  全力はまだ出すわけにいかない。それでも、トシアキを圧倒できるくらいには力を出して、相手を追いつめていく。 「クソがあっっっっ!!!!」  魔力を使いきる勢いで放つ大規模魔法。全方位から包み込むように炎が襲い来る。  でも焦りと苛立ちに支配されたそれは、隙だらけ。わたしは空白地帯を選んで足を運び、最小限の防御魔法で相殺し、距離を一気に詰める。 「お疲れさま」  脇差でトシアキの首を刎ねるように振るった。精神にダメージを受け、トシアキはその場に崩れ落ちる。  観衆はかなり大きくざわめいている。トシアキが魔力抑制を使ったことで敵視派は混乱してそうだし、わたしが十人抜きしたことで盛り上がってもいるし、わたしが話した魔力密度の件も気になる者は気にしているだろう。 「さて、これで終わりでも拍子抜けですよね」  息切れも魔力切れも感じさせずに言うと、わたしは戻していない白金の脇差で一点を示した。  特等席で観戦していた『フタバ』。今日も長い髪は光によって色合いを変え、美しい。スーツもフォーマルさと動きやすさを兼ね備え、スタイルのいい全身をより輝かせている。わたしのものだった二年前までよりもぐっと大人びた可愛らしくも整った顔立ちは、落ち着いた表情でわたしを見つめている。 「エキシビジョンマッチをお願いします、生徒会長」 「……ええ」

Comments

コメントありがとうございます。 ここから、決着までは早くて三話、その後にエピローグを二話くらいかなと考えています。すぐに完結とは行かなくて申し訳ありませんが、しばしお待ちください。

とうとう、たどり着きましたね。 圧倒的なラスボス感あるフタバの前に・・・

hiji


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